タイトル:傭兵ナイン 〜剛肩編〜マスター:玄梠

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 12 人
サポート人数: 8 人
リプレイ完成日時:
2009/06/17 21:45

●オープニング本文


 昔、一つの野球部があった。
 特に名門でもなく、伝統的に予選の第一、第二試合で負けては試合地の商店街をうろうろしているような、そんなチームだった。
 しかしある年、そういうチームであっても十数年、数十年に一度はやってくる奇跡的な選手の巡り合わせが、夢と思われていた甲子園‥‥正しく夢の舞台をその手に掴む可能性を得たのである。
 いや、偶然にも有力選手が揃った訳ではない。互いに励まし、奮起し、同じ夢を見た男だからこその力。
 彼等は確かに彼等の努力で、あの舞台を前にしていたのだ。
 それが、1999年の事でさえ無ければ‥‥‥‥














 という話は特に関係ない今回の依頼。
「藤井寺・悟、27歳。高校時代は強肩で有名なセンターだったが、バグア襲撃の際、避難中に受けた傷が原因で現役を断念‥‥ラストホープ移住後はスポーツ選手のマネージメント・プロデュースを行う事務所を単身設立。とまぁ、こんな所か」
 静香の若干投げた解説が、毎度毎度真面目な依頼の中では浮きがちな『野球依頼』として映し出される。
「以前捕まえた男の証言と、今回送られてきたこの‥‥『果たし状』に残されていた指紋等痕跡から考えて、まず間違いない。前回から傭兵野球チームのスポンサーとなっているMSIの方にも問い合わせたが、今回のこの一件‥‥『傭兵対一般人』の野球対決、受けるそうだ」
 事の発端は、本人達の口から聞くしか分からないが、とにかく野球をして欲しいらしい。
 序盤矢鱈と挑発口調なのに、徐々に低姿勢になっていく文面から察しても、試合はしたいと。
「普段の依頼と同じく、事前調査は済ませておいた。‥‥今回の目標は、敵対象、藤井寺グリーンタイタンズに勝利する事だ。一般人のみの野球チームとは言え、君らが戦闘のプロなら、彼等は野球のプロ。フィジカルな数値が同じであっても、それ以上に動いてくると見て間違いない。これまでとは勝手が違うぞ。気を付けろ」
 と、完全に戦闘口調を取り戻した静香。
 敵チームは、藤井寺悟を監督としてベンチ入り27名。その何れも、監督自ら引き抜いてきた精鋭と言う。
「尚、試合はナイターを予定し、その様子は一部地域を除いて‥‥まぁ、狭い範囲でしっかり中継されるようだ。客も入れる。此の辺りも今までとは勝手が違うが、固まるなよ。以上だ」


●参加者一覧

エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
アヤカ(ga4624
17歳・♀・BM
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
秋月 祐介(ga6378
29歳・♂・ER
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA
レティ・クリムゾン(ga8679
21歳・♀・GD
テミス(ga9179
15歳・♀・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
楓姫(gb0349
16歳・♀・AA
米本 剛(gb0843
29歳・♂・GD
鴇神 純一(gb0849
28歳・♂・EP

●リプレイ本文

○本日はMSI市営野球場からお送りしております

 このラストホープでは久々の大入りとなっております本日の試合。
 ラストホープ・オーシャンサンズ対、藤井寺グリーンタイタンズの対戦。
 今回はLOS側がホーム、という事のようですが‥‥いや解説の渡辺さん、これはどうみても緑一色ですね。
「藤井寺側は元々ぉー、芸能活動を行っている選手も多いと言いますから。LOSは構成メンバーに幾らか知名度はあるとしても、まだチームとしては無名ですし、対戦カードより選手目当てのお客さんが多いんじゃぁないでしょうか」
 成る程。対するLOSは、何と傭兵達から集められたチームということで。試合の度に選手層が変わる所などはまさしく傭兵と。
 さて、本日18時プレイボールの前に、この傭兵チーム、ラストホープ・オーシャンサンズのメンバーについて少し触れていきましょう。中継の友利さん?
『はい、友利です。此方今ラストホープ・オーシャンサンズ側のベンチ前まで来ていますが、一寸御覧頂けますでしょうか。はい、そうなんです、女性選手が多いんですね。LOS側は登録選手が12名ですので、その内の6名、実に半数が女性選手となっております。中でもピッチャーのレティ・クリムゾン(ga8679)選手、ショートのアヤカ(ga4624)選手はそれぞれの得意分野ではプロ級、あるいはそれ以上ではないかという評判です』
 女性の細腕で、グリーンタイタンズの重打線を相手にどこまで投げきれるかが問題になっているようですが?
『余り心配はないように思いますね。試合前の練習もかなり実戦を想定したもので、継投もしっかり組まれているようなので、後はタイタンズ側がどれだけ早く珍しい対戦相手に慣れるかでしょうか』
 慣れの面では、こういった試合が初めてのオーシャンサンズの選手達はかなり緊張していると思いますが。
『比較的リラックスした様子ですが、意識はしていると思います。ただ普段の活動の他にもこういった人前に出る事のある選手も居るようなので、そういった選手が良い影響を与えてくれると思います』
 それから、あのー‥‥今ちらっと見えた兎とチアは、LOSのマスコット‥‥?
『あぁー、はい。ロスちゃんと言うマスコットのようで‥‥』
 今何か、メガホンで抗戦しているように見えますが。
『そうですね。メガホンです』
 何か「本家ぇー!」「元祖ー!」という声も聞こえるようですが。
『球体関節ばりに動けるマスコットという事で、一寸した話題になっているようです』
 はい、もういいです。ありがとうございます。それでは気を取り直し‥‥CMを挟んで18時プレイボールです。





○豪腕戦

 1回の表、グリーンタイタンズの攻撃。
 守備に上がる選手達、特にマウンドに上がるレティには、緑色の観客席から大量の視線が向けられる。
 一番バッターに送られる大きな声援。そしてオーシャンサンズ側‥‥という程の側でもないが、ちらほらと見える応援の数。
 思ったよりも少ない数だからと、オーシャンサンズの応援に来た傭兵のチケット分は球場管理のMSIが建て替えていた。
(情報のない選手‥‥)
 ロージンバッグに手を付けながら、秋月 祐介(ga6378)の纏めてきたデータを頭に映し出すレティ。
 初回打順は一、二番までデータ無し。四番はプロが入ってくる為、この立ち上がりが肝心になってくる。
 マスクを被るヨネモトタケシ(gb0843)は的が大きい。初回から伝家の宝刀を抜いても落とすことは無いだろうが、早い段階から見せていくべきか、悩み所だ。
 初球、内に入る速球。打者は打ち気も出さず見送って1ストライク。
 長く空けず、二球目。同じコースでややボールに掛かるストレート、カウントは1−1。
 ベースから少し離れて立ち、様子見の姿勢を崩さない打者。続く三球目は、シュートがやや浮き気味に入るも見送りのストライク。
(探り合い、ですか‥‥)
 ID野球に必要なデータベース、それが欠けていては全体の組み立てが難しい。
 秋月はノートに書き加える項目を待ちつつ、対面側のベンチをちらと見た。
(まぁ、しっかりデータは取らせていただきますよ)
 インハイのストレート。此処に来て初めてのスイングがボールの下を潜ってようやく1打席が終了。
 続く二番バッターはストレートに狙いを絞り、ファールを稼いできたが、打ち上げた打球をヨネモトがしっかり捕球して2アウト。
 アナウンスが次の選手を読み上げ、声援のボリュームが一段上がる。
 観客席からのプレッシャーも一段階上がり、負けじと観客席で声を張り上げる急設応援団の辻村や、そわそわと待ち人の来るのを待つ奉丈もその気配に少し押され気味だ。
 期待にざわめく観客を沈めるべく、ヨネモトがここぞのサインを出す。
 第一球。何の由縁か名付けられた魔球、本気狩るレティにゃんボールが打者の膝元を横切っていく。
 その大きな変化に、驚いて体を引いた打者。それを見て、観客も驚きにざわつく。
 これが良い牽制になったのか、敵がテンポを取り戻す前に自身のペースに持ち込むレティ。
 結局魔球は最初の一球を見せるに留め、サイドからの速球で三球三振。きっちり決めてベンチで待つ篠原の元へ。
 戦績的にも、流れを見ても中々良い立ち上がりとなった。
「ニャニャニャ〜☆」
 そして代わって1回裏。
 一番ショート、アヤカ。背番号22。
 エレクトーンの音色が球場の雰囲気を緑から青色に傾け、応援団も活気づく。
 藤井寺の先発は、アヤカよりも30は背丈のありそうな黒人投手。
「ニ゛ャッ!」
 レティのライフルのような伸びのあるストレートに反して、此方は大砲のような剛速球。
 ボールはど真ん中に突き刺さり、1ストライク。
 間髪空けず、重くミットを叩く速球。3、4球目は何とか後ろに逸らすも、5球目はチップを捕手がしっかり捕らえてバッターアウト。
 二番レフト、最上。背番号29。
「‥‥ん。背番号。29。ニク。肉」
 小さな体を更に縮め、バントの構えを見せる最上 憐(gb0002)。かなり的が小さいが、どうも子供の遊びに見えてしまう。
 声援も、その小柄さに惹かれ混じり、心配混じりといった所か。
 投げる方もかなり苦労するかに見えたが‥‥真ん中当たり目掛けて投げれば適度に散るという、荒れ球持ち特有の解決法で揺さぶりをかいくぐり、最上のバント失敗を誘って2アウト。
 三番センター、辰巳 空(ga4698)も、長いファールの後に凡打と打ち取られて三者凡退。
 2回表、グリーンタイタンズ四番、北詰からの打順。
 右対右。見た目に体格の良い選手だが、重さを感じさせないフォームに投げ所を迷うレティ。
 秋月ノートによれば変化球は苦手という事だが。
 ヨネモトのリードは、初球からレティにゃんボール。ただし外し目で間合いを伺うといった所か。
 急速な変化でストライクゾーンから逃げていく本気狩るレティにゃんボールに、初球から振り回しにかかったバットは止まらない。
 引っ掛けた打球。しかし長打を警戒して鴇神 純一(gb0849)が掛けていた後退シフトの合間を縫い、低い弾道で回転の掛かった球が一・二塁間へ。
 素早く反応し、朧 幸乃(ga3078)が小さい体を伸ばして飛びつくも、ダイレクトキャッチかと思われた打球は強烈なスピンを帯びてミットを弾いた。
 1アウトにはならなかったが、強打線相手、一歩でも塁を守るプレーは一点分の価値がある。
 レティは続く五番、六番、七番と持ち球を駆使して翻弄し、結局四番は一塁釘付けのまま。
 その後二回の裏にテミス(ga9179)のシングルヒット、三回裏にアヤカのスリーベースが飛び出すも、五回の表終了まで試合は動かず。
 そして五回の裏。榊 刑部(ga7524)からの打順。
 打力は悪くない。尚且つ短めに持ったバットで速球を待ち構える。
 初球、腰の高さに入ったインのボール球を見送り、続く二球、三球と同じ高さに集まってきた速球をファールで逃がしていく。
 時折混ぜられる縦の変化も小さいスイングでカットし、投げに投げさせる事、八球。
 なかなか勝負に出ない打者に、相手バッテリーも徐々に集中を切らしてくる。
 それ自体が持久戦という勝負なのだが。投手がそれに気付いた時には、すっぽ抜けた投球が地面を跳ねていた。
 四球を選んだ、というよりもぎ取った榊に続き、七番朧。
 鼻息荒く、下位打線を腕力で抑え込もうという気迫が目に見えている投手。
 対して朧はゆっくりと、自分のペースに納めるようにボックスに上がる。
 一塁に榊を置いての攻め様をイメージする。
「皆、頑張ってねー」
 球場内で売り子をしていた百地が、丁度売り物の空になった所で声を掛ける。
 その声援を受けて、第一球。
 少し抜けたフォークが高く入り、慌てて捕手が飛び上がる。
 落ち着け、とジェスチャーで示している捕手を横目に入れ、忙しなくロージンに手を付ける投手を見据え。
 あえて構えはそのまま、見せかけの打ち気を晒す。
 案の定、誘われてやってきた打ち頃の真っ直ぐを、セーフティで転がす。
 これで1アウト2塁。
 次は鴇神の打順だが。
「バッター交代!」
 ここで、勝利のために自ら代打を告げる。
 鴇神に代わり、バッター楓姫(gb0349)‥‥月羽。背番号10。
「来い‥‥」
 悠然とバッターボックスに登場した少女が、更に指で挑発。
 今の所、メンタルの強さは一級品か。その挑発に、投手の目が完全に乗って来ている。
 本来なら捕手辺りが一度鎮めてやるべきだったのだが‥‥そう言う契約なのか、投手リードのままずっと来ているこのバッテリーに、そこまでの信頼感は無いようだ。
 二塁にバッターを背負っての初球。元々大きなモーションが更に大きく見える。
「ただバットの真ん中に‥‥」
 渾身の速球。
「‥‥叩き入れる!」
 正面で捕らえた白球。放り投げたバットにはヒビが入っていたが、楓姫の打球は緩やかにレフトの頭上を越えていく。
 大きな歓声の中を、走る榊。
 中継を介さずダイレクトに届いた返球は若干高く。キャッチャーミットが戻る前に、榊の手がホームを掴んだ。
 膠着状態の試合に入った一点。興奮冷めやらぬまま、続く九番、中継ぎで切り替わっていた終夜・無月(ga3084)の初打席。
 一発を受けてようやく目の醒めた投手との真っ向勝負の結果、打ち損ねが運悪くファースト真正面へと飛び、ダブルプレー。
 これはまぁ、バッドラックと言うしかないか。
「さて‥‥守りに行きますか」
 気分を速やかに切り替え、マウンドに舞い戻る終夜。
 4回表に交代してから、ここまで奪ったアウトは全てスイングアウト。
 一度だけ五番打者に四球を与えるも、それ以外はパーフェクトなピッチングだった。






○延長10回裏の攻防

『誰がこの展開を予想していたでしょうか。延長10回表が終わりまして、タイタンズここまで三安打、得点に絡むのは四番北詰選手が秋月投手から奪った1本塁打のみ。レティ、終夜、秋月と続くLOSの投手陣に打線が苦しめられています。
 この表の攻撃も、五番斉藤選手の二塁打こそ出ましたが続く六番、村上選手の打球がアヤカ選手の好守に阻まれダブルプレー。
 対するラストホープ・オーシャンサンズは合計4安打。五回裏、代打で入った月羽選手の1点がスコアボードに点灯しております』
 予想外に長い試合となったが、観客達は飽きる所か試合の行方に‥‥そのどちらが勝ったとしても‥‥期待を向けている。
 好勝負。一点で一点を追う、緊張感のある試合だった。
『この10回裏、打順は六番の榊選手。ここまで犠打2、四球が1と、ただでは打席を降りていません』
 しつこいまでに磨り減らしてやった投手のスタミナは、そろそろ限界近い。
 更に、そこまでよく見切ってきた球質だとも言える。蓄積されたデータは秋月ノートの一項目と化していた。
 短いストロークで合わせていけば、自然にコンパクトになったスイングがセンター手前へ白球を運ぶ。
 続く朧には超前傾、強烈なバントシフトが置かれ、そのコースを遮る。
 だが、こういう守備配置も、いつかの合宿で勉強した範囲だ。
 期待通りのセーフティ、から、小さくバスターの構えにシフト。
 ちょこんと当てるだけ、刻むように返した打球はファーストの頭上を飛び越える。
「勝ちましょう、ね‥‥」
 五回裏の攻撃を再現したかのような、1アウト、二塁榊。
 八番、楓姫の打順で、一、三塁手が中間シフトから若干位置をずらしにかかるのが目に付いた。
(この状況でバックホーム態勢? ‥‥は、無い。何を企んでいるやら‥‥)
 ネクストサークルから目を光らせ、その様子を見ていた秋月が首を傾げる。
 結局その答えは分からぬまま、楓姫はキャッチャーフライ。続く秋月も今度は深く守ったファースト前に転がる凡打に打ち取られる。
 その間に榊は進塁し、2アウト三塁。打順は一番、アヤカに戻って、また忙しなく組み変わる守備位置。
(この試合、ここまで守備を動かした事は無い‥‥指示者が代わった‥‥?)
 秋月の思考を他所に、アヤカはカウント1−2。
 前に出た外野が、内野と合わせて壁のように見える。
 更に高めの速球に身を屈めてアピールし、1−3。
 球場は、更に緊張感を増す。
 五球目。
「ニャニャニャーッ!」
 待ち球ではない、フォーク。
 速球を待っていたアヤカは踏み脚をぐっと押し止め、猫科の持つバネのように力を留め。
 溜まった力を、思い切り上から叩き付ける。
 その打球は硬い土を跳ね、ファーストとライトの狭間にすっぽりと填り込む。
 アヤカの俊足か、前進守備のライトの肩か。
『みゃ〜‥‥』
 大曽根に抱えられ、一瞬しんとしたベンチ内に子猫の心配そうな鳴き声が響いた。
「‥‥‥‥セーフ!!」
 土まみれになってベースを抱えたアヤカの後ろで、ホームの方が、観客席が騒がしくなる。
「アクロバットしてる余裕も無かったニャ‥‥」
 バックスクリーンに表示される2の字が、試合の終了を告げていた。



試合結果

ラストホープ・オーシャンサンズ 2x−1 藤井寺グリーンタイタンズ

本:北詰
勝:終夜(判定員判定)
負:ボビー


特別報酬
勝利チーム各員にボーナス1万C
好ゲーム賞としてスポンサーから1万C

MVP:アヤカ