タイトル:『箱』マスター:玄梠

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/06 22:02

●オープニング本文


「依頼の概容を説明する」

 この忙しい時期に、と言わんばかりの投げやりな声音。
 それは突発的な依頼だった。通常、傭兵に回されるような仕事ではない。
「目標は、アステリズム・アーマメント・システムズ‥‥AASが民間企業に輸送を委託していたコンテナの回収だ。合計4つ。MSI本社工場から近所の基地に輸送中、天候トラブルに巻き込まれて輸送機ごと落下したそうだ。まぁ、事故とは言え手間を増やしてくれる物だよ」
 状況の切迫した今、一企業、それもメガコーポレーション・MSIのあくまで『子会社』でしかない企業の物品回収に手を貸している余裕はあまり無い。
 それでも、この女性オペレーターが嫌々依頼文を読み上げなければならないのには、それなりの理由があった。
「このコンテナ、一つは基地への仕送り‥‥弾薬の類だが、残る3つが重要らしい」
 オペレーターが予備資料として渡されている『重要貨物』のリストを手元に寄せ、内容を読み上げていく。
「一つは、AASが対敵大型機用に特別試作・開発した『アンチ・ギガワーム・ライフル』。非売品だ。もっとも、実際にギガワームを撃った試しも無ければ、流通予定すら未定らしい。ようやく完成した虎の子の一丁がこのザマだ、せめて回収か、無傷なら再配送で終いだろうな」
 ふん、と一つ鼻で笑い飛ばし、ページを捲る。
「もう一つは、着弾観測用の計器。まぁ高額とは言えただの機材だ、独占技術でもない。最後の一つは‥‥何だ?『プロダクトGS』? ‥‥テスト用『高処理FCS』のチップと、KV用頭部部品だそうだ。技術的に見ても、AASからすればこれが本命という事だろう」
 添付される資料は読み上げられる以上に多いが、内容はシンプルだった。
 ようするに落とし物を拾って持ち帰る。
 無論、ただの運送屋に出来ない事情があるのだが。
「さて、此処からが本題だ。安全圏である筈のこの空域で、何故傭兵が派遣されなければならないのか」
 表示される文字に、見覚えのある型番が混じる。
 傭兵なら誰もが知る、あの機体。そして他にも複数の番号が。
「今回の敵は他企業のハイエナ共だ。もっとも、こいつ等を確保して追求した所で何も出まい。奴等も所詮、雇われた『傭兵』だからな。S−01が3機、バイパーが1機、パーソナルカラーのワイバーンが1機と‥‥何処の金だか知らんが、彼方さんも大分奮発したらしい」
 馬鹿馬鹿しいが、と呟く彼女。
「同じ傭兵だからと遠慮する事はない。こんな状況に金一つで動く連中だ、それなりの覚悟があるか、ただの馬鹿さ。奴さんもサルベージ気分でのんびりとやっているそうだ、装備を調えていく時間ぐらいはあるだろう。それでも急ぎたい奴は燃料の消費を覚悟するんだな。‥‥説明は以上だ、後は自分で考えろ」
 半ば呆れたような薄笑いの表情で依頼文を読み終え、画面は途切れた。

●参加者一覧

ハルカ(ga0640
19歳・♀・PN
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
ファルティス(ga3559
30歳・♂・ER
クラーク・エアハルト(ga4961
31歳・♂・JG
カルマ・シュタット(ga6302
24歳・♂・AA
魔宗・琢磨(ga8475
25歳・♂・JG
天(ga9852
25歳・♂・AA

●リプレイ本文


●BOX

『コンテナをこのラインまで運んでくれば、後は私が回収を行う』
「‥‥なぁ、あのオペレーターさん、何で付いてきてるんだ?」
「さぁ‥‥何か、傭兵の出らしいですけど」
 魔宗・琢磨(ga8475)が後方に立つR−01を見て一言。民間機のドライバーが返して一言。
 味方の帰還ライン付近にはあの口の悪いオペレーターがその他作業員の機体までを待たせ、運ばれてきたコンテナを即時に輸送機へ積み込む準備が出来ていた。
 大型トラックのロゴは殆どが輸送を委託された民間企業の物だが、中にはMSIから派遣されてきたらしい物もある。
 しかし、まるで監察官のように彼等を従えるオペレーター。トラックに紛れて仁王立ちし、荷物を待ち構えるR−01だけが異様ではあった。
「まったく、この非常時に‥‥」
 ファルロス(ga3559)のウーフーが敵傭兵の様子をモニターし、大まかながら太陽光で熱量を持ったコンテナの配置も記録する。
 A〜D班に分けた内、自陣から見てやや北に荷が集まっている。ただ一つ、反対側に転がった箱もあるが。
「変な所に落とさないで欲しいものです‥‥」
 ファルロスと組む夕凪 春花(ga3152)が送られてきた配置を見て呟く。
「傭兵ね‥‥あんな輩と同類に観られたくはないものだが‥‥」
 そして、一括りの呼び名に不満そうな天(ga9852)の呟きも。
「相手が悪かった事を思い知らせてやろうか」
 突出して火力の高いカルマ・シュタット(ga6302)のディアブロが先んじて動く。次いで、月影・透夜(ga1806)のディアブロが。
「こんなときに自社の利益なんてな‥‥報いは受けてもらおうか」
 ブーストを掛けて一気に距離を詰め、砂の多い荒れ地を脚の車輪で蹴って即座にコンテナの密集した地域に立つ。
 ヒートディフェンダーを盾に掲げつつ、1駆動で50発もの弾丸を撒き散らすヘヴィーガトリングを弾丸の盾にして敵のワイバーンの出足を止めた。
『クッ‥‥冗談じゃない! 楽な仕事だと‥‥!』
 鱗パターンの塗装を持つワイバーン。横並びのS−01がカルマ達の突出に真正面から当たるのを躊躇したのに対し、この機体だけが前に出ている。
 しかしその意気も、月影機のガトリングが持つ威力と捕捉性を目の前にして消沈したのか機体を煙幕の中に隠してしまった。
「ん? ‥‥今の、向こうの声を拾ったのか?」
 スナイパーライフルでワイバーンを捕捉していたファルロスが、憶えのない回線を拾っていたのに気付く。
「女性の?」
 改型ナイチンゲールでスナイパーライフルを掲げていた夕凪も同じく。
 回線が開きっぱなしになっていたのか、ほぼ全機に聞こえていたらしい。
「言葉を交わす必要も無いでしょう?」
 クラーク・エアハルト(ga4961)が自機のオープンな回線を閉じ、味方との連絡用回線のみに絞る。
「敵同士なんですからね」
 その間に全力で移動し、中心付近のコンテナに手を掛けていたクラークの雷電がコンテナの荷札をレンズ越しに拡大する。
 送り先はデリーの補給拠点。中身は弾薬のようだ。
 クラークのフォローに回る魔宗のディアブロ。やや後方に立った為、突撃仕様ガトリングの射程に敵を含める事は出来なかった。
「敵の動きが鈍いですね。怯えているみたい‥‥」
 全体を見渡した夕凪の感想通り、雷電を筆頭としたディアブロ、ウーフーと言った高級機体群に気圧されたように、敵のS−01の歩みは遅い。
 月影の牽制射撃を受けたワイバーン、そしてバイパーも重複掃射した煙幕に隠れてしまい、その姿を現さない。
 夕凪、ファルロスが継続的に煙幕の中へ弾を放っては見るが、あまり反応は見られなかった。
「あったぞ、FCSの方だ」
 カルマ機が隣接したコンテナをその身で庇うように立ち、その後を引き継ぐようにして天がコンテナを防衛。カルマを前に送り出していく。
 そして、それぞれの班が逃げ腰のS−01を追い詰める。
 悲鳴の聞こえるような回避挙動に、圧倒的な性能差を叩き付けるクラークの雷電。そしてロンゴミニアトを掲げたカルマのディアブロ。
「お互いプロで、任務中に出会った。覚悟は完了済みと言う事ですよね? 死んでも後悔しないで下さい」
 攻撃を受け損なったS−01の右腕が溶断されていく。巨躯ながら出力を上げ、超伝導アクチュエータを使用した雷電に、見た目の重鈍さは感じられない。
 一時凌ぎの積もりか、後退しつつ放たれた煙幕弾もクラークは怯まず突進。魔宗もその後からディフェンダーに装備を切り替え追走する。
 案の定、チャンスを待ち構えるでもなくプレッシャーに動けなくなっていただけの機体。
 その影をヘビーガトリングで炙り出し、流れた煙幕の中、震えているような機体にヒートディフェンダーを差し込む。
 爆発する機体で一片に煙幕が晴れ、炭化した残骸が周囲に降り注いだ。
「こっちも行くよっ!」
 ハルカ(ga0640)のR−01改型も月影のディアブロと連係し、実弾の雨で敵の行動を阻害していく。牽制と言うには余りにも重い雨。
 一回の掃射で装甲の3割近くが削られていく。ディフェンダーを傘のように掲げてみても、あまり意味のあるようには見えない。
「透夜君、いけるよ」
 攻撃をS−01の足に集中し、敵の移動を止めるハルカ。
 その間に、KVウォーサイズを掲げた月影の機体が肉薄する。
「トドメだ。修理代は依頼主に払ってもらうんだな」
 苦し紛れの迎撃、ディフェンダーをサイズの柄で弾き、その両腕を斬り落とす。
 ハルカが蓄積させたダメージもあり、S−01は両肩・膝から先を失って機能を停止した。
「どれどれ‥‥」
 手近なところにあったコンテナを確認するハルカ。
 荷札は何か小難しい名前で、持ち上げてもそう重量は無い。観測機のようだった。
 空いたスペースにコンテナを固定し、敵の手から遠ざける。
「あんたの後ろは俺が」
「‥‥すまない、終わりだ」
 天のR−01をブースト速度で離し、一気に敵の懐に飛び込んでいくカルマのディアブロ。
 突き出されるロンゴミニアトの一撃で、S−01の右上半身が内側から爆ぜた。
 ただの一発で機体の半分近くが機能を停止。液体火薬が内部にまで衝撃を飛び散らせた為か、S−01が片翼に積んでいた燃料タンクが誘爆する。
 上半身が黒こげになった機体を廃棄し、敵の傭兵が逃げ出していく。流石にそれに照準を合わせるような真似はしなかった。
「カルマ、横だ!」
「何‥‥煙幕からか!」
 張り続けられた煙幕の壁。
 カルマが足元の人影を気にしている間に、徐々に移動していたその隠れ蓑の中からバイパーがブースト音を響かせて姿を表す。
 特殊能力を駆使して荷物だけを攫おうと目論んだのか、復路を考えていないような消費量で突進したかと思うと、素早くコンテナにアンカーを投げ掛けてそのまま傭兵達の合間を抜けていく。
 荷物は‥‥試作型アンチギガワームライフル。不整地をそのまま引き摺られるコンテナは、揺れて跳ねて、とても中身を心配した動きには見えない。
「こいつ‥‥一気に持ち逃げする気か」
 他の機体は前に出過ぎ、間に合わない。ファルロスと夕凪が、スナイパーライフルの長射程を活かしてバイパーを狙い撃つ。
 流石に頑丈なバイパーらしく、多少の被弾では怯まない。
「この距離なら‥‥当てられる!」
 傭兵の網を突き抜け、直角に曲がったバイパーだったが、いよいよ自陣へと運ぼうと方向を変えた矢先に夕凪の放った弾丸が機関部を穿った。
『!!』
 当たった箇所が良かったのか、悪かったのか。
 一時的に出力の伝達が止まった牽引機の油圧ワイヤーが緩み、コンテナが地面を滑る。
 一瞬バイパーは荷を再回収すべきか迷ったようだが、自らの命を優先させたらしく、ふらつく機体を逃げに走らせた。
「あんたらのいるここは、すでに戦場だ‥‥許せ」
 しかし、逃げ込んでいた先は、カルマの後方支援として回り込んでいた天のR−01の射程内。
 既に何発もの狙撃弾を機体に受けていたバイパーは突撃仕様ガトリングの衝撃に踏ん張る事も出来ず、その身を横たえた。
『厭だね‥‥戦力が全然違うじゃないか』
 バイパーの撃墜を聞き取ったらしいワイバーンも、堪らず煙幕の中から飛び出してくる。
 そのままコンテナを狙うのかとも思われたが、戦力の薄い地域を狙って逃げるような素振りだ。
「抜けようってのか!」
『電子戦機が、邪魔をしてぇっ!』
 火力の高い機体を避け、奉天製グレネード弾の炎をウーフーへの壁にして出来た道へ機体をねじ込んでいく。
「妥協は許さぬ、それが修羅! 一機残らず、地に伏せろッ!」
「待って下さい、深追いは!」
 クラークの雷電が慌ててR−P1マシンガンで援護するが、脚の速いワイバーンと、全ての装備を切り離して走るディアブロは直ぐに射程を外れてしまった。
「行ッくぜぇ‥‥相棒ッ!」
 アグレッシブ・フォースを待機させつつ、ガトリングの照準を鱗のマーキングに合わせて移動させる魔宗。
『フフン‥‥キミみたいなのだけだったら、楽だったよ!』
 逃げ際、ワイバーンが背部にマウントした小型ミサイルコンテナから、ミサイルが垂直に撃ち出される。
「うぉっ!?」
 突撃仕様ガトリングを頭上にバラ撒くも、その弾丸をかいくぐって飛来するミサイルの雨。
 打たれ弱いディアブロは着弾の衝撃に膝を折り、二機の距離は見る間に離れていく。
『これ以上は‥‥やる義理も無いね』
 マイクロブーストでエリアから離脱していくワイバーン。
 魔宗も何とか機体を立たせるが、当て損ねたアグレッシブ・フォースの分も含めて燃料は底に近付いていた。
「クソッ‥‥!」
 オプションのフレームまで外した上に直撃を受け、やや軋みの酷い魔宗の機体。
 胸部の出っ張りのお陰でシートをやられる事は無かったが、直上近い角度からの攻撃に頭部をやられたらしく、通信を復旧するまで時間がかかった。
「‥‥今の、何処の装備でしょう。垂直発射式の小型ミサイルなんて」
「さぁな。コイツみたいに、試作品って事も考えられるが」
 ファルロスのウーフーがアンチギガワームライフルを抱え、後退していく。
「出資元の企業から、供与されていると?」
 弾薬のコンテナを雷電に持たせたクラークが、思い当たる可能性を挙げる。
 ウーフーが何か記録しているか、直接戦闘を行ったディアブロに何か残っていれば、分かることもあるかもしれないが。
 弾薬類と試作型ライフルはデリーに、観測機とFCSは別の基地にという事で、それぞれ荷を積みこんでいく。
「ねぇねぇ、この大型ライフル、後で撃たせてくれちゃったりするのかな?」
「自分も頼んでみましたが、どうやらチェック次第真っ先に前線送りのようですよ」
 荷運びを手伝っていたハルカとクラークは、どちらも試作型アンチギガワームライフルの試射を申し出ていた。
 時間があれば他社高性能機や普及機との整合データも取りたかった所だが、前線ではラインホールドの接近が確認されており、博打に近いこの銃も、間に合わせ的に駆り出されると言う。
 距離の問題で空輸の必要がある荷物を近場の施設まで見送り、傭兵達の任務は終了となった。


●精算

「企業の出し渋りにも困った物だな」
 ラストホープに帰還した傭兵達を待っていたのは、冒頭で投げやりな解説を行い、現場にまで着いてきたあのオペレーターだった。
 名はシズカ・リザ・リスカッセ。日系らしい顔立ちが現場焼けし、ただのオペレーターらしからぬ気配を漂わせている。
「今回の撃墜点、S−01三機及びバイパーに対して報酬の追加を申請しておいた。僅かだが、傭兵をするなら常に要る物だろう? 私はそうだった」
 S−01には一機当たり3万、バイパーはその重要度から5万。それぞれ、月影とカルマとクラークに、後者は天に配布される計算だ。
 また、状況を見ていたシズカの目も評価に加算され、カルマと夕凪に特別報酬も出される事になった。
「楽な仕事だったか? エース級というのは、私も驚かされるよ」
 物品の破損もほぼ無し。十分に成功と言って良い結果。アステリズム・アーマメント・システムズの社員も、無事に渡った荷物に安堵していた。
 頭部用部品とFCS。ガンスリンガーの目と頭脳は、これから既存機に組み込んでのデータ取りを行い、建造途中の機体へフィードバックされる。
「腕の良い傭兵に当たっただけ、企業も幸運だったという事だろう。‥‥敵の方は酷かったな。精々腕があるのはあの鱗付きだけか」
 その後の照合で、その傭兵の詳細もすぐに捕まった。ただ、バックに何が付いているでもなく、完全に独立した傭兵だったらしい。
 それが今回のみの契約であの武器を与えられ、バイパーのパイロットがリーダー格として付いていた。捕縛したパイロットの証言では、だが。
「結局、何処の派兵かは割れなかったよ。まぁ、次も来るようなら、防衛を請け負えば良いさ」
 猛禽類の笑みで傭兵に笑いかけるシズカ。
「次回も縁があれば、な。お前達は、欲に負けて余計な真似はするなよ? では、以上だ」