●リプレイ本文
「建物は二階建て、地下や屋根裏部屋の様な部屋も無し、か」
UNKNOWN(
ga4276)が、手書きの簡易な地図を見つつ確認する。
「玄関から入ると廊下になっていて、両脇と曲がった先に部屋がいくつか。階段は廊下の曲がり角にありますね」
アーシュ・オブライエン(
gb5460)が付け加えた。能力者達は、現在廃墟の見取りを確認している最中である。
「こちらが二階の分よ。構造は一階とほぼ同じね」
巳乃木 沙耶(
gb6323)が、手元から地図を広げる。地図には、多少の違いはあれど一階の物とほぼ同じ図が描かれていた。
能力者達は、沙耶の描いた地図を基に、それぞれの捜索範囲を決めていく。
「子供達は、おもちゃを持っていってたかもしれないってさ」
捜索範囲の話がまとまったのを見計らい、七市 一信(
gb5015)が話を切り替える。彼は、行方不明者の服装や持ち物についても調べており、それらを皆に知らせる。
「ああ、それと。建物の破損許可は下りておりますわ」
一信が話し終えた所で、続けざまにソフィリア・エクセル(
gb4220)が口を開く。所有者との連絡は取れなかったが、事態が事態なので自治体で対処するとのこと、だそうだ。
そうして各々の情報を報告しあい、事前に行っておいた事を確認する。その後に、能力者達は廃墟の中へと足を踏み入れた。
玄関から入ってすぐの部屋を、沙耶とユーミル・クロガネ(
gb7443)が見て回る。
「何か手掛かりになる様な事はないかの‥‥」
ユーミルが部屋の中の物をひっくり返しつつ手掛かりを探すが、見付かるのは子供達が持ち込んだと思しき物ばかりで、今回の事件の手掛かりは見当たらない。
「こちらにも何もありませんね。次へ行きましょう」
沙耶が柱にマークを入れ、二人は部屋を出る。腐った廊下の軋む音が響いた。
一信の持つ灯篭が、奥に位置する部屋の扉を照らしだす。昼間であるにも関わらず、部屋に囲まれた構造となっている廊下の突き当たりは薄暗かった。一信は、ドアノブに手を掛け扉を開く。
部屋の中は閑散としており、人が入り込んでいた形跡が多少見てとれる程度であった。ソフィリアが、慎重に中に入る。細身の彼女でも、歩くだけで床がギシギシと音を立てる。
「随分と痛んでますわね‥‥踏み抜かないように注意してくださいませ〜」
「いやー、注意しても無理じゃないかなー」
ソフィリアが注意を促すが、AU−KVを身に纏った一信はかなり床を踏み抜きやすい状況だ。一信としては、むしろ踏み抜くのを覚悟している。
「にょほほ、パンダさんがたーすけにきたよー、隠れてるなら返事ーしなー」
一信が呼びかけてみるが、返事はない。ソフィリアがもっと奥を調べてみようと歩みを進めた時、一信が気付いた。
「上だ!」
一信の声で、ソフィリアが咄嗟に飛び退く。数瞬前までソフィリアが居た場所に、ゲル状のものが降ってきた。
「スライムですわ!」
これが事件の元凶と察した二人は即座に武器を構え、スライムへの攻撃を始めた。
「ここにも何もなし、か」
UNKNOWNが、今しがた調べた部屋の扉にバツ印を付ける。新条 拓那(
ga1294)は、それを確認すると次の部屋の扉を開けた。
物陰や天井にも気を付けつつ、拓那が部屋の中を覗き込む。ざっと見た限りでは、この部屋には何もなさそうだ。それでも、拓那は部屋の中を直接探るべく足を踏み入れる。
「とにかくまだ手遅れだと決まったわけじゃないし。やれる限りのことはやっておきたいよ」
埃を被った家具の陰なども探してみるが、特に何も見当たらない。この部屋も外れかと思った頃に、笛の音が鳴り響いた。この音は、何かを発見したという合図。
「近い、な。すぐに行こう」
「ああ!」
二人は、即座に駆けだした。
冴木美雲(
gb5758)が、懐中電灯を片手に廊下を進む。アーシュがその後に続く形だ。
「気をつけてください。そこの床板が腐ってますか‥‥」
美雲がそこまで言った所で、ゴンッという音がして、美雲が軽くよろめいた。足元に気を取られすぎて、飛び出ていた部分に気付かなかったようだ。
「‥‥大丈夫ですか?」
「あ、はい」
アーシュの言葉に、美雲が大丈夫ですと返す。軽くぶつけただけなので、特に支障はないようだ。
そうこうしている内に、次の部屋の扉が目の前にまで来ていた。
「何が潜んでるか分かりません。気を引き締めてまいりましょう!」
美雲がそう言いつつ、ドアノブを握る手に力を込める。軋む音が鳴り響き、扉が開け放たれた。
この部屋も、他の部屋同様静まりかえっている。ただ、他の部屋と違うのは、つい最近、人が入った形跡があるという事。
「これは‥‥」
アーシュが警戒を強める。子供達がこの部屋に来ていたならば、元凶はまだここに留まっている可能性がある。美雲も同様に警戒を強めた。
二人の視界の隅に蠢く何かが映る。そこに居たのは、二体のスライム。
「これが‥‥!」
スライムと認識するや否や、美雲が刀より衝撃波を放つ。同時にアーシュも笛を吹き、それを開始の合図とするかのようにスライムもまた動きだした。
ソフィリアへと襲いかかるスライムとの間に一信が割り込み、盾となって攻撃を受け止める。流石に無傷という訳にはいかないが、それでも一信はお返しでスライムへと電磁波を浴びせる。更に、ソフィリアが素早く横へと回り込み渾身の一撃を撃ち込む。
「少々機嫌が悪いので一気に決めさせてもらいますわっ! 流麗演舞っ!」
ソフィリアの剣がスライムへと食い込むが、スライムは依然として蠢く。
「タフだねー」
超機械を撃ちつつも、一信がこぼす。やはり、どの程度効いているのかが分からないのは少々厳しいものがある。二人は長期戦を覚悟した。
その時、部屋に二つの影が躍り出た。影の内の片方は銃弾を放ち、もう片方はスライムへと突撃していく。
「女は黙って拳っ!!」
影の片方、スライムへと突撃したのはユーミルだ。勢いもそのままに、スライムへと剛拳を叩き込む。スライムが怯んだような動きを見せる。
「応援に来ました。‥‥これに効くのかしら」
銃弾を放った方の影、沙耶がソフィリアと一信に声を掛けつつ更に銃弾を放つ。効果の程はやはり分かりにくいが、効いていないという事はない筈だ。
「ありがたいねー」
「終わらせますわよっ!」
人数が増えた事で、一信とソフィリアも勢いづく。四人は、次々とスライムへと攻撃を叩き込んでいった。
そして、ソフィリアとユーミルの同時攻撃が決まった瞬間、スライムの動きが止まり、ぐずぐずと崩れ落ち出した。ようやく、仕留めたようだ。
「何じゃ、呆気無いの」
とユーミルが言い放つが、四人の中で最もダメージを受けているのはユーミルだったりする。攻撃に専念していたのだから当然と言えば当然なのだが。
そして、ユーミルの足元にはぽっかりと穴が開いている。戦闘の衝撃でぶち抜いてしまったようだ。
「スマン、床までぶち抜いてしまったようじゃ‥‥」
「構いませんわよ、もうスライムは倒しましたもの」
ユーミルが少々気まずそうに謝るが、ソフィリアが問題ないと返す。ともあれ、この部屋のスライムは無事に退治出来たので、四人は別の部屋の捜索へと向かうことにした。
「許さない‥‥子供達の仇、討たせてもらいます!」
美雲が、刀からの衝撃波を立て続けに放つ。それらは全てスライムへと命中するが、スライムはまだまだ平然と動きまわっている。
二階のスライムには、体内に子供達のおもちゃと思しき残骸が残っているのが見て取れる。子供達を襲ったのはこの二体と考えて間違いない。
「‥‥残念ですが、この様子では被害者の方はもう‥‥」
アーシュは攻撃の手を休めないようにしつつも、周囲の様子を窺う。二体のスライムと自分達以外に動くものは見受けられない。生存の可能性は絶望的だ。
「なら、せめて‥‥」
アーシュが突きの速度を速める。更に鋭くなった刺突にスライムが身をよじるような動きを見せるが、すぐさま反撃としてアーシュに食らいつこうとする。
スピードを上げ、美雲の援護もあるので今はまだ捉えられてはいないが、二体を相手にするとなると流石に無理がある。あまり長くは‥‥と考えたその瞬間に、美雲が何かに気付き、スライムへと銃弾が撃ち込まれた。
「待たせた、な」
後方で、UNKNOWNが銃を構えている。彼は素早くもう一方の銃を構え直し、間髪入れずにスライムを撃ち抜いていく。
更に、拓那の電磁波の攻撃も加わり、スライムの動きが鈍る。その隙に、アーシュは少々距離を離し、体勢を整える。
「くっそぅ‥‥! せめて仇はとるからな! おらぁ! この下種のキメラ野郎がぁ!」
スライムの内部を見て察した拓那の怒りが弾けるように、電磁波が二度、三度と生じる。美雲の衝撃波とUNKNOWNの銃撃も加わり、連続してスライムを襲った。
好機と見たアーシュが、再度スライムへと接近する。
「今ですね」
連続した遠距離攻撃で、スライムは上手く動けていない。アーシュは側面に当たる位置に素早く回り込み、スライムを突き貫いた。限界を迎えたか、一体の動きが止まる。
「後一体ですよ!」
「――チェックメイト」
撃破を確信した美雲とUNKNOWNが声を上げ、能力者達の攻撃が残る一体へと集中する。程なくして、残る一体も排除され、屋敷内に静寂が取り戻された。
その後、能力者達は廃墟の残りの部分の捜索を行ったが、発見出来たのは僅かばかりの遺品のみ。生存者の姿は、なかった。
「俺らにはもう見知ったキメラでも、やっぱり普通の人には脅威なんだよね‥‥。こういうことを二度と起こさないためにも、もっと頑張らないと‥‥!」
遺品を届けた後の遺族の様子を見て、拓那が決意を新たにする。
ソフィリアは遺族へ説教しようとしていたが、それは制された。遺族となった親も、今までにも何度も廃墟の事については怒ってきていた。だが、それでも、素直に言う事を聞く子供達ばかりではないということだ。
葬式を行うには準備が必要となる為、能力者達がラスト・ホープへと戻る前に執り行うのは難しいという。それなら仕方ないと、UNKNOWNは弔いの言葉を述べるのみとした。
「キメラ‥‥か。やりきれんね、まったく」
少し離れた場所で、一信が煙草の煙を吐いた。細い煙が立ち昇り、消えていく。これ以上の被害が出るのを喰い止められたのが救いか、と。そう思うことにした。