タイトル:【Woi】覚悟を決めてマスター:虎弥太

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/02 16:27

●オープニング本文


●北米大陸の事情
 北米では大規模作戦の準備の為、UPC軍が五大湖地域への集結を開始していた。
 しかし、戦力を集めるということは、他方で戦力が引き抜かれる場所もあるということでもある。
 小さな町などに駐留する小規模部隊からの戦力が引き抜けば、出没する野良キメラなどへの対応力が低下してしまう。
 実際、作戦が動き始めてから、徐々にではあるが北米大陸の各地からULTに持ち込まれる傭兵への依頼が増え始めていた。
 傭兵がこれに迅速に対応できなれば、小規模な駐留部隊をそれぞれの任地へ戻す必要も生じてくるだろう。
 それは大規模作戦における戦力の減衰へとつながりかねないものである。




 北米のとある中継基地。
 大規模作戦発令も間近であるせいか、基地内はどこもかしこも慌しい様子だ。
 戦争中とはかくも奇妙なものである。人とは『敵を殺すのに躊躇する生き物』。
 大切な人達を守る為、生き抜く為、それぞれの理由を胸に抱き武器を取る兵士、一般人、傭兵、能力者。だがいざその手で敵の命を奪い取れる状況に立つと、なんとか救えないものかと、葛藤を抱く。
 生き抜く為に殺すのに、殺せない、殺したくない。救いたい。
 これを矛盾と言わずなんと言おう。
 だがそれが人間らしさという物の一つなのかもしれない。
 そのおかげで救える命もあることは、否定する余地もない。
 多くの知恵と感情を持っている人間だからこそ持ちえる価値観かもしれないが。
 この基地にいる兵士達はみな、少なくとも、そんな毎日の葛藤の中にでも、自分が信じる物の為に、命を懸けて戦かう覚悟なのだ。誰もがそう言うだろう。

 ――目を背きたくなる現実を目の前にするまでは。






 コロサナイト
 
 コロシタクナイ
 
 コ ロ シ テ ク ダ サ イ 





 ビーッ! ビーッ! ビーッ!
 基地内に警報が鳴り響く。
「敵襲! 総員第一戦闘配備、総員第一戦闘配備!!」
 基地全体にレッドアラートが行き渡る。この時期に敵襲、予測していなかった訳ではないが、なんというタイミングか。
「状況は!?」
 司令官が上着を着込みながら司令室へと入る。束の間の休息中だったのか、所々衣服が乱れている。
「レーダーに敵影と見られる反応を確認、こちらへまっすぐに向かっています。 機影からしておそらく小型のHWかと‥‥ですが‥‥」
 言葉を濁す管制官。
 なんだ、と押され、しどろもどろになりながら報告を告げる。
「機影数が‥‥どんどん増えています、信じられない数です‥‥」
「くっ、バグアめ‥‥本気でここを落とす気か」
 レーダーに映る無数の点に司令官は舌打ちを零す。中継基地に落とされてもいい基地など存在しない。ここが落ちれば近隣基地、大規模作戦への影響も少なくは無い。落としておいて損はないのだ。
「ただちにKVを発進させろ。それと急ぎ本部に連絡、傭兵の増援を呼んでおけ」
 果たして持ちこたえられるか。
 だが彼らが驚愕することになったのはその後だった。


「アルファ1! 後ろ付かれてるぞ!」
「わーってる!! くそ、追いかけるなら女の尻のほうがいい‥‥ぞっと!!」
 左翼に若干被弾しながらも、ギリギリの上下旋回を行い小型HWの後ろに付き逆に落としていくパイロット、腕はいいほうだ。
「ヒャッホウ!! アルファ3、帰ったら奢れよ?」
 しかしそれでも彼らには荷が重い相手であることは間違いない。いくら落としても落としても、敵はどんどん増援がくる一方。逆に味方は落とされればそこで終わりなのだ。
「全機、警戒せよ。 アンノウン接近、アンノウン接近。キメラだと思われます。警戒せよ」
 管制塔からの報告を受けたのも束の間、パイロット達が視認できる距離までにそれは近づいていた。
 黒い霧‥‥? 翼の生えた黒い何か‥‥? サイズはKVよりかなり小さめだが、それでも大型の部類には入るであろう大きさだ。数は一体。
 黒い翼に黒い手足。人型であるのは間違いないが、肝心の身体の部分が黒い『何か』に阻まれて見えない。キメラはのスピードは異常、戦域に入るや否や近くの被弾したKVへと取り付く。
「うわぁ!?」
 しかし取り付いたままで、何かをするわけでもなかった。
 いや、パイロットが気がつかなかっただけ。
 気がついた時にはもう遅い。
「ひっ!? うわぁああああ!!」
 自身の身体を覆う無数の黒い何か、それが身体に纏わり付く。被弾した箇所から侵入してきたのだ。そして――次の瞬間。

 アルファ1は近くにいたアルファ3を落としていた。

「な!? なんだよ!? 動かない、なんでだよ!?」
 パイロットの意思を離れ、KVは勝手に攻撃を開始した、仲間めがけて。



「止まれよ、やめろよ、やめてくれぇぇええええ!!!!」


 オープン通信回線を通して、基地全体に、悪夢の断末魔が響き渡る。

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
エルガ・グラハム(ga4953
21歳・♀・BM
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
なつき(ga5710
25歳・♀・EL
みづほ(ga6115
27歳・♀・EL
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

●Engage


 音が鳴る。
 空を高速で切り裂く8つの音。
 その音は次第に高くなり。
 低く下がり始めた頃が開戦の合図。
 モニターに写る光点が数を増すと同時に緊張も増す。
 徐々に速度を落とす機体を、じっとりと濡れた掌で前へ倒した時。
 壮絶な命のやり取りの幕が開けた。










 覚悟を決めて。









●Alert! Alert!

「射程統一確認‥‥距離1800m。 全機準備を。 スリーカウント、スタート」
 みづほ(ga6115)の合図と共に各機は突入と同時に一斉射撃のフォームへと移行した。
 月森 花(ga0053)は強化型ジャミング中和装置を発動し、K−02の発射準備に入る。
「基地から遠ざかっている敵への優先ターゲティングを頼みます」
みづほと花の情報管制の援助をしながら、情報を取捨選択し、仲間へと伝えるアルヴァイム(ga5051)もいつでも攻撃が開始できる状態だ。
 3
 アルヴァイムの後ろでD−02を構え、エルガ・グラハム(ga4953)は威勢良く啖呵を切る。
「覚悟なぞとうの昔に決まっている! いいだろう、死んでやる! バグアに人間の底力を見せた後でな!!」
 2
「ターゲット‥‥ロック‥‥」
 西島 百白(ga2123)もロングボウの能力を全開にし、構えた。
 1
「綺麗な華を咲かせてみせてよ‥‥紅い炎の華をさ‥‥」
 花、ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)、百白、なつき(ga5710)のミサイルが紅蓮の雨と化し、敵へとその牙を下ろす。


 能力者より発射せられた数百のミサイルは先制攻撃、牽制、弾幕の3種の役割を見事担った。多くが地面と接触したが、また同じくして多くはHWに見事命中し、確実に先制ダメージを与えることに成功した。
 だが、確実に命中し、ダメージを被ったのは報告で受けていた寄生された味方KVも同じことだった。
 HWの多くは発射感知と同時にKVや基地施設の陰へと身を置き、ダメージを軽減したのだ。もちろん単体でここまでの動きはできるはずもなく。
「あれですか‥‥」
 アーク・ウイング(gb4432)は敵勢後方に身を置き、空中で悠々とミサイルを回避している黒いキメラを見つめた。
「空戦中のKVが乗っ取られた? 冗談は顔だけにしてくれ‥‥」
 ジュエルは空戦領域に入るや否や、オープン回線で軽口を叩く。
 悪い悪い、と続けてフォローを入れようとしたが、それは寄生されたパイロット達の阿鼻叫喚で遮られた。
 五体満足に五感も顕在。見ることも聞くことも、感じることもできる。なのに身体は一切動かず、自分の機体は仲間を傷つけ続ける。身に纏わりつく黒い何かがいつ自分の命を奪うのか、仲間がいつ自分の命を奪うのか。
 いつ、自分は仲間の命を奪うのか。
 そんな環境の中で冷静でいられる人間がいるだろうか。いるかもしれないが、その極少数の中に、ここの軍人達は含まれていなかった。そんな状態の中で意味もわからずそんなことを言われたら‥‥。
「助けて‥‥助けてくれぇえ!!!」
 助けをひたすら乞う者。
「いやだ、死にたくない‥‥嫌だぁぁあああ!!!!」
 逃げだしたくなる者。
「ひゃひゃひゃひゃひゃ‥‥!!」
 そして、壊れる者。
 戦場の通信から、絶叫が木霊した。


「貴様ぁ!! 冗談を言っている場合か!! 敵機、せん滅しろ!! 責任は私が持つ‥‥!!」
 中継基地司令官の大声に、身を引き締めるジュエル。甘かった。戦場を甘くみていた、現状を甘くみていた。
 だがそれはほかのパイロット達も同じだった。
 KV含めせん滅許可は下りている。だが8人の中の多くは、その覚悟を口にしながらも、実行に移せる者は少なかったのだ。
 そしてメンバーの中で、統一ができていなかったのが、彼らを後手、後手に導く大きな要因となった。


 HWは黒キメラの指揮の元、KVの一歩後ろに位置する形でKVとのツーマンセル連携に移行してしまっていた。
 そしてそれは能力者達機体だけに目標を落としたものではなく、その矛先は基地へも当然向けられていた。積極的ではなく、攻撃の合間に徐々に、徐々に基地への攻撃を加えていった。
「くっ‥‥」
 敵の連携、指揮への対処を完全に欠如していた分、後手に回らざるを得なかったアルヴァイムの口から思わず苦悶の呻きが漏れる。先ほどから戦場の劣勢区域、緊急連絡、損耗、士気等、あらゆる情報を花となつきとで情報整理し、分配配信するが、情報量の多さ、何より通信の混乱が阻み、後手になっていたのは仕方ないと言わざるを得ない。言うは易し、行うはがたし。だが後悔や反省をしている時間等、ない。
 アルヴァイムは黒キメラに攻撃の矛先を向け、エルガがすぐさま後ろにつき援護に入った。KVはなるべく避け、接近も避ける。遠ざけながら遠距離からの牽制で黒キメラに迫る。が、その弾が黒キメラに届くことはなかった。空中のKVへ張り付く機動力は生半可ではなかった。
 花も武器を切替狙撃に移る。的確にKV、HWへダメージを与えていったが、黒キメラには掠りもしなかった。
 倒せないかもしれない。だが目的はあくまで基地の防衛。可能な限り基地との防衛ラインを広くとるよう移動しながら、アルヴァイムと花は引き続き攻撃を続けた。


 百白とアークは連なって基地防衛へと身を投じていた。
「面倒は‥‥嫌いだ‥‥」
 百白はため息と悪態をつきながらも、全力で防衛に身を転じていた。迫りくるHWとKVを取捨選択しながら、回避行動重視で動き回る。アークもそんな彼の動きに合わせ、基地へ迫りくる凶弾、敵機に対し必死に応戦していた。KVに対してはなるべく致命傷を避け、行動不能を狙った。
「時間をかけたらこっちが不利‥」
 そう呟きながらアークは的確に攻撃を続けていった。
 その二人を援護するかのように、ジュエルは残りのミサイルをHWのみ絞って放つ。地上への流れ弾を警告するアルヴァイムのおかげで地上軍にダメージはない。いくつかのHWが地に落ちる。が、援軍も到着し残敵は多い。
「むぅ、バグアめ本腰入れてきてますね‥」


 攻撃の合間に上方、下方へと下降上昇を続けて、みづほ戦況の把握に努めていた。
 彼女の的確な情報伝達のおかげで、なんとか防衛を維持することに成功していたのは過言ではない。
 だが、敵の指揮能力を失念していたのはあまりにも誤算だった。能力も未知数、詳細も不明との報告はちゃんと受けていた。なのに対処することができなかったのがあまりにも予想外だった。
 下唇をほのかに噛みしめながら、彼女は放電装置で手近の寄生KVへ攻撃を試みた。狙いは寄生物体へのダメージ。
「動けますか? 出来れば機体を捨てて外へ!」
 だが当然それができるわけもなく。放電は寄生物体へのダメージに成功したのか、KVの動きに鈍さが生じ、その機体は地面へと向かった。
 そしてコクピットのパイロットにも絶叫が生まれた。
 寄生物体へのダメージは、直接触れているパイロットにも通じたのだ。
 だが我慢できるダメージ量だ。――通常ならば。
 極限の精神状態のパイロットにはそれは禁断の一撃だった。
 戦場に響く断末魔が爆炎によってひとつ、消えた。

「‥‥このまま、何もせずにただ仲間を撃ち続けるか。 それとも、私達に墜とされるか」
 なつきは自機のフェイルノートに深く傷を負いながらも、一体の機体の行動を不能にまで追い込むことに成功していた。
 だが返ってくる返答は壊れた笑い声だけ。
 戦域に木霊するほとんどのパイロットの声は、もう、『壊れていた』。
 撃墜するかしないか。
 その僅かな間が、戦場では命取りになる。
 彼女は敵機の背後にいたHWに気づけただろうか。気づいていても、もう遅かった。
 HWの攻撃は、行動不能のKVと共になつきの機体を屠った。
「なつき機、撃墜‥‥地上軍、パイロットの回収を頼む」
 アルヴァイムは淡々と通信に告げた。それを聞いたエルガも舌打ちを漏らす。
 壊滅的な防御のフェイルノートへのフォローを忘れていたのは、致命的だった。
 徐々にではあるが、確実に劣勢へと追い込まれている。が、それは敵も同じ。もはや決着は時間の問題だった。

「くっ‥‥アークさん、合わせるぞ‥‥」
 アークに合わせ、ドゥオーモを発射する百白。だが、彼のロングボウもまた、ひどく消耗しきっていた。
「‥‥すまないが、一時撤退する‥‥」
 損傷率のデッドラインを越えた百白、残弾で弾幕を張りつつ、撤退を余儀なくされた。
 その最後の攻撃を無駄にさせまいと、撤退を煙幕銃で援護しながら、アークのシュテルンはその名の通り、一等星の動きで、敵を屠った。

 各機、黒キメラへの攻撃を優先させつつ、HWやKVと応戦するも、戦況は芳しくなかった。HWは対応できていても、KVへは防戦一方になりがちになり、黒キメラへは遠距離攻撃は一切通用しなかった。だが接近すれば寄生される恐れがあった。この激戦を無傷でいられている機体は一つもなく、そして被弾箇所から寄生されることを危惧した彼らに接近するという選択肢は存在していなかったのだ。
「‥‥‥‥」
 そんな中、HWを撃墜しながらも黒キメラを見つめる一人のパイロットがいた。
 エルガ・グラハム、その人である。

●Hazard

 戦局も佳境にさしかかる。
 友軍の消耗も底を尽きかけ、士気もお世辞にも高いとは言えない。
 だが、敵の数は著しく減っており。
 勝機がないわけではなかった。少なくとも、諦める傭兵は誰一人としていなかった。
「掴むなら、今だな」
 エルガはこれ好機と見て、黒キメラへと急速ブーストを放った!
 この分は、ロックオンキャンセラーで使いきらなかったのだ、この為に。
 今まで接近する予兆すらもみせなかったせいか、黒キメラは予想外の行動に一瞬行動が出遅れた。だが、その一瞬が、命取りになる。超接近に成功したエルガは至近距離から全弾を黒キメラへと打ち込む。その黒い四肢が、わずかにブレる。効果は覿面。だがおかしなことに、反撃をする素振りをみせない。
「‥‥攻撃してこない‥? いや‥できない‥!?」
 観察を続けていた花はおもむろに叫んでいた。
 キメラは攻撃どころか、防御すらも疎かだった。考えてもみれば、HWと連携し攻撃をしかけ、傷ついたKVへ寄生し、後退しまた指揮をとる。この行動には理由があったのだ。攻撃できないから連携をした、接近されたくなかったから、指揮をとった。完全に盲点だった。
 見るみるうちに黒い何かが、ブレる。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!!!」
 今がラストチャンスと言わんばかりのエルガの猛攻。
 勝った。
 誰もがそう思った。
 だが、キメラの能力は、無くなった訳では決してなかった。
「させるかよ‥‥!」
「‥‥!!」
 ジュエルとアルヴァイムはブーストで合間に割って入ろうとした。
 だが、エルガの行動自体に度肝を抜かれていた彼らのその行動は、文字通り、後手に回るのが必然だった。
「ちっ‥‥」
 エルガは静止するよう合図をおくる。
 キメラの寄生が始まったのだ。
 そして報告とは違う、新たな寄生。
 みるみるうちに、黒キメラの黒がエルガのイビルアイズ全体に纏わりつく。
 そしてその黒の霧の下から姿を見せたのは、摩耗しきって原型をかろうじてとどめた『KV』だった。
 自身にどんどん纏わりつく黒。報告と来ていたのとちがって、徐々に彼女は感覚を失っていることに気付いた。
「エルガ!!!」
 仲間の叫びは彼女に届いていたのだろうか。
「ちっ‥‥無理か」
 はぁ、とため息をつきながら、周りの仲間を見据える。
 その間も、どんどんコクピットは黒で埋め尽くされていった。
「突っ走ったからなぁ‥‥まったく湿気た面してんなよおまえら‥‥世話の‥‥焼け‥る」
 そして徐々に途切れていった彼女の通信音は、もう聞こえることはなかった。
 最後のHWが地をつくと同時に、通信に聞きたくない知らせが、無残にも届けられた。
「‥‥エルガ機、生体反応‥‥‥ロスト」
 花は高ぶる感情を抑えながら、告げた。
 
 新たな体を手に入れた黒い何かは、辺り一帯をぐるりと見つめた後、高速で撤退していった。
 それを追う者は、誰もいなかった‥‥。


●R.I.P
「生き残ってしまったな‥‥」
 司令官は残骸に腰を下ろし、煙草を咥えたまま呟いた。
 傭兵達はみな、何も語ろうとしなかった。
 目の前の事実を受け入れることができなかったのだろうか、それは彼らのみぞしる。
「‥‥」
 司令官は無言で懐の拳銃を抜き出し、空に向けて数発放った。
 ターン!
 ターン!
 ターン!
 
 この土壇場を救ってくれた傭兵へのせめてもの感謝の現れか。その言葉を伝えたくても、その人はどこにもいなかった。
「‥‥」
 沈黙が辺り埋めた。

 基地は壊滅とまではいかずとも、機能はほぼ停止。
 防衛は失敗に終った。
 尊い犠牲を払って。

 救護室で横たわったなつきは、連れ添う花と共に静かに虚空を見つめる。心の内を語るは、頬を伝う、涙一筋のみ‥‥。
 基地の一角では、墓標を掘る作業が進んでいた。みづほも、アークも、男女問わず、黙々と作業を続ける。
 壁に何度も拳を打ち付けるジュエルの肩にそっと手を置き、離れ、百白は無言で墓標にドッグタグを掛けた。
 泥に塗れた両手を空に翳し、アルウ゛ァイムはじっとそれを見つめる。
 出てくる言葉は、なにも、なかった。




 戦死の報告を受けたオペレーターは、出発前に能力者から預かった遺書を手に握りしめ。
 ULT本部で傍目も憚らず、嗚咽を零した。