タイトル:地下墓地でドラゴンマスター:玄梠

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/11/05 00:34

●オープニング本文


「奇妙な話ではあるが」
 調査員からの報告を新たな事件として受け取り、読み上げる立場となっても、静香は釈然としない顔をしていた。
 事件その物の始まりは、何ヶ月か前に遡る。丁度、ゥイーヴスの行動開始が確認された頃だ。
 件のゼオン・ジハイドが率いて飛来したと見られるドラゴン型のキメラに関しては、これまでも散発的に報告を受けていた。
 しかし発見から現在‥‥数ヶ月に渡り、同一箇所での発見報告が続いているのは、それが居住区に程近い事を考えても異例の事だった。
 その報告が、『倒した筈のキメラがゾンビになって蘇った』という物であれば、尚更の事である。
「インド地区、鉱山跡地を利用した英国領時代のカタコームで、キメラの出現報告が続いている。数週置きに、ずっとだ」
 調査写真で見られる内部は入り組んでいる。かつては希少な鉱石を運び出す為に使われていた通路は、灯りもなく、迷路の様に枝分かれしている。
 とは言え現代では地図もある。現地の人間まで迷わすような複雑さはなく、浅層の納棺室までなら道順の軽い暗記で辿り着ける程度だ。
 キメラが出現するというのは、その納棺室、あるいはその更に奥だと言う。
 最初に納棺室を訪れた討伐隊が目にしたのは、何処からか這入り込んだ6m程の黒いドラゴン型と、数匹のリザードマン型。
 そして次に訪れた時、討伐隊が目にしたのは、彼等が銃弾で開けた風穴をそのままに、襤褸切れのようになった翼を納棺室に広げた、キメラの姿だった。
 その後も何度か攻撃が行われたが、その度、肉や骨の剥き出しになる面積を増やしたキメラが待ち構えていた。
「近隣の住民達も、そろそろ慣れていてな。再出現の前兆として、地下の墓から呻き声のような物が夜毎響くらしい。まぁ、どこまで信じた物か‥‥」
 地下墓地に響くアンデッドの叫び、と言えば、B級フィルムの煽りか何かになるのだろうか。
「‥‥とは言え、それが現実に脅威となるならおよそ馬鹿馬鹿しいとは言い難い。カタコームを捜索、当該目標を駆逐し、出来れば詳細を調査する事。以上だ」

●参加者一覧

ハルカ(ga0640
19歳・♀・PN
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
柊 理(ga8731
17歳・♂・GD
フェリア(ga9011
10歳・♀・AA
絶斗(ga9337
25歳・♂・GP
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
ファタ・モルガナ(gc0598
21歳・♀・JG
獅月 きら(gc1055
17歳・♀・ER

●リプレイ本文

○LHスペ!

「インド鉱山跡地カタコンベで幻のドラゴンゾンビを見たッ! ‥‥私が隊長の『フェリ岡フェリア、』です」
 厳重に閉ざされ、挑む者無き暗闇にフェリア(ga9011)隊長が挑む!
 隠された財宝を発見した!? ハルカ(ga0640)隊員にまさかの事態!
 医師でもある辰巳 空(ga4698)隊員が走る! 果たして隊長の身に何が!
 無線の故障? 隊長と分かれた柊 理(ga8731)隊員達に襲いかかる謎!
 修練の男、絶斗(ga9337)隊員との出会い、そして‥‥!
 難所に次ぐ難所に、フローラ・シュトリエ(gb6204)隊員を悲劇が襲う!
 襲いかかる野生の猛威に、ファタ・モルガナ(gc0598)隊員のガトリングが火を噴いた!
 獅月 きら(gc1055)隊員が涙を流す、その先には一体何が!
 はたして、幻のドラゴンゾンビは実在するのであろうか!?





○白昼の暗闇

「という訳で行きましょうか」
 ひとしきり脳内で楽しんだ後で、フェリアが出がけにホームセンターで調達していた蛍光塗料のスプレーを配る。
 化学発光塗料もあるにはあったが、高い、という事で静香が経費を渋った。
 ちなみに、まだ納棺室どころか地下の入り口にも入っていない。
 比較的フレンドリーな近場の人々は、討伐に来たという傭兵達を物珍しげにしつつも歓迎してくれていた。
 しかしその反応も「あ、また軍人さん達が来たんだね」程度の物で、実被害がほとんど無いとは言え、キメラ発生地点の雰囲気ではない。
 繁殖などを行わないキメラが被害箇所を一箇所に偏らせる事は多々ある事だが、人を襲わず穴蔵に籠もっているというのも、妙と言えば妙な話だった。
 歩を進めるごとに、少しずつ、動く物のある気配が近づいてくる。
「調査する為にもまずは倒しておかないとねー」
 通路と納棺室を遮っていたらしい鉄柵は、無理矢理引っ張ったように通路側に拉げていた。
 その陰から様子を伺えば、確かに、報告通りの異様な風景が拡がっている。
 灯りには反応しないのか、ランタンに照らされてもキメラ達に反応はない。
 しかし先頭の絶斗が、一歩納棺室に踏み入れた瞬間、その砂を踏む音に反応したリザードマンゾンビがぐぎりと有り得ない角度で振り向いた。
「邪魔だ!」
 不用意に飛び掛かってきたリザードマンゾンビの頭を、手にしたリアトリスで斬り飛ばす絶斗。既に崩れかかっていた蜥蜴顔が、完全に破壊される。
 それを合図として、一斉に反応するキメラ。傭兵達も室内に突入する。
 中央のドラゴンは、その大きさから一目で把握出来た。壁・床を這うように移動するリザードマンゾンビ達を警戒し、まずは辰巳、柊が盾を構えて壁を作る。
 その更に前方で、絶斗とフェリアがドラゴンに先制の一撃を加える。
 眼前をちょこまかと走る物を追い払う為に、ドラゴンゾンビがその口から黒い煤のようなブレスを吹き掛ける。
 ひらりと跳躍して回避するフェリア。絶斗は剣を振って払おうとするが、視界を遮るような濃度で迫るブレスには効果がない。
「‥‥うっ」
 僅かに毒ガスを吸った絶斗が痺れを感じ、後退する。
 霧のように残留するのは厄介だが、粒子の重さの所為かそれほどの射程は無く、キュアを使用するだけの隙は充分にあった。
 腹を床に擦ってのそのそと歩くドラゴンゾンビ。距離を詰められぬよう、離れた位置のフローラと獅月が射撃で押し止める。
 しかしその取り巻きらしいリザードマンゾンビ達は、死後だと言うのに機敏な動きで壁を伝い、前衛のフェリア達を乗り越えて後方に迫った。
「寄るんじゃあない! 寄られたら死ぬんだよ! まだそっち側行く気は無いぞ!」
 奇妙に変色した蜥蜴顔。目の前でその腐敗具合を確認してしまったファタが、リボルバーを抜いて応戦。
「はぁぁぁっ!」
 壁から床に撃ち落とされたリザードマンゾンビを、柊の洒涙雨がそのまま床に縫い止める。
 殆どの敵は銃弾に撃ち落とされたまま動かなくなっていくが、それでも起き上がり、飛び掛かる物には辰巳の天剣が翻った。
「とぉっ!」
 跳躍で毒ガスの範囲を跳び越えたハルカが、ドラゴンゾンビの頭に猛打を叩き込んだ。
 辰巳が喉に狙いを付けていた事もあり、ごきりと一段分の首間接が捻れたドラゴンゾンビは、毒ガスを喉に蓄えたまま地面に崩れ落ちた。
「いやに呆気なく終わりましたね‥‥」
「つんつん‥‥返事がない、ただの屍のようだ」
 フェリアがドラゴンの黒い皮膚を軽く突き刺してみるが、反応は無い。
 室内が静まりかえった所で、此処から先の作戦確認と、この納棺室の調査を始める。
「そーれ、しびびび〜」
 調査に平行して、ハルカが胸元からひょこんと取り出した超機械を使って治療を始めた。
 室内は戦闘で幾らか散らかっていたが、土埃の痕跡からして大分前からこの荒れ具合のようだ。
 しかしドラゴンゾンビが暴れたのは分かるが、棺の山が散乱しているのに対して、その中に安置されていた筈の遺体が確認できない。
 フローラが懐中電灯片手に横穴から棺を引き出し、中身を改めるが、やはり何割かの棺は空になっていた。
 柊も手伝い、隅から隅まで調べてみると、何か人の手によって運び出されたらしい痕跡が確認できる。
「‥‥あの、今何か声が‥‥?」
 納棺室までの道程と、此処から先の通路を地図上で結びつけていた獅月が、ふと聞こえたらしい何かを探って顔を上げる。
 それはこれから向かう先、旧い坑道の奥から響いていた。 
 これが住民達が聞いたという呻き声なのだろうか。
 確かに怏々とした不快さが滲むような声にも聞こえる。しかし、耳を澄ましてみると、その音には機械的な周期性のような物があった。
「これってアレみたいだね」
「アレ、ですか?」
「ほら、餌の時間に鳥を集めたりする――」
 笛、と言おうとしたハルカの足下で、それまで横たわっていたキメラ達がバネのように跳ね起きる。
「全員口を塞いで!」
 起き上がったドラゴンゾンビのその喉が膨れているのを見て、辰巳が咄嗟に叫ぶ。
 煙幕のように視界を遮る毒ガスを噴射し、『生き返った』キメラ達は坑道の奥へと姿を消していった。唯一絶斗が頭を潰した個体は、そのまま骸を晒している。
 あまりに唐突な出来事に、誰もが顔を見合わせる。その時には、先程から響いていた音も消えていた。
「‥‥にしても暗いったらいね。ゾンビは暗視能力でも持ってんのかね」
 真っ直ぐ逃げ去っていった道は、ランタンで照らしてみても何処まで照らせているのかどうか分からない程暗い。
 壁や地面の多くに凹凸がある為、複雑に伸びた影が距離感を狂わせるのだ。
 最初の分かれ道は、納棺室からすぐ近い所にあった。そこで二班に分かれ、調査を開始する。
「いやぁ、一度やってみたかったんだマッピング!」
 何やら楽しそうだが、分かれ道を記録するだけでなく、進んだ歩数を勘定に入れて距離を算定するのは、これが中々難しい。
 焦ったり警戒したり疲労したり、様々な要因で変化する距離感覚を計算に入れながら、同じ班の仲間同士で補正しあって道を探っていく。
 しかしどちらのルートも、進めども進めども多くが行き止まりにぶち当たるばかり。
 ハルカ達の班は一応何かそれらしい機械を発見したものの、それは柊の探査の目によって即座に罠と判別され、そのまま起動せずに捨て置かれた。
 痕跡はあれど、道の無い厄介な迷路が続く。
 分岐の多い道を虱潰しにする訳にもいかず、もう一度情報を整理しようと、二つの班は一旦納棺室まで戻ることを決めた。




○暗中の光明

 辰巳が住民達から聞き調べた鉱山時代の地図では、運搬用の荷車が通るような広い通路がある筈だった。
 二班それぞれが描いた地図を見比べてみると、どうやらその通路を避けて巡っているらしい妙にくねった道も確認できる。
 改めてフローラ、ファタ、獅月が額を突き合わせて地図を書き足していく。
「この辺りは、確かゆるやかな下りだったような‥‥」
 すると、通路毎の規則性のような物もみえてきた。
 分岐路は納棺室を中心にするのではなく、旧通路を中心に伸びていたのだ。
 納棺室はあくまで当時の人間が手頃な位置に設けただけで、通路はそれ以前から利用されていたに違いない。不必要な分岐を削除すれば、確率の上でもかなりの道が絞り込める。
 それを発見した8人は再び分かれ、旧運搬路に近い道を選んで進んでいく。

 地点ごとに区切りを付けながら、比較的浅い層を経由して通路に近づいていくハルカ達の班。
 1人ずつ通るのがやっとの道幅を、つっかえたりはさまったりひっかかったりしながら通り抜けていく。主に女性陣。
 目的の運搬路まであと一歩という所で、想定では通れる筈の道は途切れてしまっていた。
 すぐ向こうに大きな通路が続く筈なのだが、何か大きい塊に遮られてしまっている。これでは進みようがない。
 仕方なく、柊が一度無線を開こうと懐中電灯を持ち替えた時。
 フローラが注意深く見上げていた頭上近い部分の壁が、僅かに光を返したように見えた。
「ねぇ、今その辺り光らなかった?」
「壁‥‥ですか?」
 柊がエマージェンシーキットから水を出し、障害物の砂や粘土質を荒い落としてみる。
「あれ、これって‥‥」
 広い面積を水で洗い流すうち、大きな岩の中に眠る炭素結晶十二面体、文字通りダイヤの原石が僅かに顔を覗かせる。 
 そう、採掘跡と言ったが、何も掘り出せる物は鉄鋼や石炭だけではない。
 大規模な掘削が出来る程に隆起した岩盤層が近ければ、こういう物もある。
「おおう‥‥本当にお宝を見つけてしまったのだ」
 ランタンに照らされて仄かに光を反射する塊を見上げ、目を丸くするハルカ。
 その後ろで、地図の修正を続けていたフローラとファタが、今し方価値の急変したお互いの方眼紙を見ていた。
「‥‥これって、ある意味本物の宝の地図を描いてるって事になるのかな!」
 四人分の運が集まった結果、という事になるのだろうか。通路としては外れだった為、名残惜しいが引き返す。
 尚、該当の資料は土地の権利者にそのまま譲渡いたしました。残念。

 その頃、辰巳達の班は座標で言えば割と近い位置、しかし何本かの通路を隔てた道を進んでいた。
 順序よく蛍光塗料を目印に分岐を曲がっていくと、何やら遠くに自然光らしき物が見えた。
「光が見える?」
 洞窟の奥深くに、どうやら地上に避けた岩間から日光でも差しているらしい。
 仄かな光の筋に照らされているのは、消えたドラゴンとリザードマンのシルエット。
 無線連絡を受けた柊達が急行するまでの間、敵に発見されないよう獅月が隠密潜行でゆっくりと近付き、地形を確認する。
 大規模な採掘跡が、その大規模さ故に崩落しかけた部分らしい。かなりの量の土砂と岩石が転がっているが、身を隠すには使えそうだ。
 キメラ達が眠るように居座る中央部分には、何か巨大な器のような装置が土砂を均して設置されていた。
「あの機械で体組織を再合成しているんでしょうか‥‥」
 獅月の辿った岩陰の跡を追い、辰巳達もその様子を伺う。
 装置から伸びたチューブと針はドラゴンゾンビに何かを供給するように動き、稼働に必要な分を補填していく。
 逆に損耗の多いリザードマンゾンビの方は器状の装置の中に放り込まれ、分解されていく。
 そうして増えた体積を再度『合成』し、素材として再利用していた。
「惨い‥‥」
 フローラが確認した空の棺、その中身の行き先も、おそらくこの装置の中だろう。
 8人全員が揃った所で、それまで目を伏せていた獅月が姿勢を低くしたまま岩に隠れて接近、装置を拳銃の射程に収める。
「あんな物があってはいけない‥‥!」
 発砲音を合図に、戦闘が再開する。目覚めたように体を起こしたのはドラゴンゾンビのみ。
 撃ち抜かれた装置は停止と同時に自爆してしまったが、肉体の再生は止まらない。
 損傷が大きすぎた為に元の姿を再現する機能がエラーを起こし、本来ある一本の首に追加して、骨の首と屍肉の首がそれぞれ両脇に伸びていく。
「土壇場で進化でもしたつもりか‥‥」
「ちょあー!」
 大岩を越え、右側から迫る絶斗とフェリア。開けた場所で存分に振り翳される風林火山が、易々と竜の肉を切り裂いていく。
「どんな生物であろうと眼球だけは鍛えられ‥‥眼球が無いとな!!」
 額から顎まで、真っ二つに裂けた筈の頭部はまだ動いていた。
 霧化する前の毒液が、腐った首から噴射される。
「飛沫に注意してください!」
 辰巳が防御に使用したエンジェルシールドが腐食していく。
 直接被ったフェリアは薬品焼けのような痛みと毒・麻痺を同時に受け、柊に守られながら後方まで下がった。
 霧と違って直接のダメージが大きく、収束した分射程があるのも痛い。竜の口が高い所から噴射を始めたら、後方に居る獅月達の所まで届いてしまうだろう。
「頭を上げさせなければいいんだろ!」
 一段高い岩場に駆け上がったファタが、毒液を撒き散らそうとする竜の頭上をガトリングで抑える。左側の骨頭は、銃弾を受けて瞬く間に削れていく。
 たまらず頭を垂れた右首目掛け、絶斗が叫びながら飛んだ。
「スパイラルドラゴンキィィィィック!!」
 ぶよぶよの頭を半回転させる一撃。脆くなっていた首が捻れ、根本からぶらりと垂れ下がる。
「とぉっ!」
 苦し紛れ、噛み付こうと繰り出されたその中央頭を踏み台に、舞うような回転を合わせてハルカが宙に跳ぶ。
 そしてその捻りを加え、生物の要とも言える背骨を砕く勢いで拳を突き出した。
『―――――』
 最早声を発する声帯は無いが、腐った骨を砕く一撃に身悶えるドラゴンゾンビ。
 再び地面に倒れたその背中からは、今の一撃で抉れた肉と、隙間に除く心臓のような部分が見えた。
「ごめん、ね? 今度こそ、ゆっくりお休み‥‥」
 獅月の放った銃弾が、キメラの核の部分を撃ち抜く。
 命令信号の止められた体が、ようやくその役目を終え、早送りのように風化していく。
「大丈夫? フェリアちゃん」
 ハルカに抱き抱えられながら治療を受け、自らもキュアで解毒を促進するフェリア。
 彼女の空想の中では、スタッフロールが流れている所だった。






○?

「‥‥はい、わたくしです。‥‥想定通り邪魔は入りましたが、面白い結果も得られました」

「‥‥はい。‥‥いえ、まだ暫くは、廃棄サンプルの再考査で居りますが」

「‥‥畏まりました。では『ビーハイブ』及び『ゾンビメーカー』、回収しておきます」