タイトル:イチゴ食べたい!マスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/25 06:18

●オープニング本文


 その部屋は、やたら乙女チックな装飾がされていた。部屋の至る所にはぬいぐるみが並べられ、カーテンや衣装棚、カーペットなどの家具も可愛らしいデザインの物が選んである。全体の傾向を見れば、部屋の主はピンクが好みの様だ。
 部屋の持ち主、神開兵子は、部屋の真ん中に小さな机を出し、東天紅と向かい合わせに座っていた。
 神開兵子、彼女はキメラ食ブームを起こそうと画策する少女であり、これまでに二度ほど傭兵達に依頼を出している。彼女の向かいに座る東天紅は、その親友だ。
 今日は期末テスト前の休日。それほど頭の良くない兵子は、天紅にテスト範囲を教えてもらっていた。
 兵子はテスト範囲の問題集から目を離し、一つ大きく伸びをする。
「いやー、それにしても蟹は儲かったなー?」
 思い出しては、兵子は口の端から笑みを零していた。
「蟹の身を余すところなく使いきれたのが大きかったわね」
 ちょうど区切りも良かったので、天紅は兵子を窘める事無く一度手を置き、笑みを浮かべる兵子に同意した。
 前回の蟹の依頼では料理のレパートリーに幅を持たせ、出汁でのおじや等も作って販売したところ、結構な評判を呼んだ。また一つ、ブームの階段を上がる事が出来たと、兵子はご満悦であった。
 カーペットの上に置いたお盆から、兵子は自分のジュースを取る。ストローに口をつけて美味しそうに一口飲んだ。
「まーなー。あ、そうや。一息つくついでに、ちょっとテレビつけてええかな?」
「ひよこ。そうやってずっと一息をついていたら、すぐ夜になってしまうわよ」
 天紅がじろっと睨め付けると、兵子は慌てた様に手を振った。
「ちゃ、ちゃうって。そんなんやなくって、やな? その、姉ちゃんに自分の映っとる所を録画しといて欲しいって頼まれたんよ。そんで、ちょっとちゃんと撮れとるか確認したいんよ」
「あら? 須磨子さんは、この前の蟹キメラの時、襲われて怪我をしたのではないの?」
 天紅は頬に指を当てて、首を傾げる。
 兵子の姉、レポーターの須磨子は蟹キメラの出現の際に怪我をしたと天紅は聞いていた。
「あー、あの人は、気合いの人やから。すぐに治してもうたで。今日はイチゴ狩りのレポーターやって」
「へえ‥‥すごいのね」
 驚きに少しだけ呆れを混ぜて応える。変な所で姉妹なのだな、と感心した。
 生温かい目で見つめられながら、兵子はリモコンを手に取る。テレビをつけ、録画を映す。

 遠くに大きな山を背景にして、長閑な田畑の中ビニールハウスがいくつか並ぶ。
 そのビニールハウスの手前、一人の女性がカメラに向かって立っていた。
『レポーターの神開須磨子です。春休みのご家族での予定は、もうお決まりでしょうか? 今回は、春休みの予定が決まっておられない方に案内させていただきます。イチゴ狩りの農園です』
 兵子の髪と同じ、茶色がかったショートヘア。顔立ちも姉妹だけあって似ている。しかし、決定的に違うのは、そのスタイルだ。成長途中の兵子と違って、姉の須磨子のボディは、大人の女性の身体つきをしており、特に胸の起伏は一目瞭然で二人を見分ける要素になっている。
 須磨子が農家のおばさんルックに身を包みながらも、胸を張り凶暴な胸を主張させて、農園の説明をしつつ畑の畝の合間を進む。
 ニコニコと日に焼けた赤ら顔のおじさんが須磨子の方を向いている
『というわけで、イチゴ狩りの人気農園にやってまいりました。こちらが、この農園の経営者の――あれ?』
 その時、須磨子はふと気付いた。カメラが遠くに離れたまま、ついてきていない。
 むしろ、後ずさる様にして離れていっている?
 カメラの横、スタッフの全員が必死で手招きをしている。須磨子は首を傾げ、隣の農園の経営者と顔を見合わせた。
 なんだろうか?
 スタッフの身振り手振りをもう一度よく見てみる。何か、必死に須磨子の後ろを指差していた。何かあるのだろうかと須磨子と農園の経営者は振り返る。
 ――そこには、10m程の巨大な草が生えていた。
 草の根元には、様々な色の巨大なイチゴがいくつも実っていて、イチゴ畑の突然変異か何かかと思う。
 しかし、横を向いて、農園の経営者にサプライズ? とアイコンタクトで伺ってみるも、横に首を振られる。冷や汗が流れる。リハーサルの時には、あんな巨大な草は無かったし、この僅かな時間に生えたなら、それは――
 そんな事を考えている間に、その巨大イチゴの葉から、突然、白い液体が飛んできた。頭から引っ被る。
『わっ!? ちょ、ちょっと、これ粘々してて、動きにく‥‥』
 必死に上半身にかかった白い液体を拭うが、ゼリー状だったそれは、次第に硬化を始め固まっていく。
 なんとか、顔の周りの物を拭った辺りで固まってしまい、拭えなくなる。
 須磨子は涙目になるが、だが、それを気にしている暇も無く、急いでその場を離れる為に、須磨子と農園の経営者は走り出した。
『きゃあっ!?』
 新たに飛んだ白い液体が須磨子の足を取り、転ばせる。顔から地面に激突し、須磨子の顔は泥まみれになった。
 近くに居た、農園の経営者のおじさんが、慌てて須磨子を引っ張りなんとか逃げていく。

「‥‥」
「‥‥」
「イチゴおいしそうやなあ‥‥」
「‥‥お姉さんの心配をしてあげたらどう?」

●参加者一覧

九十九 嵐導(ga0051
26歳・♂・SN
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
緋本 かざね(gc4670
15歳・♀・PN
月代 悠美(gc5040
14歳・♀・EL
レガシー・ドリーム(gc6514
15歳・♂・ST
ルディ・ローラン(gc6655
10歳・♂・HA
セラ・ヘイムダル(gc6766
17歳・♀・HA
ビリティス・カニンガム(gc6900
10歳・♀・AA

●リプレイ本文

●農園にて
 土の匂いが香り、周辺一帯には長閑な田園風景広がるその畑に、苺と練乳に似た甘い匂いが混じっている。
 果実だけで3m、茎は10mにも及ぶ巨大な苺キメラ。それが遠目に見える場所で傭兵達は作戦の確認など、準備の最終チェックを行っていた。
「古今東西いろんなキメラを食べさせられてきた私ですが‥‥こんな美味しそうなキメラは初めてです!」
 苺のキメラを前にして、緋本 かざね(gc4670)が嬉しそうにはしゃぐ。今までに友人に勧められるまま食べさせられてきたキメラを思い出す。その記憶にはムカデのようなゲテモノ‥‥もといレアなものも混ざっている。
「苺のキメラが、ですか?」
 かざねの美味しそうなキメラという言葉に反応して、自前のメイクセットで肌の化粧チェックを行いながら、レガシー・ドリーム(gc6514)も会話に参加する。戦闘前でも、きちんと身嗜みを整えておく婦女子としての心構えだ。例え、彼の性別が男であっても、そのことに変わりはない。
「苺のキメラかあ‥‥バグアってあれだよね。すごく季節感大事にしてるよね」
 ルディ・ローラン(gc6655)が年相応の子供らしく笑う。ULTのデータベースに残された過去依頼から季節ごとのキメラの退治依頼などを調べ出せば、たしかに旬の物はほぼ網羅している。そこに隠されたバグアの思惑は、よく分からないものであるが。
「いちごは確かに季節の食べ物じゃが、八色とは‥‥珍妙ないちごじゃの?」
 月代 悠美(gc5040)が遠目に見える色とりどりな苺群を見やりながら、ルディの言葉を受ける。
「けど、代わりに全部でけぇぜ! 近くで見れば、ますますたまんねーなぁ!」
 ビリティス・カニンガム(gc6900)――愛称ビリィ――が、悠美と並んで巨大イチゴを前方に捉える。手をかざし目元に影を作りながら、苺を眺める目は、早く食べたくてうずうずしているように見える。
「‥‥ん。大きいね。食べ応えが。ありそう。楽しみ」
 最上 憐 (gb0002)もビリィのそれに賛同し、後の試食会に早々に思いを馳せる。
「美味しいのかな」
 皆の会話を聞きながら、レガシーが化粧チェックを終え、最後の仕上げとして唇に薄く紅を差す。
「巨大イチゴだからなあ‥‥味も大味になってた、なんてなきゃいいけど」
 物珍しさから食べることは前提で、ルディは冷静に味の心配をする。大きければ、いいというものでもない。
「食べてみりゃ分かるさ! サクッと除草終わらせて、たらふく試食してーもんだぜ!」
 ビリィが振り返り、ぺろりと唇を舌で舐める。
「ええ、でも、食べる前に悪いキメラを退治して、被害者を助けてあげなくては、ですね☆」
 セラ・ヘイムダル(gc6766)が被害者を心配をする素振りをみせて、周りに人の良さをアピールする。
 猫被りのその本性を知らない周りの皆から確かに好印象を引き出す。
 そこへ、皆から少し離れて、ULTと連絡をとっていた九十九 嵐導(ga0051)が戻ってきた。
「何と言うか‥‥学校の引率教師になった気分だな‥‥」
 嵐導を除いた7人の平均年齢は実に13歳。嵐導を除けば、一番上は17歳、高校生ほどの年齢でしかない。また、身長も嵐導が頭一つ飛びぬけていて、傍目には、彼の感想通りにしか見えないだろう様相を呈している。しかし、
「手配していた輸送車はすぐに到着するそうだ。‥‥皆、作戦は理解しているな?」
 彼らは見た目のままの子供たちではない。傭兵だ。
 嵐導の言葉にそれぞれの調子で肯定を返す。嵐導が満足げに彼らに笑みを返した。
「さて、と‥‥とんだ苺狩りになりそうだな‥‥」
 嵐導が小銃「S−01」とシールドを手に構え、キメラへと一歩踏み出した。

●練乳苺の壁
「援護するですぅ」
 戦闘開始直後、白と黒の鳥と蝙蝠の翼を背に広げ、レガシーがキメラに練成弱体と、駆け出す前衛に一人ずつ練成強化をかけていった。
「‥‥ん。前は。任せて。攻撃を。引き付ける。決して。練乳の。匂いに。引かれたわけではないよ」
 憐が皆の先頭をきり、その後をかざねとビリィ、悠美が追う。キメラは、前に一番に飛び出てきた憐という獲物に葉の刃を伸ばし、自らが根を張る大地の滋養とすべく斬り裂こうとする。だが、キメラの伸ばした葉は憐を捉えられない。
 取り囲むように振るわれる葉を、憐は空中に固定された大鎌「ハーメルン」を支点にして、逆立ちするように空中へと身を舞わす。勢いの余った葉が、幾つも地面に深々と突き刺さる。そのまま身を前へと躍らせながら、ちらりと残った中央の茎の葉を確認する。白い液がにじみ出ていた。
 憐に続くかざね、ビリィをも巻き込む様に白い液が噴射してくる。かざねが空中に縦に突き立てたセリアティスを、サーカスの曲芸のようにくるくる回って昇り上がる。
「はっ! かざねこぷたーの真価は回避に現れる! いくら練乳でも、危ないものは受けれませんからねっ!!」
 セリアティスの石突きの上にまで身体を昇らせ、かざねは噴射される練乳のような液の射線の上へと逃れる。
「‥‥ん。油断すると。本能のまま。練乳を。飲みそうになる。我慢。我慢。回避。回避」
 憐もまたキメラから視線を逸らさず、追い撃ちにきた白い液をかわす。
 液をかわす憐とかざねの後ろ、ビリィはその身をすっぽり覆う程大きなライオットシールドをかざし、飛んできた白い液を防ぐ。地面を跳ねた白い飛沫がビリィの顔にまで飛び、口の辺りに付く。口元に付いたそれを舌で舐めとる。
「あっま〜いぇ〜っ!」
 顔を緩ませて歓声をあげるビリィ。しかし、その甘さに気をとられ続けるわけにはいかない。理性を奮い起こして前を見やり、狙い来るキメラの葉へと尖剣「スピネル」を振るい斬り落とす。
「茎は任せるのじゃ、そっちは相手の動きを止めるのをよろしくの」
 後方の2人に声をかけ、悠美は地に刺さった葉へと近寄り、薙刀「清姫」で葉を茎ごと斬り落とそうと試みる。しかし、鋭く斬りつけるも、茎は太く、一撃では斬り落とせない。一撃目でできた傷を急所と見立て寸分たがわぬ場所にもう一度刃を振り下ろし、これを斬り落とした。
「今のうちに行くぞ」
 キメラの狙いが前衛の4人に集中する隙を狙って、嵐導が先頭で護衛しつつ、ルディ、セラとキメラに向かって駆け出す。子守唄の効果範囲は5m、かなり近づく必要があった。
「ルディさんは私の後ろについてきて下さいね☆」
「無理はしないでね、セラ姉ちゃん」
 セラはルディに優しく頷きを返しながらにっこり微笑み、前に向き直る。
(――美味しそうなショタっ子ですね☆‥‥じゅるり)
 前方を向いたまま、ルディには見えないようにセラが涎を拭う。
 前衛の4人が注意を引きつけている内に、3人は巨大イチゴを目の前にする距離まで一気に距離を詰めていく。
「動きを止めるから、後お願い!」
 ルディが呪歌を歌い出し、セラも同様に呪歌を歌い出す。
「動きが止まるまでの間は任せておけ」
 残り2本となった葉の茎は、前衛が引きつけている。嵐導はS−01を液を噴射する中央の茎に目掛けて射撃。液の噴射でこちらを狙わせないように牽制する。
 ルディとセラが呪歌を歌う。キメラの動きが歌によって呪縛され、その動きを鈍らせる。
 呪歌によってキメラに麻痺の効果を与えたのはルディのようだ。
 それを確認して、セラは呪歌から子守唄へと歌を切り替える。
 セラの子守唄によって鈍っていたキメラの動きが完全に止まった。キメラが活動を停止し、眠りに入ったようだ。
「‥‥ん。今の内に。迅速に。細心の。注意をしつつ。収穫。収穫」
 キメラの動きが止まっている内に、憐とビリィが茎の周りのイチゴを後方へと運んでいく。
 茎からイチゴを切り離す度に、眠っていたキメラが動き出すが、眠りが解けても麻痺は残り、攻撃を仕掛ける前に、再度セラの子守唄で眠らされる。
 3つほどイチゴを取り除けば、キメラの茎への道が開いた。イチゴを運び終えた憐とビリィが、先に茎の周囲で待つ悠美とかざねに加わる。
「‥‥ん。準備。おっけー? いちにのさんで。行くよ」
 合図をとりつつ、憐がハーメルンを振りかぶる。
「いち‥‥」
 悠美がファング・バックルを使用し、清姫から腕にかけて白光に包まれる。
「にの‥‥」
 後方で嵐導がS−01を構えつつ、合図に加わる。そして、
「さんだぜ!」
 ビリィが掛け声とともに、スピネルで茎の側面を斬り裂く。
 同時に、嵐導がS−01での銃撃を加え、悠美が白光を帯びた清姫で斬り払い、憐が限界突破からの二連撃の高速の斬撃を茎に与えていく。
「食べれない茎に用は無いです! さっさと沈んで私に果実を食べさせろぉー!」
 かざねが叫び、さらに追撃、真燕貫突で中央の茎に二度深く貫くように突く。
 茎の根元を周りから散々に切り裂かれ、目覚めたキメラは苦し紛れに葉から白い液を傭兵達の頭上に降らせる。
「きゃっ危ないです♪」
 それを目撃したセラがとっさに嵐導の陰に隠れる。
「くっ‥‥」
 嵐導はセラとルディの前に立ち、シールドを構えつつ身を挺して白い液から2人を守る。
 白い液を頭から引っ被り、どろどろの粘土細工のようになりながらも、嵐導はなんとか2人を守りきった。
「大丈夫ですかぁ? 何か、絵的に掛かってはイケナイ気がしてつい‥‥テヘッ☆」
 セラが嵐導に声をかける。レジストの輝きが、嵐導の身体を覆った白い液をひび割り、剥がし落としていった。
「――大丈夫だ。2人には掛かっていないな?」
 目線はキメラの方に置きながら、嵐導はセラに答える。
「ダメ押し、もう一撃!」
 ルディが超機械「スズラン」を鳴らして、さらにもう一度白い液を噴射しようとしていた葉を焼き切る。
 そのショックが引き金となって、キメラの巨大な茎が斜めに傾ぎ、倒れていった。
 倒れるその先、地面には巨大なイチゴがあり、倒れる茎に押し潰される――
「――そっちには倒させねぇぜ」
 倒れるキメラの茎をビリィが抱き止め、支えた。しかし、いくら能力者といえど、10mものそれを完全に支えることはできない。
 その僅かな停滞に憐が茎を押し、倒れる方向を調整する。場所はすでにイチゴを移動させた空白へ。地響きとともに、茎はイチゴを潰す事無く地面に倒れ、土ぼこりを舞いあがらせた。
 後方にいたレガシーは、キメラが倒れ、動かなくなったのを確認すると、メイクセットの中から手鏡を取り出す。
 手鏡を使い、土ぼこりによる化粧崩れが無いか肌を入念にチェックする。
「うん。お化粧もばっちりですぅ」
 レガシーが可愛らしい女の子のように微笑む。

●巨大苺の試食会
 場所はいつもの天紅の家の工場。家で療養させられていた須磨子を含め、兵子、天紅、近所の人々が集まり、巨大苺を食べるべく、試食会の準備を開いて待っていた。
 敷地内に輸送車が停まり、真っ先にセラが降りてきた。兵子が皆を代表して歩み寄っていく。
「おー、ようき――」
 たな、と兵子が続ける前に、セラは兵子の脇をすり抜けると須磨子へと飛びついた。
「須磨子さん、どうぞご安心くださいな♪ キメラは退治しましたよ♪」
「あ、ありがとう? ってちょっ‥‥ひゃ‥‥んっ?!」
 セラが抱きつき回した手をわきわきと動かして、須磨子の体のあちこちを触る。突然の事に動揺し、須磨子の口から思わず変な声が出る。
 セラのセクハラが続く間に、輸送車から他の傭兵たちも降りてくる。呆気にとられていた兵子が2人から目を移す。
「えーっと‥‥いちごを持ってきてくれた傭兵さん‥‥でええんやろか?」
 兵子はちょっぴり不安そうに尋ねた。

「汝は大変じゃったの‥‥大丈夫かの?」
 悠美がセラから解放された須磨子の肩を叩き慰めるその横で、
「この時を‥‥この時を私は待っていた! 全てはこの時の為にがんばったんだものっ!」
 かざねが両手をあげて満面の笑みを浮かべる。
「どれくらい食べていいんですか? 私、一人で一個は食べれますよ? 甘いものは、いくらでも、どんとこいです!」
 いまにもかぶりつきそうな勢いで、天紅にまくし立てる。
「‥‥そうね。1つ2つくらいなら食べてしまっても構わないと思うわ」
 天紅の言葉に、かざねが太っ腹ですね! とナイフとフォークを手に早速、赤い苺の一つに向かった。
「んじゃ遠慮無く、いただきまーす」
 横で二人の話を聞いていたルディも赤い苺の身を切り分けて、口に運ぶ。
「ボクも少しだけ齧ってみるですよ」
 レガシーもまた、苺のキメラが美味しいのか、味を確かめてみようと興味本位から少しだけ切り分け、かじってみる。
「それでは、私も失礼して一口。こちらの持ち帰った普通の苺と食べ比べてみましょう♪」
 セラは苺畑で拾った売り物にならないが食べられる苺を農家の人に融通してもらい持ち帰っていた。普通の苺の皿と、キメラの苺の皿。
 二つを並べて、どんな味がするのかとドキドキしながら交互に食べ比べる。
 赤色の苺は、普通の、もう少し言えば、この時期の苺にしては甘い苺だった。
「塩はあるか? 挑戦してみたい食べ方があるのだが」
 嵐導は、塩を用意してもらい、切り分けた苺の一部に塩を一つまみだけ振りかける。
(‥‥友人には美味いと聞いたが果たしてどうか‥‥?)
 嵐導が塩を振りかけた苺を食べる。塩辛さがまずは口に当たったが、その後には、苺のすっきりした瑞々しさだけが口の中に残る。くどさが取れて、甘すぎずに爽やかな美味しさだった。
「へっへ、あたしはやっぱ練乳だぜ!」
 ビリィは皿に乗せた苺にこれでもかと練乳をかけてかけて真っ白な苺にして食べる。
 小さく細身なその体のどこにそんなに入るのかと、かざねと競い合うようにして、苺を頬張り食べていく。
 赤色以外には、7色の苺があった。苺は虹の7色に、カレー色とでも言うべき8色目を加えた8種類。
「いちごの歯ごたえなのに柑橘系の味がするの、不思議な気分じゃ」
 悠美が橙色の苺を一口切り取って食べながら、感想を述べる。
「まあ、うん。味が違うのはわかるけど」
 赤色の苺味、橙色のミカン味、その他それぞれの色に対応した果物の味がした。見た目が苺であることも手伝い、舌が子供のルディには、どれも甘くて美味しい以上の感想は述べようがなかった。
 しかし、8色目のカレー色の苺には、誰もが手をつけられない。
「‥‥ん。先ずは。私が。毒味を。しようか? しようか?」
 誰もが手をつけないカレー色の苺の毒味に憐が立候補した。それは戦場で一目見たときから、カレー味の気配を感じ取っていた憐にとって、今回の一番の目玉である。
 皆の注目が集まる中、憐が毒味した。
 やはりというか、その苺はカレー味だった。
 その珍しいさに食べ比べを試みた者もいたが、一口でなんともいえない顔をして他の苺へと戻っていく。
「‥‥ん。おいしい。のに。カレー味の。苺」
 憐は飲み物を流し込むかのようにカレー味の苺を次から次へと口の中に放り込んでいった。