タイトル:暗躍!? 地下水道マスター:クダモノネコ

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/03 10:45

●オープニング本文


 高知県を訪れた観光客の多くが足を伸ばす「桂浜」は、高知市の南、土佐湾の海岸線にある。
 そんな景勝地のはずれにある、年季の入った小さな民家。

「あー、やっぱ家は落ち着くなぁ〜。カンパネラ学園に帰りたくなくなっちゃうよ」

 夏休みを利用して帰郷していた能力者の少女は、ごろんと畳に寝転がって伸びをした。軒下の風鈴がちりんと、涼やかな音を立てる。
 ちゃぶ台の上にはスイカと新聞とテレビのリモコン。少女の向かい側に腰を下ろすは、20代後半と思しき実直そうな男性だ。

「兄ちゃんは、おまえが帰ってきても、一向にかまわないんだぞ。‥‥『能力』とやらを生かすのは、地元の学校を卒業してからでも十分じゃないか」
「おまえは女の子なんだし、軍隊まがいのところで、危ないことをしなくても。もし何かあったら、父さんと母さんに何といえば」
「‥‥」

 少女はテレビに目を向けたまま呟く父親と、両親が眠っている仏壇、それに己の掌を交互に眺めた。
 エミタが埋められた、掌を。兄を守るための力を閉じ込めた、掌を。

「お兄ちゃんはわかってないんだからぁ。あたし、すっごく強いんだよ! 何にも危なくなんかないって!」
「そんなこといったって佐奈、ここに帰ってくると必ず、兄ちゃんの部屋に布団敷いて寝るじゃないか」
「だってムカデ出るんだもん! キメラはいいけどムカデは嫌なのっ!」

 兄の心配に気がつかないふりをして、少女はゆっくりと立ち上がった。

「もう、バカ兄貴と言い合いしたら暑くなっちゃった。シャワー使っていい?」
「そろそろご飯だから、長湯するんじゃないぞ。兄ちゃん、今日はオムライス作るからな」

 何がオムライスよ。バーカ。どうせケチャップで「さな」とか書くんでしょ。わかってるんだから。


 それから間もなく。
 換気のために細く開けられた、民家の浴室の窓の奥で
「わかってなーいー アニキったらー もう子どもじゃないのにー♪」
 湯煙のなかドラグーンの少女、佐奈は、作詞作曲「あたし」の即興歌を熱唱していた。
 タイル張りの床の上で佇み足でリズムを取り、なおかつシャンプーハットを被ってのコンサート(?)。
 湯船の中には入浴剤を溶かした湯が張られ、水面には黄色いアヒルの玩具がぷかぷかと浮かんでいた。

「つよいんだから〜♪ あったし〜♪ つよいんだからぁ〜♪」

 泡立てた髪の毛でさんざん「ソフトクリーム」や「つの」を作って遊んだあと、シャワーのコックに手を伸ばす。

 ザーーーッ!

 湯気と一緒に温かいお湯が、勢いよく降り注いだ。

「きもちい〜♪」

 佐奈の身体に纏わりついていた泡がみるみる流れる。‥‥と。

ザーーーー‥‥ザ‥‥ゴキュ‥‥‥‥ゴキュキュキュキュッ‥‥‥‥!

「え?」

 突然排水口が、異音を発し始めた。流れていくはずの泡と湯がたまり、足の爪先まで水位があがってきている。

「もう、お兄ちゃんったら排水口の掃除してない‥‥?」

 唇を尖らせたその途端

 ゴキュァァァァァァッ!!

 排水口のフタがまるで生き物のように跳ねあがり、泡とお湯が音を立てて飛び散った。
 そしてそれらと一緒に勢いよく飛び出てきたのは、

「きゃああああああああ!!」

 どす黒い、コールタールのようなスライムの欠片だった。大きさこそ掌サイズだが、生きの良さがハンパではない。

「ちょ、ちょ、キモイ! キモイいいいい!! おにーちゃーん! おにーーーちゃーーーん!!」

 それは茫然とするドラグーンの少女の身体に猛然と絡みつき、しばし蠢いたあと泡と湯を引き連れて排水口へと消えていったのだが‥‥


***
 ところ変わって、夏休み中のカンパネラ学園生徒会事務部。
「という電話が、里帰り中の後輩、佐奈ちゃんの保護者からかかってきたんですよね」
 雑用係の2年生、笠原陸人は、応接ブースに訪れた来客たちにアイスを勧めながら切り出した。
 

「今のところ、欠片が出てくるだけで目立った被害はないんですが、本体が下水道に潜んでいると考えられます。一般家庭に被害が出る前に処理してしまわないと、まずい。しかし見ての通り」

 そこで一旦言葉を切り、表紙にKVの勇姿が描かれた冊子を取り出す。
 『カンパネラの友』と銘打たれた夏休みの宿題用問題週は、ほぼ白紙だった。

「後輩を襲ったキメラは憎いですが、僕は四国まで遠征している余裕が、ないのです。あとアサガオの観察と自由研究も残ってます」
「‥‥なので何とか‥‥退治をお願いできないでしょうか? UPCには僕から連絡しておきますので‥‥」

●参加者一覧

西村・千佳(ga4714
22歳・♀・HA
L45・ヴィネ(ga7285
17歳・♀・ER
小野塚・美鈴(ga9125
12歳・♀・DG
プリセラ・ヴァステル(gb3835
12歳・♀・HD
東雲 凪(gb5917
19歳・♀・DG
キヨシ(gb5991
26歳・♂・JG
オルカ・クロウ(gb7184
18歳・♀・HD
シャイア・バレット(gb7664
21歳・♀・SF

●リプレイ本文

 高知県・桂浜。
 町の平和と公衆衛生は、下水道に出現したスライムキメラによって脅かされていた。
 これは、人々の暮らしと笑顔を守るため地下で暗躍した、能力者の記録である。

***
 戦いを有利に進めるには、まず情報の把握から。
 メンバーの一部‥‥東雲 凪(gb5917)、L45・ヴィネ(ga7285)、小野塚・美鈴(ga9125)の3人は、下水道の地図を借りるべく、管理会社を訪れていた。
 
「スライム退治の傭兵さんね。お友達が来ているよ」
「お友達?」

 人の良さそうな事務員が、3人を応接室に案内する。

「どうしてあなたが、いるんですか」

 AU−KVに身を包んだ凪は、呆れるほかなかった。
 目の前のソファで少年が、「カンパネラの友」を広げていたからだ。
 今回の依頼を出した生徒会事務部雑用係、笠原陸人である。

「えへへ、任務終了後のお風呂の手配をするために来ちゃいました♪ これ下水道の地図です」
「というか、夏休みの宿題なんて最初のうちに終わらせておけばいいのに‥‥」

 凪の肩越しに、ヴィネが顔を覗かせ、地図を受け取った。

「下水からキメラが湧く、か。放置しておけば大変な事になりかねんな‥‥確実に掃討したい処だ」

 広げられた地図を、背伸びして覗き込むのは美鈴。
「女の子がお風呂入っている時に襲うなんて、許せないキメラなのだ!」
 正義感を露わにしたかと思うと、横に佇む才媛の横顔を見上げ
「お風呂、楽しみにしてるのだ♪」
 視線を雑用係に移し、笑みを見せた。

***
 所変わってアスファルトの下。鼻が壊れそうな臭いと、湿った闇に塗りつぶされた世界。
 すなわちマンホールに直結した汚水沈殿室で、3人の能力者が待機していた。

「というわけで、地図は入手した。すぐそちらに向かう」
「了解♪ カワイイ男の子に頼まれたら、断れないわね」
 ライダースーツを着込んだシャイア・バレット(gb7664)は上機嫌で、ヴィネからの通信を切った。
 ヘソまで下ろされたジッパーの隙間から、小麦色の肌を覗かせている。
「蒸すわねぇ」
 ぱたぱたと特盛りバストに風を送る仕草に、西村・千佳(ga4714)が頷いた。
 ランニングに魔女っ子ハットにミニスカート、もちろん黒猫尻尾つきだ。
「今日のマジカル♪ チカは軽装バージョンなのにゃ♪」

 タイプの違う美女2人に、電子煙草を咥えたキヨシ(gb5991)が上機嫌でデジカメを向ける。
「2人とも、そこでポーズ!」
 暗がりを切り裂くフラッシュに驚いたネズミが、3人の足下を駆け抜けていった。
「さて、もう2人は‥‥と?」


***
 さらに所変わって、排水口付近。
 2体のAU−KVが闇の水路に身を躍らせようとしていた。

「うにゅ〜♪ 下水道に侵入したのだ〜。すぐ向かうのだ〜」
 トランシーバに向かって叫んだのは、リンドヴルムに規格外の胸、もとい、身を包んだプリセラ・ヴァステル(gb3835)。もう一人は華奢な身体にミカエルを装着した皇 織歌(gb7184)だ。
「少々お待ち下さい。今、照らしますね?」
 おっとりとした声とともに、AU−KVのヘッドライトが2人の行く手に光を投げる。
 幅2メートル、天井の高さも同じぐらいの狭い水道の内側がほんのり明るくなった。
 壁際にかろうじて、水に浸っていない細い通路があるほかは、生活排水が勢いよく流れている。

 「うにゅぅぅ〜臭いぃ〜臭いよぉ〜〜〜!」
 急いで沈殿室へと向かうプリセラと織歌。
 水面に長い影が、黒く落ちた。


***
 再び汚水の沈殿室。8人の能力者たちが、顔をそろえていた。
 「うにゅ〜♪ きっちりきっかり、始末しちゃうの〜♪」
 いよいよ、任務の開始である。

 はぐれないように互いに気を配りつつ、陰鬱な下水道を歩く能力者達。
「思った以上に薄暗いだね‥‥かなりジメジメしているのだ‥‥」
 澱んだ空気が、黴とヘドロを含んだ湿気が、じっとりねっとり絡みつく。
 先頭近くを歩むのはランタンを持ったシャイアと、デジカメを構えるキヨシ。
「マスクでも持ってきたほうがよかったかにゃ」
 その後ろに提灯をぶら下げた千佳と、盾を構えた美鈴が続く。
「早く終わらせて、お風呂に入りたいのだ」
 後方からヘッドセットのライトを用い、行く手を照らすのは、ドラグーン達。
 能力者たちが確保している灯は、闇を払うに十分な光量ではあったが、弊害もあった。
 そう、見たくもないものも、見えてしまうのだ。

「うにゅ〜! ミミズさん!」
「いや、ゲジゲジ!」 

 無駄に育った節足動物、昆虫もどきなどが、嫌と言うほど。


 そんな中、地図を広げたヴィネは方位磁石を掌に握り、進路の把握に余念がなかった。
「皆、頑張るんだ。このまま北に進めば、汚水沈殿室へ出る。そこから東に進めば、第2‥‥千佳達と合流した部屋を1つ目とするなら、第3の沈殿室にたどり着ける」
「その先は、どうなってるにゃ?」
 千佳が猫耳と尻尾をぴんと立てて問い返す。
「‥‥地図を見る限りだと、鉄格子で封鎖されている。現状把握できている地域をしらみ潰しに探そう」
 臭いと気色悪い生物に凹みつつも、好奇心と探求心をなくさないのが、傭兵というモノらしい。

***
 通路を綱渡りして到着した汚水沈殿室の床の大部分は、ヘドロを貯めた沈殿槽で占められていた。
 壁の計器類は、既にコンピュータで制御するシステムにとって代わられたらしく、どれもさびついている。
「どこに潜んだって、「探査の眼」からは逃れられないのだ♪」
 「覚醒」した美鈴が汚水層の淵に両手を付き、四つんばいになって泥水を覗いた。
 純白の髪に白い翼のオーラを纏う姿は、場違いな場所に舞い降りてしまった天使のようだ。
「うーん、いないっぽい‥‥?」
 と、不意に顔を上げる「天使」。
 ヒップのあたりに何かが乗っかった感触を覚えたのだ。
「ヴィネちゃん? キヨシさん?」
 返事は、ない。
 (そうだ、2人は入り口で、周りを見張ってくれているのだ‥‥。じゃあ、これは?)
 結論に達した美鈴は、おそるおそる振り向く。たちまちその顔が、凍り付いた。

 乗っかっていたのは、肉色の尻尾を振り立てた体長30センチほどのドブネズミ。
 否、巨大な牙と光る目の、醜悪なネズミ型キメラだった。
 悲鳴に呼ばれた仲間どもが、天井の隙間から群れを成して、少女めがけて襲い来る!

「きゃああっ!」

 窮地にまず駆けつけたのは、織歌だった。
「鼠さんがたには‥‥ご退場いただきましょう」
 おっとりと微笑み、ガトリング砲を鼠に向ける。
 美鈴が射程外まで逃れたことを確かめ、トリガーを引くのは、白い指。
 ダダダダッ!
 嵐のような勢いで、弾丸が射出された。

 キーキーと不快な悲鳴に、ネズミを、否、肉を散らす音と血飛沫が混ざる。
「汚いミンチね」
 ガトリングシールドの影で笑むシャイアも、掃討に加わった。
 覚醒した金髪美女の胸は、平常時よりグラマラス。発砲の反動で悩ましく揺れ動く。

「撮影の邪魔すんな、っての」
 左の瞳を緑に染めたキヨシが感情の乏しい声で吐き捨て、エネルギーガンの引き金を引いた。
 美鈴の探索ポーズを撮影しそこねた彼は、ご機嫌斜めだ。

 血の臭いの中、弾幕をかいくぐった数匹は右往左往した。しかし何処にも、助かる道などない。
「運がよかったな、だが、そこまでだ」
 キメラの耳に、超機械αを構えるヴィネの声は如何に聞こえたのだろうか。
 死刑宣告、という概念は理解できないであろうが
「キーッ!」
 見下ろす瞳に、絶望は感じたかも知れない。


「うーん‥‥この沈殿槽にスライムは潜んでいなかったのだ‥‥」
 己の責任のようにしゅんとする美鈴を、千佳が持ち前の明るさで励ます。
「気をとりなおして、下水探検の続きにレッツゴーなのにゃ♪」


***
 血の臭いに惹かれるのか、道中絶えずネズミ型キメラが牙を剥き、能力者たちに襲い来る。
 所詮は下等なげっ歯類、強敵にはなりえない。しかしそれでも、数が多く
「む‥‥横合いから乱入とは無粋、ですよ?」
 群れに銃口を向ける織歌にも、
「みんなには指1本触れさせないのだ!」
「自身障壁」を発動させ、健気に盾を構える美鈴にも、疲れの色が見え始めていた。
 そしてそれがピークに達しようかという頃。

「‥‥着いたぞ、第三沈殿室だ」
 磁石と地図を注視するヴィネが、行く手を指し示した。在るのは小部屋の入り口と思しき、格子の扉。
 錆びの浮いたそれに鍵はなく、周囲の計器類も、久しく動いた形跡はない。

「超機械を持ってる皆で、「探査の目」を使う美鈴ちゃんをガードするにゃ♪」
 ヴィネの体の隙間から、マジシャンズロッドを手にした千佳が部屋を覗き込む。
「じゃあ私達は、鼠を弾幕で蜂の巣にするわ」
 シャイアが頷く。皆にも異存は、ないようだ。


***
 沈殿槽を前に再び「探査の眼」を発動した美鈴を中心に、ヴィネ、千佳、プリセラ、キヨシが続く。
「今度はネズミさん、落ちてこないでなのだ〜」
 またしても猫の背伸びのようなポーズで、沈殿槽を覗き込むエキスパート。
 絶好のシャッターチャンスと思いきや、キヨシはデジカメをしまい、機械剣αを起動させていた。
 無言のヴィネからは微かな機械の駆動音が響き、いつも元気なプリセラも沈殿槽を凝視したまま、無言だ。
「‥‥いやな、気配がするにゃ」
 猫耳を動かしながら、千佳が呟く。
 皆、何かを感じ取っていた。
「‥‥来るのだ‥‥」
 美鈴が弾かれたように立ち上がり、じゃきっとS−01を構える。
 濁った水面がざわ、ざわと動く。
 来た。獲物の気配に招かれて。

 ゴキュァァッ!
 
 咆哮とともに、まき散らされる汚水の飛沫。
 おぞましきスライムキメラは、その身を露にした!
 ヘドロを固めたドブ色と悪臭。そして伸縮する身体が、能力者たちを威圧する。
 だが、誰も怯まない。

「にゅ、スライムキメラ発見にゃ!」
 短いスカートを翻し、一気に間合いを詰めたのは、『先手必勝』を発動させた千佳。
「ええでぇ、最高や! よしっ、そこや、いけ〜〜〜!」
 キヨシの声援(?)に応える様に、トランジスタな身体が「獣突」を繰り出す。パスする先は、ヴィネ。

「塵も残さず蒸発するがいい!」
 不敵に笑むヴィネの超機械αが、電磁波を放つ。スライムはひくひくと蠢き、のび広がる。
 しかしそれは成り行きではなく、キメラの意思だったようだ。
 何故なら
「な!?」
 鞭毛のように伸びた体組織が、ヴィネの豊満な身体に絡みついたのだから。
「く、‥‥んぁぁっ!?」
 仲間の危機に、千佳が一瞬、隙を見せる。
「悪いキメラは・・・マジカル♪ チカがお仕置きにゃ!」
 本能に駆られた合成獣は、チャンスを見逃さない。
「にゃぁ!? 変なところに巻きつくんじゃないにゃー!」
 歴戦の兵とはいえ、やはり少女。
 無遠慮な軟体生物の攻撃に、愛らしい顔が歪んだ。

 美少女2人の危機をすくうべく参上したのはキヨシ。
 右手の機械剣αが、正確にキメラを捕らえ、斬る。
 しかし初撃の直後、左手の機械がちゃっかり閃光を放った。無論、デジタルカメラのフラッシュだ。
「ちょ、キヨシお兄ちゃんっ」
「あっ、間違えた。ゴメンゴメン、コッチやった」
 わざとらしく笑いながらも、その後の攻撃がスライムから逸れることはない。
 機械剣αは着実に、キメラを苛んでゆく。

 そして止めは、プリセラの出番。
「うにゅぅ! えっちなのには、お仕置きするよ〜!」
「竜の角」と「竜の瞳」を発動したドラグーンが、ブラックホールを発砲する。

 ギュギュォォンッ!

 黒色のエネルギー弾がキメラの命を食らう。
 闇に潜む合成獣は、意志持たぬヘドロに還り、沈殿槽へと沈んでいった‥‥。


***
 5人がスライムと死闘を繰り広げている頃、3人のドラグーンもネズミキメラと懸命に戦っていた。

「出たいー 早く出たいー」
 少女らしい願望を叫びながらショットガンを連射するのは凪。
 漆黒のオーラを揺らめかせ、文字通り飛び掛ってくる獣を、前列で屠り続ける。
 
「ふふ‥さぁ、子鼠さん?‥踊りましょう? 近寄らないなら‥‥捉えるまで、です」
 織歌は穏やかな口調で、だが容赦なくガトリング砲をげっ歯類の群れへと叩き込む。
「ミカエル」の腕に生じるスパークが示すは、「竜の息」の発動。もはや近寄ることすら、許さない勢いだ。

 やや離れた位置で奮闘していたシャイアは、ピンチに陥っていた。
 素早さと数がとりえのドブネズミどもが、ライダースーツの隙間から、内側に侵入してしまったのだ。
「ぁん! ちょっと・・・、中に入らないでよ!」
 キメラの立場からすれば、生きるか死ぬかの瀬戸際である。
 シャイアの手が届きにくい背面側に逃げるのは、極めて道理といえた。
「んぅう‥‥ぐちょぐちょの体で動き回らないで‥‥、んふうッ!」

「む! シャイアお姉ちゃんに悪いことをしているキメラは、お仕置きにゃ★」

 息の上がりつつあったシャイアを救ったのは、スライム退治を終えた千佳だった。
 不届きなネズミをマジシャンズロッドで駆除し、ついでにシャイアの抱きつき心地をチェックする。
 最後にキヨシのデジカメが、任務完了の証拠画像をしっかりと撮影した。

「よっしゃ、エエ写真も撮れた、スライムも退治できた! かえろか!」


***
 任務を終えた能力者たちは、旅館の大浴場で、日帰り入浴を楽しんでいた。
 事件の発端となった女子生徒の親戚が経営する宿を、生徒会事務部雑用係が頼み込んで手配したのである。

「んー、さっぱり♪ やっぱりお風呂はいいよねー‥」
 シャワーを堪能した凪が幸せそうに微笑んだ。
 黒髪からはスペシャルトリートメントに配合されたバラの香りが漂っている。
「熱中症になりそうでした‥‥」
 頬を桜色に染めた織歌は、石鹸で身体を洗うのに余念がない。鼠に潜り込まれたシャイアも同様だ。
「皆でお風呂、楽しいな〜♪」
「においをキレイに落とすのだ〜」
 無邪気に背中の流しっこをしているのはプリセラと美鈴。
 その様子を湯船から眺める千佳とヴィネ。
「一件落着にゃ♪」
「む、キヨシはどうした?」


 さてその頃男どもは、女湯の壁と天井の隙間にへばりつき、禁断の風景を垣間見ていた。
 能力の無駄遣い? 否、浪漫に導かれた正しい使い方である。

「キヨシさん、楽園だ‥‥楽園が見えるよ!」
「雑用係サン、話わかるなァ! よし、撮るで!」

 フラッシュを発光禁止にしたデジタルカメラが、わずかに機械音を立てる。
 しかしこんな羨ま‥‥けしからんことを、神が許すはずもなく‥‥。

「あっ」

 湯煙で湿ったキヨシの手が、デジタルカメラを取り落とす。
 それは固まる2人の眼下‥‥女湯の大浴場に落下し、

 ばしゃーん!

 小さな、水しぶきを上げた。

「やだ?」
「みゅ!」
「貴様ら!」
「あら♪」
「うにゅ!」
「まぁ」
「エッチなのだ!」


その後男2人が、湯船に浮いていたとか、いないとか。