●リプレイ本文
能力者の学舎、カンパネラ学園。秋の空に、鐘の音が高らかに響く。
学庭隅のベンチで、生徒会事務部雑用係の笠原 陸人(gz0290)は、1人思案していた。
「えーっと、今回の体験入寮者は10人か」
膝の上にノートを広げ、記載された名前を確かめる。
「聴講生が3人、在校生が1人。新入生は2人で、学生寮管理部からは鯨井レム(
gb2666)さん、ヨグ=ニグラス(
gb1949)くん、シルバーラッシュ(
gb1998)さん、それに斑鳩・南雲(
gb2816)さん、と」
そこで言葉を切り、空を仰ぎ
「管理部が来てくれるのは助かるなぁ。俺も頑張るけどさ!」
ぱちんと両手で頬を叩いて、立ち上がった。
「さ、集合時間だ!」
<食堂>
若き能力者たちの胃袋を満たす学生食堂は、本校舎の一角にあった。
壁際には厨房と繋がったカウンターがあり、奥で稗田・盟子(gz0150)たち「食堂のおばちゃん」が働いている。
その様子を眺めながら
「体験入寮のメニューはなにかなー? 南雲さんと言ったらキャベツ! これを学園名物にするですっ」
白衣をだぶっと着たヨグが、横に立つ元気娘、南雲を見上げた。
「あ、相手がキャベツならまおーしょーこーけんを使わざるを得ないッ!」
無邪気に笑むヨグとは対照的に、南雲の笑いはひきつり気味。漢女(おとめ?)はキャベツに対し、トラウマがあるようだ。
「あ、体験の人たちだ、ほら」
***
2人が視線を送った先に佇むのは、3人の少女だった。
「寮での生活って始めてだからドキドキするにゃ〜♪ ところでもうちょっと小さい制服なかったのかにゃ?」
金髪に猫耳、制服のスカートの裾から尻尾を覗かせるのは西村・千佳(
ga4714)。
「全くだ‥‥もうちょっと他にサイズが無いのか? 胸が入らないから前を全開にする他無いのだが‥‥」
頬を染めて俯き気味なのはL45・ヴィネ(
ga7285)。制服のホックは一番下が留まっているだけで、襟元からは谷間が丸見えだ。
「無いのだが‥‥なのだ〜」
ヴィネの口調を真似て、小野塚・美鈴(
ga9125)も唇を尖らせる。彼女は胸くまのぬいぐるみを抱えることで、防御力アップ、羞恥心ダウンの効果を得ている模様。
「うにゅにゅ〜いらっしゃぁーい♪ カンパネラへようこそなのぉ〜」
一方、在校生、プリセラ・ヴァステル(
gb3835)は親しい友人の来訪に大喜びだ。規格外の胸をたゆんたゆん揺らし、抱きついてのお出迎えである。
「にゅ、プリセラちゃん、みんな見てるにゃ★」
***
食堂奥に設けられた受付スペース。
「えっと、千佳さんたち3人は受付したし‥‥はい、次の人」
「ファウリス(
gb8525)よろしく」
「鬼灯 沙綾(
gb6794)です、お願いします」
そこに陣取った陸人は、何気なくあげた顔を再び突っ伏すハメになった。何故なら
「むねえええ」
彼の目前30センチに、新入生、沙綾の膨らみゆく胸が、甘い香りともに迫っていたからだ!
(は、鼻血出るっ!)
「笠原ぁ、胸ばっか見てんじゃねーよ」
「シルバーさん、人聞きの悪いこと言わないでくださいっ!」
図星をつかれた事務部員は、横に来ていた管理部員を軽く睨みつけた。
もちろん銀髪の少年は、これっぽっちも怯まない。
「どーだかなァ‥‥と、こっちだ、ついてきな」
口の端で笑い、2人の新入生を奥のテーブルへと案内してゆく。
「ああ、俺‥‥僕、要領悪くて、厭んなっちゃうな」
口こそ悪いがてきぱきと動くシルバーラッシュを横目で眺めていた陸人は、やや自己嫌悪気味に呟いた。
「‥‥」
受付書類を片付けるのを手伝っていた鯨井レムが、ねぎらうように、短く声をかける。
「陸人、個々の力など微々たるものだ。何かあればいつでも呼んでくれ、力になろう」
「あ、ありがと。鯨井さん」
凛とした雰囲気を崩さないまま、辣腕の管理部長は涼やかに笑むのだった。
***
そんなわけで。
どうにかこうにか受付を終え、テーブルに着いた参加者達は、それぞれ自己紹介をした。
会食のメニューはキャベツ定食ではなかったから、南雲がホッとしていたことを付け加えておく。
「では、食べながら聞いて下さ〜い。このあと新入生、聴講生の皆さん、そしてガイドのプリセラさんはAU−KV格納庫の見学を中心に、学内をめぐります。管理部の皆さんは‥‥どうします?」
「我々管理部は、一旦寮に戻り、参加者の便宜を整えようと思う。見学を楽しんできて欲しい」
レムが答えるとともに、3人も頷いた。
「はい、じゃあ、行ってきます!」
<格納庫見学>
カンパネラ学園地下1Fは、在校生のKV、AU−KVの格納庫となっている。
コンクリートの壁、ひんやりした空気、漂うは、機械油の臭いだ。
「ふーん、僕たちがラスト・ホープで使ってるハンガーとあまり変わらないにゃね」
千佳が高い天井を見上げて呟いた。
「KVの型こそ最新とは言い難いが、施設はそう悪くない」
整備ユニットのコントロール・パネルを眺めていたヴィネも関心したように頷く。
「卒業生は、UPCの整備士として働く事も多いので、自機で整備練習を行います。ね、プリセラさん」
「うにゅ〜 その通りなの〜 あたしの愛機をババーンと紹介しちゃうの〜」
言うが早いか、少し離れたハンガーに駆け寄るプリセラ。そこには磨きあげられたリンドヴルムが佇んでいた。
規格外の胸ごと上半身を預け、無機的なボディに愛おしげに頬ずりする。
「初期型でも、あたしと一緒に戦ってくれるいい子なの♪」
「プリセラちゃんっ、そのコを整備するときに気をつけてること、あったら教えてほしいのだ」
美鈴も胸を揺らせながら、リンドヴルムの傍に屈む。
「うにゅ〜、色々あるけど、やっぱ愛なの〜♪」
***
一行はさらに奥、ひときわ新しいAU−KVが並んだハンガーへと歩を進めた。
「ここは新入生用のハンガーです。沙綾さんとファウリスさんの機体も、この一角にありますよ」
陸人の言葉を受けて、それぞれの機体の元へ走る2人。
「あった! ボクの機体! ‥‥キミがボクのリンドヴルム!」
「あっ、俺のも。‥‥これから俺は、こいつとともに戦うんだ」
一方、ヴィネも好奇心を露わにする。
「陸人、ここには実習用の機体はないのか? 良かったら少々弄らせて欲しい。一応、機械の扱いには少々の心得はある」
「あ、2区画先のハンガーのやつなら、いいですよ。俺‥‥僕のですから」
才媛の表情が、眼鏡の奥でぱっと輝いた。
<躍! 管理部>
同じ頃、寮に戻った管理部の4人は、男女共用エリアにある談話室に集まっていた。
「皆、この時間を利用して今後の段取りをしようと思う。まずは体験入寮者たちの部屋割りだが」
ぱらぱらと書類をめくり、部員の顔を見渡すのは、レム部長。
「女子の聴講生3人は全員相部屋を希望している。新入生も相部屋希望なので、4人部屋で良いだろう」
「男子はファウリスだけだな。俺の部屋泊めてやってもいいぜ。ヨグも来いよ。笠原も呼べばいい」
「んと、シルバーさん、掃除とかは大丈夫なんですか?」
「抜かりねぇよ」
少し胸を反らすシルバーに、レムがやんわりと異を唱えた。
「シルバー、それは寮規違反だ。新入生をゲストルームに宿泊させ、消灯まできみの部屋で談話するなら構わないが」
「了解、規則は破らないほうがいいだろ。とりあえず男子寮廊下の片付けでもすっかな、行くぞ、ヨグ」
「さて」
男子2人がいなくなったテーブルに、レムはプリントを広げ始めた。南雲がちょこんと首を傾げる。
「レムちゃん、なにこれ?」
「ああ、避難経路図や諸注意を記した冊子を作ろうと思うのだ」
「さすがレムちゃん! 手伝うねっ!」
「いや、私1人で大丈夫。きみはヨグの誕生日会のケーキを作るんじゃなかったのかい?」
部長の意図を汲み取り、大きく頷く元気娘。
「任せといてっ」
<鐘の湯!>
格納庫見学を終えた一行は、地下3Fの演習場片隅の入浴施設「鐘の湯」に足を伸ばしていた。
寮生、在校生問わず絶大な人気を誇る、温泉風大浴場である。
「千佳さん達は初めてじゃないから説明いらないですよね。鬼灯さんは皆さんについていって下さい」
「女の子同士楽しく入るにゃ♪」
「入るのだ♪」
「よ、よろしくおねがいします」
5人が「女湯」ののれんの向こうに消えたあと、陸人は隣に立つファウリスを見上げた。
「で、ファウリスさんは残念ながら僕といっしょに男湯です‥‥」
「ほんと、残念です」
***
さて、場面は湯煙ただよう女風呂。
「にゅふふふ、選り取りみどりにゃね♪」
肝心なところを石鹸の泡でガードした千佳が、たわわなバストの学友たちをゆっくりと眺め回す。
「今日の抱きつきは、君に決めたにゃ♪」
沙綾に抱きつくと見せかけ、プリセラの胸元にダイブ!
「洗ってあげる〜♪ うにゅっふぅ〜♪」
千佳を受け止めたプリセラも、既に全身泡まみれ、白クマさん状態だ。
胸の柔らかスポンジ(?)で、黒猫の滑らかな背中と控えめな胸元を、丹念に擦りあげる。
「ねね、沙綾ちゃん、美鈴と洗いっこしようよぉ!」
「は、裸の付き合いというのも必要、ですよねっ!」
洗い場の隅で、意気投合しているのは美鈴と沙綾。こちらは両手に泡を掬い、互いに背中を流すスタイル。
「はぅ〜気持ちいいのだ〜♪」
「折角なので皆の胸部主兵装の確認を行うッ!」
湯気に当てられたのか、ヴィネが手の指をぐーぱーさせながら叫んだ。何かが壊れかけている。
「ヴィネちゃんが熱暴走してるにゃ! そろそろ出ないと、ファウリス君たちが待ってるにゃ!」
***
女子達が脱衣室から出ると、男子2人は麦茶を飲みながら待っていた。
「お待たせしました」
「ど、ども」
湯上がりの学友たちに、やや照れるファウリス。
甘酸っぱい青春、ここに極まれりである。
「さて、このあと19時までは自由行動です♪ 帰寮時間は厳守でお願いしますねっ」
<自由行動・植物園>
日の傾きかけた特別校舎エリア・植物園。
「そう言えば、先日の合宿でもここには訪れたのだったな。あの時はここで食材を採取したが、寮の食事にも演習場のキメラが使われていたりするのだろうか?」
涼やかな秋風を受けながら、思索に耽るヴィネ。
その背後で、茂みががさりと音を立てる。
「誰だ!」
「お、俺です」
現れたのは、ファウリス。
「新入生か。こんな所に何を見に来た?」
「学園にわざわざ植物園を作るのだから、何かすごいのが居るのだろう、と思って。『鬼が出るか蛇が出るか‥‥』」
飄々とした物言いに、ヴィネは唇を綻ばせた。
「面白いことを言うな、貴様。いずれ戦場で、相まみえたいものだ」
<自由行動・家庭科室>
窓ガラスから夕日が差し込む本校舎、家庭科室。
担任を通じ使用許可を得た在校生、南雲と聴講生、美鈴はともに、ヨグの誕生日を祝うケーキを作っていた。
「すごいのだ南雲さん〜 家庭科室借りれるなんて思ってなかったのだ〜」
「あたしの力じゃなくて、学生寮管理部の力かなっ♪」
<ヨグ誕!>
寮生が朝食、夕食を摂る食堂は、男女共用エリアの奥に位置している。
時刻は午後8時。一般の寮生は皆食事を終え、自室に引き上げてしまっている頃合いだ。
だが今日は、スペシャルデー。何故って? ヨグの誕生日!
「ヨグ、お誕生日おめでとう!」
「おめでとーッ!」
大きなテーブルの上に所狭しと並ぶのは、南雲と美鈴の愛情たっぷりバースデーケーキ、レム提供のチョコレートケーキ、主賓のヨグ本人作のバケツプリン。さらには市販の菓子類やジュースのペットボトル。
「はぁい、おめでとうなのよ〜♪」
プリセラとファウリスが、クラッカーの紐を引く。
「お祝いありがとございます!」
嬉しそうに顔をほころばせる主賓の頭上で、可愛らしい祝砲が炸裂した。
「喜ぶのはこれからだぜ、ヨグ!」
「わーっカニとチキン! シルバーさんすごい!」
シルバーラッシュと陸人が運んで来た大皿を見て、さらに目を丸くするヨグ。
「チキンは食堂の盟子おばちゃんに交渉したぜ! カニは陸人が仕入れてきた」
「えへへ、植物園の川で獲りました! 本物の蟹みたいでしょ♪」
「えッ?」
それって蟹じゃなくカニキメラでは。
一瞬微妙な空気が流れかけたが
「ハ、ハッピーバースデーにゃ〜♪」
千佳がプロ根性とマイクセットで何とか押し切り、
「かんぱいにゃー!」
皆も祝杯で疑問を、一気に流し込んだ。気にしたら負け! 負け負け!
<更けゆく夜>
ヨグの誕生日パーティも終わり、消灯時間は目前。充実した1日も終わろうとしていた。
しかし、素直にベッドに入るような優等生はおらず‥‥。
***
2段ベッドが2つ設置された、女子向けゲストルーム。そこにはお喋りに興じる5人の姿があった。
「にゃは♪ 夜の語らいにはお菓子が必須♪」
裸にオーバーオール姿の千佳は、膝にクッキーの袋を乗せ
「しまった、パジャマを忘れた‥‥」
ブラウス1枚のヴィネが、横で寝そべって頬杖をついている。
「大丈夫っ、ボクもこの姿ですからっ!」
豊かな胸をボーダー柄インナーのみで包んだ沙綾が団結を示し
「ね〜 誰か、一緒に寝ちゃだめ〜?」
イルカ柄パジャマにクマのぬいぐるみを抱きしめた美鈴は、あふんと欠伸をした。
そんな友人達を眺めるプリセラは思った。
「うにゅ〜♪ 皆寮においでよ〜きっと、楽しいよ〜♪」
毎晩こうだと、いいのにな〜、なの。
***
時を同じくして男子寮、シルバーラッシュの部屋。
「お疲れーっ!」
部屋の主とヨグ、ファウリス、陸人はジュースの入った紙コップを一気に呷っていた。
「ほ、ほんと今回は管理部の皆さんにお世話になりました‥‥って俺、ここでのんびりしてていいのかな」
やや落ち着かない風の陸人に対し
「もうプログラムは終わっただろ、心配しすぎなんだっつの」
シルバーラッシュはチキンの残りを齧りつつ、
「こういう楽しみがあるのも寮の良さだと思うぜ?」
新入生に目をむけた。
「んと、寮は楽しいけど、門限厳守! あと廊下でAU−KV着るのはダメ、ゼッタイ!」
ちょっぴり先輩を気取ったヨグも「プチ寮則講座」を急遽開講する。
「ん、これから過ごす毎日がどのようなものかが分かった気がする」
ファウリスは、そんな2人を眺めながら、ゆっくりと頷いたのだった。
***
そして最後は、共用エリア談話室。
誕生会の後片付けなどを終えたレムと南雲がソファに座っていた。
「今日は大変だったけど楽しかったね、レムちゃん!」
大きく伸びをしながら、部長に話しかける南雲。しかし返事はない。
「レムちゃん?」
覗き込んだ元気娘は、くすりと笑いを漏らした。
生真面目で堅物な隻眼の少女が、背もたれに身を預け、小さな寝息を立てていたのだから。
「レムちゃん、お疲れ様」
消灯まであと15分。
「もう少しだけ、寝かせてあげても、バチは当たらないよね?」
<おわり>