●リプレイ本文
●風の襲来
「どうした嬢ちゃん達、狼なんざ引き連れて。俺たちと遊びに来たのかい」
遠目に少女――シンディ達を見つけ、守剣 京助(
gc0920)が声をかけた。かける声には警戒の色がある。
「そんなところかもー? あ、ねえねえ、そこにマルサス少将が居るんだよねー?」
「さあ、どうだかな?」
肩を竦めはぐらかす京助。シンディはぷくっと頬を膨らました。
「むー、いじわるだねー。お兄さん。じゃあ――」
シンディの声と共に、狼が左右に散開し始める。
「自分で調べるから、みんな死んでくれるかなー?」
●風を受け止める盾
「いいですの? しっかりとバリケードを作るんですのよ。お願いしますわね」
ミリハナク(
gc4008)が司令所内の軍人に指示を出して入口の扉を閉め、外からもバリケードにスキュータムを立て掛ける。時間稼ぎにはなるはずだ。
「流叶、気をつけてね。決して無理はしないように」
ヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)が、横目にちらりと流叶・デュノフガリオ(
gb6275)の顔を見る。
「ヴァレス? うん‥‥そっちは任せた」
短いやり取りにアイコンタクトを忍ばせ、二人が視線を前に戻せば、シンディ達は駆け始めている。それに応じる様に、傭兵達の前衛陣も駆け始めた。
「ここは通れないからそこでUターンしてねー!」
ジェーン・ジェリア(
gc6575)が前衛を援護する様にソニックブームを放つ。衝撃波はエイコとビーの中央シンディに向かい、
「この前の御返し‥‥! ――なんて、ね?」
疾走する流叶とヴァレスもまた、二人でエアスマッシュをシンディに向けて放つ。
合計三つの衝撃波がシンディに向けて飛んだ。
エイコとビーの間へ飛び来た衝撃波に引っ張られる様にして、エイコとビーの突進が止まる。三つの衝撃波に糸を斬られて、エイコとビーはバランスを崩しよろける。
シンディへの牽制だったそれに対し、直前、何かに当たり消えた衝撃波を不可思議に思いながらも、流叶とヴァレスは左右へ分かれる。直前、目と目で打ち合わせた通りに。
「お前の相手は俺だよ」
ヴァレスがビーの懐へ迅雷で飛び込み、大鎌を振るう。
「シンディ様‥‥ッ!」
体勢を崩したままビーは、ナイフでヴァレスの一撃を受ける。だが、ヴァレスが迅雷の勢いのままに押して、ビーはエイコとシンディから引き離されていく。
残されたエイコ。
「君の相手は私達だな」
流叶がエイコに二刀小太刀で斬りかかる。左右の小太刀を連続させて、流叶は体勢を崩したままのエイコに防戦を強いらせる。
エイコは、それでも一度、間合いを置いてビーと合流しようとするが、
「なかよしこよしもダメだからねー?」
二人の連携を事前に防ぐ為、ジェーンがエイコの動きの先へとアラスカを撃ち、間合いを取らせない。
エイコとビー、二人が足止めされ、開いた中央。そこを須佐 武流(
ga1461)と守剣 京助(
gc0920)が、シンディを迎え撃つべく走る。
「はっはー! 嬢ちゃんと遊ぶのは俺達だぜぃ!」
「俺も本気で遊ばせて貰おうか」
二人が同時に正面から攻めると思わせて、武流は途中で横へ、ミスティックTから電磁波を撃ち出し、その足や武器を潰す様に狙う。
その牽制にシンディは僅かに手を振り、足を上げ最小限の動きで躱すと、スカートの下から更にナイフを一本取り出す。ナイフは左右の手に一本ずつ。
正面の京助との間、まだ距離がある。シンディは武流と京助に、手に持つナイフを投げた。
京助は身体の前に縦に掲げた大剣を盾に、ナイフを弾いて前へ進み、武流は飛び来たナイフに合わせて、蹴り返した。シンディは蹴り返されたナイフを片手に受け取る。
京助はシンディの正面から近接し、流し斬りに側面へ回り込んで斬りつける。武流の電磁波と挟撃に合わせて、シンディを狙った。
シンディは京助の流し斬りに合わせて身を後方へ飛ばし、追撃に来る武流の電磁波は手足を僅かに逸らす程度で避ける。
風の刃を止める為、それぞれがそれぞれの相手に向かって行った。
●狼は血の雨に沈む
司令所の入口、美空(
gb1906)はミリハナク、二条 更紗(
gb1862)と共に、最後の砦としてその場を死守する様に居た。
「ここは何としても通さないでありますよ」
左右から分かれて襲い来る狼にガトリング砲を撃ち、美空は狼達の出足をくじく様に射抜いていく。
だが、それでも、狼達は構わず突進する。突撃してきた狼達を叩くのは更紗の役目だ。
「委細構わず突貫、刺し、穿ち、貫け」
ユビルスを片手に、突撃してくる狼を正面からカウンターに貫く。それを引き抜くと、脇を抜けようとしたもう一匹の狼の鼻面を柄で叩きつつ、その場でドリフトする様に走輪で身体を回転させ、後方、入口へと引き返す。
更紗は入口から離れず、死守を堅持する。
「一匹ずつ確実に倒させてもらいますわね」
ミリハナクが鼻面を叩かれ怯んだ狼の眉間を、オルタナティブMで撃ち貫く。
三人は連携し、順調に狼を倒していった。
だが、最初の五匹を倒しても視界の端々、路地の隙間から次々と狼が現れてくる。
元より、他への加勢はせず、三人共に入口を死守し離れる気が無いとはいえ――、
「――キリが無いですね」
続く狼達の集団は、六匹。路地から抜け出ると、左右に三匹ずつ集まり、入口の三人を囲む様に来た。
「例え、囲まれても――これでどうでありますか!」
美空はAUKVの走輪を全開に、タイヤ痕を地面に擦りつけながら、半円を描く様に回転し、ガトリングの銃弾を狼達の包囲に向けて乱れ撃つ。
作り上げられたガトリングの弾幕に狼達が突っ込み、半数はそれらに耐えて突進を続けたが、残りの半数は、通常の銃弾に混ざった貫通弾に手傷を負い、足並みを乱す。
六匹による同時攻撃ではなく、三匹による同時攻撃二回に分かれれば、三人で十分に対応できる。
弾を撃ち尽くした美空は、突進してくる狼の一匹をガトリングの砲身で殴り返す様に受け止める。
「美空が狙い目だとでも思ったのでありますか?」
銃器本来の用法とは異なる為に、殴り倒すとまでは行かずとも、突破させない位の事は出来る。
美空が一匹を止めれば、残り二匹。入口へと十分に引き付けてから、更紗が飛び出す。
二匹は左右に分かれ、更紗の右か左、どちらか一方からでも突破しようと試みる。
「何人も抜かさせない」
右の狼の前にサイドステップで飛び出しながら、竜の咆哮にて槍を大きく横薙ぎに払う。目の前の狼をしなった槍の腹でピンボールの様に弾き、左の狼へとぶち当てる。
二匹が絡み合う様に転がるのを竜の翼で追いかけ、更紗は猛火の赤龍からの威力を増した突撃を二匹に仕掛ける。
「もう用はない、沈め!」
槍の突撃で纏めて二匹を貫き、息の根を止めた。
残りの三匹、そちらはミリハナクがソニックブームを織り交ぜて入口に近づく前に倒していた。
この調子なら、狼の更なる増援が来ようとも、何も問題は無い。
そう、感じていた。
●赤い糸の二人
流叶とジェーンは二人共闘し、エイコ一人を相手取る。
「あう‥‥、あたし一人じゃ‥‥」
ビーとの連携を断たれ、エイコはジェーンと流叶の連携に、徐々に追い込まれていく。
流叶が側面に回り込み、エアスマッシュをエイコのやや後方を狙う様に飛ばせば、それを躱そうとエイコは前方、ジェーンの前に飛び出す形になる。
「いらっしゃーいだねー」
ジェーンはしゃがみ込んでエイコの足元を大きく払う様に斬りつける。
エイコが足払いを避け、バックステップに空中へと逃げれば、
「これでどーだーっ」
ジェーンは流し斬りによる側面への回り込みで、追撃にもう一度斬りつける。
エイコは空中で体勢を整える術を持たない。宙でジェーンの斬撃をナイフで受けるも、力に押し切られ吹き飛ぶ。
流叶はエイコが起き上り間合いを取る間も与えずに近接する。近接戦での剣撃の撃ち合いの最中、流叶はエアスマッシュで足払いをかける。バックステップでは躱せず、宙に逃げれば先程の二の舞――。
エイコは瞬天速の如く素早く流叶の側面へ回り込む様に前へ踏み込む。だが、そこは――、
「‥‥そこで、これを避けれるかい?」
その位置は、直線上、背後にシンディが控える事になる。
流叶は身を舞わす。足払いに薙いだ小太刀とは逆の小太刀。それを逆袈裟に斬り上げエアスマッシュを放つ。
エイコは避けず、流叶の一撃をその身で受け止め――それで足を止めてしまった。
「一人、いただきますわ」
流叶のエアスマッシュにシンディの盾となり、動きを止めたエイコ。そこへミリハナクが両断剣・絶を乗せたソニックブームを飛ばした。
エイコは避けるに間に合わず、ミリハナクのソニックブームをもその身に受ける。
衝撃波の消えた後、その場に立っていたエイコは、衣服をずたぼろに引き裂かれ、身体中に重傷と思える傷を負っていた。
「あ、ぅ――シンディ様‥‥」
膝から崩れ落ち、エイコは前のめりに倒れる。
ビーを引き離したヴァレスは大鎌を振るい、付かず離れず、ヒットアンドアウェイにビーと戦っていた。
「足元ががら空きになっているね」
ヴァレスは大鎌でビーの足を刈る様に薙ぎ払う。
「ならば、足は差し上げます」
ビーは上や後ろに避けるではなく、前に出る。踏み込みに加速を加え、ヴァレスの顔面へ直線の最短距離をナイフの刺突で狙う。
ナイフは短く、ぎりぎりのところで首を横に躱す。ビーは突き出した腕をそのままに、ヴァレスへと脇腹を当てる様に体当たりしてくる。
「く、ぅぁ――?!」
縺れ倒される前に、抜け出そうとしたヴァレスの背に激痛が走った。
見れば、ビーは突き出し避けられた腕のナイフを翻し、肩口からヴァレスの背を抱く様に回してナイフを突き立てていた。
ビーに突き立てたナイフで背を抉られ、ヴァレスは肺腑から血を吐きだした。
それでも、咄嗟に鎌を手前に引き、後ろから鎌の刃でビーを狙う。ビーはその動きに気づいて飛び退る。
間合いの開いた隙に、ヴァレスは物陰に逃げる様に移動した。十分に大鎌は見せつけた、今ならキャンサーで不意を狙い撃てる。まだ逆転の目はある。咽そうになるのを耐えて、ヴァレスは口元の血を拭った。
鎌を置き、キャンサーに持ち替え、移動する。別の物陰に隠れ損ねたフリをして誘う様に飛び込む。だが、致命傷を与えた感のあるビーは、警戒はすれど間合いを開けたまま、後を追わない。
「‥‥――っ」
息を荒く、痛みに顔を歪める。出血が多く、力が抜けていくのが分かる。
(ダメ、かな? だったら、力が抜けきる前に――)
ヴァレスは物陰からビーの頭部を狙う様に撃つ。
しかし、初めにヴァレスがエアスマッシュを撃つのを見ていたビーにとって、遠い間合いで飛び道具が来るのは予期出来ていて、――ヴァレスの銃弾はビーに躱されてしまう。
「‥‥ごめん、流叶‥‥」
ヴァレスは背からの出血に、次第に遠くなる意識を手放し、血溜まりに倒れた。
●疾風は暴風へと変化する
「暴風だというのなら‥‥その暴風の中を飛ぶ木葉のように立ち回ればいい」
武流が高速機動とスコルのブースターを合わせて、上下左右、縦横無尽の機動でその身を躱す。
「風は‥‥立ち向かうものじゃなくて、乗るものだ!」
シンディの動きを見、最小限の動作で動きに合わせ、武器を払う様に蹴り叩く。
武流と同様に、京助もまた近接したままでシンディから離れず攻撃を続ける。
シンディは彼らの攻撃から分厚く輝くFFで身を守り続けていた。
――あたしのおやつのわんこを、もー‥‥!
シンディの視線は、時折、目の前の二人ではなく、その奥に向く。
だが、そのうちに流叶とジェーンがエイコを倒してしまう。
「あー、もぅーっ!」
シンディは二人の包囲から抜け出す様に後ろへ飛んだ。ナイフを二本、スカート下から抜き放ち、武流と京助に向かって投げる。更に二本を引き抜き、今度は二人を狙う軌道からやや離れた所へ投げる。
「どこを狙っているんだ」
武流が一本目を躱し、二本目は躱すまでも無く。京助は一本目を大剣の腹で受け、二本目は大剣を盾に構えていれば、横を過ぎ去っていった。
「やけでも起こしたのかい。嬢ちゃん」
「‥‥そんなんじゃないよ、もー。鬱陶しいのを捕まえただけ」
武流と京助に投げた一本目は、二人への牽制。投げられた二本目は――、美空と更紗のAUKVの首に巻きついていた。
力任せに引っ張れば、二つのAUKVが引きずられる。
「そういう事をしてくるんですのね‥‥!」
ミリハナクが更紗の首に巻き付いた鎖をキュアを用いながら引き剥がす。だが、
「くっ、解けないのであります‥‥っ!」
美空の方の鎖までも外すのは間に合わなかった。
美空がAUKVごと宙を舞う。宙を舞う美空は、まず、京助の頭上へと叩き落とされた。大剣を盾にして受け止める。だが、加速された重量がぶつかる衝撃に耐えたと思った瞬間、その脇腹に、一本のナイフが投げられ突き刺さる。
続いて、ナイフ以外の超重量の――それも仲間が投げつけられる事を想定していなかった武流は、それを最小限の動作で回避しようとした事が逆に仇となった。遠心力の限り加速させた美空のAUKVは、武流の予測を上回る速さで迫り、横薙ぎに殴ると、そのまま、共に壁に叩きつけられる。
一枚の木の葉は確かに風に乗る事が出来るだろう。――だが、風に乗る木の葉に暴風を止める力は無い。
前衛の二人を蹴散らした後、シンディは美空に勢いをつけたまま、司令所の入口正面に向かって投げつける。
バリケードをぶち破り、司令所の中を跳ねる様にして美空は転がっていった。
●去り行く風
だが、そこで時間切れとなった。陣地前線の方から、勝ち鬨の様な歓声が響いてくる。UPC軍がもう一つの戦場で勝利したのだ。すぐにもUPC軍のKV部隊が戻ってくるだろう。
「さて嬢ちゃん、あんたの勝ち目は薄くなったけど尻尾巻いて逃げちまうのかい? 残念だな、もっと俺と遊ぼうぜ」
身体は満身創痍、だが、京助は大剣を支えに立ち、挑発する。
「うーんうーん‥‥マルサスって奴の血は気になるけど、ここに居たら他の血も飲めなくなっちゃうんだよねー‥‥帰ろっかー」
「では、そのように。――シンディ様」
シンディは合流したビーと、生き残った狼を連れ、路地へ消える様に撤退していく。
「次は後ろや周りを気にせずに戦える場所で遊べると嬉しいわ。私の血もおいしいわよ」
ミリハナクがシンディの去り際、声をかける。
「あはは、今度会ったら、おねーさんを生搾りにしてあげるー。じゃあねー」
戦闘後、付近の建物の物陰で、血溜まりに倒れるヴァレスを流叶が発見した。
幸いにして、軍の医療部隊による治療が直ぐに施された為、ヴァレスは一命を取り留める。
こうして、マルサス少将を巡る裏舞台は幕を閉じ、風は何処かへ吹き退っていった。
――北米における人類の反攻は、いまだ始まったばかりである。