●リプレイ本文
春の昼下がり。
老舗コテージ「コンシュルジュ」は、9人の客を迎えていた。
「今回、ツアコン兼任で参加させて頂くことになりました。よろしくですっ」
カンパネラ学園印の旗を手にした笠原 陸人(gz0290)が、8人に向かって頭を下げる。
生徒会スマイルの影に見え隠れするのは、羨ましそうな、ちょっと苛立った様な色。
「今回カップルさんが2組いらっしゃってますし、各自行動といきましょう。それぞれ滞在中に、お部屋の水と電気の点検と、キメラ退治と、試食をして頂ければOKですー」
(リア充めっ! もげちゃえ! 爆ぜちゃえ! う、羨ましくなんかない! 僕だって女の子4人とハーレム編成だもん!)
鍵を配る少年が、その裏でしっとに身を焦がしているなど、誰も知る由はない。
★月森 花(
ga0053)&宗太郎=シルエイト(
ga4261)の一泊2日
*15:00
無垢板のフローリングに漆喰の壁、アンティークガラスの窓。女の子なら誰もが憧れる、カントリー風のインテリア。
部屋の扉をあけた花は、目の前のたたずまいに歓声を上げた。
「わぁ宗太郎クン、素敵っ!」
瞳を輝かせて振り向く恋人に、笑顔を返す宗太郎。
「ああ、悪くない。花好みの部屋でよかった」
忙しい傭兵稼業の合間を縫って来て正解だったと噛み締めながら。もっとも男目線で
(‥‥ツインベッドか‥‥ダブルがよかったなぁ‥‥)
天真爛漫な少女とは異なる箇所を、さりげなくチェックする事は忘れない。
「ん、宗太郎クンと一緒なら、ボクはどこだっていいんだよ? 誘ってくれてすごく、嬉しかったんだ」
可愛らしく小首をかしげ、花が2歩3歩、宗太郎に歩み寄った。
「これから始まる大規模では、別々の場所でのお仕事だし‥‥寂しくないように、今日だけは‥少し甘えようかな‥」
頬だけ胸にそっと寄せて、囁く恋人。温かい体と甘い香りに、男の中でナニかが高まる。
「と、と、とりあえず依頼を片付けようっ」
心拍数の急上昇を自覚しつつ、宗太郎は慌てて身体を離した。
(うん、まずは仕事だ。時間はまだまだあるんだし‥‥って俺はナニを考えてるんだっ!)
ナニが何なのかは、能力者諸兄のご想像にお任せするとしよう。
*17:30
二人がひと仕事‥‥花がリードする形の水回りと電気の点検、宗太郎の割った薪を使っての暖房の試運転‥‥を終えた頃。
「わぁ、もう薄暗い」
春の陽は既に山の向こうに沈みかけていた。暖かかった風にも、夜の冷たさが混ざり始めている。
「キメラ退治は、食後のがいいんだけどな」
2人は新メニュー試食のため、林道をレストランへと向かっていた。
花は薄ピンクのワンピース、宗太郎はスーツに身を包んでいる。
暮れ時には少し薄着が過ぎたのか、少女の細い肩は寒そうにすぼまっていた。
「手、冷たくなってきちゃった」
オレンジ色の夕陽が、ふたりの影を道に黒く落とす。
影たちは手を繋いで見えるのに、体温を持つ実体たちの指は、未だ絡まない。
「花」
一歩前行く宗太郎が前を向いたまま、掌を広げて見せた。
「冷たいんだろ」
「‥‥あ、うん」
意図を察した花が笑みとともに、応じようとした瞬間。
「キシャアア!」
狙ったような間の悪さで、狼型キメラが4匹、木々の隙間から現れた。
私怨、も、もとい能力者としての使命感から、宗太郎の髪が金に燃えあがる。
「邪魔しやがって‥‥絶対に許さねえ!‥‥ちゃっちゃとかかって来いよ。俺をヤるなら、槍を構えてねぇ今がチャンスだぜ?」
恋人の豹変ぶりに驚くことなく、花も銃を抜く。
「宗太郎クン、夕食前にちょっぴり運動しちゃおう!」
‥‥手、繋ぎたかったんだからっ。
*23:30
天窓から月と星の光が降り注ぐ中、花は宗太郎のベッドサイドに座り込んで、寝顔を愛しげに眺めていた。
明日には「傭兵」に戻らなければならないけれど、今日の二人は間違いなく「恋人同士」だったと思い返しながら。
例えばレストランで、お互いのメインディッシュを一口ずつ食べさせあったこと、露天風呂で広い背中を流したこと。
そして今しがた、少しさびしげに一人ずつのベッドに潜り込んだ彼の「おやすみ」を。
「もう、宗太郎クンったら」
花は俯き、己の唇を指でなぞった。何かを思い出すように、或いは思いを馳せる様に。
「ボク、離れてると安心できないんだから」
しばし考え込み、宗太郎がくるまっている毛布の端を捲った。小さな体をするりと滑り込ませ、熟睡する男の肩口に頭を預ける。
「おやすみ、宗太郎クン」
囁いた愛らしい唇が、そっと落ちた。
★Cerberus(
ga8178)&白藤(
gb7879)の一泊2日
*15:00
「告白からドラマ始まる」。
古い映画か歌謡曲のような思いと、それを託すためのセント・クロスを二人の傭兵は、それぞれ抱いていた。
「白藤、よろしくな。依頼でこんな風に誰かと一緒になることなんて久しぶりだ(さて、今日は決めるとしよう‥‥)」
長躯のダークファイターは少ない言葉の影で
「けーちゃんと一緒ならこの依頼、成功間違いなしや!(自分の気持ちに正直になりたい、な‥‥)」
小柄で奔放なスナイパーは高鳴る胸のうちを隠すようなはしゃぎっぷりの裏で。
出会ってから重ねた時間が短いことも、先など知れぬ身であることも、彼らには関係がなかった。
在るのは只−−。
「ほな、お仕事はよすませてしまおっ。まずはキメラを倒さんとっ」
「あ、ああ」
白藤はCerberusを見上げ、前方を指差した。キメラが棲んでいると思しき雑木林の方向を。
「生徒会の子は夜行性や言うてたけど、夜は他にしたいことあるやん? ‥‥銃も蛇剋も持ってきたし、けーちゃんが一緒やから、何もこわくない」
「そうだな、邪魔は片付けてしまおう」
在るのは只、信頼。願い。傍にいて欲しいと。
*20:00
依頼されていた案件‥‥すなわちキメラ退治と設備点検、料理の試食‥‥を終えた二人は、心地よい疲労を抱えて客室に帰り着いていた。
コテージの周囲は夜の帳に包まれており、ラスト・ホープの空に浮かぶのとは異なる星座が、頭上で優しくまたたいている。
「綺麗やねー」
ウッドデッキに作りつけられた露天風呂に爪先を浸しながら、白藤が声を上げた。
グラマラスなボディをバスタオルできっちりと包んだまま、乳白色の湯が満たされた浴槽へと身を滑らせる。
森の夜は昼間の温かさが嘘のような冷え込みで、湯気と息がくっきりと白い。
「けーちゃん、早くぅ」
ニ、三歩遅れてCerberusも湯に浸かった。肩が触れる程近くで脚を伸ばす白藤の横顔が、湯気の向こうに見え隠れしている。
頬、首筋、それに豊かな胸元は桜色。
「ぬくいわー。って、ちょ、あんま見んといて‥‥」
肩まで湯に潜る娘に、掛け値なしの愛しさを覚えはじめたのは、何時からだっただろうか?
「気持ちいいな‥‥こんなにもゆっくりしたのは何年ぶりだろう」
黒い髪に、男はそっと手を伸ばした。
「こんなときにいうのもおかしいかもしれないが、俺は白藤の傍にずっといたい」
頭をゆっくり撫でながら、ぽつぽつと言葉を選ぶ。
「‥‥冷めた心を暖かくしてくれた白藤の居場所になりたいな」
「‥‥」
奔放なはずのスナイパーは、押し黙ったまま顔を上げようとしない。
「返事は、すぐじゃなくていい。ゆっくり考えて」
くれれば。
「‥こないな野良猫‥」
身を離しかけたCerberusの手を、細い指が握った。
「傍に居ついてえぇなら居たい‥‥」
消え入りそうな囁きとともに、摺り寄せられる体。
「白藤は、けーちゃんの‥‥傍に。」
ミルクを溶かした温かさの中で、ふたつの影がひとつに蕩けた。
「けーちゃん、寝る前に、ハーモニカ吹いて。白藤、歌、唄いたい」
*07:30
それぞれの思いを込めたセント・クロス。
同じ寝床で目を醒ました2人は、互いの宝物の首に、クロスを託した。
「受け入れてくれてありがとう、感謝とそしてこれからのためにな」
「白藤、けーちゃんの飼い猫みたい」
チョーカーの皮紐を首輪に例えたのか、白藤がくすりと笑む。Cerberusも釣られて笑ったが
「飼い猫か‥‥本当に大きな猫だが、一緒にいて‥‥」
飽きない猫だ。
最後の一節は猫の唇に塞がれ、音になることはなかった。
★ガールズ4人+1人の1泊2日
「ああ、羨ましいなぁ‥‥」
2組のカップルを見送る陸人を現実に引き戻したのは、西村・千佳(
ga4714)だった。
「僕では不満かにゃ? せっかくだから一緒に行くにゃ♪」
「わあああ!」
手をとられて狼狽する男子に構うことなく、コテージに向けて歩き出す。
その半歩後ろでは
「お泊り楽しみなのだ〜 獅月 きら(
gc1055)さんと同室なのだ〜」
「楽しみですね、仲良くして下さいねっ。お風呂も一緒にいきます〜?」
カンパネラ学園制服姿の小野塚・美鈴(
ga9125)と、セーラー服姿のきらが、微笑みながら続いた。
新緑の隙間から差し込む陽射しが、ふたりの髪をきらきら輝かせている。
「ところで陸人、水周りの点検の件だが」
と、一番後ろで図面を広げながら歩くL45・ヴィネ(
ga7285)が顔を上げた。
「交換した部分について確認してきたい。特に水道は、交換した部分とそうでない部分の境目からの漏水が多いからな。目星をつけておくと修復が容易だろう? 電気は、最初に配電盤などの中枢的な部分を確認し‥‥陸人、聞いているのか?」
横に並んだ少年が、図面ではなく地面に目を落としているのに気づいた才媛は頬を膨らませた。
「だってムネが‥‥いやあのっ、柔らかいなぁとか考えてませんから!」
「‥‥」
憮然とした表情で図面を丸め、陸人の頭をはたくヴィネ。反対側で千佳が歓声を上げた。
「にゅ♪ 到着にゃ♪」
4人+1人の部屋は、二つのダブルベッドルームが室内ドアで繋がった構造だった。
「ダブルベッドなのだ〜 獅月さんと一緒に寝るのだ〜」
マットレスにダイブして喜びを表す美鈴。電気配線を図面片手に念入りに確認するのはヴィネだ。
「僕は水回り調べるにゃね♪ 笠原君ときらちゃんも一緒にやるにゃ♪」
「はーい」
デッキの露天風呂から聞こえる千佳の声に、陸人が立ち上がる。そこにきらが声をかけた。
「初めまして。自分は事情で途中から学校に通えていないので、学生である同い年の笠原さんが少し羨ましく眩しく感じています」
「は、はいッ」
上擦る声とともに、盛大にひっくり返る荷物。
初対面の美少女が至近距離にくるだけでも非常事態なのに、話しかけられたものだから、処理が追いつかなかったようだ。
きらは微笑みながら荷物を拾うのを手伝い、ついと陸人の目を覗き込む。
「‥もし時間があったら、学校でどんな事してるのかお話聞かせて下さいね」
精一杯平静を装う16歳男子。そのすぐ傍で
「薪ストーブってどうやって使うんだろう?」
ベッドから降りた美鈴が、床に積まれた薪束を不思議そうに眺めていた。
水周り、電気系統の確認を終えた4人+1人は、コテージから少し離れたレストランで、試食(?)をこなすこととなった。
白いクロスをかけたテーブル。お洒落をして着席した4人に、陸人は目を丸くしていた。
(ヴィネさん‥‥シンプルなブレザーなんだけど似合うよなぁ‥‥千佳さんもいつものワンピースと雰囲気違うし‥‥ってか美鈴ちゃんのガンマンときらさんの巫女さんは反則だと思うんだ‥‥)
僕、なんかものすごく役得を味わっているかも。
眼福に酔いしれる少年と少女たちの前に
「お待たせ致しました」
ウェイターがうやうやしく、皿を供する。
触手キメラのサラダ、鶏キメラの丸焼き、魚キメラのトマト煮込み、パスタ型キメラなどなど。
「‥‥パスタ1個ずつ顔ついてる‥‥」
「普段食べられないもの食べないとにゃ♪ 笠原くんも一緒にゃ♪」
半泣きになる陸人を尻目に、千佳は鶏キメラを器用に捌く。
「うむ、美味なキメラも多い。そこは分かって貰いたい処だ」
ヴィネも魚キメラの身をトマトソースと和え、上品な手つきで口に運んだ。
「いや美味とかそういう以前に、食べ物に見えない‥‥」
「陸人は見た目に拘りすぎだ」
「ってか触手動いてますよ無理! 美鈴ちゃんだってそうだよねっ」
顔のついたパスタを放り投げ、助けを求めるも、
「ん〜、何のキメラ使ってるだろう〜? 味は大丈夫かな〜?」
美鈴は得体の知れないパイを美味そうに咀嚼している。
「きらさんはっ‥‥ああずるいっ、一人だけ普通のお肉っ」
「私、味には結構うるさいですよ?」
まぁ一人ぐらい、肉料理担当がいてもいいと思うんだ。
食後の運動に、山道でキメラを退治した4人+1人は、満ち足りた気持ちで部屋に戻ってきていた。
ぶった切りが過ぎる? ジスウ・セイゲーンというキメラが出たのだろう。
「さ、お楽しみの露天風呂にゃ♪」
ぽんぽん服を脱いで、湯に飛び込んでゆく乙女たち。陸人は妄想を抱えてウッドデッキに背を向けている。
「お星様がきれいなのだー。獅月さんの背中流しちゃうのだー」
「やだ、くすぐったいですっ♪」
(な、なにをしているんだああ)
我慢する青少年。なのに、ああなのに
「ん? 陸人も折角だから一緒に入ったらどうだ? 何、知らぬ仲ではあるまい、気にするな」
「笠原くん入っていいにゃよ♪ 美鈴ちゃんときらちゃんはお着替えすませたのにゃ♪ 僕もヴィネちゃんもタオルは巻いてるにゃ」
ヴィネと千佳が声をかけるではないか。これで乗らなきゃ男じゃないね。
「そ、そうですか‥‥じゃあお言葉に甘えて‥‥」
16歳は期待に主へいs‥‥もとい、胸を膨らませ振り向いた。その瞬間。
「に!? みゃー!」
「うわッ!」
最高のタイミングで、春の嵐が吹いた。
緑の葉とタオルを巻き上げ、南から北へ。あくまで偶然、自然の悪戯。
しかし
「だが見るな!」
「みみみみてませんみてません! ってか千佳さん僕のタオルとったら駄目!」
「僕のハダカを見たお返しにゃ!」
二次災害は発生したのは、必然だったようだ。
日付が変わる頃合、4人+1人の部屋は静寂に包まれていた。
胸がはちきれそうなイルカ柄パジャマ姿の美鈴は、きらとベッドで抱き合って寝息を立てている。
「温かい‥‥」
もうひとつのベッドで眠るのは、浴衣に身を包んだヴィネと千佳。
否、ヴィネの胸枕に、千佳が顔を埋めているというのが正しいかな。
そしてその端っこから
「うー」
呻き声を上げて、陸人が起き上がった。
「全く、『可哀想だからベッドの端くらいは許す』とか『隅っこで良ければ入っても良い』とか。そのほうが残酷なんだからっ」
一人呟き、毛布を持ってのそのそと床に移動する。
小脇にはきらに手渡された、ふわふわくっしょん。
影はごろんとひっくり返り
「おやすみっ」
3秒後に夢の世界に落ちた。
**
1週間後。
「コンシュルジュ」は、ご令嬢ご一行のもてなしに成功したという。