タイトル:ユッキー再び?マスター:草根胡丹

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 5 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/18 22:43

●オープニング本文


「諸君。これが改良型の特訓マシンのユッキーだ」
 何故か半分だけ覆面で覆われた顔の博士が指し示したのは三段重ねの丸い物体。その名は渡された資料によると『ユッキー』というらしい。
「鏡餅にしか見えないんだが‥‥」
「いえーす、ざっつらいっ!」
 見た目をそのまま述べた者に対し、無駄にノリの良い感じの声で博士は即答する。
 それはどこからどう見ても鏡餅にしか見えなかった。
「雪玉では攻撃力に乏しく、場所を選ぶということで弾丸をもち米に改良したのだ」
 それは改悪ではないのかという心の声が聞こえた気がした。
「弾速はもち米バルカンはそこそこ速く回避は難しいが、丸餅バズーカは諸君らならば目視でも回避可能なレベルに抑えてある。」
 ちなみにもち米バルカンとやらは二段目の餅部分に三箇所設置され、全方位に対し半自動的に迎撃を行うらしい。丸餅バズーカは一段目のあちこちに射出口があるらしいが、体内でつきたてお餅を作っている関係上、大量に一斉射撃することは難しいようだ。
 ちなみにバルカンは雪玉の射出口を流用している。バズーカは雪の取込口を流用して作成した急増品らしく、同一の射出口から連続発射すると大変なことになるらしい。どうなるのかは渡された資料には書かれてないが。
「今回はちゃんと標的を覆面をしていない人間に限定してある。よって多少危険な特訓でも途中でやめることが出来るから安心してくれたまえ」
 しかも、しっかりと初期化されてもその設定が適応するようにプログラム済みである。
「それでは早速スイッチオーンッ!」
 ぽちっとな。と押されたスイッチがどくろマークなのはきっと博士の趣味だろう。ぐおんぐおんと音を立ててもち米を加熱、ぺたぺたと餅をつく音がすること三十分。準備にどれだけ時間が掛かるマシーンなのだろうか。
『これよりトレーニングを開始します』
 半ば待ちくたびれた頃、漸くユッキーは起動した。がちゃっと全ての砲身が向けられたのは博士の覆面をしていない顔の面。
「へ?」
 無数のもち米に打たれ、大量の丸餅に覆いつくされた博士は今回もまた戦闘不能に陥った。
「‥‥何か嫌な予感はしてたんだ」
 それを肯定するように、ユッキーは大量のもち米を周辺に撒き散らし始めた。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG
ルーガ・バルハザード(gc8043
28歳・♀・AA

●リプレイ本文

●懲りない博士と食糧問題
「諸君。これが改良型の特訓マシンのユッキーだ」
「全然懲りてませんね‥‥」
 ユッキーを前に胸を張る博士に終夜・無月(ga3084)は溜息混じりに呟く。
「ほう、これはこれは鏡餅にしか見えないが‥‥なかなか愉快なロボットだな!」
「いえーす、ざっつらいっ!」
「このまま博士を調子に乗らせていいのかな‥‥」
 鏡餅にしか見えないそれをルーガ・バルハザード(gc8043)に愉快と評価されて調子に乗る博士。それを見て一抹の不安を感じたトゥリム(gc6022)は訝しげな視線を送る。
「雪玉では攻撃力に乏しく、場所を選ぶということで弾丸をもち米に改良したのだ」
「食べ物をおもちゃに‥‥なんてバチあたりな」
「弾速はもち米バルカンはそこそこ速く回避は難しいが、丸餅バズーカは諸君らならば目視でも回避可能なレベルに抑えてある」
「食べ物を粗末にしたらダメです!」
「はは、それにしても‥‥食料がもったいない気がするがな?」
「後でスタッフが美味しく頂くから問題はないッ!」
 博士はトゥリムの抗議やルーガ・バルハザードの疑問にそう答えるとある一点を指差した。その先には炬燵とその上に設置されたいくつかのコンロ。鍋や釜が用意されていることからすると本気で言っているらしい。
「やっぱり、お雑煮? おせち料理トカも、食べたいかなぁ」
「残念ながら経費の都合でもち米しか用意できていないのだ」
 夢守 ルキア(gb9436)の要望を速攻却下しつつ、博士は説明を続ける。
「排出されるもち米は清掃ロボが自動的に回収し、調理してくれる。今回はちゃんと標的を覆面をしていない人間に限定してある。よって多少危険な特訓でも途中でやめることが出来るから安心してくれたまえ」
「よかろう、腹ごなしの運動にはちょうどいい!」
「え!? もち米でもトレーニングしたい‥‥のですか?」
 自信満々の博士に疑問一つ抱かずやる気満々のルーガ・バルハザードにトゥリムは驚きの声を上げた。
「それでは早速スイッチオーンッ!」
「‥‥あ」
 それが博士を抑止するタイミングを失わせる結果になってしまう。躊躇なくスイッチを押した博士に、嘗ての惨劇が再び訪れると戦々恐々とするトゥリムの前でユッキーはぺたぺたと音を立てて内部で餅を生成し始めた。
「‥‥」
 沈黙が場を支配すること三十分。
『これよりトレーニングを開始します』
「へ?」
 起動したユッキーは博士の覆面をしていない顔の面に無数のもち米と大量の丸餅を吐き出した。
「火傷の跡が残ったら大変なので、医者に連れて行きます!」
 盾をかざした状態でずりずりと匍匐前進して博士の元に辿りついたトゥリムは応急処置を終えると戦線離脱する。そこに浮かぶ表情には強い決意が秘められており、何か重大な責任と使命を帯びているかのようであった。

●激しい訓練の中で
「んー、動きまわるのは良くないよね。楽しいケド」
 軽いステップでうまく間合いを取りながら夢守 ルキアはもち米バルカンを回避し続ける。
 終夜・無月は二丁拳銃を駆使して餅を撃ち落し続けているが、粘り気のある餅にくるまれた弾丸は威力を減じてユッキーの頭部にまで届かない。ユッキーは攻撃は最大の防御を体現していた。
「機械相手の持久戦は、相手が疲れないし不利」
 現状は攻撃を受けずに済んではいるが、体力が尽き始めればどうなるかは分からない。夢守 ルキアはユッキーの使用上の注意と書かれたパンフレットを見つけ、訓練の終了条件を探し始める。
「‥‥ユッキーを止めるためには頭部のみかんに108回攻撃を喰らわすしかない」
「なっ‥‥む、無茶な!」
 夢守 ルキアが仕様書から見つけ出した記述を読み上げるとルーガ・バルハザードの顔色が変わった。訓練を気軽に止めることが出来ると聞いたからこそやる気になっていたわけで、停止させるには困難な条件をクリアする必要があるとは考えていなかったのだ。
 現状の戦力は三人だけ。もち米バルカンの砲身はそれぞれに向けられており、この状況下で三人同時に仕掛けたとしても突貫すれば間違いなくバルカンの餌食となる。
「あ゛う゛っ?! ぐ、うう‥‥せ、せめて、連射はやめてくれ‥‥」
 ほかほかのもち米は当たると痛いよりも熱い。条件を聞いたことで放心していたルーガ・バルハザードは妙齢の女性が発していると思えない濁った悲鳴を上げながらのた打ち回る。
「うむ。遅刻した、かな? ニューイヤーの挨拶に行っていて、ね」
「あ゛ーっ?! あ゛づーっ!! あ゛あ゛ーっ!」
 そこに遅れてやってきたUNKNOWN(ga4276)がのんびりと挨拶する。その向こうでは丸餅バズーカの洗礼を受けたルーガ・バルハザードが涙すら流しながら張り付いた餅をはがそうと尽力していた。
「これは‥‥ゆっきー改めもっちー、だね」
「ぐ、うう‥‥! こ、この私が、こんな無様なっ」
 そんな姿を見て、UNKNOWNは思ったままを口にした。もちろん、見ているのはユッキーのほうだ。何しろルーガ・バルハザードは餅に包まれて見えなくなっていたから。
「イタズラしたらダメですよ」
 そこにトゥリムの声が響く。その声の発信源はユッキーだ。どうやら博士の持ち歩いていた無線機を見つけて使っているらしい。
「何やらよく判らんが、とりあえずハッピーニューイヤー。これはお年玉だ」
 UNKNOWNはお年玉を入れた袋を夢守 ルキアと終夜・無月に手渡しながら、器用にユッキーの攻撃をかわす。飛来する餅を炎弾で焼き上げれば、ちょうどいい感じの焼き加減である。
 ともあれ、これで四人。もち米バルカンは標的を変更するタイムラグが加わったことにより、反撃の機会が一挙に増えた。
「急所が分かっているからー。全力で、急所狙い、早めに終わらせる、かな」
 夢守 ルキアはそう呟くと深呼吸一つ。
「流れる水のように、だったっけ?」
 意識を集中。ターゲットであるみかん以外を認識できなくなるほどの領域に踏み込んだ夢守 ルキアの遠距離からの銃撃は、吸い込まれるようにみかんに命中し‥‥。
「う、うわあああああ?! めっ、目つぶしとは卑怯! 卑怯な‥‥っ!」
 その反撃が包まれた餅から何とか脱出したばかりのルーガ・バルハザードを襲った。
「覚えていろこの愉快ロボットめっ! 次は、必ず! 貴様を叩き潰してやるッ!」
 しぽぽぽぽともち米バルカンを喰らいながら右往左往するルーガ・バルハザードを余所に、攻撃は続く。
 終夜・無月は自身にバルカンが向いているときは防戦に、他の標的に向いた瞬間を狙って攻勢に移り、的確にみかんを撃ち続ける。
 UNKNOWNが炎弾で餅の射出口を焼けば、膨れた餅が玉詰まりを起こし、攻撃の回数も減ってくる。
「ね、鏡開きってあるんだよね」
 そう告げた夢守 ルキアの思考は単純。何だかよくワカンナイケド、ユッキーを開く。
「壊れても、UNセンセがいるから直せそうだし、いっきまーす!」
 こうして、ユッキーは中身の餅を取り出すためだけに一刀両断された。

●整形外科にて
「この人の顔‥‥なんとか格好よくできませんか?」
 その頃、トゥリムは博士を強制連行して町医者の元へと辿り着いていた。
「火傷と‥‥腫れ上がった部分の治療をお願いしたいんですが」
「えーっと、初診ですね。少しお待ちください」
 診察券の作成。名前は‥‥よく考えたら覚えていなかったので『博(ひろし)』と『士(つかさ)』として書いておいた。実名と違ってもまあ、問題はないだろう。受理されたし。
「今回の事は、僕が覆面を割ったのが原因なのです。その弁償の代わりに、覆面をする必要のない顔にしてあげたいのです」
「まあ、薬をつけて数日もすれば治りますよ。では次の方、どうぞ」
 トゥリムにそう言った医者は薬の処方箋を書くと、別の患者の診察の準備を始めた。とりあえず、二週間もあれば顔は治るらしい。診察費用を支払った後、トゥリムは薬を受け取って博士を連れ帰路に着いた。

●訓練の後で
「――ところで今回は何を相手にすればいいのかな? いやぁ、今日は過ごしやすい日で良かった良かった。今回はやる気を出すつもりだよ」
「お雑煮と、おせち料理とー、キナコモチも食べるー」
「なるほど、今回は正月のおもてなしだったのか」
 UNKNOWNはすでに訓練を完遂して食べることで頭が一杯な夢守 ルキアの様子からそう判断した。
 そして、取り寄せられたおせち料理に舌鼓を打ちながら、ユッキーのついた御餅を美味しくいただくのであった。なお、おせち料理の取り寄せ費用は博士への経費で落としたらしい。