タイトル:【極北】撮らせてよ!?マスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/12 14:08

●オープニング本文


 チューレ攻略、という案件が表に出たときから、ウォルター・マクスウェル准将は強化人間絡みで一部の生徒の間に感情的な意見が出ることは予想していた。彼らは若いし、まだ軍人ではないのだ。
「あらゆる事に準備はしておくべきだろう。こういう折、若者は忙しく働くべきだな」
 こつこつ、と机を叩きながら彼は言う。グリーンランド方面では敵味方が交錯しており、明確な戦線が有るわけではない。海上、丘などにある基地の幾つかを襲撃する事はさほど不自然には見えないだろう。それぞれの繋がりが見えぬよう留意しつつ、彼は一連の作戦目標を選定し、指示を出した。

●雪原の基地
 白銀の世界――そう言えば、美しい光景を皆は想像するだろうか?
 しかし、そこは、極寒の吹雪が吹き荒れる極限の世界だ。
 か弱い命の灯火など消えてしまう厳しさを、美しさと表現するならば、それは確かに美しいのだろう。
 北極圏制圧作戦が開始され、その生と死の鬩ぎ合う美しさは、より洗練されいく。
 限りなく美しい雪原の中、迷彩の防寒着を羽織った二人の兵士が、雪原に身を伏せつつ会話していた。共に、UPC軍の兵士である。
 二人の向く先には、バグアの基地があった。
「‥‥どうだ?」
「少し待て」
 双眼鏡を覗きこむ男が、手で隣の男を制止する。
「‥‥やはり、キメラの防衛部隊がネックだな。数が多すぎる」
 覗きこんでいた双眼鏡を、隣の男に手渡しつつ言う。
「そうか。先立っての陽動作戦でも、キメラ達を誘き出せなかったというし‥‥厄介だな」
 双眼鏡を受け取り、隣の男が顔を顰める。
「ああ‥‥。その際、別働隊として突入予定だった傭兵達も、いくら能力者でも、あの数の中を潜入し破壊工作を行うのは不可能と判断して戻って来たらしい」
「なるほどね」
 双眼鏡の先の基地を確認しながら隣の男は頷く。
「となると‥‥」
「ああ。今度の陽動作戦、別働隊として傭兵達に基地を直接叩き落としてもらう事になる」
 双眼鏡を返しつつ、隣の男は溜め息をついた。
「傭兵さまさまだな」
「‥‥彼らが居なければ、バグア相手にここまで戦えていなかったさ。そう言うな」
 双眼鏡を返してもらった男は肩を竦めて、隣の男を慰める。
「さて、キメラが来る前に引き上げるぞ」
「ああ」

●LH
「――ということらしいわね!」
 ヘレンは鼻息荒く、ジェーン・ヤマダ(gz0405)もといオペ子に言った。
「‥‥それ、一応、軍事機密だと思うのですが、どこから知ったのですか‥‥?」
 オペ子は呆れた顔で、ヘレンを見やる。
「ふふん。蛇の道は蛇。こっちだって、伊達に戦場カメラマンやってるわけじゃないのよ。軍にもそれなりにコネはあるし、地道に聞いて回れば裏付けも取れるわよ」
「ヘレンさんは立派なスパイになれますねー。じゃあ、そういうことで」
 オペ子はヘレンを適当にあしらって、手元の作業に従事する。
 北極圏制圧作戦に伴い、傭兵へ回す依頼が一時的に増え、オペレーター業務の方も残業が増えていた。
 正直、とっとと帰りたいので、オペ子も普段より真面目に業務に取り組むことになる。
「ねえ? まだ話は終わって無いんだけど‥‥?」
「うゎ‥‥なんですか。面倒くさい人ですね‥‥それで何が言いたいんですか?」
 面倒くささを隠そうともせず、ジト目をしながらオペ子は言ってのける。
「ええ、それでね? あるんでしょ? 傭兵達に回すそういったKVの依頼が」
 ヘレンの喜々とした顔とは対照的に、オペ子は露骨に嫌そうな顔を向ける。
「‥‥まあ、あることはありますよ?」
「じゃあ、その依頼に私の依頼も追加させてよ!」
 身を乗り出し、顔を近づける。オペ子は身を引き、自分の顔を遠ざける。
 厄介事になるのは目に見えていたが、断ってもずっとここに居座られ続けそうだ。
 そうなれば、作業の邪魔がずっと続く事になる。
 オペ子は溜め息をつき、依頼のデータを呼び出した。片手で、末を操作しつつ、もう片方の手で携帯を取り出す。
「分かりました。それでは、少し待ってて下さいね?」
 オペ子は取り出した携帯電話のアドレスを呼びだして、どこぞへと掛ける。
 可愛らしい呼び出し音の後、電話は相手に繋がった。
『もしもし?』
「ああ、サァラさん案外早く出ましたね」
『どうしたのよ? あんたからかけてくるなんて珍しい』
 電話の向こう傭兵のサァラが少々驚きながら答える。前回の依頼のよしみで二人は少し仲良くなっていた。
『っていうか、あんた、あたしの兵舎に居候しに来たかと思えば、いつの間にか居なくなって何処行ったのよ?』
「――秘密です。まあ、そんなことはどうでもいいので、本題に移りますよ?」
「いや、ちょっと待ってよ。どうでも良くないって、あんたがうちに置きっぱなしのコップやら歯ブラシやら持っていってよ。この間、友達を家に呼んだらさ――」
「はあ‥‥本題に移りますよ?」
 ダメな子を相手にするかの様な溜め息をつき、オペ子はもう一度言った。
『‥‥色々言いたい事はあるけど、先に聞こうかしら‥‥』
 なんとなく悔しい気はしたが、用事があるのなら、と相手を優先してしまう辺り、サァラは優しい子である。もちろん、その長所を利用されやすい残念な子でもあるが。
「サァラさんは、以前、私と一緒に護衛したヘレンさんって覚えてますか?」
『うん。覚えてるけど』
「あの方がまたKVの撮影に行きたいらしいので、護衛してもらえません?」
『いいわよ?』
 すんなりとサァラはOKを出した。
「はい。じゃあ、そういうことで。後で依頼を受けにこっちまで来て下さいね。用事は終わったので切ります」
『え、ちょっと待ってよ!? 流れ的に次はあたしのはな――』
 電話を切り、ついでに電源も落としておく。仕事中のマナーとして、プライベート用の携帯電話は切っておくべきですよね、とオペ子は頷いた。
 そこで、ようやくオペ子はヘレンに向き直る。
「サァラさんのOK出ましたので、彼女がまた撮影の護衛についてくれるでしょう」
「――あなたって言い根性してるわよね?」
 ヘレンの言葉をオペ子は軽くスルーする。
「あ、それと、私は今回は行きませんので、サァラさん以外の傭兵さんにも守ってもらって下さいね」
「はいはい。りょーかい。KV撮りに行けそうなら連絡ちょうだいね」
「はい。それでは、また後で連絡します」
 用件を済ませたヘレンは、準備を整えるべく、受付を後にしていった。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN
不破 霞(gb8820
20歳・♀・PN
御剣 薙(gc2904
17歳・♀・HD
悠夜(gc2930
18歳・♂・AA
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA
煌 輝龍(gc6601
23歳・♀・FC

●リプレイ本文

●銀の戦場へ
 依頼目標のバグアレーダー基地。そこから最も近いUPCの前線基地に傭兵達は集められていた。陽動に出るUPC軍に合わせて、傭兵達もこの基地を出撃する。
 出撃までの時間、初めての雪原戦闘にサァラは緊張しながら、KVハンガーの窓際で基地の外を見ていた。
「初めまして、傭兵の方ですよね?」
 立花 零次(gc6227)が窓際のサァラを見つけ話しかけた。
「あ、はい。サァラ・ルーです。‥‥傭兵の方ですか?」
「立花零次です。今回はよろしくお願い致します」
 零次から差し出された手を握り、握手を交わす。そこに、
「そこに居たのだね、サァラ殿」
 更に声をかけられ、サァラはそちらを向く。流叶・デュノフガリオ(gb6275)が居た。
「久しぶり、元気にしてたかい?」
「お、お久しぶりです。流叶さん」
 懐かしい恩人の微笑みにサァラの声が上擦る。
「元気そうだね。今回は同じ傭兵として、よろしく頼むよ」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
 昔、憧れに映るだけだった流叶と肩を並べて戦場に立てると言う事が、サァラを少し興奮させた。

 窓際からKVハンガーの中央に目を移せば、ヘレンがミリハナク(gc4008)の愛機ぎゃおちゃんを飽きる程大量に撮っていた。
 ミリハナクはヘレンの後ろで微笑みを湛えながら、その様子を見ている。
 写真の焼き増しを条件に、ミリハナクの愛機を好きに触ったり撮影していいと許可をしたのだ。
 ヘレンは二つ返事でこれを了承し、それから撮りたい放題、この様である。
「――それにしてもヘレンさんは相変わらずだなぁ、こんな激戦区まで来るなんて」
 ミリハナクの横に並び、御剣 薙(gc2904)が苦笑を浮かべる。
 声に気づいたヘレンが手を止めて、薙に振り返る。
「甘いわね、薙ちゃん。激戦区だからこそKVのイイのが撮れるんじゃない」
 何度か会っている気安さからヘレンは薙をちゃん付けで呼び、女性ながらに男らしい笑みを返す。
「ヘレンさんは‥‥、あまり前に出過ぎないようにお願いしますね」
 流叶やサァラと共に、ハンガー中央まで戻って来た零次が釘を刺す。
 この後の戦闘では、零次が護衛に付く予定になっている。彼の懸念はそこにあった。
「今回はさすがにキメラが多い。ヘレンには立花の機体に同乗して貰うと言う事でも良いと思うが」
 整備班の班長と機体整備の打ち合わせを一時中断して、白鐘剣一郎(ga0184)が提案する。しかし、零次がそちらの方が良さそうですね、と承諾する前に、
「戦闘中はあたしの好きに撮らせて貰いたいわねぇ‥‥。ほら、乗るのはいつでもできるし」
 ヘレンはジーザリオでの撮影を主張した。主張を曲げる様子は無い。
「‥‥危険になれば車両ごと持ち上げてでも下がっていただきますからね」
 呆れた顔で零次がもう一度釘を刺した。
「では、せめてサァラに直衛として、万が一我々を突破する敵が居た場合の対応を頼みたい。どうかな?」
「は、はい。分かりました」
 振り返り言った剣一郎の言葉に、サァラは委縮しながら返事をした。
 その時、出撃時間が程なくとなった為に、軍の方からKVでの待機命令が下る。
 それぞれが自らの愛機に分かれて行く中、薙が一度振り返り、
「ヘレンさん‥‥派手に行くから、格好よく撮ってよ」
 そう言って悪戯っぽく笑った。

●雪風の舞う中に
 敵キメラの大群、そして、その奥のレーダー基地上空にをMRの壁があるのを、流叶の機体の各種機器は捉えていた。
 流叶は、スコープシステムでレーダーの索敵をより高精度に、フレーム「インサイト」で感度を更に上昇させ、MRの壁の中から親機を捜索する。
「――捉えたよ、MRの親機だ」
 流叶が12面体のMR親機を補足し、その位置情報を味方機に送る。
 位置情報を基に、空の各機がMRとの彼我の相対的位置を確認する。MRの前には数多くのキメラが存在し、行く手を阻んでいた。
 剣一郎の愛機流星皇と並び飛んでいた悠夜(gc2930)の愛機アンヘルが、少しだけ前に出る。
「さぁー! 派手にブチ壊れてくれよ!!」
 悠夜機が前方、MRへの進路にK−02小型ホーミングミサイル250発を一斉に発射した。
 250の棚引く噴煙を残しながら、ミサイルは飛行キメラ達を喰らっていき、空に灼熱の赤い華を撒き散らす。
 花火が咲いた後、悠夜機の前方に何も無い空間が出来上がった。
 そして、その穴に目掛けて、剣一郎機が加速、より確実な一撃を与えるべくMRとの詰める為に飛ぶ。
「捉えた。12面体のコアに間違いない。集中攻撃で一気に叩くぞ!」
 剣一郎機がMRへ加速を始めたその刹那、地上のTWから火線が昇る。
 キメラ諸共飲み込み、剣一郎機を撃ち落とそうと、放たれたプロトン砲。それを――しかし、剣一郎機はブーストとPRMシステム・改による翼とノズルの形態最適化により潜り抜けていく。
「この天馬の翼、落とせる物ならば!」
 灰銀の翼が天を貫く幾本もの光の奔流を風に乗る様に避け、MR親機へと最短距離を駆ける。
「援護するよ」
 流叶機が強化型ジャミング集束装置を起動、MR子機のジャミングを中和し、ジャミングが先程よりも弱まる。その隙に、流叶機がMRの壁の中、紛れたMR親機にKA−01試作型エネルギー集積砲の照準を定める。
 狙いはコアへの直撃。集積砲から放たれた砲撃が、6面体の装甲を破壊した。
 しかし、コアにまでは届いていない。MRが増殖を開始すると共に、子機がコアを6面体から8面体へと変化させ、濃い赤に包まれる――。だが、
「これで確実に落とさせてもらう!」
 変化が終わる前に、MRの壁の間隙を縫うようにして、剣一郎機がMR親機に迫る。擦れ違いざまにその翼のソードウィングでMR親機のコアを斬り裂いた。
 親機を破壊され、子機の増殖と反射の機能が停止する。

●雪中突破
『こちらで捉えた各位置情報を送らせてもらったよ』
「おお、ありがたいのじゃ!」
 流叶からのデータを素早く確認し、煌 輝龍(gc6601)は愛機ヘルハウンドの中、獰猛な笑みを浮かべる。輝龍もまたIRSTシステムやスコープシステムによる高い索敵能力で、MRを始めとした敵の位置情報を補足していた。そして、流叶から送られた空中からの敵の位置情報と重ね合わせる事で、それは立体的な戦場の情報となる。
「敵性勢力の位置情報確認、モニターへスーパーインポーズ! 皆にもデータを送る、各機一匹たりとも逃すでないぞ!!」
 各機が敵の位置情報を確認後、ヘレンの護衛に零次機とサァラ機を残し、基地から溢れ出てくるキメラの大群に突撃していく。
「恐竜型KVの美しさと強さを見せてあげますわ」
 ミリハナクの愛機ぎゃおちゃんが先頭を切り、試作型超伝導DCとオフェンス・アクセラレータを同時起動、更にブーストをかけて機盾「ウル」を掲げながらアグリッパへ一直線に突撃する。
「駆け抜けるよ、ブレイクエンド!」
 その後方を追いかける様に、薙の愛機ブレイクエンドと不破 霞(gb8820)の愛機黒椿、そして、輝龍の愛機ヘルハウンドが駆けていく。
 三機が距離を十分に縮めると、ミリハナク機は立ち止まり、背部のクァルテットガン「マルコキアス」をアグリッパに目掛けて掃射する。
「この距離なら外しはしないですわよ」
 秒間百発以上の砲弾がアグリッパに降り注ぎ、装甲をこそぎ落としていく。瞬く間にアグリッパ一機が爆散した。
 ミリハナク機が射撃でアグリッパを狙い撃つ脇をすり抜け、薙機と霞機は先へと突き進む。彼女らの狙いは、アグリッパとTW。薙機が十式高性能長距離バルカンでキメラに牽制射撃を加え、霞機がRA.2.7in.プラズマライフルでキメラの群れに道を切り開く。接近戦を仕掛ける為に100体以上のキメラの群れに穴を穿つ。
 まずは霞機が目標とするTW達の布陣の真ん中へと飛び込んだ。空の剣一郎機へプロトン砲を放っていたTW達の目が霞機へと集まる。
「一時的とはいえ1対5、か‥‥」
 霞機の青く光るメインカメラがぐるりと周囲のTW達を見回した。
「最初から全開だ‥‥行くぞ、黒椿!」
 霞がSTフォルム――EBシステムとHBフォルムの同時起動――を起動、機体メインカメラの光が青から、赤に変わる。
「1体でも数を減らす‥‥っ!」
 赤光の残滓をその場に残し、練機刀『月光』を手に、手近な一体に斬りつける。苦鳴を上げるTWの傷口にライフルの銃口を突き込み、装甲の内部に直接乱射する。
 苦鳴を聞いた霞機背後のTWが威嚇の唸りを発し、プロトン砲を霞機へと向ける。そのプロトン砲が発射される瞬間には霞機は既に離脱し、霞機の攻撃を受けていたTWのみが淡紅色の光線に飲まれ、焼かれた。
「一気に行くよ!」
 霞機とTW達が繰り広げる戦闘の脇をすり抜け、薙機がブーストからツインブースト・OGRE/Bを起動する。機体はブーストから更に加速、足元のキメラ達を薙ぎ払いながらアグリッパまでの距離を一息に突き抜けていく。
 アグリッパの懐まで潜り込んだら、機爪「シェルシェード」 による刺突を本体装甲の深い部分に突き入れ、そのまま縦に割く。さらに脚部の固定パーツを爪で裂き、バランスを崩し倒れ込む所を爪の小型ブースターでアッパー気味に斜めに斬り裂いた。
 半壊したが、まだ完全に壊れていない。機能を停止するまで、薙機は爪による乱撃を加え続けた。
「アレが親機じゃな、早めに叩かせてもらうっ!」
 キメラの群れを越えた先に、MRの壁があり、その中に12面体の親機があるのが確認できる。
「システムHOUND起動っ! 親機に照準合わせっ、全砲門ロック!」
 ワイバーンのIRSTシステムを輝龍の用途に合わせて最適化調整されたHOUNDシステムを起動させ、より正確にモニター上の12面体の親機へと、各兵装の照準が重ね合わせられていく。
 全ての照準が合わさり、全砲門のロックが完了した事を告げるアラームが鳴った。
「‥‥一斉射撃っ!!」
 輝龍機が親機に狙いを絞って、レーザーガン「フィロソフィー」を始めとした全兵装を撃ち尽くす勢いで射撃する。
 外側の6面体の装甲を砕かれ、中の12面体のコアへと攻撃が次々に襲いかかる。
 やがて、MRは親機を破壊され増殖を停止した。
「猟犬の名は伊達では無いぞ?」
 MRの親機を破壊した輝龍は、ジャミングを発し続けるMR子機の掃討へと移っていく。
 薙機がアグリッパ一体を破壊している間に、ミリハナク機が残ったアグリッパ一体を撃ち潰した。
 アグリッパの全滅を確認して、薙機は身を翻しTWへ。一体減り、1対4となった霞機の援護に飛び込む。
「霞さん大丈夫ですか? ――手伝います」
 薙機は再度ブーストからのTブーストBを使い、地面を蹴る。降り積もる雪をバーニアの噴射熱で蒸気に変えながら風を巻き起こし、一気に懐へ飛び込む。
 TWのブレードの隙間に入り込むようにして、両腕の爪で周りのブレードを叩き折る。安全地帯を作り出し、爪で縦横無尽に装甲を引き裂き剥がしていく。
 一瞬だけTWの配置を確認する様に目を走らす。一番近くのTWの位置を確認。
「全開でいきます!」
 装甲が引き剥がされ薄くなった部分にバーニアの出力を全開にさせた回し蹴りを叩きこむ。TWの装甲が拉げる音と共に、突き刺さった脚爪「シリウス」を機体ごとぶん回し、近くのTWにぶつける事を狙う。しかし、TWの重量は重く、しっかりした足場では踏ん張り堪えられる。
 結果として、側面側の装甲を削り取ったが、他のTWにぶつける事は出来なかったが、完全に注意が薙機に向いた。
「有り難い。感謝するぞ、薙」
 生まれた絶好の隙に、霞機が練剣「白雪」を上段に振り上げ、そのTWの首を一太刀で斬り落とした。首を落とされたTWがその場に擱坐する。
 二人が一ヶ所に集まり、残りのTWが一斉にその砲を向ける。が、
「甘いですわね」
 ミリハナク機がTW達に向けて弾幕を張り、その動きを押し留める。その隙に、霞機と薙機は射線からずれるように動き出す。
 ミリハナクは、それを見届けるとすかさず狙いを切り替える。狙いをヘレン周辺のキメラへ。
 次の瞬間には、ヘレン達の前方に迫ったキメラ達に弾幕が降り注ぎ、屍の山が築かれていった。
「援護、感謝致します」
 零次機が3.2cm高分子レーザー砲で弾幕の中生き残ったキメラを一体ずつ撃ち抜いていく。
 サァラもこれに続き零次を援護し、ヘレンに近づくどころか、その随分手前でキメラ達は食い止められていた。

●白銀に燃え上がる焔
 MR、アグリッパ、TWといったワーム達が倒された後は、KV対キメラの一方的な戦闘になった。
 ヘレンは零次にジーザリオを押し留められながら、カメラの望遠を最大にして傭兵達の活躍をそのレンズに収める。
 ほとんどのキメラが掃討された時、零次からジーザリオの無線に通信が入った。
『――ヘレンさん、空からの撮影はいかがですか?』
 ヘレンがカメラを下ろし、無線の方に向き直り首を傾げる。
「‥‥空から?」

『悠夜殿、上空から確認できた基地内の重要施設の配置図と爆撃時の最適な進入路等をデータにまとめて送ったよ。参考にして欲しい』
「――OKだ♪ よーしっ、今から基地をブチ壊す! 全員巻き込まれるなよ!」
 流叶からのデータを確認しつつ、悠夜が全機に通信で連絡を入れる。
 直後、悠夜機が急上昇し、相手にしていた残敵を一気に引き離していった。
 その間に地上の味方機は基地から距離を取り、流叶が残ったキメラ達の逃げ道を塞ぐ様に悠夜機に先駆けK−02小型ホーミングミサイルを爆撃する。
 流叶機の爆撃が終わった頃、高空へと昇っていた悠夜機が機首を反転し、今度は頂点からの急降下に移る。
 急降下開始と共に悠夜機はリミッターを解除。超限界稼働により、装甲各部が展開、機体が唸りを上げる。追いかけて来ていたキメラの群れを突破し、雷に見紛う速さで地上に近づく。
 悠夜は障害が無くなった時、反転時に用意していたK−02を愛機に一斉射させる。
 250のミサイル群が正に落雷の如き轟音を響かせ、基地は爆発の大渦に飲み込まれた。
 基地にあったレーダー施設、生き残っていたキメラ達が爆発に巻き込まれ、吹き飛んでいく。
 盛る炎の噴き上がりを突破し、悠夜機が空へと舞い戻った。
「ヘレンの奴もこれならどうだ♪ いいトコ撮ってくれたんだろうな」

 零次は補助シートにヘレンを乗せて、垂直離陸で空へと舞い上がっていた。
 巡航速度以下の緩やかな速度で飛ぶ零次の愛機夜桜のコクピットから、ヘレンは悠夜機の急降下爆撃の一部始終をカメラに収めていた。
『さて、ご期待には添えたかな?』
 零次機に剣一郎からの通信が入る。それを聞いて、ヘレンは補助シートから身を乗り出し――
「ええ、良かったわよ! また、こういうのお願いするかもしれないけど、その時はまた頼むわねっ!!」
 ――満面の笑みで答えた。

●戦いの後
 基地は焼け落ち、チューレを覆うレーダー網に小さな穴が空いた。
 チューレ進攻の為の布石は、その時を待ち、今は静寂の白雪の中に埋もれる。