タイトル:【MN】宵に紡ぐ猫の言葉マスター:クダモノネコ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/06 06:38

●オープニング本文


※ このオープニングは架空の物になります。このシナリオはCtSの世界観に影響を与えません
 

 カンパネラ学園本校舎エリア研究棟地下層「特別監視域」。
 かつてハーモニウム・ファーストの一部を預っていた施設であったが、研究対象が「強化人間でなくなった」ことから既に閉鎖が決定していた。
 監視域のあるじだった元強化人間、治療後ただの猫となったAgとノア。
 2名‥‥違った、2頭は「とりあえず引き取り手が決まるまで」という約束で、事務室の一角でのんびりと暮らしていたのだが‥‥

「で、昼寝から醒めたらこうなってたんだ。夢ン中に出てきたイェスペリ先生は『もっかい寝れば元に戻る』と言ってたが、あいにく全く眠くない」
「‥‥そ、そう」

 その日いつものように監視域事務室を訪れた笠原 陸人(gz0290)は、ソファの上が定位置の灰虎猫──Agが「ごつい人型」に化けているのを目の当たりにして、眩暈を感じていた。
 AgもAgでそれなりに戸惑いがあるらしく、ソファの上で胡坐をかき、神妙な顔で尻尾をパタンパタンさせている。
 一方、Agの隣に座ったノアはやや楽観的だ。
「リクト、ノアね、お腹空いた。かんづめ食べてみたけど、この身体になったら全然美味しくない」
 呑気に地につかない足をブラブラさせながら、床の皿を指さし黒い目をパチパチさせる。
 美味しくないというのは事実なのだろう、「まぐろ&ささみ」缶が手付かずのまま残っているではないか。嗚呼、黒猫の大好物の銘柄であるというのに。一缶ジュース1本分ぐらいするというのに。
「お腹空いたお腹空いたお腹空いた」
「‥‥しょうがないなぁ、じゃあこれ食べな」
 陸人はかばんからメカメロンパンを取り出し、ノアに手渡した。
「わーい」
 ノアからそれを受け取ったAgは袋の封を切リ、再びノアに返す。
「いただきまーす」
「喉詰まらせんなよ。‥‥で、相談だが」
 嬉々としてパンを食べ始めた相棒の頭を撫でたあと、Agは陸人に向き直った。
「俺もノアも、急に体が変わって喋れなくなっちまったから、色々言い残したことがあるんだ。俺らやハーモニウムの為に、色々手ェ尽くしてくれた連中に。全員には無理かもしれないけど、会える奴には会って、話がしたい」
「なるほどね‥‥」
 確かに彼の言うとおり、「治験」の結果は予想外であった。
 いや、死亡もあり得る類の施術だったから、結果は紛れもなく成功の部類なのだが。
「あまり遠くには行かないし、眠くなったらちゃんと帰ってくる。ついでに言えばもうFFは出ないし力もたいしたことないから、昔みたいなコトは、俺にもノアにも出来ない」
「そっか‥‥まぁ、そうだよね」
 陸人はしばし瞑目した後、携帯電話に手を伸ばした。
 相手は既に下校した、宮本 遥(gz0305)だ。
「あ、先生‥‥ちょっと確認したいことがあるんですけど‥‥」
『‥‥あら、そんな面白いことになっちゃったの。いいんじゃない? 楽しんでらっしゃいなと伝えて頂戴』
「先生、意外と軽いノリですね」
 二言三言ことばを交わし、親指で終了ボタンを押す。
「OKだってさ」
 灰虎猫と黒猫はそれぞれ両手と尻尾を上げて、目を輝かせた。
「よっしゃあ!」
「やったー」
 無邪気な様を見て、陸人もほっと心を和ませる。
「よし、じゃあ早速行くか!」
「いくかー!」
 だが、ふたりがおもむろに立ち上がりかけたのを見て、慌てて制した。
「待って待ってAg、ノア!!」
「‥‥ンだよ」
「とりあえず服探してくるから、ちょっとだけ待ってて!! その格好でうろうろしたら絶対捕まるから!」
 そう、季節は夏の終わり。
「ちぇ、毛皮なくて涼しくて気持ちいいのによー」
「キモチイイのにー」
「ダメなものはダメっ!!!!」
 まだまだ蒸し暑いけれど、月光の色は既に秋を思わせる。──そんなある日の、宵の口。

●参加者一覧

麻宮 光(ga9696
27歳・♂・PN
嘉雅土(gb2174
21歳・♂・HD
アレックス(gb3735
20歳・♂・HD
獅月 きら(gc1055
17歳・♀・ER
明河 玲実(gc6420
15歳・♂・GP

●リプレイ本文



 ぽち。ぽち。
 Agとノアの視線の中、笠原 陸人(gz0290)は携帯電話を開き、メールを打ち込んでいた。

 ───
 TO:麻宮 光(ga9696),嘉雅土(gb2174),アレックス(gb3735),獅月 きら(gc1055),明河 玲実(gc6420
 FROM:rikugz0290@●●●●

 タイトル:驚愕(><)
 本文:
 麻宮さん、嘉雅土さん、アレックスさん、獅月さん、レミちゃんにメールしています。
 えっと、Agとノアがヒトに戻っちゃいました。
 Agが言うには「今夜だけ」らしいので、皆でごはんでもどうですか?
 監視域でお待ちしてますね。
 ───

「完了、っと。皆来てくれるといいね」
「へー、ニンゲンのケータイデンワって面白いなぁ!」
 メール機能が目新しかったのか、素直に感嘆を示すノア。しかしAgは面白くなさそうだ。
「俺らが使ってた重力波通信端末のが高性能でイケてたじゃねえか」
「だってあれ、マチウケがイェスペリ先生から変えられなかったし」
 何その嫌な待受。陸人のツッコミより一瞬早く、壁のインタフォンが来客を告げる電子音を奏でる。
 モニタに映るのは、学園戦闘服姿のアレックスと、嘉雅土だ。
「あれ、やけに早いな。今鍵あけまーす」
 しばし間を置いて事務所に入ってきた彼らが、ソファに座っている2人(?)を見て固まったのは言うまでもなかった。
「よう、二人ともヒサシブリ」
「え? あ?」
 例えば嘉雅土のファースト・リアクションは
「モフレねぇぇぇっっ!!? ノアはともかく、Agがごつくてむさくるしいのに戻ってるーッ!?」
「最初の一言がソレたぁ、ご挨拶だなオイ」
 片手に下げていたキャットニップ入りポプリと鮭とばの袋をばさりと落としたあげく、口をぱくぱくさせてAgを指さすことだったし
「あれっくす!」
「うおっ!?」
 アレックスはアレックスで、ソファから跳んできたノアのダイブを受け、
「すっごい! ひさしぶりっ!!」
「えーっと‥‥こいつは、夢か?」
 床に尻餅をつく始末だ。
「‥‥てか二人とも、メール見てない?」
 実にわかりやすい驚き方をする2人を見て、陸人が首を傾げた。
「メール?」
「そういや鞄ン中で何か鳴ってたな」
 ま、メールとは往々にしてそのような扱いを受けるものである。
 と、そこに。
 再びインタフォンが軽やかな音を鳴らした。
「は─い」
 訪れたのは、つややかな銀髪を黒いリボンで結ったグラップラーと、薄紅梅の髪をおさげにしたハーモナー。
「きらちゃ‥‥獅月さん! レミちゃんも!」
 陸人が露骨に顔を輝かせ、微妙に口ごもりながら二人を出迎える。
「うぉ、メスが来たっ」
 何故か焦るトランクス一丁のAg。
「メス言うな」
 嘉雅土はその物言いにやや呆れ
「よう、きら。‥‥てか笠原、爆ぜろ」
 アレックスは陸人に向けてにやりとした。
「きら! レミ!」
 そしてノアは2人に会えた喜びを、満面の笑顔と立てた尻尾で示す。
「ふたりとも‥‥! おかえり!」
「ただいまぁ!」
 玲実は駆け寄ってきたノアを抱きしめて、再会を確かめた。
 温く元気溢れる身体の感触に、ベッドで眠り続けていた姿が重なって、 思わず目頭が熱くなる。
「レミ、目、うるうるしてる」
「べ、別に泣いてなんかないっ」
 言葉と裏腹に頬に溢れた雫を、黒猫が舌先ですくった。
「ナミダの味がする‥‥? どっか痛いの?大丈夫?」
「ううん、ノアが元気で、嬉しいだけさ!」
 複雑な感情をノアにに説明するのは至難。とっさに判断した玲実は、黒い頭をわしゃわしゃし、笑顔を繕う。
 さてその傍らで。
 Agはきらと向い合い、ある種の気恥ずかしさを感じていた。
(ニンゲンのメスってのはちっちぇーなぁ‥‥ミカンみたいなニオイするしよ‥‥)
「もう、二度と…お話出来ないと、思っ‥‥て」
 もっともきらは己の頭上で、Agがシャンプーの香りに反応しているとは知る由もない。
「私ね、ずっと気になってたの。‥‥だってAg、アザラシを狩ったり、ワカサギを釣ったりしたいって言ってたでしょ。結局Agの望んでいたこと、叶えてあげられなかったって‥‥」
 ごめんね。小さく繰り返しながら項垂れるきらに、Agは狼狽えた。
(やべえ俺! このままじゃメスを泣かしちまう!)
「お、俺はノアが元気になったから‥‥だから気にす‥‥」
 言いかけて変な気配を気づき、ひょいとその方向に目をやる。果たしてそこには。
「きらちゃん‥‥Agと見つめ合って‥‥やっぱ僕よりご立派だから? そうだよねやっぱ主兵装は‥‥」
 陸人が暗いオーラを背負ってしゃがみ、床に「の」の字を書いていたのだった。
「やあ笠原。何やってるんだ」
 そこにやってきた最後のひとり──光が不思議そうに陸人を見つめ、ついでAgとノアに目をやる。
「メールを受け取って来たんだが‥‥急なうえびっくりの展開だな」
 そう言いつつも落ち着いた口調で、はいお土産、と紙袋を玲実とノアに手渡した。中身はブラウンサンダーチョコに酢タコ三太郎、キャベツ次郎といった駄菓子詰め合わせだ。
「おかしー!」
 ノアがひとつ手に取り、玲実に「あけて」と手渡す。玲実は封を切って返し、優しく尋ねた。
「ノア、折角だからどこか行きたい場所とかはない? グリーンランドは遠すぎるけれど」
「んー」
 黒猫にとって、世界とはグリーンランドと監視域なのだろう。考えこむ様にアレックスが助け舟を出す。
「よし、街を案内してやるよ。美味い店、知ってんだ」
「おいしいもの!」
「ふーん、悪くねぇな」
 ノアの反応とは対象的に、Agは興味なさげを装う。だがトランクスからはみ出た尻尾は、ぴこんと上を向いていた。
「決まり。じゃ、着替えてこっか」
 嘉雅土が鞄から二人用の着替えを引っ張り出す。
「カガト、Agもノアもひらひらはちょっと‥‥」
「あれ‥‥? 何でこれが」
 最初に現われたのがメイド服2着で、頭を抱えたのはここだけの話。
 横からきらが控えめに、甚平を2人に差し出した。
「夏の思い出に‥‥どうかな。私も着替えてくるね」



 夜の帳に包まれたラスト・ホープの街。
「すっごぉーい‥‥」
 花火柄の甚平を着たノアは、ぽかんと口をあけて煌く灯りを見回した。きらと玲実は両脇から、それを優しく見守る。
「猫に甚平‥‥‥涼しそうだがモノノケ臭い気が‥‥」
「まぁある意味モノノケだしな」
 黒い瞳にうつる、初めての夜景。きらと玲実の視線にも、嘉雅土と光のやり取りにも気づけなくしても、それは無理らしからぬことで。
「レミ、すっごいぞ! 赤や黄色や青や緑の星がいっぱい!」
「星じゃなくて、全部街の灯りだよ。グリーンランドでは見られない光景かもしれないね」
「でっかい建物の壁に森があるっ。ってわぁ、消えたっ!?」
「あれはモニタっていってね、ずっと遠くの森を映してるんだよ」
「うわー」と「すごーい」を連発する元強化人間を眺めながら、嘉雅土はノアとお揃いの甚平を着た陸人に感想を述べた。
「ってかノア、チューレに出入りしてて量産型スノーストームにも乗ってた割に、文明慣れしてないよな」
「‥‥」
 返事がない。ただのしかば‥‥もとい。
「笠原?」
 陸人はうっとりときらの後ろ姿に釘付けになっていた。
 白地に桜の花びらが舞った浴衣に、大人っぽいまとめ髪。後れ毛の散るうなじがメガヒットだった模様。
「えっはい嘉雅土さん、聞いてますよっ!? 浴衣のきらちゃん可愛いですよねっ色っぽいですよねっ」
「‥‥おまえもうホント、欠片も残さず爆ぜろっ」
「もう、りっくんたら」
 いい笑顔で先輩ドラグーンが後輩ドラグーンの肩を叩き、きらは笑みを浮かべる。
 ようやく周囲の光景に慣れ始めたノアが、光を見上げて首と尻尾を傾げた。
「あれっくすとAgは?」
「ああ、あいつらはちょっと走ってくるって。大丈夫、場所と時間は打ち合わせてある」
 問われた光は頭上数mをさした。路面灯が等間隔に並ぶ、自動車専用道路を。

 路面灯に照らされたアスファルトの上を、二人乗りの大型バイクが駆け抜けてゆく。
「悪ィ、サイズの合う服がこれしかなかったんだ。いつぞやのバスの時を思い出すな」
 ハンドルを握るアレックスは目だけで、軍服を着込んだ元強化人間を振り返った。
「いや、この服は嫌いじゃない。‥‥それより、いいバイクだな」
「AU−KV、パイドロス。俺の愛機だ。‥‥飛ばすぜ?」
 言うが早いか、スロットル全開。エンジンが目を醒まし、加速でアレックスに応えた。
「ニンゲンのテクノロジーも、なかなかなもんだ」
 たちまち周囲の一般車両を追い抜き、車列の先頭に躍り出る。
「褒めるなら俺のテクニックだろ? 異論は認めない」
「ケッ‥‥まぁ反論もしねえよ」
 軽口はどちらからともなく途切れ、二人はしばらく無言で走った。
 ほどなくアレックスはハンドルを左に切る。パイドロスはインターチェンジを抜け、一般道へ降りた。
「アレックス。知ってるコト、教えてくれ。あの日教えてくれたコト以外に、いいことでも、悪いことでも」
「あれ以上悪いコトは、もうねえよ」
 信号に引っかかりながらも、バイクは何処かを目指す。
「ディアナは、治験が成功して人間に戻った。成功する確率は低い、って話だったが。奇跡ってヤツかな」
 何か伝えることあるかい? トモダチの問いに、Agは首を横に振る。
「シアワセであればいい。‥‥奇跡か。お前とこーして話できるのも、奇跡みたいなもんかな」
 大きな信号を右折し、暫く走ってパイドロスは停まった。自動車道の高架下、暗闇の中に裸電球の灯が見える。
「お、来た来た」
 先に着いていた光が、軽く手を上げて二人を迎えた。
「ここ、美味いんだよ。飯食ってこーぜ」



 アレックス言うところの「美味い店」は、調理設備を積み込んだ軽トラックと折りたたみテーブル、それに椅子がいくつかあるだけの屋台だった。とはいえ並べられた餃子とラーメンの匂いが、彼の言葉が嘘でないことを予感させる。
「再会を祝して」
 年の功で音頭をとったのは光。ガラスコップに注いだ瓶ジュースを、一同は軽く掲げた。
「かんぱーい」
 軽やかなガラスの触れ合う音に、いくつも重なる柔らかい笑顔。
 しかし、テーブルの上の食べ物は、Agとノアには未知との遭遇で。
「で、何だコレは」
「ラーメン。こっちは餃子。見たことないのか?」
「ない」
 Agは警戒を露に箸でチャーシューをつついている。一方ノアはあまり頓着しないのか、餃子を小皿に取り食らい付いた。
「あづいっ。でもおいひぃっ」
 熱々の肉汁に目を白黒させながらも、気に入ったようだ。
 一つ目を飲み込んだところで、向かいに座る玲実の視線に気づき、顔をあげた。
「レミ、ノアの顔に何かついてる?」
「‥‥今日ノアに会えてよかったなって、思ってるだけさ」
 飾らない言葉に、ノアは目尻を下げた。二つ目の餃子はちょっと置いて、玲実の顔をじっと見つめる。
「ノアもレミとおはなしできて、嬉しい。こないだ、レミが困った顔してたの気になってたんだ」
「そう、ごめんね」
「んーん、今は笑ってるから、いい。ノア、今のレミのほうが好き。お話できなくても、それはかわらないぞ」
(ノアは今夜が「特別」であることに気づいてる?)
 悟った玲実は、決意を口にした。
「そうだね、いつまでも悩んでいたんじゃ、前に進めないね。ノアは帰ってきてくれて、話も出来たんだから、私も頑張るよ。約束する‥‥走り続けるって」
 先に何があるのかはまだ分からないけれど、だけど立ち止まっていることは、誰も望まない。
「うん、やくそく」
 二人は顔を見合わせ、小指を絡めた。玲実の横でラーメンを啜っていた嘉雅土が箸を置き、口を挟む。
「ノア、今回此処に居ない奴にも伝えたい言葉があるのなら遠慮なく言ってくれ。それが今、この時、俺が此処に居る意味だと思ってる」
 トモダチの好意に、ノアはこくんと頷いた。ひょいと椅子を降り、傍まで歩き
「カガト。ノアのことをトモダチだって言ってくれたみんなに、お願い」
 その耳を軽く引っ張って口を寄せた。
「あ? 普通に喋れよ」
「ダメだよ。だいじなコトバは、耳のなかに落とさないと逃げちゃうんだぞ」
「へーへー」
 短い短い、ないしょばなし。
「了解、確かに承った」
 ドラグーンは小さなトモダチの頭を、片手でわしわしと撫でた。

 同じ頃、反対側のテーブルの端で。
「アレックスからディアナの事を聞いたのか」
「ああ。とても嬉しく思ってる」
 それぞれラーメンの丼を抱えた光とAgが、顔を突き合わせていた。
「俺は、他のハーモニウムにもAgの様に『普通の幸せな人生』を送って欲しいと思ってる。その為の努力なら惜しまないつもりだ」
 ディアナと限定せず、光はきっぱりと言い切る。
 護りたいのは『彼女』でも、皆の幸せも大事、そんな思いを込めて。
「おまえはディアナのトモダチじゃないのか?」
「ディアナに限らず『彼女』らに生き残った仲間と生きる未来を、それが無理ならひとりで生きて行く自立の道を作ってやりたい。それが夢であり目標。トモダチのトモダチが不幸せなのは、望むところじゃない」
 それは光自身の覚悟の再確認でもあった。
「Agは生き残ったハーモニウムに、どうなってほしいと思ってる?」
「治験を受ける直前に、俺のトモダチが教えてくれた。『治療を受けて成功しても、待っているものはより過酷だ』って。‥‥できればそれが、嘘になってほしい」
 託された望みは、難しそうなものだったけれど。
「やれる限りのことはやるよ。約束する」
 頷くことに、躊躇はなかった。



 空が白み始め、夢はまもなく終焉。
「今日はごっそさん」
「ノア、楽しかったよ!」
 学園の門の前、穏やかに笑むふたりを、5人はそれぞれの思いで見送ろうとしていた。
 今幸せ?
 訊こうと思っていた言葉を、玲実は飲み込み笑い返す。
 分かったのだ。彼らの表情で、すべてが。
「これからもずっと、トモダチで、いい?」
 傍らに立つ陸人の手を握り、繋がりを確かめたのはきら。
「おう」
「うん、トモダチ」
 異口同音の返事は、約束。次は言葉は交わせないけれど、それは些細なこと。
「じゃ、またな」
 いつものように、嘉雅土が手を降った。
「あ、あのな」
 Agが、一同の顔をぐるりと見渡して口を開く。
「俺、お前らに言いたいことあって、この姿になったんだ。治験の時丁度扉が閉まっちまって、ずっと気になってた」
 かつては敵であったけれど、今はかけがえのないトモダチに向けて。
「俺、おまえらに会えてよかった。──ありがとな!」
 叫んだ。


 街を照らす朝日の下、夢を見終わった5人は、帰るところにそれぞれ、足を向ける。
「そういや、ノアはあン時なんて言ったんだ?」
 アレックスが嘉雅土に「ないしょばなし」の事を問うた。
「ああ、あれは」
 ──いいよな、ここにいる奴らもトモダチなんだから。

「ダイスキ、って」