タイトル:【CC】学生生活。マスター:クダモノネコ

シナリオ形態: ショート
難易度: 不明
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/11/20 14:14

●オープニング本文


 ある日の放課後、生徒会事務部雑用係の笠原 陸人(gz0290)は、文化祭実行委員の顧問教諭に呼び出され、職員室に赴いていた。
 学園祭強化期間中ということもあってか、室内の人はまばらだ。
「あら、来たわね雑用係」
「何ですか先生、大事な用って」
 荒れ果てた机で頭を抱える顧問教諭は、陸人に顎で空いている席を示した。
「今日はね、折り入って雑用係に頼みがあるの。我が校の未来が懸かった、ダイジなコト」

 給湯室で陸人が入れたインスタントコーヒーを一口含んだあと、顧問は言った。
 能力者の学び舎、カンパネラ学園。UPC直轄の軍学校。
 若き能力者を育てるこの学園について、世間=大多数である非能力者‥‥に関心と正しい認識を持ってもらうことは大切なのだと。
 
「なんていうかね、名前は知ってるんだけど、それだけっていうか。自分らには関係ない場所って扱いなのよ、世間サマには」
「あー、そうかもしれませんね。僕も適性出るまでは、そんな感じでしたから」
 クリームパウダーと砂糖を山盛り入れたコーヒーをふーふー吹いて冷ましながら、雑用係もこくんと同意する。
 
「いい笠原。無関心ってのは、一番怖いの。戦争自体が、ヒトゴトになってしまう。バグアは能力者に任せておけばいい、私達は関係ないって。そのうち戦争はヨソでやれって、言い出すことになりかねないわ」
「あ、うちの兄も似たようなこと言ってます。『地球を守るのは他の誰かがやればいい、リクは今からでも普通の高校に行け』って。バカでしょ、僕がエミタ手術を受けた気持ちを、ちっともわかってないんだ」
 顧問は目をすうっと細めた。あら、わかりやすい温度差が、こんなところにもあるじゃないの。

「‥‥ねえ、笠原のお兄様の目には、カンパネラはどう映ってると思う?」
「どうって‥‥」
 一般人と暮らす陸人の目が一瞬宙を泳いだ。しばし考えた後、言いにくそうに口を開く。
「怖い、危ない、勉強しない、いつか殺される。‥‥だいたいこのあたり、かなぁ‥‥」
「生徒の保護者でさえ、この認識ですものね。まったくイヤになるわ」

 顧問はため息すがら、マグカップを机に置いた。
「カンパネラは別に、学徒出陣する特攻隊を育てる学校ではないし、まして子どもを生体兵器扱いしているわけでもない。たまたまエミタ適性を持った子どもたちが、普通の学び舎で、普通の暮らしをしている。このシンプルな事実を、広く世間に知らせる必要があるの」
「うーんでも、うちの兄に何度言っても、なかなか納得しないんですよ」
「そこで笠原、季節は文化祭よ。カンパネラ・カーニバルよ? 世間サマも大勢いらっしゃる。これはチャンスだと思わない? つまり」
「つ、つまり?」
「百聞は一見にしかず。 文化祭合わせで、学園生活紹介ムービーを制作し、上映するってわけ♪」

 今から作り始めて、今年の文化祭に間に合うのかなぁ。一抹の不安が陸人の頭をよぎる。
 しかし、手伝いを断る権利はないことも、直感で理解していた。
 
「んー、ぼく女優さんとかアイドルさんの知り合いは‥‥いやいないことはないけど、みんな高嶺の花だし‥‥」
「何赤くなってんの、映画を作るんじゃないの。私たちが目指すのは『ドキュメンタリー』、『ノンフィクション』よ。本物の学生の、等身大の生活。甘酸っぱいキャンパスライフ」
「どきゅめんたりー? のんふぃくしょん?」
「‥‥とりあえず、学生達の生活を、そのまま記録した素材が欲しいの。いい素材があれば、あとは編集でどうにかなる。ほら、カメラもイイものを用意したわ。持っていきなさい」

 顧問は机の引き出しから、掌におさまるサイズのビデオカメラを取り出した。防水機能付の、最新機種である。
「わ、これCMでやってるやつじゃないですか! でもどうして僕に?」
「決まってるでしょ? 期待してるわよ、スカウト&カメラマンさん。お兄様を納得させるようなムービーを作りましょうね♪」
「スカウト? カメラマン?」

 陸人はしばし考え、自分に期待されている役割を悟った。

「ようするに僕は、『被写体』を集めてこればいいんですね」
「その通り。最低4人、10人もいれば十分。頑張りなさい」


 **
 事務部室に戻った陸人は、大きな紙とサインペンを取り出し、ポスターを描き始めた。
 しょっちゅう作っているからか、手際はよくもないが、悪くもない。
 そうこうしているうちにたちまち、出演者募集のポスターが出来上がった。
 

■■■■■■■■■■

 ドキュメンタリームービー 
「学生生活。」クランクイン?
 協力してくださる学生さんを募集します

 <募集内容>
 学生寮及び学園での生活風景をビデオ撮影させていただける在学生(聴講生も歓迎)
 小型カメラと一緒に生活していただくだけの、簡単なお仕事です。

 撮影した映像は編集して、文化祭で上映を予定しています。
 一応、今年の文化祭での上映を目指していますが、来年の公開になるかもしれません。
 ちょっぴりだけどお礼が出るそうです。(先生談)

 ご応募、お問い合わせは生徒会事務部雑用係 笠原 陸人まで。

■■■■■■■■■■


「さて1枚は学校に張り出して‥‥もう1枚は兵舎の廊下にでも、張らせてもらおうかな」

●参加者一覧

西村・千佳(ga4714
22歳・♀・HA
小野塚・美鈴(ga9125
12歳・♀・DG
白虎(ga9191
10歳・♂・BM
鬼道・麗那(gb1939
16歳・♀・HD
嵐 一人(gb1968
18歳・♂・HD
シルバーラッシュ(gb1998
20歳・♂・HD
ジェームス・ハーグマン(gb2077
18歳・♂・HD
九条・護(gb2093
15歳・♀・HD
鯨井レム(gb2666
19歳・♀・HD
プリセラ・ヴァステル(gb3835
12歳・♀・HD

●リプレイ本文

 カンパネラ学園本校舎、視聴覚室。
 文化祭実行委員の顧問教諭は、生徒会事務部雑用係が、試写の準備をするのを眺めていた。

「で、イイ絵は撮れたんでしょうね」
「僕の撮影技術はともかく、『素材』は文句なしですっ」
「それは結構。順番に見ていきましょうか」




・・・・
 ■西村・千佳(ga4714)の学生生活。■
 
 朝の陽射しが窓から差し込む、聴講生用ゲストルームの一室。
「んにゃー!」
 肉球柄のパジャマに身を包んだ千佳は、大きく伸びをし、ベッドから抜け出した。
 戦闘の夢でも見たのだろうか、頭の上には猫耳、お尻には尻尾が現れている。漆黒のそれらを揺らしながら、向かうはバスルームだ。
「目覚ましのシャワーにゃー」
 ガラス扉の前で、襟元のボタンを外したあと、不意にカメラに向き直るにゃんこ。
「にゃ、お着替えシーンは見せないにゃ♪」

(シャワーの音だけがしばし続く‥‥)

 30分後。
「にゅふ、今日はどんなお兄ちゃんやお姉ちゃんが見れるかにゃー?」
 カンパネラ学園の制服とシャンプーの香りに身を包んだ傭兵は、部屋の扉を開ける。
 スカートの下に仕込んだレースと胸元のリボンが、ふわりと揺れた。

 **
 午前の授業は、戦術論の講義が組まれていた。
 現役の傭兵には易しい内容だったが、千佳は板書を、きちんとノートに写してゆく。
「学生だし授業も大事だにゃ♪」
 それは模範的な授業態度といえた。少なくとも傍でカメラを回しつつ、消しゴムカス団子を作る陸人よりは、遙かに。
「陸人君、ちゃんと聞いてないと撃墜されるにゃよ?」
 小声で囁くのを見咎めたのか、講師が檀上から視線を寄越す。
 当てられるにゃ! 一瞬、緊張。尻尾、膨張。だが
「ではこの戦況下での作戦で最適なものは何だ?」
「はい」
 すぐ後ろに座っていた青い髪の少年が、完璧に答えた。

「あ、でもこのお兄さん綺麗かも♪」
 優等生の立ち姿に、一瞬目を奪われる千佳であった。

 **
 鐘の音が昼休みの始まりを告げた教室。
「陸人くん、そろそろお昼にしようなのにゃ♪」
 千佳は鞄からメカメロンパンを取り出そうとしている陸人に、声をかけていた。
「学食はAU−KV定食がオススメですよ。僕はお金ないからこれ‥‥」
「お姉さんがおごってあげるにゃ〜♪」
 言葉と共に、鞄に戻されるメカメロンパン。
「ちょ、待‥‥!」
 無論、千佳は待たない。
「傭兵は迅速が基本にゃ♪」
 引っ張って立たせ、強引に腕を組むと
「さ、ささやかな胸が当たりますッ」
 頭の上で喚く声は無視し、学食に駆けた。
(にゅ? ささやかは失礼なのにゃ!)

 **
 午後の授業を経て、放課後。
 部屋に戻ってオーバーオールに着替えた千佳は、お菓子と楽器を抱えて、仲良しの在校生の部屋を訪れていた。
「プリセラちゃん遊びに来たにゃ〜♪ あ、美鈴ちゃんも一緒にゃ★」

 兵舎のコト。洋服のコト。KVのコト。戦場のコト。お喋りは、尽きることなく続く。
「それじゃあ本番の練習も兼ねてちょっと歌うのにゃ♪」
 魔法少女アイドルが奏でたのは、女の子たちの日常を描いた可愛い歌だった。




■小野塚・美鈴(ga9125)の学生生活。■

「小野塚・美鈴なのだ〜。撮影頑張るのだ〜 ドキドキするのだ」
 
 **
 聴講生、美鈴に割り当てられた一時間目の授業は、体育だった。
 貸し出された体操服を着て、グラウンドに出ると
「今日は非覚醒で100m走と棒高飛びだって! お互い頑張ろ!」
 小玉スイカのような胸を持つ少女が、声をかけてくれた。
 好意は嬉しいが、告げられた授業内容は、嬉しくない。
「あぅはぅ‥‥100m走は苦手なのだ‥‥」
「大丈夫大丈夫〜」
 手を振って去ってゆく少女の後ろ姿を、ちょっぴり後ろ向きな気持ちで眺める。
(‥‥また同級生に慰められちゃうのは、嫌だな‥‥)

「次、聴講生の計測です、小野寺さん、清水さん、湯澤さん‥‥では、スタート!」
「こ、こうなったら、がんばるのだ!」

 数十秒後。
 ゴール地点で、美鈴はがっくりうなだれていた。
「20秒‥‥またビリ‥‥」
 
 **
 昼休み。
 美鈴はメカメロンパンを食べながら、午後の聴講内容を確認していた。
 手帳に記された予定は、授業ではなく、部活動が2つ。楽しみにしていたカリキュラムに、自然、笑みが零れる。
「えっと‥‥手芸部が1時からで、お菓子作り部が2時‥‥」
 顔を上げ、教室の壁にかかった時計を見上げた。長針は11、短針は1にほど近い。
「いけない、時間がないのだ」

 **
「と、いうわけで、危うく遅刻するところだったのだ」
 ところ変わって学園女子寮。
 在校生である友人、プリセラの部屋を訪れた美鈴は、お菓子作り部で作ったチョコレートケーキを広げていた。同じく遊びに来ていた聴講生の千佳が、できばえに目を丸くする。
「すごいにゃ〜」
「材料は先生が揃えてくれて、チーズ、チョコレート、ショートの3種類から好きなものを作れたのだ。泡立てもちゃんと頑張ったから、美味しいと思うけど‥‥」
 友人たちを覗きこみつつ、自分も一口。チョコとナッツのクリームが、舌の上で甘く蕩ける。
「美味しいの〜。うにゅ、そのイルカさんは?」
 ケーキを食べ終えたプリセラが、手芸部で作ったイルカの抱き枕を指差す。
「ん、手芸部の活動はぬいぐるみ作りだったのだ。私はイルカさんの抱き枕作ろうと思って前からいろいろと準備してたのだ〜」
 お腹には発砲ビーズ、表面はパイル。安眠間違い無しの自信作に、大きめの胸を張り
「美鈴ちゃん、それって」
「ぬいぐるみじゃないにゃ?」
「細かいことは気にしちゃダメなのだ〜」
 友人たちのツッコミは、2切れ目のケーキで封じる。

 そしてこのケーキを食した幸せ者は、もう一人いて‥‥。

 **
 夕方の文化部室棟付近。
「あ、笠原さん、撮影御苦労さま〜。いいところで会ったのだ、お裾分けなのだ」
「え、ありがとう!」
 嬉しそうに紙袋を覗く陸人に、美鈴はにっこり笑った。




■白虎(ga9191)の学生生活。■

 暗幕を張った演劇部部室に、しつらえた客席は満席だった。
 カオスと評判の人形劇の幕が、今まさに、開いたのだ。
 舞台には、いずれも2匹ペアになった動物のぬいぐるみ。
 ナレーションが、そこに被さってゆく‥‥。

「『【しっと団】‥‥それはカップル撲滅を掲げてカンパネラ学園にバカ騒ぎを起こすモテない傭兵達によるテロ組織!』」
「『この嫉妬爆弾で学園もろとも木っ端微塵じゃー!』」

 落雷音とともに、ライトが明滅。嫉妬爆弾の炸裂に、客席が笑み、どよめく。

「『【しっと団】は、勉学や任務そっちのけで恋愛に走る学生達を粛清するッ!』」

 だしぬけに音楽が切り替わった。大音響で響く、緊張感漂う戦闘曲と、悲鳴の効果音。
 舞台上方から、KVのぬいぐるみ達が降下して来た!
 仲むつまじい動物達を引き裂き、暴虐の限りを尽くす「あぬびす」や「ろんぐぼう」のぬいぐるみ。

(いいの? KVがしっ闘士役って?)
(いいの!)

 カメラマン兼雑用係と監督兼ナレーターの小声のやりとりを経て、劇は進む。
 動物達がいなくなった舞台に、雪だるまとリスの「カップル」が現れた。
 そこへKV同様、巨大ハリセンを携えた「こねこのぬいぐるみ」がスルスルと下りてくる!

「『我らの笠原君も、闇の生徒会長といい雰囲気っぽいと(?)目をつけられ大ピンチ‥‥』」
(ちょ、ちょっと待って!)
(本番中だからダメにゃ)

 舞台裏で、監督兼主演兼ナレーションの白虎が、カメラ兼雑用係の陸人を軽くハリセンで叩く。一見少女にしか見えない愛らしいショタだが、彼こそがしっと団を率いる総帥だ。

(次、マジカル☆キリーとの戦闘シーンにゃ!)
(お、おっけー)

「『その時、奇跡が起きた! 愛と正義のマジカル☆キリーの登場だ!』」
 白虎監督自ら、舞台にハリセンを持ったうさぎを追加し、代わりに雪だるまとリスを下ろす。
「『天使の外見と魔王の性格を併せ持つ美少女は、巨大ピコハンでしっと団を止められるのか!?』」
「『カップルの平和をかけて、死闘の火蓋が斬って落とされるッ!』」

 朗々と響く白虎のナレーションに、沸き立つ客席。
 盛り上がりを逃すまいと、舞台では迫力の戦闘が始まった!
 ワイヤーとライトの魔法で、うさぎが舞い、ねこが跳ぶ。
 ピコハン、ピコハン、ハリセン、ピコハン、ピコハン。
 戦況は圧倒的に、うさぎのぬいぐるみ(キリー)有利。舞台端に追い詰められるねこのぬいぐるみ(しっと団総帥)。
 そしてついに、くたりと倒れた。

「『苛烈を極めた戦いを制したのは、マジカル☆キリー! 学園に平和が戻った‥‥!』」

 万雷の拍手にナレーションが被さり、幕が下りる。
 めでたし、めでたし?

 **
 閉幕後の楽屋裏。
「しっと団、負けちゃったけどいいの?」
「例え劇でもキリーお姉ちゃんを倒すなんて、僕にはできないにゃ」
 どこか遠くを見つめる白虎。その瞳に宿るのは恋心、かもしれない。




■鬼道・麗那(gb1939)の学生生活。■
 時は放課後。ざっと掃除された「闇の生徒会」部室。

「『闇生』は得体の知れない部活だと思われている向きがあるでしょ。まずその誤解をとかなきゃ。美味しいものの試食会をして、その様子を学園紹介ムービーに収めてもらえば、知名度も好感度も急上昇♪」

 会長の座に就く麗那は、カメラに向けてにっこり微笑んだ。窓から入る午後の陽射しが、黒髪の表面で輝いている。しかし身を包んでいるのは学園制服ではなく‥‥。
「た、確かに‥‥で、でもどうしてメイド服なんですか?しかもピンク」
「私って、形から入る方なのよね♪ どお、似合うかしら?」
 カメラを構えていた陸人が、照れくさそうに横を向いて答えた。
「似合い、ますよ」
 笑顔を向けられているのは己でなく、カメラだとわかっていても面映い、らしい。
 女の子が気になるお年頃。まして学業の傍ら芸能界でも活躍中の女優ときたら、尚更だ。
「そう、よかった♪ じゃ、闇生☆お料理講座&試食会、スタート!」

 **
「今日はカレーお好み焼きをつくります〜。材料は卵、豚肉、エビ、キャベツ、山芋、揚げ玉、ネギ、小麦粉、出汁‥‥ここまでは普通のお好み焼きと一緒ですね」
 テーブルの上に所狭しと並べられた材料を、麗那が細かく刻み、ボールで混ぜてゆく。白く華奢な手は、なかなかどうして手際がよい。
「ここで、カレーを準備します♪ レトルトでもいいけれど、今日は一晩寝かせたものを持ってきました」
カメラが密閉容器に詰められたカレーを映す。そのまま横に移動し、温まったホットプレートに焦点を固定。
「生地にカレーを混ぜるのではなく、包むイメージで作ります。では焼いていきましょう〜」
 説明とともに、材料たちがプレートに流し込まれた。じゅー、という音とともに立ち上る、香ばしい匂い。
「へー‥‥カレーのいい香り」
「でしょ♪」
 焼け具合を確かめ、見事なコテさばきでお好み焼きをひっくり返す闇生会長。
「大阪直送の特濃ソースを塗って、マヨネーズかけて、薬味をふったら、ハイ完成!」
「ジャジャーン! これが麗那の新作『カレーお好み焼き』だよ」

 完成品を皿に盛った美少女が、カメラ目線で笑顔を向けた。
「これで貴方のハートをロックオーン!」
(ちょ‥‥萌)
 カメラマンがロックオン寸前なのは、どうしたもんだろうか。

 **
 焼き上がりから間もなく。
「わー、美味しそう! お腹すいてたんだ!」
「カレーお好み焼き、ねえ。見た目はクールじゃないが……味は、かなりクールだな」
 部室棟に漂う香りに惹かれたのか、大勢の生徒が試食に訪れていた。

「評判よくて、よかったですね。じゃ、最後ワンカット撮りまーす」
 口の中のお好み焼きを飲み込んだ陸人が、再びカメラを構える。
「麗那は‥‥いつも闇の生徒会で貴方を待ってますよぉ」
 ファインダに収まる、上目遣い&おねだりポーズの麗那。

(このカットだけで十分集客できる気がする‥‥)
 少年は赤面しながら、『録画』のボタンを押した。




■嵐 一人(gb1968)の学生生活。■

 学園地下1FにあるKV・AU−KV格納庫は、放課の鐘とともに賑わうのが常だった。
 所持機体を恋人のように愛する生徒達は、それぞれのハンガーで「デート」を楽しむのだ。
 そしてそれは、嵐も例外ではなかった。
 長髪を緩く括り、片手には整備用の道具をまとめたケースとノート。肩にギターケースを掛け、機械油の匂いがする廊下を歩く。エンジニアブーツの踵で、乾いた音を響かせながら。

「嵐さん、何でギター持ってきたの?」
「ん、いつインスピレーションが沸いてもいいようにな」

 白く塗られたバハムートが佇むハンガーから数えて、5つ目の区画。
 3台のマシンが、主を待っていた。
「さぁて、今日も相棒たちのお手入れといきますか」

 ステージでギターを泣かせる指が、コンソール・パネルを操作する。白地に赤と黒のラインを施したカラーで統一されたAU−KVが作業スペースに降りてきた。
「よし、お前からだ」
 機体の傍に折り畳み椅子をセットし、慣れた様子で磨き始める。
 手の中の布がきゅ、きゅと、乾いた音を立てた。

「『熱くなれ 振り向くことなく 明日の先へ走り出せ‥‥』」
 いつしか形のいい唇が、小さく唄を口ずさんでいた。「ALP」として音楽活動に情熱を注ぐ彼が、己の想いをこめて創った曲だ。
「イイ感じの曲ですねっ」
 後ろでカメラを構えていた陸人が、肩越しに声をかける。
「お前、悪くない耳してるぜ‥‥じゃあこういうのは、どうだ?」
 照れくさそうに混ぜっ返したあと、即興でメロディをアレンジして返す嵐。
「‥‥〜〜♪ ♪ ‥‥今のフレーズ、良くないか?」
 彼の中に在る「アーティスト」のスイッチが入った。直感が紡いだ「曲」のかけらを、ノートに素早く書き入れる。
「それ、英語?」
「いや、コードって言ってな‥‥」

 3台のAU−KVの手入れを終えた頃には、陽は随分と傾いていた。宵闇はすぐそこまで迫っている。
「暗くなる前に、少しそこら辺流してくるか」
 嵐はギターをケースに戻し、代わりに傍らのヘルメットを手に取った。駐機場外へ通じる専用通路は、天窓から差し込むオレンジの光で溢れている。
 無造作にヘルメットを被りかけるドラグーン。ふと思いついた様に、カメラの方を視て
「お前も一緒に行くか?」
 不敵に、笑む。
「ぼ、僕このあと麗那会長のカレーお好み焼きを撮りに行くんです。帰りに寄ってくださいね!」
「了解」

 **
 バイクに跨って学園を後にした嵐を見送ったあと、陸人はふうと息をついた。
「僕が女子だったら、あの笑顔はやばかったね! いいカット撮れちゃった♪」




■シルバーラッシュ(gb1998)の学生生活。■

 人気のない男子寮談話室は、雑然としていた。共用のラックには漫画本や少年向グラビア誌が置かれ、隅のゴミ箱は空ペットボトル容器をたくさん抱え込んでいる。
「学園紹介の映画撮影に協力するぜ。鯨井から話は聞いてる」
 シルバーラッシュは窓際のソファに掛けたまま、カメラを手に訪れた後輩、笠原陸人をちろりと眺めた。
「まァ、俺も入学するまではカンパネラはわからねーことばかりだったしな。入っちまえば『こんなもんか』で済むんだが‥‥。その辺の誤解を無くそうっていう主旨には共感できる部分があるし、いっちょ手伝ってやるよ」
「あ、ありがと、ございますっ」
 やや緊張気味の様子に、笑いをかみ殺しながら言葉を継ぐ。ついでに
「女子寮は鯨井が撮ってんだろ。じゃあ、男子寮と部活の様子、撮ろうぜ?‥‥と」
 ひょいと手を伸ばし、撮影用の小型ビデオカメラを笠原の手から抜き取った。
「新型のビデオカメラか。面白そうじゃねーか。俺にも撮らせてくれ」
 ちゃんと撮れるんですか? そう言いたげな視線が、僅かに苛立ちを誘う。
「こういうのはセンスが要るんだぞ? 俺に任せときゃ万事オッケーだっつーの」

**
 果たして言葉通り。
 直感でカメラの基本操作をマスターしたシルバーは、笠原を後ろにくっつけて学内を撮り始めた。
 序盤こそ手近な風景をなぞるだけだったが、
「へー、望遠機能ついてんだ。ここから女子寮撮れるんじゃねーか? ‥‥あァ? これはなかなか‥‥」
「そ、それは名案‥‥いや、まずいですよっ、てか僕にも見せ‥‥」
「なんてな、冗談だよ冗談」
 すぐに様々な機能を使いこなしはじめ、片目はファインダにガッチリ固定。
 男子寮の窓から身を乗り出し、渡り廊下にレンズを向ける。
「景色ばっか撮ってても面白くねーからな‥‥お♪」
 にたりと笑って、行きかう一人の生徒にズームを合わせた。背筋を真っ直ぐ伸ばして歩く鯨井レムに。
「『この仏頂面がウチの部長でーす』ってか? うわははは!」

 しかし笑い声が大きすぎたのか。
「シルバー! くだらないことをしている暇があるのか!」
 被写体に一喝され、窓から顔を引っ込めることとなるのだった。
「おお怖っ」

**
「んじゃ、真面目に仕事すっか」
 カメラを笠原に返したシルバーは、ポケットから紙切れを取り出した。何やらペンで、細かく書き込まれている。

 ・男子トイレの蛍光灯交換
 ・粗大ゴミ処分
 ・●号室が煩いからシメる
 ・マッスル小屋修理←鯨井

「何ですか、それ」
「やることリスト。管理部なんざ暇だと思ってたら、面倒臭ぇ業務が結構あるんだよ。部活動ってよりは、委員会のノリだな」

 便利屋じゃねーっつの。ぶつぶついいながらも律儀に男子トイレに向かう背中を、カメラが追いかける。
 ラストカットは、そんなシルバーの魂の叫びと相成った。

「頼む、誰か入部してくれ!」




■ジェームス・ハーグマン(gb2077)の学生生活。■

 軍人一家に育ったジェームスは幼い頃から、己も軍人になるのだと考えていた。
 エミタ適性が認められ、カンパネラ学園の生徒となった今も、それは変わらない。
 自覚故か、本来の性格からか。
(今日の授業は‥‥)
 彼はとても、真摯な学生だった。

**
 午前の授業は選択科目の航空法、そして戦術論講義。
 座学を嫌う同級生も多かったが、彼にとってそれらの授業は、実に興味深いものだった。
 知識は宝だ。ひとつも逃せない。
 講師の板書の音すら、耳に心地よく感じた。

「ではこの戦況下での作戦で最適なものは何だ? バーグマン」
 講師が、名を呼んだ。昨晩予習しておいた箇所ではあったが、起立の瞬間は、それでも緊張を伴う。
「はい、この場合は‥‥」
「よろしい、完璧だ」
 賞賛とともに、小さく息をついて着席する。
 前席に座る金髪猫耳の聴講生が振り返り、にこりと笑んだ。

**
 短い休憩を経て、KVシミュレータによる戦闘訓練が始まった。愛機ロビンのデータを読み込んだ「コクピット」に、虚構の青空が広がる。遠くに小さく見えるのは、級友の機体だ。
 赤いスイッチを押す事を、彼はためらわない。何故なら、これは、仮想だ。
「そのままそのまま‥‥ロックオン、当たれ!」
 デジタルの煙を率いて、熱も質量も持たないミサイルが飛ぶ。命中、来た、プログラム通りの振動が。
「ちぇ、やられちゃった!」
 少し遅れて『撃墜』された級友の声がヘッドホンから響いた。

**
「カンパネラ航空同好会」部室で昼休みを過ごした後の授業は、実機訓練だった。ジェームスの最も楽しみとする課程だ。
 飛行訓練規定コースの気流は穏やか、見通しも上々。やや物足りない感もあったが、油断は禁物。
「‥‥了解、方位280へ転進、速度そのまま」
 教官機の指示に従い、操縦桿を傾ける。ふわりと浮く感覚は、嫌いではなかった。

**
 帰寮したジェームスを待っていたのは、2通のエア・メイルだった。差出人は海軍士官の父と、故郷の婚約者。
「お父さんから手紙が、珍しいな‥‥」
 父からの用件をさっと改め、婚約者のものを手に取る。愛しい筆跡と故国の切手が懐かしい。
(しっと団はいないな)
 周囲を見回し、窓の外を確かめてから封を切った。溢れんばかりの、思慕が詰まった手紙。
「マチルダ‥‥早速返事を書かないと」

**
 電話を確かめると、伝言が入っていた。SASを引退後、傭兵に身を投じた祖父からだ。
 風邪は引いていないか、怪我はしていないか。いつまでも赤子扱いするメッセージ。
(やれやれ)
 放っておくわけにはいかない。少し気合を入れて、祖父の番号を押す。
「ハロー、ああ、お祖父さん‥‥あ、すみません、次の休みに顔を出すと、隊長には伝えておいてください‥‥はい、こっちは変わりありません、そういえば、お父さんから手紙がありましてね‥‥」

 煙たいが、大切な家族との会話。少年は僅かに、微笑んでいた。




■九条・護(gb2093)の学生生活。■

 午前7時。護の一日は、学園演習場地下3Fにある大浴場『カンパネラの湯』から始まる。
「おっはよ〜!」
 早朝の女湯は、今日も貸切らしい。湯の流れる音が僅かに聞こえるだけで、しんと静まり返っていた。
 まずは抱えてきた制服をかごに入れ、お気に入りのロッカーをゲット。
「さーって、一っ風呂浴びて、今日もがんばろおっと!」
 大胆に潔く、トレーニングウェアを、えいっと首から引き抜いた。
 寮の自室でこなしたトレーニングで、わずかに汗ばんだ肌が、露になる。
 ぷるるん、と擬音が一瞬見えた(気がする)直後、小ぶりのスイカを並べたような‥‥

 (カメラの仕様により、非表示になりました)

「スッキリした〜、さ、今日の朝ごはん何かな!」

 **
 朝いちばんの授業は体育で、「100m走」と「棒高跳び」が設定されていた。
 ブルマ姿でグラウンドに出撃すると、級友の中に見慣れない赤毛の少女が一人混ざっている。どうやら聴講生らしく、足が遅いことをさかんに気にしていた。
「大丈夫大丈夫、気にしない〜‥‥と、九条、いっきまーす」
 軽く励ましてから、ともあれ、まずは100m走。
 教師の笛に合わせて、護は級友2人とともに、軽やかにスタートダッシュを切った。
 足の速さにはそこそこ自信があったが、胸に小玉スイカ2つを入れているのは、なかなかのハンディ。ゆさゆさ。ゆさゆさ。ゴール!
「ちぇー、コンマ1秒でボクの負けかぁ!」

 **
「えーっとこのあとは、講義しかないからカットして! 昼は芝生でメカメロンパンとフルーツ牛乳〜。あとは寝ッ転がって昼寝。ちょっと寒かったけどギリギリいけたかな。午後は‥‥なんだっけ、航空力学? よくわかんないけどそういうの!」

 **
 被写体自身の編集を経て、放課後。
「さて今日は、訓練場の使用許可も貰ったし、がんばるぞ!」
 グラマラスなボディを戦闘服に包んだ護はバハムートに跨り、練習用に設置されているパンチングバッグを睨みつけた。SES武器での攻撃でも壊れないように強化された、学園特製の仕様である。
「まずはー、九条キック!」
 ぐおん、とバハムートが唸る。二輪形態で敵ギリギリまで近づき離脱、生身でキックを叩き込むという趣向らしい。だが、上手くいかない。
「めげないぞー! よし、九条ブレイク!」
 今度はブースト加速で体当たりをかけつつ、片手のツインブレイドを突き立てるという荒業に挑戦。
「イメージは間違ってないッ! もう1回!」
 これもなかなか、体得までの道は険しそうだ?

**
「はふー、今日はちょっと疲れたかな〜」
 あふんと欠伸をして時計を覗くと、消灯時間が間近に迫っていた。普段なら小腹が減る頃だが、帰宅途中に「闇の生徒会」でカレーお好み焼きを齧ったせいか、今日は幸せだ。
 護は手にしていたゲーム機を放り出し、部屋の照明を落とした。窓から注ぐは、月明かり。
「おやすみ〜」




■■鯨井レム(gb2666)の学生生活。■■

 学園寮管理部の部室は、本校舎文化部棟の一角に在った。掃除はされているものの、段ボールや書籍などが積み上げられており、「物が多い」印象を与えるたたずまいだ。
「学園生活を紹介するムービーを作る、か。面白い企画だ、我が学園寮管理部も、及ばずながら力になろう」
 その部屋の長、鯨井レムは、カメラを携えた後輩、笠原陸人と向かい合っていた。
「ありがとうございますッ!」
 まっすぐ向けられる尊敬が、自尊心を心地よくくすぐる。
「笠原、意気込みは十分なようだがそれだけでは拙い。漫然と撮っては冗長になり、誰にも見て貰えないだろう。ポイントを絞った構成と、メリハリのある展開が重要だ」
「レム先輩、凄い‥‥」
 少しばかりの知ったかぶりも、後輩には眩しく映ったようだ。
「部室は今撮ったね? では次は寮だ。男子寮の撮影はシルバーに手伝わせるとして、女子寮は僕が撮ってこよう」

**
 カメラを預かったレムは、女子寮の廊下を闊歩していた。なにかと幻想を抱かれがちな女の園だが、その実意外に、所帯じみていたりする。洗濯室に下着が干しっぱなしだったり、談話室にきわどい少女漫画が忘れ去られていたり、だ。
「あれ? 鯨井サン、そのカメラ‥」
 その談話室方向から歩いてきた女子生徒達が、レムのカメラを見つけて指さした。緩い部屋着に裸足にスリッパ。たるんでる。全く持って、たるんでる。
「学生生活紹介ムービー撮影用の機材だ、寮内も紹介しようと思ってね。皆の部屋も抜き打ちで撮影させて貰おうと思うのだが、構わないな?」
 途端、顔を見合わせる生徒達。
「ちょ、ちょっと待ってくださいッ! 掃除しますから!」

「ふふ、思惑通り」
 辣腕の部長は1人笑んだ。脱兎の如く駆け出す背中を眺めながら。

**
 にわかに大掃除の始まった女子寮を後にしたレムは笠原にカメラを返し、寮棟の中庭に赴いていた。レンガ造りの花壇と、金網と板で作られた頑丈な小屋がしつらえてある。
「レム先輩、何するんですか?」
大工道具を取り出し、小屋の傍に屈んだ管理部部長に、後輩が問うた。
「マッスルの家は定期的に修繕しないと、大変なことになる。ほら笠原、君の前に金網の破れが在るだろう? これを放っておいたら‥‥」
「マッスル?」
 訪ねる間も与えず、けたたましい鳴き声とともに、金網を隙間から顔を出す濃い顔のニワトリ。それはまさしく

「クケーッ!」
「うわー!」

 『筋肉』の名に違わぬ、発達した胸肉を持つ雄鳥だった。

**
 そんなこんなで。
「今日はありがとうございました」
 夕暮れ近く、撮影を終えて寮を後にする後輩を見送り、レムは一人呟いた。
「ふふ。今はまだ小さな部だが、こうした積み重ねがいずれ実を結ぶのさ」
 訪れた仲間の気配を感じ、振り返り名を呼ぶ。
「そうだろ、シルバー」

「だと、イイんだがな」
 銀髪の少年は、口の端を上げて肩を竦めた。




■プリセラ・ヴァステル(gb3835)の学生生活。■
 陽射しあふれる学庭に、鐘の音が昼休みの始まりを告げた。
 学食で、芝生の上で。生徒達は思い思いのひとときを、楽しむ。

「あれ、プリセラちゃんは?」
「格納庫じゃない? 今バハムートにお熱だから」

**
 学園地下1F・KV、AU−KV格納庫。そこにジャージ姿のプリセラは居た。
「うにゅ〜 あたしの学園生活、見せてあげるの〜♪」
 手にはペンキ缶、腰のベルトには各種工具類、足下には機械油。随分と可愛らしい、エンジニアだ。
「今日はね〜、あたしの相棒をキレイにしてあげるのよ〜」

 駐機スペースの床下から、機械が駆動する音が響く。姿を現したのはAU−KV「バハムート」。

「この子は、最近お休み無しで働いてくれてたの〜」
 ボディに頬と規格外の胸を擦りよせ、愛情を表現するプリセラ。まず取り出したるは、ブラシ。
「随分汚れちゃってるの〜」
 溝や窪みにたまっている泥や埃を掻き出してゆく。床に膝をつき屈みこみ、洗車機では届かない奥の奥まで。顔に油が跳ねても、躊躇することはしない。
「ほら、キレイになった!」

 キレイに磨き上げたボディには、ステキなドレスを着せてあげたいのが女の子。
 プリセラは笑みを浮かべながら、エアブラシに専用塗料をセットし、引き金を引いた。
 コンプレッサーの稼動音とともに、塗料を含んだ霧が勢いよく噴出する。バハムートが見る見る主の髪と同じ、艶のある純白に塗り替えられてゆく。
「んにゅ〜 可愛くなってきたの♪」
 無骨なイメージが薄れ、愛らしさが前面に出てきつつあることに、プリセラはご満悦だ。
「肩の部分にはウサギさんを描いて〜 変形したときにも大きなウサギさんに見えるようにして〜 時間足りるか……な……」
 と、何気なく腕時計を覗いた、愛らしい顔が強張った。

「あーっ! あたし、授業あったの忘れてたぁ〜!」

 慌てて作業を中断し、最低限の片付けを済ませて少女は駆け出す。
「ごめんなの! 続きはまた明日なの!」

**
 放課後。
「うにゅ〜、先生に叱られちゃったの〜」
 寮の自室に戻ったプリセラは、聴講生の美鈴と千佳を招き、お喋りを楽しんでいた。
「うにゅ〜このケーキ、美味しい〜♪」
 美鈴の手作りチョコケーキ、千佳の奏でる楽器の音色のおかげで、笑いも会話も尽きることがない。
「プリセラちゃんの機体は幸せにゃね。僕もメンテしてほしいにゃ」
 冗談めかした千佳の言葉で、テンションはさらに上がり‥‥

「うにゅ? 千佳ちゃん、骨接ぎでスッキリ爽快にしてあげるの♪ 美鈴ちゃんもなの♪」
「にゃ?」
「え?」
「遠慮しなくても大丈夫なの♪ さぁさぁ、2人共〜覚悟なのー♪」

 可愛い悲鳴とともに、ベッドに転がってじゃれ合う3人。
 愛情たっぷりの整体術とガールズトークで、「元気」パワーは充電OK、のようだ。




・・・・
 試写からしばらく時間をおいて。
 文化祭で賑わう学園の一角で「学生生活。」は一般公開を迎えたのだった。
 生徒達の日常を追いかけただけの素朴な映像作品ではあったが、概ね好評を得ることができた。そう例えば

「ふーん、少しはカンパネラに対する認識を、改めたほうがいいのかもな」

 撮影に走り回った少年の保護者の態度を、やや軟化する程度には。