タイトル:【G3P2】鱗の王マスター:玄梠

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/07/21 11:10

●オープニング本文


―――山岳の横穴

「盗人共の消息が掴めたらしいな」
 南アジア地区、点在するバグア軍前線拠点の一つ。
 普段ならば担当の強化人間と無人機だけが常駐し、管理を行っているような場所に、その管理階級を2、3個跳び越えた所にいる男がぬぅと首を出してきた。
 自然岩で巧妙に隠蔽された発着場には、エースや特定の階級に配布されるような機体の姿は無く。
 代わりに彼の率いてきたらしい鱗ある種族が勝手気ままに寝転んで占領していた。
「はっ。‥‥活動反応を示した目標がK277−289地点を僅かに移動中。移動速度の周期から、ある程度の規模を持つ部隊ではないかと」
「推測情報だな? ‥‥偵察はどうした」
「無人小型機3機の損害‥‥のみです」
「あぁ‥‥?」
 失態の報告に身を固くする強化人間。しかし無造作に振り上げられた固い掌は殴打せず、萎縮した肩を叩くに留まった。
「無人機が3機も揃って、情報も送れずに撃破された、って所だろうが‥‥あのデヴィルをやった種族だ、何があっても気にならんな。まぁ任せとけ」
「‥‥‥出撃を?」
 特に叱責もせず、現れたときのようにふらりと背を向けて出て行こうとする巨躯。 
「おう。‥‥おう、一個命令だ」
 出撃という言葉にぴんと来たのか、振り返らずに指を一本立てて命じる。
「は。‥‥はっ」
「酒と肉の用意をしておけ」
「お食事です、か?」
 バグアは‥‥? と、与えられた情報の範囲で思い出そうとする思考を遮るように、牙の揃った口が嗤う。
「戦の作法だそうだ、この星のな」
「しかし、一般の補給では‥‥」
「帰るまでに無ければお前を喰うからな」
 ガガガと嗤い去っていく背に「冗談ですよね」とも言えず、立ちつくす男。
 モニターを見れば、身の丈を超えるキメラを一吼えで整列させ、自らの『翼』で軍団を率いて飛び立っていく。
「あれが‥‥ゥイーヴス、ゼオン・ジハイドの‥‥。‥‥‥!」
 男は慌てて緊急の通信を入れた。
 一つは本部に向けて、鱗の王(ゥイーヴス)の出撃を。
 もう一つは、近隣基地からなるべく早く酒と肉を送り届けて欲しいという旨を。





―――MSI テストチームキャラバン

「解析は順調らしいな」
 テントに入るなり、研究助手の席を奪って座るシャマ。
「そうでなきゃ困るよ。こんな女っ気のない荒野で三日三晩、技研のお偉方と顔つき合わせてなきゃいけないんだからさ」
 彼を招いたのは、同僚のテスターでもありシステムアーキテクトでもある、ギーン・ジギンス。
 彼等はこの『実験旅団』で慣性制御装置を護衛する側ら、かねてからの課題であったEPW、ロータス・クイーンの技術検証を行う為に同行していた。
「これまでの重力波変調間接逆探知式は、物体の浮動干渉に基づく現象からの間接的な探知か、予めこっちで登録しておいた‥‥例えばラージフレア何かの波長を捉えるだけだった。その癖重いんだ、酷く重い。物質的にもシステム処理的にも。小屋に押し込むような観測機器を機体に乗せてるわけだからね」
「細かいのはいいんだ、そういうのは。‥‥で、いつ目処が立つ?」
「まだまだ先かな。装置の制御負荷が低くなったら、もっとやりたい事もあるし」
「遊んでんのか?」
「女の子と遊ばせてくれたら、機体で遊ばなくても済むんだけどさぁ」
「冬子は本社だぞ」
「彼女の場合本当に『女の子』になっちゃってたじゃないか」
「ケースがいるぜ?」
「あれ半分男だろう?」
「いや100%男」
「‥‥嫌な職場だよね」
「極北に飛ばされるよりはマシだろうがな」
 同僚同士の他愛もない愚痴で、一旦話は途切れた。
 シャマの持ち込んだ安煙草で軽く一服しようと、幌を空けて煙を逃がす。
「‥‥EPW、そうせっつかれてるんでもないんだろう?」
「アレが急いでるんじゃないんだ。いや、あれも急いでるんだが‥‥お前、ディアブロとアヌビスだったら、どっちの後継機を企画したい?」
「企画挙げる段階で揉めるのかい? ‥‥システム屋に聞いたって所を加味してもいいんだろう? ならアヌビスだね」
 片手でもう一本と煙草を催促しつつ、ギーンが答える。
「理由は?」
「フレキシブル制動系とステップ制動系のブリード、一寸前に発見されたブースト時の疑似慣性制御行動、色々楽しそうだからね」
「楽しみで仕事を取るかよ‥‥。ん、ん、何だ?」
 血相を変えて走ってくる研究助手に、煙草でも咎められるかと思えば。
 そのまま通過しかけた所を砂煙を上げて踏み留まり、早口でまくし立てる。
「て、敵襲! 北西部の山岳地帯よりキメラ多数! み、未確認ですがドラゴンタイプのビーストマンらしき敵も居たとの報告!」
「!! よし、本部報告は俺が行く、お前は各班長に避難警告したらマニュアル通りにな」
「はい!」
 支柱脇に放り投げていたメットを脇に抱え、シャマが駆け出す。
 数分も経たないうちにスピーカーからは退避までのプロセスが放送され、輸送機から跳ね起きる護衛機達と入れ違いに、慣性制御装置の積み込みが開始された。
 幾度となく改修を施したテストチーム製の機体を起動し、シャマ達も隊列に付く。
「護衛部隊は!」
 多くの機体はテントの合間を駆け抜け、仕度の早い部隊から先に防衛ラインを構築していた。
「テストチームのあんちゃん達か‥‥外縁偵察のヘリとグリフォンが2機やられた。敵は山岳地帯の底辺を這うように飛行しているらしい。頭を出さずに低空から来る、目前までレーダーに掛からんぞ」
「配置は?」
「ヘリ部隊の抜けた分、我々警備隊が前に出て応戦する。君らは君らの仕事をしろ。 もうすぐで傭兵部隊も到着する、『全ての輸送機離陸まで、敵をキャンプに侵入させるな!』」

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
イリアス・ニーベルング(ga6358
17歳・♀・PN
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
六堂源治(ga8154
30歳・♂・AA
フェリア(ga9011
10歳・♀・AA
抹竹(gb1405
20歳・♂・AA
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
七市 一信(gb5015
26歳・♂・HD
奏歌 アルブレヒト(gb9003
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

○接近

「もう始まってる‥‥!」
 KVと人員を運ぶ高速輸送機が着陸し、格納ブロックの開放を待っていた傭兵達の耳に、ばらまくような銃撃の音が届く。
 急拵えに整地された滑走路でテストチームに出迎えられ、陸路組がテントの合間を縫って駆ける。
 空からのアプローチを行う組は此処までの燃料消費を目に入れつつ、一足先に音の元へと飛んだ。
 小型種単体ではKVの脅威では無いが、それが群れて機体にまとわりつくようになると、食い千切られた破片が辺りに散らばるようになる。
「ぞろぞろ群れて来てるな‥‥」
 鹿島 綾(gb4549)のディアブロを先頭に、夕凪 春花(ga3152)、イリアス・ニーベルング(ga6358)、抹竹(gb1405)、奏歌 アルブレヒト(gb9003)が高空から接敵を開始。
 新たな機影、その噴進音に、それまで陸に意識を向けていた飛竜種も首をもたげる。
 襲撃というインプットされた指令以外は、本能のままに攻撃を行うキメラ達。
「いや‥‥群がってるだけなのか?」
「遅滞戦闘、開始します」
 井出 一真(ga6977)の阿修羅が一番に陸を駆け、最前線で竜の甲殻に刃を突きつける。ブーストと空戦スタビライザーで追随したバイパー、六堂源治(ga8154)は機体を砲撃位置に。
 陸も空も、キメラの行動に特別統率らしきものは感じられない。
 ただ、目の前に獲物が居たから食い付いている。そんな所だ。空からの接近に釣られ、陸の何匹かが浮上する。
「引きつけて、引きつけて‥‥!」
 無防備に羽ばたく飛竜を、フォトニッククラスターの放射が灼く。
 範囲内に収められた何匹かが、理解できない現象に慌てて翼をばたつかせ、夕凪の機体から離れていく。その背中を追うように、エナジーウイングの刃が切り抜ける。
「‥‥目標ロック‥‥シュワルベの射程からは‥‥逃げられませんよ」
 散開し、高い旋回能力で機体に絡んでいく飛竜を、遠距離から狙う奏歌のロビン。
 突っ込んでくる飛竜は鹿島や抹竹が機体のソードウイングで切り刻み、地に落としていく。
 空にはテストチームのディアブロも居たが、手持ち無沙汰なぐらいだった。
『一便は間もなく離陸、次も手早く行きます』
『了解』
 最重要物資を乗せた輸送機は、一番に飛び出していく。
 後は、このペースを維持するか、押し返して安全を確保するのみ。
「ドラゴン‥‥今度は絶対守ってみせる」
 竜牙を駆るパンダ、七市 一信(gb5015)が心中で思いを燃やしつつ、その熱量を砲火に込める。
 敵と似たようなシルエットの機体、ではあったが‥‥その白黒の姿から、誤射の恐れは無いようだった。
「王獅子と刀神の二刀にて、お相手仕るッ!」
 フェリア(ga9011)の黄金色のアヌビスも暴れ回り、存在感をあらわにした。同じアヌビスの抹竹とテストチーム機に比べ、違う方向で偉く目立っているが。
 負けじと前に出る、MSIの兵士達。
 空戦班は上手く立ち回り、数の優位も手伝ってかなり前に出る事に成功する。
 特に高空からは、把握しづらい地形に隠れたキメラの姿も確認できた。
「‥‥陸戦班に連絡、木々に隠れては居ますが、あと数十秒で大きな規模の一団が接近を‥‥」
 攻撃の手を止め、奏歌が観測した情報を地上に送る。
 その声も、一度止まる。明らかに今、衣服を纏った人物のシルエットが捉えられた。
「‥‥あのバグアは、まさか‥‥」
 




○接触

 キメラの頭に立つ、竜人の男。
 不甲斐ない自軍の兵を前にしたようにその場を睥睨すると、肉食の牙が生えそろった口を開く。
『ゴォォォォァッ! ゴゴォォゴォォォォッ』
 放たれたのは人語、地球語ではなく、異なる発声器官に基づいた咆吼だった。
「な、何だ‥‥?」
「あれは‥‥ビーストマン? ‥‥いえ、あの姿は確かゼオン・ジハイドの‥‥」
 それを前に、無造作に歩を進めていた竜達が一斉に顎を掲げ、咆吼を復唱する。
 後方で出番を待ち、全体を眺めていた須佐 武流(ga1461)の位置からは、その異様な光景の意味がすぐに理解出来た。
「隊列を整えてやがる‥‥」
 雑多に飛び交っていた飛竜を低空に敷き、陸では巨大な魚鱗陣形を画く。ただし、一般的な魚鱗陣形と異なり、その切っ先となるべき部分には大将格が位置取っていた。
 そして、停止。
 戦場に、戸惑ったような、或いは嵐の前の、という沈黙が漂う。
『‥‥盗人の巣窟だ。焼き尽くせ』
 そんな意味をキメラ達が理解するでもなく、しかしそれが襲撃の合図となって、再びの咆吼が響き渡る。
 敗れ去った機体も肉塊も踏み荒らし、前進する。
 疲弊したMSIの私兵は瞬く間に押し返され、一気に前線分のアドバンテージを捲られてしまう。
「ちぃ、数が‥‥洒落にならんねえ、まったく」
 奇しくも、魚鱗陣形に対抗するファランクスという形。
 それに重ねるように、井出もスラスターライフルを選んで魚鱗の一部、竜の鱗の一枚一枚を剥いでいく。
「悪ぃ‥‥此処までだ」
 位置悪く、正面に当たっていたテストチームのアヌビスが損傷を抱えて撤退していく。
 穴を埋めるようにバイパーが前に出て、砲火を継続した。
「一匹たりとも、俺の後ろへは通させねぇッスよ!」
 ショルダーキャノンが地を捲り、キメラを浮かせ、歩みを妨げる。
 そうして進行速度の鈍った所に、陣の切っ先へ須佐機が飛び込んだ。
「‥‥ほう」
 足に爪を持つ機体を前に、腕を組む竜人。
 ブースターの推力を超伝導アクチュエータで機敏な挙動に化けさせ、シラヌイの足が弧を描く。
 衝突。しかし爪が抉ったのは人型ではなく、騎馬となっていた陸竜の頭。
 飛び上がった竜人は自らの翼を広げ、空に立っていた。
「良いぞ、掴まえておけ」
 頭蓋に裂傷を負いながら、シラヌイの蹴り脚に噛み付く竜。
 顎の力は徐々に弱まっていたが、死に物狂いの牙が食い込んで離さない。
 竜人の口から放たれる、三連続の火弾。
 一発一発が大口径のグレネードに匹敵する熱量を保ち、シラヌイの装甲を融解、爆破する。
「こいつ‥‥違うぞ!? キメラとは動きもパワーも!」
「あれが、ゼオン・ジハイドのゥイーヴス‥‥」
「もう我慢できないねぇ‥‥今日のパンダさんは獰猛なパンダさんだよ!」
 尾を振り回し、走る竜牙。
 擱座したシラヌイに迫る手負いのキメラをディノファングで引き倒し、地に投げ打つ。
 ファランクスの弾幕でゥイーヴスも追い払おうとするが、数が頼りの弾丸は小雨のようにあしらわれる。
 六堂が慌ててブーストの火を熾し、急旋回で援護に向かう。
「竜を摸したか? ただそれだけではな!」
「竜だけど、パンダさんだよ‥‥!」
 輸送機の残数カウントが、目の端で一つクリアに変わった。
 その情報を最後に、ブラックアウトする画面。
 コクピットから見下ろす地面に竜の首が転がり、踏み外したような衝撃の後、機体も地に転がっていく。
「これは‥‥捌き切れるか?」
 私兵やテストチームの機体も幾らか抵抗しているとはいえ、陸に残された戦力は乏しい。
 危機を見た抹竹機が先んじて機首を下げ、神天速での降下に入る。
 引き続いて高空の部隊も突入を試みるが、低空に漂う飛竜が間に入り、頑なに地上侵入を拒む。追い回せば逃げ、降下を狙えば絡んでくる、あからさまな時間稼ぎ。
 更に戦場は障害物や起伏も点在する荒れ地。降着出来る箇所は限られていた。
 既に、僅かながらも何匹かがキャンプ内に侵入し、討たれるまでの間に被害を広げている。
 最重要物資は既に離陸し、残る輸送機もテストチームのビーストソウルがその身で庇ってはいるが、1機が推進不能。作業を続けていた人員の中には、もう帰る事の出来ない者も居た。
「フォトニッククラスターを使います!」
 夕凪のペインブラッドが、残り2発のフォトニッククラスターで僅かな時間降下の空間を開き、鹿島、イリアスが降下していく。
 追い縋ろうとするキメラには奏歌がAAEMを放ち、翼に火を点けた。
「輸送機を狙わせる訳には‥‥!」
 着陸、そして速やかに防衛に参じていく三機。残る機体は空の制圧に移る。
 キメラの個体数は確実に減っていたが、先頭を歩くゥイーヴスに、未だ苦戦を強いられていた。
 火球に盾の表を溶かされ、爆発の衝撃波を体に受けつつ。信頼する機体と、機杭の一撃に賭ける。
「吼えろバイパーッ!!」
 捌くのは骨だと感じたのか、ようやくゥイーヴスがその腕を開いて激突をいなす。
 機杭の炸薬が連続して飛び爆ぜるが、杭は鱗を散らすに留まり、手応えはない。
 伸ばされた杭を踏み台に、バイパーの懐、六堂の頭上に飛び上がったゥイーヴスが、装甲に足爪を立てる。
「ッッフ!」
 踏み抜きの衝撃波に装甲が拉げ、搭乗席を圧迫するように捻れる。
 自動的に姿勢を持ち直そうとする機体に、更に膝を付かせる衝撃。
 内部部品の損壊が飛び火し、散った破片が内装を突き破り、六堂に降りかかる。
「離れなさいっ!」
 一旦陸竜から離れたフェリアのアヌビスが、六堂機に密着するゥイーヴスを振り払わんと獅子王を振るう。
「今度は犬頭‥‥データベースにあったが、格闘機か」 
「私は負けないですよ‥‥ゥイーヴス殿ッ!」
 獅子王の切っ先は竜の足爪に掴まり、その体を掬い上げるに留まった。
 刀の峰を足がかりにされる前に柄を返し、勢いを付けて地面に押し戻す。
「とぉー!!」
 そのまま地に押し潰すとばかり、神天速の加速を帯びた刃を振るうフェリア。
 繰り出される刃の重みは充分。だが、同じ速度で突き上げられた竜の拳が、獅子王の牙を折る。
 備えに帯びた二本目の刀に手を伸ばすアヌビス。
 その刃が引き出される前に、柄を握った腕ごと、火弾が吹き飛ばしていく。
 動力部に受けた熱量が誘爆を起こし、黄金色の装甲は内側から拉げていった。
「さて、首でも飾りに‥‥ン?」
 転がったアヌビスの首を拾い上げようと、歩みを止めた隙を見逃す事なく、粒子砲の煌めきが赤い鱗を焦がす。
 二発、三発、息を吸う間も与えず、ディアブロが砲撃を叩き込む。
 小型の目標に神経を磨り減らしながらも、汗を握り込みながらトリガーを引く鹿島。
 しかし、照準を補正した先に、もう一つの識別が重なる。
 障害物の誤判断かと注視するが、それは確かにもう一つの人物の反応だった。
「生身で出てるのか!?」
「そうか、お前がゼオンのNo3‥‥」
 損壊した機体を置き、其の身の兵装を整えた須佐が生身での戦いを挑む。
 意図を理解してか、ゥイーヴスも歩み寄り、互いに距離を詰める。
「‥‥俺はデヴィルの一撃を喰らっても耐えられた。簡単に倒せると思うなよ?」
「その身で武名を焦ったか。嘆けよ、脆弱な種であった事を」
 白兵至近。
 蹴り脚に加速を乗せる踏み込みの一歩で、充分に襲撃の距離を取れる距離。
 地を蹴り、KVと同じく繰り出された須佐の足技を、鱗のない翼で受け止める。
 初撃を受け止められ身を引く須佐。それを翻すように、翼が開く。
「そして‥‥位階に意味何ぞ感じてくれるな。ただ星々を渡り、征した、この身こそが証だ」
 突風でバランスを崩した須佐の上体に、炎気を纏った竜の爪先が突き刺さる。
 能力者のスキルと似た物なのか、実際に炎上はしていない。しかし人体が凡そ耐えきれないだけのエネルギーが、須佐の体内を焦がしていく。
「須佐さんッ!」
 満身創痍のバイパーが、ブーストとスタビライザーで自重を支え、浮上させる事で走る。
 六堂自身も、もう回避がどうという工夫をしていられる状態ではなかった。
「どうした、命を捨て――ッ!?」
「閃光が効きそうな顔、してるよねえ!!!」
 動かなくなった機体を放置し、AU−KVでバイパーの装甲に飛び乗った七市が閃光手榴弾を投じる。
 直接目を焼く事はなかったが、その投擲は充分に注意を引いた。
 六堂は攻撃を行わず、そのまま脇を通過していく。
「‥‥‥ッフン」
 光が止み、砂煙の中、足下にいたはずの須佐がAU−KVに抱えられているのを見て、鼻を鳴らすゥイーヴス。
 その爪に、AU−KVの装甲の一部と、一掻きに削いだ肉の塊を引っ掛けて。
「上手くやられたか‥‥」
 交差の瞬間、その爪は致命打となる筈だった。
 同時に突入してきた阿修羅が、電撃による痺れをもたらさなければ。
 無理な推進につんのめったバイパーが、パイルをブレーキ代わりにして姿勢を保つ。
「必要な物の離陸は終わった!! もういい、撤退してくれ!!」
 右肩と頭を失ったディアブロから、傭兵に向け無線で叫ぶMSIの隊長。
 彼の下に従う兵力も最早片手に満たず、キャンプに踏み込んでせめてもの抵抗を行っていた。
「輸送機は、どうなりました?」
「予想以上に人員被害が酷く、残る2機で怪我人を搬送する!! アヌビスの娘は回収済みだ、君達も!!」
「‥‥ここは保たせます」
 まだ余力のある井出が阿修羅を前に出し、鹿島が射程で庇うような形で、機盾の内側に須佐と七市を庇うバイパーを下がらせる。
 万全でも苦心する相手を前に、二機がブーストを続ける事で辛うじて火球の致命打を避け、阿修羅が尾を振り翳す事で接近を拒む。
 抹竹やイリアスが仕掛けた接近戦が、丁度魚鱗陣形の一片を為す横陣の側面を突いた形となり、戦場は再び混沌と化していた。
 その最中、最後の時間稼ぎが成功し、負傷者を乗せた輸送機が離陸していく。
「地球には逃げたもん勝ちって言葉があるんよ‥‥い、ってて‥‥」
 竜の血を発揮させ、塞がらない腹の傷口相手に悶絶しながら、代わりに拾い上げた須佐が一命を取り留めたのを見守る七市。
 その時、空に残って迎撃を続けていた奏歌機から全回線に向けて通信が入った。
「‥‥3時方向からキャンプ方面‥‥敵接近‥‥これは‥‥キメラの速‥‥では‥‥ません」
 急速に不安定になっていく通信。ジャミング性能を伴った、ワームが接近している。
 それを関知してか、交戦を続けていたゥイーヴスは翼を止め、空を見上げた。
 わざと隙を見せているのか。判断に迷う井出と鹿島に、当の本人は「中断」とばかりに尾を掲げ、跳躍した。
「侮れはしないが、矢張り個としては不足だな‥‥精々、他の星の連中と同じように足掻いてみせるといい」
 突如現れた機体、フォウン・バウの輪の部分に腰を掛け、最後まで戦場を眺めるように去っていく。
「見逃された‥‥んでしょうか」
 空でG放電装置を発射態勢に入れていた夕凪が、照準をフォウン・バウから外し、取り残されたキメラに向ける。
「さぁ、な‥‥」
 やりきれず、機鎌を振るう抹竹。今出来るのは、無人のキャンプに残る回収可能な『成果』を守り通す事だけだった。
 後の回収作業により、それらを運び出す事はできたが、前線後方問わず、損失も大きかった。
 露払いを終え、戦場を後にする傭兵達。
 日に照らされたテントの影に、苦い思いを残して。