タイトル:阻止せよ!? 爆発マスター:クダモノネコ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/02 02:50

●オープニング本文


 2基のガスホルダーは、地球がバグアに襲来するずっと前から高知県のとある小さな町にあり、周辺住民の生活によりそい続けていた。
 直径20メートルはある巨大な球体はオフホワイトでペイントされ、さらに水色でスマイルマークが描かれている。畑に突如現れる二つの笑顔は、町のちょっとした名物として、認知されていた。
 誰も想像していなかった。
 その「笑顔」が、住民と町を壊滅の危機をもたらす脅威になろうとは。

***
 学期はじめの喧噪が、やや落ち着きつつあるカンパネラ学園。
 放課を知らせる鐘が鳴り響いてやや経った頃、教師と数名の生徒が本校舎の一角にある視聴覚室を訪れていた。
「はーい、みんな誓約書にサインしましたか? 任務中に怪我や死亡、再起不能になってもゴネませんってお約束します、っていう紙だけど、それなりに補償はでるから安心してねー」
 若い女教師の、作った明るさが遮光した視聴覚室に響く。
 極めてノリの悪い生徒達に肩をすくめながらも、誓約書を回収し、OHPプロジェクタを操作した。

「さて、今回は演習でも模擬戦闘でもなく、本物のバグア戦です。‥‥といっても田舎町に出た大型キメラを倒すだけだから、堅くなることはありません」
 白いスクリーンに、横並びで2枚の画像が映る。ひとつは巨大なスマイルマークが描かれた都市ガスの丸いホルダー。もうひとつは、恐竜‥‥いや、怪獣が2頭、映っていた。
「場所は高知県高知市某町。築20年以上の都市ガスホルダー付近で、怪獣型キメラが暴れているとの通報が、UPCに寄せられました。キメラの体高が20メートル前後と極めて大きいため、諸君にはKVの使用許可も出します」

 そこでひとりの少年が、おずおずと手を挙げた。
「はい笠原」
 教師は頷き、発言を促す。
「えっと、そういうのは、UPCの傭兵さんたちがやるんじゃないんですか‥‥?」
「今ね、極東ロシアや中国で傭兵の需要が急増していてね、田舎町のキメラ退治までやってられないんだって。カンパネラの若い力に、UPCの皆さんはたいそう期待しているそうよ。‥‥てかアンタの身体にもエミタ埋まってるんでしょう、シャキっとしなさいシャキっと!」
「は、はいッ」
 男子生徒が座ると、説明が再開された。

「このキメラは、2頭ともガスホルダーに惹きつけられるような行動を取ることが確認されています。スマイルマークに魅了されているのか、別の何かがあるのか、原因はわかっていませんが‥‥」
 スクリーンの画像が、夕陽を背景にしたガスホルダーのアップに切り替わった。よく見ると頭頂部に、黒い人影らしきものものが佇んでいる。何か咥えているようにも見えるが、映りが不鮮明で、はっきりとはわからない。
「強化人間かヨリシロが、絡んでいる可能性もあります。もっとも諸君は、そこまで首を突っ込まなくてもよろしい」

 画像はまた変わり、空撮した写真になった。丸いガスフォルダを中心に畑の土色が広がり、ぽつぽつと民家の屋根が散らばっている。
「では諸君の任務を具体的に説明しましょう。ガスフォルダに被害を一切出さないよう2頭のキメラを誘導し、退治する。周辺は畑のうえ、住民はほぼ避難しているので、さほど難易度は高くないでしょう。ただ注意すべき点が2つ」
 ガスフォルダのすぐそばに、小さな矢印が現れた。
「矢印の位置に保育所があり、職員、園児合わせて約50人が残されています。避難させるか園内で保護するかは諸君の判断に任せますが、人的被害は絶対に出してはなりません。まずこれがまず一点、そしてもう一つは」
 教師は言葉を切り、生徒達をぐるりと見回し、ゆっくりと口を開く。
「キメラのうち1頭は、口から時々炎を吐きます。何しろ超可燃物の傍なので、気にとめて置くように」

***
 緊張した面持ちで視聴覚室から引き上げる生徒を見送ったあと、女教師は職員室に戻り、外線電話をかけた。
受話器の向こうに居るUPC担当者に対し、
「‥‥高知のキメラ退治の件ですが、一応本校で人員は確保できそうです‥‥しかし子ども達の素質はともかく、経験不足な点はどうしても否めません。経験問わず、傭兵が居てくれれば心強いのですが」
 報告ついでに、ほんの少しの親心を覗かせるのであった。

●参加者一覧

西村・千佳(ga4714
22歳・♀・HA
L45・ヴィネ(ga7285
17歳・♀・ER
小野塚・美鈴(ga9125
12歳・♀・DG
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
プリセラ・ヴァステル(gb3835
12歳・♀・HD
小笠原 恋(gb4844
23歳・♀・EP
山下・美千子(gb7775
15歳・♀・AA
五十嵐 八九十(gb7911
26歳・♂・PN

●リプレイ本文

 11月某日。
 晴れ渡る秋空を、6機のKVが巡航していた。

「ガスホルダーに引き寄せられる怪獣‥‥一体どんな習性を組み込まれているのだ? まぁ、いずれにせよ退治するのだが」
 銀色に輝くウーフーのコクピットで、L45・ヴィネ(ga7285)が疑問を口にした。
「長引かせたっていいこと何にもないんだから、ちびっ子たちがいい子にしてられるうちに終わらせちゃおっか」
 無線越しに同意したのは山下・美千子(gb7775)。陸では四足の獣と為る機械獣、阿修羅の操縦桿が握られている。
 
 それぞれの機体に搭載されたナビゲータが、目的地上空であることを示すパネルを点す。
 各機はゆっくりと、着陸態勢に入った。
 薄青一色だった6人の視界に、土の色と木々の緑が割りこんでくる。
 さらにまばらな民家、直径20mはありそうな、巨大なガスホルダーもが。そして

「おっきい‥‥。こんな敵に襲われては、こんな小さな町ひとたまりもありません‥‥!」
 小笠原 恋(gb4844)が、アヌビスのコクピットで息を呑んだ。
 彼女が、否、全員が見たものはとてつもなく大きな、2体のキメラ。鮮やかな赤と緑で色づけされている。

「では、作戦を確認しましょう。保育園付近に配置済みの小野塚・美鈴(ga9125)さん、プリセラ・ヴァステル(gb3835)さん、陸路移動中の白虎(ga9191)くんも聞こえますか?」
「聞こえるのだー」
「うにゅっ♪」
「ビーストソウル、全力疾走中!」
 編隊にいない3人の仲間の声が、若干遅れてそれぞれ届く。
「赤キメラ班は僕(西村・千佳(ga4714))と五十嵐 八九十(gb7911)さん、白虎くんにゃ。時間稼ぎはお任せにゃ♪」
「緑班は美千子、恋、私だ。終了次第赤キメラ隊に合流する」
「あたしとプリセラちゃんは、保育園の子ども達を護るのだ!」
 勝利を予感させる、抜群のチームワーク。と、思いきや。

「ああ、時間を稼ぐのはいいが‥‥別に、倒してしまっても構わんのだろう?」
 陸を駆けるビーストソウルのパイロットが、おどけた口調でまぜっかえした。
 しかし冗談は、少々間が悪かったようだ。
「‥‥僕たちはもう上空にゃ。遅刻しないように来るにゃ♪」
「って、待ってー!!」
 ぷつんと音を立てて切られてしまう、白虎からの通信。若干不憫な気が、しないでもない。

 
「あ、そうだ」
 小さな連絡事項を思い出した八九十は、再び無線のスイッチを入れた。
 隊列にくっついている翔幻の乗り手、笠原 陸人(gz0290)を呼ぶ。
「笠原君、お願いしていた不審人物撮影の件ですが」
「あっ八九十さんっ、任せてっ! スクープ写真撮ってきますからっ!」
「‥‥いや、くれぐれも無茶をしないように。いいですね」
 よかった、釘を刺しておいて。傭兵は口の中で呟き、操縦桿を握りなおした。


**
 ガスホルダーに背を向け、離れること僅か数10メートル。
 収穫が終わった畑の中にディスタンは佇んでいた。操縦桿を握るのは美鈴である。
「みんな、来たのだ」
 青い目には、降りてくるKV達が映っている。責任の重さ故か、表情は硬い。
「気を緩めず、状況を常に監視しなきゃ、人の命にかかわることだから‥‥」
 
 友人の想いを感じ取ったのか。
 ディスタンの足下で、小柄なドラグーン、プリセラも決意を新たにする。
 身を包むAU−KVは新しき相棒、バハムート。
「うにゅっ! こっちは、あたし達が頑張るの〜!」
 ずんぐりした筐体の両肩には、可愛らしいウサギの絵がペイントされている。
 一見戦場には不釣合いであったが、それは彼女の本気を示すものだ。
 何故なら。
 二人の少女が担う使命は、目の前にそびえる「超可燃物」と、足下の保育園を護ること。
 たくさんの命が、背後に立つ可愛らしい建物の中で、無邪気に息づいているのだから。
「皆が機体で頑張ってるの〜!! あたしも負けずに、確りと子供達を護るの〜!」


**
 実のところ脅威は、暴れ回る怪獣だけではなく、美鈴とプリセラのすぐ背後、ガスホルダーの足下にも居た。
 それは古い型の学生服に身を包んだ子どもだった。
 故に誰の目にも、高性能なディスタンのセンサーにも脅威とは映らなかったし、カンパネラの学生が不審に思うこともなかった。

 子どもは、小さな笛を吹いていた。人には聞こえないが、キメラには届く音を出す笛を。
 丸みの残る頬が小さく膨らみ、喉が上下する度に、畑で暴れる2匹の怪獣はそれぞれ雄叫び、尻尾を振りまわす。
「ん、ロッソにはあまり効かないな。ハーモニウムに帰ったら、調整しなきゃ‥‥ん?」
 
 子どもは首を傾げながら笛をいったん放し、空を見上げた。黒い眼に映るのは、アンジェリカとアヌビスの影。
「ちぇ、UPCがもう来ちゃった」
 舌打ちすると、ガスフォルダの隙間に身を躍らせる。大人は入れない空間に潜み、再び笛を咥えた。


**
 赤い怪獣を視認した八九十は、減速巡航しながら、愛機のフレキシブルモーションを発動した。
 戦闘機が瞬く間に人型に変わり、「標的」めがけて降下する。
 ‥‥否、僅かに離れて、ガスホルダーから引き剥がすように。
「さ、上手い具合にこっちに来て下さいよ? でないと困りますんでね!」
 飄々とした物言いだが、戦いのスイッチは既に入っていた。左目の下と手の甲に浮く、青い幾何学模様がその証だ。
 「行くぞ、エクイリブリオ!」
 群青色の筐体に黄色のラインを施したアヌビスは、キメラの鼻先を掠め、30メートル先に降り立った。
 柔らかい土が沈み込み、轟音とともに土煙が上がる。
「グオォォッ!」
 キメラなりに、不愉快だったらしい。
 赤い怪獣は唸りを上げると、八九十に牙を剥き、追った。

 八九十が赤キメラを「釣った」ことを確かめた千佳は、アンジェリカを操り地面に降り立った。
 着地してすぐに、SESエンハンサーを発動。「帯電粒子加速砲」が、さらなる力を纏う。
「降下完了♪ マジカル♪ シスターズの一人、マジカル♪ チカ参上にゃ♪」
 なかなかご機嫌で鼻歌を歌う、にゃんこ魔法少女。だが眼だけは、戦士のものだ。
 狙う、タイミング。‥‥アヌビスがラージフレア・鬼火を発動したのが見えた。
 来た、好機!
 
「悪い怪獣さんにはお仕置きにゃ! マジカル♪ シュート!」
 ドロームの大火力兵器が、巨体めがけて加速粒子を射出!
 背中を取られた赤キメラは、アヌビスの横をすっ飛んで、土の上に横倒しになった。
 怒りにまかせて振り回される尻尾を、八九十がかわす。

「お前の罪深き命、この天秤が裁く!」
 アヌビスの携える双機刀、臥竜鳳雛がキメラの鋭い爪と交錯。耳障りな音が、弾ける。
「レッツラゴーにゃー!」
 アンジェリカのプレスティシモも、SESエンハンサーで淡く輝く。

 赤いキメラは斃れていない。終わるには、少し早い。


**
 視界の先で上がる土煙と知覚兵器のスパークに、美鈴は唇を噛んだ。
 あれは赤キメラと、千佳と八九十だ。彼らの力を信じてはいたが、加勢したくないかといえば、それも嘘になる。
 だが、我慢した。
「保育園、ガスホルダーには近づけさせません!」
 臨戦状態を保ったまま、ディスタンは動かない。
 機盾アイギスを構え、背中に負ったガスホルダーと、保育園の前に凛と立つ。
 金色に変わった眼で、戦況を見据えながら。
 それこそが美鈴の、戦いだった。

 一方、美鈴が護る保育園の一室。
「ないとふぉーげるってかっこいいなぁ〜」
 畑に面した大きな窓に、子ども達が張りついていた。
「こらー、みんなお席につきなさーい」
 たしなめながら、ガラス越しのKVを軽く睨む保育士。と、そこへ。
「うにゅ♪ こんにちは、なの!」
 頭部以外をAU−KV・バハムートに包んだプリセラが入ってきた。
 「怪獣さんは、あたしのお友達がやっつけるからね〜。 静かに待ってようねー?」
 最新の兵器と華奢な美少女はなかなかのミスマッチだったが
「うわぁ〜♪ おねえちゃんかっこいいーっ!!」
「良い子にしてたら、後で遊んであげるねー?」
 子どものハートをキャッチするには、十分だったようだ。
 勿論プリセラは、遊びに来たわけではない。密かに携えるは超機械「ブラックホール」。そして、揺ぎ無い決意。
(うにゅ! 此処は意地でも護ってみせるの〜)


**
 赤キメラと離れること直線で約100メートル。
 仲間の危機に眼もくれず、緑キメラはガスホルダーへ進軍を続けていた。悠然と「何か」に引き寄せられるように。

「ここから先には絶対に進ませません!」
 進路を遮ったのは、恋のアヌビスだった。フレキシブルモーション、次いでブーストを発動。
 瞬く間に間合いを詰め、緑の巨体に接近する。すかさず放たれたラージフレア・鬼灯が、周囲の重力派を乱した。
「ギ‥‥?」
「この変幻自在な攻撃が、アヌビスの真の力です!」

 緑キメラが怯んだ隙を、三千子が見逃すはずもない。
「怪獣キメラって言うからもっと凄いのを期待してたのに。これじゃパチモンにもなってないよ!」
 細い尻尾をしなやかにくねらせ、肉食獣、阿修羅が疾駆。
 巨体が、跳んだ。自慢の角で腹部を突き刺す算段かに、見えた。

 恋と三千子の初撃が決まる僅か手前で、ヴィネのウーフーが強化型ジャミング中和装置を起動させていた。
 KVに絡みつく、バグアの妨害電波が溶けるように消えてゆく。

 更なる攻撃力と命中力を得た三千子が、阿修羅のコクピットで吼えた。
「硬さが自慢のキメラでも悶絶するこの攻撃、受けてみろー!」
 角で腹を狙うのは、彼女の真意ではなかった。‥‥全体重と跳躍で得た勢いを乗せた前足で、緑キメラの足を思い切り踏みつけたのだ。
 めぎりと嫌な音が、阿修羅の足裏で鈍く響く。
「ヒギァアア!」
 緑の巨獣が咆哮した。背を反らし、怒りの炎を噴きながら。

「隙ありだ‥‥」
 ヴィネは、次の手を繰り出す。電子戦を得意とするウーフーの得物は、メルス・メスが開発した非物理兵器だ。
「スパークワイヤーを受けろ!」
 右腕に装備されたワイヤー兵器が放たれた。しかし初撃は尻尾で激しく振り払われ、不首尾に終わる。
 2度目の射出で、巨体をかろうじて拘束。電流が音を立てて弾け、白い火花が散った。
「くっ!」
 しかし力比べでは、ウーフーの分はやや悪い。

「我は白虎 悪を断つ剣なりぃー♪」
 計ったようなタイミングで、陸路を駆けて来たビーストソウルが参戦した。
「邪断刀一文字斬りぃー☆」
 赤褐色の刀「邪断刀」が、ワイヤーのかかっていない部位を斬る!
「白虎!」
「よく考えりゃ、向こうは2機のが適切かなっと!」
 遅れてきたヒーロー(?)がさらに振るうは、バーニングナックル。
 白とグレイの迷彩機体にキメラの体液を受けながらも、攻撃の手が緩むことはない。

「グ‥‥グォォ‥」
 身の危険を感じたのか、緑キメラは、スパークワイヤーを引きちぎらんばかりに吼え狂った。
 暴れる巨躯にしがみついたのは、恋のアヌビス。携えたウインドナイフが、足を地面に縫い付ける。
「いい加減に倒れなさいっ!」
 足を痛めているキメラに、もはや逃げる術など無い。
 観念を促すように、ガスホルダーに背を向けたウーフーが、レーザー砲を叩き込んだ。

 イケる。そう確信したのか。
 ビーストソウルが強装アクチュエータ、サーベイジを発動。強化した拳を携え、正面に回りこむ。
「僕の拳が真っ赤に吼えるぅー 爆熱バーニングナックルー!」
 ホワイトタイガーの耳と尻尾を発現させた白虎が、コクピットで文字通り「吼えた」。
 緑キメラの急所に叩き込まれる、炎に彩られた巨大な拳。

「次!」
 緑キメラの絶命を確かめるが早いか、4機のKVは地を蹴った。


**
 緑班が赤班のもとに駆けつけた時、赤キメラは瀕死の状態だった。
「緑は倒し終わったようにゃね。それじゃあ‥‥後は一気に赤も倒しちゃうのにゃ♪ レッドは僕だけでいいのにゃー!」
 アンジェリカもアヌビスも無傷ではなかったが、彼らに分があるのは明らかだ。
 誰が止めをさすか? 一瞬駆け引きめいた沈黙が下りる。

 飛び出たのは、阿修羅だった。
 跳躍した4足獣の尻尾が、赤い合成獣の皮膚を抉り、電磁パルスで生体を内部から壊す。
 さらに雄叫びを上げる顔めがけて、ブーストしたビーストソウルが走った。
 牙をものともせず、口の中に手を突っ込む。
 繰り出されるは掌に装備された超近距離用レーザー砲、虎咆。
「僕のこの手が光って唸るぅー!」
 白虎の声とともに、キメラの口からレーザーの残滓と断末魔の絶叫が溢れた。
 

**
 保育園の園児にとって、その日は最高の一日となった。
 怖い怪獣をやっつけてくれた「ないとふぉーげる」と、「ぱいろっと」が、園庭に来てくれたのだから。


 愛機のコクピットに男児を3人乗せた八九十は、本日7回目の低空上昇を行っていた。
 子どもに負荷をかけない操縦は、戦闘とは別の意味で気を使う。それでも。
「ほら、これが君たちの住んでる街、小さいけれど君達が大きくなったら、君達が守るんですよ。」
 眼を輝かせて眼下の風景に見入る様子は、彼の疲れを癒すに十分だった。

 活発な女児の人気を集めたのは、恋とアヌビス、美鈴とディスタン。
 それに愛らしい容姿ゆえか、白虎とビーストソウル。
「いい子にしていた御褒美です。でもちょっとだけですよ」
「あたしの相棒、ディスタンなのだ! さわっても大丈夫だよ」
 こわごわと機体に伸ばされる、小さな手と無垢な瞳。それらを護れたことに、三人はほっと安堵するのだった。


 一方、園舎の中では大人しい子ども達が、千佳とプリセラを囲んでいた。
 戦闘中、ずっと園内に居たプリセラはすっかり打ち解けており、両膝に一人ずつ園児を座らせている。
「うにゅ♪ 良い子良い子よ〜♪」
 得意の歌と踊りで、子ども達と一気に仲良くなったのは千佳。
「皆いい子にしてたかにゃ? 魔法少女、マジカル♪ チカが登場にゃよ〜♪」


 そしてヴィネは、部屋の隅でもじもじとする、一人の子どもと向かい合っていた。
「町を脅かすキメラは倒した。もう大丈夫だ」
 子どもは俯いたまま、答えない。
 若き能力者はやや落ち込んだ。予想はしていたが、格好いいと思われたわけではないらしい。
「怖がらせてしまったか。すまん」
 踵を返したとたん、小さな手がブレザーの裾を掴む。見上げる子どもの頬は、真っ赤に染まっていた。
「お、おねえちゃんっ」

 だいすき、ありがとう。小さな声を、ヴィネは確かに聞いた。


**
 一番星が瞬く頃、ガスホルダーの隙間に隠れていた子どもが、這い出してきた。
 ポケットで着信を告げる重力派通信端末に気がつき、慌てて回線を繋ぐ。
「あ、Ag。これから帰るよ。もう最悪。ロッソとバジル、壊されちゃった。うん、それでさ‥‥」


その夜、古い小型ヘルメットワームの飛行が、高知市の空で目撃された。
子どもとの因果関係は、明らかではない。