●リプレイ本文
★午前9時45分。
学園のシンボル、大鐘楼の足元。
今回のツアー参加者、聖・綾乃(
ga7770)は、周囲を見回しながら声を上げていた。
「すっごいですぅ〜☆ ココがドラグーンさんの学び舎なンですねぇ〜? とってもワクワクするですっ」。
「おう! 学園の施設まだ把握してねぇんだよな! 今から楽しみだぜ!」
ジャージにランニング姿のガル・ゼーガイア(
gc1478)も、ワクワクを抑えきれない様子だ。
一方、同じ新入生でも功刀 元(
gc2818)は趣を異にしており
「花の学園生活ですー♪ あわよくばステディな女子をゲットしたいですね♪」
17歳。うん、17歳。女の子が気になるお年頃らしい、シンプルな意気込みを見せていた。
「こないだ入ったばかりのつもりで居たら、もう後輩が入る季節なんてね」
そんな新入生達を眺める在校生はアレクセイ・クヴァエフ(
gb8642)。
「そろそろ10時だが‥‥まだ来ていない者がいるな」
と、そこへ。
「やばっ寝過ごしたっ!?」
「がぅ、引率役が遅刻したらいけない‥‥」
ばたばたと二つの足音と声が、駆けて来る、。
ひとつは男子用制服を着込んだ御剣 薙(
gc2904)。もうひとつは赤毛の在校生。
「‥‥今日の引率することになった佐倉・咲江(
gb1946)よろしくね。引率中寝ないように頑張るから」
眠たそうな表情と声で挨拶する先輩に向けて、しゅぱっと手が挙がった。
「はーい、先輩、しつもーん!」
声の主はオルカ・スパイホップ(
gc1882)。
「僕、戦争で義務教育をきちんと受けれてないし、よくわかってないんですけど。この学校、20歳以上の方がいますけど何でですか?」
軍学校故の事情を突いた質問にも、咲江は全く動じない。欠伸をしつつ、一言。
「‥‥ん、色々居たほうが‥‥面白いから‥‥じゃないかな」
いいのかそれで。皆の頭に何かが去来したが、そこはそれ。
「ソウマ(
gc0505) 君、 牧島 徹(
gc0872)君もいるでありますね。早速出発するであります」
取りなすように3人目の在校生、アーシェリー・シュテル(
gb2701)が声をかける。
さあ出発! 学園ツアー!
★バトる。
一行が訪れたのは地下1Fの、AU−KV仮想練習場だった。
コンソールやモニタが壁面に配置された室内に、10台以上の筐体が等間隔に設置されている。
「なかなかよく出来ていますね」
興味なさげを装いつつ、ソウマがカンパネラ学園制服の裾を翻し、筐体に滑り込んだ。
前回の依頼で負った怪我が完治しないまま参加した徹も、後に続く。
「微妙に体が痛いが、シミュレーションなやれないことはない。楽しめる時に遊ばないと損だしな」
他のメンバーも搭乗。各々、シミュレータに電源を投入。
この機体はすぐれもので、AU−KVの実機データを仮想空間に読み込ませる機能を持っていた。
すなわち漆黒に塗装された薙のリンドヴルムも、元のパイドロスもそのままロードできるのだ。
「皆、シミュレータに入ったでありますか?」
経験者であるアーシェリーが、無線のスイッチを入れる。皆のレスポンスを確認したあと
「では使い方の説明をするであります、知ってる方もいると思うでありますが、おさらいとして聞いてほしいであります」
説明しながら、フィールドデータをロードさせた。
「すげえ!」
「わぁっ!」
ガルとオルカが歓声を上げるのも無理はなかった。
各機のメインウインドゥに、本物さながらの土のフィールドが現れたのだ。周囲の森の緑も、匂い立つほどリアル。
「ん、なんだ、この違和感は。反応がワンテンポ遅れてるのか。ま‥‥実戦は無理でも‥‥よし、慣れてきた」
「想像より動き易いンですねぇ〜コレ♪」
仮想風景の中、軽く基本動作を練習する10人。
「だいぶ慣れたでありますね。早速、模擬戦に移るであります。敵軍の旗を先にとった方が勝ち、なフラグ戦であります。組分けは‥‥」
各機の様子を眺めつつアーシェリーはさらにコンソールを操作し、データを送信。
Aチーム 佐倉 牧島 御剣 ソウマ ガル
Bチーム 綾乃様 アーシェリー 功刀 オルカ アレクセイ
「ではREADYボタンを押すであります。全機オン後、シミュレータの戦闘モードに入れるであります!」
声と同時に、各機コンソール中央のボタンが赤く灯る。
「行きましょー」
「了解」
すかさずボタンに親指をかける元とアレクセイ。他の面子も続く。
「戦闘開始!!」
★ROUND1
開幕と同時、フィールドをガルのリンドヴルムが駆けた。
スパークを纏った脚が地を蹴り、敵陣のフラッグを目指す。中ほどに差し掛かった時
「させないよっ!」
木陰から射られた矢が、その足を止めた。
射手はオルカ。得物は長弓「桜姫」。
「僕が相手っ」
ガルとの間合いが近いことに気づくと弓を背中に戻し、腰の蛇剋と匕首を握る。
すかさず発動、「流れ切り」「両断剣」。
リンドヴルムの関節部めがけて、振るわれる刃。
斬!
空振り。
「面白え!」
ガルがAU−KVの中で威勢良く吼える。
繰り出された。大剣が。風切る音と共に。
すんでのところで身をかわす少年。
紙一重。
銀の髪が舞う。
「フラッグは頂くよ!」
「させるか!」
楽しげに、だがガチで、攻防を繰り広げるドラグーンとダークファイター。
戦況は現時点、五分五分だ。
★ROUND2
ガルとオルカからやや離れた位置、B軍フラッグに近いフィールド端。
「さぁ‥‥やりましょぉか‥‥牧島さん?」
綾乃は可愛らしい顔に笑みを浮かべつつ真剣に闘っていた。
「望むところよ、ガイアが俺にもっと輝けと囁いてるんだ!」
ヘヴィガンナー、牧島が狙うは、小柄なエクセレンター。
「やんっ」
繰り出すフェイント混じりの重い弾で仮想の装備を抉り、ツクリモノの崖っぷちに追い詰めてゆく。
綾乃、窮地。後がない。
「終わりだ。おめーの見せ場は貰ったぜ」
呟きと同時に、徹はトリガーの指を
一瞬ためらったあと、引いた。
射!
「きゃうん!」
悲鳴とともに、吹っ飛ぶ少女。
無線を埋め尽くす、耳障りなノイズ。ややあって
「うぅ〜、酷いですぅ〜」
えぐえぐとしゃくりあげる声が聞こえてきた。
「う、お、悪かった、つい‥‥」
徹、狼狽。
銃を腰だめに戻し「崖下」まで降り、へたり込む綾乃に手を伸ばす。
「ほら、立てる‥‥」
刹那、響いたのは
「フッ‥‥牧島さん‥‥まだまだ‥甘いな‥ 」
ひんやりした笑い声だった。
「え?」
謀られた。
気づく間もなく。
「イジめっ子退散ーっ☆」
綾乃の両手の獲物が、無防備な徹を容赦なく抉った。
教訓。女の涙は怖い。
★ROUND3
綾乃と徹の痴話げ‥‥いや、死闘と真逆の位置、A軍フラッグ寄りフィールド。
「先輩、お願いします!」
「手加減など失礼なことはしないで全力で行くであります!」
ドラグーンの先輩後輩同士であるアーシェリーと薙が、肉弾戦を繰り広げていた。
優位を取るのは薙機。左右にステップを踏みながら間合いを詰め、繰り出すは中段蹴り。
「くっ」
初撃はかわしたアーシェリー機だが、さらにに叩き込まれた上下段蹴り、肘打ちまでを避けるには至らず。
装甲に後輩の拳が食い込み、打撃音と火花が散った。
「やるでありますね!」
コクピットの中で髪を赤く染め、アーシェリーは笑んだ。彼女はワクワクしていた。後輩の力に。
「だけど旗までは走らせないであります!」
★ROUND4
さてその頃、A軍のフラッグに近づくヘルヘヴンの姿があった。操縦するのは、元だ。
「コードネームこっそり大作戦ですー♪」
名の通り、戦闘を避け、バイク形態での接近。樹木の影に隠れて隠密に穏便に旗を目指す。
が。
「ん」
そうは問屋が卸さない。
旗まであと少し、というところで咲江のパイドロスが立ちはだかったのだ。
「見つけたよ」
あいかわらずやや眠そうな声。それでいて
「手加減しないよ」
容赦ない一言と、初撃!
「わっ」
戦闘形態のAU−KVを繰るドラグーンに、バイク形態で挑むのは厳しい。
慌ててモードチェンジを試みる元だったが
「ん、そう上手くはいきませんかー」
機動力の勝負は、ついたも同然だった。
★そして決着
「ん、B軍の刺客を退治したよ‥‥」
「退治されちゃいましたー」
のんびりとした咲江とやや悔しそうな元の声が、無線で全機に届く。
知らせに奮い立ったのは
「よし!」
B軍フラッグを守るアレクセイと戦っていたソウマだった。
防御力、攻撃力に勝るリンドヴルムを、生身ならではのフットワークで翻弄し
「えいっ!」
地を蹴り宙を跳び、フラッグに指を伸ばす。
スパークを纏ったAU−KVの腕が追いすがるが
「くそっ」
数センチ及ばず。
「やった!」
ソウマは満面の笑みを浮かべた。
「コノ勝負、A軍の勝チ!」
機械じかけの声が、全機に戦いの終焉を告げた。
★学食でGO!(回想付)
大鐘楼が昼を告げた学生食堂。
訓練後に「カンパネラの湯」で汗を流した10人はテーブルを仲良く囲んでいた。
否、仲良いというのには語弊があるかもしれない。
頬を桜色に染めた綾乃、咲江、アーシェリー、薙の女子陣は
「ほんとにお風呂を覗くとは思ってなかったです〜☆」
「お詫びに奢って下さいね」
スポーツドリンクやミネラルウォーターを口に含みつつ、男子に冷たい視線を投げつけていたし
対する男子陣は
「あ、あれは漢同士裸の触れ合いで友情を深めていた過程で起きた偶発的な‥‥」
「そうそう! 決して『やっぱ覗きは最高だぜ』なんて思ってねえのに! 思い切り桶ぶつけやがってよ‥‥」
挙動不審なソウマと、頭にコブをこしらえたガルを筆頭に
「やばかった‥‥あいつ黙ってりゃかわいいからな‥‥」
ナニを見たのか妄想か、ぶつぶつと呟き続ける徹、さらには
「そうだよ! 本番はツアー終了後の女子寮‥‥ふがっ?」
「いえいえお気になさらず。僕は見ようとなんてしてませんよ? まぁ棚ボタというか‥‥眼福でございました」
勢いよくわめきかけたオルカと、その口を塞いで微笑む元といった具合に、様々な反応だ。
「さて皆‥‥何を食べる?」
風呂上りで眠くなったのか、咲江があくびをしながら呟いた。
先輩らしく配膳をするつもりなのか、肉球柄のエプロンを身に着けている。
「何かオススメは?」
ナニかに浸っていた徹が我に帰り、顔を上げた。
「ジャガイモが入ってる料理は出るなよぉ」
ガル君、好き嫌いは良くないですよ。
「えーゆーけーぶい定食、オススメ。バターライスに魚肉ソーセージ炒めを盛ったバハムー丼、適度に辛いカレールー(だけ)のミカレールー、締めに冷凍林檎(リンゴブルム)。お得。パイドロスは開発中。皆これで、いい?」
咲江はエプロンのポケットからメモを取り出し、人数を書き込もうとした。
「先輩、鯖味噌定食でお願いします」
和食好きの薙のオーダーは、定番メニュー。
「じゃあ鯖味噌1、えーゆーけーぶい9で‥‥」
10分後。
「いただきまーす!」
元気な声が食堂に響いた。
「あー薙さんの、美味しそうですね。ちょっと味見したいなー。ボクのと取替えっこしませんかー?」
「じゃあ鯖とソーセージを‥‥」
「って元さん! それ僕のだー!」
「オルカくぅん、細かいこといいっこなしだよー」
軽いバトルを勃発させつつも、皆ランチを楽しんだのであった。
★大鐘楼
お腹の満ち足りた一行は、大鐘楼に登っていた。
学園の敷地はもちろん、透明ドーム越しに海まで見渡せる絶景に、皆歓声をあげる。
「心に刻もう、この景色を。きっとここは僕の大事な場所になる‥‥」
銀髪を風になびかせながら薙が呟く横で
「ん、ここの説明するね‥‥」
午前中よりさらに眠たそうな咲江が、丸暗記したと思しき解説をつらつらと喋った。
「わ、でっかい鐘! タイミングよく鳴ったりしないかな?」
オルカは鐘とアレクセイの顔を交互に眺めて素朴な疑問を口にし
「え、僕には聞くなよな、本当に知らないんだ」
ロシアの少年は、困ったようにぷいと横を向く。
と、その時。
「お、鐘が」
ソウマが上を向く。
鐘が、鳴った。
高らかに厳かに、青空に音色が吸い込まれてゆく。
「‥‥こんな時間に鐘がなるなんて珍しいであります‥‥ッ?」
同じく鐘を見つめていたアーシェリー、絶句。
彼女が見たのは。
「108回鳴らしてやるぜ!!」
除夜の鐘と勘違いしたガルが、鐘を力任せに揺する姿が在った。
ついでにいうと鐘の隅っこに「俺参上」と落書きまで済ませていたりする。
「こんな事するのは俺が初だよな!」
得意げに胸を逸らし、鐘を揺らす熱血少年。
「折角みんなで集まったんだから、記念写真とりませんかー? ガルさん、カメラ持って降りてきてー?」
元はにっこりと微笑み、皆を呼び寄せる。
「いちたすいちはー、にー!」
かくしてツアーの思い出も撮影完了!
★そして伝説へ
さて、この話には少しオマケがある。
舞台は解散後の女子寮。
厨房の勝手口横に伸びたダクトから、1Fの天井と2Fの床の隙間に侵入した者どもがいた。
‥‥ガル、徹、オルカ、元、ソウマ。そして乗り気ではないが
「僕まで、つ、付き合わせるのか‥‥」
「漢にはやらなきゃいけねー時がある。今がその時だ。気合入れろ!」
徹の気迫‥‥もとい、漢の友情パワーで引っ張られてきたアレクセイの6人である。
「さ〜て、ここからが本番だぜ、グヘヘ!」
カメラを構え、気合を滾らせたガルを先頭に、一行は隙間を這って進んだ。
「余裕あれば女子の今日の下着の色なんかも確認するぜ!」
「おう! 綾乃のとこに行くまでは倒れるわけにはいかねぇ!」
いやそれはどうなんだ。ツッコミなど、もはや誰の耳にも入らない。
下調べの通りなら女風呂の天井裏は、遠くない筈なのだ。
「どこか板を外せる箇所がある筈です」
ソウマが冷静に呟き、覚醒した。
発動するは「探査の眼」と「GooDLuck」。
エキスパートの能力と運を無駄に駆使し、眼下に広がる楽園への扉を探す。
「あった! そこの板です!」
「おっけー!」
オルカが顔を輝かせ、ソウマが指差す板を横に除ける。我先にとアレク以外の5人が群がり下を覗いた。
そこには確かに、楽園があった。
「こ‥‥これは‥‥!!」
「やっぱ覗きは最高だな、男の夢! 浪漫! 宿命だ!」
だが男どもは忘れていた。
楽園と自分達を隔てるのが、薄い板1枚だということに。
そしてそれは
「ね、僕にも見せてよ」
オルカがガルと元の隙間に体をねじ込んだことで、全員が思い知ることとなる。
みしり。
「『みしり』?」
「やば、抜け‥‥!」
嗚呼、気づいたときには既に遅し。
「きゃあああああ!!」
「何をしているでありますかー!」
哀れ、脱衣所に落下した6人を、女子達の悲鳴が迎え撃った。
その後どうなったのかは、読者諸兄の想像にお任せしたいと思う。
合掌。