タイトル:【紅獣】Dolly Dollマスター:虎弥太

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/03 10:41

●オープニング本文


 ひとーつ、ふたーつ、みーっつ
 よーっつ、いつつ、むーっつ
 ななつ、やーっつ、ここのつっ

 さぁ、私はどーっこだ?
 ‥‥ねぇ、どこ?
 私はどこにいる?

 はやく私を見つけて?
 見つけ出して、優しくして?
 腕なんかもがないで、足なんかもがないで。
 燃やさないで、壊さないで。
 私、ちゃんとできるよ‥‥?
 だから、はやく、見つけて‥‥?

 その間



 代わりに私が、もいであげる。
 あなたをもいであげる。
 だから‥‥はやく‥‥みつけて‥‥?



 ね?



 ●Crimson Doll
 とある山岳地帯の斜面に器用に建造された小規模な要塞都市。もともと流通なので利用されるこの山道、10年前にできたばかりのこの街は商人達の間では大変に重宝されていた。
 街が無い頃は険しい山道のみで、途中に休む場所も無く、決して安全とは言い難かった。だが都市の建設のおかげで交易を初め民間人の生活の糧を支えるなど、その土地の人のみでなく近隣の都市や市場には今やなくてはならない重要拠点とまでに成長していた。
 そんな素晴らしい、交易の要とも言われる都市。
 そこは現在、大量のキメラに襲われ、戦場となっていた。

「そらよっと!」
 一人の中年の傭兵が目の前のキメラを短刀とブロードソードの二刀で切り伏せる。
 真っ二つに裂かれた人型のキメラはそのまま絶命する。しかし、ここで『絶命』という言葉を使うのはいささか適切とは思えない。切り口から体液やら血は、一切出ていない。呼吸もしていない。
 目も無い。
 鼻腔も無い。
 口もない。
 耳もない。
 おおよそ、生命活動を認識できる要素が、本来あるべきものが、何も無いのだ。一番表現しやすい言葉は、のっぺらな『マネキン』だ。
「ったく、気持ちわるいですね‥‥」
 もう一方で、自らが屠ったキメラを怪訝な表情で見つめる能力者。相手を倒したせいか、一瞬の隙が生じた。その隙をまるでお約束のように襲い掛かるキメラに、青年はまだ気付かない。
 しかし気付いて振り返ったときには、既にキメラは事切れていた。
 代わりにそこに佇むのは、肩に身の丈数倍程の大剣を構えた金髪の少女が一人。
「‥‥‥‥‥‥危ない」
「あ、ありがとう‥‥助かったよ‥‥」
 リリス グリンニル(gz0125)、若干齢10歳にして、【紅の獣】のメンバーを務める寡黙な少女だ。
 今、リリスは単独で仕事を請け、この都市に赴いてた。依頼は単純。キメラの討伐。それだけ聞けば、そして先の敵の特徴とあっさり倒されたキメラを思い浮かべると簡単な仕事のように思えるが、それは大いに間違っている。
 集まっているのはベテラン、屈指の腕前とそれなりに有名な傭兵が7人、リリスを入れて8人。そしてさきほどまで交戦していたキメラはあれでも中の上に分類される強さを持つキメラだ。
 キメラが弱いのではなく、彼らが強すぎるのだ。
 気がつけば、彼らの周りには無数ともいえる『マネキン』の残骸。傷を負っている傭兵もいるが、そのほとんどはまだピンピンしている。

「まったく、お嬢ちゃんには驚かされるよっ、半数近くを一人でうけもっちゃうんだもんな」
 リリスは、どうも、と小さく呟いてこれまた小さくお辞儀をする。
 彼らの残る仕事は残敵の捜索とそれの殲滅。これが終わればこの仕事は終了なのだ。
 やってきたのはいかにもな雰囲気をかもし出す廃墟と化した漆黒の洋館。今は町長といった者はなく、共和国制度に近い統治を受けているこの街だが、初期の頃にはいわゆるトップが君臨していたという。これはその名残。
「まぁ、あの程度俺達で十分さ、お嬢ちゃんは少し休んでいるといいよ」
 そろそろ少し疲れてきていたのは事実だし、何より見たこともない貿易都市なので、ちょっと周りを見て回りたかったのもあってか素直にこくんと頷く。傭兵としては強くとも、なんだかんだ言って、まだ子供なのだ。
 7人の傭兵達が館内に入るのを見送って、ぼーっと休むこと数分。
 まだ時間はかかるだろうから街の様子でも見に行こう、リリスはそう決めて腰掛けていた小さな岩から飛び降りる、のと同時に洋館の扉がゆっくりと開いた。
「‥‥‥!」
 空気が変わった。
 リリスは瞬時に臨戦態勢をとる。そして、その場に固まる。
 
 ギギギギギギ‥‥
 ぼとり
 ぼとり ぼとり
 ぼとり ぼとり ぼとり
 ‥‥ぼとりっ

 テンポ良く入り口前の段差を転がり落ちてくる7つのそれは。
 さきほどリリスに気さくに話しかけてくれた傭兵達のxxxだった。
 そしてドアの隙間から覗く、その惨劇を成し遂げた『何か』は、リリスにゆっくりと微笑みかけて、そのまま閉まる扉の向こうへと消えた。傍らには彼らが倒したであろう傷だらけの『マネキン』の姿も見えたが、ピンピン状態と変わらない動きでぷらんぷらんと佇んでいた、そしてそれも一緒に扉の向こうへと消える。


 リリスは、直感的に、感じた

 私一人では、勝てない。








『本部へ緊急入電、増援送られたし、増援送られたし』

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
ミア・エルミナール(ga0741
20歳・♀・FT
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
ヴァイオン(ga4174
13歳・♂・PN
梶原 暁彦(ga5332
34歳・♂・AA
二条 更紗(gb1862
17歳・♀・HD
小笠原 恋(gb4844
23歳・♀・EP

●リプレイ本文



 私は、踊る人形
 チガウ

 ご主人様の踊る人形
 チガウ

 踊る為に、ワタシは存在する
 ソウジャナイ

 でも、もう誰も見てくれない
 もう、誰も見つけてくれない
 イヤ‥‥!

 ワタシをみて?
 ミナイデ!
 
 アナタのタメに躍ラせて?
 オネがい、イや‥‥!

 それガでキないナラ
 モう‥‥

 

 ワたシをコわシて
 わタしヲこワしテ







●輪舞曲

 時刻は夕闇が空を覆う時雨時。
 山岳地帯ということもあって、山下の町とはうって変って、意外にも街はそれほど暗くはない。こういう街は、人の行き来が盛んである為に、気候や環境を綿密に吟味されて建てられているのだ。
 貿易都市がよく、『眠らない街』と言われるのも、そういう所以もあってのこと。夜が更けても、収まらない人の活気。寝静まらない街の光。飛び交う喧騒、交わる多種多様の人種。
 終わらない夜。
 終わらない時間。
 それでも、終わらせなければならない物が、この世界にははびこっている。
 それは善かもしれない。
 それは悪かもしれない。
 どちらの判断もつかないのかもしれない。

 例えそうだとしても、終らさせるために、そしてその先の道を切り拓く為に彼らはそこにいた。


 
 漆黒とは言えぬ空の下にそびえる、朽ちた洋館。
 一言で述べるなら、不気味。
 館に同調してか、周りの木々も朽ち果て、並び立つ石が亡き主の墓標の様にも見える。その数が一つだけではなく、多数あることも不気味さを増長させていた。
 集まった8人はそれぞれ武器という獲物を身に纏い、静かに目前の館をその視界に収める。その瞳に映るのは館の先に待ち構えているまだ見ぬ敵、それだけだ。
「よぉーリリス、久しぶりだな‥‥」
 須佐 武流(ga1461)は装備を確かめながらポンっとリリス グリンニル(gz0125)の頭へ手を置く。
 敵の力量に、自らが単独で望むには至らないと判断したリリスはすぐさま本部に増援要請を送った。子供の柔軟さというのは、こういうとき大人は見習いたい物なのかもしれない。自分を卑下せず、素直に次へ繋げる行動ができる。
 要請によって訪れた8人の傭兵を見て、リリスは心底安堵していた。実力も十二分に信頼している既知の者だけでなく、手練達が集まったからだった。
 初対面ではない気さくな須佐の存在は、それだけで彼女の緊張をとき解いた。
 また、よろしくな?と優しく微笑みかける須佐に、リリスも小さく頷く。
 その傍らで一人気を引き締める青の剣匠。鳴神 伊織(ga0421)は強い警戒の色を瞳に浮かべ、静かに洋館を見つめる。数多くの手練が倒された、それだけで随分危険な相手だということは容易に解る。自分の腕前に過信せず、油断せず事に臨む。それが彼女、鳴神 伊織だ。
「初めまして、わたくし二条 更紗(gb1862)と申します」
 丁寧にお辞儀をし、リリスに挨拶を交わす更紗。
「今回の敵は謎が多いので、単独は危険ですからわたしく達と一緒に行動しましょう。 強い方がいればわたくし達も心強いですから」
 元よりそのつもりで増援を要請したリリスにとって、この申し出を断る理由もなく。
「‥‥‥よろしく」
 更紗に合わせるように丁寧にお辞儀をする。
 これが大人だったら、色々いらぬ勘ぐりを入れるが、リリスは事戦闘以外はまさに子供。自分の力量のなさに救援を要請しているのだから、単独で行動する理由は彼女にはないのだ。リリスの単独の行動を懸念しての先制だったが、それはどうやら杞憂に終わったようだ。
「梶原だ、今回は宜しく頼む」
 梶原 暁彦(ga5332)も、ヴァイオン(ga4174)の身体を支えながら、リリスに挨拶をする。元ボディーガードの彼は、身に染み付いた習慣からか自然とヴァイオンをサポートしていた。そんなヴァイオンは先の依頼で重傷を負ってしまっての今回の参加だった。冷静さが強みの彼は、自身の身体状態のことは十二分に把握している。それについて悲観する事も楽観する事もない。その上で、やれることやるだけだ。
 とはいえ、今回の敵は本命の取り巻きですらも、かなり強敵。先の7人は、リリス含めかなりの手練であったから容易に倒すことができただけで、通常ならば相手取りたくない程の強さを持つ敵であることは報告済みだ。
 集まった8人全員が全員、手練というわけではない。だが、増援を頼んだのは自分なのだから、彼らを信じて戦術は任せよう。
 リリスは新たな仲間を信じて、静かにそう思った。



「準備OK?」
 覚醒により真紅に染まった髪をなびかせ、館の入り口で突入のタイミングを図るミア・エルミナール(ga0741)。
 扉の左に陣取るミアとは真逆、扉の右側。小笠原 恋(gb4844)はミアと同じく、探査の眼を発動させて中の様子を探る。
「廃屋になった洋館って不気味な雰囲気ですね‥‥」
 間近に見る洋館のかもし出す雰囲気に、正直な感想をこぼす恋。彼女でなくても、見るもの皆同じ意見を零す程の独特な雰囲気。いかにも、ここにいますよーと言っているようなものだ。
「‥‥どうにもいやな感じ」
 左翼のミアも嫌な雰囲気に正直な思いを呟く。
「微動だにしてないけど、いるね、恐らく、無数に」
 探査の眼から感じ取った情報をそのまま仲間たちへ伝える。微動だにしていないという所が不気味だが、いつまでもここでこうして足踏みしているわけにもいかない。
 敵さんが口を開けたトコロに腕を突っ込むとは言い得て妙だ。
 ミアと同じようなモヤモヤに表情を一瞬曇らせる藤村 瑠亥(ga3862)。だがすぐさま表情を引き締める。
「どのみち、行くしかあるまい」
 まったくもってその通りだ。
「そんじゃま、行きますか‥‥!」
 須佐の一言で、全員の表情が引き締まる。
 あらかじめ決まっていた前衛陣に、須佐の傍らにリリスを加え、夕方6時の街の時報と同時に傭兵達は洋館の中へと雪崩れ込んだ。





●協奏曲〜狂詩曲

「うへぇ‥‥」
「不気味です、ね‥‥」
 館に飛び込んだ一同がまず目にしたのは無数に立ちはだかるマネキンキメラの姿だった。目にできた、ということも傭兵達にとっては意外だった。明るい部類ではないが、薄く淡い蝋燭の様な証明が館内部を照らしていたのだ。おかげで周囲もそれなりに見渡せるが、目にしたくないキメラの団体もはっきりと目に見える。ミアも更紗も先述の言葉を零したくもなるのも、わかる。各々照明器具を用意していたが、それはどうやら使用しなくても大丈夫の様だった。
 そこはどうやらロビーのようだった。恐らく館内で一番広い空間。二階までが吹き抜けとなっており、玄関から部屋の端まではだだっ広い広間。玄関とは対局の位置には上階へと進む階段が中程まで進み、壁際で左右へと別れていた。ここまで述べた道の至る所に、マネキンキメラが無数に立ちはだかっていたのだ。
 彼ら、と呼ぶのはいささか不適切かもしれないが、彼らは傭兵たちが館へ入った瞬間、それまでは不動の構えだった体をゆっくりと動かし始めた。
「舐めた真似してくれちゃって‥‥!」
 それよりもミアの関心は別の所へ向いていた。頭上のシャンデリアにどうやってか、吊るされている7人の傭兵の亡骸。それを成し得たであろう件の親玉の姿はまだ見えない。
「来ます‥‥!」
 伊織の鬼蛍の鈍い赤き煌きが、戦闘開始の合図となった。

 すぐさま9人は陣形を取る。
 須佐、ミア、藤村、恋、そしてリリスが前へと躍り出る。そのやや後ろに残りの4人が彼らを援護せんとする。
 だが、そう簡単には事は運ばなかった。
「くっ‥‥速い!?」
 回避に特化しているグラップラーの藤村の口からまさかの驚愕の声が漏れる。寸でのところでマネキンの強烈な一撃を回避する。
 他の3人も雑魚を相手取るつもりで行動していたというのもあり、初動で度肝を抜かされる。親玉のインパクトが強すぎてか、マネキンキメラに対する対処が十分に用意されていなかったのだ。一撃の強さ、動きの速さ。これだけ警戒を強くしていれば対応は十二分に可能。その差が初動での遅れを生んだ。それにより受けた被害は小さくはなかったが、そこでつまづくほど、彼ら能力者はやわでもない。
 用意の足りなさを瞬時に反省し、それを次に活かす機転の早さ。これぐらいできなくては、傭兵は務まらない。
「皆さん気をつけてください!」
 小銃を的確に乱射しながら、後方へ声かける恋。
 その機転の早さに関心しながら、リリスは藤村と須佐と連携しながら次々とキメラを屠っていく。

「さすがです」
 前衛陣の働きに関心しつつ、更紗は盾を全面に構えながら、弾丸のような槍捌きでキメラを屠る。
「刺し、穿ち、貫け!」
 盾に一撃を防がれ、その一撃により倒れるマネキン。そして更紗は容赦なくリンドヴルムを纏った強烈な連打でそれを粉砕していく。
 彼らはリリスの報告から、一つの答えを導き出していた。マネキンキメラは一度倒れてから、操られて復活するのではないかと。確信はもてないが、疑惑がそこにあるならそれを潰す、これは鉄則だ。復活するというなら、その肢体を粉々に砕けばいい。そしてその判断は、後に大いに吉とでることになる。
 伊織と梶原ももそれに倣い、止めを入念に刺す行動を粉砕に移行し、一体一体確実に屠っていく。だがこのままだと危ない。倒しても倒しても増えるマネキン。終わりの見えないマラソンレース程辛い物はない。
 特に梶原とヴァイオンにその予兆は色濃く出ていた。改良版M79を梶原の後ろから的確に放つ。そして倒した相手へライターで糸がないか確認していく。反応はない。接近戦で対処していた梶原の額に汗が浮かぶ。掌底からショットガンの轟音がそれをかき消すかのように轟く。
 彼らはもう一つ予想をしていた。
 それ即ち、親玉による糸の類の使用。
 その予想は外れたようにも思えたが、次の瞬間その読みは正しかったことが証明される。
 ヒュンッ
 その微かな音に反応して、梶原は無意識にヴァイオンを庇う。そしてその背に生まれる無数の細い、そして深い傷跡。
「ぐぁっ!」
その隙にマネキンの一撃が鈍くヴァイオンを襲う。重体者のフォローが梶原一人だけだったというのが、いけなかったのかもしれない。
 その瞬間、リリスは駆ける。須佐と藤村の背にタップを送り、それを感じ取った二人はすぐさまフォローに移る。リリスを襲うキメラを回し蹴りで屠り、その須佐に矛先を向けたキメラを疾風迅雷の名の元に斬り伏せていく。
 ミアもリリスに目くばせし、うまくフォローに回る。
 ヴァイオン達の元へとたどり着くや否や、大剣振り回し、周囲を一掃する。この時伊織と更紗のタイミング合わせがなければ、この援護は成功しなかっただろう。彼らのおかげで、一命を取り止めた二人は静かに感謝の視線を送る。

 そして事を起こした異形の者に視線を移す―――



●鎮魂曲

「こりゃぁ‥‥」
 その姿をみて、須佐は苦いを表情を浮かべる。
 所々マネキン、所々、生身の肉体。
 十中八九、人間が素材のキメラだ。
 登場してからずっと、同じ台詞を繰り返し、ループ再生されてる辺り、まともな知性はもはや残っていないだろう。
「出たか‥‥こいつで正しいかリリス?」
 藤村の問いかけに頷くリリス。
「あの〜アナタのお名前は何ですか?」
 ワたシをコわシて
 躍らせテ?
 恋の問いかけに繰り返し返ってくるのは二重音声のカタコトな言葉。
「むごいことを‥‥」
 伊織は苦虫を噛み潰したような表情だ。それはミアも、藤村も、須佐も更紗も恋も梶原もヴァイオンも同じだった。
 そして次の瞬間。
 後頭部についていた頭の口から大量に糸、恐らく鋼糸が噴出され、それを絡めとり蠢く八本の腕。
 だが何も起こらない。
 正確には、地に這う8体のマネキンがガタゴト動いただけだった。
 粉砕された肢体はその身体を宙に舞うことはなかった。
 それができないと判断してか、口から発射された鋼糸は能力達へとその矛先を変えた。
 が、完全に予想されていたその攻撃はことごとく対処されていく。
 強烈な攻撃だが、その正体が判っていれば打つ手はいくらでもあるのだ。
 イアリスを両脇に突き立て攻撃を交わした恋が叫ぶ。
「やはり、あの口のようです!」
「みたいですね‥‥!」
「だな!」
「いくよ!」
「そのようだな‥!」
 伊織、須佐、ミア、藤村が地を駆ける。
 それを阻止せんと動く残りのマネキンを、そうはさせまいとけん制していく更紗と恋。リリスは負傷した二人を死守する勢いだ。
 伊織の渾身のソニックブームが口に辺り、その衝撃の隙を逃さまいと須佐の限界突破による苛烈な足技の連撃が炸裂する。重なるように、ミアの強烈な必殺が追撃。ダメ押しだといわんばかりに、藤村の二刀小太刀が風神の如く轟く。
 どうやら、攻撃手段はそれだけで、身体能力はマネキンキメラの足元にも及ばないようだった。口を失ったソレは、脱力したかのようにその場に倒れこむ。
 
 ワたシをコわシて
 わタしヲこワしテ

 しきりに繰り返していたその言葉は、やがて掠れていき、そして止まった。

「なんだか‥‥切ない敵でしたね‥‥」
 恋は事切れたソレを見下ろし、静かに呟く。
 更紗とミアも、どこか悲痛な表情を浮かべ、頭上の能力者達の遺体を回収していた。伊織と藤村と須佐はヴァイオン達の下で応急処置の治療を施す。
 だが恋はその場に佇んだままだ。
 腑に落ちない。
 腑に落ちないのだ。
 攻撃手段を潰したので行動不能になるのは判る。
 だがそれによって事切れるのが、どうしても腑に落ちないのだ。
 そして彼女は見つける。
 このキメラの背中から伸びる細い、数本の糸を。
 それを視線で追い、その先へと、迷いなく問いかける。
「‥‥どなたか」
 いらっしゃいますか?
 そう続けたかった言葉は、こみ上げてくる吐血に遮られ、出てくることは無かった。
 突然の出来事に一同は瞬時に臨戦態勢をとり、恋のもとへと駆け寄ろうとした。
 だが、できなかった。
 空気が、それをさせなかった。
 一歩でも動いたら、殺される。
 そう錯覚されるような、鋭い殺気。
 倒れ伏した恋のその視線の先の影がゆらりと動き、そして一言と共に、消える。


「好奇心旺盛なのは、火傷するぜ?」

 言葉が終わるとともに、鋭い殺気は消えた。
 気配はもう、どこにも感じられない。
 とりあえずこの件は本部に報告することにして、とりあえず負傷した3人を急いで治療しなければならない。一同は辺りを軽く捜索して、残敵がいないことを確認して、館を後にした。
 だが、リリスの顔だけが曇ったままだった。
 聞き覚えのある声。
 死んだはずの、あの声。

「‥‥‥中野‥‥?」

 仲間を傷つけた、かつての敵の名前をぽつりと呟いて、リリスは館を振り返り、見上げる。

 込み上げてくるのは、館同様、不気味な空気だけだった。