タイトル:MSI第二開発部の場合マスター:玄梠

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/09/22 10:56

●オープニング本文


 マルートスタンインディア社、略称MSI‥‥インドに本社を置くメガコーポーレーションの一つである。
 高い攻撃力で多くの傭兵に愛用されているディアブロを作り出したメーカーとして、能力者にとっては有名だろう。
 その本社ではインド戦線の戦況悪化に伴い、反抗のため急遽新型機を投入することになった。量産試作機として既に4機種が完成してはいるが、工場ラインの関係ですぐに量産できるのはそのうちの一機種のみだ。

 ディアブロに見られる、白兵戦意識を強く持つ第二開発チームでは、二種類の格闘型機体を準備していた。
 一つは先行して計画の立てられていたペインブラッドを見直し、近〜中距離への対応、及びエネルギーパックを廃する事でアグレッシブ・フォース技術の応用であるダークフォース・システム(DF・S)を搭載した、もう一つのペインブラッド、デッドリィライトニング搭載型。
 空力を意識しつつも奇異な形状を持った装甲。その隙間からは、電磁爆撃=デッドリィライトニングを発動させる為の発震素子が覗いている。研究用光学・フォトニクス素材を生産しているアステリズム・フォトニック・テクノロジー(AFT)が本社の発注を受けて急遽卸した部品であり、この試作機を壊すと部品の修理・調整だけで数十人の休暇が吹っ飛ぶ代物である。

 もう一つは、基本形態を人型として取る格闘型。
 独特の『鼻っ面』と『獣耳』を持ち、その特異な形状から半人半獣の神、『アヌビス』の名を与えられた機体。
 本来は砂漠や山岳地帯を走破すべく、四脚歩行を行う英国のワイバーンや銀河の阿修羅をイメージして作られた機体だが、それらの機体が刃物を口に咥える様を見た開発部が方針を変換。限りなく人の姿のまま、シームレスに飛行へと移行するという難解な問題へと取りかかった。
 その結論として、変形後主翼やメインブースターなど推進系の主力となる物を半ば独立化。可動域の広さから陸上においても跳躍時の補助ブースターや空中での姿勢制御、二段跳躍に用いる事が出来るなど、副産物とも言える立体的な戦闘機動が可能となる。
 同じ頃、敵HWの捕捉系に対し有効であるとされていたラージフレア技術の研究も進み、その有用性から性能面で特筆すべき部分の少なかったアヌビスへの搭載が決定した。
 白兵戦用ラージフレア『鬼火』。
 近距離において立体的な運動の出来る機体だからこそ、目視以外の『目』を封じる重力波攪乱装置が有効となる。

 今回は同様に傭兵からの意見募集を行う二機同様、此方の二機の要望調査、評価試験も兼ねている。
 更に言えば得票によって今回の優先量産機が決定される為、アヌビスの開発チームもこのテストには気が気でない。
 此方の窓口では、DH−179「アヌビス」、及びFP−199「ペインブラッド(DL)」の意見を受け付け、両機を用いたシミュレーションも可能となっている。
 この二機を用いた戦闘、その可能性を試行して欲しい。
 

●参加者一覧

霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
柊 香登(ga6982
15歳・♂・SN
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
エメラルド・イーグル(ga8650
22歳・♀・EP
エレノア・ハーベスト(ga8856
19歳・♀・DF
烏谷・小町(gb0765
18歳・♀・AA
ヴェロニク・ヴァルタン(gb2488
18歳・♀・HD
狐月 銀子(gb2552
20歳・♀・HD

●リプレイ本文


●ドッグ・ヘッド−179

『規定モード・トレーニング。シミュレーションプログラムを開始します』
機械的な晴天から始まったモニターの風景。
MSIの社員が管理する中、狐月 銀子(gb2552)の駆るペインブラッド・デッドリィライトニング搭載型と、エレノア・ハーベスト(ga8856)、守原有希(ga8582)、霞澄 セラフィエル(ga0495)の三名が駆るアヌビスがその脚を競っている。
基礎構造にディアブロの経験を強く持つペインブラッドに対し、元々方針転換が行われるまで四脚の陸戦機とされていたアヌビス。
巡航速度のカタログ値比較でこそ勝っていたペインブラッドだが、主要推進系を半ば独立させているアヌビスは空戦時に使用しない部位の消費をカットする事で、このスペック値比較に無い彼我速度差を埋め合わせていた。
「推すのはアヌビスだけど、期待してるのはこの子だしね♪」
搭載装備にG放電装置を選択した狐月は、前方を飛ぶ三機に照準を合わせる。機動性調査の割りに高命中な武装だが。
「G放電!? 回避運動!」
守原、エレノアがブースターを吹かして機体を傾ければ、霞澄はその操縦適正を以てブースター基軸を動かしての強烈な軌道を画く。
しかし、如何にアヌビスが優れた運動性を発揮しても、素の状態でG放電装置の命中力から逃れるのは無理に等しい。
発射された3発全てが命中し、装甲面がデジタルの煙を噴出させる。
「っつぅ‥‥一寸多めに持ってかれた?」
「G放電でこの威力、あちらさんの適正でっしゃろ‥‥アヌビスが脆いんもありそうやけど」
「丁度良いですし、小破のシミュレーションで緊急着陸してみます。管制室?」
『了解。アヌビスの降下シーケンス、誘導開始します』
霞澄が機首を下げ、高度を落としていく。地上では烏谷・小町(gb0765)とヴェロニク・ヴァルタン(gb2488)、柊 香登(ga6982)がペインブラッドの電磁爆撃を試している筈だったが、別処理なのか画面外なのか、姿は見えない。
「降下速度が‥‥よし、行ける‥‥?」
やや低速で陸上戦域に侵入する機体。シミュレーションシステムの都合上、AIの補助無しで作業しなければいけない部位が幾つかあった。
アナログな入力操作によりアヌビス本体の四肢に出力が戻り、ブースターの噴射が降下速度を徐々に相殺していく。
『アヌビス3、侵入角度が超過しています。ウイングを展開してください』
「了解」
翼面を広げ、空気抵抗を受けたアヌビスの機体が滑らかに降下し、走輪を出す事なく強靱な脚部が衝撃を受け止める。
着陸角度を緩めた分若干の横滑りはしたが、操縦力の高い人間であれば、あるいは垂直着陸も可能かもしれない。
機体損耗率を弾き出し、ふとレーダーを切り替えれば、上空では孤月が空に残った2機を追い回している。
「しつこい子やねぇ‥‥!」
「うちも降下します!」
隣のレーンに沿うように守原の機体が高度を下げ、先程霞澄が行ったように滑らかな軌道で地に足を着く。
それを見届け、アヌビス3、霞澄機は離陸体勢に入った。
手元のパネルに表示される動作順序をマニュアルでこなし、外部を映す画面に理想離陸ルートがCGで映る。
(「ん‥‥?」)
画面に映るのはあくまで機体に無理を掛けない理想離陸ルート。KVが一般的に取るべきコースでしかない。
過剰な自信でなく、霞澄にはそれが無駄に見えた。
アヌビスの足の裏にある走輪が地面を蹴る。おおよそ20mも走った所で、展開したウイングが風を掴んだ。
「ブースター!」
跳躍。腰部ブースターが戦艦のカタパルト並の質量で機体を押し出し、機首が上がったまま速度を上げていく。
本来の加速距離を短縮し、急激な角度で上昇していくアヌビス。
計器類が目まぐるしく変化し、機体は僅かな時間で再び空戦地域に戻った。
「ふぅ‥‥」
実機であれば無謀の限りだが、シミュレーター上であれば許容範囲内か。
見れば、翼部ジョイントに負荷過剰のアラートが出ている。
シミュレーション中の記録画像を確認する限り、G放電の被弾箇所。被弾による耐久度低下なら、急速離陸の影響では無さそうだ。
『アヌビス3、実機の準備が出来ましたので、シミュレーターを終了してください。1時間の休憩の後、実機運転に入ります』



●フォース・ペイン−199

「結局、どちらにしました?」
MSIのレクリエーションルームに通された空戦組4人。残りの4人は既に思い思い休憩を取っていた。
責任者が替わった頃からか、何故かあちこちの工場、研究施設にこういったレクリエーション施設が設けられていったらしい。
先に休憩を取っていたうちの一人、アヌビスの武装に関して提案をしていたエメラルド・イーグル(ga8650)はシミュレーターの使用も希望していたが、開発部の要望により机作業に巻き込まれていた。
「あたしはアヌビスを推すわ」
「うちもアヌビスに」
「うちもー」
「スペック上でなら、私も‥‥」
ペインブラッド推しの意見は少なく、むしろ改良案の意見が多い。さほど突飛な技術の使用されていないアヌビスに安定感を感じるのだろうか。
「でもねぇ‥‥」
冷房の効いた部屋で、常在の調理師が煎れたチャイを啜りながら不満を零す狐月。
「量産するのなら、数が欲しい機体を作るのが基本よね。近距離で華麗に立ち回るのはエース機で良いのよ。ずらりと並べたいのは数に任せた火力で圧倒できる駒ね。そーいった意味だと知覚が高くて中距離をカバーできるPBが量産されるべきね。ただ、今回推さないのは、DL仕様のこの子じゃ完成度が低すぎるから‥‥今後に期待ね♪」
「僕も暫くは熟成が必要だと思うかな。整備性も問題があるみたいだし」
シミュレーターの中で感じた事を書き出していた柊が、狐月の意見を引き継ぐ。
「抵抗値は高いように感じたけど、華奢だし、特殊能力を活かすには生存力は低く感じたかな」
「まぁ、現状で完成度の高い方を選ぶしかないわね」
今回のように、資料として取得された挙動データはモーションプログラムとして整頓され、機体ソフトウェアやAIに経験値のような形で学習される。
機体能力の一つが通常挙動の延長線上にあるアヌビスではあるが、乗り手によっては学習する程の挙動が得られない事も、開発部では想定されていた。
瞬間的な破壊力ではペインブラッド・デッドリィライトニング仕様に劣るアヌビスの、ある種有り物で間に合わせるしかない事を示す苦肉の策である。

休憩を終えた傭兵達はエアコンの効いた快適な室内から、熱砂吹く射撃訓練場へ。
ペインブラッド、アヌビス共に人数分準備されていたが、一機だけ、手足の形が妙なアヌビスがあった。
機体番号からすると、エメラルドに割り振られた機体だ。
「‥‥あれは?」
「あぁ、はい。エメラルドさんの意見を元に、『武装として』アヌビスが四つ脚だった頃のパーツを取り付けてみたんです」
「四つ脚?」
「アヌビスは、元々英国のワイバーンや銀河の阿修羅に近い形状が与えられていましたから。その頃の爪を腕部装備に、脚部フレームの構造材を脚に取り付けてみました。臨時仕様ですが、これで徒手での戦闘にも耐える筈です」
走り書きの仕様書が渡され、暖機済みの機体に乗り込む。
訓練場の端の方では、安全圏を確認した上でデッドリィライトニングのテストが始まっていた。
G放電系の装置とも異なるらしい技術を用いたその武装は蓄電状態で青白く発光し、SES機関の稼働に比例して光を強めていく。
『励起状態でのランですか?』
「足があれば、能力も活きて器用に間合いを調節できる知覚型になると思うとです。知覚武器は中距離以遠の武器が割と多かですしね」
守原が何往復か機体を回してみたが、全体重量が低い事から俊敏性こそあるものの移動ムラが酷く、結果データ上はディアブロとそう変わらない事が分かってきた。
「てぇぇぇあっ!」
そして疾走するペインブラッドの真上を、腰部ブースター補助による跳躍で飛び越えていく鳥谷のアヌビス。
跳躍軌道は綺麗な放物線を画いたが、運悪く、ブースト後の着地地点に守原の機体が滑り込み、互いに重なるようにして大転倒してしまった。
「痛ぁ‥‥何処見てん!」
「んが悪かやっか!」
消費は通常のブースターの半分以下だが、そう何度も使えそうにない。跳躍なら跳躍、回避運動なら回避運動で一回ずつに押さえておかなくては、燃料の前に噴射口がオーバーヒートしてしまう。
隣のスペースでは、柊がラージフレア『鬼火』の効果範囲を検証しようとしていたが、そもそも重力波攪乱装置である為、バグア側の機体でもなければその影響度を実数値で測るのは難しい。
他にも正確な数値の明示が求められていたが、そういった情報は基本的に広報部が差し止めているらしく、外部に漏れる形では表されなかった。
理論値と実測値、計測値とUPCに提出するカタログ値、先行量産機と実際の量産計画に則った機体とでは差が出てしまうから、らしい。
「‥‥‥‥」
覚醒し、無口になったエメラルドは、バッドライトニングの出力調整が終わるまで手の空いていたヴェロニクを誘い、アヌビスの陸戦性能を試す。
ヴェロニク機はデフォルト装備の杖。エメラルド機は急拵えのナックルとフットコート。
「いきます!」
自機にある種の好奇心を抱きつつ、杖を振らせる。
(「跳躍‥‥ブースト補正。こうですか」)
遠心力を持って横薙ぎの軌跡を画いた杖が、垂直に跳躍したアヌビスの足元を掠めていく。
「え‥‥っ!?」
空中で振り上げられた脚が、攻撃後のがら空きになった上体へと落とされる。
踵落としとも言えない、目標の肩に着地したような一撃だったが、バランスを崩していた機体はその場に膝を突いた。
『アヌビス7番、大丈夫ですか?』
「はい、衝撃はありましたけど、ダメージはあまり‥‥」
冷静な声でダメージリポートを読み上げるヴェロニク。
かと言って、これ以上機体を傷付けてはいけないと、今度は出力調律の終わったペインブラッドに乗り換える。
と、乗り換え中にエレノアが何か、外部スピーカーで研究員と話しているのが聞こえてきた。
「一寸、この数値おかしいんと違います?」
『いえ、そんなはずは‥‥』
「さっきから試してますけど、『デッドリィライトニングの待機中と発動後』で偉い抵抗値に差があると思いまへんか?」
『いえ、はぁ、はい‥‥し、調べてみます』
「ほんに‥‥お願いしますえ?」
小さい体から発せられる威圧感に、研究員の方が折れたようだ。
『はぁ‥‥ペインブラッド7番、消費量を上げて威力を高めていますから、気をつけて下さい』
安全地帯を確保した所で、兵装をデッドリィライトニングに切り替える。
遠くの方では青白い光がドーム状に膨張し、何かが破れたような雷音の後、少し遅れて空気の膨張したような爆音が響いてきた。
「あれが‥‥」
光の晴れた中に、誰が乗っているのか、ペインブラッドの黒い装甲が照る。
自身も出力を装備に割り振り、発振素子が徐々に光を帯びていく。
高出力の装備を扱う負荷か、汗が引かない。AIが多少の制御はしてくれるとは言え、AU−KV無し、無防備。
体のすぐ傍で先程の爆発が起ころうとしていると考えると否応なく緊張感は高まる。
『ペイン7、蓄電圧が超過気味です、制御を』
「はい‥‥!」
汗で滑る指でエネルギー供給を制限。内部制御のエラーか、冷房の筈の空調が酷く熱い。
電圧の高まっている音なのか、キャノピーの向こう側でヂヂヂヂヂヂと連続した音が響いている。
それが何か、小さな破砕音に変わった瞬間。
「何?損傷警報が―――っ!?」
ペインブラッドの肩部装甲が弾け飛ぶ。次いで発振素子を覆う大腿部装甲が、脚甲部が白煙を噴き、本来放射まで隠されている部分が露出する。
発振素子と、それを覆う機体構造自体が貯蓄したエネルギーに耐え切れず亀裂を生じさせ、自壊。均等な筈の出力を歪めさせていた。
自爆。雷光の奔流は外部に放出されきらず、横殴りの衝撃となって機体を横転させた。
「!!」
「何や!?」
今までの其れとは規模も倍近く異なる光球。突如その光の中から転がり出た機体に、慌てて駆け寄る7機。
発振素子の殆どは破損し、白煙を噴いて停止している。金属の軋む厭な音と、鼻を突くイオン臭が辺りに漂った。
「コクピットは!?」
「だ、大丈夫、です‥‥」
横転した衝撃でハーネスに酷く吊られたが、シート部分は爆発に巻き込まれず済んだようだ。むしろAI制御の煽りか、急な緊張の影響なのか、体に酷い怠さがある。
ヴェロニクが自力で機体から離れたのを確認し、霞澄が通信を開く。
「管制室、応答して下さい」
『はい、今救護を回しました。機体には触れないでおいてください』
「‥‥テストは終了ですか?」
『はい。‥‥ですが、原因は把握できています。通常使用外での事故として処理しますので、DF・Sの設定がデフォルトのままであれば問題ありません』
誰もが「そういう問題じゃないだろ」と思いつつ、救護の来るのを待ってから引き上げていく。
過剰供給を受けたデッドリィライトニングの暴走により、機体が自身の放電圧に耐えきれず半壊。搭乗者も操縦負荷のフィードバックを受けてしまった。
もしこの機体に票が集まっていたら。おそらく、第一開発部の側で選抜された物に軍配が上がっていただろう。
傭兵達の目は正しく、その意見を元に第二開発部の中でもペインブラッドは再度見直しの判を押される事となった。
練力問題や装甲、回避性能など、挙げられる問題点の多さから、おそらくは設計段階からのテコ入れとなるだろう。もっとも、最大の問題は搭載装置の安全性だろうが。
第二開発部の推薦機体は、DH−179「アヌビス」。
果たして、第一開発部の選び出した機体を抑えて選ばれる事が出来るのだろうか。
上層部の判断を待つ、胃の痛い日々が、第二開発部を待ち受けている‥‥‥。