タイトル:襲来!? 魔の触手マスター:クダモノネコ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/07/27 10:47

●オープニング本文


 その事件は、じっとりと蒸し暑い夜に、カンパネラ学園旧校舎の裏手で端を発した。
 演習以外では使われることも立ち入る用事もない、棄てられた学び舎。人の目届かぬ周辺には、膝の高さほどまで雑草が生長し、むっとした草いきれが立ち込めている。
 そんな場所に、何故「彼女」がいたのかは、この際おいておく。
 問題は、「彼女」が、とてつもない危機に晒されているということだ。

「いや、ちょ、ちょっと、やめてくださぁい!」

 科学部新米部員の少女は、己の身に起こったことが、未だ信じられずにいた。
「わ、私が悪かったですぅ! もうここに生態実験の廃材を棄てたりしません!離して!」
 そう、草むらから現れた触手状のつるに、両手両足をからめとられ、身動きひとつ出来なくされていることに。

「約束しますぅ! 面倒でもちゃんとキメラゴミの日に、分別して出しますぅ!」
 得体の知れない恐怖に、己のささやかな罪状を白状してしまうあたりが、能力者とはいえまだまだ入学してまもない1年生である。
 しかし無理らしからぬことだった。両手は頭の上にまとめられ、ミニスカートの両足は肩幅より大きく開かれてしまっているのだから。

「ねえ、お願いしますぅ! 許してくださぁい!」
 叫びが聞こえているのかいないのか、それとも無視しているのか。いたいけな女子生徒を捕らえるつるは、緩む様子も無い。
 しかも彼女にとって絶望的なことに、つる状の触手は「獲物」を拘束してもなお、自由になる手を2本持っていたのだった。

「ちょ、だめですぅ! えっちな事、らめえ!」
 うねうねと怪しく蠢く緑色のつるが、清らかなる乙女の胸元に迫る。
 嫌なにおいのする液体を分泌する先端が、制服のネクタイをぐっと掴んだ・・・・!

「きゃあああーーー!」


***


 一夜明けて、生徒会事務部応接ブース。
「と、いうわけです。・・ま、入学して日が浅いとはいえ能力者なので、大事には至りませんでした。ゴミの不法投棄は先生がたに叱られたようですが」
 雑用係の1年生、笠原陸人は、昨晩の事件の概要を来客に説明していた。
「さて、ここからが本題です」
 資料から逸れた事務部1年生の目が、テーブルを挟んで向かい合う来客たちに「お願いモード」で向けられる。
 「科学部の1年生は何とか無事でしたが、触手キメラは逃げてしまったのです。いかに『覚醒』した能力者といえど、一人で退治しろというのは無理な話。でも、腕利きの人たちが皆で協力してくれれば・・・・。このままじゃ旧校舎演習にも、支障が出ます」
来客の返事を待つこともせず、鼻の上にのっかった眼鏡をずり上げ、両手いっぱいの資料をテーブル狭しと広げ、言葉を継いだ。
「えっと、これは科学部から借りてきたデータです。・・・・まず彼女が、事件発生現場に日常的に捨てていた実験の廃液を分析してもらいました。ほとんどは無毒化処理が行われていたのですが、わずかながら生体反応のある、キメラの体組織が検出されたとの結果がでています」
「ほお」
「問題は、この体組織が定期的に同じ場所に捨てられ、蓄積かつ濃縮していたことです。さらに最近の蒸し暑さは、培養槽のような温度と湿度。生命力旺盛なキメラの体組織が、周囲の雑草と有機反応を起こした結果が、触手の正体ではないかと、彼らは仮説を立てました」
「なるほど」
「それを裏付けるために、被害生徒の制服に残っていた粘液を解析した結果がこちらです。イデンジョウホウ? DNA? 何かよくわかんないけど、とにかく『個体を示す符号』が、部室内に残っていたサンプルと一致、つまり!」
「つまり? わかりやすく言うと?」

「実験キメラの成れの果てってことで、ボッコボコにしちゃってください!」

●参加者一覧

L3・ヴァサーゴ(ga7281
12歳・♀・FT
風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
伊万里 冬無(ga8209
18歳・♀・AA
メティス・ステンノー(ga8243
25歳・♀・EP
大鳥居・麗華(gb0839
21歳・♀・BM
ディアナ・バレンタイン(gb4219
20歳・♀・FT
九条・嶺(gb4288
16歳・♀・PN
上杉 怜央(gb5468
12歳・♂・ER

●リプレイ本文

 朝からの雨が上がり、月が顔を出したとはいえ蒸し暑く、不快指数は100%。
 そんな旧校舎の裏手で‥‥。

「女の子が襲われたのも、こんな夜だったそうね。任務遂行にはうってつけだわ」
 口火を切ったのは、サバイバルベスト姿の風代 律子(ga7966)だった。
 
 汗で肌に張り付いたランニングを摘み上げ、ぱたぱたするメティス・ステンノー(ga8243)が相づちを打つ。
「おまけに囮もとびっきり!」

 傍らの大鳥居・麗華(gb0839)はご機嫌斜めだ。
「とりあえずわたくしには引っかからない方に賭けますわ。キメラにはきっと、わたくしの美しさはわかりませんわ」
 金髪を揺らし、ぷいと横を向いた。
 
「やっぱ学校の依頼にはセーラー服やね、上杉 怜央(gb5468)くん♪」
 小さめのセーラー服に豊かな胸を無理やり押し込み、パック入牛乳を手にしているのはディアナ・バレンタイン(gb4219)。
 
「ボクはこう見えても一人前の男になりたいと思っています! だからお姉さん達を守るため一生懸命がんばります!」
 青い髪を揺らし、拳を握った怜央が決意を新たにした。
 ‥‥そう、可憐な男の娘。セーラー服だけど男の娘。
 
「まぁ、心強い。一緒に頑張りましょう。では作戦ですが」
 そして月光を金髪に映した九条・嶺(gb4288)は、おっとりと本題を切り出すのだった。
 
 
 「キメラの数も、強さもわからないから、うかつな行動は禁物ですね。2班に分かれて探すのはどうでしょう」
「賛成。班わけはどうしたものかしら」
 律子が頷き、考える素振りを見せる。


「うふふぅ〜麗華さん、ヴァサーゴさん、一緒の班で楽しむですよ♪」
 小型のビデオカメラを、任務を共にする仲間達に向ける伊万里 冬無(ga8209)が返事をした。
 
「冬無‥‥真剣‥‥か? 我‥‥今回も‥‥嫌な‥‥予感」
 儚げな印象を持つL3・ヴァサーゴ(ga7281)が不安を口にし、その横で麗華も首を縦に振る。
「そもそも何故わたくしがこんな依頼に参加せねばなりませんの‥‥」

 しかし冬無は、気にする素振りを見せず、

「この依頼。とっても楽しい事になりそうです♪ メティスさんも一緒にね、アハハッ♪」
 メティスに微笑みかける。
「こちらこそ!」
 メティスも屈託なく明るい表情を向けた。若干の不安を内包しつつも、4人は意気投合(?)したようだ。

 それを眺めていた嶺は、律子、ディアナ、怜央の顔を見渡し、言葉を続けた。
「では私たちが一緒の班ですね。とりあえず、冬無さん達は校舎側を、私たちは外壁側を分担して探しましょう」


「策的範囲‥‥広い‥‥班行動‥‥とりつつも‥‥散開‥‥やむなし?」
「そうね、適当につかず離れずで。 見つけたら即集合で!」
 ヴァサーゴとメティスの提案に戸惑う怜央。
「ボ、ボクが敵を見つけた場合はどうやって知らせれば‥‥? 合図を出す道具は‥‥」
「お姉さんのを貸してあげるわ‥‥他の皆は、大丈夫かしら?」
 すかさず律子がトランシーバーを手渡した。
「照明銃を持ってきたわ!」
 牛乳を飲みながらディアナが返事し、
「私は呼び笛で、皆さんに知らせます」
 嶺はあいかわらず、おっとりと答えた。
「いざとなれば、絹を引き裂くような大声で知らせますぅ♪」
 冬無も、特に不備はないらしい。

 笑みを浮かべる8人は、予想だにしていなかった。
 この先その身が辱m‥‥もとい、キメラに翻弄されることに。



<絶対絶命! B班の乙女>
 むっちりしたボディを、小さめのセーラー服に包んだディアナは、イグニートで草を薙ぎながらキメラを探していた。
「いないわねぇ」
 牛乳を一口含み、朽ちかけた体育倉庫の裏に回りこむ。
 スカートが舞い、黒い下着と白い太腿が、月光の下あらわになった。
「やん」
 廃材にでも引っかかったのか、捲れあがったまま戻らないスカート。
「ん、もう」
 何気なく引っ張った指先が、ぬるりとしたモノを掴んだ。
「え?」
 振り返ったディアナが見たものは濃い緑色の、うねうねと蠢く植物のつる‥‥触手だった!
「ちょ!」
 イグニートを構えかけた細腕に、白い粘液に塗れた別の魔手がぐるりと絡みついた。さらに第三の刺客が、足もとを掬う。
「あ!」
 携行していた照明銃が地面に落ち、弾みで光の球を空に打ち上げる。
 眩い光は、キメラに四肢の自由を奪われた能力者の姿を、無残に照らし出した。


「ディアナさん!」
 光を見て駆けつけた嶺は、捕らわれた仲間を見て立ち尽くした。
 目に映るのは、先ほどまで手にしていた牛乳か、触手が分泌する粘液か。白っぽい液体でセーラー服の胸元を濡らした20歳の姿だ。
「な、この触手‥‥! 女子に大また開きをさせ、太ももをさするなんて破廉恥な!」
 憤りと動揺で頬を赤らめつつ、手にしていた小銃をキメラに向ける嶺。
 けしからん植物は意外に(?)知能犯のようで、捕まえたディアナの四肢を動かすことで、発砲を阻む作戦に出た。
「あんっ」
 むき出しのへそから下を突き出す格好をとらされたかと思うと、次の瞬間、ミニスカートの片足だけを高々と持ち上げられるディアナ。
 さらにはもう片方の膝を後ろから掬われ、まるでマリオネットの如く扱いを受ける。
「くっ‥‥照準があわない! あぁ、あれは汁? 粘液?」
「れ、嶺ッ‥‥いや、見ないで!」


 定まらない狙いに苛立ち始めた嶺の足下にも、音も立てず触手が忍び寄っていた。金色に輝く爪先に触れ、そのまま細い足首に音もなく絡まる。
 気づいたときには既に遅く
「!」
 金髪のフェンサーは小銃を手にしたまま1メートルほど引き摺られ、やはり玩具のように吊るし上げられた。
 携えていたガラティーンが、草の上に落ちる。


 SES武器を奪われれば、いかに能力者といえど、素手ではキメラに抗えない。
 捕らえられた2人に許されたのは、絶望だけだ。

「くやしいっ‥‥でもっ‥‥」
「や、やめて、あたしソコは弱いのよ!」

 キメラの分泌する粘液の擦れる音と、美しき囮の息と声が、湿気の中、無常に響く。

「きゃああーーっ!」


<A班に伸びる魔手!>
 ところ変わって旧校舎付近。
 湿地帯に繋がるエリアを探していたヴァサーゴとメティスの頭上で、光の球が眩く炸裂した。
「照明銃の、光‥‥?」
「B班でキメラを見つけたのかしら!」
 それぞれひらりと身を翻し、光めがけて湿った草地を蹴る。しかし光球に気がついたのは、彼女達だけではなく‥‥
「!?」
 旧校舎の壁際から、ずるりと音を立てて、触手キメラが身をせり出してきたのだ!
「‥‥2体め!?」」
「よりによって今出てこなくても!」
 
 獰猛な合成獣は、手の届く範囲でたじろぐ美しき囮を、見逃すことなどしなかった。緑色の触手が複数、2人に向かって一斉に伸びる。
 覚醒する間も武器を取る間も与えることなく、それらは瞬く間に絡みついた。
 ヴァサーゴの華奢な手首に、メティスのすらりとした腿に、それぞれの胸元に。

「っ、く‥‥! 何する、気!?」
「ちょ、やめなさいよこのエロ触手!」

「獲物」を器用に捕獲したあと、キメラはずりずりと移動を始めた。
 それはまるで罪人を引き回して、刑場に運ぶ刑吏の様でもあった。


 移動しつつも、2人をとらえた触手は蠢くことを忘れない。
「照明銃の方角‥‥向かって‥‥いる‥‥?」
「化け物のくせに仲間意識ってやつがあるのかしら! ‥‥ていうか!」
 ヴァサーゴの幼い身体のあちこちを先端で弄び
「ふぁあっ! そこ‥‥駄目‥‥!」
 その一方でメティスの豊かなふくらみをくびり出し、ぎりりと締め上げる。
「ん‥‥やっ‥‥こいつ‥‥っ!」
 キメラの癖にテクニシャンだわ。危機を忘れて素直な感想を抱くメティス。そのすぐ傍では
「ふぁ‥‥あ‥‥身体‥‥あつい‥‥」
 刺激に火照らされたヴァサーゴが息も絶え絶えに、ぐったりと身体を夜風とキメラの苛むままに任せていた。


 ヴァサーゴとメティスを捕らえたキメラから、距離を置くこと後方10メートル。
「さぁ〜て、今回の玩具はいい仕事してくれてますわ♪」
 音を立てぬよう追跡している、二人の能力者がいた。麗華と冬無である。
「伊万里、早く二人を助けにまいりましょう」
「あのキメラは進軍の方向から考えるに、B班の打ち上げた照明弾の射出下にむかっていますぅ♪ そこでまとめてバラバラに切り刻んであげれば、一挙両得、アハハッ♪」
 やきもきする麗華と対照的に、冬無は壊れた笑みを浮かべ、ビデオカメラのファインダを覗き続けている。
「あら、ヴァサーゴさんたら♪」
「まったく、あなたという人は。 後ほどその映像は没収しますからね」
「えー、撮影がお楽しみで来ましたのに♪ もちろんキメラ退治はちゃんとしますぅ♪」
「‥‥一応、本来の任務は、理解なさっているのね」
 あくまで撮影機材から手を離さない美しい友人に呆れつつ、麗華はキメラの後を追って、足早に歩を進める。
 手にはヴァシュラ。雷を宿したが如く淡黄色の美しい刀身は、淡く輝いていた。


<反撃! その1>
「きゃああーーっ!」

 ディアナと嶺の絶望を救ったのは、右目に赤い光を宿した律子だった。
 夏落とアーミーナイフを携えた黒い影が、目にも留まらぬ速さで合成獣に駆け寄り、触手の根本をぐさりと抉る。
「律子さん!」
「未来ある子たちを守るのは、お姉さんの義務よ」
 得物を引き抜きざま、優しい眼差しを向けたのもつかの間。再び卑劣な触手に狙いを定める。
 まずはディアナを絡め取る触手を、斬!
「ギュォォォ!」
 轟音を上げながら、触手キメラは抱えていたディアナを解放した。
 
「ぼ、ボクだって男の子なんですっ! お姉さんたちを助けて見せますっ!」
 ややあって駆けつけた怜央が、セーラーカラーを翻しながら機械剣αを奮う。
 草地に足を取られて転びながらも、その男気は嶺を戒めていた触手を見事切り裂いた。

「あんっ」
 前ぶれなく解放され、受身を取り損ねた嶺を受け止めたのは、怜央の小さな身体。
 ‥‥すなわち嶺は、勇ましい「男の娘」の胸に馬乗りになるように、お尻から座り込んでしまったのだ。乱れた豊満な胸元を、10歳の鼻先に迫らせるおまけつきで。
「ご、ごめんなさいっ、ちょっと見えちゃったけど当たってますけど、見たいとかそういう気持ちはないので許してくださいっ!」
「‥‥こんなに小さくて可愛いのに、やっぱり『男』の娘なのね。‥‥だってほら」
 嶺はくすりと微笑んで怜央の身体から下りたが
「ぼ、ボクには、白瀬留美(gz0248)少尉という心に決めた方がいるんですっ」
 男の娘は純情にも、顔を真っ赤にしたままだった。


「怜央君、残りの触手も叩ききるわよ!」
「は、はいっ!」
 律子に励まされた怜央は立ち上がり、再び機械剣αの柄を握りしめ、キメラに超圧縮レーザーの刃を振るった。
 覚醒したディアナと嶺も、それぞれの武器を手にし、雪辱を果たさんと挑む。
 先手を切ったのは「迅雷」を発動した嶺だ。両刃の長刀が、触手を束ねる本体に叩き込まれる。
 続いてはディアナ。「豪破斬撃」の伝播を受けたイグニートは、手負いの合成獣を刺し貫き、動きを完全に止めた。


「終わった‥‥?」
「A班のおねえさんたちは、大丈夫でしょうか」
 動かなくなったキメラを見下ろしながら、不安げに呟く怜央に、律子も頷く。
「そうね、探しにいったほうがいいかもしれない‥‥?」

 と、そこに現れたのは!

「ヴァサーゴちゃん! メティスちゃん!」

 這って火に入る夏の草?
 黒髪の少女と豊満な江戸っ子を絡めとった、もう1匹のキメラだった!



<反撃! その2>
「出てきてくれるなんて好都合だわ! 2人を離しなさいっ!」
 片目に赤い色を宿した律子が「先手必勝」を発動! 瞬く間に2本の触手を叩き切った。
 
 乱暴に解放され、粘液に塗れた「囮」たちに、キメラの後ろから現れた冬無がカメラを向ける。
「ああ‥‥この乱れっぷり、たまりませんですの!」
「伊万理、撮影はお終いですわ。 キメラを成敗してさしあげるのです」
 手にしている盾扇で、冬無に突っ込みを入れる麗華。
 既に覚醒しているお嬢様は、金髪の上に白い狼の耳を、戦闘用ドレスの下からは尻尾を発現させている。

「これを楽しみにしてきましたのにぃ‥‥なーんて。 わかってますぅ♪」
 狂おしき生き人形は唇を尖らせつつも、金蛟剪を構えた。わずかに残った触手をふりかざすキメラを挑発するように、笑む。
 発動するは「両断剣」。
「アハハハハハッ! 解体してあげますわ!」
 刃に左手を、右手で柄を掴んだ構えで、触手の根元に身を躍らせ切りかかった。

「わたくしの手で成敗されることは、誇りでしてよ?」
 友人の立ち回りに、遅れをとる麗華ではない。利き手のヴァジュラと金髪を輝かせ、最後の触手を斬り落とす。
 
 球根のような本体のみになり、苦しげにのたうつ哀れな実験生物。
 ヴァサーゴとメティスがそれぞれの獲物を向ける。
「ほらほら、さっきのお返しよ!!」
「灰と‥‥なれ!」


 仕返しか、それとも慈悲か。
 草の灼ける臭いと煙が、旧校舎裏にたちのぼった。


<エピローグ>
 静寂が訪れた「戦場跡」で、律子は切り落とされた触手を集めていた。それらはトカゲの尻尾のように、ぴくぴく蠢いている。
「律子さん、どうするのですか、それ」
 怜央が覗き込み、首を傾げた。
「このキメラ達だって、ある意味被害者といえるかもしれない‥‥学園の科学部とやらにね、生み出してしまったものときちんと向き合いなさいと言ってみようと思うの。色々調べれば、解ることもあると思うし」
「やさしいんですね」
 と、触手の1本が甘えるように怜央の腕に巻きついた。
「うふふ、この触手、男の子が好きなのかもしれないわよ」
「ボ、ボクには心に決めた方が‥‥」

 少年と律子が微笑ましいやりとりをしているすぐ傍で、4人は実に賑やかだった。
「己の所業‥‥自己嫌悪‥‥。何故‥‥斯様な、事‥‥」
 捕らえられたときの事を思い出して恥じ入るヴァサーゴに、
「ヴァサーゴさんの姿‥‥少ししか見られなかったけど‥‥とても‥‥」
 その様子をからかう嶺。
「あー、のど渇いたわ‥‥暑いし、シャワー浴びたいっ」
 汚れたセーラー服に顔をしかめるディアナと
「よっし、それじゃとっとと帰ってお風呂でもはいりますか。よかったら一緒にどう?」
 下心のありそうな目つきのメティス。
 さらにその外側では‥‥

「伊万里! ビデオをおよこしなさい! それは抹消せねばなりません!」
「ん、手ブレ気味ですけどイイカンジ♪ もちろん渡したりなんかしないのですぅ〜♪」

 依頼の遂行状況を「再生」しながらにんまりする冬無と、それを奪おうとする麗華が追いかけっこをしている。
 それは可愛らしいじゃれあいに見えたが

「麗華さん、覚醒までしなくっても♪」
「お待ちなさいー!」

 意外に真剣勝負だったり、するようだ‥‥?