タイトル:星彩の射撃手マスター:玄梠

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/16 19:06

●オープニング本文


「マルート・スタン・インディア本社からの業務命令です」

 MSI本社内に置かれた、MSIとは異なる『本社』の会議室。
 アステリズム・アーマメント・システムズ。MSIの傘下で歩兵用銃火器の生産を行っているこの会社は、俄に沸き立っていた。
 戦場がエミタ適合者達の舞台へと移り、メガコーポレーションの生産するナイトフォーゲルが戦力の主役となった今、敵を間近にしながら小さな火器の生産しか任されない下請け。それが、急に親会社からの指名を受けたのである。良きにしろ悪きにしろ、AASにとっては逃れられぬ、大きな分岐点であった。
 本社からやってきた男は、僅かな通達と、書類の入った分厚い封筒だけ残してさっさと帰っていった。
「アステリズム・アーマメント・システムズは此方で規定した期間、一部のナイトフォーゲル関連部門を所有。新型機の設計から開発までを行い、MSIに良い結果を見せてください。以上」
 居並んだ面々の殆どはぽかん、とした表情のまま固まり、言葉の意味を理解した一部の人間が同僚の肩を叩いて喜ぶか、目の前に敷かれた茨の道を想像して顔を赤くしたり青くしたりしていた。
「上が私達に任せたのだ。『私達の出せる結果』を、期待しているに違いない」
 彼等の結論は早かった。しかし、限られた期間と求められる結果を考えると、どうしても慎重にならざるをえない。
「ナイトフォーゲルを一から開発するノウハウは、我々には無い。だが、『射撃に必要なパーツ』を考えるノウハウは、ある」
 ナイトフォーゲルの為のライフルを。
 転じて、銃を撃つ為のナイトフォーゲルを。
 新型KV開発計画『プロダクトGS』が始動し、AASは動き始めた。
 しかし、重要な所で意見が割れるのが集団の常。
 最初の試作型ライフル、仮の名をAAS−KVW001S『スラスターライフル』、が完成した所で、銃器設計の担当者がコンセプトの食い違いを理由に分離を始めたのである。
 スラスターライフルは瞬間火力を高めるためにチェーンガンのシステムを持つマシンライフルであるが、その構造上どうしても重く、反動も大きい。それに対して「こんな重くて扱いづらいライフルを造るより、先ず使用者である傭兵の要望を聞くべきだ」と異を唱えたデザイナーが居たのだ。
 決まりかかったスラスターライフルの採用だったが、これにより状況が一変。新型KVのコンセプトライフルとするライフルは、傭兵達の意見を元に決められる事になった。

 高負荷を抱えつつ瞬間高火力を標榜する「スラスターライフル」を推薦し、更に発展させるのか。
 新たに意見を揃え、もっと現場に擦り寄ったライフルを一から作り上げるのか。
 『プロダクトGS』の結果をも左右する、分岐点である。

●参加者一覧

御山・アキラ(ga0532
18歳・♀・PN
暁・N・リトヴァク(ga6931
24歳・♂・SN
柊 香登(ga6982
15歳・♂・SN
レイアーティ(ga7618
26歳・♂・EL
魔宗・琢磨(ga8475
25歳・♂・JG
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
エドワード・リトヴァク(gb0542
21歳・♂・EP
チェスター・ハインツ(gb1950
17歳・♂・HD

●リプレイ本文

●試作型

「使わない限り、良し悪しは解らない‥‥」
 射撃実験場に機体が搬入され、ケースに収められていた荷物の紐が解かれる。
 魔宗・琢磨(ga8475)が自機を屈めてそれを持ち上げると、ぐん、と関節に掛かる負荷が音になって聞こえた。
 試作型スラスターライフル。パネル上で変動した数値を見るに、装備表記上の重量不可はやや高いか。
 登録のない武装の為、セットアップに普段より時間がかかったが、特にエラーを出す事なく準備は終了した。
『AAS−KVW001S   READY』
 弾数表示は最大。しかしライフル自体の火器管制系がチェーンガンの駆動回転数を固定しており、一回の発射数に限りがある。画面表示の上では歩兵の携行弾数から考えると多く思えるが、機械が撃ち出す弾丸量としてはまだ基準値だ。
『こちら管制室、防弾フェンス起動完了。バルーンを出しますので、エリア内で試行してください』
 テスト用のペイント弾。無殺傷弾頭とは言うものの、勿論反動もテストの内で弾体重量も火薬量も減らしていない。流れ弾でなくとも、高速で撃ち出される塗料は窓硝子程度なら破ってしまう。
 このテストの様子を眺める仲間達は、射撃場を見渡せる管制室。防弾フェンスを越えた防弾・防音ガラスの向こう側に居る。
 全周囲、そしてヘリでの空撮を交えた複数画面でのチェック体勢だった。
「チェーンガンのシステムを使ったライフル‥‥熱でライフリングがやられそうだな」
 御山・アキラ(ga0532)が画面に映ったライフルの形状を見て呟く。
 人体工学を用いた昨今のライフルを意識したらしく、流線型の、悪く言えば玩具的なフォルムを持つ試作型スラスターライフル。部品を装甲でパッケージしたような箱形構造は、銃本体の強度を高める代わりに放熱性を悪化させていた。
 そして、その放熱性を補う為の冷却器を追加した事により更に重く、バランスを悪くしている。
 魔宗の機体、ディアブロが直立の状態からライフルを撃つ。
 両手で構えた一般的な射撃スタイルから、一瞬にして大量の弾丸と、大量の空薬莢が吐き出された。
「うッ‥‥!」
 スラスター。推進装置の名を持つように、マズルスリットや機関部の排莢口からは猛烈な勢いで炸薬の残滓がガスと共に吹き上げる。
 照準が大きく逸れる程の跳ね上がりは起こらなかったが、グリップを握る腕部のアクチュエーターが震動を吸って微細に軋んだ。
「‥‥とんでもない反動だな、これは‥‥下手に振り回したら手首からもげるんじゃないのか‥‥?」
 反動に注意しつつ、今度は移動射撃を試す魔宗。やはり反動は大きく、手首を軋ませるが、今度は銃本体のバランスの悪さが機体全体のバランスを悪くしている事が分かった。
 機関部と冷却器それぞれが同じ様な重量を持ち、振り回す事で不均一な遠心力が機体の足に負荷を掛ける。余程大きく動かさなければ意識しない程度だが、これが回避行動となれば影響を与えそうだ。
 機体の操縦に長ける御山やレイアーティ(ga7618)、御崎緋音(ga8646)も画面上の動きでそれに気付き、確認のように視線を合わせた。



●AAS−KVW

 会議室には試作型スラスターライフルの簡単な仕様書やホワイトボード、先程の試射を映した映像資料が持ち込まれ、水差しの代わりにラッシーの瓶がどんと置かれていた。
「‥‥困ったねぇ」
 スラスターライフルのデザインを担当した設計屋の男が苦笑いを浮かべる。
 達成不可能な難題が突きつけられたからではない。想定以上に、傭兵達が価格対成果を厳しく見ていたからだ。
 勿論希望価格はAASが提示するわけだが、ULTがその通りに管理・販売を行う訳ではない。
 値段を抑えた量産品を作った所で、それが傭兵達に行き渡るよう設定されるかどうか。
「ひとまず01S‥‥僕のスラスターの方から考えようか。大分意見は纏められているようだけど‥‥」
 射程20、攻撃回数4前後と、傭兵側からの具体的な要望が出され、柊 香登(ga6982)がホワイトボードに現在のカタログ表記と比較を書き出していく。
「と、まぁ。スラスターの方は少し口径を抑えて、構造見直しかな」
「現在市場にあるマシンガン類は空中戦時の射程に不安がありますし、射程の長いミサイルやスナイパーライフルはそれぞれリロードの手間や弾切れの不安があります」
 レイアーティがホワイトボード上のの数値、攻撃と命中に点を打ち、話を続ける。
「攻撃や命中はあえて重視しません」
 一部の性能に特化した機体の例を挙げ、問題が威力などのスペックより利便性にある事を強調する。
「俺は‥‥こうかな」
 暁・N・リトヴァク(ga6931)が、今度は攻撃力を維持したまま基本姿勢を貫く案を挙げる。
 とは言え、懸念であった命中精度も流石に銃器メーカーの作、一寸した+程度は維持しているから、現行と大きく変わる所は無い。
 御山とチェスターも威力は維持か重視、反動に関しては多少重量を増しても緩衝材を追加するなど、重火器としての趣を強くしている。
 ただ、御山がついでに言った「チェーンガンのシステム使って散弾ばら撒く武器とかどうかな」という言葉が悪かった。
 いや、悪かったという表現も良くない。ただ設計屋の厭なツボを突いてしまったようだ。
 その場にあった紙を引っ掴むと、ペン一本で輪郭を描き始める。猛烈な勢いに、しばし議論が中断した。
 書記をしていた柊が、ペンの止まったタイミングを見て意見を出す。
「弾丸に軽く硬度の高い合金を使って、安定翼を付けるというのは?」
「APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)の方式かい? 確かに昔からタングステン合金を使う手はあるけど、あれをやるにはもっと大きな火砲になる」
 ずっと自分の描いた物を眺めていた設計屋がようやく顔を上げ、しかし相変わらず何処か違う所を見ている顔で答える。
「あの‥‥」
「‥‥あぁ、いや、フレシェット弾かな? それでもやっぱり弾体のサボとパッケージ構造はスラスターの連射力には向かないかな。あの弾体パッケージ技術は多分作っても他所は買ってくれないだろうし。うちはMSIの完全子会社だけど、そりゃあ他所に卸せるぐらいの物は作りたいしねぇ‥‥」
 勝手に話を進め出した設計屋に冷たい視線が集中し、スラスターライフルが何故特化型になったのかが理解された。
「えぇ、と‥‥では、新規に生産する方のライフルの話も‥‥」
 チェスター・ハインツ(gb1950)がぎこちなく割って入る。それに合わせ、部屋の隅に座って話を聞いていたAASの社員が立ち上がった。
 試作型スラスターライフルに異を唱えたもう一人のデザイナー。此方は若い女性だが、どことなく『デザイナー』という気風をはき違えていた男とは正反対の、数値詰めで動くようなイメージだ。
「宜しくお願いします。此方は完全に目標からの書き出しとなりますので、皆様の意見次第です」
「KV型の突撃銃があればいいかもしれない。発展性の高い突撃銃とか‥‥」
 暁の資料を踏まえた意見に、我が意を得たとばかりにメモを書き進める女性デザイナー。
 傭兵達の懸念であった値段や流通量の問題。簡易生産型も視野に入れながら、方針が定まっていく。
 中心としてはエドワード・リトヴァク(gb0542)の挙げたコンセプト。コンパクトな本体に三点バーストで火力を維持し、マウントレールにアクセサリーを搭載する事で複数の要望に応えるタイプになりそうだ。ただ、フルオート切り替えは機体負荷と取り扱い事故が多い事から少し難しい顔が返ってきた。
 チェスターが超高射程のスナイパーライフルを挙げたものの、試作型スラスター以外の実品がまだ完成していないAASにとって、SES機関の高維持性が要求されるスナイパーライフルは鬼門に近い。
 Concept−Ready Of Multitask。クロムライフル。
 スラスターライフルと合わせ、その成果が完成するまでのそう短くはない期間。
 傭兵達には戦火近付くインドの直中で、気の休まらない休暇が与えられていた。



●プロダクトGS

「オーライ! オーライ!」
 数日の突貫作業ながら、コンテナに梱包された物は塗装以外商品と言って差し支えない出来映えだった。
 既に殆どが完成していた一丁と、歩兵用装備の発想をKVに積み替えた一丁。
 地金の浅い灰色と、機関部の鈍い黒さが強い陽光を照り返す。
 AAS−KVW001GS/スラスターライフル
 AAS−KVW002GS/クロムライフル
「これは‥‥高く付きそうですね」
「一応、スラスターの希望価格は要望に近い形で計算を出していますが、クロムの方はオプションを同梱する事を考えてやはり高めに」
「オプションを?」
「元々そういう設計のプルパップ式ですから。ただ、基本パーツのみの流通版も安く出すつもりです」
 御崎の懸念からすれば、クロムライフルの方は一般販売には乗らない可能性があるラインだろうか。
「現在主要なパーツから製作を始めているプロダクトGS‥‥ガンスリンガーですが、この二丁は専用FCSとの連動も検討しており、総合的な卸し数は予定より減るかもしれません。もちろん、実際に販売が開始されても此方で予定する値段を超えてくる可能性があります」
 クロムライフルを担当した女性設計士が淡々と説明を進める。
 KV整備用のハンガーは、出荷前のディアブロや次期量産機の数種が最終チェックのために立ち並んでおり、本社の人間に紛れて作業を進めるAASの人間はやや肩身の狭い気分だった。
 本来はどちらか一丁、選定の上で運び込まれる予定だったのだが、両銃が立ち並ぶ事になったのは魔宗の発言に拠る物が大きかった。
『あくまで、個人的な意見としてっすが‥‥銃を撃つ為のKVってんなら、一つに拘るんじゃなく、色々な銃を使えるのが一番だと思うんっす』
 会議の最後、まだその段階では目標算定も甘かった実機に関する意見。
 軽量機、重量機。装甲型、高機動型と様々な意見が出たが、この二丁、強襲用突撃銃スラスターライフルと、ニュースタンダードを標榜する汎用突撃銃クロムライフルの両方を取り扱え、振り回せるような器用さを求める事となった。
 ともあれ、今完成しているのは目の前の二丁。
 ハンガーから射撃場へと運び出し、販売前のテストがてら、未売品の試射会となった。
 両銃共に完成品は一丁ずつ。人数分は無い事から、各機順番にライフルの手応えを試していく。
「以前見た時より大分素直なようですが‥‥」
 レイアーティの乗機、かなり手の加えられたディアブロが軽々とスラスターライフルを取り回し、ターゲットバルーンを減らしていく。
 冷却器の搭載を取りやめ、装甲を放熱板代わりにする事で重量を抑えた作りにはなったが、その分跳ね回る銃身を制御するために半ば腕部に固定するような装備方法になっている。
「緋音君、そっちは?」
「反動も少ないし、遠距離でも安定してます。後はちょっと組み立てが‥‥あっ」
 クロムライフルのコンテナに同梱されていた、精密射撃用の光学スコープと換装用ロングバレル、固定用のバイポッド。
 KVの手を使う為、戦闘中に組み上げるには少し厳しいが、狙撃仕様への換装が可能だった。
「噛み合わせがこうで、ボルトが‥‥よし」
 雷電の手から落ちたバレルを拾い上げ、手描きの説明書を見比べてパーツの交換を済ませる御崎。
 モニター上に光学スコープから送られる狙撃視点の映像が浮かび、ワームを模したターゲットバルーンの継ぎ目までが見える。
「通常モードのプルパップ・アサルトライフルから、パーツ交換により狙撃対応する汎用ライフル‥‥か」
 三点バーストでも銃身が逸れないようにバイポッドを地面に立て、半ばしゃがみ込んだ形で狙撃を行う大柄な機体。
 SES機構の補助も兼ねるロングバレルが有効射程を伸ばし、説明通り高額な一丁となる事を思い出させた。

 翔幻の中から試射の様子を記録していたチェスターが、粗方ながらスペックを割り出していく。
 スラスターライフルの射程が陸戦の優秀値付近なら、クロムの方は空戦に対応可能か。狙撃仕様に入れば一歩先まで狙える感じだ。
 火力の面では矢張り元々のコンセプトの違いから、スラスターライフルに分がある。クロムも三点射があるから射撃武器としては及第点の威力だが。
 命中の面ではクロムの安定性が勝り、頑強さは構造体を装甲で覆った分スラスターライフルが上手か。もっとも、機関部の複雑さから言えば似たような物かもしれない。
 観測中も輸送機が慌ただしく離着陸し、否応なくアジア戦線の状況を感じさせる。
 MSIの子会社であるAAS。彼等がこの銃を持つ機体を作り上げるまで、かなりの時間を必要とするだろう。
 銃手の瞳が星彩を持つまで、未だ‥‥。