タイトル:双六遊戯マスター:久米成幸

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/21 22:47

●オープニング本文


 日々キメラ討伐に追われる能力者の慰安を兼ねて、ULTが遊戯会を催した。
 能力者は賽子を振り、安全地帯である広場に設置した枡を、出た目の数だけ進んで、ゴールを目指す。
 息抜きに最適とあって、応募者は日毎に数を増していった。

 しかし、巨大な双六盤を使用するため、膨大な数を参加させるわけにはいかなくなってしまった。
 自身の思惑が完全に裏目に出た担当者は、苦肉の策として、抽選によって八人の挑戦者を厳選する旨を発表した。
 そして、無事に挑戦権を獲得した能力者が、能力者を含む膨大な数の観客に見守られながら、晴れ渡った青空の下に集結したのだった。


 観客の興奮が、空き地を包み込む。
 怒声や野次に顔を染めた参加者は、滔々とルールを説明する実況に、興奮と不安の篭った視線を投げかけた。
「まず各能力者に100ポイントが入ります。枡には、移動、罠、補助の三種類があり、罠でポイントが0になると脱落となります。稀に補助で回復することもありますが、期待しないほうがよいでしょう」
 実況が視線を落とし、新たに渡された紙を見て何度か頷いた。
「賽子の準備が整ったようです。巨大な賽子が、今、能力者に渡されました。果たして、一番にゴールするのは誰なのか。双六大会、開始です!」

●参加者一覧

鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
アシュラ(ga5522
14歳・♀・GP
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
シーク・パロット(ga6306
22歳・♂・FT
飛田 久美(ga9679
17歳・♀・GP
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
陽ノ森龍(gb0131
20歳・♂・DF

●リプレイ本文

●触手でセクハラ
 飛田 久美(ga9679)の止まった枡から、唐突に触手が顔を現した。
「え? なになに! なんなのこれ」
 触手は十指を艶かしく動かしながら、身悶えする飛田の太ももに手を伸ばす。
「おい! 誰かあいつらを止めろ!」
 実況の叫びに答えるように、観客の暴動を抑止していた能力者が盤まで駆け寄った。
 指は能力者の動きが見えているように、一瞬で盤に引っ込んだ。
「まったく。こんな罠を考えたのは、イベント担当者のオメメ・パッチリーですよ。私は関係ありませんからね!」
 二番手のアシュラ(ga5522)は止まった移動枡『KVタクシー現る』の効果でさらに3進み、一回休みの枡に止まった。
「あう‥‥」
 しょげるアシュラを励ますように、実況が両手を叩いた。
「んー。残念。アシュラ選手はどうも不運ですね。次に期待しましょう」

●水着でセクハラ
「飛田選手はついていませんね‥‥」
 飛田の止まった枡には、ランダムで他の参加者と位置を交換する罠が仕掛けられていた。
 賽子の結果、陽ノ森龍(gb0131)が白い歯を輝かせながら飛田とすれ違う。
「どんまいどんまい。ここから巻き返すよ!」
 続くUNKNOWN(ga4276)も飛田と同じ枡に進み、最上 憐 (gb0002)と場所を交換した。
「‥‥ん。ありがと」
 頭を下げる最上に、「――これも運命、というものだ」UNKNOWNが呟いた。
 ただの強がりではない証に、暢気に煙草をふかしている。
「絶好調の陽ノ森が『伝説のカレー』の効果で6枡進みましたが、右折した先でポイントが20減少っ」
「ッッくしょーーーッ!!」と叫ぶ陽ノ森を一瞥し、最上が賽子を振る。
 止まった枠の効果は、強制的に水着に着替えなければならない効果があった。
「ああ、またパッチリーか」
 実況はパッチリーを責めながらも、目を爛々と輝かせた。
 会場を「お着替えコール」が埋め尽くした。

●水着は幸運の証
「飛田選手は一回休みです。続いてアシュラ選手は、ああ、これも駄目だ」
 先ほど飛田とUNKNOWNが止まった枡の効果で、アシュラとカルマ・シュタット(ga6302)の位置が入れ替わる。結局アシュラは、賽子を振る前の枡に戻ってしまった。
 アシュラのミスで勢いを得たカルマは、意気揚々と分岐路を左に曲がり、ポイントが20減少した。
 次の鳴神 伊織(ga0421)は、カルマと同じ4を出し、連続で一回休みの枡に足を取られた。
 と、ここで実況が声を張り上げた。先ほど水着に着替えた最上が、なんとトップと位置を交換する効果のある枡に止まったのだ。
「‥‥ん。一気にリードする」
 小さくガッツポーズをする最上の艶やかな水着姿に見蕩れて、実況はしばしの間、声を忘れた。

●鳴神にゃんこ
 アシュラは連続して休みの枠に止まり、休み明けの飛田は3を出すも移動枡の効果で3戻り、再び一回休みとなった。
 鳴神は三度も罠を回避できる効果を得たが、肝心の賽子が揮わず、トップと大きな差がついてしまった。
 絶好調だった最上も、飛田を襲った無数の腕にセクハラを受けている。
 カルマは順調に進んでいたが、ワープ枡に止まり、大幅に順位を下げた。
「おっと。ここで鳴神選手が罠を踏んだぞ! 効果は‥‥」
 枡に書かれた効果を読み、鳴神が微笑を浮かべた。
「ああっ。罠を踏んでしまったにゃ!」
「猫だ! 語尾が猫になる枡だあああ! いや、待ってください。確か鳴神選手は罠を回避できる効果を‥‥!」
 多数の視線を受けた鳴神は、微笑を留めたまま、小首を傾げた。
「冗談ですよ。冗談」
「じょ、冗談だああああ! 可愛いいいいい! 結婚! 結婚してくれええええ!」
 連れ出された実況に代わり、解説者が非礼を詫びていたが、UNKNOWNの移動した枡を見て感嘆した。
「これはラッキー。トップと位置を交換できます。とはいえ、まさかこのままゴールをするはずはないが‥‥」
 解説の心配を他所に、UNKNOWNは、ポイント大きく減少させながらも罠回避を得るなど、着実にゴールに近づいていった。

●見えてませんから!
 罠の増える中盤までくると、先に進むのは容易ではない。
「陽ノ森選手は止まった枠の効果で2戻りますが、そこは地獄のワープ枡、無限回廊です。賽子の結果で鳴神選手は陽ノ森選手とポイントを交換しなければなりませんが、罠回避で避けました」
 先ほど陽ノ森と同じワープ枡を踏んで戻されたカルマは、なんと2を出してバニー枡に止まった。
「ばっ!? なんじゃ! こりゃー!」
 身悶えるカルマに、「男のバニーなんて見たかねえよ!」と野次が飛んだ。
 一緒になって暴言を吐く実況を押さえつけながら、解説が解説らしい配慮を見せた。
「観客からの野次を受けながら、カルマ選手が15秒という短い時間での着替えに挑戦します。ああっ。み、見えてません! 見せてませんから!」
「背中に変な神様でもついてるんじゃないのか、俺」
 カルマの嘆きは、誰にも聞こえなかった。
 鳴神は罠回避を消費しつつも、順調に順位を伸ばしていた。
 最上も減ったHPを着実に回復し、トップ争いに備えている。
「シーク・パロット(ga6306)選手は、『依頼成功でレベルアップ』に止まりました。次回の出目が6になります」
「ありがたいのです」シークが満足げに笑った。

●二代目バニー
「ああ、神様。か弱き乙女を見捨てないで‥‥」
 飛田の悲痛な叫びに、実況が声を被せた。
「ポイントを20引かれて、残りは60です」
「アシュラ選手は、ここら辺で大きな目を出しておきたいが‥‥。ん。先ほど飛田選手の止まった『UFOに追いかけられる』枡に止まりました」
 アシュラは見事に1を出して先に進んだが、次の枡で踊らされた挙句にポイントが20減少した。
 しかし、陽ノ森の方が運がないようだ。無限回廊と呼ばれるワープ枡とその枡を囲む移動枡に何度も引っかかった挙句、なんと二人目のバニーボーイが登場した。
「冗談じゃねえ!」と叫ぶ陽ノ森の声に、実況の悲痛な叫びが重なった。「男は踏むんじゃねえよおおお」
「俺だって踏みたくねえっての!」

●蘇る実況
「ええー! 嘘でしょ?」
 唐突に甲高い声が会場の熱気を切り裂いた。
 男のバニー姿を見て落胆を隠せない実況は、面倒くさそうな顔で飛田に視線を合わせ、瞬く間に涎を飲み込んだ。
「お前ら! 朗報だ! 水着だ! 刮目しろ! みずぎどうわあああああ!」
「あうぅ。そんなに一斉に見ないでよぉ‥‥」
 戸惑う飛田を急かすように、実況が「なんというセクシー双六! 暴動一歩手前の観客が大人しくお着替えを鑑賞中だ!」と叫びながら服を脱ぎ去り、再び会場の外に連れ出された。

●はじめてのチュウ
 上手く罠を回避しながら進む鳴神に比べて、最上はいまいち調子が上がらないようだ。
「‥‥ん。また罠だ。何が出るかな」
 観客席に潜り込んだ実況が声を張り上げる。
「水着の最上選手も無限回廊に嵌ってしまったようだ。移動枡の効果で2戻り、そこから陽ノ森とカルマの後を追うようにワープで大きく戻される!」
「に゛ゃぁぁぁぁっ!?」
「んん? この叫びは、シーク選手か?」
 分岐路でシークの選んだ左側は、まるで大蛇が緩慢な動作で移動している姿を写し取ったように、上下左右になだらかな曲線を描いていた。
「見所のひとつ、蛇腹コースですね。ここを抜けるのは容易ではありませんよ」
 解説の言葉を証明するように、シークがとんでもない枡に止まってしまった。
「シーク選手はここで次の順番の者、つまりは飛田選手にキスをしなければなりません!」
「飛田さん一人でゾディアックを壊滅できるのです」と語ったシークの前歯が全損していたという噂が流れたのは、大会が終了して一週間ほど後のことだった。

●筋肉星人現る
「さあ、独走を続けるUNKNOWN選手が、とうとうゴールに到達したぞ! 最後の強敵、パッチリー扮するピエロの登場だ!」
 パッチリーが某ピエロを想起させる格好でゴール前に立ち塞がった。
「って、おいおい。ゴールを踏むと強制的に水着になるってなんだよ! 水着双六じゃねえか」
 実況が愚痴を吐き続ける中で、UNKNOWNは手早く着替えを済ませた。
「私は肉体に自信があるのだよ」
「変態だ! ダンディなのに変態だ! 変態対変態の最終バトルが勃発したああああ」
 ゴールを踏むには、巨大な賽子を二つ同時に振り、合計で8以上の目を出さなければならない。
 8以下の場合には、ポイントが50も減る上に、A地点まで戻されてしまう。
「見事に均整の取れた筋肉を震わせながら投げた賽子は、1と4で合計が5っ。筋肉ナイスガイはパッチリーを倒せず! って、おま、筋肉を見せつけてるんじゃねーよ! 早く戻れ!」

●無限回廊
 シークの後を追うように飛田の飛び込んだ蛇腹コースは、想像以上の過酷さを秘めていた。
 順調に進んでいるかに見えたが、ワープで大幅に戻され、追加でポイントが30減少して残りは30になった。
 しかし、蛇腹コース以上に辛い地点が、無限回廊と名づけられたワープ枡だ。
 ワープ枡の周囲には移動枡が配置され、どの枡を踏んでもワープ枡に止まるようになっている。
「おおっと。陽ノ森、最上の両選手が、またワープ枡を踏んでしまったぞ。もう何度目だ?」
 実況でさえ正確に思い出せないほどに、二人はワープを繰り返していた。

●三つ巴
 蛇腹コースを抜けたシークは、無間地獄も容易に抜けて、快進撃を続けていた。
「天国にいる父さん、母さん。息子に力を与えたまえっと!」
 死去した父と母に祈りながらカルマが賽子を振れば、シークは「にゃあにゃあ」いいつつ後を追う。
 順調に進む二人を追うのは鳴神だ。無限回廊のワープ枡を罠回避で乗り越えながら、首位争いに参加する。
 しかし、幸運なのは三人のみではなかった。なんと飛田がここ一番で強運を発揮する。
「飛田選手がトップと位置を交換します! カルマ選手が肩を落として戻っていきます」
「やっぱり変な神様がついてるよ!」
 カルマの泣き言を聞きながら、飛田が強運を頼りに賽子を投げる。
 彼女の一位は疑いようのないものに思われた。が、強運は最後まで続かなかった。
「そっちは駄目だ! ああっ。止まった枡の効果でポイント減少。飛田選手、惜しくもここで脱落」
 飛田は身軽な動作で盤から飛び降りると、「日ごろの行いをもっとよくしないとダメなのかなぁ」と頭を掻いた。

●分岐点
「さあ、分岐路にたどり着いたぞ。鳴神選手は左だが、シーク選手は右を選んだ」
 鳴神が止まった枡から、無数の手が飛び出す。
「あいつら、俺の嫁になにしやがる!」
 憤慨する実況を他所に、鳴神は大した抵抗を見せなかった。伸びた腕もどこかぎこちなく空を掻き、すぐに引っ込んだ。
「空気の読める手だな。しかし、これでポイントは残り30だぜ。ん!」
「どうやら、ここまでの様ですね‥‥。少し残念です」
 実況の悲痛な叫びを背中に受け、鳴神がゆっくりと盤を降りた。
「くそっ。次の枡でポイントが50減少か。流石の嫁でもごめんなさいしつこいですよねすみません。鳴神選手、ここで脱落です!」
 シークの快進撃は留まるところを知らなかった。
「ここでカレー型キメラの登場だ! 人参が宙を舞うぞ! シーク選手のポイントが20減少。残り50で、ゴールに到着だ。さあ、水着に着替えて‥‥、おし、いけっ」
 ハート型の禿をひと撫でして、シークが巨大賽子を振った。
「お、おおっ。あっさりと、ご、ご、ごおうるううううっ。ゴール。ゴール。一位はシーク選手だ!」
 ファンファーレが鳴り響き、喉が張り裂けるほどに実況が叫び、会場は割れんばかりの拍手に包み込まれた。
 後日、病院のベッドの上で、シークはこう語った。
「良く訓練された猫に不可能は無いのです。いや、人間ですが」
 あまり受けなかったという。

●特別ルール
「一位が決まったことにより、ここから特別ルールが適用されます」
 特別ルールは、ワープ枡がゴールになるという至極単純な内容だった。
「無限回廊がゴールになりますから、カルマ、最上、UNKNOWNの三選手が有利になりますね。なにせ引き寄せられるように無限回廊のワープ枡に止まっていましたから」

●二位
「さあ、UNKNOWN選手が賽子を振りました。これは3ですか」
「はい。3進んだ先には移動枡でさらに3。本当に吸い寄せられるように無限回廊にかかりましたね」
「ですが、無限回廊は今や地獄ではありません。さあ、パッチリーが登場したぞ」
「先ほどはポイントに余裕がありましたが、今回は負けた瞬間に脱落となります」などと解説は述べたが、UNKNOWNの胸中は平静だった。
 それどころか、自身の肉体美を存分に見せつけるように胸を張り、煙草をふかしている。
「運命の分かれ道。出目は、6と3で9! 見事に撃退し、ゴールとなります」
「ふふ‥‥。こんなものか」

●三位決定戦
 カルマが賽子を振ったが、6ではゴールにたどり着かない。
「4を出して移動枡を使えばゴールできましたね。残念です」
 続いて、無限回廊に延々と嵌り続けた最上が賽子を持ち上げる。
「惜しい。5では駄目なんです」
「しかし、次は1、4、6でクリアですから、カルマ選手よりも確率が高そうですね」
 最後の最上が振り終わり、次は一回休みの枡に止まっていたアシュラと陽ノ森の番が回ってきた。
「無限回廊を抜けた途端に特別ルールが適用されたアシュラ選手の心境は穏やかではないでしょうね」
 アシュラの目は4で、分岐点に止まった。どちらに進むかで明暗が分かれそうだ。
 陽ノ森は、アシュラを通り過ぎて右を選んだ。解説は満足げに頷いている。
 次のカルマは、残念ながら5だった。1か3が出ていればゴールに到達していたとあって、カルマの悔しがりようは尋常ではない。
 最後の最上は3で、ゴールには1足りなかった。
「さあ、いよいよ二十順目に入りました。アシュラ選手が賽子を取り上げます」
「アシュラだって‥‥負けないからね‥‥」
 渾身のひと振りで出目が6となり、分岐路を的確な判断で右折する。見事にゴールへと到達した。
「うふふ‥‥。アシュラの‥‥勝ち‥‥だよ‥‥」

●寂寞
 双六大会は、静かに幕を下ろした。
 セクハラにコスプレと、様々なことがあったが、ひと時の気休め程度にはなっただろうか。
 企画を立案したパッチリーは、妙な感慨に囚われながら、人気のなくなった広場を見渡した。
「あんなところにゴミが落ちているじゃないか」
 パッチリーはゴミを手に取り、笑みを浮かべた。
「私のつけていた鼻か」
 パッチリーは、誰も見ていないことを確認し、ゆっくりと拾った鼻を装着した。

●最終順位
一位:シーク・パロット
二位:UNKNOWN
三位:アシュラ
以下:鳴神 伊織、飛田 久美、カルマ・シュタット、最上 憐、陽ノ森龍