タイトル:Season ONマスター:虎弥太

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/08 23:06

●オープニング本文


 5月ーそう、それは観光シーズンの始まりの月。まだ少し肌寒さが残り、夏の暑さが目の前までやってくる季節である。
 冷やし物が美味しくなってくるよね、うん。
 来たる6月、7月に備えどこの観光地も下準備に余念がない‥‥筈なのだが‥‥。


「戦争中、だよな‥‥?」
 短パンに半袖、とっても健康的な格好でサンサンと照り輝く太陽に身を晒しながら男性能力者はぽつりと呟く。
 両手には釣竿とクーラーボックスを携えて。
「えぇ、そうよ?」
 男性能力者の呟きにサラっと答えながらウキウキでビールを漁る女性能力者、飲む気満々である。
「一応、調査、なんだよな‥‥?」
視線は明後日の方向。
「えぇ、そうよ?」
 プシュ! っと缶ビールの詮を開け豪快に飲み干す女能力者。いい飲みっぷり。
「なぁ、もうちょっと真面目に」
「ダァーッもうっ! うだうだうっさいわねぇ!」
 めきょっと変形する缶ビール、飛び散る麦酒、滴り落ちる男性能力者の冷や汗。
「依頼内容はこの自然公園キャンプ場でのモニター調査みたいなもんでしょう?! 実際に遊んでみないと何がいいのか悪いのかレポートに書けないでしょう!」

●数時間前
 ULTから来た依頼は実にシンプルなものだった。
 キメラ対策をバッチリし施した、新しくオープンしたこの自然公園キャンプ場。対策をギリギリまでしたのはいいが、肝心のツアー内容や娯楽内容の方針等一切決まっていなかったのだ。
 簡単に言えばスタッフ一同忘れてたいたのだが‥‥。外が決まっても中が無ければなんの意味もない。が、シーズンも直前、モニター調査に回す人もいない。
 そこで今回、馬鹿騒‥‥もとい、日頃から的確な調査に慣れているであろう傭兵に白羽の矢が立ったわけだ。
「園内を自由に回っていただいて構いません。飲食代も私共が持ちます。遊技道具等も貸し出してますので、御入り用でしたら遠慮なくどうぞ」
 広報担当のスタッフは傭兵達に園内地図、貸し出しリスト、最後にレポート用紙を手渡した。
「最終的にはこちらに皆様の行動と感想を書いていただきます。時間も余りありませんので、そのままパンフレットに載ると思いますよ。もちろん多少なり手は入りますが」
 広報担当者は満面の営業スマイルで傭兵達を送り出した。


「‥‥まんま載る‥‥ねぇ」
 いささか不安を覚えながら、男性能力者は女性能力者のレポート内容には目を向けないように、無心となりながら釣竿を振りかぶった。

●参加者一覧

石動 小夜子(ga0121
20歳・♀・PN
ミア・エルミナール(ga0741
20歳・♀・FT
麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
水瀬 煉(gb0078
17歳・♂・EL
美環 響(gb2863
16歳・♂・ST
カルマ・ベリル(gb3691
15歳・♂・EL
ファーリア・黒金(gb4059
16歳・♀・DG
佐賀十蔵(gb5442
39歳・♂・JG

●リプレイ本文

「うん、絶好の遊び日和だな!」
 サンサンと照り輝く太陽を身体一杯に浴びて麻宮 光(ga9696)は両手一杯に荷物を抱え解放の叫び声を
あげた。最近は大規模作戦、依頼と続いてとんと休む暇がなかった彼は、今回の依頼を羽伸ばしにと思い、
参加を決め込んだのであった。
「まんま載るって、それって手抜げふんげふん」
 その横でいつものごとく明るい調子で呟きを漏らすはミア・エルミナール(ga0741)。うぉぃ! っとツッ
コミを軽く入れながら光はよっと釣竿を抱え上げた。
「じゃ、みんなお昼にはここで集合な!」
 その号令で一同はそれぞれ思い思いの場所へ向けて解散となった。
 バラバラに集まった皆だったが、自然と班分けがされ、それぞれがそれぞれのレポートを書く形となって
いた。釣竿を手に取り川へ向かう者、そして山道へ向かう者。はたまた一人キャンプエリアへ向かう者も。
「遊び倒すって言うたかて、わしは傭兵やで。一般ピープルみたいにとはいかんのぅ」
 佐賀 十蔵(gb5442)は一人キャンプ道具をがしっと肩に担ぎキャンプ場の方へと向かった。
 はてさて、レポートは一体どうなるのか‥‥


●Walking in the nature
「お怪我、大丈夫ですか?」
 美環 響(gb2863)は石動 小夜子(ga0121)を気遣いながら山道のハイキングコースを進んでいた。こ
こはハイキングの初心者コース、小夜子が希望を出して響がそれに続く形となった。小夜子は先の依頼で傷
を少し負っていた。大したことはないと本人は言ったが紳士として見過ごす訳にはいかないと、さりげなく
小夜子を気遣う響であった。
 二人は貸出にあったハイキングセットに身を包み、心地良い緑の光を浴びながら歩を進める。あらかじめ
貸出を希望していたデジタルカメラを手に取り、楽しげにシャッターを下ろす小夜子は先ほどから目に映る
動物全てを撮っていた。
 パンフレットに載るのならば写真もあったほうがいいですよねという申し出を断れるスタッフはいるわけ
もなく、快く貸し出されたのである。
「あ、小夜子さん、珍しい花が沢山咲いていますよ?」
 すかさずシャッターを向ける小夜子、すっかりカメラマンが板についてきていた、本人も心なしかウキウ
キだ。と、ファインダーを向けた所に映ったのは花をゆっくりと両手で包み込む響の手。くす、と微笑みな
がら片方で指を鳴らすとそこに現れたのは七色に輝く美しいレインボーローズ。
「よっと」
 息を飲む小夜子にそれを十分に見せ、そしてそれを軽い掛け声と共に一瞬両手で包みこんだ、次の瞬間、
現れたのは七色の薔薇ではなく一羽の真っ白の鳩! 鳩はバサバサッと飛び立ち小夜子と響の周りを飛び回
り、そして響の肩に落ち着いた。
「‥‥ふふっ」
「‥‥くすっ」
 自然と笑い声がこぼれてしまう。こんな空間はもっとこの世界に必要なのかもしれない、響はそう心の中
で呟いていた。
 ─────願わくばここが、多くの人々の心の支えとなりますように、と。
 趣味のスケッチで風景を描いていく響とそれを写真に収めていく小夜子。その後ろから聞こえてくる荒い
息遣い‥‥え、荒い息遣い?!
「ほっ♪ ほっ♪」
 飛び散る健康的な汗。
 ゆれる肉体のマウンテン。
 輝く魅惑の体操着。
 ゆれる肉体のマウンテン。
 若さを主張する生足を際立たせる神器ブルマ。
 そしてゆれる肉体のダブルマウンテン。
 ファーリア・黒金(gb4059)はジョギングをしながら爽やかな笑みを浮かべていた。体を動かす事が大好
きな彼女は迷わず山道でのジョギングの計画を立てていたのである。本当はAU−KVで颯爽と走り抜けた
かったのだが、それはさすがに許可が下りなかった。だがそんな事をいつまでも気にする彼女ではない! ア
イドルは元気が大事! 当初の計画通り元気良くジョギングをし、今ここにいる。
 ぽかーん、と口を開いてファーリアを見つめる響と小夜子。その脇をぶるんぶるんという効果音と共に走
り過ぎるファーリア。
「あ、写真、あとで私にも見せてくださいねっ!」
 景色を堪能しながらそのまま姿を小さくしていった、ファーリア。
 あぁ、もっと堪能したかったなんてどうか言わないで。
 思わぬ光景にきょとんとしてしまった二人、何事もなかったかの様に山道の頂上を目指し歩みを再開した。
そう、何事もなかったかのように‥‥うん。

「‥‥わぁっ‥‥‥」
「これはすごいですね‥‥」
 頂上についた二人はどちらからともなく感嘆の溜息を漏らしていた。園内を見下ろすポジションに立った
二人、その視線の果てに映ったのは一体どんな景色だったのか。まるで小さな神様の庭ですね、と呟く響の
手にはスケッチブックがあったが、一向に書き出すそぶりを見せない。
 小夜子もカメラを構えず、ただ、ただ、視線を前方の景色へと向けていた。
「自分の目でこの景色を確かめてみてください‥‥そう書きます」
「えぇ、きっとその方がいいでしょうね‥‥」
 前方を見つめつづける小夜子に同意しながら、響は小夜子の横顔をスケッチしていた。レポートに載せる
つもりはないけれど、こういった思い出も残していきたい、そう思う響らしい行動だった。

●Fish Fight?!
「結構設備整ってるんだなぁ、防衛も、売店とかの観光施設も」
 光はレポートにキメラ対策万全、豊富なお土産と記るした。メインも大事だがその脇を支えるものも大事。
光は脇を固めるレポートに徹していた。もちろん、存分に羽を伸ばしながら。
「お〜‥‥実は滝壺って見るの初めてなんだぜ。海は実家近くにあるけど‥‥」
 自然が作り出した見事な水の奇跡に素直な感想を零す光。
「わふー!」
 いそいそと釣り具の準備をするミア。水瀬 煉(gb0078)とカルマ・ベリル(gb3691)も一緒だ。4人は
散開と同時に川を目指した。目的は勿論、お昼の足しにしようという魚釣りの為だ。途中森林浴をしながら
まったりと川へ到着。というわけでここは滝壺。
「‥‥これで一食分浮かせられる、か」
 煉は小さな声で、しかしどことなく嬉しそうに呟いた。自分の壊滅的な料理の腕前のせいとはいえ、イン
スタント地獄(カップラーメン)の365日を過ごしている彼からすれば、今回の依頼に参加しない理由は
どこにもなかった。おいしいご飯が俺を呼んでいる‥‥! 参加動機としては十二分である。食い物のパワ
ーをナメるな。
「ちょっと、楽しみ、かな?」
 水着に着替えたカルマとミア。二人は泳ぐ気も満々。光も釣り具を準備して三人を微笑ましく見守ってい
た。
 そして、ふと訪れる静寂。先ほどまで賑やかだった三人から会話が消えたのだ。
「釣りとは」
「無心の心を持って」
「糸が揺れるのをひたすら待つもの‥‥」
 ごくり、と唾を飲む光。こいつら‥‥‥やる気だ‥‥‥! オーラが物語っている‥‥!
 魚が!
 釣れるまで!!
 釣りをやめない!!!
 と意気込む必要もなく、魚は適度に釣れていた。ちょっと拍子抜け。
 釣れた魚をまじまじと見つめるカルマ。
「魚さん、俺に食べられてくれませんか?」
 かくり、と首を傾げるその仕草からは年相応の表情が見て取れる。普段は無表情でクールな彼にもこうい
うかわいい一面はあるのだ。この自然はその人が持つ素も引き出してくれるのかもしれない。心なしかどこ
ろか、みんなとても楽しそうだ。
「‥‥‥‥‥眠ぅ」
 釣り糸を垂らしながらうつらうつらの煉。もはやお約束である。そして気付いても誰も止めないのが、暗
黙の了解。案の定煉の体は少しずつ前方へ、つまりは川面目掛けて傾いていた。
 そして‥‥
 ざばーーーーーーん!!!
「ぶわっ!?」
 水をぴゅーっと口から吐き出しつつ水面から顔出した煉を出迎えたのは三人の大きな笑い声だった。そん
な姿になんだか可笑しくなって、眠気も吹っ飛んじゃって、煉も笑い出す。
「こんな時間がずっと手元いあればな‥‥なんてな」
 あたかもそれが合図であったかのようにカルマとミアも元気よく飛び込んだ。
「とりゃー!」
「それっ!!」
「どわっ、冷たっ!」
 水しぶきに顔を濡らした光もとっても楽しそうに頬を緩めた。
「あーーーーーーーーっ! 私も入ります!!」
 ジョギングの果てに川へたどり着いたファーリアは到着するやいなやブルマと体操着を脱ぎ出し始め
た!!
「ちょ、ファーリア!?」
 慌てて目を逸らす男性陣、鼻の下が伸びていますよ?
「大丈夫ですよ、下は水着ですから♪ ジャーン!」
 体操着の下から出てきたのはスマートな競泳水着。泳ぐ為に開発されたスポーツ水着である。ただファー
リアの場合特筆すべきはその水着から零れそうな何か。ミアも負けていない。男性陣、目がへの字だぞ?
 楽しくみんなで泳いでいると、ゆらりとおおきな魚が姿を現した。
 主だ‥‥!
 一同はすぐさまそれが川の主であるとわかった。
 そして主はミアの前へすいーっと近寄ってきた。
(「勝負‥‥するか?」)
 ミアは主にそう言われた気がしてならなかった。
「じょ、上等じゃないの!」
 どちらが先ともなく一匹と一人は滝壺の滝の下まで移動。どうやらこれを先にのぼりきった方が勝ちとか
そうでないとか。
「まじかよ‥‥」
 光は滝を見上げた。とてもじゃないが泳ぎ登れる高さではない、がそんなことを気にしていないのか覚醒
するミア。
「勝負!!!」
 一匹と一人の壮絶な戦いが今始まった!!
 ‥‥
 ‥‥‥
 ‥‥‥‥
 ‥‥‥‥‥
 ‥‥‥‥‥‥
 まぁ、勝てるわけないよね、あは。
「なにあれ‥‥もはや鮭じゃん、鯉じゃん‥‥‥」
 ぷかーっと水面に浮かぶミア。
 そして光は目測だがバッチリと主のサイズをレポートに書いていた。
 勝者、主!!!

●BBQ TIME!!
「こんなもんかいの‥‥」
 十蔵は手際よくテントをベストポジションにセットし終えていた。土も適度に固く、草も生い茂る丁度い
い場所。テントの周りには草や枝が飾られてカモフラージュ効果を出している。長年防人として生きてきた
十蔵らしいといえばらしい。戦いの中に身を置く十蔵としては遊び倒すよりこっちのほうがよっぽど性に合
っていた。事実彼の手際は素晴らしいもので、一人でキャンプをしに来る人にとってはこれ以上ないお手本
となるだろう。
「どっこいせと」
 テント付近に掘り式飯盒焚きを作りそこに飯盒をセットする。木材も固く渇いているのを選び煙もほとん
どでていない。エコである。
 少し離れた場所にはカルマ達がBBQを楽しんでいた。そしてそこから小夜子がお肉とお野菜を皿に取り
分け、十蔵の所へとやってきた。
「よかったら、どうぞ。 たくさんありますからね?」
 遠くに一人でいることは何も咎めず優しい笑顔で食事差し出す小夜子。勿論無下にできるわけなく、
「‥‥ほなら遠慮なく」
 実際公園側が用意したお肉類は絶品の一言。ちなみに野菜類は小夜子が用意してくれていた。栄養が偏ら
ないようにという気遣いである。肥えた十蔵の身体を労ってか、お皿にはがっつりと野菜も盛られていた。
流石だ。

「やっぱりコンビニ弁当より美味しいや‥‥」
 高級肉に舌鼓を打つカルマの頬は緩んでいた。
(「でも‥‥お姉さんと来たかったな」)
 遠くにいる、同じく傭兵の姉と慕う人の事を思いながら。彼女も一緒だったらきっともっと楽しかったん
だろうなぁ、とちょっとだけ寂しそうに。
「さぁジャンジャン食べてくださいね!」
 ファーリアがどんどんみんなのお皿にお肉を盛っていく。なぜか水着の姿のままだ。競泳水着と焼肉と大
きいマウンテンの景色、悪くない。カルマと煉はこれでもかと次から次へと肉を胃袋へ収めていた。二人と
も、もっとおいしいもの普段から食べて‥‥ほろり。光はというとオリジナルの地酒を堪能。残念ながら企
業秘密ということでお酒の詳細は教えてもらえなかったが、これが中々イケる。ミアにはジュースを勧めな
がら、お酒もうまし、とレポートに書き込むのであった。言うまでもなく、料理のほとんどは女性陣が、食
べる飲むは男性陣が担当。でもみんなが楽しそうにしていた、きっとこれが一番大事なこと。

 そんな楽しい時間もやっぱり終わりがあって。
 ゴミは全てお持ち帰り、だが近くにゴミ捨て場が園外にあるので苦ではなかった。貸出品をスタッフに返
し、レポートも提出。
 余談だが、帰り際にはファーリアは替えの体操着とブルマに着替えていた。どうやらそれだけは持ってき
ていたようだ。
 ‥‥あれ? でも最初体操着の下は水着で、今は水着はなくて‥‥あれ?
 内緒です♪ とペロッと舌を出す彼女を追求できるわけもなく。
 一同は名残惜しそうにキャンプ場を後にするのであった。

●後日談
 キャンプ場は見事大成功。
 施設の感想だけでなく、周辺施設や細かな詳細までもに目を向けたのが功を奏したのか、客足は途絶える
ことがなかった。十蔵のキャンプを参考に、一人客も意外にも多かったのも収穫だ。カルマのキャンプ施設
のリサーチもそれに大きく貢献したのは言うまでもない。
 今の世の中、こんな癒しの場所もあるのもいいのかも? そう考えると‥‥自分達が戦っているのもきっ
と無駄じゃない‥‥。

 今回の依頼に参加した一同は、自分達が作ったパンフレットを手に、そう思うのであった。

 パンフレットの最後には空へ飛び立つ鳩の写真が一枚。
 その下に添えられているのは、きっとあなたへのメッセージ。

『この素晴らしい景色、どうかご自分の目で、確かめてみてください』