タイトル:少女はKVを追いかけてマスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/31 22:22

●オープニング本文


●空の彼方まで
 その少女は嬉しそうに空を見上げながら走っていた。少しだけ息を上がらせて、はっはっと口から呼吸音が漏れる。
 少女の瞳に映るのは、青く遙かな彼方まで続く空。澄み渡るその空高くを飛ぶ飛行機――Knight Vogelだ。
 きぃんと地上まで届く音を上げながら空の端へと飛んでいくそれを見上げて、少女はとてとてと追いかけ走る。
 少女が走る整備された公園のウォーキングロードを、その後ろから少女の母親は駆け足に気味に追いかける。
 しょうがないわね、とやや困った様な笑みを浮かべながら母親は、少女が転ばないか注意して見守っていた。
 しかし、案の定、少女は足を転ばせてずべたっとこけた。
「もう‥‥大丈夫? リレ」
 少女の母親――ヘレンがリレに駆け寄る。あまり慌てた様子が無いのは、いつもの事で
 ヘレンとリレ、共に黒く長い髪、少しきつそうな目元が良く似ている母子だ。
 今日は戦場カメラマンであるヘレンのたまの休日であり、休みの日は、自分の娘とこうやって散歩に繰り出し、のんびりと過ごすのが日課だった。
 リレは立ち上がり、ヘレンの方ににぱっと笑顔を見せる。笑顔を見る限り、リレは大丈夫そうに見えたが、
「気をつけなさいといつも言ってるでしょ」
 と叱って見せる。
 しゅんと反省した態度を見せたリレの前に、ヘレンが屈み、リレの膝小僧や手のひらについた土をぱっぱと払う。
 土を払うと、リレは手のひらや膝小僧にちょっとした擦り傷をしていた。赤い血がじわりと滲み出ている。
 リレが転ぶのはいつもの事なので、ヘレンはバッグの中に消毒液や絆創膏等を常備している。
 すぐにそれらをバッグから取り出すと払い残った土をさっと拭き取り、しゅっと消毒して、ぺたりと絆創膏を貼る。
 消毒された時、痛みに少しぎゅっと顔を歪めたが、それでもその間、リレはヘレンの事をじっと見ていた。
「ねぇ、ママ」
「なぁに?」
 傷の手当てを終えて、ヘレンは服についた土もぱっぱと払い落とす。
 粗方払い落せたが、スカートの端についた土は、服にこびりついて、払い落とせなかった。
 リレの片足に土がついていなかったので、おそらく、こけた時にスカートが足と地面の間に挟まったせいだろう。
 心の中で、家に帰ってからの洗濯物がまた増えたわね、と苦笑する。元気な証拠なのだから、それはそれでいいとも思うのだが。
 そんなヘレンの考えを他所に、もごもごと口籠っていたリレは意を決したように口を開き言葉を紡ぐ。
「ママはいつもお仕事でお空を飛んでる飛行機を撮ってるんだよね」
「そうよ?」
 正確には、飛行機ではなくKVだが、その違いはわざわざ訂正する程のものではないと思った。
 ヘレンはリレをくるりと回転させて反対側を向かせながら、背中側は汚れてないかと確認する。
 上から下までつーっと確認し、汚れていない様子に、よし、と笑みを浮かべた。
 そして、ヘレンが再度くるりとリレを回転させて、正面を向かせる。
 リレのまん丸な可愛らしい瞳がヘレンの顔をぐぐいっと真剣そうに見ていた。
「ねえ、ママ。あたし、ママのお仕事を見てみたい」
「え?」

●KVショー
「――という事だ。やってくれるかね?」
 北中央軍の一基地。その執務室の一つで、ジャネット・路馬(gz0394)は上官である大尉から、次の任務内容を聞かされていた。
 大尉の撫でつけたオールバックの銀髪が電灯の光を照り返す。
「傭兵達を率いて、KVによるショーを行うのですか?」
 路馬は首を傾げて大尉に聞き返した。
 大尉は頷き、キッと引き結んだ口の端に笑みを浮かべ、開く。
「そうだ。ジャネット少尉、君の隊は以前の戦闘で、多数の死傷者が出て戦闘は不能だろう。東海岸奪還作戦の為に、君の隊を再編成する予備兵力は、全てそちらに回っている。であれば、君の隊に出来る事は、雑用程度の事だろう」
「‥‥しかし、それは傭兵達ではなく、軍の能力者部隊が行うべきではないでしょうか?」
 軍側が主導するKVのショーであれば、軍のKVを出し、行うべきだ。
 また、路馬は能力者ではなく、――つまり彼女の率いるカーク小隊もまたKVを扱える部隊ではない。
 軍側で行うにしても、路馬のカーク小隊に回ってくる話ではない。
「我が北中央軍の能力者は、東海岸奪還作戦の為に既に各地へ派兵されている。人手は余っていないのだよ」
「‥‥傭兵の人手なら余っている、と言いたいのですか?」
「言葉には気を付けたまえ。その言い方は、傭兵を非難しているようにしか聞こえないぞ」
 ――どっちが、という思いを飲み込みつつ、路馬は、わかりましたと頷く。
 険しい顔になっていないか、自信はなかったが、路馬が踵を返して、部屋から出ていこうとする。
「ああ、そうだ」
 その後ろ姿に、大尉は再度声をかけた。
「言い忘れる所だったが、レイテ軍曹はKVショーには参加しない」
「は?」
「レイテ軍曹には、こちらで別の任務に従事してもらう必要があるのでな」
 大尉の言葉に、そんな話は聞いていないと路馬が眉を顰める。
「そんな勝手な‥‥」
「彼女にしかできない重要な任務があるのだよ。これについては、君の意見を聞くわけにはいかない」
 大尉がジャネットの抗議を無視して、強引に話を進める。
「それとカメラマンが一人、KVショーを撮影したいらしい。ショー自体、規模の大きなものではないので、あまり想定はしていなかったのだが‥‥折角の機会だという事でこれを許可してある。広報活動の一環ともなるので、失敗はするな」
「‥‥わかりました」
 厭々ながらにも、話しを了承して、ジャネットは再度踵を返し、執務室を出ていった。

●参加者一覧

フェリア(ga9011
10歳・♀・AA
三枝 雄二(ga9107
25歳・♂・JG
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
ランディ・ランドルフ(gb2675
10歳・♂・HD
御剣 薙(gc2904
17歳・♀・HD
グリフィス(gc5609
20歳・♂・JG

●リプレイ本文

●会場にて
「‥‥すまない、スモーク装置の手配が間に合わなかった」
 ジャネット・路馬(gz0394)が頭を下げて三枝 雄二(ga9107)に謝る。
「そうっすか‥‥いえ、了解したっす」
 KVショーという事で、路馬には初め、何を用意すればいいか分からず、予め用意したMC用の各種機材以外は、追加申請する事になり、スモーク装置の用意が当日までに間に合わなかった。
「僕がお願いしておいた陸戦のときの書き割りの街並みとか起き上がる模擬標的、タートルワームとかゴーレムタイプは書いてもらえた?」
「ああ、それは何とか間に合った」
 こちらには路馬は頷く。ランディ・ランドルフ(gb2675)からの準備要請により、路馬をはじめ、カーク小隊の隊員達はKVによる市街地戦セットの大道具を作っていた。ショーの開催まで徹夜が続いたせいで、路馬の目の下には隈が見える。
 ランディはそれに頷いてから、自分のKVの方へ戻ると、
「ああ、整備のおじさん。幻霧発生装置の霧。カラースモークに変えていいよね?」
 自らのKVを整備する整備班の一人に尋ねた。
「何言ってんだ坊主。そんな簡単に中身を弄れねェよ。やるとしたら、奉天の工場に直接持ち込んでやってもらうしかねぇぜ」
「ダメなのかあ‥‥」
 ランディの呻きも無視して、整備員は整備に戻っていく。

●前半:航空ショー
 六つの甲高い排気音が会場に鳴り響き、三枝の愛機フェニックスを先頭に滑走路へと進んで行く。四つの機体を前に、さらに後方に機体が二機待機。
「お集まりの皆様、これより、KVショーを開催します。まずは、KVによる航空ショーをお楽しみください」
 路馬が手元の台本を読み上げるとともに、手の指をまっすぐに伸ばした状態の爪先のように並んだ四機が滑走路を加速し離陸に入っていく。離陸直後、編隊最後尾、大神 直人(gb1865)の愛機アストライアが横にずれ、先頭を三枝機、左右をフェリア(ga9011)の愛機真・狼嵐とグリフィス(gc5609)の愛機ノスフェラトで、菱形のダイヤモンド編隊を組む。四機が旋回し、正面の観客席へ耳鳴りに似た高音と共に上空を駆け抜け、着陸灯の輝きが観客の後方へ飛びすさっていく。
 次に御剣 薙(gc2904)の愛機ブレイクエンドが加速し離陸、しかし、滑走路との接地ぎりぎりの超低空を飛行し、会場を抜けた後にほぼ垂直の軌道で空へと舞い上がっていく。
「久しぶりだけど、整備は万全だね。行こう。シュトルム・ヌル」
 最後にランディの愛機シュトルム・ヌルが滑走を開始する。
「いくよ! スモーク展開!」
 幻霧発生装置をスモーク代わりに使用しながら、離陸。横倒しの樽の内壁をなぞるように螺旋の軌跡を描き、大空へと飛び上がっていく。
「今、全機が空に舞い上がりました。続きまして、四機でのファン・ブレイクに移ります」
 路馬の解説が、各演目の合間に入りつつ、空へと舞い上がった六機は、それぞれの演目に合わせて編成を変え、曲芸を披露していく。スモークが無いために、一部の演目は断念せざるを得なかったが、それでも、いくつもの演目をこなし、観客を魅せた。
 薙機とランディ機が会場の上空へ左右から進入し、ハーフロールで反転。連続した回転を加えながら二機が至近距離まで接近し、会場正面でぶつかるような距離を交差していく。
 入れ替わりに、雄二機を先頭にした四機がダイヤモンド編隊で進入してくる。最後尾の直人機が背面飛行に移り、続いて、左右のグリフィス機とフェリア機が背面飛行へ三機の背面飛行を雄二機が先導するようにして上空を駆け抜けていく。
「次は、ボントン・ロール。そして、最後にローリング・コンバット・ピッチとなります」
 六機が空中で△の形を作るデルタ編隊で会場左から侵入してくる。観客席の上空に差し掛かったところで、全機が一斉に機体をくるりと横に一回転させる。完璧とはいかないまでも、六機が綺麗に揃った回転を見せながら、右へと離脱していく。
 演目の最後は、雄二機を先頭に四機が斜めにズレ、雁行飛行――エシュロン編隊を組み、上昇しつつ横回転のロールを加えていく。そして、そのまま編隊を解散し距離をとる。
 全機が順に着陸を開始して、無事、前半のプログラムを終了した。
「――これから三十分の休憩をとります。休憩の後もまだまだKVショーは続きますので、どうぞご期待ください」
 路馬はマイクのスイッチを切り、ふぅ、と息を吐く。
 慣れない仕事で緊張をした為か、肩がやけに凝っていた。

●休憩
「君たち、チョコレートはいるかい?」
 休憩時間、グリフィスはKVの周りに集まってきていた子供達にそう言って話しかけた。
 子供達が目を輝かせて頷いて、我先にチョコレートやココアを貰おうとグリフィスの周りに集まる。
「みんなで分けあいなよ?」
 グリフィスの苦笑いに、子供達はうん、と頷いてそれらを分け合い、美味しそうに食べた。
「んくっ‥‥ねえねえ、お兄ちゃんは、どれに乗っているの?」
 仲良くチョコレートを食べていた子供達の一人が尋ねる。
「俺はこの赤と黒のやつに乗っているんだ」
 人型のまま展示されている愛機の足に触れながら笑う。
 赤と黒で塗装された騎士のようなそれを、子供達がかっこいーと見上げる。
 居並ぶKV達。子供達が集まるグリフィス機から少し離れた所で、ヘレンはKVの撮影をしている。ただし、娘の手前、いたって冷静に、事務的なお仕事として撮影を行っていた。
 その姿を薙が見つけて、近づいていく。
「こんにちは、ヘレンさん」
「あら、薙ちゃん」
 薙に声をかけられ、ヘレンが振り返る。振り返るヘレンの隣には、小さな女の子が一人。
 ヘレンによく似た容姿をしている。
「もしかして、この子が娘さん? 可愛いねー」
「お姉さんはだれ?」
 あまり人見知りしない性格なのか、リレは薙を見上げながら尋ねる。
「ボクは御剣 薙、ママの友達ってとこかな。キミのお名前は?」
「薙さんっていうの? あたしはリレ。リレ・ヘレナ」
「そっか。よろしくね。リレ君」
 子供らしい無邪気な笑みを浮かべるリレに薙が微笑みを返して握手する。
「元気そうだな、ヘレンさん」
 そこに二人を見かけて直人もやってきた。
「え?」
「大神先輩」
 話しかけた直人に、きょとんとしたヘレンに代わって、薙が反応した。
「‥‥えっと、どこかで会った様な‥‥あー、以前に戦場で助けてくれた人?」
 薙と合わせて見て、閃いたように思い出す。直人が呆れたように溜め息をつき、頷く。
「ああ、そうだ。また戦場に一人で突っ込んだりしていないか? あの時は、キメラに襲われても九死に一生を得たが、かといって、まただな――」
「ちょ、ちょっと子供の前では、もう――はいはい。話は聞くから、あっちに行きましょうっ! 薙ちゃん、しばらくリレの面倒見てて、よろしくね」
 リレを薙に頼んで、ヘレンは直人の背を押して離れていく。
「弱ったね。どうしていようか?」
 薙がリレと顔を見合わせて、肩を竦めた。
 小隊員達が木で作った張りぼての市街地戦セットや手作りのゴーレムやTWの的を大わらわで配置場所に備えつけていく。手作り感溢れる微妙な出来ではあったが、これらの大道具ができあがったのは今朝であり、大道具を用いてのショーのリハーサルを行う余裕はなかった。

●後半戦
「続いて陸戦演習だね。いくよ!! 敵前強襲降下!」
 機体の中、無線でランディが各機に檄を飛ばす。
 敵前強襲降下訓練では、先程と同様に雄二を先頭に六機が間隔を空けて飛びながら登場した。
 見栄えを良くするために、雄二機は本来では危険なために行わないような空中変形着陸を敢行した。
 障害も何も無い状況下で、着地には成功するが、速度を維持しての急速着陸に機体が悲鳴を上げる。特に着地時に速度を殺した脚部へのダメージが大きい。
 それでも、なんとか体勢を立て直し、無様な姿を子供達の前に見せることだけは回避した。即座に無線で後続の各機に連絡を送る。
「降下地点クリア、後続降下よし」
 雄二の無線を受けて、ランディが人型へ変形しての着陸を試みる。戦場ではないため、敵の砲火を気にすることもなく、着陸にのみ神経を集中させることができる。
 雄二とランディの両名が、人型に変形しての着陸を成功させた後方から、直人、薙、グリフィスの三名が、強行着陸を成功させる。
「フッ‥‥陸戦こそ我らの本領‥‥往くぞ狼嵐、嵐の如くッ!」
 そして、その最後に、フェリア機が降りてくる。フェリア機は人型に変形し着地すると、同時にラージフレア『幻魔炎』 を使用。陽炎のような青い光を放つ滞空式ラージフレアが周囲に射出された煙を伴い、白いマントを羽織った黄金騎士の登場を演出する。
「犬耳! 猫耳! 兎耳! くいっ☆くいっ☆‥‥シン・ロウラァァァンッ!」
 外部拡声機を使い、大きく名乗りを上げると共に、愛機真・狼嵐がそれに相応しいポーズをとる。
 子供達が、そのヒーローショーの様な演出に、わあっ、と歓声を上げる。
 それを開始の合図として、セットの各所にTWやゴーレムの的が現れる。
 フェリア機がその歓声を受け、先陣を切って飛び出す。
 雄二機が、フェリア機の動きに合わせながら、高速で移動し真スラスターライフルで牽制射撃を行う。同様に、ランディ機がH−112長距離バルカンで牽制を交えながら、MSIハンドマシンガンでゴーレムの的に穴を空けていく。
 フェリア機は、雄二機の支援射撃を受けながら、白いマントを虹の翼に変化させて、フレキシブルモーション「神天速」Aを起動、機刀「獅子王」と機刀「建御雷」を手に一番手前にあったゴーレムの的二つを狙いに行く。
 踏み込みから、機体の立ち上げ、腰部スラスターの広い稼働域を利用した加速接近からゴーレムを上へ舞い飛ぶ様に斬り上げる。黄金の機体が流麗に煌く軌跡を後に残す。
 グリフィス機は、ホバー機構「スィール」を用いて高速接近。実戦さながらにRA.0.8in.レーザーバルカンでゴーレムの周囲を牽制しつつ、レーザーガトリング砲でゴーレムに狙いをつける。高速移動によるブレを修正、照準をゴーレムの真ん中へ。
「当たれ!」
 グリフィスがトリガーを引き、愛機のレーザーガトリング砲が高速回転しレーザーの火を連続で噴きだしていく。
「次は俺だな。いくぞ」
 コックピットで眼鏡の位置を直しつつ、直人が宣言する。直人機がターゲットに接近しながら試作型「スラスターライフル」と3.2cm高分子レーザー砲でTWを撃ち抜いていく。
「ふ‥‥っ」
 呼気を吐き、直人が高速機動に耐えながら、踊る様にしてゴーレムへ機体を近づける。ライフルから練機刀「月光」に持ち替え、ゴーレムを逆袈裟に斬り上げる。斜めに斬り上げられた、練機刀の煌きがゴーレムを斬り裂いた後の宙に白い軌跡を残す。
「今度はボクの番だ、いくよ! ブレイクエンド!」
 ツインブースト・OGRE/Bを起動し薙機が疾風の如く加速、風を切り突撃していく。ゴーレムの的の下にしゃがみこむ様に身を伏せると、全身を伸び上げる様にして拳を振り上げ、更に機爪「シェルシェード」の小型ブースタを点火、打ち上げる拳を加速させる。打ち込まれたアッパーカットにゴーレムの的が粉砕される。
 そして、その奥、二体並んでいるTWに向けて、脚部のスラスターを噴射し躍りかかる。勢いをそのままに、機体を捻り回転させる。回転の遠心力を脚爪「ディノスライサー」に伝え、旋風脚でTW二つが吹き飛ぶ。
 ターゲットハントの終了後、ショーのフィナーレとしてフェリアが会場の近くから調達してきた大きな岩を前に、全機が構える。
「フィナーレだ、行くよ!」
 最初に突撃した薙機が機爪で正面から岩を貫く様に刺突を繰り出す。
 同様にフェリア機が二刀に脚爪を加えた三つの武装で、岩の側面を撫でる様に舞い、斬り裂く。
 続けて雄二機が電磁ナックルαで正面から岩を殴りつけ、そこで後方へ離脱。
 三機が岩から離脱したのを見た後、直人機がパラジウムバッテリーを消費し、光波発振装置を起動、フォトニック・クラスターによる高熱のフラッシュが周囲諸共、岩を焼く。
「ダス・ラインゴールド発動――」
 その閃光が収まるのを待たず、グリフィス機が機槍「エレメント」を手に構え、
「――撃ち貫くのみ!」
 ラインの黄金を発動し、ブーストから機槍へと還流したエネルギーを一気に放出。放たれたエネルギーの奔流は、一直線に岩へと向かい、岩の中央に穴を空ける。
「そこだ!! 必殺! ブレイブ! ソーーッド!!」
 ランディが大きく叫ぶ。それは音声入力となり、機体の両の手で握り構えたブレイブソードにオーラのようなものを纏わせる。光り輝くその剣を上段に振り上げ、岩に向けて振り下ろす。その剣の軌跡は、岩を上から下へと一筋に走り、一刀両断に岩を断ち割った。
 そのフィナーレを見ていた子供達が、最後に大きな歓声を上げる。
 フェリア機が歓声の聞こえる観客席の方に振り返る。
「勝利のポーズ‥‥決めッ!」
 フェリア機が親指を立てて、サムズアップする。
 その後、全機で横一列に整列して、敬礼を行う。
「みんな! 傭兵も軍のみんなも世界を護るために頑張っているんだ! だから協力してね!」
 外部拡声機を使って、ランディがそう宣言して最後をヒーローらしくキメた。

●終了後
 ショーの終わりと共に、会場から人が去り、後に残ったのは、後片付けに移っているカーク小隊と、傭兵達だけである。
「とある依頼で、うちの相方がお世話になりました。ここであったのも何かの記念、私の狼嵐を撮りまくって下さいなのです!」
 残っていたフェリアがヘレンに挨拶をする。
「え? ええっと? その、相方さんが誰かは分からないけど、今日は、その‥‥」
 ――うずっ。
 心の隅に沸き上がる自らの欲望を覚えながら、ちらりと、背後に控える自分の娘に視線をやる。‥‥それはダメだ。
「さあさあさあ! どうぞなのです!」
 ずずいと、推してくるフェリアにヘレンは押され気味になる。魅力的な話だった。なにせ、金色のアヌビスというのはそう滅多に見られるものではない。
 ――うずうずっ。
 そして、それが、猫耳アンテナやら兎耳アンテナなんかをつけているのである。
 ――うずう‥‥ぷつん。
「だ、だめっ! ダメなママでごめんね、リレ! きゃーっ! いいわあ、もう! なにこれ信じられない、こんなKV見た事無いわーっ!」
 カメラを構えると、激写激写。優しげな母の姿もどこへやら、いつもの調子で写真を撮り始めた。
「フッ‥‥どうですか。母の仕事姿を見た感想は?」
 夕陽の照り返しに、勇ましい笑みを浮かべながら、フェリアはリレに訊く。たとえ、幻滅されそうな姿であってもありのままの姿を見せる。それが彼女の正義(ジャスティス)なのDA☆。そして、その母の姿を見たリレは、
「ママかっこいい‥‥っ」
 目をキラキラとさせて、感動した様に拳を握った。