タイトル:限界突破!KV演習マスター:クダモノネコ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/18 18:02

●オープニング本文


 
 冬休みも終わり、カンパネラ学園に学生たちの姿が戻ってきた。
 長い休み明け、久しぶりに旧友と「再会」した生徒たちの笑い声が学内のあちこちでさざめく。
「おはよ〜、元気だった?」
「うん、実家に帰省してたの。 はいこれ、お土産♪」
 未成年でありながら親元を離れ、寮生活を送る生徒たちにとって、年越しを挟んだ休暇はかけがえのない大切な時間だ。
 とはいえ
「あ〜 冬休み、あと1ヶ月ぐらいあってもいいのにね〜 寒いしお布団から出たくないもん」
「ほんとほんと、コタツ背負って学校来たいぐらいよ。あっ『こたつむり』とかいうマジレス無しで」
 どことなく弛んだ雰囲気が蔓延している感は否めない。 
 
「だらけてるわ!」
 新年最初のホームルームを終え、職員室に帰還した宮本 遥(gz0305)は、憤懣やるかたないといった様子で自席に腰を下ろした。
 机上に生徒たちから回収してきたドリルを広げ、冊数を数えて舌を打つ。
「『カンパネラの友・冬休み版』の提出率の悪いこと! たった12人なんてありえないでしょう! 依頼との兼ね合いも考えて、量は加減してやってるのに! ねえ、そう思いません?」
放出される苛々オーラに厄介なモノを感じたのか、同僚教師たちは同意も否定もしなかった。
ただ黙って目を落とし、自分の作業に没頭する(フリをしている)。
「‥‥日和見主義者どもめ」
 遥は小さく毒づき、スリープしているネットブックを起動させた。
 確か年末に、本部から学生向けの案件が入っていた筈だ。
 そう、グリーンランドに整備された、新しいKV演習場の試用。
「あった。‥‥へえ、炭鉱都市ね。なかなか面白そうなマップじゃない」
 白い指がキーボードを叩き、ディスプレイに演習場のデータを表示させる。
 グリーンランドと言う地の雰囲気を生かしてか、氷の山壁に抱かれた、寂れた鉱山をイメージした設計のようだ。
「ふうん‥‥模擬戦用なのね。2チームに分かれて敵軍の拠点の破壊、ないしは全滅させたほうが勝ち‥‥と」
 街は「L」字を、半時計回りにひっくり返した形状をしていた。石畳が敷き詰められ、両端に鉱夫の家や採掘用の足場が立ち並ぶ。
 真ん中には大通りが開けていたが、「L」のほぼ中心に設置された高架線路のおかげで見通しが良いと言うわけではない。
 また、「L」の始点と終点には、それぞれ真っ赤と真っ黒にペイントした「シラヌイS型」が設置されていた。
 よく見るとハリボテであることはわかるが、なかなか良く出来ている。
「なるほど、破壊すべきは敵の『指揮官機』ってワケ。萌える‥‥もとい、燃える趣向だわ」


 **
 翌日、冬休み気分が抜けきらない学生たちに、演習参加案内が配布された。

−−−−−−−−−
 ★グリーンランドKV演習参加案内★

 演習場所 グリーンランド 新KV演習マップ「炭鉱都市」
 演習内容 該当マップ上での、2チーム対抗模擬戦。勝利条件は敵軍の拠点の破壊、ないしは構成員の全滅※
 ※演習参加前にAIにリミッターを設定する。KVのHP残量が1割を切った時点で、戦闘不能扱いとする。
 募集人員 最大8名(聴講生・学生不問)

  その他
  新KV演習マップのモニタテストを兼ねている為、報酬支払有。
  戦闘機形態不可。陸戦形態のみ。


 <マップ概略>

 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
 □■■■■■■■■■■■■■■■■□□□
 □■■■■■■■■■■■■■■■■□□□
 □■■□□□□□□□□□□□□□□□□□
 □■■□□□□□□□□□□□□□□□赤組
 □■■□□●●●●●●●●□□□□□拠点
 □■■□□●□□□□□□□□□□□□□□
 □■■□□●□□□□□□□□□□□□□□
 □■■□□●□□■■■■■■■■■□□□
 □■■□□●□□■■■■■■■■■□□□
 □■■□□●□□■■
 □■■□□●□□■■
 □■■□□●□□■■
 □■■□□□□□■■
 □■■□□□□□■■
 □■■□□□□□■■
 □■■□□□□□■■
 □□□□□□□□□□
 □□□□黒組□□□□
 □□□□拠点□□□□


 □‥‥平地(石畳・頑丈)

 ■‥‥建造物(低) 民家および採掘用足場を模したもの。高さ最大で5m。
    上に乗ったり隙間に潜んで身を隠すのに使えるが、崩れやすいので注意。
    (ミッチリL字型に並んでいるわけではなく、適宜隙間有)

 ●‥‥建造物(高)トロッコ線路風の高架。高さ約15m。
    高架線路だけで、トロッコなど小道具は無し。
    高架下はくぐり抜け可能。丈夫な鉄骨で崩れることはない。

 拠点
 「シラヌイS型」のハリボテ。行動は一切行わない。
  近距離攻撃数回で壊れます。(物理・知覚不問)
  各班はそれぞれの拠点前からスタートとする。

 □ 1コ=20m四方(2スクエア)
 ■●1コ=10m四方(1スクエア)
※いずれも大まかな目安程度にお考え下さい。


 参加希望者は職員室 宮本 遥 まで。
 余談だが、冬休みの宿題未提出者は、早急に提出するように!

 −−−−−−−−−

●参加者一覧

鷹崎 空音(ga7068
17歳・♀・GP
小野塚・美鈴(ga9125
12歳・♀・DG
憐(gb0172
12歳・♀・DF
如月・菫(gb1886
18歳・♀・HD
セフィリア・アッシュ(gb2541
19歳・♀・HG
プリセラ・ヴァステル(gb3835
12歳・♀・HD
東雲 凪(gb5917
19歳・♀・DG
ホゥラリア(gb6032
21歳・♀・SN

●リプレイ本文

 凍てつく大地、グリーンランド。UPC基地からさほど離れていないところにその「街」はあった。
 ありふれた鉱山街に見えたが、人の気配はなかった。家には明かりが灯らず、石畳を歩く者もない。
 そう、この街は巨大な模型。KV演習のためのツクリモノだ。


★A軍【開戦前】B軍

 町の南側、岩壁に囲まれた広場。黒いシラヌイのハリボテが佇んでいる。
 それを囲むように配置についたKVのパイロット達は、最終ブリーフィングを行っていた。
「模擬戦とはいえ本格的なものだしね。やるからには‥‥勝たせてもらおっ!」
 「ホークアイ」と名付けたイビルアイズのコクピットで、鷹崎 空音(ga7068)が気炎を上げた。手の甲には翼を象った青い紋章が浮いている。
「もちろんなのだ〜! うぅ、でも‥‥」
 ディスタンの操縦桿を握るのは小野塚・美鈴(ga9125)12歳。学園から貸与されたパイロットスーツを着用し、襟元まできっちりとジッパーを上げている‥‥が
「このパイロットスーツ‥‥胸元だけやけにきついのだ‥‥」
 勿論スーツが悪いのではない。ギガアームな胸がけしからんのである。
「うにゅっ! 訓練でも気を抜かずに頑張っていくのー!」
 3番手は真っ白に塗装した白兎仕様のゼカリア。名は「リエーブル」。
 やはり純白のAU−KVを纏った赤い目の兎、もといプリセラ・ヴァステル(gb3835)がふわふわもこもこのコクピットに収まっている。
 そんな3機とハリボテを護るように立つ、ひときわ大きな機影があった。奉天が作り上げた最新機、破暁だ。
 「破曉に乗り換えて‥初めての機体依頼です‥‥何処まで戦えるか解りませんが、よろしくお願いします‥‥」
 新しい相棒との初陣に望むのは、黒い髪と瞳の少女、憐(gb0172)。
「しかし向こうは汎用機ばかりで、こちらは癖のある機体ばかり良く揃ったものです。乗り手も、最年少12歳がトリオ‥‥」
 大人びた口調の中に覗く緊張を、17歳の空音は聞き逃さなかった。
「よろしくね、美鈴、憐、プリセラっ!」
 明るい声で3人の「妹」たちと健闘を誓い合う。
「うんっ」
「うにゅっ♪」
「では‥‥がんばって勝つぞー、えいえいおー」


 一方、町の北側。こちらには赤いシラヌイのハリボテが配置されていた。南側同様、4機のKVが出撃直前の打ち合わせを行っている。
 ハリボテのすぐ傍にはシュテルン。パイロットはカンパネラの制服に身を包んだ如月・菫(gb1886)である。
 横には機槍を携え、凛と佇む戦乙女、サイファーの姿が。セフィリア・アッシュ(gb2541)が与えた名は「ゼフィール」だ。
「相手よりも高い展開力を活かすことが必要です。開戦すぐから相手拠点寄りに前線を押し上げ、可能な限りの短期決戦を狙いましょう」
 金髪に緑の瞳のドラグーンはマイクに向かい、作戦内容を再度復唱する。
「了解。奮発した不知火のテストもかねて頑張ろう! 懐が一気に寂しくなったなぁ‥‥」
 同じくドラグーンの東雲 凪(gb5917)が、シラヌイのコクピットで頷いた。身を包むAU−KVは漆黒のミカエルだ。
「演習と言っても実戦みたいなもの‥‥本気でやらないと意味がありませんからね〜」
 大人びた笑みを浮かべるのは、黒髪のスナイパー、ホゥラリア(gb6032)。
 如何に技術革新が進もうと、後発機体の低価格化が進もうと、彼女が命を預ける相棒は、R−01だけだ。
「この子とあたし‥‥どこまで粘れるか腕試しです」


「全機出撃用意!」
 地下にある管制室から、8機にコールが入った。演習担当学園講師、宮本 遥である。
「各自のリミッターランプを確認。緑点灯以外の者は速やかに申告しなさい」
「‥‥よし、いないな。では只今より演習を開始する。諸君に、武運を!」
 着信と同様の唐突さで、一方的に途切れるコール。
 雪花が散る空の下、乙女たちは覚醒した。

 戦・闘・開・始!



★A組【突撃】

 赤シラヌイを拠点とする4機は、ダイヤモンド・フォーメーションを組み、全員で進軍を開始した。
 緊張からか、戦いへの期待からか。浮ついた雰囲気は全くない。
 先頭はセフィリアのサイファー、
「私たちは防衛能力に劣る編成。いたずらに守りに入らず、攻め続けることで活路を開きましょう」
 中央は菫のシュテルンと凪のシラヌイ。
「セフィリアさんの言うとおり、守りに入られたら厳しいし、一気に行きたいかな。連携すれば大丈夫だと思う」
 しんがりを努めるのはホウラリアのR−01である。
「この子とあたしは大破覚悟しています。無事に終わらそうなどと思っていません」
 ホゥラリアの言葉には悲壮感すら漂っていたが、それは彼女が純粋で、機体を愛しているからに他ならない。
「静かですね‥‥」
 サイファーのコクピットの中で、セフィリアが呟いた。緑の目が青を帯び、髪も銀へと色を変えている。
 敵は何処だ? 探りながら、目をこらしながらの進軍。
 高架橋の上、西の街、向こうに伸びる細い道。注意を払うも、求める気配も姿も見えない。
「静かだね」
 4機は曲がり角に、差しかかろうとしていた。



★B軍【迎撃】

 黒シラヌイを拠点とする4機のうち、憐の破暁と美鈴のディスタンは、高架橋と拠点の間に陣どっていた。
「さあ、破曉、いっくにゃー!」
 狩猟本能っぽいものに目醒めたのか、憐の口調はやや攻撃的になっていた。機斧「パラシュラーマ」を携えた巨躯が、まっすぐ前方を見すえる。
 隣に立つのはディスタン。操縦桿を握る美鈴の表情はやや強ばり気味だ。
「模擬戦だけど、ものすごく緊張するのだ‥‥」
 パイロットスーツに押し込めた胸が、戦いの予感でどくどく音を立てている。
 そして2機から離れること後方100m。拠点を護るように並ぶのは、空音のイビルアイズと、プリセラのゼカリアだ。
 2台のレーダースコープを積んだイビルアイズは、静かに敵の情報を収集し
「策敵良しっと‥‥此方ホークアイ、敵の現在位置データを送るよっ!」
 ゼカリアのシートに収まったプリセラは、M−181大型榴弾砲の弾道計算に余念がなかった。
「うにゅ〜♪ ルエーブル、お利口さんっ」
 既知の「敵軍」スペックや、空音が解析したデータを元に大凡の見当をつけ、手際よく入力する。
「5発しかないから、準備は入念になの〜♪」

「ホークアイ、ルエーブル、こちら破暁にゃー。データ受け取ったにゃー」
「同じくディスタン、受理完了なのだ!」
 前衛の2人からの応答に、空音が頷く。
「行こう!」
「うにゅ♪ リエーブル、砲撃開始なのーっ!」

 白兎の肩に乗せられた大型榴弾砲が、頭をもたげる。
 300mm榴弾が3つ、迫り来る敵に向かって打ち込まれた!


★A組【着弾】B軍

 サイファー、シラヌイに搭載したスコープシステムが、迫る危機をパイロットに通達する。
「熱源の接近を確認! 着弾予定位置は‥‥」
「菫さん、ホゥラリアさんっ、気をつけて!」
 セフィリアと凪の緊張を孕んだ声が、友軍機に響き渡った。だが300mm榴弾は危機の認識、回避よりも早く陣形の後部を襲う。
 轟音とともに巨大な火が、無人の民家を焼いた。雪を孕んだ風が黒煙と炎を煽る。
 「く、R−01、被弾!」
 爆風と熱の煽りを受けたR−01が、たまらず膝をついた。接地衝撃の影響か、関節部から火花が散る。
「でも大丈夫、私もこの子も、まだいけます! 立って!」
 すかさず横にいたシュテルンが手を伸ばした。こちらも被弾していたが、R−01程ではない。
「立て直したら進撃を開始します、周囲警戒を怠りなく」
「こちらシラヌイ、敵機接近、2機!」
 高まる、緊張。
「破暁が来る」
「ゼカリアも、思ったより遠くから撃って来てるね」
 B組の初撃を無傷で躱したサイファーとシラヌイ。それぞれ得物を手に、迫り来る敵機の影を見据えた。

 着弾地点より南に100m弱。電子機器を駆使する2人の戦いは、静かに続いていた。
 イビルアイズのコクピットに着いた空音はコンソール・パネルを操作し、A軍の被害状況を解析し続けている。
「データ処理完了! R−01のダメージが大きいね! 集中砲火でまず落とせば、大分楽になるはずっ」
 モニタに流れる文字を読み解き活かすのは、人間の仕事だ。機械に計算は出来るが、創造は出来ない。
「わかったのだ。まずR−01を狙うのだ」
「サイファーが出張ってくるようなら、破暁で相手するにゃー」
 マイク越しに響く前衛組の声。
「うにゅっ♪ 次の準備ができたらすぐ合図するの!」
 速度を上げ、北上してゆく2機の背中を見送ったプリセラも、再び大型榴弾砲の弾道計算に挑んだ。



★A軍【交戦】B軍

 高架橋の下で態勢を立て直したA軍は、B軍の破暁・ディスタンを正面から迎え撃つ事となった。
「来た!」
「前衛は2機か、後方2機の援護射撃にも気をつけて!」
 憐と美鈴の狙いは、大破したR−01。無論A軍も、おいそれとは進ませない。
「破暁とお手合わせできるとは、願ってもない機会。勝負!」
 機槍「ドミネイター」を携えたサイファーが、破暁の前に躍り出る。フィールド・コーティングを発動した戦乙女の身のこなしは、蝶のごとく優美だ。
「こちらこそにゃー!」
 対する破暁の右手には機斧「パラシューマ」。巨躯が槍の穂先を受け止め、方向転換しながら斧を振り下ろした。
 避けるサイファー。すかさず繰り出す2撃目は通らない!
「流石です」
 交錯する金属音、ブースターの熱風、舞い上がる埃、オイルの臭い。
「さすがにゃー」
 鳳凰が火を噴き、ショルダーキャノンが唸った。
「いきなり接近戦か、こうでなくっちゃ」
 シラヌイのコクピットに座る凪が、赤く染まった目で笑んだ。
「超伝導アクチュエータ、起動!」
 練力と引換に、青い機体が命中と回避を得る。ライフルを双機刀に持ち替え、彼女は挑んだ。
「行くよ、不知火!」
 破暁に。

 初撃の300mm榴弾で大破したR−01は、小破したシュテルンとともに前線から20m程後退していた。
「あまり離されるのはよくないのだ」
 ディスタンは追いつつも、破暁から離れないように気を払っていた。3.2cm高分子レーザー砲で2機の足を狙い、ディフェンダーで装甲を斬りにかかる。後方の牽制射撃にばかりは、頼っていられない。
 まずはR−01。オイルに塗れ、肩からは煙が上がっている、もの。
「この子でも‥‥この子でもまだ戦えるって事を証明するんですっ!」
 しかし、ホゥラリアも諦めない。機槍「黒竜」にアグレッシヴ・ファングを乗せ、ディスタンの装甲に突きつける。それは既に意地だった。
「お願い‥‥あと少しだけ一緒に頑張ろうね‥‥!」

 所かわってB軍拠点前。
「サイファーとシラヌイはやっぱ強いね。ディスタンも楽には勝たせてもらえない雰囲気」
 空音のイビルアイズはスナイパーライフルで前線を牽制しつつ、電子機器による索敵を続けていた。
 2機を相手にする破暁はやや旗色が悪く、ディスタンの戦況も決して良くはない。
「プリセラ、準備できた?」
「おっけーなの!」
 白兎ゼカリアがモニタの向こう親指を立てている。ユーモラスな姿に空音は一瞬微笑んだが、すぐに唇を結び
「次の花火行くよ、二人ともっ!」
 回線を開き、叫んだ。
「うにゅ! 美鈴ちゃん、憐ちゃん。今なのっ!」
 プリセラの声と共に、ゼカリアの肩の砲身が火を噴いた。
「出し惜しみはしないの。全部持っていくの〜!」

 2回目の300mm榴弾砲撃は、後方に逃れていたシュテルンに大打撃を与え、R−01とディスタンにも牙を剥いた。
 美鈴のレーザー砲はまず菫の乗るシュテルンを撃破、ついで
「ホゥラリアさん、行くのだ!」
 先の格闘戦で『瀕死』に陥っていたR−01に止めを刺す。
「R−01、戦闘不能です。終了までそのまま待機しなさい」
 着信した遥の声に、ホゥラリアはうなだれた。そっとコンソールを撫で「相棒」を労う。
「‥‥良く頑張ったね」



★A軍【決着】B軍

 黒シラヌイまで直線距離で300mの地点。
 サイファーと破暁、シラヌイにディスタンを加えた格闘戦は未だ続いていた。
 目標までの距離を考えれば圧倒的にA軍が有利、戦力ではB軍に軍配が上がる状況である。
「4対2ですか、拙いですね」
「でも私たちより破暁のほうが破損は大きいよ。ディスタンも無傷ではないし、ゼカリアも花火は撃てないはず、それに」
 疲弊気味のサイファーに、シラヌイが再びアクチュエータを起動しながら答える。
「それに、ハリボテはもうすぐだもん。錬力には余裕があるから、サクっと潰せないかな」
 両手の双機刀が、振り下ろされた破暁の機斧をかろうじて止めた。パワー不足。反撃には至らない
「セフィリアさん、破暁を止めてて」
「わかりました」

 青い風の如く、凪のシラヌイが走り始めた。サイファーと対峙していた憐と美鈴は、すぐにその真意を理解する。
「後衛注意して! 抜ける気にゃー!」
 叫びながら長距離バルカンと重機で足止めを図る憐。しかしアクチュエータを起動したシラヌイは止まらない。
「させないのだ!」
 追いすがろうとするディスタンは、サイファーの機槍が阻んだ。
「行かせません!」

 迫り来る青い風に、ゼカリアが立ち向かう。近距離攻撃の術は持たないが、筐体で止めることを狙って。
「うにゅにゅ〜! まだまだいくよ〜!」
「ん、ごめんね!」
 真っ向からぶつかって、勝てる相手ではない。
 錬力全てを疾走に賭けたシラヌイは、ゼカリアの目前でジャンプして激突を躱した。イビルアイズと反対方向に着地し、再びハリボテを目指す。
「うにゅ! 空音ちゃん、お願いっ!」
「悪いけど、粘らせてもらうよ!」
 吼えるイビルアイズ。高分子レーザー砲を乱射し、伏兵を止めんと必死に。
「これで、おわりにしよっ!」
 シラヌイが最後のアクティエイターを発動し、スラスターライフルを構えた。イビルアイズには反撃せず、ただひたすらトリガーを引く。
そう、自機と同じ姿をした脆い目標に。
「うにゅ〜っ」
「ああーっ、ダメなのだー!」
「にゃーっ」
 火薬の臭い、土煙、乱射音。
 B組の悲鳴の中、鈍い音とともに黒のシラヌイが崩れ落ち
「B組拠点陥落を確認。A組の勝利とします」
「全機速やかに格納庫へ帰還。ブリーフィングを行います」
 遥の声が、全機に届けられた。



★A軍【反省会】B軍

 かくして1時間後。
 地下のミーティングルームに集まった8人は、戦況の録画映像を眺めながら暖かいココアを飲んでいた。
 勿論KVは全て、整備に回されている。
「勝負はA組が制しましたが、作戦の練度はB組が上ですね。とはいえA組も及第です。よく頑張りました」
 ログを示しつつ、遥が講評を述べた。
「次回は更にハイレベルな作戦行動を期待します。では今日はここまで」
「ありがとうございました」

 立ち上がり一礼する8人。
 タイミングよく、終業のベルが室内に響いた。