●リプレイ本文
●強襲!
バグアとの争いが続くグリーンランド。
人類側の拠点「ゴットホープ」に隣接する一角は、傭兵向けの訓練施設として整備されていた。
広大な土地を切り開いた人工の街では陸戦の練習が、レーダーで周囲を警戒した空域では、戦闘機訓練をこなすことができる。
そう今日も、高度数千フィートの世界で‥‥。
「ヘイル(
gc4085)よりアグレッサー隊へ。胸を借りる、と言いたいところだが‥‥勝ちにいかせて頂く」
通信機ごしに響いた若い男の声に、R01COPを預かる若い女性教官は口の端を上げた。
「あら威勢がいい」
嫣然と笑みながら固定兵装をチェックし、レーダーを覗く。まだ機影は見えない。
「手加減はせんぞ。健闘を祈る」
フェニックスCOPのパイロットが「仮想敵」に返事をする。
「傭兵部隊、レーダーに補足できました。10機です」
ついで、三機編成を組むS01COPが、全機に注意を促した。それを受けて
「お手並み拝見といくか!」
12機は、ぐんと速度を上げるのだった。
同じ頃、訓練に挑んだ10人の傭兵も、仮想敵であるCOP機群を認識していた。
レーダーでいち早く捕らえたのは、銀色の骸龍を駆るエルファブラ・A・A(
gb3451)。
情報処理機能を向上させるカスタマイズが施されたコクピット内部では、電子機器が慌しく明滅している。
「各敵機を暫定的にS1〜4、R1〜4、P1〜4と呼称。情報を転送。リンク確立!」
慣れた様子でデータを処理し、僚機へ配信するダークファイター。
青い目がモニタごしに広がる戦域を捉えた。肉眼で微かに機影が見える。
「行こうか、我らの敵は、フェニックスだ」
編成を組む葵・純(
ga5462)、ラサ・ジェネシス(
gc2273)、ヘイルにサイン。
間をおかず4機、上昇。
「熱反応! 来るぞ!」
すがら、短く叫んだ。
「ミサイルか!」
警告を理解したイレイズ・バークライド(
gc4038)は、ファランクス・テーバイを発動。
編成を組むTaichiro(
gc3464)、ホゥラリア(
gb6032)を守りつつも、迫り来る敵をしっかり視認する。
「s−01の方々、しばしお相手願いたい!」
吼える、竜牙。
そして。
「マジカル♪シュートにゃ♪」
西村・千佳(
ga4714)が試作型G放電装置を撃った。
アンジェリカから伸びた放電が、射程ギリギリのフェニックスに食らいつく。
シラヌイに乗るリネア・フロネージュ(
gb9434)はそれを確かめると、操縦桿をぐいと傾けた。
目に映るのはガトリング砲を抱えた、R−O1機たち。
「行きましょう!」
その声に杉村 太一(
gc4196)のノーヴィ・ロジーナも、白い煙を吐いた。
戦域にちらばる、それぞれの編隊。
個性豊かな傭兵達が挑むは、安定した強さを誇る、規格された機体たち。
さあ。
Onslaught!
●対戦! R−01COP
R−01機群への先制は、ヘイルが放ったミサイルだった。
フェニックス対応を受け持つディアブロから放たれたカウンターが、開戦を告げる。
敵機、小さく散開。
「久しぶりな上に二度目の空戦、ドキドキするにゃー」
千佳機が周囲を確認しつつ、リネア機、太一機の後ろにつけた。
「でも、今日は皆の支援に徹するにゃ」
レーダーが捉えた情報を解析し、すぐさま仲間に向け叫ぶ。
「R01−4機、急速接近にゃ! 十時方向3機、一時方向1機!」
「了解!」
太一のロージィ・ロビーナが1時方向にぐんと加速した。
空戦専用に改造(陸戦用コンソールをガムテープで封してある)されたコクピットは、ほんのりと磯の香りがする。
「敵補足! 攻撃します!」
マシンガンの射程にR−01を捕らえたが早いか、撃ちながら接近戦を挑む。
敵の得物も同じくガトリング。
だが射出速度は、太一よりやや速い。加えて操縦テクニックも上。
すなわち。
「後ろに‥‥!? 誰か、援護を!」
瞬く間に背後を取られたロジーナの表面で、いくつか火花が散った。
知覚機銃の放つプラズマが確実に着実に、太一機にダメージを与えている。
垂直旋回で形勢の逆転を狙うもが、なかなか上手くは逃げられない。
そうこうしているうちに十時方向から3機が迫り来るではないか。
「くっ!」
敵にすれば手負いのロジーナを仕留めるチャンス、見逃すはずがない。
「杉村さん!」
十時方向の三機と対峙していたリネア、千佳が急速旋回。ロジーナ周辺の戦域へと翔けた。
シラヌイが追われるロジーナへの誤射を避けながら、素早くスナイパーライフルを発砲する。
『M−12帯電粒子加速砲』で援護するのはアンジェリカだ。
団子状の戦局が、ややばらけた。
ガトリングを装備した2機が、ターゲットをシラヌイにチェンジ。
示し合わせたのか対称の航跡を描き、シラヌイを挟み撃ちにかかる。
「そうはいきません!」
意図に気づいたリネアが、ブーストを発動。一旦射程外まで高度をあげ、くるりと反転した。
太陽を背に降下しながら、スラスターのトリガーを引く。
後方に陣取る千佳のUK−10AAEMによるダメージが累積していたのか、あっけなく一機のリミッターが発動した。
撃墜判定!
残るニ機のダメージも小さくはない。
「罠にかかったのはそっちだったりして? 後ろががら空きにゃよ♪」
アンジェリカの操縦席で千佳が不敵に笑む。
プラズマリボルバーの照準を知覚機銃を持つ敵機に合わせ、すかさずSESエンハンサを発動。
「大きいの、もってけなのにゃ!」
射程ぎりぎりまで前進し、6弾発射。
ほどなく、「撃墜」。
「あと1機! もう少しです、杉村さん!」
「は、はいっ!」
リネアの援護を受け、中破したロジーナが力を振り絞った。
戦闘に不慣れだからこそ、勝利への執念と生への執着は大きい。
ひたすらにがむしゃらに、マシンガンを撃ちつづける。
そしてその思いは、ついに最後の一機を退けた。
「くっ、リミッター発動か! よかろう、今回は貴様の勝利だ、だが次は本気で行くぞ!」
戦域から離脱する教官機から、優しくない祝辞が着信。
対R−01戦は、傭兵達が勝利した。
「にゅ、喜ぶのはまだ早いにゃ!S−01班が苦戦してるにゃ!」
●対戦! S−01COP
一撃離脱戦法を得意とするS−01COPたち。
対するTaichiro、イレイズの主兵装は、近接戦で真価を発揮するガトリングだった。
ホウラリア機にライフルがあるとはいえ、状況だけ見ればアグレッサー有利は否めない。
そんな中、まず動いたのは竜牙。
真紅に塗られた機体が、対峙するCOP機を挑発するように翔けた。
「空を飛ぶのは苦手なのだが‥まぁ慣れないとやっていけないしな‥‥!」
編隊の間を突っ切り、狙うはアグレッサー達の後ろだ。
「ふむ、スペックの高い機体が囮役になるのは悪くないわ。迎撃にも対応できるしね」
すかさず、S−01COPから3機へ通信が飛ぶ。教官は女性だ。
マイクオフと同時に、教官機2機が旋回。
噴射口から白い炎と轟音を吐き、赤い竜を追撃する。
残る2機は。悠然と待った。Taichiroのヘルヘヴンを。
「まず地上戦の訓練を受けるべきだったかな‥‥いや、そんなこと言ってられないッ!」
銀髪のドラグーンは、ガトリングのトリガーに指をかけて、超音速に身を委ねる。
射程まであと80、70‥‥。
60。
瞬間。
S−01のランチャーが、ラプターを射出した。
「来た!」
半ば予測した挙動に、Taichiroは回避を試みる。
機首を下げ急降下しつつ、射程距離まで詰めるべく全速。
惜しくもラプターの追尾力が、一歩勝った。 左主翼に、被弾!
「くそおおおッ!」
ひらりと舞い、距離を置こうとするS−01に、taichiroの気迫が追いすがる。
渾身の力を込めてブースト、射程30域でロックオン。
「今だ、ミサイル発射!」
AAMを全弾射出。後方からホゥラリアのスナイパーライフルも弾を吐き出す。
敵機一機のリミッターが作動、離脱。
残る1機も、小破。
「こちらも負けてはいられませんからね!」
R−O1を「この子」と慈しむホゥラリアとTaichiroのもとに、小破したアグレッサーから通信が入った。
「やるね訓練生。カプロイアの実験機とポンコツと侮っていたが、撤回しよう!」
教官的には悪気のない、むしろ褒めたつもりであろうヒトコトが。
「今、ポンコツって言いましたか? ‥‥他のKV同様現役なんですからっ!」
ホゥラリアの闘志に、火をつけた。
アグレッシヴ・ファングを発動させ、スナイパーライフルに怒りを込める。
「Taichiroさん、今です!」
「はいっ!」
僚機の援護を受けたヘルヘヴンが、S−01に接近を果たした。
「合わせて50発分だ! かわせるか!」
満身創痍ながら、まずはバルカン、ついでガトリングの弾幕を叩き込む。
「‥‥くっ!」
教官機、被弾しながらもTaichiroの射程外まで高速離脱。
通信を交わす余裕もなく、ハンタードッグを放つ。ヘルヘヴン、大破!
「うあああああっ!!」
予め設定されていたリミッターがTaichiroの「撃墜」を認識。
戦域から離脱していくヘルヘヴンを横目で見送ったホゥラリアは、キッと教官機を見据え
「目標補足、撃ちます!」
仲間が身を提して弱らせた獲物に、止めを刺した。
2機の教官機と渡り合っていたイレイズは、かなり疲弊していた。
AAMは既に打ち尽くしている。
ファランクスのおかげで致命傷こそ負ってはいないものの、敵機を墜とすには至らない。
それぞれ「一撃離脱」タイプである故、膠着状態と言えた。
「Taichiroの努力、無駄にするわけにはいかん‥‥!」
残り少ない飛竜を、祈りを込めて撃つ。
青い空を竜が、敵機めがけて飛んだ。
着弾、一機中破!
すかさず駆けつけ、スナイパーライフルで追撃するホウラリア。
あと一機。と、そこに僚機からの着信。
「マジカル♪ チカが援護に来たからにはもう安心にゃ〜♪」
二時の方向。
R−01をいち早く片付けた3機の影と、最後のS−01めがけて飛ぶミサイルの白煙が見えた。
●VSフェニックスCOP
対アグレッサー戦で、最大の難敵と予測されるフェニックスCOP。
相まみえた強敵に、ラサはややひきつった笑みを浮かべていた。
「あ‥‥ありのまま 今 起こった事を話すゼ! 初心者訓練だと思って入ったらベテランの不死鳥が4機もイタ‥‥。気合入れないとこっちが全滅するナ」
Queen of Nightと名づけたフェイルノートを駆る彼女とて、初心者とは言えないレベルではあったが、
「虚心坦懐!泰然自若!平常心で頑張ろウ」
気を入れるに十分な相手のようだ。
「来るぞ。数を減らすことを最優先で行こう」
エルファブラがレーダーを注視し、僚機に伝達する。
「了解でござる。確りと調教‥‥もとい、調整を施した拙が姫騎士の出番でござるな」
アンジェリカの操縦席に座る葵は、何故かふんどし一枚だがそれはさておき。
両軍、接近。高まる、緊張。
距離、140、130‥‥
120!
ラサのフェイルノートが、ブーストした。
「ツインブーストアタック&ツインブーストクードロアアア!」
文字通り超高速で空を翔け、戦域の最前線に躍り出る。
射程と攻撃力の向上を悟ったCOP機群もブーストを図るが、先制を覆すには至らない。
フェイルノート、フェニックスをロックオン、そして。
「乾坤一擲! 全部乗せ乗せミサイル、一発めェ!」
小型ホーミングミサイルを叫びとともに射出!
「二発〜!」
ばらばらとフェニックスに着弾。
フェニックス、小破、少破、無傷、中破!
無論ココで、狙うは最たる手負い。
「一発当たったら拾った猫が猫耳美少女に〜!」
SESエンハンサーを発動させた葵が、妄想をたっぷり込めてUK−10AAEMを放った。
フェニックスからの反撃は、鎧とも言えるフレーム「パズル」で何とか防ぐ。
耐える姫騎士、さらにもう1発!
「2発当たったら可愛い後輩が懐いてくれる〜」
葵が狙う機体に、エルファブラもバルカンで狙いをつけた。
「捉えた‥‥逃しはせぬぞ」
フェニックスに、火花が走る。機体から黒い煙。瀕死の翼をもぎ取ったのは、
「これでラストダ!」
ラサの三撃目。
「‥‥くッ!」
リミッターを発動させ、離脱するフェニックス。
女性教官に向けて爽やかに手を振る、ふんどし1枚の葵。
無論返事なし。南無。
アグレッサーが1機墜ち、戦況は傭兵有利。距離も近づき、ドッグファイトの様相を呈してきた。
一触即発の中、ヘイルのディアブロがブーストを発動!
「ラサ、ここは任せるよ」
フェイルノートに一言伝え、淡く輝く太陽に向って高度を急速に上げてゆく。
フェニックス一機、追随。
繰り出される知覚機銃にファランクスとガトリングで何とか応戦しつつも、高みまで昇る。
急速反転、急降下! その瞬間。
「悪くない戦法だ、だが隙が大きすぎる」
ディアブロのコクピットに、教官から着信。そして
「くっ!!」
ヘイルストームの後部噴射口にハンタードッグがめり込んだ。黒煙が上がり、みるみる失速する。
「やられるか!」
スモーク・ディスチャージャーを発動させ、追撃を避けつつガトリングで反撃を試みるヘイル。
視界が利かない中での、ドッグファイト。機銃の音が錯綜する。
長いような短いような死闘。
幕は。
「くそ、リミッターが!」
「相打ちに持ち込むとはな。見事だ、新兵」
2機がそれぞれ戦域を離脱することで、引かれた。
「ヘイルが落ちたか。だがあと2機だ!」
エルファブラが通信機に向って叫ぶ。
彼女の前方では葵とラサが、渾身の力を込めて格闘戦に挑んでいた。
「『アナタって本当に最低のクズね!』」
補強したとはいえ、頑強とは言えない姫騎士がプラズマリボルバーで挑発。
2機の注意を引く中、後ろからラサの重機関砲が火を噴く。1機、撃墜。
「もう一息ダ! 頼ム!」
もはや勝利は目前。
ラサの要請に応じ、フェニックスの側面に回りこんだ骸龍が、バルカンを至近距離から叩き込む。
数秒後。
「恐れ入った。君たちの勝ちだ!」
リミッターの発動したフェニックスから、三機にコール。
そして
「空戦訓練を終了します。全機帰還して下さい」
管制から声が響いた。
訓練完了!
**
帰投したブリーフィングルーム。
傷ついたKVはドッグ入りし、修理を受けている。
10人が腰掛けたのを確かめたオペレータは
「では最後に、教官からの講評があります」
一言呟き、モニタのスイッチを入れた。
大写しになったのは、強面のアグレッサー部隊長である。
「高出力のCOP機を全機撃墜したのは、賞賛に値する。墜落したとはいえTaichiroもヘイルも、恥じることはない。寧ろ実戦でなかったことに感謝し、高みを目指してくれ。以上!」