タイトル:蓮華座の女皇マスター:玄梠

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/04/25 08:15

●オープニング本文


 デリー、MSI本社。
 開発本部からは離れ、相変わらず社屋の端にあるテストチームのオフィス。
 テストチーム1班、2班と隣り合いながらも、日頃なら特に挨拶も交わさない2つの部屋ではあったが、この日ばかりは、同じ話題が盛り上がっていた。
 未来研から送られてきたエミタの重力波識閾性に関する資料を元に、第3班の生き残りがプロジェクト再開の鍵を組み上げたのだという。
 EPW、早期予兆警戒機計画は、ゥイーヴスによるキャンプ襲撃の傷跡が深くこれまで『凍結』の判断が為されていた。
 重力波干渉が引き起こす物理的な変調を補足する。その研究のための技術者も多くを失い、企業としては当然の判断だった。
 今度はそれを再開するだけの、技術が手に入ったのだ。
 失った戦友が遺した研究の再開。その一報が届いたオフィスは活気立っていたが‥‥その詳細が知れるようになると、次第にその喜びは疑問に切り替わっていった。
 とはいえその子細を全て理解していた者は少ない。だが噂で聞いた理解は、現代戦で考えれば限りなく眉唾物に近い。
 それは、パイロットの『直感』に頼る、という物だった。

「戦闘機を動かすのに人の手は使う、KV戦は有視界戦で目ぇ凝らして戦うのは分かる。でもな、エミタの感じ取った物を『レーダー』にするって何なんだ」
「知りませんよ‥‥専門外ですもん」
 テストチーム第二班、班長のシャマは白衣の研究員に同じ様な台詞を延々とくり返していた。
「大体、俺らはワームの慣性制御を感じ取った事なんて1回も無いんだぜ?」
「僕は移植してないんで分かりませんけど‥‥人間にはもともと無い受容信号だから、感じ取れない。って事らしいですよ。でもそれをある種『翻訳』してレーダーに映し出すシステムに変更されたみたいです」
「もうそれ俺らが背負った方が早くないか」
「EPWのメインコンピューターを背負って歩けるならそれで良いと思いますけど」
 無論、技術的に無理という事は飲み込んだ上での皮肉だが。
「アウトプット処理やカメラ機構はそのまま引き継ぐそうですが、エミタAIとのリンクのサンプルが欲しいって開発部から来てます」
「ウチがやるのか‥‥」
 頭を抱えつつ、スケジュールを確認するシャマ。
 主要部門の一端とは言え端も端、お偉方の式典やら何やらが無いのは助かるが、人を集めるというのはそれだけ人手が掛かる。
「‥‥一寸早いが、グリフォンの改良も先に手付けとくか」
「改良って言っても、結構あっちこっちの軍部隊向けに作ってたじゃないですか」
「開発の方がやり尽くした感はあるなぁ‥‥」
 これまでテストに携わり、整えてきた仕様書を引き寄せて捲る。
「今ラインとして動いてるのはスペシャル、アタッカーツー、ボマーツー、コマンダーツー、ダイバーか‥‥傭兵向きなのはS、A2、C2ぐらいだな」
「希望を取るのが早そうですね」
 グリフォンはUK3艦載機として作られていたが、アーキテクトが古い分、現行技術に合わせるにもハード上の限界がある。
 タイプ別に分けられた系譜は存在するが、其所から大きく外れた特別仕様を作るには、ラインが増えすぎていた。
 勿論、出来ない話ではないのだが‥‥これから続くであろう新型開発ラッシュに、既発機体のフォローがどれ程のリソースを割けるかどうか。
「とりあえず開発部からのオーダーを先にしないと、また偉い人に怒られますよ」
「そうすっか‥‥」



 そうして、EPWのリンクテストとグリフォンのバージョンアップ、2つの仕事に招かれる傭兵達。
 海を渡って搬入されてきたテスト機体と機材の山。
 時を同じくして、竜の群れが、その現場となる港街に迫っていた。

●参加者一覧

新居・やすかず(ga1891
19歳・♂・JG
林・蘭華(ga4703
25歳・♀・BM
森里・氷雨(ga8490
19歳・♂・DF
エレノア・ハーベスト(ga8856
19歳・♀・DF
番場論子(gb4628
28歳・♀・HD
安藤 将成(gb9347
22歳・♂・HD
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
カグヤ(gc4333
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

○竜の化合

「警報だぁ?」
 傭兵達が到着したという報せを受けたシャマは、丁度グリフォンの意見聴取の為に資料を纏めていた。
 ゆるゆると出迎えにでも出るか‥‥と、借りたオフィスから出た丁度その時の敵襲警報だった。
「やべぇ‥‥連絡付いた奴から出せ! 整備班、スターター持ってくの忘れんなよ!」
 MSIの社員達が走り回り、俄に慌ただしくなる港。
 重要度は低い港の筈だが、搬入が尾けられていたのか、疑問を抱く間もなく、危険は近づいていた。 


 真っ先に現場へと降り立ったのはリンドブルムの安藤 将成(gb9347)、そしてエピメーテウスに同乗したエレノア・ハーベスト(ga8856)、夢守 ルキア(gb9436)と番場論子(gb4628)。
 番場はミカエルを纏って水際に降り立ち、エレノアを降ろした夢守はその頭上、エピメーテウスから空中の敵に構える。
『こちら管制。飛行型キメラ、2体が接近。やや後方に海中の反応もあります』
『こちらサイレントキラー、配置完了。傭兵のスタンバイも完了しています』
「酷い揺れですね‥‥」
 強い海風を浴びる機上は、エピメーテウス、サイレントキラー共に不安定だ。
 伏せ撃ちの姿勢を取る新居・やすかず(ga1891)は小銃「ルナ」の照準を覗き込みつつ、その揺れの中に飛来するキメラを納める。
 射程内に侵入した、レッドドラゴンとでも言うべき2匹のキメラの鱗を打ち、その侵入速度を落とす新居の射撃。
 夢村がエピメーテウスの近接用機銃を起動させて敵の動きを止めた所で、エレノアが2刀連続でスマッシュブームを放つ。
 一方が瀕死となった所で羽ばたき、仲間を置いて一旦港から距離を取るレッドドラゴン。それと入れ違いに、鰐のような海竜型キメラが発達した四肢を陸に揚げた。
「安藤さん、追撃を御願いします」
 側方から回り込みつつ、番場が灰色のサブマシンガンで海竜の視界を引きつけ、安藤がその隙に撃ち込む。
 海竜の体が完全に上陸するまでに押し込む算段だったが、丁度トドメと言う所で、安藤の小銃の弾が切れてしまった。
「浅いか‥‥!」
 装填し直すか、刀を抜くか、そう迷っている間に、頭上から一直線に弾丸が撃ち落とされる。
「銀月の鏡は、照らし出した獲物を逃しません」
「沈黙確認、次です」
 素早くサブマシンガンの弾倉交換を終えた番場が、次の目標の頭を抑える。
 と同時に、一度身を翻したレッドドラゴンが、再び港へと接近していた。
「露と消え去れ」
 ソニックスマッシュの繋ぎ技を奮い上げ、降下する瞬間の無防備なドラゴンの腹に斬撃を叩き込むエレノア。
 深い傷を負ったレッドドラゴンは、そのまま海に沈んでいく。
 サブマシンガンと小銃の同時掃射を受けた海竜が、陸を踏めずに沈んでいくのもほぼ同時だった。
「敵の先制は抑えられたようだな」
『KV隊から連絡、もうすぐ来られるって』
 敵勢の緩んだ隙に、夢守のエピメーテウスは降下。サイレントキラーが空を見守る。
 新居が望遠鏡越しに見るシルエットは、これまでの物とやや異なっていた。
「次の飛行型、鎧付きです」
『鎧?』
「そう見えます」
 頭蓋から脊髄にかけて、また四肢の一部に金属素材の食い込んだようなフォルム。
 肉眼でも確認できる距離まで近づくと、それは確かに鎧か殻かを着込んだような姿だった。
 新居の放った銃弾はそれでも鎧を貫通し地上に落とすだけの威力を保ってはいたが。殻付きのドラゴンは落着と同時に起き上がり、金属の爪を立てる。
「鎧同士だ、不足はない」
 黒い太刀と共に、安藤が殻付きの侵入を食い止める。
 竜の咆吼が一拍敵の足下を止めたようにも見えたが、装甲に食い込む金属塊は徐々にリンドブルムを削りつつある。
 援護に回ろうとする番場、エレノアだったが、その眼前には次の殻付きが降り立った所だった。
「厄介どすな‥‥」
 柔らかい皮膚や、まだ生物質な鱗とは異なる硬質な金属。
 それはキメラ達の意思で骨格のように動くらしく、爪や牙、角となって傭兵達の接近を阻む。
『進路、開けてください!』
 拡声器越しの合図に、安藤達が飛び退く。
 低空侵入する森里・氷雨(ga8490)のアンジェリカ。
 その後を追うように、港の細いルートを疾走する林・蘭華(ga4703)のグリフォン。
 2機は港際のキメラ達に一撃を叩き込み、海へと抜けていく。
 グリフォンに轢かれた殻付きがバランスを立て直した時には、既に歩兵隊による包囲が完成していた。
「ここからは、一歩も通せないの」
 送れて追い付いたカグヤ(gc4333)のクノスペもクロスマシンガンを構えて到着し、2匹のキメラは大小様々な銃弾と切り傷を受けて崩壊する。
「‥‥ソナーブイ、セット完了。早速ね」
「あまり多用は出来ませんが」
 ソナーブイの探知領域に掛かった海面下のキメラ、こちらも上陸すれば金属装甲を纏っていたと分かる海竜型の進路に、爆雷を置いていく森里。
 浅層で爆発するように設定されたそれは、正しく海中のキメラ達を巻き込む形で炸裂した。
「わーっ!?」
「‥‥酷いことしはる」
「びしょびしょなの‥‥」
 施設側に大きな被害が出る事は無く、制圧は万全。
 被害らしい被害と言えば、爆雷の余波を被った夢守、エレノア、そして偶々治療のために駆け寄ったカグヤがずぶ濡れになった事ぐらいだろうか。





(矢張り、キメラを強化してもこの程度‥‥)
 撃退されていくメタルドラゴンを眼下に、活動記録を取るバグアのメイド、プラネテス。
 キメラ生産技術に習熟する彼女にとって、それは大した事のない成果物ではあった。
(キメラの大量生産プラントと、その改造策‥‥あのゥイーヴス様が何故そのような‥‥)
 思惑を乗せ、無音で撤退していくゴーレム。
 単独で機能できないESMが其れを捉える事は無く、誰の目に確認される事もなく、飛び去っていった。





○EPW

「KVは私自身、戦う、ソンザイ。KVを信じる、それがパイロット」
 順番に、EPW−2400、ピュアホワイトのリンクテストは行われていく。
 そのコクピットはペインブラッドのイジェクションポッド形式を継承していながら、座席形状は独特な物だった。
 パイロットを中心に、電子支援装置からなる各画面が円周に添って存在し、装甲によって閉塞された壁面はそのまま外部を表示するモニターとなっている。
 そのコクピットの中、夢守のように自己を投影するような姿勢もあれば、安藤のようにそのシステムを見調べながら行う者、カグヤのように能力者固有の性質――スキルに代表されるような――が影響するか調べる者など、様々だった。
 しかし皆一様に苦労していたようなのは、ESMというシステム、それ自体の情報量の多さだった。
「脳筋って、悲しいですね‥‥」
 予定していたシミュレーション行程を終えた森里が、どっと疲れた様子で仮設の休憩室に座り込む。
 勿論、KVの戦闘機能としての全作業はエミタAIによるフォローが行われるのだが。
 その後に残る肩こりや頭痛は、事務職が画面の前で緊張を続けるのと同じ原理から来る物だった。
 ただ、能力者の能力者としての由縁、覚醒やクラスのような物は、ESMの稼働に影響を及ぼさないようだ。ESMが必要としているのはあくまでエミタの感知情報であり、能力者はその間に存在するバイパスに過ぎない。
 なので、試乗した中にその探知を感触として持つ者が居たとしても、それは何かの気の所為という事になるのだった。
 複合ESMを使用する前後のメディカルチェックを受けた傭兵達にはいずれも異常は無く、戦闘で受けた少々の傷も現場の医療スタッフの手で完全に治療出来る程度の物だった。
 本当ならカグヤや夢守の出番だったのだが、来て貰った傭兵にそこまで自前でやって貰うのも申し訳がない。という現場の判断だった。

「大した事にならなくて良かったもんだ」
 傭兵達がエミタのリンクデータを採っているその横で、テストチーム第2班、シャマは届けられたグリフォンに関する意見を取り纏めていた。
 取り纏めと言っても、提出された意見はほぼ綺麗に二分。A2型かC2型か、という所だった。
「全領域で活動可能なグリフォンと、C2型のミッションパックの組み合わせ。軍売りの中じゃウケの良い組み合わせではあるんだよなぁ」
「ただ、今回の参加者層を見ると、若干そっち寄りの気配はありますか」
「妥当っつーか、一般的にはA2っていうのは誰も認めてる所だろう。結局は売りの差なんだろうが‥‥」
 登場経験が無くても考え得る一般の需要、という所まで票を希釈すれば、バージョンアップという形においてA2型が順当というのは分かる。
 此処に集まった票、そしてC2型の全領域活動型管制補助という利点が、順当というのを越して有益であるというのも分かる。
 しかし実際C2型への換装となると、性能に大きな補強は出来ないだろう。単純に尻尾を交換というだけではなく、それに伴う内部回路の切り替えもあるから、そちらにコストが嵩む。
(それに納得しない者が多くなるのもC2型‥‥難しい話だな)
 ついでに、C2型に搭載するミッションパックのスペック、そしてその手配量が総額幾らになるのかも、一寸した悩みの種だったが。
 悩んでも万全の策が出る訳ではない。シャマは意見聴取までが此方の仕事、と割り切り、後はUPCとの折衝担当に任せる事にした。

「演算プログラムの仮企画、出ましたよ」
 テストチーム第3班、今回ピュアホワイト絡みで作業に当たっている面々は、どれも軍や肉体労働とは無縁そうな人間の集まりだった。
 彼等の元に集められていたのは、複合ESMを利用したプログラム、アプリケーションと言っても良い。付加機能についての物だ。
「って言っても、アイディアの中から、どれが出来る、出来ないを此方で判断しただけなんですけど」
 傭兵達の前で、へらへら、へなへなとした姿勢で語る、担当プログラマーの1人。
「一応、実現性と実用性で最有力なのは、探知精度の向上という所で間違い有りません、新居さん。そして皆さん」
 わざわざ向き直って評価を付け加える事が嫌味だと思っていないのか、そういう芸風なのか、語りは続く。
「その精度向上を敵の弱点の探知に向けるのも良いアイディアです夢守さん‥‥一歩惜しいのはカグヤさん。勘というのは確かに無意識的な演算の連続という説もありますが、ESMに必要なのは純粋な情報処理能力‥‥勘では中々動かせません」
 敵の材質や形状強度をその場でシミュレートする事は難しいだろうが、バグア機体の持つ重力波の歪みを生み出す物、つまり慣性制御装置の場所を探り当てる事は可能かもしれない。
 そういった意味で、急所突きに値する物は充分に考えられる。演算の難しさはあるが、対エース戦でその情報を得られるイニシアチブは代え難い。
「地図情報との連携というのも全体管制としては必要な機能です、エレノアさん。現に対地観測機が現役だった頃はそういう機体もありましたしかし‥‥その追走には長期的な観測が必要です、まして慣性制御のような無限の起動を持つバグアが相手では」
 尤も、この地図との連携を前提として複合ESMの開発が行われた手前、それが100%不可能な機能という訳でもない。
 ただ、敵の観測をし続ける事。そして予め地形の観測を負えている事が前提となるだろう。
「機体その物の運動演算に充てる‥‥おそらくフレキシブルモーションの疑似再現になってしまうでしょう。しかし悪い案ではありません林さん、それもこの機体の可能性の一つになるでしょうから」
 電子戦機、と役割を宛がわれる機体の常として、自機に与える補正は少ないという物があった。
 開発側としてはその問題を補うために基礎能力を上げるという選択を採ったのだが、それを通常のアタッカー同様戦える水準まで引き上げてしまうと言えば思い切りは良い。
 その結果機体の稼働が短くなる事が、良しとされるかどうかは別として。
 大抵傭兵が呆気にとられている隙に、担当が締めの挨拶を放る。
「本日は皆さん、ご協力有り難うございました。大変参考になりましたし、お陰で命まで助かりました。これから皆様によりよい物をお届けできるように上司を説得してきます。それでは」