タイトル:【LP】戦乙女の祝勝会マスター:クダモノネコ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/18 02:39

●オープニング本文



 著しい戦果をあげた、北京解放作戦。
 バグアを退けたという確かな手応えと喜びは、マウル少佐率いる「ブリュンヒルデ」のブリッジにも広がっていた。
 これは彼らがラスト・ホープへの帰還を直前に控えた、ある昼下がりの話である……。

「市街地視察? これから、ですか?」
 KV格納庫から内線で呼び出された艦長席。
 アナートリィ・ボリーソビッチ・ザイツェフ中尉は、書類の山に埋もれたマウル・ロベル少佐に思わず聞き返していた。
「メカニックが『サブエンジンに軽いトラブルが見つかった。メンテナンスに半日ほど欲しい』って言ってるのよ」
 童顔の上司は、ボールペンの端を軽く噛みながら不機嫌そうに返事をする。
「メンテナンス、ですか。……何もここでやらなくても、ラスト・ホープに帰ってから行えば……というか、それと市街地視察に、何の関係が」
「もちろんオーバーホールはラスト・ホープに戻ってからきちんとさせるわよ。今回のは海を越えるための、いわば応急手当ね。市街地視察は、どうせ暇でしょうから行ってきなさい、ってコト」
 それともこの書類片付ける? そう言わんばかりに顎で紙束を指すマウルに、アナートリィはたじろいだ。
「ひ、暇とは心外です。艦載のKVもかなり酷使しました、KV隊を預かる身としてはそちらに時間を頂ければ……」
「サブエンジンへの損傷部分には、KV格納庫内のハッチからしか入れないの。だからメンテナンス中は、格納庫も閉鎖なの」
 少し離れた管制席から、白瀬 留美少尉の声が飛んでくる。
「トーリャさんは少し浮世離れというか、世間知らずなところがあると思うの。だから、市街地の様子を肌で感じることは、いいことだと思うの」
「少尉に世間知らずと言われたくないです」
 どっちもどっち感が漂うやりとりを、マウルが制した。
「何でもね、この街にはとても美味しい飲茶を売っている露店の並びがあるんですって。私も白瀬も買いに行く余裕がないから、視察ついでに買ってきて欲しいのよね」
「はぁ……」
 ようやく艦長の真意が飲み込めたアナートリィ。っていうかパシリだろう、これ。
「トーリャもレーション、飽きちゃったでしょ。軽く祝勝会気分もいいんじゃないかしら」
「きっとピロシキに似たのもあると思うの。中国4000年なの。美味しいはずなの」
 留美もうんうんと頷く。
「ピ、ピロシキといえば僕を釣れると思っているでしょう!……いやしかし、少しばかり気になります」
 2人に言いくるめられたのか、アナートリィも興味が沸いてきたようだ。
 部下の気が変わらないうちにと、マウルがぽんと手を叩いた。
「決まりね。じゃあ今日17時から、食堂でささやかな祝勝会を開きましょう。……件の街には何人か傭兵が駐留しているはずよ。時間に余裕のある連中には来てもらうのもいいかもね。もっともそう大勢は無理だけど」
「……わかりました。アナートリィ・ボリーソビッチ・ザイツェフ中尉、拝命します」
「頼りにしているわ、トーリャ」


 ……かくしてUPC本部に、白瀬 留美からの依頼が公開されることと相成った。

「こちらブリュンヒルデ管制 白瀬 留美少尉なの。
 今回傭兵さんにお願いしたいのは、トーリャさんのお買い物につきあって、中国某町の
 露店街で、美味しい飲茶を買ってくる……もとい、適切な物資を調達することなの。
 トーリャさんに任せておいたら、ピロシキみたいな揚げ物ばっかり買ってきそうで心配なの。
 色んな種類の飲茶を、買ってきてほしいの。
 マウル少佐は『はらぺ娘』らしいの。
 私は、甘いものが食べたいの。
 ジョーダン中佐は『質より量だ、ガハハ!』らしいの」

「お買い物が終わったら、食堂に集まってみんなでパーティーなの。
 飲み物も調達してくれるとうれしいの。
 私とトーリャさんと20歳以下の傭兵さんはお酒は飲めないけれど、
 マウル少佐とジョーダン中佐と20歳以上の傭兵さんはOKなの。
 だけど悪ふざけが過ぎたら、KV格納庫の廊下で正座だから気をつけるの」

「では、傭兵さんと、お祝いの席をごいっしょできることを楽しみにしているの」

●参加者一覧

ガルシア・ペレイロ(gb4141
35歳・♂・ST
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG
楽(gb8064
31歳・♂・EP
獅月 きら(gc1055
17歳・♀・ER
ヨハン・クルーゲ(gc3635
22歳・♂・ER
鳳 勇(gc4096
24歳・♂・GD
黒木 敬介(gc5024
20歳・♂・PN
明河 玲実(gc6420
15歳・♂・GP

●リプレイ本文


 中国某所の小さな町。そこは露店街があることで知られていた。
 東西の大通り200mを中心に、100以上の露店が軒を並べる巨大な市場。
 食品、飲料、服飾、雑貨。
 買い物客の波が、途切れることはない。
 
 大通りの端にある、極彩色の巨大な門。頭上に冬の青空が広がる14時。
「ではこれから、物資調達作戦を行います」
 マウル・ロベルからの命を受けたアナートリィは、8人の能力者の顔を見渡していた。
「人類が北京を解放できたのもブリュンヒルデによる活躍が大きいからな、存分に楽しんで貰わなければな」
 力強く頷くのは金髪のキャバルリー、鳳 勇(gc4096)。
「ま、買いだしぐらいなら楽なもんだね」
 黒木 敬介(gc5024)も、任せとけと胸を張る。
「さて中尉、時間も余り無い。効率重視で3組に分かれて行動しよう」
 ガルシア・ペレイロ(gb4141)がコートのポケットから竹箸で作った籤を取り出した。
「先端に色がつけてある。同じ色になった者同士が同じ組だ」
 先端を握り、一同に差し出す。
 まず最初に引いたのは楽(gb8064)。
「へぇ、面白いねぃ。 可愛い子と一緒なら、楽さん荷物もちがんばるし、おにーやんと一緒なら‥‥楽さん重いのもてなーぃ☆とはいわないけどもねん♪ と、赤だねぃ」
 ヨハン・クルーゲ(gc3635)も赤の籤を引いた。
「せっかくの祝勝会なんですから、皆さんが楽しめるようにお手伝いしたいですね」
 そして3人目は敬介。
「俺も赤ね、了解了解」

 続いて籤に手を伸ばしたのは、獅月 きら(gc1055)とルノア・アラバスター(gb5133)の仲良し2人組。
 偶然にも籤の色は、ふたりとも黄色。
「また、きらちゃんと、ご一緒、出来て、嬉しい、な‥‥♪」
 少女たちは顔を見合わせて微笑んだ。
「自分も黄色だ。よろしく」
 2人の少女に黄色班の3人目となった明河 玲実(gc6420)が、ぺこりと頭を下げる。ストレートロングの銀髪が印象的な、これまた美少女だ。
「本物のチャイナタウン‥‥! こんな日が来るなんて思って無かったな。ルノアちゃん、レミさん、よろしくねっ」
「じ、自分は‥‥」
(自分はレミじゃなくてレイジ! さらっと流されてるけど性別も男!)
「ん?」
 小首を傾げるきらに、玲実は何も言えなかった。
 がんばれレミちゃん。かわいいぞレミちゃん。

 赤組、黄色組と決まり、残った緑組のメンツはガルシア、勇、アナートリィ。
「緑色‥‥です」
「俺も緑だ。中尉とは初対面だな。宜しく。」
「俺も鳳とアナートリィ中尉と一緒だな。野郎ばかりで申し訳ないが我慢してくれ。俺も我慢する」
 ……何というか、ガルシアさんは正直でいい人だと思う。

 かくして3組に分かれた能力者達。
「では任務を開始しましょう。あ、その前に」
 アナートリィが軍用バッグから、チャイナキャップを取り出し全員に配った。
「混雑時の視認用です。着用して任務に当たってください。では、解散!」
 ロシア人がクソ真面目に敬礼をする。
「了解、中尉」
 能力者たちは笑いをこらえつつ、行動を開始したのだった。



●緑組
 大通りの西側を見て回るガルシアと鳳の任務は、荒ぶるロシア人の抑制に他ならなかった。
 なにしろアナートリィときたら大通りに一歩入った途端
「威水角(シェンスイジャオ)‥‥五目揚げもちですか、素晴らしい!」
「ガルシアさん鳳さん、あの春巻というものをぜひ購入しましょう」
 揚げ物の屋台に走っていかんばかりの勢いだったからだ。
「中尉、待って欲しい。君がさっきから候補にいれているもので喜ぶのはジョーダン中佐くらいなモノだぞ」
「では胡麻団子などはどうでしょうか」
「中尉‥‥揚げ物ばかり買おうとせず、他の物も買わないとバランスが悪くなるぞ?」
「むむむ‥‥」
 能力者2人がかりの説得が功を奏し、若干行動に落ち着きが出始めたアナートリィ。
「買い物リストに沿って行動しよう」
 その隙に鳳がメモを広げる。

 ─────
 肉まん
 ケバブ
 春巻
 焼売
 叉焼
 蝦の紙包み揚げ
 白酒 ※必須
 ─────

 ガルシアが感心したように頷いた。
「こりゃわかりやすいな」
 一方アナートリイは、指さしながら訊ねる。
「この※はなんですか?」
 笑って答える鳳。
「ああそれは、絶対に欠かせないものだ。中尉は未成年だから、またの機会かな」
「そういや中尉や少尉用はどうするかな‥‥飲み物はよく分からん。紅茶くらいはあるんだろうか‥‥お?」
 ガルシアが言葉を切り、少し先の茶葉の屋台まで走った。主は、子どもだ。
「坊主、一番美味い茶を頼む」
 店番の子どもは無愛想に茶葉を掬うと袋に詰め、続いて駆けてきた鳳に投げて寄越す。
「UPCの軍人ね? 今頃までよくも僕達を放っておいたな。おまえたちもバグアもキライキライ」
「‥‥」
 刺のある言葉に、押し黙るしかない一同。
 ──暫しの後、鳳が口を開いた。
「助けるのが遅くなって申し訳なかった」
 続いて、頭を下げる。
「これからは、バグアに好き勝手はさせないつもりだ。だから、あんたらの事を守らせて欲しい」
 真摯な態度に、子どもは少し表情を和らげたが
「今更おそいヨ、父ちゃんは店を残して死んぢゃたね。帰って来ないね」
 悪態は、止まない。
「‥‥それで坊主が店番か、偉いな」
 ガルシアの大きな手が、小さな頭をそっと撫でた。亡くした父に似たものを感じたのか、子どもの目に水の膜が張る。
「店番ちがう、僕はこの店の主人だ! いつか店、この町で一番デッカイな店にする! 有名になったら絶対UPCには売ってやらないけど!」
 ──けど?
「オマエたちには売ってやってもイイ。お買い上げアリガト、デシタ」



●赤組
 大通りから1本奥に入った、酒店街。
「楽さんの目当ては、とーにかーくおっさけー☆」
 陽気な楽を先頭に、ヨハンと敬介が続く。
 3人は「酒屋」の看板の上がった店に、かたっぱしから首を突っ込んでいた。
「こういう場ではお酒は必要ですから、できるだけ多くの種類を買っておきたいですね」
「皆から好みを聞いてこればよかったが、ばたばたしていたからな‥‥」
 ヨハンの言葉に、敬介がスキル?【独断と偏見】を発動。
「マウル少佐に限らず、女性には甘い酒が人気だ‥‥アルコールは中ぐらいから強めで‥‥」
「はい」
 ヨハンが桂花陳酒や杏酒などを棚から選び出す。
「ジョーダン中佐は‥‥辛口でアルコール強めか、ネタになりそうな珍しい酒がいいな」
「ネタ‥‥と」
 隣の棚へと移動した彼はしばし瞑目した。何故なら。
「うわぁ‥‥」
 ハブ酒や蜂の子酒という、見ただけでノーサンキューな商品が目白押しだったのだ。
 それでも何とか数本を選び、腕に抱え会計に運ぶ。
「そろそろ、いいでしょう」
 旧式のレジがやかましく鳴る中、楽は敬介に素朴な疑問を投げていた。
「ところで敬介君って、ずいぶんお酒に詳しいけど、成人してるのかねぃ?」
 31歳の眼力に、うろたえる18歳。
「や、それは、あの」
「ふぅーん♪」
 楽は追求しなかったが
「ヨハン君、これもお買い上げねぃ」
 棚からソフトドリンクを数本掴み、会計に立つ青年に手渡した。

 酒屋のついでに3人が立ち寄ったのは、小さな雑貨屋だった。コンビニエンスストアではない、断じて雑貨屋である。
 求めるモノはゴミ袋とウェットティッシュ。もちろんダメ元であったのだが
「なかなかないかもだけど、あるといいかねぃ‥‥って、お♪」
 乱雑な棚の中から、「ちり紙」と「ゴミ袋」を首尾よくゲット。
 だが、ゴミ袋にはUPC軍の支給品シールが貼り付けられている。
「これって‥‥」
 末端の兵士が小銭欲しさに転売したか、この店の主が裏に手を回したか。
 本来、商品として売られてはならない品だ。
 それでも楽は、店主に問いただすことはせず。
「ゆっくり戻るとするさね。傷痕も、笑顔も、みーんなみんな、ね」
 小銭と品物を交換し、皆を伴って店を出た。



●黄組
 大通りの東側、甘味系が多く並ぶエリア。
「餡饅、桃饅、胡麻団子、月餅、杏仁豆腐、粽子、マンゴープリン‥‥ちょっと、買いすぎて、しまった、かも」
 ちょっとかよ!
 ツッコミを入れたくなる勢いで買い物をした三人娘(女子2人+男の娘1人)が、仲良く歩いていた。
 ルノアのショッピングカートは点心ではちきれんばかりに膨らみ、車輪が軋んでいる。
「ルノアちゃん、大丈夫だよ」
 しかしきらは、気にする様子もない。
「領収書は品代、宛名は『トーリャ中尉』で切ってもらったから♪」
 ポケットから分厚い紙束を取り出し、にっこり微笑んだ。そうしている間にも、大きな目で屋台を見回し
「あ、エッグタルトおいしそ! ルノアちゃんレミさん、行こ♪」
 新たなターゲットを捕捉!
「焼き立て、美味、かな」
 瞬天速ばりの勢いで駆け出す2人の背中に、玲実がため息混じりで呟く。
「だからレイジ‥‥」
 もちろん2人とも聞いちゃいなかったし
「レミさーん、はやく!」
「あ、うん、今行くー」
 男の娘もそれ以上、強くは言えなかったりするのだが。

 数十分後。
 広場であつあつのエッグタルトを食べ終えた3人は
「チャイナ、ドレス、ですか‥‥憧れ、ます」
 甘味エリアの中にぽつんと店を開く、ドレスショップのウィンドゥに目を奪われていた。
 きらびやかなチャイナドレスは、乙女心を鷲掴みにするには十分な威力を持っている。
「オジョウサンタチ、試着スルアルヨー、オヤスクシトクヨー」
 さらに店員の呼び声がかかれば、抗えというのは無理な話だ。
 まず店内に惹き込まれたのはきら。
「わぁああ〜!」
 目を輝かせてドレスを選び、片っ端からルノアの胸に当てる。
「ルノアちゃんは、瞳の色に近いのがいいかな? あっでもこの紅いのもいいかな?」
「きらちゃん、は、かわいい感じのが、似あうと、思うの、です」
 対するルノアがきらの為に選んだのは、レースを重ねた白いドレスだ。
「レミさんは、大人っぽいのが似合いそう?」
 そして男の娘に宛てがわれる、深いスリットのドレス。太ももが顕になるデザインに、断り切れずに試着した玲実が顔を赤らめる。
「え、あの、自分は」
「ん、とても、素敵、です」
「今回の記念に3人で買っちゃお♪」
 嗚呼、拒否権は何処へ。

「さて、マウルさんとトーリャさんのドレスも仕入れたし、帰ろうか」
 ──え?




●祝勝会
 大陸の空に、夜の帳がすっかり下りた頃合い。
 ブリュンヒルデの食堂に、物資を携えた傭兵が戻ってきた。
 下士官の乗組員によって会場の設営は既になされており、あとはテーブルに並べるだけだ。
「私は温めや配膳を担当させていただきます」
 ヨハンが点心の包みを開き、皿に彩りよく並べる。上流階級の使用人だった過去は伊達ではない。
「お酒☆ お酒」
 楽と鳳はアルコール担当。いそいそと酒瓶をテーブルに運び、コップも忘れない。
「おうお疲れさん、ガハハ!」
「ん、美味しそうなの」
 と、扉が開きブリッジから下りてきたジョーダンと留美が顔を出した。一気に盛り上がる雰囲気の中、若き艦長が姿を表す。
 玲実からグラスを受け取ったマウルは、一同の顔を見渡し、とびきりの笑顔を見せた。
「あんたたちとこうやって楽しい時間を過ごせることを嬉しく思うわ。これからもちょっとだけ頼りにしてるわよ」
 言葉と裏腹に、青い目に宿る信頼の色。
 天井に向けてグラスが掲げられ
「乾杯!」
 良く通る声が、宴のはじまりを告げた。

「白瀬少尉♪」
 テーブルで胡麻団子とあんまん、それにタピオカのココナッツミルクを楽しんでいた留美のもとを 訪れたのは、チャイナドレス姿のきらとルノアだった。
「こんな『適切な物資』持って来たんですけど」
 2人は笑って、2着のチャイナドレスを差し出す。
「マウルさんやトーリャさんが着て下さったら、きっと皆さん喜ばれますし、お祝いの席が盛り上がりますでしょうね」
「ブホッ」
 突如、きらの背後でアナートリィが揚げパンを噴出した。
「なにを仰るんですか!」
「ナイスアイデアなの。トーリャさん、着るの」
「断固断ります!」
「‥‥せっかく、買って、きた、のに」
 悲しげに目を伏せるルノアの姿に、ジョーダンが食堂の向こう側から走ってくる。
「話は聞かせてもらった。上官命令だ。マウル、アナートリィ、着替えてこい!」
 軍人たる者、上官の命令は絶対。
「はーい」
「は、拝命しますッ‥」
「ところで嬢ちゃん、俺のはないのか? なんてな! ガハハ!」
 ガハハじゃねえよおっさん。

 理不尽(?)な命令でチャイナドレスを着るハメになったマウルだったが
「あら? 意外に悪くないかも?」
 既に甘いワインを堪能しているせいか、すこぶるつきでご機嫌だった。
 買い出しの途中で年がばれ、ジュースを嗜む敬介がマウルに何気なく訊く。
「マウル少佐は彼氏、居ないんですか?」
「ん、今はブリュンヒルデが彼女かしらねぇ」
「マウル少佐は美人だから、早く見付かると思いますけど」
 冷やかしとも本気ともつかない敬介の言葉に、ツンデレ艦長がにやりと笑った。
「それは遠まわしな立候補?」
「え?」
「ま、その話は、アラスカで鮭を数える任務をクリアしてからね」
 うーん、18歳に24歳は難易度が高すぎたか?
 そこに割って入ったのは、31歳の楽。
「マウル君、地元のお偉いさんたちとの話、おつかれさん、ってねん♪」
 手にした中国酒の杯を、マウルのグラスと合わせた。
「疲れたろうけども、おかげで楽さん達と地元の軍人君達は仲良くできたし、街にも活気があったさ〜」
 労いの言葉に、マウルが素直さを見せる。
「あんたたちの力があってこそよ。ありがと」
 もっとも数秒後には
「だ、だからってうぬぼれないでよね!」
 ツンツン仮面をかぶってしまったのだが。


●宴の終わり
 冴えた月の光が、ブリュンヒルデの白い翼を照らす。
 既にエンジンに火が入った戦乙女は、間もなく中国の地を飛び立とうとしており、駐機場のコンクリートに立った8人の傭兵はその様をじっと見守っていた。
「今日は楽しかったわ! ありがとね!」
 開け放たれた乗降ハッチから、マウルが手を振る。片方の手にはガルシアに贈られた包み──中身がバニースーツと「次は、これでたのむ」のメッセージであると知って怒るのは少し後の話──を、大切に抱えて。
「チョコありがとなの。お腹が空いたら食べるの」
 可愛らしく敬礼をする留美に、相好を崩す巨躯のサイエンティスト。
 その横で鳳も、ヨハンも、玲実も
「また、作戦を共に出来ることを願っている。気をつけてな!」 
「皆さん、よい旅路を!」
「次はラストホープで」
 それぞれの言葉で、しばしの別れを惜しんだ。

「ブリュンヒルデ、離陸します」
 凜と響くオペレータの声。
 チャイナドレスの裾を翻すアナートリィが敬礼し、ジョーダンが親指をグッと立てる。
 それと同時にハッチが閉まり、戦乙女は羽ばたいた。
 冷たい、冬の空へ。