タイトル:満喫!オータムフェスタマスター:クダモノネコ

シナリオ形態: イベント
難易度: 易しい
参加人数: 25 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/11/03 09:27

●オープニング本文


 人類最後の希望である、移動島ラスト・ホープ。
 島の中央部に位置する兵舎には、多くの能力者が生活の拠点を置いている。
 秋のある日、一人の能力者が自室のポストにチラシが挟まっているのに気がついた。
「‥‥ン、何だこりゃ?」



☆☆☆ラストホープ・オータムフェスタ2011☆☆☆

 秋の一日、ラストホープ大通り公園がグルメスポットに早変わり!
 4つのブースに咲き乱れる、秋の味覚を満喫してください!


【場所】
 ラストホープ・セントラルパーク
(※チューブトレイン「ラストホープ大通」駅すぐ お車、AU−KV、バイクでのご来場はご遠慮ください)
【開催時間】
 午前10時〜午後9時
【イベント料金】
 1000C(フリードリンク・フリーフード)

【イベントマップ】
 ラストホープ・セントラルパーク(全長約1km)は当日4つのエリアに分割されます。
 各エリア間は徒歩で移動可能です。

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■■屋台横丁■■■□■■ラスホプカフェ■□■ダイニングバー■□■スイーツワゴン■
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☆屋台横丁
 焼き鳥、たこ焼き、とうもろこし、フランクフルト、ヨーヨーつり、射的など昔ながらの屋台が満載。
 座る場所はベンチが少々。

☆ラスホプカフェ
 青空の下、一日限りのカフェが出店!
 ドリンクは勿論のこと、ホットサンド、パニーニ、ナシゴレン、ロコモコ、パスタ等カフェご飯も充実。
 エリア中央のオープンテラスでゆっくり座ってお召し上がりいただけます。
 また、舞台ではさまざまなパフォーマンスも‥‥!?

☆ダイニングバー
 昼間っから飲む酒は最高! ということで各種アルコール&おつまみのエリアです。
 からあげ、ポテト、ピザ、フィッシュ&チップス 等。
 エリア中央のオープンテラスでゆっくり座ってお召し上がりいただけます。
 未成年の方も入場できますが、アルコールの提供は20歳以上の方に限らせて頂きます。
 また、舞台ではさまざまなパフォーマンスも‥‥!?

☆スイーツワゴン
 ラストホープ中の甘いものが集結!
 ケーキ、クレープ、パフェ、アイスクリーム‥‥この日ばかりはダイエットの事は忘れましょう!
 座る場所はベンチが少々。

※各エリア共通事項
 飲食店は全て屋台もしくはワゴン形式での出店です。お客様ご自身でテイクアウトしていただき、お席までお持ち頂きます。


【求人情報】
 ☆舞台出演者募集中 ※イベント料金が無料になります
  イベント中「ラスポフカフェ」「ダイニングバー」で舞台パフォーマンスをしてくださる方募集。
 【舞台】タグを先頭につけ、演目と出演希望時間(午前、午後、夜間程度)を明記して下さい。
  ※どちらの舞台になるかはおまかせです。

 ☆出店者募集中
  各ブースにお店を出したい方を募集中。※イベント料金が無料になります
  【出店】タグを先頭につけ、出店内容と希望エリアを明記して下さい。
  ※希望以外のエリア配置になることもあります。

 ☆運営スタッフ募集中
  イベント開催中、エリア内の片付けや警備、酔っぱらいの世話などを行う運営スタッフを募集中。
  ※イベント料金無料+謝礼1000Cとなります
  【スタッフ】タグを先頭につけ、エリアの配置や希望職種を明記して下さい。
  ※希望以外のエリア配置になることもあります


☆☆☆主催:ラストホープ・オータムフェスタ2011実行委員会☆☆☆

●参加者一覧

/ 石動 小夜子(ga0121) / 弓亜 石榴(ga0468) / 新条 拓那(ga1294) / 須佐 武流(ga1461) / 鷹代 朋(ga1602) / UNKNOWN(ga4276) / ラウル・カミーユ(ga7242) / サヴィーネ=シュルツ(ga7445) / 兎々(ga7859) / Cerberus(ga8178) / 百地・悠季(ga8270) / シャーリィ・アッシュ(gb1884) / 鷹代 アヤ(gb3437) / シェリー・クロフィード(gb3701) / アレックス(gb3735) / トリシア・トールズソン(gb4346) / 宵藍(gb4961) / ルノア・アラバスター(gb5133) / 周太郎(gb5584) / 白藤(gb7879) / アクセル・ランパード(gc0052) / 獅月 きら(gc1055) / 御鑑 藍(gc1485) / セシル・ディル(gc6964) / 天狐(gc8123

●リプレイ本文

◆食の祭典・開幕です!
 オータムフェスタ・メインエントランス。
 高さ3m程のゲートには、ハロウィンモチーフの装飾が施され、いかにも祭りの雰囲気である。
 まだ開場して間もないというのに、周囲には美味しそうな香りが立ちこめ、そして大勢の人・人・人。
 どの顔もこれから過ごす幸せで美味しいひとときへの、期待と楽しみに満ちていた。
 そんな中、ゲートに向かって駆けてきた、小柄な少女がひとり。
「えーっと‥‥」
 人混みの中しばしきょろきょろとし、ほどなくゲートにもたれる待ち人を見つけ、ぱあっと顔を輝かせる。
「すーさー先輩ッ!」
「お、来たか」
 妙なイントネーションで名を呼ばれた須佐 武流(ga1461)は振り返り、にこにこと笑う少女──遠藤 春香(gz0342)の頭をわしわしした。
「いきなり呼び出して悪かったな」
「ぜーんぜんオッケーですよ! ボク美味しいもの大好きだし!楽しみで楽しみで、昨日の夜からごはん食べずに来ちゃいました、えへへ!」
 いったいこいつはどれだけ食うつもりなのだ。フェスタがポッキリ料金であることに心底安堵する武流であった。
「よし、じゃあ行くぞ。人多いからはぐれないようにしておけよ」
「じゃあセンパイのここにつかまっちゃいますね♪」
 普通、こういった言動のあとに女子が握るのは、服の裾が定番だろう。だが。
「いででででで! ダメ! 捕まるの禁止!」
 こともあろうに春香が掴んだのは、武流の束ねた髪の先だった。
「ちぇ〜。あ、でもセンパイ彼女いますもんねっ♪了解了解です」
 いや彼女とかそういう以前の問題だから。
(まったく‥‥『あいつ』といい、どうして俺の周りは危なっかしい奴ばっかりなんだ‥?)
 内心ぼやきながらも武流は春香の先に立って歩き出す。
(だがもう‥‥おかげで耐性がついてきた感じがする‥‥)



◆屋台横丁
 さて同じ頃、メインエントランスから一番近い「屋台横町」──その名の通り昔懐かしの屋台がずらりと出店したエリア──の一角には。
「拓那さん、にやにやして‥‥何か面白いものでも、ありましたか?」
「いやいや、俺はフツーだよ!?そんな、小夜ちゃんと一緒で嬉しくて、顔が締まらないなんてことは・・・!」
 久々のデートらしいデートを楽しむ新条 拓那(ga1294) と石動 小夜子(ga0121) の姿があった。
 緋色と白の巫女装束に黒髪を結い上げた小夜子の姿は、ごった返す人混みの中でも凜とした存在感を醸し出している。
 そんな彼女が誇らしくて眩しくて、それでいて腕の中にしっかりと守っていたくて。
「あ、ほら小夜ちゃん、もっとこっち来て。すごい人出だ」
 拓那は少し強引に小夜子を、自分の側に引き寄せた‥‥つもりだったが。
「‥‥もう、新条しゃんたら♪ あの夜の新条しゃん‥‥素敵だったワ、ぽっ」
「ええっ!? てか何その誤解を招く言い草っ」
 何故かちゃっかり割り込んでいたのは、弓亜 石榴(ga0468)その人であった。
「弓亜さん!?」
 石榴のいでたちはアルパカつなぎに、手にはモップ。どうやらフェスタの清掃員を買って出たようだ。
「過去依頼の話だから嘘はいってないよ♪ と、それはさておき」
 清掃員は可愛らしい顔に悪魔の微笑みを浮かべ、背中の子アルパカリュックからド派手なコスチュームを引っ張り出す。
「デート中の石動さんに朗報です! ここに偶然、彼氏に大受け間違いなしの超可愛いミニスカアイドル衣装(地雷付)を持ってきました!」
「ぐ、偶然? て、てか小夜ちゃんの気持ちが‥‥」
 狼狽する拓那であったが、鼻の下が若干伸びていた気がしないでもない。
「という訳で着てくれるかどうか、はいかYESか二択で答えてね♪」
 いやそれ一択だろ! 拓那がつっこむ前に、小夜子がにっこり微笑んだ。
「もう、弓亜さんたら。今日の冗談も面白いですね」
 口調は穏やかだが、実にわかりやすいNO/いいえ である。しかし石榴は微塵も凹んだ様子もなく
「んもぅ〜 石動さんったら照れ屋さん☆ 気が向いたら着てみてねっ」
 拓那に強引に衣装を押しつけ、モップをしゅたっと握り直した。
「さ、次のエリアの獲物‥‥じゃなかった、お掃除をしなくちゃ♪ じゃあまたねっ」
 丸い尻尾をふりふり、雑踏に消えていくお掃除アルパカ。
「もう、あいかわらずだなぁ」
「ふふ、弓亜さんらしいですね」
 見送った二人は顔を見合わせ、どちらからともなく笑い。
「それにしても、凄いな。思いつく限りのもの全部集めてるって感じだ。‥‥小夜ちゃん、何買ってこうか。食べたいものはある?」
「ふふ‥きっと屋台の食べ物はどれも美味しい、と思います。二人で一緒なら、どんな物も美味しく食べられますけど‥」
「‥‥そ、だね」
 照れながらも想い人の手を取ったのは、拓那が先だった。


 ベビーカステラの甘い香りが鼻孔をくすぐり、焼きもろこしの香ばしい匂いが胃袋を刺激する。
 抜けるような青空の下の屋台には猥雑さはなく、ただただ健康的な賑やかさが満ちあふれていた。
「何だか、珍しい、物が、沢山‥‥?」
 往来を物珍しげにきょろきょろ見回しているのは、黒いリボンで銀髪を結った ルノア・アラバスター(gb5133)だ。
「あっちも、こっちも、良い、匂い‥‥」
 華奢な体を包んだフリルワンピースの裾が、秋風に軽くはためく。
「ふふ、ノア。何でも好きなものを食べていいんだよ」
 戦場では修羅の如く敵を屠るルノア。その姿をもよく知るサヴィーネ=シュルツ(ga7445)は、少女が見せる年相応のあどけなさ可愛らしさに目を細めずにいられなかった。
「サヴィ、あれ、食べ、たいっ」
 ぱあっと顔を輝かせたルノアが指さしたのは、ごくありふれたクレープの屋台。
「クレープね、了解。何にする?」
「甘いの、ぜん、ぶ」
「全部?」
 こくん、と頷くルノアに、サヴィーネは一瞬だけ肩をすくめたが
「わかった。ノア、ここで待ってるんだよ」
 少女をベンチに座らせ、屋台へと向かった。彼女が腹ぺ娘なのは今に始まったことじゃない、想定内、うん、想定内だ!
「へい、らっしゃい! イケメン兄ちゃん、何にする?」
「ああえっと‥‥チーズクレープ一つと、チョコバナナマロンカスタードブルーベリー抹茶小倉アップルシナモンで」
 数分後、山のようなクレープを抱えて戻ってきた「王子様」にルノアは歓声をあげるのだった。
「すご、い‥‥サヴィ、あり、がと」
「さあどうぞ、お姫様」
 嬉しそうにパクつきながらも時々思案する表情を浮かべ、メモに何かしら書き付ける腹ぺ娘。
「ノア、何書いてるんだい?」
「ん、と‥‥すごく、美味しい、から‥‥、作って、あげられると、いいな、って‥‥」
「そう」
 恥ずかしそうに俯く少女の頬に、サヴィーネはふいと唇を寄せる。
「サヴィ?」
「ほら、クリームがついてるよ」
 舌で掬ったカスタードは、心まで溶けるほど甘かった。


 食べ物の露店から少し離れた一角。そこには即席の射撃場がしつらえられていた。
 コルクを詰めて飛ばすおもちゃの鉄砲から十数メートル離れた先に、様々な景品が並ぶ台が見える。
(射的かぁ‥‥KV少女でも撃ち落として、きらちゃんにイイとこ見せたいなぁ‥‥)
「サヴィ‥‥あの一番、大きいの‥‥勝負、です」
「ノア、手抜き一切なし、本気で行くよ?」
 競うように景品を狙い撃つ赤髪の麗人と銀髪の少女の背中を眺めながら、笠原 陸人(gz0290)はぼんやりと夢想していた。
 並んで歩く少女を喜ばせることよりも、己を誇示したいと考えるあたりが、まだまだ子どもである。
 一方、獅月 きら(gc1055)はそんな少年よりは少しばかり大人びているようで。
「ねぇねぇりっくん、あれ欲しいなぁ‥」
 陸人の袖をついと引き、細い指でねこのぬいぐるみを示した。元スナイパーの目で選んだ、大きくて狙いやすい獲物を。
「え、よ、よーし! 絶対獲ってあげる! 見てて!!」
 わかりやすく、実にわかりやすく高揚して鉄砲を構える陸人の横顔を、少女は微笑ましく見つめた。出会ったときから人当たりは良いのはわかっていたけれど、素の「らしさ」がようやく見えてきた、そんな気がして。
「いっくぞー!」
 弾はいくつか当たり、ぬいぐるみは揺れるけれど、落ちるには至らない。
「あー‥‥くそっ‥‥あと一発‥‥だめかな‥‥」
「大丈夫、りっくんなら出来るよ! 私、信じてる」
 二人の祈りを乗せた最後のコルク弾が、ぬいぐるみに命中! しばらく揺れ‥‥落ちた!
「やったあ! は、はいきらちゃん、これっ」
「ありがとう、大事にするねっ」
 ありふれたぬいぐるみを抱きしめ、きらはとびきりの笑顔を陸人に向ける。
 少年は照れたように頭を掻き
「ら、来年までにはもっと腕磨いて、きらちゃんの好きなもの、なんでも獲ってやるから!」
 どさくさに紛れて、ともに在る未来を願った。


 屋台横町の中で、射的はひっきりなしの大人気。次なるチャレンジャーは、拓那と小夜子だった。
「拓那さん‥‥いっしょに、挑戦してみません?」
「え、小夜ちゃんが? ちょっと意外だな」
「えと‥‥こういうの、好きなので」
 繋いでいた手をいっときほどいて、ふたりは並んで鉄砲を構える。
 コルクの弾が射出される、乾いた音が断続的に響き、芯を捉えたのか、立てぬいぐるみが落ちた。落としたのは、拓那。
「ふふ、拓那さん、さすがです」
「小夜ちゃんの前で失敗するわけにいかないもんな‥‥はい、プレゼント」
 ふんわりしたぬいぐるみを手渡され、小夜子も柔らかな笑みを浮かべる。
「もふもふしてて、可愛いです‥‥ありがとう、拓那さん」
 無邪気に頬をうずめる仕草に、拓那は頬をにへらっと緩ませる。
 久しぶりの日常は、穏やかでとても心地よい、青年はそう思った。



◆エリア・ジャンクション
 オータムフェスタのエリアをつなぐ横断歩道は、常に大勢の来場者でごった返していた。
 人混みの中、たくさんのカップルが笑いさざめきながら歩く。赤毛の少年と金髪の少女も、傍から見るとごくありふれた、若い悩みのないカップルに見えた。
 だけど二人の交わす言葉は、ほんの少しばかり重く、切なくて。
「この3年間、ずっと戦って来た、よな。‥‥最初は、家族を奪ったバグアへの復讐だけだった」
 少年は前を見たまま、左手で握りしめた少女の手の柔らかさ温かさを、ずっと護りたいと改めて感じていた。
「うん、父上の無念を晴らしたかった。晴らさなきゃいけないって、ずっと思ってた」
 少女も前を見たまま、右手を包んでくれる少年の手の逞しさ力強さに、安らぎと信頼を託していた。
 交差点の信号が赤に変わり、人の波が動きを停める。
「でも次第に、無二の相棒が出来て」
「‥‥掛け替えの無い家族や、親友、仲間に恵まれて」
 ふたりの二の句は、ほぼ重なって秋の空に消える。
 反対側の歩行者信号機から響く軽快なメロディがかぶさり、二人以外誰の耳にも入らないままに。
「はは」
「ふふ」
 ふたりは声に出した想いが同じだったことを知り、顔を見合わせて笑う。
「いつからだろう、俺が復讐の為じゃなく、護りたいから戦うようになったのは」
「簡単には語れないほど、沢山の出来事があったね。でも今は、最愛の人が隣に居てくれる。‥‥アレックス(gb3735)、私は」
 少女は右手に、ぎゅっと力を込めた。
 少年はトリシア・トールズソン(gb4346)の手を握り返し、紅い眼を見つめた。
「‥‥トリシア、俺は」
 信号が青に変わり、どっと人並みが動き始める。
 ふたりは手をつないだまま、横断歩道を渡り、ラスホプカフェ・エリアのエントランスをくぐった。
 ──幸せ、です。

「おー、前評判通り凄い繁盛っぷりだな!」
「アレックス、クレープは絶対食べたいっ! 甘いもの甘いものっ」
「よし、それじゃ行くか‥‥ってアレ?」
 トリシアの手を握り直したアレックスが、人混みの中に友人らしき背中を見つける。
「あれは‥‥シャーリィと周太郎じゃねえか?」



◆ラスホプ・カフェ
 屋台横丁を抜けると、エリアの雰囲気はがらりと変わる。
 次なるエリアは「ラスホプカフェ」。
 ラスト・ホープ中から集まった飲食店の限定メニューのワゴンが周囲を固め、真ん中のスペースにはパラソル付きのテーブルとチェアがセッティングされたエリアだ。来場者は思い思いのフードを手に、秋の味覚と柔らかい日差し、そして大切な者たちとのひとときを楽しんでいた。
 そう、シャーリィ・アッシュ(gb1884) と周太郎(gb5584) もそのうちの二人である‥‥が。
「‥‥この参加費では絶対に採算が取れんのではないか」
 パニーニ、サンドイッチ、ホットドッグ、ピッツァ、ベーグルサンド、ロコモコ、オムカレー、パスタにドリア、それから、それから。
 数え上げればキリがないほどの皿が積み上げられたテーブルで、周太郎が瞑目する。
 周囲の視線に、彼のハートは砕けそうなほど縮み上がっていたが、同行者のシャーリィが繰り広げるフードファイトっぷりでは、それも致し方ないことだ。
「ええ、主催の方には申し訳ありませんが、参加費を1000Cにしたことを後悔していただくことになるかもしれませんね。とはいえ私も真剣なのです、何しろこれは大規模作戦前に舞い込んできた重要な任務‥‥メニュー全制覇2周を達成せねばなりませんから」
 張本人のシャーリィは黙々と淡々と、だが実に美味そうにサラダを片付けリゾットを流し込み、フォカッチャの皿を空にして微笑む。
「周太郎さんも如何ですか?」
「あ、ああ、ありがとう‥‥」
 周太郎は曖昧に笑い、差し出されたメガ盛りカツ丼を箸で崩しはじめる。
「アッシュさんの食べるところを見ていると、それだけで腹がふくれそうだよ」
「それは錯覚です。互いに大規模作戦に出征する身、たくさん食べて力をつけ、生きて帰らねばなりません」
 いや沢山ってたって限度があるだろうよ! 思いつつも周太郎は突っ込まなかった。
「そうだな、アッシュさんの言うとおりだ」
 彼は、気がついていた。
 己が目の前の女性に、強く興味を惹きつけられていることに。サングラス越しではなく、明るいクリアな視界でその表情を、仕草を見ていたいと思い始めていることに。
 他の誰に対しても沸かなかった愛着、傍にいることの楽しさと幸福。いずれも不愉快ではなかったが、周太郎にとっては、戸惑いでもあった。
「周太郎さん、どうしたんですか、じっと見て。私の顔に何かついていますか」
「ごはんつぶとソースとケチャップが沢山」
「あら、私としたことが‥‥」
 慌ててナプキンを手に取るシャーリィに、周太郎は優しげな眼差しを注ぐ。
「こうやって二人で過ごせるのは‥‥あとどれだけ機会があるんだろう。
 ぽつりとこぼした問いを、口元を拭ったシャーリィがひきとった」
「‥‥次は、大規模作戦が終わったらにしましょうか」
「ん、ああ」
 二人は一瞬、視線を交わす。想いも一瞬、重なった。
 ──アメリカから、生きて帰りたい。否、絶対に生きて帰る。


「いらっしゃいませ‥‥ひと時の息抜きに、如何ですか」
 ラスホプ・カフェの隅っこ。
 御鑑 藍(gc1485)の出店したバードグッズショップ「翡翠(カワセミ)」の周囲は、エアポケットのようにゆったりとした時間が流れていた。
 メインは店名通り、翡翠をデフォルメした大小のぬいぐるみだったが、その他オシドリや矢カラスや毬藻のぬいぐるみ、さらにはピンバッジやアクセサリ、マグカップや湯のみと商品は多岐に渡る。
 すべて藍がこの日のために、こつこつと手作りした一点ものだ。
 飲食エリアでの出店ゆえ、あまり売れないのではないかという藍の予想を裏切り、客足は決して悪くなかった。例えば
「あら毬藻しゃん‥‥ぽっ」
 アルパカつなぎ姿でエリアの清掃に励む石榴が、ポケットサイズの毬藻ぬいぐるみを大切そうに購入していったり
「あら可愛いぬいぐるみ。時雨のお友達にぴったりね」
 ベビーカーを押した若い母親──百地・悠季(ga8270)が、我が子の為にくたくたしたぬいぐるみを買い求めて行ったりという具合に。
「ありがとうございましたー」
 夫が大規模作戦に出征するという悠季に、サービスでオシドリグッズを渡し、藍は赤ん坊──時雨にバイバイと手を振る。
「あの子が大きくなる頃には‥‥平和だといいなあ‥‥」

 それから少しばかり時計の針が回った頃。
「よう、藍。ここで店出してたのか、探したぜ」
「こんにちはっ」
 頭に鳥が止まりそうな具合で店番をしていた藍のもとを、小隊仲間のアレックスとトリシアが訪れていた。
「おふたりとも、いらっしゃい。‥‥今日も、仲良しですね」
「うっせ、冷やかすなよ」
 ぐしゃぐしゃと頭をかきながらも、繋いだ手を解かないアレックス。藍はくすりと笑み、オシドリグッズをトリシアに手渡す。
「これ、どうぞ。オシドリは、とても仲良しの鳥なんですよ。トリシアさんとアレックスさんみたいに」
「うれしい、ありがとうっ」
 ぱあっと顔を輝かせるトリシアの頭を、アレックスが撫でた。
「悪いな、藍」
「いえ‥‥これから戦いも厳しくなっていくかもしれませんが‥‥仲間として頑張ります、隊長」


 昼を少し回ったラスホプ・カフェエリアのメインステージにライトが灯る。
「ご来場の皆様、舞台にご注目下さい「Impalps」より宵藍(gb4961)ちゃんの登場です! 今日はなんとチャイナドレスで舞を披露してくれるとか。オータムフェスタ限定の激レア公演、もう間もなく開始します‥‥」
 MCの声と共に、テラス席から拍手と歓声が沸き起こった。
「うおっマジ!? シャオちゃんのステージあんの? ラッキー!」
 何しろ「Impalps」といえばラスト・ホープで精力的に活動しているアイドルグループだ。
 高まる期待の中姿を表したのはチャイナ・ドレス姿の姑娘(クーニャン)だった。
 太腿まで深く入ったスリットからすらりと伸びた足、高い位置で2つのお団子に結い上げた黒髪。緋色に彩られた唇と儚げな目元はほのかな色気すら感じられる。
「待ってました! シャオちゃーん!!」
「今日も一段と可愛いよ、シャオちゃん!!」
 すかさず飛ぶ、野太い男性ファンの声援。
 宵藍は優雅な身のこなしで声援の方を振り返り、ついと人差し指を唇に当てた。
 静かにね、のジェスチャーに、男たちはたちまち大人しくなる。
 そこに流れ始めたチャイニーズ・モダンな舞曲。秋の舞台で姑娘は扇子を広げ、つややかにしなやかに舞いはじめた。
 おっと失敬、姑娘=若い娘ではなかったっけ。
(‥‥今始まったことじゃないけど二重の意味で『ちゃん』じゃないっつーの。‥‥この格好じゃ説得力ないだろうけどな‥‥)
 男性ファンを魅了しながら、来年早々27歳になる青年の内心は、すこしばかり複雑だ。
 「Impalps」の仕事は大好きだけど、華奢で小柄な体躯と愛くるしい童顔がコンプレックスでないといえば嘘になるから。
 それでも
(ま‥‥いいか)
 目を輝かせるファンの前では全力投球「Impalps」の一員として、ひとりのエンターティナーとして。


「わー、ふっごいヒレイふぇすねえ!」
 宵藍のステージに近いテーブルでサンドイッチを頬張りながら、春香が歓声をあげ手を叩く。
「食うか喋るかどっちかにしろ‥‥それにしても」
 向かいの席でコーヒーを啜る武流は呆れつつも、無邪気な後輩を見て安堵していた。
「今回の依頼はまともでよかったな、こないだのプールみたいに厄介なことがなくてよ」
「はいっ♪ すーさー先輩誘ってくれてありがとう!」
「ま、この前みたいなことでも何かあったら手伝ってやるし、応援するからな。だから春香も」
 ──強くなって、戦争が終わるまで生きろよ。
 言いかけた言葉を、男はコーヒーと一緒に飲み込む。‥‥今日はそういうの忘れて、楽しむんだったな。


「わあ、すっごいキレイだねえ!」
 武流達から少し離れたテーブルで、陸人も宵藍の舞に感嘆の声を上げていた。
 が、慌てて目の前のきらに向き直り、膝に乗せたねこのぬいぐるみ──屋台の射的できらが陸人のために撃ち落とした品──を抱え直す。
「あ、でも僕はきらちゃんがいちばんかわい‥‥」
 自分で口にしながら、照れくさくなって尻すぼみする様に、きらは笑わずには居られなかった。
「ねえ、りっくんと二人でデートするの、はじめてだね。よく考えたら私ね、りっくんのこと知ってるけど、全然知らない。もっともっと知れたら嬉しいなあって、思ってるんだ」
 オムライスを掬いながら、少女は言葉を紡ぐ。
「きらちゃん、オムライス好き?」
「え? うん」
「よかった、僕もなんだ! 時々自分でも作るよ。ジュンキはあんま喜ばないけど‥‥」
 好きの本質とは「関心」。ふたりがそれを知っているかどうかはわからない。
「よかったらさ、こんど学校に持ってくよ! 自慢じゃないけどコンビニのよりは美味しいと思うし!」
 だけど少年が少女にまっすぐ関心を寄せているのは、傍目にも明らかだった。そう
「笠原くん‥‥彼女と幸せにね‥‥」
「って石榴さん!? って地雷!?」
 可愛らしく包装された地雷を携えた、アルパカつなぎの清掃員にも気づかれる程度には。


 ステージも終わった午後三時。ラスホプ・カフェの賑わいはようやく一段落していた。
 おそらく来場者の多くは、隣のスイーツワゴンでティータイムを楽しむべく移動したのだろう。ずっと満席が続いていたテーブルもちらほら、空きが見える。
「あ、席が空いてるよ。少し休もうか」
 エリアの隅、大きなプラタナスの下のテーブルを見つけたのは兎々(ga7859)。
 恋人であるセシル・ディル(gc6964)の手を引き、歩く速度も合わせて優しくエスコートする様は、典型的なジェントルマンだ。
「ありがとう、兎々さん」
 兎々の気遣いが嬉しくて、セシルは柔らかな笑みを零す。さりげなく椅子を引いてくれたのにも少し驚いた。
 今までこんなに大切に扱われたことが、あっただろうか。こんなに傍にいて、こころが安らいだことがあっただろうか。
「今日はセシルさんと一緒で、とても楽しいよ」
 傍のコーヒースタンドからカフェラテをふたつ運んで来た兎々は、ついとセシルの向かい側に座る。
 プラタナスの葉っぱ越しの秋の日差しが、セシルの髪を柔らかく輝かせていた。とても綺麗だと、兎々は思った。
「私も‥‥」
 セシルがいただきますと一言乗せてから、カフェオレボウルを手に取る様も、とても愛おしいと感じていた。
 そしてそれは、うちに留めておけなくなって。
「ねえ、セシルさん」
 まだ熱いカフェオレを一口飲んでから、兎々はセシルを見つめ直した。青い目がまっすぐ己を見返していることを確かめて、口を開く。
「あのね、突然だけど‥兎々さんはセシルさんのことが本当に好き」
「‥‥え」
 ストレートな告白に、セシルの白い頬が紅に染まった。すっと伸びた指を上気した両頬に当て、恥ずかしげに目が伏せられた。
「セシルさんが好きすぎて、今まで付き合った相手とは、ただ兎々さんが寂しいから付き合ってたんだな‥‥ってそう思えてしまうくらい」
──本当に人を好きになるって、こういうことかぁって分かった気がする。失礼な話だけどね。
 自嘲と反省をぽろりと零す兎々を癒すように、セシルがぽつぽつと答える。
「私も‥‥兎々さんが、大好きです」
 それは消え入りそうな声だったけれど、兎々への想いがいっぱいに詰まっていて。
「それでね、まだ夜までオータムフェスタは続くでしょ? その夜を今まで以上の距離で過ごしたいの」
「?」
「だから‥‥」
 兎々は一瞬だけ周囲を見回し椅子から見を乗り出した。大丈夫、人気はまばら。誰も見ていない。誰も気がつかない。そう
「兎々さ‥‥?」
 目の前の宝物に、唇を寄せるなら今しかないじゃないか。

 秋の傾きかけた日差しが、一瞬重なった二人の影を長く石畳に落とす。
「うーん、セイシュンだね!」
 実は少し離れたところでゴミ箱の影で、アルパカつなぎの清掃員がガン見していたのはここだけの話。


「そろそろ寒くなって来たわね。時雨、お家へ帰るわよと」
 はらはらと舞い散る黄色い葉っぱの中、悠季は押しているベビーカーを覗き込み、優しく声をかけた。出店で買った翡翠のぬいぐるみと、サービスで貰ったオシドリグッズで遊んでいた赤ん坊──時雨は、いつのまにか可愛らしい寝息を立ててぐっすりと眠っている。
「あらあら、慣れない人混みで疲れちゃったかしらね」
柔らかいほっぺた、ミルクの匂い、そして父親の面影が色濃い目元。悠季にとって、すべてが愛おしい。
「次は家族で来れるといいわね」
 ブランケットを肩までかけなおしてやり、若き母親ははるか遠くに思いを馳せた。
 ──アメリカでの戦い、人類は勝利を、きっと掴むわよね。
 わが子のために欲しいのは、何よりも平和だ。


◆スイーツワゴン
 ラスホプカフェの最奥エリア、スイーツワゴン。
 甘いキャラメルやバニラの香りを撒き散らすキャンディカラーの出店のテントが立ち並ぶ一帯は、女の子の夢をそのまま形にしたような華やかさ可愛らしさだ。
 午後3時半、おやつの時間を少し回ったこともあって、来場者の多くがこのエリアで甘いものをあれこれと品定めしていた。
 おや、少し毛色の違う「おひとりさま」の姿が‥‥?

「今日は食うぞー! ちょとばっか自棄食いしたい気分だから、僕の本気はすごいヨ☆」
 ケーキ、タルト、クレープ、パイ‥‥。
 銀色のトレイに文字通りスイーツを山盛りにして席を探す青年は、ラウル・カミーユ(ga7242)。
 つややかな銀髪に憂いを含んだ紫の瞳が印象的ないわゆる「イケメン」だが、どうも様子がおかしい。
 ああこれはアレですね、失恋ってやつですね、って思いきや。
「大切な大切な妹が恋人と婚約! 毎日はお別れのカウントダウン! これは叫ばずにいられないよ! うがぁぁぁ!!!」
 ‥‥失礼、超重度のシスコンの方だったようだ。
「うぅ〜 席があいてないよ‥‥」
 周辺に設置されたベンチは既に満員御礼だったため、ラウルは隣のダイニング・バーを目指す。
 こちらにも大勢人が流れてきていたが、幸いカウンター席に滑りこむことができた。
「マスター、ウィスキーをロックで!」
 内側でグラスを磨くバーテンダーにオーダーを通し、琥珀色の液体を舐めつつスイーツをちびちび、否、ばくばく。
 チーズクリームの焼き菓子を手に取り、少し考えた後、やはりむしゃむしゃ。
「ふーん、このタルトの隠し味は‥‥うん、今度作ってみよーカナ。チーズならアレンジできるし、甘いモノ嫌いの妹も食べてくれるカナ‥‥」
 ぶわっ、と紫の瞳の縁に涙が盛り上がる。嗚呼、また思い出しちゃったよこの人は。
「うぅ、ホントは妹と来たかったよー! 僕の宝物だモン! お兄ちゃんとデートしてくれないツンデレさんめー! そこも可愛いけどー!!」
 ぐびりとロックを飲み干し、フルーツケーキとシュークリームを一気食い!
「さ、お代わりにいくか‥‥」
 お兄ちゃんの傷心(ルビ:ハートブレイク)フェスタは、もうしばらく続くようだ‥‥?


 お兄さんの傷心などどこふく風で、女の子3人組が銀のトレイを持ってスイーツワゴン・エリアを闊歩する。
「さ、甘いもん甘いもん、ぎょーさん取りにいこ!」
「ふっちー待ってー! ほらシェリーちゃん早く!」
「あ、はーいなのですー」
 先頭は白藤(gb7879)。続く鷹代 アヤ(gb3437)は親友、シェリー・クロフィード(gb3701)の手をぎゅっと握って、小走りで目指すはお目当てのワゴンだ。
「6人前確保せなあかんしな、これは戦場やなぁ」
 物騒なことを言いつつも、白藤の瞳は輝きっぱなし。色とりどりのフルーツが乗ったケーキは、乙女の心を鷲掴みにする宝石なのだ。
「けーちゃん、甘いもんはあんまりやけど‥‥これやったら食べるやろか」
 とはいえ頭の隅っこに常駐しているCerberus(ga8178) のために、チーズと野菜を使ったケーク・サレをチョイスする心配りも忘れなかった。
「白藤さん、やさしいのですー」
「シェリーちゃんもアクセルさんの分取ってあげた? 今日はいい機会だから、さっさと告っちゃえばいいよー」
 まだまだ新婚気分満喫中のアヤは、奥手な親友にちょっぴりアドバイス。というかデバガ‥‥ア、アドバイスです、はい。
「こ、告るっ? あああ、今日はアクセルとのデートをまず楽しんで、元気になってもらわなきゃで‥‥」
 あわあわと赤面する銀髪の少女を前に、白藤とアヤは顔を見合わせ、小声でささやき合った。
「‥‥これはアレか、あたしが朋といちゃついてれば触発されてその気になるかな‥‥」
「アクセルさんも、男として押しが足らんとこがあるしなぁ。アヤちゃんがけしかけるんやったら便乗させてもらお」
 人の恋路のお手伝いは、乙女のたしなみお楽しみ。ネタにされていることに気がついたのか、シェリーもあわてて口を挟んだ。
「ほらふたりともっ。隣のエリアでアクセルたちが待ってるのですー! 早く持っていきますよー」
 そう、今日は3組6人でトリプルデート。彼女たちの恋人や夫や想い人は、隣のダイニングバー・エリアで待っている筈なのだ。

 秋の日差しは傾き始め、西の空がオレンジに染まる頃合い。
 オータムフェスタの来場者は、一人、また一人とダイニング・バーエリアに集まっていた。
 昼間のカフェ・メニューとは違うハーブのスパイシーな香りや、肉や魚の焼ける香ばしい匂いがあたりを満たし、人々の胃袋を刺激してやまない。
「お、来たきた」
 照明が落ちたままの舞台傍のテーブルで、鷹代 朋(ga1602)がアヤに向かって手を上げた。途端新妻はスイーツ満載のトレイを持ったまま駆け寄り
「朋ーっ!」
 10年ぶりの再会と見紛わん勢いで、夫の首筋にぎゅっとしがみつく。
「新婚さんいらっしゃいもふ‥‥」
 すぐ側のダストボックスを片付けていたアルパカ清掃員が頬を赤らめるが、愛するふたりはそんなコト、知ったこっちゃない。
 いや、ふたりだけではなく。
「けーちゃん、ほらほら。美味しそうなもん、いっぱいとってきたし、食べよ?」
「ああ。とりあえず酒を取ってくるから、いい子で待ってろ?」
「はーい。ほなまず、これだけあ〜ん、して」
「あ、あーん」
 白藤は白藤で、確保してきたケーク・サレをCerberusの口元に運び、もしゃもしゃと咀嚼する様を幸せそうに見つめていたりした。
「よし、行くか」
 程無く、口の中の食べ物をごくりと飲み下したCerberusは、朋とアクセル・ランパード(gc0052)を顔を見て、立ち上がる。
「あ、待って。アクセルはシェリーちゃんとソフトドリンク貰って来てくれるかな。酒とつまみは俺とCerberusさんで調達するから。 アヤと白藤さんは、ここで席の確保ね」
 突然訪れた「想い人とふたりきり」のチャンスに、ぱあっと顔を輝かせるシェリー。
「はいですよー。アクセル、一緒に行くのですー」
「光栄です、ご一緒しましょう。‥‥では、いってきます」
 シェリーの想い人‥‥アクセルは穏やかに笑み、シェリーと並んでソフトドリンク・ブースへと向かった。

 それから十分ほど経って。
 6人の囲むテーブルにはアルコールにソフトドリンク、フードにつまみにスイーツがところ狭しと並べられていた。アルコール組と留守番組‥‥すなわちシェリーとアクセルの恋を見守る組が先に帰ってきて、何やら盛り上げる? 画策をしていたのはここだけの話。
「かんぱーーい!」
 暮れなずむ空の下、グラスが触れ合いさわやかな音を立てる。
 タイミングを合わせたように舞台のスポット・ライトが灯り、アコースティック・ライヴが始まった。
 演目はサックスとヴァイオリン。黒を着こなしたUNKNOWN(ga4276)が奏でる旋律は、黄昏色とでも表すのが相応しいジャズ・ナンバーだ。
「ええムード‥‥あー、これおいしー」
 エモーショナルなサックスの音色を心地よく楽しんでいた白藤が、背の高いグラスの中身を一気に呷る。
 甘いカクテルは口当たりこそいいが、度数は高い。
「けーちゃん、白藤もそれ一口」
 ちょっぴり舌っ足らずに甘える恋人に、Cerberusは目を細め、フォークを向けた。
「ほら、こっちの食べてみろ。白藤の口にあうぞ」
「んー、それもやけど、白藤が欲しいのはこっち」
 フォークを持つ手に手を重ね、白藤は椅子から腰を浮かせる。狙うはセントクロスの絆で結ばれた男の口元‥‥の、ソース。
「ちょっと、お行儀悪かったやろか?」
 ぺろんと舐めとってから恥ずかしそうに俯く恋人の姿は、Cerberusの目にたまらなく愛しく映った。だから
「少し冷えてきたな‥‥白藤は薄着だから心配だ」
 お行儀については咎め立てせず、身体を寄せコートを掛けてやるのだった。

 UNKNOWNのサックスの音色は、叙情のニュアンスを脱ぎ、軽快なそれへと変わってゆく。ダイニング・バーで酒を楽しむ聴衆をステージに上げ、即興演奏で場をどんどん盛り上げてゆく。
 そして6人のテーブルでも、盛り上がる‥‥というか出来上がっているのが約1名いた。
「あっくせる〜♪」
 シェリーだ。
「はいはい、ここにいますよ。今日はシェリーや皆さんの介抱役として、スタンバっていますからね」
 すっかり保護者然としてしまっているがアクセルは17歳、シェリーより5つも年下なのである。未成年故に、シラフだ。
 そんな健気な未成年に、シェリーは容赦なく絡む。ぴったりと寄り添い、彼の左手を両手で挟み、離さずに、上目遣いで。
「ほんとに〜? ほんとに、シェリーのそばに、いてくれるですか〜?」
「勿論ですよ」
 答えてから、アクセルは思い当たった。彼女の不安は、先の空戦で己が撃墜されたことに起因するのではないかと。
「シェリー、先日のシェイド戦のことは‥‥」
「んーんー、こないだの依頼は、助けてくれてありがとーなのですよ‥‥でも」
 シェリーの手が、ぎゅっと力を込めてくる。
「シェリー?」
 ぱたんと、テーブルの上に丸い水滴が落ちた。
「でも、あんな無茶はしないでほしーのですよ‥‥」
「すみません、でもシェリーを襲う奴らが許せな」
 くて。残り2つの音は、アクセルの口から、出ることはなかった。出せなかった。
「もう‥おかーさんみたいに大好きな人が死んじゃうのは嫌なのですよ!!」
 銀色の瞳からとめどなく涙を零すシェリーが、子どものようにしゃくりあげながら胸にしがみついてきたのだから。
(俺は‥‥どうすればいいんだ?)
 ウェールズの騎士はただ自問する。
 誰かを襲うものを自身を省みず屠りたいと叫ぶ衝動が、誰かを苦しめているとしたら?
(いや‥‥答えは分かりきっているじゃないか)
「シェリー‥‥」
 アクセルは、ようやくシェリーの柔らかい髪に手を伸ばした。泣きじゃくる年上の女性の肩は、まだ震えていた。

 UNKNOWNの演奏は、サックスからヴァイオリンに。秋の宵にふさわしい夜想曲が、染み入るように響く。
「‥‥ね、あの二人、やっぱりもう引っ付いても良いよね」
 ムーディな生演奏をBGMにカンパリオレンジを楽しんでいたアヤが、朋に身体を摺り寄せぼそりと耳打ちした。
 「あの二人」とは勿論、アクセルとシェリーだ。
「‥‥ま、最後は二人次第だけどな」
 他人ごとのように呟きつつも、朋が友人たちの幸せを祈っているのは言うまでもない。
 何しろ結婚という制度の良さを実感している身であるのだから。
「アヤ、今日はいい気分転換になったよ、ありがとな」
「ふふ、帰ったら二人でもう一杯やる?」
 そう、伴侶はいつだって彼の癒しであり、原動力なのだ。



◆宴の終わり
 秋の一日、多くの笑顔が集ったオータムフェスタももうすぐ終焉。
 ダイニングバーの舞台で奏でられていたヴァイオリンの音色が細くなり、止んだ。
「――Wisely and sl; they stumble that run fast」
 照明が落ち、男のウィスパー・ボイスが静かに響く。


「あら、もうお終いなの? もう少し早く出て来ればよかったわね」
 カウンター・スペースで石榴とピザをつついていた宮本 遥(gz0305)は残念そうに呟いた。
「おっと、この唐揚げと紹興酒は片付けていくぜ!」
 ラスホプ・カフェで3度のステージをこなし、一人打ち上げを楽しんでいた宵藍(gb4961)も、慌てて唐揚げを頬張り、紹興酒で流し込む。
「また、来年も来たいな」
 ラストホープにきたばかりの傭兵、天狐(gc8123)は名残惜しそうに動く人並みを眺めていた。
 皆、帰る時間だ。


 ごった返すチューブトレインのホームで、アレックスとトリシアは、はぐれないように手を繋いでいた。
「楽しかったな」
「うん、また、こうやって沢山思い出作ろうね」
 二人は互いに見つめ合うのではなく、手を携えて同じ未来を見ていた。護るべき者を持った者が知る、願いを抱えて。
 即ち。

 戦いは佳境を迎え激しさを増し
 でも日常は続いていく。
 何でもない日々を、連綿と続く日常の幸せを護っていこう。
 皆で。


 明日からはまた、戦いの日々が始まる──。