タイトル:魔窟・殲滅マスター:クダモノネコ

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 27 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/15 05:45

●オープニング本文


 グリーンランド。
 北の海に浮かぶ、氷に閉ざされた巨大島である。
 地上の覇権と地下に眠る豊富な鉱物資源を巡り、侵略者と人類は、長きにわたり一進一退の攻防を繰り広げていた。
 否、いまこの時点も、戦いは続いている。
 とはいえ侵略者が人類より優れた文明を持っているのは覆せない事実であり。
 彼らは圧倒的な技術力をもって地下資源の採掘を進め、くり抜いた坑道をキメラ生産工場として再利用した。
 奇怪なプラントから、異星人の計算通りに産み出される忌まわしき合成獣。
 決められた運用期間を経て、廃棄される生物工場。
 そこに狂いなど、生じるはずがなかった。
 生じるはずがーーー。

 バグア軍との競合地域から南へ下ること数百キロ。
 UPCのヌーク基地に、小さな町から緊急の救援要請が下った。
「はい、UPCヌーク基地です‥‥え、町はずれの地下坑道にキメラが大量に沸いた?」
 男性士官が、緊張した面持ちで対応する。
「地上に大型種が出現? 中は‥‥はい、ほ乳類型が多数。わかりました、住民の皆さんは至急避難準備をしてください。UPCの救助艇を派遣いたします。‥‥坑道の封鎖とキメラ退治は、能力者が行いますので、それまでは町から離れていただきます」

 救援要請の電話を切るなり彼は、机の上に貼ってあった地図を確認した。
 要請を発した町は、競合地域を示す「黄色に」塗りつぶされた地域にある。
「地下洞窟を利用した実験場跡か‥‥これは大々的な駆除と封鎖作戦が必要になるな」
 バグア施設を示すマークが、爪先に触れた。

 それから数時間後、UPC本部の依頼パネルに新しい案件が表示された。

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  ★件名 地下坑道キメラ殲滅任務
 ★概要 グリーンランド地下坑道とその周辺地上部に発生したキメラ退治及び坑道の爆破
     ナイトフォーゲル部隊、生身部隊での混成が望ましい。
 
 ★任地概要 全長2km程度の地下坑道。緩勾配で下っている(高低差最大で数m)
       坑道の広さは大きな通りでは複数人通行可能、細道では不可能
       廃棄前の照明が不十分だが、残っている模様
       気温マイナス10度前後。生身での赴任時は、留意すること。
 
 ★特記事項 廃棄されたバグア施設であるが、発生キメラ以外に大きな危険はないように思われる。
       また、キメラも知能が低く、こちらの作戦行動を意図的に邪魔するおそれは無い模様。
       
 ★支給物  坑道爆破用爆弾 3ケ(所持人員を決定してから出発すること)
       重量は1kg前後、鞄やバックパックに収納可能。
 
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●参加者一覧

/ 西島 百白(ga2123) / 伊藤 毅(ga2610) / 終夜・無月(ga3084) / UNKNOWN(ga4276) / アルヴァイム(ga5051) / 三枝 雄二(ga9107) / 白虎(ga9191) / シルバーラッシュ(gb1998) / ジェームス・ハーグマン(gb2077) / 鯨井レム(gb2666) / 番場論子(gb4628) / 山下・美千子(gb7775) / ソウマ(gc0505) / 獅月 きら(gc1055) / 桂木 一馬(gc1844) / 秋月 愁矢(gc1971) / エクリプス・アルフ(gc2636) / ユウ・ターナー(gc2715) / イレイズ・バークライド(gc4038) / ヘイル(gc4085) / 鳳 勇(gc4096) / 龍乃 陽一(gc4336) / 那月 ケイ(gc4469) / エシック・ランカスター(gc4778) / 直屋 明人(gc5183) / 水奈月 亮(gc5278) / シルヴィア(gc5288

●リプレイ本文



 11月も半ば過ぎのグリーンランドは、既に長い長い冬を迎えていた。
 大地は凍てつき、空は厚い鉛色の雲で覆われている。ひらりはらり舞い落ちる白い片。−−雪だ。
「天気がよくないですね‥‥」
 任地となる地下坑道の上空、低高度を巡航するジェームス・ハーグマン(gb2077)は斉天大聖のコクピットでひとりごちた。
 今回は伊藤 毅(ga2610)率いる「380戦術戦闘飛行隊」の一員としての参加だ。やや後方につけている僚機はリンクス。操縦桿を握るのはエシック・ランカスター(gc4778)である。
「今回は皆さんのお尻を見ながら飛ばせてもらいますよ」
 フランクな声が無線から各機に飛んだ。
「こちらこそよろしく。たまには情報系の仕事もしないと、忘れてしまいそうですからね」
 ジェームスに続いて、隊長機とロッテを組む三枝 雄二(ga9107)も軽く返事をする。
「それにしても、バグアにも不良品の概念があって、少し安心したっす‥‥なーんて」
 気心の知れた小隊ならではの和やかな雰囲気のなか、毅が地上に向かってコールした。
「こちら380戦術戦闘飛行隊、コールサインドラゴン、4機のKVで飛行中。現在上空より異常は見られないが、引き続き警戒にあたる」
 地上で受け取ったのはシュテルンのパイロット、鳳 勇(gc4096)。
 今回の作戦行動では管制を務める。黄金色に輝く機の愛称は、ゴルデンファルケ。
「ドラゴン、了解した。これより地殻変化計測器の設置に移る」
「了解。引き続き上空より警戒を続け、適時航空支援を実施する」
 短いやりとりのあと、勇は陸戦部隊にむけて回線を開いた。
「こちら鳳。只今航空支援隊より入電あり。現状敵キメラの姿は視認されていないとのことだ。‥‥先手必勝、地殻変化計測器を、坑道を中心に円状に範囲を広げながら設置していこう。念のため計測器を所持しているメンバーを確認する。西島 百白(ga2123)、山下・美千子(gb7775)、番場論子(gb4628)、那月 ケイ(gc4469)、直屋 明人(gc5183)。以上5名は速やかに設置を」
「了解」
 5機のKVが待ちかねたように活動を開始した。
「久しぶりの陸戦‥‥だな‥‥虎白‥‥」
 虎白と名付けた阿修羅の中で、金の瞳を輝かせる百白がまず1個目を設置。
「坑道の脅威を駆逐して、周辺住民の安寧を得られる様にしましょうね」
 特殊電子波長装置βを作動させ、キメラの出現に注意を払いつつ2個目は論子が。
「害虫駆除、だな。生身部隊に負けられないし、張り切っていきますか!」
 3個目を設置したケイはすかさず勇へとデータをリンクした。
「‥‥リンク完了。問題ないようだ」
 管制からの回答に、やや安堵するケイ。と、そこに
「あ〜、3時の方角、地面が盛り上がってるっす、奇襲に注意っす!」
 空域を舞う雄二から、陸戦部隊にアラートが飛んできた。
「山下‥‥近いぞ」
 ほぼ同時、百白がすかさず「3時の方向」の僚機に通信を入れる。
「え? わ、ほんとだ!?」
 索敵画面の反応に気づいた三千子のすぐ傍で、地面が轟音を立てて砕けた。
「!?」
 現れたるは、全長10mを優に超える巨大な蚯蚓だ。
 濁った褐色の体をうねらせ土をまき散らしながら頭部を左右に振り動かす。聴覚と嗅覚で獲物を探し、すぐ傍の竜牙を嗅ぎ当てた。
「あたらないよっ!」
 粘液を飛び散らせながら襲い来る頭部を、竜牙は後ろに跳んで回避。
 すぐさま盾を構え、機体を左右に振りながら一気にブーストで距離を詰める。
「いくよ、マックス!」
 火之迦具鎚を思い切り叩き付け、即離脱。俗に言う「ヒット&アウェイ」は、彼女の最も好む戦い方だ。
「あたしの戦い方はやっぱりこうじゃなくっちゃね!」
 その背中で、厭な音が響いた。土が崩れ、地が揺れる。
「直屋、付近にもう1匹来るぞ!」
 管制を司る鳳の横に待機していたヘイル(gc4085)が叫んだ。
「うわああ!」
 弾かれたように飛びのくディアブロ。戦闘経験こそ浅かったが、明人とてれっきとした能力者だ。
「‥‥訓練どおりやるだけさ。‥‥多分それで大丈夫だよな!?」
 回路の文様が浮いた右手が、ガトリング砲のトリガーを引く。
 掃射音と共に、蚯蚓の巨躯にメトロニウム弾がめり込んだ。止めには至らないが、動きは鈍った。
「直屋機、山下機付近に大蚯蚓を2体確認。水無月機、援護頼む」
「了解!」
 管制の要請に、水奈月 亮(gc5278)が気合いをいれて応えた。初陣の緊張を隠し、KVスピアを握りしめ疾駆。
 槍の先端が2匹に更なるダメージを与えたところで
「これより2匹に対し支援砲撃を行う。地中に潜む連中が出てきたら叩いてくれ」
 ヘイルがショルダーキャノンを放つ。
 −−着弾!
 あがる土煙。響く地鳴り。
「来るぞ!」
 地殻変化計測器の急反応に勇が叫んだ。
 陸戦に挑むKVのコクピットの視界は、どれも土礫で利かなくなっていたが、パイロット達が開戦を確信したのはいうまでもない。
 そして。
「始まったな‥‥!」
 巨大な柱が沸き立つか如く、次々と蚯蚓が地表にあらわれた!
「うぉ、でけぇ」
 低空度を巡航していた380戦術戦闘飛行隊の面々も、眼下の変化に気を引き締める。
「ドラゴン3より陸管制へ。敵位置情報送ります、レーダーに表示されるエリアが、出現予測ポイントになります」
 ギリギリまで高度を下げていたジェームス、エリック両機はコールの後一旦上昇。
 毅、雄二両機とともに臨戦態勢で待機に入った。
 地上では空からの情報を受け取った鳳が、各機にデータを配信。
「‥‥どうやら獲物がお出ましのようだ。蚯蚓は13匹、一部まだ表出せず。各個いぶりだして撃破願う!」
「了解!」
「ミミズをぶっ潰すのだー!」
 白地に虎縞のビーストソウルが−−正確にはパイロットの白虎(ga9191)が咆えた。
 ロケットパンチの要領で、拳から繰り出されるはグレネードランチャーだ。
「引きこもっているなら‥出てきたくなるようにしてやるにゃー☆」
 レーダーに反応はあれど蚯蚓の姿がない地面に、火弾がめり込んだ。
 爆発音、黒煙、赤炎。火薬の臭い。
 たたみかけるように3.2cm高分子レーザー砲を放つのは百白。
 地下はもはや安寧でいられる場ではなくなった。そう判断した蚯蚓どもが残らず顔を出した。
 その数、レーザーの光点と完全に一致。
「敵さん、近いぞ!」
 勇の管制に従い、ケイの操るパラディンが盾を構えた。
「狩りの‥‥始まりだ‥‥行くぞ‥‥虎白」
 百白が全幅の信頼を寄せる阿修羅が、頭部めがけて地面を蹴る。前足の機爪がぶよぶよとした皮にざっくりと突き刺さり
「さぁ‥‥敵を‥‥喰らうと‥‥するか」
 三閃!
「−−−−−−−!」
 体液と粘液を撒き散らしながらのたうつ蚯蚓の巨躯が、阿修羅を大きく弾き飛ばした。初撃は偶然。だが、2撃目は狙って。
「させねえっ!」
 すかさずケイが割り込み、その身で攻撃を受けた。ヘルムヴィーゲ・パリングを発動した騎士の防御力は、飛躍的にあがっている。
 その隙に体勢を立て直した虎白が、再び爪を振るう。
「よし!」
 屹立していた環状生物が、ぐにゃりと傾いだ。
「一体撃破!」
 管制からのコールに、思わず明人が声をあげる。
「早い!」
 最初に蚯蚓と交戦した彼と三千子、明人、亮のユニットは優勢を保ってはいるものの、2匹に止めをさすまでには至っていなかった。
「一撃必殺っ!」
 三千子のヒット・アウェイ戦法は有効ではあったが、
「‥‥とはいかないよね、やっぱり」
 敵の柔らかな身体が仇となり、なかなか期待通りのダメージが通らない。
 と、後輩(?)のピンチを見かねたのか
「ふふ、僕がエースとしての実力を見せてやろう!」
 本気なのかネタなのか。キリッという擬音が似合いそうなセリフを吐いて白虎の操るビーストソウルが駆けてきた。
 蚯蚓の攻撃をすんでのところでかわした青い機体が跳躍!
「必殺☆ リューサンインザスカイッ!!」
 SAMURAIランスを凛と構え、己の重量を乗せた一撃を頭部に叩き込み、屠った。キャー、リューサンステキー!
「‥‥今度、コーラおごる。さすがエースだ‥‥」
 素直に礼を述べる亮に、一瞬うろたえる白虎。
「あ、エースって言ってみたかっただけです‥‥もっと強い人いるし。調子こいてすいまえんでした;;」
 そうこうしている間に。
「土竜叩きならぬ蚯蚓叩きか。よもやアースクエイクよりも強敵ということも無いだろう!」
 弱った1匹、さらに付近に現れたもう1匹に向けてヘイルの支援砲撃が炸裂した。
「バグアめ‥‥欠片も残さずに滅ぼしてみせる」
 管制の勇も、ショルダー・レーザーキャノンを放つ。止めを刺したのは論子のスナイパーライフルだ。
 知能の殆どないキメラといえど、やはり頭部は急所。メトロニウムの弾丸を食らっては、ただの肉塊に戻るしかない。
「難敵には一対多の優位差で殲滅といきましょう」
 斉天大聖のコクピットで、ドラグーンは知的な笑みを浮かべた。


 空域を担当する「380戦術戦闘飛行隊」は、地上の様子にやや焦りを感じていた。
「こちらドラゴン3。地上班、数量的にやや劣勢」
 地上の勇機と連携をとりながら巡航するジェームスの声にも余裕がなくなりつつある。
「地上より援護要請着信、目標は10時方向の蚯蚓。周囲に味方機は‥‥無し」
「要請了解。ドラゴン1、ロケットアゴーン」
 待ってました、といわんばかりに毅機が高度を下げた。
「ドラゴン1、投下」
「ドラゴン2、ロケット発射!」
 後に続く雄二機とともに、蚯蚓の頭すれすれでロケットランチャーを発射する。
 黒煙の中で、2匹の蚯蚓がのたうつシルエットがうっすら見え、やがて崩れ落ちた。
「効果確認!」
 雄二が小さく叫び、隊長機フェニックスにコールを送る。
「まだまだ気は抜けませんね‥‥」
 再び高度を上げた2機の傍で、エシックは注意深く地上に目をやった。緑の眼が坑道付近で動くものを捉える。
「全機へ通達。生身部隊が坑道に入った模様。すぐ傍に彼らがいることを意識しての交戦をお願いします」




 陸戦部隊が交戦している隙間を縫って、生身部隊は坑道の中へと突入していた。
 地上での戦闘の影響か。時折地鳴りのような音が響き、ぱらぱらと天井から土粒がこぼれおちてくる。
 岩盤をくり貫き、金属の支柱を通しただけの坑内は酷く温度が低い。岩壁の隅にたまった水には薄く氷が張っている箇所もある。
「さむーい‥‥」
 ユウ・ターナー(gc2715)がマフラーの中に首をすくめ、身を震わせた。
 手袋にウォームインナーで防寒対策は十分とはいえ、マイナス10℃はそれ相応に堪えるようだ。
「オホーツクの次はグリーンランドかよ。ったく身体が凍っちまう」
 AU−KV「バハムート」を装着したシルバーラッシュ(gb1998)も、やや不満そうな口ぶりだ。生身よりははるかに快適な筈がこれ如何に。
「鯨井よー、さっさと終わらせて帰ろうぜ」
 己を引っ張ってきた相棒に眼をやると
「では突入班、開始前の最終点呼を行いたいと思う。端から順に頼む。ぼくは鯨井レム(gb2666) 」
 ゼブラ柄のアスタロトを装着した彼女は、しゃきしゃきと皆を仕切り始めていた。学生寮管理部長の肩書きは伊達ではないようだ。
 最初に名乗りをあげたのは、銀髪のダークファイター。
「1番、終夜・無月(ga3084)。敵の殲滅とともに突入する仲間を護ることに力を尽くしたい」
「2番‥‥バクアも厄介な置き土産を残してくれましたね。立つ鳥跡を濁さず、この言葉を知らないんですかね?」
 芝居がかった調子で笑みを浮かべるのはソウマ(gc0505)。「キョウ運の持ち主」を自称するヘヴィガンナーだ。
 桂木 一馬(gc1844)も大きく頷き
「全くだ。どうせ引越しをするなら後始末もしっかりやって行って欲しいものだ。‥‥と、3番」
 龍乃 陽一(gc4336)も、同意を示した。
「まぁ、手加減はいりませんよね?‥‥4番」
「かなり寒いな・・皆、防寒は大丈夫か? 5番、秋月 愁矢(gc1971)だ。終夜隊長ともどもよろしく」
「6番、エクリプス・アルフ(gc2636) キメラプラントですか〜。 実際に見るのは初めてですねぇ」
「ん、さむいけど皆でさくさくキメラやっつけちゃって、爆破するぞー! 7番、ユウだよっ」
 確実に高まる戦意と仲間意識。
「8番、アルヴァイム(ga5051)」
 そんな中、爆弾所持を担当するエレクトロリンカーは、頷きながら各人のデータを再チェックしていた。錬力を大きく消耗するスキルとその持ち主を把握するためだ。
「9番、イレイズ・バークライド(gc4038)。鯨井、アルヴァイムとともに爆弾を預かる。‥‥よろしく」
 重責のせいだろうか。金髪のダークファイターはやや緊張した面持ちだ。そしてもう1人、硬い表情の少女が続く。
「10番、獅月 きら(gc1055)です。‥‥思うところがあって志願しました」
 グリーンランドにおけるバグアの作戦行動は、彼女にとって特別な意味があるようだ。
「ま、硬くならずにいこうぜ? シルバーラッシュだ。ヨロシク頼む。と、11番か」
 シルバーが後を引き取り、横に立つ黒衣の男に目をやった。UNKNOWN(ga4276)だ。
 坑道であることを考慮してか、咥え煙草に火はついていない。
「12番。私で、最後だね。皆を無事に送り帰るとしよう」
 薄暗い坑道の中、あらためて全員が顔を見合わせた。ひとつに繋がる雰囲気を確認してから、レムが改めて口を開く。
「さて作戦だが、残念なことに地図は確保できなかった。なるべく脇道に逸れず、固まって行くのが安全だとは思うのだが‥‥」
「ふむ、とはいっても‥‥全員で行軍するのは危険ではないか」
 無月が先を見通して呟いた。なるほど、入り口から奥に伸びる道は細く、人2人が並んで歩くのが精々だ。
 遺棄された照明のもたらす灯りは心もとなく、脇道やトラップなどに嵌ればパニックになる危険性が否定できない。
 打開策を提示したのは、きらだった。
「わたしでよければ、潜行偵察を行います。隠密潜行があるし、ペイント弾も持ってきたから、注意すべき場所にはマークできます」
 小柄なスナイパーの言葉に、アルヴァイムが軽く頷く。
「無理はせずに。有事の際はすぐ連絡を」
「はい」
 きらは短く返事し、隠密潜行を発動させた。星屑のような光を纏う少女の気配が、すっと周囲に溶け込んで、失せる。
「では、行きますね」
 その背中を、UNKNOWNは優しげな微笑を浮かべて見送った。

 薄暗い坑道を、拳銃を片手にきらが進む。
 入り口から程近いせいか、警戒すべきキメラの姿はほとんど見られない。
「このプラント‥‥あの子達に‥‥ハーモニウムに何かの関係があるのかな‥」
 ただ、レムが懸念したようにわかりにくい分岐や、下の層へ繋がるであろう穴があいた箇所はいくつか見つかった。
「あの子達を救う何かが、ここにあるかも知れない‥‥」
 頭の隅で他所事を考えつつも、勿論仕事は忘れない。
「‥‥わ、こっちに行くとヒルがいっぱいだ‥‥ここもマークしておこう‥‥」
 ペイント弾を射出する音を時折響かせ、坑内を奥へ奥へ。
 時間にして10分弱、孤独な探索を続けた彼女は足を止めた。金色の瞳で先を見つめること数秒。
「‥‥さて、と」
 トランシーバを手に取り、通話のスイッチを入れた。

「こちら獅月、聞こえますか?」
 坑道で一同と待機するレムを、トランシーバ越しの声が呼んだ。
「良く聞こえる。様子はどうだい」
「入り口から大きな通りまでの探索は終了しました。10匹以上の狼キメラを確認できるので、大通り手前で待機中」
「ありがとう。きみの居る場所までに何か危険は?」
「小さめのキメラが数匹いましたが、通行には問題ないでしょう。基本的に一本道ですが、迷いそうな分岐や崩れそうな箇所、キメラの巣とおぼしき箇所にはペイント弾でマークしておきました。‥‥現状、わたしの居る場所に目だった危険はありません。慌てず、でも急いで来てください」
「了解した」
 何気に高度な要求に、苦笑してレムは通信を切る。
「では、行こうか」

 細い坑道を、12人の能力者は注意深く進んだ。
 しんがりをつとめるのはUNKNOWNとソウマ。ともに「探査の眼」を発動し、周辺に抜かりなく気を配る。
 2人に警護される格好のアルヴァイムは、きらが残したペイント弾の後を注意深く観察しながらの歩行だ。
 時々立ち止まり、壁に矢印を刻印する。撤退を迅速に行うための心配りとして。
「‥‥ヒルっ」
 用意したランタンに照らされ、無駄に絡んでくるヒルキメラにうんざりしているのはエクリプス。
「いっぱい居るみたいだし、気合入れてやっつけちゃうゾー!」
 それでもユウとともに得物で露払いし、道を開いてゆく。
 5人よりやや前方、隊列の中間あたり。
「しかし、食えそうなーのがいねぇな‥‥」
 パイドロスのライトに照らされ、慌てて逃げるネズミ型キメラにシルバーは肩をすくめていた。
 血迷って飛び掛ってきた命しらずは、エアストバックラーで軽くいなす。
「アザラシを食べるきみなら、いけるんじゃないのか」
 バックパックに爆弾を詰めたレムが軽口を叩いた。気心知れた相棒と話すせいか、表情は先ほどまでよりも柔和だ。
 ドラグーン2人より数歩先を行くのは陽一。
「イレイズさん、そこの横道にペイントが。キメラの巣のようです、注意して」
 彼は地形ときらの残した情報に気を配り、爆弾を持つイレイズを気遣いながら歩を進めていた。雑魚にベオウルフは使うまでもない。
「ああ‥‥またぞろぞろ出てくるのか‥‥」
 何気にムシ類が苦手なグラップラーは、溜息をついた。ランタンで周囲は照らすが、足元で蠢く何かの気配は意識的に無視しながら。
 そして先頭は。
 無月と愁矢の「UMC『月光』」のふたり、それに一馬だ。
「地下でコソコソとキメラの研究か‥‥気に入らないな」
 露払いをしながら進む3人の目に、小さく手を振る影が映る。きらだ。
「こっちですっ」
 可愛らしく手招きするスナイパーの元に、皆が集結した。
「‥‥なるほど」
 きらが無線で報告したとおり、細い通路の先は大きな通りになっていた。
 岩壁にはむき出しの鉄骨や配管が、地面には機械の残骸が置き去りにされており、照明もずいぶんと明るい。
 白々と照らし出された坑内に、四足の獣がいくつも動いているのが見えた。薄汚れた銀色の体毛に赤い眼。狼を模したキメラだ。
 群生の本能が残っているのか、数匹ずつ固まっている様子だ。
「群れてるな‥‥厄介だ」
「一対一ならまず負けることはないだろう、群をバラけさせた上で個別撃破を狙おう」
「了解」
 一同、顔を見合わせ、確認。
「‥‥行こう!」
 先陣は、陽一が切った。
 ベオウルフを担ぐように構え、狼を正面から見据え、駆ける!
「道をあけなさい‥‥! まぁ、言っても無駄でしょうが‥‥!」
 射程内に入った狼に有無を言わさず叩きつけ、撃沈。
 振り抜きざま駆け寄るもう1匹も薙ぐが、これは止めには至らない。牙が腕を掠める。
「龍乃」
 闇からすっと出でたUNKNOWNが、余裕を崩さずエネルギーキャノンでフォロー。
 知覚攻撃をもろに受けた獣は泡を噴いて地面に倒れた。
「あんのんさん、感謝です」
「油断は禁物、だよ」
 陽一の傷を練成治癒で塞ぐサイエンティストから数メートル。
「爆弾を持ってる人は、先に行ってくださーい!」
「後ろは任せて下さいね☆」
 ユウとエクリプスがそれぞれの銃で、近づこうとする狼を牽制していた。制圧射撃で足を止めつつ
「前に出る! フォローを頼むぜ」
 抜けてきた狼を二刀流で迎え撃つ愁矢を、援護射撃。
「止めだ!」
 無月の明鏡止水が、さらに
「ダンスパーティーの時間です‥無様なステップを刻みながら逝け」
ソウマの超機械グロウが閃き、歪な生物を闇へ返してゆく。
「今のうちだ!」
 一馬も拳銃で狼の足を止めながら、爆弾を持つレム、アルヴァイム、イレイズに叫んだ。
「援護、感謝する!」
 3人は後ろを見ずに、奥へと走った。それでもなお追いすがる狼を撃退するのはバハムート。
「オイオイ、あんま邪魔しねーでくれや」
 椿を振るったのち、竜の翼を発動。先行く3人とともに駆けた。
 目指すはただひとつ。
 −−プラント!



 暗い坑道を抜けて、地上。
 しかしこちらも明るいとはいえない。
 空は鉛色で、雪が音もなく舞っていた。時刻は午後3時過ぎ。極に近い氷の島は、既に暮れなずんでいる。
 そんな中。
「こちら突入班、アルヴァイム。現在プラント付近、状況は良好」
 地下からの通信を最初に受け取ったのは、論子だった。
「了解、以降も気をつけて」
 淡々と答えつつも、ほっと安堵の息をつく。が、すぐに気持ちを切り替え、管制を担当する勇と空のジェームスに情報を伝達した。
「‥‥ならばこちらも頑張らなくてはいけませんね」
 斉天大聖からの通信を切ったジェームスは、操縦桿を握ったまま眼下に眼をやる。
 蚯蚓の多くは醜悪な肉塊と化し動かなくなっていたが、まだいくつか交戦しているのが見えた。
 もっとも状況はかなりよくなっており、戦況は終盤だ。
「支援機だからと言って接近戦が出来ない等という道理は無いぞ?」
 後方支援の役目を終えたヘイルのディアブロが、機刀「建御雷」を振るう。
 百白の阿修羅−−虎白がミサイルポッドを放ち、地下に逃げ込もうとする蚯蚓を叩く。
「面倒は‥‥嫌いなんだよ!」
 轟音とともに、再びあがる火の手。動かなくなる巨大生物。
 作戦の終盤を悟ったのか。「380戦術戦闘飛行隊」隊長の声が僚機に飛んだ。
「ドラゴン1より各機へ。間もなく生身部隊の脱出が行われると予想される。各個地上の様子に注意を」



 再び地下坑道。
 狼の群がる大通りを抜けた傭兵達の前に、さび付いた扉が立ちふさがっていた。
「カギがかかっている‥‥」
 扉を調べて首を振る一馬に、ソウマがニヤリと笑む。
「僕の『キョウ運』を、試してみましょうか」
 取っ手の下の電子錠(らしきもの)に狙いをつけ、超機械を振るう。小さなスパーク音が内部で響いた。
「効いてる?」
「成る程‥‥」
 UNKNOWNがエネルギーキャノンを構え、トリガーを引いた。
「えいっ!」
 きらもジャッジメントで加勢。
「いける!」
 スパーク音が激しくなり、小さな火花とともに消えた。
「よし、突入だ!」
 ベオウルフを振りかざした陽一が扉に手をかけた。
 軋んだ音とともに、先が開き−−。
「グオァアアアアア!!!」
「うわあああああああ!?」
 数え切れないほどの、人型キメラが押し寄せてきた!!
「‥‥く!」
 機械から「産み落とされた」ばかりなのだろう。赤黒い粘液を纏いよろよろと歩くそれらは、衣服など無論身に着けていない。
 人の姿はしていているが、獣にすぎなかった。
「どうして‥‥こんなものを」
 きらが顔を歪めて、苦しげに呻く。
「俺たちが注意を引く! その隙に先に行け!」
 愁矢が二刀流でキメラたちを捌きながら叫んだ。背中合わせに立ち回る無月も、明鏡止水を血で染めながら奥を顎で示す。
 否、彼らだけではない。
 ユウも、エクリプスも、陽一も。皆交戦しながら、爆弾班に早く行けと促していた。
「皆さんには指1本触れさせません!」
 きらが、奥を指差す。距離にして50メートルほど先に鎮座する、大きな機械を。
 遺棄されたはずのこの坑道で、たくさんのランプを明滅させながら、気味の悪い駆動音を撒き散らしている。
「あれがプラントか‥‥」
 排出口からずるりと落ちてくる「獣」を見てアルヴァイムが息を呑んだ。すかさず制圧射撃を放つが、顔色は冴えない。
「もたもたしてると集まってくる、行け鯨井、3人もいるんだ、誰か1人はたどり着くだろ」
「ああ」
 シルバーの言葉を受け、アスタロトに身を包んだレムがエネルギーガンを乱射しながら駆けた。
 続いてイレイズ。道中照らしてくれたランタンを捨て、蛍火とカトラスの二刀流で降りかかる火の粉を払いながら走る。
「行くぜ」
 アルヴァイムの後方は、シルバーのバハムートが援護。
 幸いキメラ達に知能はないらしく、プラントへの接近を阻止するような動きは見られなかった。
 彼らにはただ目の前の敵を倒すことしか、できないのだ。 
 
 プラントに最初にたどり着いたイレイズは、注意深く爆弾を設置した。
 数メートル手前で己の援護にまわったレム、アルヴァイムに軽く手を振り、起動ボタンを押す。与えられた脱出時間は、僅か30分。
「こちらイレイズ。爆弾を設置した。総員速やかに退避だ!」
 トランシーバに叫び、新たに沸いた人型を得物で闇へ還す。キメラとわかっていても、胸の奥がざわめく。
「まだまだ‥‥だな」
 やりきれない思いを抱き、プラントから離れるグラップラー。
 任務はまだクリアしていない。これからもう一つ、大きいのが残っている。それは
「おし! んじゃとっととズラかろうぜ!」
 生きて、脱出することだ。

 プラントからUターンしてきた面々は、襲い来るキメラを振り払いひたすら地上を目指した。
「退路の確保は任せてください」
 ソウマはしんがりで超機械を振るい、闘争本能のみの狼を駆逐する。
 一方きらは、全員での帰還を切に願い、皆に働きかけていた。
「侵入時にアルヴァイムさんとUNKNOWNさん、それに私で印をつけておきました。それを見ながら地上を目指してください」
「了解した。爆発まではあと27分、いたずらに焦ることはない、もちろん急がなくてなならないが」
 レムはSASウオッチを覗きこんでから、きらに頷く。もちろん足は止めない。
「龍乃、左上の『×』だ。遅れるものが、いないように」
「はい、あんのんさん」
 往路同様しんがりを努めるUNKNOWNは、周囲に注意深く眼を配っていた。
「早く煙草に火をつけたいものだ‥‥」
 紫煙に思いを馳せ、彼もまた、地上を目指す。




 レムのSASウオッチが残り10分を示す頃。
 地上は既に夜の帳に包まれていた。土煙も炎もおさまり、周囲は落ち着きを取り戻していた。
 蚯蚓を駆逐し、シュテルンのコクピットで束の間の休息をとっていた勇は、コクピットの無線の着信音に文字通り飛びついていた。
「鳳だ、突入班か!?」
「こちら突入班、アルヴァイム。現在全員の脱出を完了。爆発は凡そ10分後、坑道の封鎖と退避の援助を要請する」
「‥‥了解!」
 管制として最後の大仕事だ。彼は全機に向けて回線を開いた。
「こちら鳳、突入班が生還した。陸戦組は副座をあけて彼らの退避援助を。撤退確認後、380戦術戦闘飛行隊はフレア弾で洞窟の封鎖を」
「ドラゴン1、了解。退避完了、爆発確認まで上空で待機する」
「宜しく頼む‥‥!」
 回線を切断した勇は、シュテルンの操縦桿を握りなおした。立ち上がり、坑道の入り口まで向う。
「水奈月機、ユウ・ターナーさんを収容!」
「直屋機、エクリプスさんを収容‥‥って、これは訓練でやったことないけど‥‥大丈夫だよな!」
 僚機から入る収容報告に応えながら、己のコクピットにも「客」を迎え入れた。
「獅月ですっ。よ、よろしくお願いしますっ」
「ようこそ。ちょっと荒っぽいかもしれないが、そこは緊急事態ってことで」
 一方、2人のドラグーンはバイクモードでの退避と相成った。防寒装備に身を固めているとはいえ、グリーンランドの夜は凍てつく。
「ったくクソ寒い‥‥!」
「仕方が無いだろう、AU−KVでは副座は無理だ、基地まで競争でもするか?」
「面白ェ」
 それでも2人は顔を見合わせ、笑いあっていた。
 生還の喜びが、確かにそこにあった。
 百白は愛機「虎白」のコクピットで虎の如く吼えていたが、それもまた感情の発露だった。
 

 陸戦班と生身班が撤退して10分と数十秒後。すなわち、坑道の爆発が確認されて間もなく。
 低空で旋回待機していた380戦術戦闘飛行隊が動きを見せた。
「突入部隊、陸戦部隊の撤退を確認。ドラゴン3、フレア弾投下。洞窟を封鎖しろ」
「了解、ドラゴン3、フレア弾投下します」
 短い通信のあと、投下される炎の弾。
 それは歪なる洞窟の入り口を埋めるに十分な性能を持っていた。
 眼下で立ち上る火柱と黒煙に、雄二が口笛を吹く。
「さて、ミッションコンプリートてやつですかね」
「ええ、帰還しましょう」
 投下したジェームスが、コクピットで頷いた。そこに隊長の、命令が下る。
「全作戦行程の終了を確認、ドラゴンフライト、RTB」 


 かくして、歪な命を生み出す魔窟を破壊する作戦は無事に終了した。
 しかしこの坑道は、無数にある廃坑のひとつにすぎない。
 戦いはこれで終わりではなかったし、安心するには未だ、早いのだ−−。