タイトル:アナートリィ救出作戦マスター:クダモノネコ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/04/21 05:44

●オープニング本文


★インドネシア ボルネオ島上空戦域 
 拙い。
 けたたましく警告を発するコンソールに苛立ちながら、UPC軍中尉・飛行隊長アナートリィは焦りを露にしていた。
 メインモニタの右前方で、僚機が力をなくし、高度と速度を下げ始めたのが見える。
 後部から派手に黒煙を噴くメタリック・ブルーの機体はみるみる小さくなり、いまにも雲海に吸い込まれて行きそうだ。
「機首を上げろ!」
 回線を開き、堕ちゆく機に繋ぐ。機械の状態が悪いのかこの空域が糞なのか、不気味な沈黙以外何も返らない。
「‥‥っ」
 アナートリィは手の中にある操縦桿をぐいと倒し、スロットルを緩めた。高度が下がり、わずかに速度も緩む。
 途端、しつこくついてきていたワームがここぞとばかり、ブラスターを放ってきた。
 走る、オレンジ。見事にパターン化した掃射が、モニタの側面に流れて消える。
 オートパイロットで「UPC正規軍・アナートリィ中尉」が撃墜できるなどと、バグアは本気で思っているのだろうか?
「僕を、舐めるなよッ!」
 半ば無意識にそれを避けながら、かろうじて飛んでいる部下に回線を繋ぐ。ブツブツと耳障りな音のあとに、夕立のようなノイズが大音量で響いた。
 ヘッドフォンを放り出したくなるような雑音の向こうで、最年少の上等兵が泣き喚いている。
「うごかないっ、機首があがらないっ、モニタが、煙が!」
「パネルは生きてるか? 点灯確認。そう、じゃあ大丈夫」
 彼は初陣だった。女々しさすら感じさせる取り乱しっぷりに、若き飛行隊長はため息をつく。
「相手は無人機だ。パターンと違うことをしてやれば十分引き離せる。キミが雲海から抜けたらすぐ‥‥」
「隊長ッ、違う、あれは!?」
 上等兵の絶叫の直後、アナートリィ機を激しい振動が襲う。
「な‥‥!」
 急速に光を失いつつあるモニタが捕らえたのは、誇らしげに空舞うタロスの姿だった。


★ラスト・ホープ 
「は? 艦長‥‥、ですか?」
 昨年の傷も、もうすっかり癒えたマウル・ロベル大尉は、現在の直属上官であるブラット准将の言葉に、思わず問い返した。
「新造艦の指揮官に、君を任命する。艦名はまだ未定だが、ヴァルキリー級量産型飛行空母の一番艦だ」
 先のBV作戦で奪取された慣性制御装置の一つが、その建造に使われるという話はマウルも聞いている。性能としては、小型かつ個艦性能が劣るものの量産性の高いUK、と認識していた。
「傭兵との共同作戦も多いと想像されるが、君ならば問題ないという判断だ」
 ブラットの目を見返して、マウルは迷い無く頷く。
「わかりました。マウル.ロベル大尉、拝命します」
「よし。明日づけで君は少佐だ。こちらが、乗員の予定リストになるが‥‥」
 急なことで、まだ幹部クラスは手配が済んでいないという。そう告げる時のブラットの表情を、マウルは見逃しはしなかった。
「‥‥自分で連絡を取るように、と言う事ですね」

 ブリーフィングから1時間後。
 執務室に戻ったマウルは、リストの一番上に記された部下の携帯端末の番号をプッシュしていた。
「さて、じゃあまずはトーリャっと‥‥」
 島内に居れば話は早い、とりあえずものは試しだ、的な感覚で。
 だが彼女の予想は、悪いほうに裏切られた。
「ああ大尉! 大変なんです、アナートリィ中尉の飛行隊がボルネオ島上空でタロスの編隊に撃墜されて!」
 繋がった先‥‥正確には転送された先‥‥はUPC本部だった。
 オペレータの悲痛な声がマウルの耳朶を打つ。
「なんですって!? 状況は!?」
「詳しいことはわからないのですが、熱帯雨林に不時着後、野良キメラに捕らわれてしまったようです‥‥幸い、最後の通信の記録がUPCインドネシア基地で傍受されています。転送しますので、ご確認ください‥‥」

『アナートリィです。‥‥僕はもう帰還できないかもしれません。部下も今は全員無事ですが、この後正気を保てるかどうかはわかりません‥‥僕たちは森に棲むキメラの群れに捕まってしまいました‥‥』
(ガサガサッという音。端末を何かに隠したようだ)
『彼女らは僕たちを魅惑します‥‥その姿で、声色で、甘い蜜で、ああ‥‥僕だってやれるってことを証明しなければ‥‥違う、なんでもない、この機械は‥‥!』
『離せ‥‥! 部下に手を出すな‥‥! 僕たちを何処へ連れてゆくつもりだ‥‥!』

 機械の壊れる音が響き、続いて沈黙が訪れた。


★というわけで傭兵さんよろしくね!
「なに、その不満そうな顔は。『タロスとかっこよく空戦』じゃなくて残念ね。あんた達の任務は熱帯雨林でキメラ女退治。これは決定事項なの」
「とはいえ、堅物のアナートリィが惑わされそう、って言ってんだから相当の美人さんかも知れないわね。‥‥現地基地の調査では、爬虫類系キメラが優勢らしいけど‥‥」
「え? マウたんに敵う美人なんていないって? バ、バカ行ってないで早く出撃しなさいよねっ!」

●参加者一覧

御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
西村・千佳(ga4714
22歳・♀・HA
L45・ヴィネ(ga7285
17歳・♀・ER
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
小野塚・美鈴(ga9125
12歳・♀・DG
セレスタ・レネンティア(gb1731
23歳・♀・AA
プリセラ・ヴァステル(gb3835
12歳・♀・HD
佐渡川 歩(gb4026
17歳・♂・ER

●リプレイ本文

 インドネシア、ボルネオ島の熱帯雨林。
 湿気を孕んだ重たい空気が、枝を伸ばす樹木やシダ植物の間を埋める。
 得体の知れない花の香りが鼻腔をくすぐり、遠くで聞こえる動物だか鳥だかの声。
 そんな森の中、うっすらと踏み固められた獣道。
 UPCのエンブレムを貼り付けたジーザリオが、アクセル過剰気味に走っていた。
 後部座席に収まっているのは、ラスト・ホープから派遣された能力者である‥‥。
「鬱蒼としていますね‥視界が狭くなってしまいます」
 ぽつんと呟くセレスタ・レネンティア(gb1731)もその1人。
 陽もろくに届かない故か、表情は曇って見えた。紫の目に森の緑が映っては、後ろへ流れてゆく。
「とにかく、確実に片付けて迅速に帰ろう。あまり長いしたい気候でもないし」
 黒髪をリボンで纏めた 時枝・悠(ga8810)も、うんざりといった表情で首を縦に振る。
 悠の隣に座る佐渡川 歩(gb4026)は、眉間に皺を寄せて、考え込んでいた。
「‥‥アナートリィ中尉が彼が捕まるとは‥‥不味いですね。キメラが捕らえた人間を殺害せず連れ去るのは不自然ですし、バグアか強化人間の命令で中尉を拐った可能性があります。なにしろ彼が持つ情報をバグアに奪われる様な事があれば‥‥」
 牛乳瓶の底のような眼鏡が、きらんと光る。
「急げば先回り出来るの。全速力なの!」
 迷彩模様のバハムートで、ジーザリオと並走するのはプリセラ・ヴァステル(gb3835)。白金の髪が薄暗い森の中でひときわ映えている。
「ところで、中尉はそんな大事な情報を持っているのかにゃ?」
 マジカル・ロッドを携えた猫耳少女、西村・千佳(ga4714)が素朴な疑問を口にした。
「ええ、、人類の士気に関わります! クリスマスのマウたんサンタコスのデータとかっ!」
「‥‥本気‥‥で言っているようだな」
 L45・ヴィネ(ga7285)、俯いて瞑目。
「マウたんにあの衣装を着せたのは『心配させられた部下一同』だった筈。つまり、中尉があの一件の首謀者だったのです!」
 謝れ。アナートリィに謝れ。
 歩以外の7人が、内心で突っ込みを入れていたとしても尤もな話。
「と、とにかく、ストライクフェアリーの人たちを無事助け出すのだ〜」
 小野塚・美鈴(ga9125)が何となく前向きな方向性を示したその時
「見て!」
 丘の頂に差しかかろうとしていたジーザリオは、短い叫びを受けて速度を落とした。
 なるほど。眼下の木々の隙間に、今回の「標的」と思しき一行が見え隠れしている。
「ではここからは、我々だけで行くとしよう」
 最初に車から下りたのは、御山・アキラ(ga0532)。
 捕虜の自衛用に用意した小型超機械を、歩に託す。
 キメラ達と反対側の斜面を下りてゆく軍車両を見送った能力者は、鋭い目を獲物に向けた。


**
 UPC職員が「ラミア」と呼ぶ2体のキメラは、その名に相応しい風貌をしていた。
 すなわち上半身は美しい女性、腰から下は蛇という姿である。
 もっとも体躯は2m以上。人間と誤認することは勿論、戦闘へのためらいが生じることは在り得ない代物だ。
 彼女達につき従うリザードマンも同様。こちらはもっと醜悪で、二本の足で歩く巨躯のトカゲにすぎなかった。
 二体ずつ対になり、岩のような肩に棒をかついでいる。
 誇らしげにぶら下げられているのは‥‥。
「あれは‥‥!」
 人形のように動かない、アナートリィ達8人だった。
「うに、キメラが来たにゃ。まずは僕たちの出番なのにゃ♪ 皆を助けるために頑張るにゃー♪」
 樹木の陰に小柄な体を潜ませた千佳が、努めて明るく振舞った。
「うにゅっ! アナートリィ中尉達を、全員無事にお助けするの!」
 人型形態に変形したバハムートの中で、プリセラも力強く頷く。
 背丈より大きなエネルギーキャノンを構え、準備は万端だ。
「釣れればそれでよし、釣れなければそのまま周りから削るだけ」
 2人と共に囮役を担うアキラは、携行したドロームSMGに貫通弾を装填する作業に余念がなかった。
 呟く口調に抑揚はなく、黒い瞳に感情も見えなかった。それは彼女の能力が既に、目を醒ましている証だ。
「‥‥射程範囲まであと数秒」
 アキラがSMGのを眼下の林道に向ける。スコープの焦点は、リザードマン。
「なるべくこっちにひきつけて見せるにゃ♪」
 千佳がマジシャンズ・ロッドを構え先手必勝を発動。
「どかあーーん♪ なの!」
 迷彩柄のバハムートが自らの号令とともに、斜面を蹴ってひと呼吸後。

「ギィィィィィ!!」
 SMGから射出された貫通弾に撃ち抜かれたリザードマンの咆哮が、薄暗い森に響いた!


**
「‥‥っ!?」
 だし抜けに地面に放り出されたアナートリィは、痛みと衝撃で意識を取り戻していた。
 うろたえるラミアとリザードマン達の姿が視界に入る。
 すぐ傍で赤黒い血を流して蹲っているキメラは、己と部下を括りつけた棒を担いでいた個体に相違なかった。
「なにが‥‥?」
 誰にともなく発した問いに答えるように
「仲間を助けるために‥‥マジカル♪ チカ、ここに見参、なのにゃ♪ マジカル♪ サンダー!」
 飛び込んできたのは、可愛らしい少女の声。
 猫耳と尻尾を持つ能力者が、軽やかにでロッドをふりかざし、ラミアとリザードマンの注意をひきつけて駆けるのが見えた。
「うにゅっ! その人達を返してもらうの〜っ!」
 別の方向から走りこんできたのは、迷彩模様に塗装されたバハムート。脚部と頭部に青白いスパークを走らせたそれが、エネルギーキャノンを両手で構え、引き金を引く。反動でAU−KVの上半身が揺れ、光の弾丸が真っ直ぐラミアに向けて放たれた。
「カンパネラの学生?」
 着弾。炸裂。
 ラミアの鳴き声が、辺りに響いた。
「こっちだ! 蜥蜴ども!」
 さらにSMGをホルスターに吊るした黒髪の女が、挑発するように身を躍らせた。
 携えるはミラージュブレイド。蜃気楼に似た朧を纏った刃が、リザードマンの鼻先で爪先で、ひらひらと舞う。
「UPCの傭兵か?」
 鮮やかな奇襲にアナートリィは思わず唸った。
 キメラの知能にレベルを合わせたわかりやすい陽動は、正規軍のそれに勝るとも劣らない。
 そして彼女らの狙い通り。
「キィィィィィ!!」
 爬虫類の脳でも馬鹿にされていると理解したのか、脅威と認識したのか。
 無傷のラミアが爪先を、3人の方に向けた。
 初撃で肩を砕かれたリザードマン以外の3匹が、尻尾と首を縦に振る。
「グォアアア!」
 忠誠の雄叫びか、戦闘を鼓舞する叫びか。
 3匹の蜥蜴は3人の傭兵にそれぞれ狙いを定めると「獲物」を打ち捨て、その背中を追い始めた。


**
 同じ頃、小山の麓に移動していたヴィネ、美鈴、悠、セレスタ、歩の5人は、林道の脇で開戦の様子を観察していた。
「囮班が行動を開始しました。‥‥私たちも攻撃を開始します」
 セレスタがゴーグル越しに紫の目を細め、仲間に伝達する。手にはサブマシンガン。
 きっちりとした戦闘装備で身を固めているものの、ククリナイフをぶら下げた腰は華奢な女性のそれだ。
「ラミアは1匹が手負いなのだ。でもリザードマンが1匹残っちゃったのだ」
「そのリザードマンも手負い、戦力的には問題ない」
 美鈴が呟いた少しばかりの心配を、ヴィネが払いのけた。言葉だけでなく、己の「練成強化」を付与することで。
「うん、遠慮無く油断無く容赦無く」
 悠が淡い輝きを纏った「紅炎」の柄をぐっと握った。反対の手には白く静かな「月詠」。
「挟撃の形になるのが望ましいな。囮班と反対方向から回り込もう。ヴィネと佐渡川は、中尉たちの救助を最優先で」
「無論だ」
「大丈夫です!」
 2人のサイエンティストは力強く頷く。と、ヴィネが横に立つ歩をまじまじと見つめた。
「ところで歩、その格好は如何に‥‥」
 冷静沈着な才媛の表情に浮かぶのは、ある種の困惑。
「良くぞ聞いてくれました! 魅惑対策です!」
 瓶底眼鏡の少年は胸を張った。そう、セーラー服を着込み、額に「れいちゃんのお面」を乗せた格好で。
「これでキメラの目には、僕も皆さん達と同じ可憐な乙女に見える筈。つまり、異性にしか効かない魅惑を使うことはないでしょう!」
 いくらなんでもラミアの視力を侮りすぎではないか。女性達の胸に何かが去来したが、誰も口には出さない。
「で、では攻撃を開始します!」
 気を取り直すようにセレスタが口火を切り
「行っくのだ〜!‥‥と歩さん、中尉たちを助け出したら、この武器を貸してあげてなのだ」
「確かにお預かりしました!」
 小銃「S0−1」を構えた美鈴が強襲弾を発動。
「派手に行こうか!」
 傭兵たちの歓喜の宴の幕が、切って落とされた!
 黒鎧「ベリアル」に身を包んだ悠が、瞬く間にラミアに迫る。
 ぬらりと蠢く蛇女の間合いに飛び込んだ小柄な身体が、「紅炎」を躊躇なく振り上げた。
「ギャアアア!」
 ひんやりした皮膚を裂く感触にも悲鳴にも、悠は顔色一つ変えない。
 返り血を浴びながら紅い刃を振りぬき、半回転。
 主の危機に駆けつけた手負いのリザードマンをも
「煩い」
 もう片方の白い刃で軽くいなした。
「邪魔なのだ!」
 すかさず美鈴のSR0−1が、悠の斬ったラミアとリザードマンに止めを刺す。
 爬虫類の血飛沫が生臭く広がるが、気にする素振りは見せない。
「おふたりとも今です! リザードマン達が戻ってこないうちに! これも持っていって!」
 サイエンティストを護りつつ、もう1匹のラミアを牽制していたセレスタが叫んだ。
 指差す先には拘束されたままのアナートリイ以下、8名の姿がある。
「了解した!」
「任せてくださいっ!」
 捕虜達に向けて地面を蹴る、歩とヴィネ。
 セレスタと対峙していたラミアも、慌てて2人を追おうと身を翻す。
 それを待ちかねたように。
「蜥蜴がいなくなっては、何もできないか?」
 ラミアの背中を見た悠が、一気に駆けた。走りながら発動させた「流し斬り」は
「隙だらけ、だ」
 冷静を欠いたラミアの息の根を止めるのに、十分な威力を有していた。


**
 アナートリィ達のもとに駆けつけたヴィネと歩は、8人の無事をその目で確かめていた。全員衰弱はしていたが、命に別状はなさそうだ。
「マウた‥‥いや、マウル少佐の命により参りました。ご無事で何よりです! 何しろあなたの持つデータは‥‥」
「データ?」
 セーラー服+お面の少年の物言いに、アナートリィは困惑した表情を浮かべた。
 味方であることは間違いなさそうだが、だがしかし。
「‥‥まぁその話は後でゆっくり。念のために『虚実空間』を、皆さんに使わせてもらいますよ」
 超機械PBが、縛られたままの8人に向けて電波を発する。幸い魅了状態に陥っていた者はなく、機械が反応することはなかった。
「敵戦力は順調に殲滅中だ。これより撤収を開始する」
 ヴィネがアーミーナイフを取り出し、捕虜達の縄を切った。擦り剥けた手首や足首を練成治癒で塞いでやる気遣いも忘れない。
「感謝する」
「中尉、覚醒できるならこれらの武器で自衛をお願いします。部下の皆さんも」
 いち早く自由になったアナートリィに、歩が武器を渡す。
 セレスタの小銃S−01に、美鈴とアキラから託された超機械、そして何故かバトルハタキ。
「‥‥」
 ロシアの青年はしばし考え込んだ後、
「だ、そうだ。これは君が使うといい」
「ちょ、中尉、ひどい!」
 解放された部下にハタキを押し付けるのだった。

「こちらヴィネ、中尉以下8名の救出に成功! 囮班も頃合を見計らって撤退を!」


**
 囮班の一員としてロッドを振るっていた千佳のトランシーバは、ヴィネからの通信を受け止めていた。
「にゅ、ヴィネちゃん、わかったにゃ! ふたりとも、悪い子退治完了にゃ♪ 救出も出来たみたいだし、そろそろ撤退するにゃ♪」
「心得た」
 ミラージュブレイドでリザードマンと対峙するアキラ、
「うにゅ♪」
 レーザーキャノンをぶっ放すプリセラも、それぞれ了解の意志を示す。
「グギャアアア!」
 リザードマン達はラミアの死を悟っているのか、どこか自棄気味に鋭い爪を3人の傭兵に向け続けていた。
 そう、千佳の「獣突」に吹き飛ばされようとも
「君達を狩るのはお終いなのっ♪ ばいばいなのよ〜!」
 竜の翼を発動し、離脱を図ろうとするバハムートにも執拗に追いすがる。
「しつこいな」
 アキラのSMGが引導を渡すかのごとく火を噴いた。
 貫通弾をくらったリザードマンが、斜面をごろごろと転がって、落ちてゆく。
「援護するのだ!」
「さあ早く!」
 救助班から駆けつけた美鈴、セレスタの火器が残り2匹の足を止めた。
 ロッドを握りしめた千佳がすかさずジャンプし、蜥蜴の頭を力任せに殴る。
「トリは僕に任せるにゃ♪ 必殺! マジカル♪ ハンマーにゃ!」
 倒れたキメラを見下ろして無邪気に笑むと、身を翻し仲間のもとへと急いだ。
「正義の魔法少女は、何があっても負けないのにゃ♪」


**
 救出から数時間後。
 アナートリイ以下8名を護衛した能力者は、UPC基地へ到着していた。
「ご苦労様でした。中尉達に貸与下さった武器は、整備後お返しします。ラスト・ホープからの迎えが来るまで、しばしの休息を。希望があれば遠慮なく」
 司令官の労いに、最初に口を開いたのはセレスタ。
「シャワーを貸していただけませんか‥‥?(汗で下着までびしょ濡れです‥‥)」
 恥ずかしそうに俯き、ささやかな願いを呟く。
「お安い御用ですよ」
 頷く司令官に一礼し、銀髪の乙女はオペレータに連れられ、バックヤードへ続く扉の向こうに消えた。
「にゃ♪ 僕たちも汗を流したいのにゃ♪」
「うにゅ♪ みんなで洗いっこなの♪」
「悪くないな」
「悪くないのだー」
 千佳、プリセラ、ヴィネ、美鈴の4人組も仲良くそれに続く。

 一方、司令室に残ったアキラ、悠、歩、アナートリィはラスト・ホープのマウル・ロベル少佐とモニタ越しの対面を果たしていた。
「トーリ‥‥アナートリィ中尉! 無事でよかった!」
「ご心配をおかけしました」
「べ、別に心配なんかしてなかったわよっ! あんた達もありがとね。トー‥‥中尉からもお礼をいっときなさいよっ」
 ツンデレの見本のようなマウルの対応に、顔を見合わせ笑む傭兵たち。
 と、そこで。
「ところでマウた‥‥いえ少佐。提案なのですが」
 歩が瓶底眼鏡の縁を怪しく光らせて、不敵に笑んだ。
「どうでしょうここは、『心配させられた上司』として、中尉に恥ずかしい格好をして広場に立って頂くというのは。バニーでも水着でも褌でも、少佐のお気に召すまま」
「なっ‥‥」
 不埒な提案に耳まで赤く染め、ぎっと発言主を睨みつけるアナートリィ。
「ふぅん。面白いわね。考えとくわ」
 モニタの向こうのマウルは微笑み、ゆっくりとモニタのスイッチをオフにする。
「帰還したらすぐに出頭しなさい、トーリャ」
 画面が暗転し、部下を愛称で呼ぶ声が最後に聞こえた。