●リプレイ本文
●ULT本部
依頼書を握る手がぷるぷると小刻みに震えた。
自然に三人の口から乾いた笑いが出る。
偶然居合わせた三人の傭兵。左から小野坂 源太郎(
gb6063)、鳥飼 夕貴(
ga4123)、皓祇(
gb4143)。いつも通り仕事の依頼を引き受けにULT本部へ顔を出していたところだろう。そんな三人が出会った依頼は緊急救助要請。緊張感漂わせ依頼書を閲覧した三人の瞳写ったのは奇異な内容だった。
クラブがバグアに占拠された。うん、まぁありがち。
客を救助してくれ。まぁ、そうくるだろう。
敵はオカマだ。
‥‥‥‥‥
ちょ、え?
あまりに突拍子もない内容に乾いた笑いしかでない皓祇。
「‥‥また、なんというか微妙な内容ですね」
苦笑いを零しながら横の傭兵二人へ声を掛ける。
あぁそうだな、とか、まぁね、とか。そんなありきたりな社交辞令じゃないけど、オーソドックスな返答が返ってくることを期待していたが、戻ってきたのは斜め上からの返答だった。
「あら、そう? 俺は結構好きよ?」
夕貴は漆黒の艶やかな髪をなびかせ、嬉々としていた。なんでや。
「ダンスか‥‥ワクワクするのぅ!」
作業着をぐいっと何故か整えながらこちらも上機嫌の源太郎。
しかしまがいなりにも、相手はバグア。そして姿や言動から察するに、恐らく強化人間であることは間違いないであろう。今回向こう側は戦闘するつもりが皆無なのが不幸中の幸いか。しかし要求が彼氏を作る事と見られる事とみんなで踊りまくる事とは‥‥バグアの意図は分からないと言わざるを得ない。
「とりあえず個々で準備して現地で集合致しましょう」
思考性がまったく違う三人、若干の不安を抱きつつも、三人はそれぞれ準備に取り掛かった。
「悪いね、協力したいのは山々だが、許可だせないな」
「‥‥そうですか。お忙しいところお時間いただき、感謝します」
皓祇はテレビ局のディレクターに頭を下げ、テレビ局を出た。
注目を浴びるのが目的の敵、全国放送というカモフラージュで店内に彼らの映像を流すために機材とクルーの貸出及び協力を要請したが、いくつかの理由でそれは応じられなかった。
なによりも、クルーと機材の安全が保証できないのが一番の要因だった。それに機材が万一破損したら数百万の弁済額になる。テレビ中継車が数千万するほど高価なのも同様、機材も一般では手もでないほど高い。テレビ局で使用しているものとなれば尚更だ。それを負担することができるわけもなく、皓祇はディレクターに感謝の意を述べ、テレビ局を後にしたのだった。
「まいりましたね‥‥まぁ、ちょっと寂しい気もしますが、予備案でいきますか。あれなら貸出は可能でしょうし」
そう独り言をつぶやきながら皓祇はさっき来た道をさかのぼり、ULT本部へと目指した。
ふんふ〜ん♪ と鼻歌響くとある一室。
源太郎は鏡の前で着替えていた。
鏡に映るは70歳とは思えない程の逞しい肉体美。ボディービルの賜物だ。
その逞しい肢体を艶やかなダークブラックのスーツが包み込む。
グッとネクタイを締め、渋めの男を演出する香水をシュッとひと吹き。
髪はせっかくなのでポマードでオールバック。
締めはストイックなサングラス。
どっからどうみてもダンディ、だがその道の仕事の人に見えなくも無い、というか凄みがあるのが問題なのか。いやはや、かっこいいぞ源太郎。これは惚れる。
「クラブに行くのは初めてだからな、年甲斐も無く興奮してしまいそうだな!」
ウキウキしながら身支度をする源太郎。だが仕事なのはちゃんと忘れていない。今回は救助が目的。手法はちょっと独特だが、戦闘や討伐はしないのだ。あまり例を見ない内容だが、それに戸惑うほど、源太郎は若くも無ければ、驕るほど達観もしていない。
自分ができる範囲でやることをやるのだ。
そのチョイスがこの服装、果たしてどんなステージが待っているのか‥‥。
場面変わって同じく鼻歌響くとある一室。
夕貴の漆黒の日本髪はみるみるうちにミルクティブランに染め上がっていく。
丁寧に染めあがったそれを、これまた丁寧に結い上げていった。
顔はおしろいを塗りたくり、厚化粧目に。そして小指ですっと唇に紅のベクトルが色を咲かせた。
逞しい身体は華やかのお化粧で彩られ。
着物を帯を手馴れたてつきで締め、準備万端。
勿論その下、胸にはさらしを、そしてその更に下方には褌を。
褌は身体に締めてるようで、実は心もしめてるんだぜ! きゅっと気持ちが引き締まる☆
「よし、今日も完璧。とはいえ‥‥やること決まっていないのだけれどね‥‥」
ノープランで赴く鳥飼 夕貴の気構え! だがそんなの関係ない! 大事なのはハートだ!
そう言わんばかりに、さりげなく褌はまたたいていた‥‥。
なんだこの集まり、という突っ込みが聞こえた気が、しないでも、ない。
●マカオのオカマ
確か今日は仕事明けだったんだ。
珍しく一日休みを取って、久しぶりに舞事をやっていたんだっけか。
気付いたら夕方になっていて、結構充実していたとおもう。
でも一日家で過ごすのもあれだから、ちょっと外に出ようと思ったのさぁ。
テンションも上がってたし、今話題のクラブに潜入! ワクワクドキドキさぁ!
お酒もちょっと入って、気分よくさぁ踊ろうと思ったのに。
なぜ、目の前に、強化人間がいるのだろうか‥‥。
御影 柳樹(
ga3326)は現状に困惑しながらも、徐々に意識の冷静を取り戻していた。偶然にその場で居合わせた能力者、ということになる。彼も傭兵、いずれ能力者仲間がくるであろうことは想像に容易い。なら今の内に自分にできることをやっておこう、と柳樹は近くの店員にゆっくりと、目立たない様に近づいていった。
「僕能力者なんだけど、ちょっと協力して欲シーサー」
沖縄被れの道産子、ちょっと語尾がステキだ。それは置いておいて。彼が店員に頼んだのは以下だった。
まず、それとなく客にむやみに逃げ出さないこと、そしてできるだけ彼女(?)達の踊りに注目し、ノリをよくすること。
「あーいう人達は約束は守るさぁ」
にかっと人の良い笑みで、店員と周囲にいた客を安心させる。
柳樹の視線の先には三人のオカマが踊り狂っていた。
マッチョな肉体美を誇る松千代。
ロリショタな竹々美。
そして巨漢のBISON(梅村)。
三人はまわりの一般人にやらしく絡みながら思い思いに踊り耽っていた。
とりあえず梅村のベリーダンスは見るに耐えない、がここで目を逸らしたらやばいことは誰もがわかっていた。頑張れ、羞恥心‥‥!
ちらっと入り口に目を馳せる。
どうやら入ってくるのはフリーみたいだな。とはいえ、騒ぎはもう外にも伝わっているのか、誰も入ってこないが。出ようとすると、彼女達に妨害されるってところか。
だが彼の予想とは裏腹に、入り口の扉は勢い良く開かれた。
●オカマのマカオ
バーン!
勢い良く開かれた扉から出てきたのは三人の男性。
ちょ、ぇぇえええええええぇぇええ!?
てっきり他からこっそり潜入してくるかとおもった柳樹は内心びっくり。
先頭に立つはダンディ小野坂。その後ろにヤマトナデシコ夕貴。そして更にその後ろにちんまりとフェロモン皓祇。あだ名への異論は認めない。
「いらっしゃぁぁぁあああい♪」「‥‥いらっしゃい」
いつのまにか扉はちくみんとバイソンに閉められていた。遂ほんの一瞬前まではステージにいたのに、なんという移動力か。その場に居合わせた傭兵の誰も、その動きを捉えることができなかった。
(「強化人間確定ね‥‥」)
夕貴を始め、3人は至って冷静。どのみちやることに変わりは無い。
「ていうか‥‥すごいのがきたさぁ」
ULTから送られた傭兵の増援の井出立ちにぽかーんと口を開ける柳樹。
いったいどうなることやら‥‥。
「今晩はお嬢さん方。その背中につけている可愛らしい羽は最近の若者の間で流行っているのかな?」
源太郎はバイソンとちくみんを横に連れ、松千代の方へと歩み寄る。
その厚い胸板から漂うダンディなかほり、たまらん。年の功か、動きやオーラがそもそも違う。
「こういうところに来るのは実は初めてでなぁ‥‥よければ踊りを教えて貰えんかね?」
にかっとダンディスマイルを零し、サングラスを外しながらネクタイを緩める。
キュンっとバイソンとちくみんから乙女チックな何かが聞こえたきがする。
「あら、ステキな紳士じゃない? いいわよ? でも踊りは教えてもらって覚えるものでなくてよ。 踊って、覚えるものなのよ!!」
そう言うや否や部屋に響き渡る情熱的な調べ。
ほらきたと松千代とバイソンは前へと躍り出る。
肢体を艶かしく動かしいく松千代、おっさん顔以外は、悔しいがとても上手い。こんな状況でなければじっくり堪能していきたいほどだ。ていうかバグアなにしてんの?
一方バイソンのベリーダンスは相変わらずやばい。というか放送禁止なのではなかろうか。ギャランドゥと一緒にはふぅやらあふぅやら変な吐息を零しながらバインバインと揺れる豊かなベリー。モザイクを要求します。
彼女らのノリに合わせるべく、ダンディ小野坂に続きサーターアンダギー御影とヤマトナデシコ夕貴も参戦。
御影の大きな体躯から繰り出される力強い踊りに松千代は果敢に絡んでくる。御影が男性パート、松千代が女性パート。
御影の足に絡みつきながら情熱的なアプローチで心も身体もバーニング!迸る汗に冷や汗が混ざっているのは突っ込んではいけないのだ。
一方夕貴が軽快にリズムを取りながら踊っているのはパラパラだ!
着物姿で繰り出される正確な振り付けはなんていうか面白い、ていうかうまっ!
いつのまにかDJをやっていたちくみんは彼女の動きに合わせ曲を編曲している、ていうかこっちもうまっ!
そしてそれをハンディカメラで撮影し、テレビ局員に教わった方法で店内の映像モニターに写している皓祇は明後日の方向の視線でレンズを覗き込んでいた。
「‥‥なんとも独特な光景です」
そして一般人が傭兵含む7人に若干どころかかなり引いてるのにも気付いているのだろう。
しかしこれも彼らの為‥‥!
皓祇は機敏に動きながら松千代達を映像に収め続けた。
でも仕事を忘れているわけではない。
御影はダンスの合間をみてさりげなくステージをおり、休憩するフリをしながら、数名ごと客を非常口へ避難させていた。先ほど合間見えたときに小声でそれを聞かされていた小野坂もさりげなくその巨体でそれを隠しながら踊った。付け焼刃とはいえ、ナイスフォロー。
順調に進みすぎる状況に皓祇は疑問を抱きながらも、避難誘導は進んだ。
ダンスもひと段落を終え、御影は先ほど店員に頼んでおいたカクテルを一杯ずつ、彼女達に差し出す。
「お疲れ様さぁ! いやぁ、いい夜さぁ!」
自分もカクテルを一杯携え、非常階段から離れた店へと誘う。
「このお店はどうやって知ったさぁ? 好きな踊りは? ズバリ! 好みなタイプは!?」
皓祇がハンディカムは回しながら、まるでインタビューの様に質問のマシンガントークを浴びせる。まるで芸能人にでもなったかのような気分で上機嫌だ、効果は上場。
「‥‥ここは雑誌で」
ちくみんのつぶやきに思わず後ろで夕貴が心の中で突っ込みを入れる。
(「雑誌とか読むのね‥‥」)
「好みのタイプはそうねぇ、そこのカメラマンが好みなんだけど‥‥僕ちゃんのようなのも結構いいカモ♪」
ちゅっと投げキッスをされ、表情が引きつるのを必死に押さえながら、インタビューを続ける御影。まじで頑張れ。
その間に夕貴が少人数ずつ避難を進めた。
そして火照った身体を上半身裸にしつつ源太郎もカクテルを携え会話に参加した。
「ちくみんは、未成年じゃなかろう?」
一応見目が幼いから年齢確認。そんな心遣いもちくみんとバイソンのハートをゲッちゅしていた。
「‥‥大丈夫」
頬を染めながらカクテルを受け取りちびちび飲み干す。強化人間じゃなかったら、その手の人たちにはかなり人気が出そうだぞ、ちくみん。
しかし順調、ということは、客数はかなり減っているということだ。
気がつけば、ダンスホールには7人の姿以外誰も見当たらなかった。
まずいな‥‥
ここにきて皓祇は異変に気付く。
ここまで人数が減って気付いていないはずがない、いや、最初から気付いていたのだ。
残りの3人も異変に気付いたのか、先ほどまで流れていた楽しい空気が一気に消え、緊張感が辺りを埋め尽くす。
「うふふ、満足ぅ?」
バイソンはぬぅっと立ち上がり(でかいから立ってても座ってても大して変わらないのは内緒)能力者達への間を詰める。
!!
瞬時に距離を置く4人。
真っ向から戦ったら間違いなく勝てない。
くそ、罠に嵌ったか!?
焦りが4人の顔に差す。万事休すか。
「‥‥なーんてね?」
くすっと笑いながら松千代は一歩下がった。
「本当は最終的には僕ちゃん達を殺そうと思ってたのだけど、思いのほか楽しかったの」
「‥‥だから今回は本当に遊びにきただけ」
「なんなら彼氏になってくれるぅ!?」
バイソンのオチに遠慮します、と苦笑しながら答える一同。
「私たちもバグアだしね、でもたまには息抜きしたいのよぅ。違うところで出会ってたら、友達になれたのかもねぇ、残念だわ」
肩を竦めながらバサァっと翼を広げる三人のオカマ。オカマエンジェル。
楽しませてくれたお礼に今回は見逃してあげる☆
そういい残し、彼女達は天井を突き破りながらあっという間に空彼方へ消えてしまった。
「次は絶対彼氏作るわよぉぉおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
切実な思いを吐露しながら。
強化人間にも色々あるんだなぁ。一同はぽかーんとしながら3人を見送った。
できれば、もう、遭いたくない(切実)