タイトル:【Woi】見破れ!マスター:クダモノネコ

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/27 03:20

●オープニング本文


 新学期がはじまったばかりのカンパネラ学園。
 希望に溢れる新入生が校内を闊歩する裏で、教職員ならび一部在校生の間には、かつてない緊張が走っていた。

***
『最初に通達する。諸君はこの依頼を受けた者である。これより作戦説明をおこなうが、説明を受けた後の依頼放棄は認められない。依頼関係者以外は直ちに部屋から出るように‥‥』

 『関係者以外立ち入り禁止』の札が立てられた本校舎の一角。その奥に視聴覚室は在った。
 照明を落とした室内のOHPに、UCP本部から送られてきた作戦説明映像が映し出されている。

『作戦を説明する。今回のミッションは、先の大規模作戦によって、撃墜した敵新鋭機『ステアー』の重要パーツ回収である。ステアーの胴体の一部はUPC軍が回収したが、欠損が多数存在する状態である。敵はこれらを保持し、ロサンゼルス市街地に分散して潜伏している。入手した情報によると、敵は、重力制御によって衛星軌道上までパーツを打ち上げることが予想される。
 諸君はこれからロスに向かい、準備の後、ロサンゼルス到着日の20:00に作戦を決行するように。
 今回のミッションは『KV非推奨依頼』である。使用は許可するが、市街地に大きな影響を与えるような作戦は軍法会議の対象となる。臨機応変かつ、確実にミッションを遂行するように』
 
 ステアー? UPC? てか、なんで俺たちが?
 暗がりの中で生徒達の不安が、さざ波のように広がった。

『では、作戦の概略を説明する。
 諸君に赴いてもらうのはロサンゼルス郊外、標的はこのアパートメントだ』
 学生達を黙らせるように、OHPに新たな映像が映し出された。灰色の3階建ての古びたビルで、窓には内側からカーテンが下ろされている。
『諜報部の調査により、このアパートに『ステアー』に関わるバグアが潜伏していることが判明した。さっさと壊滅させていところだが、善良なる市民も住居を構えている」
 映像がアパートから、住人たちの顔写真に移り変わる。若い男が2人に女が1人、さらに幼児を抱いた母親らしき女と、老夫婦だ。
『住人たちは任意の聞き取りに、渋々ながらも応じる意向を示した。UPCの正規兵や警察の「尋問」ではなく、民間人の傭兵が「話を聞く」ほうがスムーズに進むだろう。諸君の任務は5人の中に潜むバグアを見破り、速やかに抹殺すること。無論、見破られたバグアが善良なる市民に害を及ぼさぬよう、注意を払ってくれ」

***

 視聴覚室の照明が灯されても、生徒達はしばし無言だった。皆戸惑ったような怯えたような色を浮かべ、壇に佇む教師を見上げている。

「さて、キミたちにこのような機密を見せたのは他でもありません。 そろそろ学内研修では飽きた頃でしょう? 
 ああもちろん学生だけで解決しろなんて、無茶なことはいいませんし期待もしていません。 腕のいい傭兵が同行します。
 というか、同行させていただいて『ホンモノ』の戦場を見せてもらいなさい。 万が一キミたちがうっかり命を落とすようなら」

 落とす、ようなら?

「所詮その程度だったということですよ」

***
 カンパネラ学園に隣接する学園都市に住む笠原 陸人は、帰宅した兄に向かって興奮気味にまくし立てていた。
「と、いうわけで俺ロス行くことになったわけ! 凄いだろ? アンタの会社海外に支社なんかないだろ? 羨ましい? なぁ、羨ましい?」
「そうだね」
 意外に、反応が薄い。
 会社員で一般人の兄は、以前からバグアやステアーやヘルメットワームの脅威よりも、己の営業成績や天気を気にするきらいがあったが、それにしても無関心が過ぎる。
「ちぇ、アンタはわかってないなぁ! これで上手くいけば俺、卒業後の進路は安泰かもしれないんだぞ? ってかさ、メーヨのジュンショクってのも、かっこよくな‥‥」

「リク!」
 遮るように、乾いた紙の束が何かにぶつかる音が響いた。

「生き死にを簡単に口にするな」
 丸めた週刊誌で頭をはたかれた能力者の少年は唇をとがらせたが、ややあってぽつりと、口に出す。

「ごめんなさい」


***
「いい加減にしてください! バグアなんて知りません!」
「明日も仕事なんだ、家に帰してくれよ」

 ロサンゼルス郊外にあるUPCの出張所。
「任意同行」に応じた5人は、口々に不満を口にしはじめていた。

「あーはいはい‥‥えっと‥‥もう一度ご意見やご存じのことを教えてください。正直にね。嘘つきはバグアですよ?」

 A・マイケル(会社員風男)「ジョンの言うことに、本当の事などひとつもないさ」
 B・ジョン(学生風男)「トム&マリーのご夫妻は、決して偽りなど仰いません」
 C・キャロル(乳飲み子?を抱いた女)「私は母親です! 嘘なんてつくはずないでしょう!」
 D・トム&マリー(年老いた男女2人組)「私たちの知っているキャロルは半年前に亡くなりました」
 E・ヨーコ(ギャル風女)「っていうかぁ、マイケル、ちょーウソつきだしぃ」

 全く、収拾がつかない。地元のUPC職員は頭を抱えていた。
「ああ、この中から2人のバグアを見やぶるなんて、どうすればいいんだ!」

●参加者一覧

九十九 嵐導(ga0051
26歳・♂・SN
西村・千佳(ga4714
22歳・♀・HA
L45・ヴィネ(ga7285
17歳・♀・ER
キャンベル・公星(ga8943
24歳・♀・PN
プリセラ・ヴァステル(gb3835
12歳・♀・HD
澄川 雫(gb7970
11歳・♀・DF

●リプレイ本文

 <19:30>
 一台の車が、ダウンタウンから郊外に向けて走っていた。
 UPCのエンブレムを控えめに飾った白いワゴンで、窓はカーテンで目隠しされている。
 車が運ぶのは、機密であり希望であった。

「やれやれ、大分大掛かりな事になったか…見学もいる‥‥ま、やる事は何時も通り、か?」
 カーテンの隙間から差し込む街路灯の光が、九十九 嵐導(ga0051)の横顔を照らした。感情が見え難い黒い眼は、膝に広げたアパートメントの見取り図を、じっと覗き込んでいる。
「人は真実を語りバグアは偽りを騙る――其れが絶対の理ならば、答えは明白だ。問題は、それを裏づけられるか否か、だな」
 作戦指令書を検めていたL45・ヴィネ(ga7285)も相槌を打つ。サイエンティストの頭脳は、羊に化けた狼の目星をつけているようだ。
 もっともそれはヴィネだけではなく
「(嘘をついてるのは…あの二人ね‥‥)」
 青い髪と眼を持つ、若干11歳のダークファイター、澄川 雫(gb7970)も同様である。
「そうですね、仮にマイケル氏の証言が正しい場合、ジョン氏、トム夫妻‥‥バグアではないとジョン氏が証言‥‥、そしてヨーコさん‥‥マイケル氏をバグアと証言‥‥の3人が容疑者となります。この場合、バグアは2名ですから、計算が合いません。よってマイケル氏と、トム夫妻『故人である』と証言するキャロルさんがバグアであると考えられるでしょう」
 ヴィネと雫の推測を、整理したのはキャンベル・公星(ga8943)だ。長い黒髪と黒い瞳に、携えた浅緑の小太刀「菖蒲」が、よく似合っている。
「にゅ、打ち合わせどおり、マイケル班とキャロル班に分かれて捜査するにゃね」
 西村・千佳(ga4714)が作戦を確認した。服装は魔女っ子ハットにドレス、よく動く猫の尻尾。気の早いハロウィンの小悪魔のように愛らしい。
「うにゅ〜絶対絶対、ぜったぁいに! この作戦は成功させるの〜!」
 プリセラ・ヴァステル(gb3835)は、AU−KVを装着したドラグーンだ。無機的なアーマーに覆われた「中身」が華奢な少女であることは、容易に見て取れた。例えばそのすらりとした腿から、細くくびれた腰から、そして『兵器』としては明らかに規格外なバストの膨らみから。

「まもなく、被疑者を収容しているUPC施設に到着します。被疑者が乗車しますので、作戦会議は終了していただけますか」
 信号待ちの合間に、金網で仕切られた運転席から、UPC職員が顔を出して6人に告げた。
「心得た」
 嵐導が、短く答える。
「うにゅ〜、ヴィネちゃん、千佳ちゃんっ。調査中、何か見つけたら、こぅやって、合図送るのぉ〜!」
 プリセラが親指をビッと立てて見せる。2人はそれぞれ、頷いて見せた。



 <20:05>
 潮の匂いを孕んだ夜風が吹く中、ワゴンは停まった。
 フェンスで囲まれた建物から、5組の男女が後部座席へ乗り込んでくる。手錠こそなかったが、UPC職員の態度は、犯罪者を護送する警察のそれと大差なかった。
「もぉやだぁ、こわいオジサンとさんざんお話させられてぇ、次こんなぼっろい車? マジありえなーい」
 ミニスカートに金髪の娘、ヨーコが不満の声を上げた。後に続く老夫婦風の男女、トムとマリーは比較的穏やかな表情を見せてはいたが
「ああ、年になるとステップの上り下りが膝に来ますな…」
 わざとらしく大きくため息をつき、そそくさと腰を下ろす。2人が着席するのを確かめたワゴンは、ゆっくりと発車した。

 車内には、気まずい雰囲気が漂っていた。マイケルは座席にふんぞり返り、ジョンはその横で身を縮こまらせている。毛布で赤ん坊を包んだキャロルは後部座席に陣取り、子守歌を歌い続ける始末だ。
「これから皆さんを、ご自宅であるアパートまでお送りしますにゃ★」
 千佳の説明に、ふてくされた空気が一気に和らいだ。
「僕の嫌疑は晴れたのですか?」
 ジョンが傭兵達に、縋りつく視線を寄越す。
「UPCは、皆様を拘束し続けることは無意味であるの判断しました。この後我々がご自宅を拝見し、問題がなければ終了となります」
 キャンベルが笑みをたたえながら、穏やかに後を継いだ。
「マジでぇ? あたしの部屋、洗ってないパンツとかあるけどぉ」
 ヨーコが冗談めかして叫ぶと、周囲が笑いさざめいた。しかし皆が協力的かといえばそうでもなく
「部屋を見るのか? それは強制か? うちには何もないぞ?」
「うちにだって、赤ちゃんのものしか置いてないわよ!」
 マイケルとキャロルは長きにわたる拘留による不信からか、あからさまに顔をこわばらせている。
「『善良な市民』にぜひ、ご協力願いたいと、お願いしているだけだ」
 嵐導は2人に眼を向けることなく、感情のこもらない声色で呟いた。
 気色ばんで黙り込む男と女。再び澱んだ空気の中、赤ん坊の泣き声が煩く響いた。



 <20:15>
 UPCのエンブレムをつけたワゴンは、古びたアパートメントの前で停まった。
「うにゅ〜、お疲れさまでしたの〜、あ、ちょっと待ってなの!」
 我先にと下りようとする5組を、プリセラがやんわりと引き止める。さらに
「この建物には、バグアが潜んでいる、あるいは何かしらの工作がされている可能性があります。安全のため、1組ずつお部屋までお送りさせて下さい」
11歳の少女、雫に淡々と説明されては、我侭な被疑者達も文句は言えなかった。
「では、まず、トムとマリーのご夫妻から‥‥」
 ヴィネが2人分の鞄を両手に抱え、ワゴンのステップを降りる。老夫婦を真ん中に挟み、千佳が続いた。

「トム殿、マリー殿。歩きながら聞いて欲しい」
 ワゴンから十分距離を取ったヴィネは、振り返ることなく2人に呟いた。
「自室に戻られたら、戸締りを施し、窓から離れて、じっとしているように。物音がしても、決して室外に出てはならない」
え? それは? 一体? 
2人は不安を表情に浮かべつつも、少女の真剣さに押され、こくりと頷くしかなかった。

 トムとマリー同様、ヨーコとジョンがそれぞれの部屋に送り届けられた後、傭兵と残り2人は、そろってワゴンを下りた。
「お待たせした。おふた方の番だ」
 呟く嵐導の右瞳が、赤く燃える。それを中心に、皮膚に十字の模様がじわりと浮き上がった。



 <20:20・マイケル>
「お嬢さんをお招きするなら、片付けておけばよかったぜ」
 しぶしぶ、といった調子でマイケルは自室の鍵を開けた。扉が軋んだ音を立てて開く。
「‥‥では、お邪魔致します」
 キャンベルが会釈し、壁のスイッチを探った。ぱちん、という音とともに天井の蛍光灯が光を帯びる。
 そこはごくありふれた1DKに見えた。入ってすぐに簡素なダイニング・キッチンとユニットバスが配置され、奥は大きな窓がついた居室となっている。寝具の乱れたベッド、一人がけのソファ、乱雑なテーブルがあるだけのたたずまいで、床は雑誌やテイクアウト・フーズの残骸で埋め尽くされていた。
「‥‥(うわぁ)」
 少女らしい潔癖さ故か、雫が眉を寄せる。マイケルの後から部屋に入った嵐導は無言のまま、後ろ手で扉の鍵を下ろした。
「野郎はお呼びじゃねーんだけど?」
「俺もあんたの部屋に長居はしたくない。我々の職務への協力は、双方の為になると思うが?」
「チッ」
 被疑者は強い眼で能力者達を睨みつけると、両手を上げた。それはボディチェック及び室内捜査への、同意のゼスチャーだった。

 スナイパーの指が、スーツ姿の被疑者を素早く探る。テーブルの上にライターに煙草の箱、くたびれた財布、それにコンビニエンス・ストアのレシートが放り出された。それでも手は、止まらない。
 襟の裏、ポケットの内側、袖口。しかしめぼしいものを、指先がつかみ出すことは、なかった。。
「これで満足か? 傭兵さん」
「ご協力、感謝する。後は室内を見せていただきたい」
 鼻で笑うマイケルに、律儀に頭を下げる嵐導。顔を上げ際、視線でキャンベルと雫に合図を送った。

 居室の入り口に部屋の主を立たせたまま「ご自宅の拝見」が、はじまった。言葉の通り「拝見」で済まない事は、言うまでもない。
 新聞受けをひっくり返し、カーペットの隙間に手を突っ込み、本棚の本を片っ端から引っ張り出し、棚の裏まで確かめるのはキャンベル。
 雫も同様で、冷蔵庫に顔を突っ込んだかと思うとベッドの下を覗き込み、
「(‥‥バグアも‥‥こういうのには興味あるんだ‥‥。それともカモフラージュ?)」
 引っ張り出したグラビアに不審がないか、確かめている。無表情を装いつつも、頬を紅く染めながら。

「これで俺がバグアじゃなかったら、裁判モンだな?」
「裁判か。‥‥証言と条件を併せみた時、あなたとキャロルがバグアである可能性が高い事実については、どうお考えか?」
 被疑者の男は脇に佇む嵐導の言葉に、ひゅっと喉を鳴らした。キャンベルと雫が、鋭い視線を向ける。
「言いがかりも甚だしい」
「そうか。ならば雑談と行こう。‥‥大事なものは、どこに隠す? ヘソクリ、浮気の証拠、そうだなそれに、ステアーの遠隔発射装置とか」
 嵐導がマイケルの目を覗き込む。スナイパーから逃れるように逸らした目が、ある1点を凝視した。

「枕だ!」
「は、はいっ」
 グラビアをベッド下に押し込んでいた雫が、枕の下に手を突っ込む。少女の指先が、冷たい金属の塊に触れた。
 引きずり出したるは、緑色の液晶に操作パネルのついた見慣れない機械。カチカチと時を刻む音と、何かの残り時間を示すデジタル表示が、明滅している。
 3人の意識が一瞬、機械に逸れた隙。

「傭兵どもを甘く見ていたようだな」

 マイケル、否、マイケルの身体を乗っ取ったバグアは窓に向かい駆けた。床を蹴り、ガラスに向けてその身を翻す!



 <20:20・キャロル>
 そこは、何の変哲もない若い女の部屋だった。質素ながらも掃除も行き届いている。
「どうぞ」
「うにゅ〜 こんばんは〜 それじゃあ、調べさせてもらうの〜」
 キャロルの態度を和らげるべく、プリセラが無邪気な声をAU−KVの中から響かせた。口調こそ緩いが、ヘルメットの中の表情は真剣そのものだ。
「いやだっていっても、引っ掻き回すんでしょ」
 被疑者の女は腕に抱いた毛布の中身を覗き込み、ぷいと横を向いた。

「ではキャロル殿、ボディチェックに協力願えないだろうか。やましいことがないのなら、その証明にもなる故,貴女にとってもプラスだと思うが」
 あくまで柔らかい物腰で、ヴィネが切り出す。
「ママのチェックが終わるまで、赤ちゃんは僕が抱っこしてるにゃ★ お名前は何ていうにゃ? 可愛いにゃね〜」
 千佳もにっこりと笑い、両手を「赤ん坊」に向けて差し出した。
 我が子を褒められて、気分を害する親はいない。思惑にに基づいた行動であったのだが
「この子は人見知りするのよ、手を出さないで頂戴!」
 意外なことにもキャロルは、腕の中身を隠すように、慌てて身体を捻った。
 しかし彼女にとって、時既に遅く。

「こら、やめろ、それは餌ではッ‥‥!」

 毛布を跳ね除け、「何か」がキャロルの腕から千佳に向かって飛びかかる。
 肌色の頭部に茶色の髪の毛らしきものを生やしていたが、
「にゅ!?」
 明らかに、キメラだった!
「千佳!」
 降って湧いた仲間の危機に、ヴィネが覚醒した。額に歯車の紋を浮かせ、超機械「牡丹灯篭」を繰る。

「うにゅ〜〜っ! お部屋に赤ちゃんのものがないから怪しいと思ったらあっ!」
電磁波でよろめくバグアとキメラに、急ぎ向き直るドラグーン。AU−KVの脚部に、青白いスパークが走る。

「小娘どもが! こいつの餌にしてくれるわ!」


 <20:35・マイケル>
 バグアの逃走は、叶わなかった。
 一瞬早く、嵐導の「先手必勝」「鋭角狙撃」が発動したのだ。
 強化された「スコーピオン」から射出された弾は「マイケル」の両足を撃ち抜き、ついでに窓ガラスをも、粉々に砕く。
「‥‥っ!」
 床に転がり、苦悩に顔を歪めつつ、腰の武器に手を伸ばすバグア。しかし雫の「ライスナー」が、抜くことを許さない。
「今頃、向こうでも始まっているでしょう。観念して下さい」
 年齢に似合わない大人びた口調での最後通告とと「流し切り」を発動する。
 イアリスが、唸った!
「糞が!」
 急所への直撃をかろうじて避けたバグアが、渾身の力を込めて雫に体当たりした。彼の目的はもはや敵の抹殺でも己の保身でもなく
「きゃあ!」
 彼女が先ほど見つけ出した、遠隔発射装置の奪取に他ならなかった。ポケットから滑り落ちた機械を血塗れの右手で拾い上げ
「ステアーは、渡さん‥‥約束の時間には些か早いが、打ち上げるとしよう!」
 勝ち誇った笑いを浮かべた。刹那

「お眠りなさい。‥‥永遠に!」

 キャンベルの「菖蒲」に斬られたバグアは、最期まで笑みを浮かべていた。
 彼はおそらく、知らずに逝った。掌の中の機械が、己の絶命と同時に「スコーピオン」に撃ち抜かれたことを。


 <20:37・キャロル>
 キメラを振り払った千佳が、マジシャンズロッドを構えた。
「人に化けても僕達は騙されないのにゃ! 正義の味方、マジカル♪ チカが退治してあげるのにゃ!」
 床でうずくまる異形をレザーブーツの踵で踏みつけ、ロッドを振り下ろし、殴りつける。
「フギャアアア!」
 人間の赤子に似た鳴き声を上げるそれに、表情が一瞬、歪んだが
「見た目が見た目なだけに、赤ちゃんは攻撃しづらいけど‥‥バグアだとわかれば!」
 歴戦の傭兵が、惑わされることはなかった。ともに戦う2人や建物に、攻撃の手を出させることを、許すつもりはないようだ。

 キャロルに寄生したバグアと対峙するのは、ヴィネとプリセラ。ドラグーンのローキックが、電磁波でよろめく「女」の足下を掬う。
「ギャッ!」
 呻く背中を踏んだAU−KVの頭部と腕に散る、青白いスパーク。銃を模した超機械「ブラックホール」が、至近距離に狙いを定めた。
「此れで避けれるものなら避けてみるの〜!!」
 トリガーを引くより一瞬早く、ヴィネの「練成強化」が発動。
 強化されたエネルギー弾が、恐怖に歪むバグアの眼前で炸裂する!

「マジカル♪ ロッド、アタックにゃー!!」
 瀕死のバグアに、キメラを屠り駆けつけたロッドを避ける力は、残されていなかった。


「あった! 遠隔発射装置だ!」
 「キャロル」の胸元から、リモコン型の機械を引っ張り出したヴィネが小さく叫ぶ。
「うにゅぅっ! こ、のぉっ!」
 床にたたきつけたそれに向けられる「ブラックホール」のエネルギー弾。
 時を刻む音と、デジタル表示のカウントダウンが、停まった。
 
 

 <20:48>
 バグア2体、キメラ1体の死亡及び、遠隔発射装置の破壊を確認。
 これを以って、任務完了(※1)とする。
 
 (※1)ステアー回収は、ミッション範囲外により、UPCが執行。