タイトル:【BD】護れ!戦乙女マスター:クダモノネコ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/09/12 11:12

●オープニング本文


 ボリビア。
 幼王ミカエル・リアを戴く南米の一国である。
 周辺諸国が軒並み親バグアの立場をとる中、人類の誇りを捨てず抵抗を続けるこの国に、平穏というものは最初から存在していなかった。
 日々は混乱の中流れ、喧騒の中すぎゆくのみだ。
 それでも「日常」はそこにあった。
「ゾディアック魚座」ことアスレード(gz0165)による首都への宣戦布告を発端とし。
 ネブリナ山から放たれた光がカラウアリの街を焼き、その蛮行に対して「見せしめ」と嘯く声明文が届けられるまでは。
 そう。
 その日を以って、人々の暮らしの場は「戦場」へと姿を変えてしまったのだ。


 所変わって北米、UPC中央軍。
 南米からの報告書を受けたヴェレッタ・オリム(gz0162)中将は眉根を寄せながら、視線を文字の上に走らせていた。
「バグアからの宣戦布告か。膠着状態だった南米が急に動き出したことに原因があるようだな」
 思い当たる節はあった。JTFM(正式名称:Jungle The Front Misson)と称される、南米の解放作戦である。
 コロンビアのバグア基地を落とし、ボリビアの国家姿勢を変えるまでに至ったことは記憶に新しい。
 だが、突如姿勢を変えたボリビアに、周辺のバグア諸国が手をこまねいているはずもなく。
「UPCの支援展開が間に合わぬうちに、今回の事態となったわけか」
 中将、ざっと目を通し終わり、しばし瞑目。
「ユニヴァースナイト弐番艦の修理はまだまだかかり、ピエトロ中将の事後処理も続くために指揮官もなしか。現状で出せそうなのはヴァルトラウテ‥‥それに」
ブリュンヒルデ。
 若き腹心が艦長を務めるヴァルキリー級飛行空母一番艦の名を口の中で呼ぶ。
「マウル・ロベル(gz0244)少佐と至急回線を繋げ」
 オペレータに命令を飛ばし、女傑は執務机から立ち上がった。
 先のアフリカ戦線の疲れもそろそろ癒えた頃だろう。
 戦乙女は闘いの中でこそ、眩く輝くものだ。


 北米のオリムが、マウルと回線越しに言葉を交わしてからわずか数時間後。
 ブリュンヒルデは南米ボリビアを目指し、大西洋上を航空していた。
 純白の戦乙女を護るのは、アナートリィ(gz0350)率いるKV隊の24機と、傭兵隊10機である。
「ふぅん、アスレードが宣戦布告したってわりには‥‥意外に平穏ね」
 艦長席でマウルがやや、拍子抜けたように呟いた。
 なるほど彼女の言うとおり。
 メインウィンドウから見える海も空も青く澄み切っており、一見平和そのものだ。
 柔らかい午後の日差しが、ブリッジを明るく照らしている。
 と、管制席についていた白瀬留美(gz0248)が淡々と報告した。
「‥‥艦長、残念なお知らせなの。艦下に敵機発見なの」
 白い指がめまぐるしくコンソールを操作する。
 モニタに映し出されたのはヘルメットワームを中心とする敵の小隊だ。
 小型が9、指揮官機と思われる中型機が1機、Vの字編隊を組んで、ボリビア方面に航空中だ。
「ボリビア制圧のための増援、あるいは物資輸送かしら。いずれにしろ叩いておく必要があるわね」
 可愛らしく首を傾げつつ、マウルは通信機を取った。
「‥‥トーリャ、もといアナートリイ(gz0350)中尉! KV小隊に戦闘準備を。眼下のヘルメットワームを、片付けて貰うことになるわ」
「了解! アナートリィ以下KV小隊、臨戦準備に入ります!」
 通信機から返ってきたのは若い男の声。やや高揚したそれを、留美が無表情に制する。
「待ってなの。艦長も、トーリャさんも。‥‥退治は傭兵さんたちにお任せするべきなの」
 淡々と提案し、コンソールのサブウインドウに、地図を表示させる天才児。
 モニタにはブリュンヒルデの現在位置と進行方向が矢印で示され、周囲に赤いドットが、いくつか点在している。
「交戦中に増援がくる危険性も、考慮しておくべきなの。地図上の点々は、海中からのマンタワームやヘルメットワームが確認された場所なの。それにあのタイプのヘルメットワームは、キメラを積んでいる可能性も捨てきれないの」
「なるほど‥‥今見えているのが、全てとは限らないということね」
「だから、トーリャさん達はブリュンヒルデの護衛に専念してもらうと、いいと思うの。傭兵さんたちがヘッポコさんだった時、突破してきたワームを退治してやる係も必要なの」
 可愛らしい顔と声と裏腹に、なかなかの毒舌。しかしまぁ、正論でもある。
「僕は反対です! 傭兵にだけ戦わせるなど、正規軍の名折れです。僕たちにだってやれます!」
「大丈夫なの。少数精鋭って言葉、艦長もトーリャさんもご存知のはずなの? ‥‥ピロシキでも食べながら待っているといいの」
 通信機の向こうでアナートリィが黙りこむ。数秒の後
「‥‥了解!」
 憮然とした声と一緒に、通信が切れた。

●参加者一覧

伊藤 毅(ga2610
33歳・♂・JG
武林虎太郎(ga4791
13歳・♂・GP
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
鹿嶋 悠(gb1333
24歳・♂・AA
月島 瑞希(gb1411
18歳・♀・SN
シャーリィ・アッシュ(gb1884
21歳・♀・HD
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
ガルシア・ペレイロ(gb4141
35歳・♂・ST
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
ヨハン・クルーゲ(gc3635
22歳・♂・ER

●リプレイ本文

 大西洋を眼下に望む青空の中。
 ブリュンヒルデはボリビアに向って巡航していた。つき従うは、アナートリィ(gz0350)率いる24機のKV小隊だ。
 さらに乙女の前方、わずかに下。
 雲を散らし翔ける、傭兵たちのKVがあった。

「こちら、ブリッジなの」
 傭兵機の操縦席に、白瀬留美(gz0248)少尉の声が響く。
 舌足らずな少女の声に、ブリュンヒルデ右翼前方でフェニックスを駆る伊藤 毅(ga2610)はサブ・モニタを覗き込んだ。
「強襲空母ブリュンヒルデか。UKに比べればまっとうな飛行機の形をしているんだな‥‥」
 ストライクフェアリーとペアを組むのはシャーリィ・アッシュ(gb1884)。
 翔幻を乗りこなすハイドラグーンだ。乗りなれた機体とはいえ、クラスチェンジ後の戦闘は初めて。
「以前よりもダイレクトに反応がある‥‥これなら、いける」
 AU−KVとのリンクを確かめながら、操縦桿を握っている。
「ブリュンヒルデ‥‥そう、いえば、、初めて、です‥‥」
 伊藤・シャーリイ組からやや後方‥‥よりブリュンヒルデに近い位置を取っているのはルノア・アラバスター(gb5133)。
 メタルレッドにペイントされたS01を駆っている。
「まぁ、ブリュンヒルデはアナートリィ中尉たちが護ってるし、思いっきりやってみよう」
 ルノアと組む月島 瑞希(gb1411)も、今回がKV戦の初陣だった。
「皆には、眼下のHW隊をやっつけてもらうの。現在確認できるのは小型が9機、中型が1機なの」
「油断せずに頑張んなさい。あんた達ならやれるわ」
 留美の声に、ブリュンヒルデ艦長、マウル・ロベル(gz0244)の叱咤が重なる。
 2人の言うとおり、傭兵達の眼下にはHWの小隊が巡航していた。9機の小型がV字に隊列を組み、中央に中型が鎮座している。
「任せとけって! 無事にブリュンヒルデは送り届けて見せるぜ!」
 最前線を飛ぶのはアレックス(gb3735)。機体はアナートリィのそれによく似たシラヌイS型だ。
 もっとも塗装は異なっていて、濃紺の筐体を炎模様が彩っている。
「ばっちり退治してきたら、ピロシキおごってくれよな!」
 アレックスと組む武林虎太郎(ga4791)は、ワイバーンのコクピットで少年っぽい笑みを浮かべた。
「威勢がいいわね。この海域にはバグアの基地が確認されているわ。増援が来る危険性も十分にあるから、気をつけなさいよ」
 留美のマイクに、再びマウルの声が割って入り、さらに
「危なくなったらすぐに救援信号を! 僕たちが援護します!」
 苛立ちを孕んだ、アナートリィの声が被さった。
「‥‥って言ってるけど、トーリャさんたちの手を煩わせるようなヘッポコさんはいないと、私も少佐も信じてるの」
 マイクを取り戻した留美は、変わらぬ毒舌を誇る。
「もちろんです白瀬少尉。戦乙女には傷ひとつつけさせませんよ!」
 ブリュンヒルデ左翼側を守るのはひときわ大きな機体、スピリットゴーストだ。パイロットはヨハン・クルーゲ(gc3635)。
「新しい翼の力、どこまで引き出せますかね」
 乗り換えたばかりの愛機で、はじめての空戦に挑む。
「アナートリィ中尉。第二波が出撃した時は、あなたの部隊と我々とで挟撃、殲滅の作戦を取ることを提案したい」
 そのヨハンと組む鹿嶋 悠(gb1333)が、物静かに発言した。
「ヘッポコさんが混じってるなの?」
 留美の言いがかりに近いカウンターが炸裂。
 クノスペの操縦席で、巨躯を揺らしてガルシア・ペレイロ(gb4141)が笑った。
「いいねえこの毒舌! 少尉はこうじゃなくっちゃ」
「アナートリィ中尉には悪いけど、ピロシキ食べて待ってる役のがよかったな、私は」
 彼の僚機であるディアブロのパイロット、時枝・悠(ga8810)が鹿嶋にも留美にも聞こえないよう呟いた。
 一方鹿嶋は、15歳の少女に不当なヘッポコ呼ばわりされても怒りはしない。
「白瀬少尉、これは掃討効率UPを見越しての提案です」
 穏やかに、留美とアナートリィに説明を続ける。
「正規軍のお手を煩わせるだけの、価値はあります」
 自分より年長で、戦闘経験も上であろう傭兵の言葉。横柄に切り捨てるほどアナートリィは図太くなかったが
「異存はありません。ですがまずは最低限、目前の敵を確実に叩いてください」
 焦りを完全に隠せるほど大人でもなかった。
「中尉。思う所もあるだろうけど、ここは俺達に任せとけよ。ブリュンヒルデと中尉達には、大規模本番で頑張ってもらわねぇとさ」
「わかってます」
 アレックスの言葉に、短い返事。
 一瞬沈黙。
 そこに。
「レーダーエコー、ボギー10、情報通り、小型9、中型1」
「敵機ナンバリング完了。データを各機に転送します。目標番号を確認してください」
 伊藤とルノアの声が凛と響いた。
「データ受領。これから突撃します。俺達の背中、お任せしますよ中尉」
 鹿嶋、ヨハン隊が降下。急襲のスタートラインに立つ。
 5組のKVのコンソールには、目標となる敵機の情報が収まっていた。
 動く。悠のディアブロ。
 パニッシュメントフォースとブーストを発動し、轟音と共に射程ぎりぎりまで高度を下げる。
 HWの隊列がばらけた。急襲に、気づいたようだ。
 だが。
「遅い!」
「一番槍だ。派手にかますぞ、ディアブロ!」
 真紅の機体から、K−02小型ホーミングミサイルが射出された!

 GO!

 壮大な「花火」が、白い煙を噴きながら乱舞する。
 狙いは中央に鎮座する中型機と、隣接する小型機4機だ。
 慣性制御を駆使した回避行動も、何百発ものミサイル全てをかわせるものではない。
「よし、着弾した!」
 ターゲット全てから、小さな煙があがった。特に小型機のうち2機は炎をも上げている。
「逃がし‥‥ません」
 悠のターゲット外のワームに対して、ルノアがブレス・ノウを起動。
 増幅されたSES出力が、敵機の行動を解析。すかさずコクピットのコンソールへ転送。
「ワーム03、04、07、08、09の行動予測を完了。送信します」
「了解!」
 伊藤と組むシャーリィが受領の返事をし、すかさずブーストを発動した。
 主翼を畳んで一気に加速し、配信された行動予測に基づいて、距離を詰める。
 すかさず回避、迎撃に転じるHW。だがその行動は、既に予想済み。
 射程50、40
「いい精度だ!」
 30!
 ハイドラグーンの指が、狙い済まして引いた。MM−20ミサイルポッドのトリガーを。
 小型ミサイルはいくつか着弾、いくつかは届かず。
 しかし整然とした隊列はもはや、みる影もない。
「遅ェ!」
 高度を下げて参戦してきたのは、アレックスだ。
 ミサイルポッドをばら撒きブースト、距離が一番近いワームに突撃をかける。
「ソードウィング、アクティブ! フルブーストで突っ込むぜ!」
 翼そのもので切りかかる豪快な闘い方は、彼らしいといえば、実に彼らしい。
 反撃を受けながらも、07、05のワームが空塵と化した。
「イィーヤッホー!」
「混乱してるうちに、叩けるだけ叩くぞ!」
 アレックス機の背後で、虎太郎のワイバーンも獲物を定めた。UK−10AAEMで一の太刀、二の太刀はプラズマリボルバー。
 プチロフのIRSTシステムで底上げされた知覚兵器のの命中精度は、心もとない威力を補って余りある。
 マイクロブーストで距離を詰め
「行けぇ!」
 撃つ!
 エネルギー弾が、08とナンバリングされたHWに向って伸びる。回避行動を取りかけた翼を抉り、吹き飛ばした。
「ノルマ達成!」
「こつこつ積み立てて地道に稼ぐぞ!」

 一方、ファランクスでホーミングミサイルの難を逃れた中型HWの頭上。
 白煙渦巻く高高度で、鹿嶋の雷電が急降下をかけていた。僚機スピリットゴーストが後ろから追随している。
「ミサイルは防げても弾丸は防げないだろう?」
 スラスターライフルの射程は短い。頭上に気がついたHWがすかさずプロトン砲で反撃に出た。
「鹿嶋様! 敵がキメラを放出しようとしています!注意してください!」
 ヨハンが援護しながら、HWの不審な挙動を見咎め叫ぶ。
 彼のいうとおり。後部ハッチを開き、積載物を目くらましのように、空に撒いているではないか。
 翼と歯のついた嘴を持つ、醜悪な鳥型キメラを。
「鹿嶋、ヨハン! キメラは任せろ!」
 夥しい数の合成獣に、果敢に挑んだのは瑞希とルノアのロッテ。
「折角解放されたところ悪いが――堕ちろ!」
 戦いの幕を切ったのと同じK−02小型ホーミングミサイルが、中型HWのハッチ付近にぶち込まれた。
 無数の火球の炸裂音とキメラの断末魔、それに巻き込まれた小型HWの爆発音が空域に響き渡る。
 中型HWも、誘爆で小破。
「木を隠すなら森、ミサイルの雨の中の弾丸を避けられますか!」
 なおも乱舞するホーミングミサイルの隙間を埋めるように、ヨハンがライフル、キャノンを掃射。さらに
「援護、感謝します」
 右翼に若干被弾しながらも、鹿嶋がスラスターライフルを頭上から叩き込んだ。
「生憎、この程度で落されはしませんよ。仮に落とされたら怒られてしまいますからね」
 着弾、発火!
 炎を上げながら、中型HWが傾いだ。体制を立て直そうと試みるが、黙って見逃す傭兵たちではない。
「突撃、します‥‥援護を」
 メタルレッドのS−01の翼は刃物。先ほどアレックスが敵を切り裂いたのと同じ、ソードウイング。
 ブーストで距離が詰まる。
 鹿島のスラスターライフルが、瑞希のマシンガンがワームを縫いとめる。
 そこに。
「終わり、です」
 赤い刃が、奮われた。


 開戦から、僅か1分程の出来事だった。
 中型ワームは堕ち、小型ワームも半数が海の藻屑と消えており
「残存敵機確認完了。01、02、04、06、09。いずれも小型、破損軽微〜中破。行動予測とともにデータを送信します」
 敵の残戦力も、無傷ではなかった。
 一方の傭兵の被害は軽微被弾、小破のみ。
 ブリュンヒルデのブリッジで、眼下の空戦を見守っていたマウルと留美は、胸をなでおろしていた。
 もっとも
「心配する必要はなさそうね。帰ってきたら褒めてやらないと」
「甘やかすと調子に乗るの。たった10機ぐらいやっつけられなきゃ、ヘッポコさんで十分なの」
 物言いは随分違ったが。


「嬢ちゃん、支援する! 全力でぶちかませ!」
 悠のディアブロに対し距離を詰めてきた2機に、ガルシアが十式高性能長距離バルカンを掃射。
 レーザーもプロトンも射程に入る前の援護射撃に、HWは文字通り右往左往する。
「ああ、頼りにしているよ!」
 ガルシアの援護で、ディアブロとHWの距離は詰まらない。故に悠の得物も、GPSh−30mm重機関砲。
 パニッシュメント・フォースで強化されたエネルギー砲が、ワームの装甲を射抜く。
 もともと重装甲陸戦兵器を撃破するために開発された武器だ、汎用ワームなど、端から話にならない。
 1機。もう1機。
 オレンジの火球が、海へと堕ちる。
「チェックシックス、ブレイク」
「09も落ちました。残るは、3機です」
 緒戦でMM−20ミサイルポッドを放ったシャーリィは、伊藤機とともに最後の掃討に入っていた。
 予想よりもずっと早い展開だ。無論良い意味で。
 温存しておいたUK−10AAMを放ち、すぐさま回避。
 一方の伊藤は、残りのキメラをバルカンで薙ぎ払った。
「06撃破。残り2機」
 シャーリィが笑み、仲間に報告する。
「よし!」
 武林の無邪気な声が、全機に響き渡った。
 と。
「レーダーエコー、海面方向、敵機確認」
 淡々と、だが緊張感を孕んだ伊藤の報告が入る。
 次の瞬間。
「な!?」
「きやがった!」
 はるか眼下。海が割れ、3機のマンタワームが現れたではないか。
 水音を立て、跳躍により上昇する。人類の技術では不可能な高々度での滑空、そして慣性制御。
「ブリュンヒルデを狙ってる!」
 ワーム達は、戦乙女の行く手を遮ろうと空を泳いだ。
「伊藤さん、あれを墜とします!」
 シャーリィが追随。MM−20を牽制に放ち、ブーストして距離を詰める。
 小型ミサイルを大きな身体に受けながらも、マンタワームは上昇をやめない。
「レーダーエコー、増援ワーム3、ブリュンヒルデに進行中」
 僚機の援護をしながら、伊藤がアナートリィに回線を繋いだ。
「カシマ、挟撃作戦に出ますか!」
「数量的にそれには及ばない。最大加速で急行、殲滅します。念のために警戒を」
 出撃前に共同作戦を提案した鹿嶋が、揚力が落ちてきた小型マンタにスラスターライフルの照準を合わせ、トリガーを引いた。
 別の一機の装甲を穿ったのは、、悠&ガルシアの掃射だ。
 そこに、ルノアが放ったK−02小型ホーミングミサイルが着弾。
「よしッ!」
 白い煙を上げながら海へ還って行く2体のマンタ。
「あと1!」
「やっぱ来たよな! こっからはサービス残業だ!」
 嬉々としてアレックスがソードウィングをアクティブにする。虎太郎に背中を預け、残りのマンタに突撃。
「ガキィィィィィン!! てな!」
「なんという無茶を!」
 アナートリィの嘆息が、2人のコクピットで小さく響いた。
 正規軍の尉官から見て、頭が痛くなるような戦法であるらしいが、マンタは確かに、堕ちて。

「レーダークリア、D1フォーブリュンヒルデ、給油をリクエスト」
「掃討完了‥‥ですかね」

 大西洋の空に、静寂が戻ったのであった。


 殲滅作戦終了から1時間後。
 ブリュンヒルデに収容された傭兵達は、KVハンガーでささやかな打ち上げを行っていた。
 居室は勿論あてがわれていたが、愛機の傍に居たいと、彼らが願ったのだ。
「大成功、でしたね」
 笑顔を浮かべるヨハンに、なぜか少しばかり残念そうなガルシア。
「こんだけ成果があがっちまうと、白瀬少尉の毒舌ではなじってもらえねえなぁ〜。いやまて、『調子にのらないでほしいの』ぐらいは言ってくれるかなァ?」
 嗚呼、黙っていれば渋い大人の男なのに残念である。
 そんな彼の背後で、自動ドアが小さな音を立てて開いた。
 入ってきたのは
「皆さん、お疲れ様でした。こちらは厨房からの差し入れです」
 アナートリィだ。手にした銀のトレイで、ピロシキが湯気を立てている。
「中尉自ら、これを?」
「出撃前に、コタロウさんと約束しましたから」
 小柄な少年にトレイを押し付けると、軽く一礼。
「では、僕はこれで」
 立ち去ろうとする背中に、瑞希が声をかけた。
「‥‥中尉がブリュンヒルデを護ってくれたから、戦いに集中できた。ありがとう」 
 細い背中が一瞬立ち止まり、傭兵を振り返る。
「こちらこそ、ありがとうございました。ボリビアでの活躍を、期待しています」
 堅苦しい、正規軍の敬礼。
 表情には、年相応の柔らかさが見えた。


 かくして戦乙女は無垢なまま、ボリビアの地に降り立った。
「彼女」が敵地でいかなる闘いを繰り広げるか、傭兵達は知る由もない。