●リプレイ本文
愛ってなんだろう
ずっと考えてた
相手を思いやること?
相手の喜ぶことをすること?
でも、それが自分がやりたくないことだったり
自分が喜ぶことが、相手がやりたくないことだったり
自分の愛と相手の愛が、違う場合
どうすればいいんだろう?
それが確かめられない場合、どうすればいいんだろう?
わからない
‥‥わからない
●Leon Mcmahon
「状況は芳しくないな‥‥」
傭兵小隊『スケアクロウ』隊長、リョウト・ハシモトは苦悶の表情で顔を歪めた。
キャラバンの護衛、それが今回の依頼内容だった。いつも引き受けている依頼となんら変わりない。
いつも通り、依頼を終えて、酒を適度に浴び、うまい飯を食らい、明日へ向けて体を休める。傭兵としてごく当たり前の日常が待っているはずだった。
「‥‥」
目の前でゆっくりと、だが確実に散っていく隊員達を見つめるその瞳に、色はなかった。多くの経験を積んできたベテランのみに備わる冷静さ。
だが、その心の内は如何様なのか。それはこの戦場の中では窺い知ることはできそうもなかった。
部下の血霧を浴び、それが太陽に照らされ虹を作った。そしてそれは上空から降下してきた8人の傭兵によって瞬時に霧散した。
「お待たせしまた、って‥‥まいったね」
リョウトの周囲に着地した8人。そのうちの一人、周防 誠(
ga7131)は到着するや否や、軽く自分に悪態を付いた。
燃料車の爆発による周囲への火災が起きた時用に色々準備していたのだが、もはや後衛陣は火の海だったのだ。森林のど真ん中での燃料車の爆散、周辺車両及び付近一帯に火災が発生するのは、必然だった。
予想外の熱風に顔しかめながら、煌月・光燐(
gb3936)はリョウトに素早く近寄り、作戦を伝達する。
そして彼女らが決めた通りリョウト及びスケアクロウに行動を要請する、が。
それは優しい笑顔により、やんわりと拒否された。
「残念ながら、うちみたいな大所帯になると、俺が後ろへ下がるわけにはいかないんだな」
手練の傭兵集団で壊滅必死なのに、あんたらはたった8人で挑むつもりか?そう続けると、光燐は困惑の表情を浮かべた。
「まぁ、だが、そうも言ってられない状況だ。 俺は後退できないが、スケアクロウの大多数をキャラバン誘導、先導、護衛に回そう‥‥渚っ!!」
「は、はい!!」
「彼らの言う通り、スケアクロウは俺の部隊以外は全て、現時刻を以ってキャラバンの撤退を最優先に行動する。 お前は先頭で俺の代わりに指揮をとれ、いいな」
「!‥‥は、はい! 了解です!!」
五十嵐 渚は与えられた大役を噛み締めるかのように、武器を強く握った。
それに合わせ、美環 響(
gb2863)が隊員及びキャラバン達へと優しく告げる。
「殿は引き受けました! あなた達は一刻も早く撤退することだけを優先してください!」
それを合図とし、各自すぐに行動に移った。
「光燐君、と言ったな。 君は恐らく多くの戦場を渡り歩いてきたのだろう。 匂いで判る。 渚を頼む」
ぽんっと頭に手を置かれ、予想外の行動に少し固まったが、すぐさまコクリと頷き返し、走り去る渚の後を追った。
赤村 咲(
ga1042)と周防もそれに続く。
炎獄の中、残ったのはリョウトと一部隊員と傭兵達。
そして、炎の陽炎の向こうから、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる、少年。
リオン・マクマホン。
「そろそろ相談は済んだ?」
無邪気な顔でスラっと身の丈の3倍はあろうかという長刀を振りかざす。
残った傭兵達は各々獲物を構え、前へでる。
その先頭に歩み出たのは、ドラグーンの霧島 和哉(
gb1893)だ。
「わざとらしく、言うなら‥‥『ここから先へは行かせない』‥‥だよ?」
そう、ここら先は、絶対に行かせない。
周防は本陣のやや後で火と戦っていた。本陣後方で後ろから情報援護しつつ、火の拡大を防ごうとしていたのだ。
密林の中、思うように進めないキャラバンからしてみれば、炎の魔の手は精神的にダメージが大きい。そこまで考慮していたのかそうでないのか、周防のおかげで全体の士気は安定していた。結果、キャラバンの先頭大部分に与える影響は皆無に近かった。
それは彼だけでなく、一緒に協力を呼びかけたスケアクロウの隊員らの人数のおかげでもあった。周防は与えられた戦力を最大限に活かし、できることをやるという意味ではこれ以上ないほどに活躍を遂げた。
「敵は一人‥‥いや、さすがに単独で襲撃したりするはずありませんよね」
炎に身を晒しながらも周囲の警戒を忘れることなく、追加敵戦力の可能性も考慮に入れながら、周防は作業を続けた。
咲は密林の中を駆けていた。
(「リオン‥といったか」)
心の中で小さく呟く。リオンの事は資料でしか知らない。彼の資料を読み、多少なりとも思う所は咲もあったのだろうか。だが、ここは戦場。
(「悪いな、ここは通せないんだ」)
隠密潜行を多用しながら、咲は樹から樹へとその身を這わせ、リオンの視界に入らないようにと、細心の注意を払い、来た方向を逆戻りしていた。
後は戦況に合わせ、移動し、必中の一撃を放つだけ。スナイパーである咲は来るその時の為に、愛銃に貫通弾を込め、精神集中を始める。
(「スタンバイ‥‥」)
サングラスの奥で、スカーレットの瞳が、静かに光る。
できる限りの最大速力で駆けるキャラバン車両。
そのボンネットの上に、光燐は居た。
彼女は覚醒し、自身から炎の翼を広げながら、車両から車両へと飛び移り、周囲警戒に当たっていた。
彼女の過去の歴戦の経験からなのか、自分の炎の翼が視界の邪魔に入らないよう、うまくそれらを動かしていた。
目下彼女の仕事は警戒だが、それと同時に予想外の仕事もこなしていた。即ち、キャラバンメンバーの混乱の沈静。
依頼をした傭兵部隊が壊滅的な痛手を受け、平静でいられるクライアントはいない。彼らの死、それ即ち、自分達の死を意味するからだ。
だが、それもなんとか落ち着きをみせる。
一緒に行動を共にしていた渚の助力のおかげでもあった。
彼女は戦闘より、指揮に向いているのかもしれない。だとすると、リョウトはここまで読んで彼女を自分に同行させたのか。
光燐は隊長リョウトの器の大きさを肌に感じたような気がした。
自分を信頼し、部下を預けてくれた。それを裏切る結果にならないように。
炎煌の舞姫は、力強く次の車両へとその身を跳ばした。
●Love? Live?
「‥‥さて、お仕事の時間です」
フィルト=リンク(
gb5706)は決意を瞳に宿し、前方の敵を見つめた。
何を彼をそこまでさせるのか、何が彼をそうしたのか。
まだ幼さの残る狂気の少年を見つめ、フィルトは武器を構える。
「感動の再会ですね。 リオンさんが知っていること、僕に話してもらえませんか? 手伝えるかもしれませんよ?」
響はくすっと冗談っぽく笑い肩を竦める。だが、彼の瞳に完全な優しさの色は垣間見えない。
「別に僕は会いたくなかったけどね?」
明らかな苛立ちをみせながらリオンは答える。
その呼吸に合せるかの様に、レインボーローズを前方へ構える。その動作に首を傾げるリオン。
「何? 遊んでるの?」
「いえ、ちょっとお話がしたいだけですよ、僕は是非」
「だから、うざい」
だがその台詞はリオンの瞬時による前方への移動で遮られる。
しかし、響も以前の経験からこれは読んでいた。
完璧のタイミングで瞬時に虹色の薔薇を盾に奇術で変化させる。
それでも、重い一撃を受けた響は直撃を避けれたもの、勢いで後ろへ吹っ飛んだ。
それを開戦の合図としてか、三人の戦士が前へ躍り出る。
アレックス(
gb3735)、和哉、そしてメビウス イグゼクス(
gb3858)である。
炎の中、和哉は一気に前へと躍り出る。ここから先へは絶対に通してはいけないんだ!
絶対にメビウスとアレックスは守り通すんだ!そう決意を胸に秘め、竜騎士は最初から全開で挑んだ。
「いいよ、遊んであげる‥‥!」
リオンはそれに応えるかのように刀を構え、鋭く突きを放つ。
自らの盾でそれをいなす和哉。そのタイミングで間髪いれずアレックスがリオンに襲い掛かる。
「いいぞ、相棒!」
家族でもあり相棒でもある和哉とは、連携はこれ以上無いほどにばっちりだ。
連携できる最大値を最大限に活かし、全力で攻撃を行う二人、リオンは器用にほとんどを避けながら後ろへと飛び退いた。
「しばらく相手になって貰うぜ!」
強化人間の殺気を間近にうけながらも、アレックスは怯むことなく啖呵を切った。
「ソードダンサーの由縁、お教えしよう」
その飛びのいた瞬間を狙って、メビウスはソニックブームを渾身の限り放った!だがそれは同じくソニックブームのような衝撃波によって相殺されてしまう。
「やはりですか」
予想通り、遠距離攻撃を持ち合わせていたか。警戒をより一層強め、メビウスは狂気の少年へ突っ込む。
―――必ず、生きて戻ります、ですから、貴方も貴方の勤めを果たしてください
ここへ来る前、とある人と交わした約束。
腕のリボンと愛用の氷雨に手を這わせ、メビウスは疾風と化した。
「生きて帰りましょう、あの人の為にも‥‥!!」
「私は、ここで倒れる訳にはいかないのですよ!!」
その気迫に圧されてか、一瞬リオンの動きが止まった。強化人間でも、彼とて子供。その隙は、存在する。
「今ですね‥‥!」
フィルトは呼び笛に口を添える。そこから流れる音は、咲の耳へと到達すると同時に、彼はトリガーを引いた。
ガウンッ!
渾身のタイミングで放った貫通弾。
そしてそれを真正面から見据えるリオンの瞳。
「こ、このぉ!!」
自分の見せた隙に憤ってか、今までに見せたことの無い力で衝撃波を咲の方角めがけ放つ。
その射程は彼まで到達した、が、弾丸を相殺したのもあり、僅かにずれたのか、それは外れる。
「!!」
信じられない。
だがその余所見をフィルトは見逃さなかった。
「もっと隙を作ってもらいましょう!」
あらかじめ斬っておいた大木を竜の咆哮で勢いよくリオンめがけて放つ。
それは直撃するかに思えた。直撃しなくても、避けたり、斬り伏せたりすればいい。
だが、リオンは動かない。
大木はリオンの周りの赤い煌きによりその進路を変え、明後日の方向へ吹っ飛ぶ。
そして。
「今何かした?」
フィルトの眼前にリオンの姿。
「!!」
お返しだよ、と呟きを残されながら、フィルトはリオンの攻撃を受けてしまう。その攻撃をなんと形容すればよいのか。一撃にしか見えなかった。だが、フィルトは明らかに複数回攻撃をうけた。目にも留まらない速さの連撃。これほどの連撃を行える敵はそうはいない。
「こなくそぉ!」
だが、諦めるという選択肢は彼らにはない。
和哉はアレックスの前に陣取り二人してリオンめがけ突っ込む。
「いい加減にしてよぉ!!」
思い掛けない苦戦で、徐々に平静を失うリオン。連撃を放ち、まともに盾で受け止めた和哉は攻撃を当てながらも、後ろへ吹っ飛ぶ。
そしてそれをアレックスにも放つ。避けてくれれば、持ち直せる。
だが、アレックスは避けない。
「へへっ、さすがに痛ぇな‥‥だが‥‥!」
連撃の最後の一撃はアレックスのわき腹を貫通した。だがそれ好機と、彼は命を賭けた一撃を放つ。
「リミッター解除‥‥ランス「エクスプロード」、イグニッション!」
ガシャン!
「出し惜しみは無しだ! 貫けぇ、終焉の一撃ィッ!!!」
フィルトと和哉の攻撃でも吹っ飛ばなかった刀。それが宙を舞う。その一撃はリオンに掠りもしなかったが、彼の武器を吹っ飛ばすには十分だった。
「‥‥!!」
激痛に血反吐を吐きながら、アレックスはその場で膝をついた。
「くそ、くそぉっ‥‥!!!」
そう空にリオンが叫ぶと、上空から高速でキメラが接近。以前彼が使っていた飛行キメラだ。
だが、逃がすまい。
「種の割れた奇術程、つまらないものはありませんよ」
響と咲による先を読んだ射撃により、キメラを屠る。
「なんで邪魔するんだよ‥‥」
わなわなと震えるリオン。やばい、何かがやばい。
『みなさん!! キャラバン、無事に都市へ到達! 資源隊が壊滅ですが、目標達成です!』
無線機から流れる周防と光燐の声。
目標は達成された、ならすることはひとつだ。
「‥‥撤退、するよ」
AU−KVを瞬時にバイク形態へ移行し、アレックスを後ろへ乗せる和哉。
大切な親友、家族、そして相棒でもあるアレックスを深く負傷させてしまった。だが、命はある。和哉にとって、それが最も大事であった。
あらかじめ打ち合わせていた通り、ドラグーン三名が前線付近に居たほかの能力者を乗せ、速攻でブースト離脱。打ち合わせしたのが功を奏したのか、それは瞬時の撤退であった。
撤退していく傭兵らを見つめるリオン。
「あれ‥‥僕、震えてる?」
初めて経験した、実戦と呼べる実戦。
今までは弱者を相手にしていたリオンは、明らかな経験不足。もし経験があったなら、こうはならなかったのだろう。
そして彼は経験を得てしまった。
恐怖と安堵に身を震わせ、リオンはその場で蹲る。
「時間が‥‥ないんだ」
小さく、涙を零しながら、リオンはその場で泣いた。
「…まだ終わりではない、のかな」
バイクの後部座席で風に吹かれながら。
覚醒を解いたメビウスはちらっと、もう見えなくなった姿を見つめるかのように後方に視線を送った。
都市に到着したキャラバンの被害は資源隊のみ壊滅といったところ。
あとは本陣に少し被害がでたぐらいだ。完璧な状態とはいえないが、人の被害はキャラバンには皆無。
リョウトはじめ、スケアクロウは全員で都市の片隅に散っていった仲間達を弔っていた。
かけがえのない仲間を失っても、彼ら傭兵の戦いは明日も続く。そんな彼らをアレックスのいる病室の窓から見つめる和哉。
そんな日が来ないように、少しでも早く戦争を終わらせられたら、と。
強気想いを瞳に宿し、ベッドを振り返る。
同じ気持ちなのか、ニッと笑い返す相棒に、和哉は少し胸が熱くなったような気がした。