タイトル:大量発生!クダモノグママスター:クダモノネコ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/05/30 08:22

●オープニング本文


 凍てつく大地、グリーンランド。
 北部に位置するバグア軍の拠点「チューレ基地」に程近い山間に、その研究所兼製造工場は在った。
 軽金属できらきらと輝く外観は美しいが、どこか座り心地の悪い意匠。
 それはこの建物が、人類の美意識とは異なった基準で作られたからに他ならない。
 未だ人類が扱えない、バグアの科学技術が産み出すものは
 
 「お待ちしておりました、イェスペリ様」
 
 奇怪なる合成獣、キメラだった。
 
 
 「北アフリカ戦線でも使えるレベルのキメラ合成に成功した」
 研究所からの報を受けて駆けつけた(正確には虹色のヘルメットワームに乗って飛んできたのだが)ホワイトバレイを預かる司令官、イェスペリ・グランフェルドは、目の前の檻に整然と並ぶキメラを見て、軽い眩暈を覚えていた。
 それは、出荷直前のマスクメロンにしか見えなかった。
 直径1メートルほどの巨大なメロンは、ほんのりと甘い香りを放っている。
 だが。
 なぜか正面にヒグマの顔がついており、短いが鋭い爪のある足が4本、にょっきりと生えているのはどうしたものなのか。
 ヒグマ‥‥いや、メロンというべきか、とにかくキメラ達は皆眠っているようで、動くものはない。
 時折鼾とうなり声が、地響きのように工場を揺らすだけだ。
「これが北アフリカ戦線でも使えるレベルのキメラか。何故クダモノとケダモノを融合させるセンス、気に入った」
 イェスペリはつとめて穏やかに、案内の研究者に問うた。
 正気の沙汰とは思えないが、この工場のキメラ生産レベルはめっぽう高いことも、また事実だった。
 それはつまり、研究者のレベルが高いことも意味するをも。無論、学術的な意味に限定して、だが。
「イェスペリ様、このキメラは有効な前例をもとに、わが研究所が改良した最強の兵器です。‥‥ご覧ください」
 研究者は自信ありげに、コンソールのモニタのスイッチをオンにした。
 異国のニュース番組と思われる映像が、液晶に大写しになる。
 炭鉱街の土産物屋らしき一角に、目の前にいるキメラとよく似た小さなキメラが、たくさん並んで牙を剥いていた。
「これははるか東の島国の、財政破綻した炭鉱街の様子です。この街の研究所で、実験的に特産のメロンと熊を掛け合わせたところ、爆発的な量産に成功し、街で猛威を振るうまでに勢力を伸ばしたとか。今回アフリカ戦線用に、サイズを大きくして改良したのがこやつらです」
「なるほど‥‥」
 丁度目をさましたキメラの1匹と、イェスペリの視線がぶつかった。
 熊は威嚇するようなうなり声を上げ、司令官をにらみ付ける。
「件の炭鉱街と、我等が戦場、グリーンランドは比較的気候が似ております。まずテスト運用を行うには絶好の条件です。きっとこやつらが、いまいましい人類をこの地から駆逐する足がかりとなるでしょう」
「そうか」
「そうですともイェスペリ様! 今こそチューレでの雪辱をはらすときなのです!」
「‥‥」
「どうか出撃命令を! 勿論アフリカでも十分に戦えます! 遠く離れた地で、イェスペリ様の名声を必ずや、轟かせることとなりましょう! ゼオン・ジハイドなど目ではありませぬわ!」
 ゼオン・ジハイドか。忌々しいよそ者の名に、司令官は小さく舌を打った。
 このふざけたキメラを全面的に信頼するわけではないが、あるいは、もしかしたら。
「とりあえず仕上がりの状況を見せてもらおうか。そうだな……この基地など、目標に最適だろう」
 サブ・モニタに地図を表示させ、ずっと南の小さな点を指で示す。
 UPCのマークがついたそこは、人類側拠点を意味していた
「わかった。首尾次第では、アフリカへの派兵も考えよう」
「はっ! ありがたき幸せ!!」


 そうこうしてキメラ工場を後にしたイェスペリは
「ふぅ」
 虹色のヘルメットワームの中でため息をついていた。
「まったく、この研究所の連中は面白い。‥‥猫の次は熊か」
 技術レベル「だけ」は高い彼らの奇行は、今に始まったことではなかったことを、思い出していたのだ。
 確か、数年前にも似たようなことがあった。
 北米軍学校から拉致してきた強化人間用素体に、無理やり野良猫を合成してキメラにしてしまったのは、間違いなくこいつらだ。

 混ぜるな危険という地球人の格言を、敢えて実戦するとはな。



 数日後。
 UPCゴットホープ基地に、辺境の基地からの出動要請が着信した。
「メロンが! 赤玉のメロンが襲ってくる!」
「違う‥‥熊!」
「そんなエサに俺様が釣られクマァアアアアアア!!」

 嗚呼、白の地平を埋め尽くす獰猛なるクダモノグマ。
 こんな時‥‥傭兵さんなら‥‥傭兵さんなら、きっとなんとかしてくれる!!

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
西村・千佳(ga4714
22歳・♀・HA
藤堂 紅葉(ga8964
20歳・♀・ST
プリセラ・ヴァステル(gb3835
12歳・♀・HD
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN
山下・美千子(gb7775
15歳・♀・AA
明菜 紗江子(gc2472
19歳・♀・GP
セバス(gc2710
22歳・♂・GP
ブラウ・バーンスタイン(gc3043
18歳・♂・CA
レオーネ・スキュータム(gc3244
21歳・♀・GD

●リプレイ本文


 グリーンランド南部、永久凍土のふちに佇む集落。
 100人ほどの住人は、UPC基地からの退避勧告に従い、大地を見下ろす高台に避難していた。
 レアメタル採掘機械の影に身を潜めた老若男女が、地平線の先に向けるのはおびえた目。
「ババさま、みんな死ぬの?」
 盲目の老女の顔を見上げ、幼い子どもが呟いた。
「運命ならね、従うしかないんだよ」
 不穏な空気を肌で感じているのか、老女は諭すように答えを返す。
 空は薄暗く、地は鳴り続けていた。世界の破滅の到来を知らせるように、微かに確かに。
 それは少しずつ近づいてきており
「ババさま! 赤い光!」
 別の子どもが指指す地平線の彼方で、正体を明らかにしたのだ!
 巨大なメロンがの群れが、全速力で集落に向かっていた。
 地鳴りの正体は、奴らに相違なかった。にょっきり生えた毛むくじゃらの足が凍土を蹴り、爪で抉る音。
 そして赤い光の正体は、双眸。メロンの正面に生えた、無駄にリアルなヒグマの生首の瞳が放つ光。
 赤く光る目というのは、攻撃色と相場が決まっている。静まると青く染まるのもお約束だが、それはさておき。
「おお‥‥大地が怒りに満ちておる‥‥」
 盲目の老女は嘆き、子ども達も破滅的な光景に絶句した。
 この村には残念ながら、キメラを焼き払ってくれる巨大な人型兵器も、蟲愛ずる青き衣のお姉さんもいない。
 だが、希望がないわけではなく‥‥。

「見て!」

 爛熟した匂いを放つクダモノグマの群前に、立ちはだかる10の人影。
「傭兵さんだっ! UPCの傭兵さんだっ!!」
 手に得物を携えた能力者たちは、津波のように襲い来る厄災を凛と見据えていた。

「だ ま さ れ た! メロンキメラ食べ放題って聞いて来たのにっ」(山下・美千子(gb7775)談)
「どうにかして食べられませんかねえ‥‥」(セバス(gc2710)談)

 それぞれの想いとともに。
 ってか、食うの?


「間もなく射程範囲に入りますッ!」
 防寒マフラーを風になびかせながら、ブラウ・バーンスタイン(gc3043)が叫んだ。
 8発の銃弾を装てんしたクルメタルP−38を握る手は震えている。
 それは恐怖ではなく、憤りに由来するものだ。
「おのれバグアめ! こんな恐ろしいキメラを開発するなんて!」
 彼は確信していた。これは精神を破壊する兵器だと。
「人型をしていても異星の生物には違いないのだ、と、時々強く感じる事があります。より端的に表現するならば、研究者自重しろ、と」
 マーシナリーシールドを携えたレオーネ・スキュータム(gc3244)も頷く。指が、引き金にかかった。
 遠距離攻撃の術を持つ者が、一瞬顔を見合わせ、頷く。
 じっと待つ。刻一刻と迫り来る厄災の到着を。
 もう少し。
 あと少し。
 鳴神 伊織(ga0421)はスノードロップを構え照準を覗き
「と、とりあえず‥‥赤き稲妻、マジカル♪ レッド出撃にゃ〜♪」
 名乗りは「レッド」、いでたちは白い魔女っ子仕様。
 西村・千佳(ga4714)は、マジシャンズ・ロッドを掲げてポーズを決める。
 吹きすさぶ風がスカートを翻し、くまさん柄アンダーが一瞬ちらりと覗いた。
 おっと、そんなことを報告している場合ではない。
 キメラだ!
 先頭と傭兵の間は100mもあいていないぞ!
 重火器を抜く音がした。純白のバハムートを装備したプリセラ・ヴァステル(gb3835)だ。
「うにゅにゅ〜♪ 今日はどかんっと頑張っちゃお〜♪」
 ウサミミカチューシャを髪に乗せ、背より大きなエネルギーキャノンを身体全部を使って構えている。
 砲身はベビーピンク、さらに兎マーク付。一見玩具っぽく見える外観だが
「焼きメロン、もとい、焼き熊? と、とにかくどかーんなの!」
 かけ声とともに射出されたエネルギー弾の威力は、玩具ではなかった。
 先頭集団に届いた白い光がは、直撃した1個(1頭?)を一瞬で屠る。
 弾けることもなく飛び散ることもなく、光の中で蒸発して行く熊。
「熊さんメロンを乱獲するのっ♪」
 無邪気な非情さで、プリセラはキャノンを横に薙いだ。
 周囲のメロンが焼け焦げ、カラメルのような匂いを撒き散らす。
「ケダm‥‥もといクダモノクマの大行進。‥‥かなーり、シュールな光景にゃね」
 プリセラの撃ち漏らしをフォローしたのはマジカル♪ レッドこと千佳。
「マジカル♪ サンダーにゃー♪」
 マジシャンズ・ロッド、音声認識で起動!
 ロッドが輝き、虹色の光がシャワーのように溢れた。
 一見ファンシーなエフェクトだが、強力な電磁波がハート型の中で生成されている証だ。
「ソンナエサニィィィ!」
 断末魔の咆哮を上げ、数匹のメロン熊が無機物へと還る。
 周囲に果肉が散らかり、怖い顔が目と口を見開いたまま動かなくなった。その数、10匹前後。
 推定90匹のメロン熊たちは仲間の死などものともせず、速度を緩めず迫り来る。
 距離はもはや、50m。

「おぞましい‥‥! グリーンランドはこういう手合いが多いのでしょうか‥‥!」
 嫌悪感を覗かせた伊織の指が、スノードロップのトリガーを引いた。
 エレガントな名前とルックスに似合わぬ重い射出音が響く。
 断続的に5回、やや間をおいて、また5回。
「クマーーッ!」
「ツラレクマーッ!!」
 ある者は胴体(?)を穿たれ、ある者は眉間を打ち抜かれ斃れた。
 掠ったのか汁を溢しながらも、走ってくる個体も数匹いる。
「何が彼らをここまで‥‥!」
「ほ、本能ってやつじゃないでしょうか‥‥、くっ、当たれっ!」
 クルメタルP−38で、伊織の援護に入ったのはブラウ。手負い熊の足を撃ち抜き、転ばせた。
 いわゆる戦闘兵器に、仲間を思いやる心などあるわけもない。
 哀れ元気な仲間に踏み付けられ、荷重まみれになって潰れてゆく。
 それでも
「くッ、この数だと押し切られちまうか‥‥!」
 ハンドガン片手で応戦する藤堂 紅葉(ga8964)の表情には、焦りが見え始めていた。
 無理もない、メロン熊はその数を減らしているものの、まだまだ地平の彼方までひしめいている。
 クワッ! と迫った恐ろしい顔めがけて鉛弾を撃ち込むも、
「おいおい‥‥よりにもよって、何てものを合成しちまったんだい‥‥これはウザキモイってレベルじゃないよ」
 すぐ後ろから次のクワッ! がすぐに現れるのだ。金太郎飴のごとく。
「せめて熊は可愛くしておけっての!」
 紅葉のトレンチコートに果汁の飛沫がかかるほど、熊どもは近くまで迫ってきていた。
「1人 10匹。なるほど、簡単そうにも思えましたが‥‥!」
 レオーネ、マーシナリーシールドで紅葉をガード。ついでになるべく遠くの個体を狙って、小銃の引き金を引く。
 ぱあんと、爆ぜるメロン。
 だがもう限界。飛び道具は通用しない距離だ。
「此処からは乱戦にゃね。近づいて殴るにゃ! マジカル♪クローなのにゃ!」
 千佳が楽しげに笑みながら、ロッドをしまいねこねこなっくるを拳に嵌める。
 一同も、それに倣った。

 第二ラウンド、開始!

 遠隔攻撃で潰したメロン、いや倒した熊というべきか‥‥は、総数30匹程度を数えていた。
 白の地平は果肉と、熊の頭ないしは脚部分から流れた血で見る影もなく汚れている。
 そんな中、明菜 紗江子(gc2472)とセバスは背中合わせに陣を取り、群がるメロンと対峙していた。
「初実戦さ!お相手は‥‥胴体がメロンの、熊ぁ!?」
「食べ物となると料理に使用できないかということを考えてしまいますね‥‥」
 闘争本能にのみ導かれた合成獣は、無計画に無秩序に能力者に挑む。
「寒い寒い。さっさと倒して石狩鍋でも食うとしようぜー!」
 シュールレアリズムあふれる敵の鼻先で眉間で、紗江子のサブノックが炸裂。
 獅子が文字通り、吼えた。疾風脚を発動したグラップラーの拳は風のように疾い。
「明菜様、石狩鍋は鮭です‥‥」
 柔らかな物腰で、だが的確なツッコミを入れるセバスの得物は、旋棍「砕天」。
 白銀に輝くメトロニウム製のトンファーを優しげな執事が構える姿は、一見ミスマッチだ。
「う〜ん‥‥やはりもったいない気がしますねぇ‥‥」
 彼も紗江子同様、胴体は狙わない。額や顎を狙って攻撃を繰り出す。
 地面に倒れたメロンが爆ぜる瞬間には、瞬天速で一瞬、避けつつ。
「‥‥少しばかり見通しがよくなってきましたか‥‥?明菜様に背中をお任せできるのは、やはり心強いです」
「まだまだだよセバス! 目標は1人15頭以上だからねっ!」
 二人のグラップラーは肩越しに一瞬視線を交わして笑うと、再びメロン熊を見据えた。


 紗江子&セバス組からやや離れた場所でペアを組んでいるのは 鷲羽・栗花落(gb4249)と美千子。
 青い髪を揺らしながら「ハミングバード」を振るう栗花落の表情はやや冴えない。
「ボク、偶然だけど最近あれとそっくりなストラップ買ったんだよね。大きくなるとこれほど嫌な光景もないかも」
 なるほど、彼女の言うとおり。剣のの束で小さなメロン熊がゆれている。
「近くで見ると、やっぱり顔怖いなー。けど負けない!」
 細身の刃が、すぱんとメロンを横に叩き切った。
 巨大なスプーンがあればデザートに出せそうな、鮮やかな切り口を晒してキメラが絶命する。汁は、散らない。
「身体に詰まってるのはメロン肉かぁ。熊肉でもよかったな、熊カレー美味しいし」
 一方、怖い顔に全く頓着しない三千子は、今回もフェイントから。背より高い仕込みビーチパラソルを勢いよく開く。
 敵に知能があれば、何故この極寒の地にビーチパラソルかと怪しまれたであろうが、相手はクリーチャー、何の問題もない。
「クマッ?」
 視界をさえぎられたキメラがうろたえる隙をついて、モコモコブーツが地面を蹴る。
 回り込んだ。側面。
「まぁいいや! メロン食べ放題ってことで!」
 いやお嬢さん、まだ食うおつもりか。報告官のツッコミを華麗にスルーするダークファイター。
 傘の先端で光る刃が、ある時はメロン熊のどてっ腹を刺し貫き、またある時は短い脚を落とす。
 止めをさすのは栗花落。
「ん、地道に潰した甲斐があったかな? だいぶ減ってきた‥‥と思ったら!」
 メロン累々な光景の中、ジャンプしてきた熊をハミングバードが迎え撃つ。
「クマァアアァァ!!!」
「な!」
 恐ろしいことにメロンは、熟しすぎていた。空中で刃先が触れたまさにその瞬間!
「きゃああああ!」
「ああっ! もったいない!」
 薄くなっていた皮が破け、爆発したのだ。種をたくさん含んだ果肉と汁が、容赦なく栗花落と三千子に降り注ぐ。
ビーチパラソルで、防ぎきれるものではない。
「ベ、バタベタするぅ‥‥か、身体が‥‥」
「このワンピース‥‥買ったばかりだったのに‥‥」


「にゅ、栗花落お姉ちゃんと三千子お姉ちゃんがピンチなのにゃ!」
 ねこねこナックルでメロン潰しに勤しんでいた千佳が、2人のピンチに気がついた。
 とりあえず手元の3頭をリズミカルに殴り、獣突で遠くへ突き飛ばした後、蒼青刀を振るう新米キャバルリーを振り返り叫ぶ。
「ブラウくんっ、ここは僕に任せてお姉ちゃんたちを援護してにゃ!」
「は、はいっ」
 言われるがままにクルメタルP−38を構え、数十m先のメロン熊どもに狙いを定めるブラン。
 2人の先輩女性は、麻痺を受けながらも応戦しているようだ。
「よ、よしっ!」
 引き金を引く。
「当たれっ!」
 その瞬間。
「クマァアア!」
 銃口の前を横切るメロン熊。
「あ!」
「にゅ? みゃー!?」
 発砲。爆発。
 コントのようなタイミングで果汁の噴水がブランは勿論、すぐ傍の千佳に降り注ぐ。
「しまった!? すみません! すみません! 汁をぶっかけるつもりなんてなかったんです! ホントです!」
「ぶっかけるとか言うんじゃないにゃーっ! ってか指の隙間から見てるんじゃないにゃー! にゃー!」
 歴戦の傭兵も、たまにはペースを乱されることがあるらしい‥‥?


 とはいえ、概ね戦闘は収束に向かいつつあった。
 栗花落と三千子のピンチにかけつけたのは、安定した近接戦闘を展開していた伊織とプリセラのバディ。
「うにゅにゅ〜! 危ないなの〜〜!!」
 AU−KV着用で果汁を恐れないプリセラが竜の翼で間合いを詰めて砲撃、しぶとい生き残りを手早くロースト。
 一方で伊織は
「ここから先は通行止めです‥‥お引取り願いましょう」
 珍妙な武器を以って、果汁まみれの2人を庇うように挑んだ。赤い逆三角形の刃に白く名を染め抜かれた武器を。
 その名は「トマレ」。とまれ。止まれっての! しかし
「ソンナネタニィイイ」
「ツラレナイクマァアアアア!!」
 劣勢を本能で悟ったキメラが理解するわけもない。吼えながら狙う。伊織を。
「止むを得ません」
 短く呟き、彼女は刃を向けた。小柄な身体を全部使って思い切り振りかぶり、横にスライスするように、薙ぐ!
 殲滅。
 と、そこに。
「鳴神さん、これも頼む!」
 紅葉がサッカーよろしく、メロン熊を蹴っ飛ばして寄越した。足をひっかけて転ばせたあげく、ボール扱いである。恐るべし。
「はいっ!」
「うにゅ〜 任せてなの♪」
 何か不純な意図があったのか、やや拍子抜けた顔をする紅葉。
「これで全員果汁まみれに‥‥ってあれ、普通に駆除されてるし‥‥」
 そうこうしているうちに、最後のメロンも、無事に駆除されたのであった。



メロン熊駆除を終えた午後5時。ゴットホープ基地辺境出張所。
 喜劇、もとい悪夢から現実に生還した能力者たちは、浴室で汗と果汁を流していた。
 シャワーではなく、ジャパニーズ・セントウ・スタイルである。

「あー、まだ何かベタベタしてる気がするぅ」
 頭から果汁をかぶった栗花落はシャンプーで青い髪を洗い
「汁まみれになったにゃー。綺麗にするにゃー、プリセラちゃん、AU−KVは後まわしにゃ!」
「うにゅ‥‥早く綺麗にしてあげないとかわいそうなの‥‥」
 (果汁を)ぶっかけられた千佳はAU−KV命のドラグーンを嗜めつつ身体を丁寧に擦る。
「何というか‥‥シュールな光景でしたね‥‥」
 黒髪をアップにして湯船でくつろぐのは伊織。
「風呂出たら、石狩鍋をご馳走するぜ! セバスが下ごしらえしてくれている筈だ!」
「やったー!」
 紗江子と三千子の気持ちは、既に風呂上りの食事にシフトしているようだ。
 そしてそんな女子達を眺めながら
「ククク‥‥目の保養だよ‥‥」
 紅葉はひっそりこっそり、邪な笑みを浮かべていたりした。


 同じ頃、レオーネは1人夕陽に照らされた白の地平を眺めていた。
「人類の脅威となるキメラの排除。‥‥こう表現すると至極真っ当な仕事をしたかに思えます。‥‥言葉のマジックですね」
 ふう、と息をつきつつ、そっと肩をすくめる。

 い、いやまともな仕事をなさいましたよ? 外見がアレだっただけで。
 おつかれさま。