タイトル:【NS】繋がり合う言葉とマスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/06/07 12:14

●オープニング本文


●都市シンシナティ
「行った‥‥みたい」
 瓦礫となって倒れたUS-27(国道27号線)の物陰から、こっそりと顔を覗かせて、サァラ・ルー(gz0428)は言った。
 上空を小型HWが遠くに過ぎ去っていく。無自覚にふぅ、と大きく息を吐けば、自分が緊張で息を止めていた事に気づく。
 手にじわりと滲んだ汗に、やや苦笑気味になる。傭兵として命をかけたやり取りは、いくつもしてきたけど‥‥今回は勝手が違うものね。
 苦笑を浮かべるサァラ。その後ろの陰から、こっそりと一人の青年が顔を覗かせた。
「――すまない。君達には、迷惑をかける。君達も任務の途中だったはずなのにな‥‥」
 声をかけられ、サァラが顔だけで振り向く。青年の顔には、疲労の色が濃い。
 そこから更に奥に目を落とせば、幾人もの人が怯えた様に隠れている姿が見える。
 影の中にあるとはいえ、こちらは更に顔色が暗い。
 サァラは青年を――それから、その後ろに控えた人達を励ます様に明るく笑う。
「あはは。いいのよ。と言っても、あたし一人だけになっちゃったから。任務は中断。予定より早いけど、別の傭兵グループと合流しないと、ね。そこんところ、あんたたちに頼るしかないんだから、持ちつ持たれつってところ。気にしないで」
 わざと陽気に、いつか年上の女性がやっていた事を思い出しながら、真似して軽くウインクに笑みを返す。
 青年はシンシナティにて活動するレジスタンスであり、そして、後ろに控えた人々は、オハイオ川を越えた南部から人類圏へと逃亡を続けてきた人々だ。
 青年達のレジスタンスは、オハイオ川以南よりバグアの支配から逃げてきた人々をデトロイトまで逃がす事を主目的として活動していた。
 敵防衛施設の情報収集という任務にシンシナティに潜入したサァラと、他数名の傭兵達。サァラ達は任務の最中、レジスタンスと民間人と偶然出会い、追われる彼らを逃がす為に他の傭兵が囮となった。
「ほら、急ぎましょ。もう一つの傭兵グループには既に連絡を入れているわ。まずはあんた達を安全な所に逃がす。で、その後、可能ならもう一度潜入して、任務を再開ってところね」
 心の中で、多分無理だろうけど、と付け加える。
 ――囮となった傭兵達と連絡が取れない。あまり想像したくはないが、バグア達によって捕まった可能性が高い。
 であれば、バグア達はそこからこちらの動きを予測し動くだろう。そうなれば、再度の潜入工作は危険が倍する事になる。‥‥おそらくは、作戦の中止が懸案されることだろう。
 回る思考を他所に、警戒を続けながら進むと、合流地点が見えてきた。
「‥‥なんとか、無事に着けたわね。後は、もう一つのグループを待つばかり、かな」
 だが、もし、もう一つの傭兵グループが、ここに辿り着く前に敵に見つかり、全滅していたら‥‥。
 最悪の想像ばかりが駆け巡る。不安になる心内を、自らの両腕を抱える様にして支える。
 大丈夫だ。大丈夫のはずだ。
 ‥‥合流までの一分一秒が、サァラには途方も無く長く感じられた。

●リジー盗賊団
「こういうのって、なんだか嫌ですね‥‥セドさん」
 セドの隣、同じ木の反対側から顔を覗かせ、見張るドミナがセドに言う。
「どうしてですか?」
 セドは、柔らかにドミナに問い返した。
「だって‥‥見つけたら、殺さなきゃだめなんですよね‥‥?」
 眉根を寄せて、苦渋の表情のドミナ。セドは、その声が微かに震えているのに気づいた。
(そういえば、彼女はまだ人を殺した事が無いのでしたね‥‥)
 セドは、一度目を瞑り、できれば、この娘が人を殺す様な状況にならない事を願う。
 ――神など居ない事は知っている。だが、それでも‥‥
 目を開け、答えを待つドミナに優しげな瞳を向ける。
「そうです。それが、リジーさんがカヌアから取り付けてきた約束です。バグアの他のコミュニティから食料を融通して貰う為の‥‥」
 前回の食料強奪には失敗した。軍の警戒網は、厳重さを増し、前回の失敗で人手の多くをも失った。この状態で、再度の食料強奪作戦の敢行は無謀に過ぎた。
 しかし、人の腹は減る。
 打つ手が無く、どうしようもない倦怠感が盗賊団の面々を包んでいた。
 そのとき、ちょうどカヌアに呼び出されたリジーが彼らの下に戻ってきたのだ。
 食料の融通を交換条件とした約束を抱えて。
「‥‥それ、本当に守って貰えるんですか‥‥?」
 ドミナは疑う。それは結局のところ、バグアのした約束だ。人とは違う価値観で動く、奴らの言葉。
 ドミナは一度カヌアに会った事がある。その時の事は、今もはっきりと覚えている。
 ――カヌアの目。その目は、家畜を見る様な見下した目だった。
「おそらくは守るでしょう。‥‥まだ気紛れに撤回される可能性はありますが、このシンシナティを維持する事は、彼女自身の怠惰な自由を守る事にも繋がります。動くと思いますよ。自分の利益の為に、ね」
 セドはドミナの理解を得る様に丁寧に説明する。自分達が――帰りを待つ街の人々を含め、自分達が生きる為には、ここで人の命を奪う事に躊躇ってはいけない。
 しかし、ドミナの瞳には、まだ惑いがある様に見えた。
「‥‥何かまだ疑問が残りますか?」
 セドは訊く。胸の内を透かされた様に、ドミナはぴくりと震えた。
 視線を逸らし、しばし俯き、言い辛い様におずおずとセドを見る。
「セドさんの説明は分かりました。けど、それとは別に‥‥ラルフさん達の事で‥‥。ラルフさん達は本当に死んじゃったんですか‥‥?」
 ラルフとは、前回の食料強奪にて、傭兵に捕まった盗賊団の仲間で、その安否については知りようが無かった。しかし、
「死んでいるはずです。もし、死んでいなければ‥‥UPCの手に落ちても死んでいない事がカヌアに知れた場合、私達の街がどうなるか。彼も重々承知していましたから」
 どうなるのかは口にしない。だが、カヌアにとって、自分達の街の価値など、どれほどのものか。
 飽きたら捨てる玩具程にも、価値があるのだろうか。
 その玩具のせいで親から怒られるとしたら、子供はその玩具にどう当たるか‥‥。
 ‥‥思いはすれど、言葉は飲み込み、続ける。
「それが、何か?」
「その‥‥私が‥‥私達がもし、誰かの命を奪ったら、その誰かを知る人も‥‥私がラルフさん達を失ったように悲しいのかなって‥‥そんな風に思って‥‥」
 哀しげに瞳を伏せるドミナに、セドは内心、慟哭した。
(彼女が望んだから、強化人間に推しましたが‥‥優し過ぎましたか)
 彼女は、ここに‥‥こんな戦場に居るべき人間ではない。相手の命を奪わねば、自らの命を失う、そんな場に居るべきではない。
 もっと優しい世界に生まれ、命のやり取りなど知らずに笑っているのが似合っている。
 心からそう思う。
 だが、――始まりから定められた運命を、誰が変えられると言うのか。

 この世界に、神はいないと知るセドに、答えられるはずも無い。

●参加者一覧

風代 律子(ga7966
24歳・♀・PN
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
ウラキ(gb4922
25歳・♂・JG
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN
ソウマ(gc0505
14歳・♂・DG
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
トゥリム(gc6022
13歳・♀・JG

●リプレイ本文

●合流
 予定していた時間、予定していた場所に傭兵達が現れ、サァラ・ルー(gz0428)は緊張の糸を解いた。
「よく頑張ったわね、ありがとう」
 歩み寄った風代 律子(ga7966)がサァラに感謝を告げる。
「サァラちゃんの頑張りに私達も応えなくてわね」
 一人でサァラがここまで連れてきた人々を、続けて守るのは自分達だと意思を引き締める。
「‥‥無事か。‥‥良い、仕事をしたな」
 ウラキ(gb4922)もサァラの姿を認めると、一瞬だけ表情を緩めて、サァラを褒める。
 サァラはウラキの珍しい表情にきょとんとして、それから、嬉しそうに笑みを返す。
「此処まで良く頑張った‥‥後もう少しだ、頑張ろう?」
 精神的な重圧もあって疲労の色濃いサァラに、流叶・デュノフガリオ(gb6275)が励ましの言葉をかける。
 解けた緊張の糸を少しだけ結び直し、サァラは表情を直すと「はい!」と元気良く返事を返した。
 傭兵同士で一通り挨拶を終えて、律子が後ろに控える民間人達にも声をかけて行く。
「もう大丈夫よ。けど、ここから、まだ長いわ。これで水分を補給して。水筒に水も詰めてあるから」
 律子がスポーツドリンクを皆に回しつつ、水の入った水筒を二つ手渡す。
「これも彼等に分けて‥‥」
 律子に続いてウラキが差し出したのは、水の追加と、ビーフシチューのレーション、板チョコだ。
「サァラ、君も口に入れておけ。疲労に効く」
「は、はい」
 ウラキに促され、少しばかり遠慮した後、板チョコを一欠けだけ頂いた。
「‥‥甘いもの好きか?」
「え、あ‥‥実は‥‥えへへ」
 はにかみを返し、指に少しだけついたチョコを舐めとる。
「怪我人は居ないわね?」
 律子が一人一人見て回るが、目に見えて疲労していても怪我人は居なかった。あと少しだと思えばこそ、水とビーフシチューを分け合い、民間人達は力を少しでも充実させる。
 食料を皆で分け合っている間に、傭兵とレジスタンス達は脱出ルートについての打ち合わせを進める。ソウマ(gc0505)とレジスタンスが情報交換をすれば、流叶はそれぞれに分かれた場合の合流地点を打ち合わせる。
「それから、コレの合図は『プレゼント』です。いいですか?」
 春夏秋冬 立花(gc3009)が目配せに見れば、サァラはこくりと頷き、レジスタンス達も了解の意を伝える。
「‥‥一人でも死亡したら士気が低下して連鎖的に犠牲者が増えるかもしれません。ここは全員生還させる覚悟で行きましょう」
 トゥリム(gc6022)は囮になった傭兵達の事が頭をよぎるが、気丈にもそれに耐えて平常に振る舞う。
「‥‥脱出しますよ、皆無事にね」
 ソウマの浮かべた優しい微笑みが、民間人達の不安を和らげる。
 戦火に焼け落ちた街からの脱出行が始まる。

●街の中
 崩れた建物の陰に隠れつつ一行は進む。街中を西に進み、その先の森林地帯を抜けるルートで脱出する事になった。
 先頭はソウマが務め、
「上が気になるな‥‥」
 哨戒機を気にしつつ、ウラキが二番手に続く。
 隊列は、中央にサァラとレジスタンス達一般人を挟み、トゥリムと立花、それに大神 直人(gb1865)と律子が脇を固め、ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)と流叶が殿を務める。
 探査の眼とGooDLuckを使用して瓦礫の街を進むソウマは、そのキョウ運で予期せぬ危機を事前に回避していく。
 周囲に瓦礫が多く、視界の悪い場所を抜ける際には、バイブレーションセンサーでもって見えぬ敵を察知し、一行を安全な迂廻路へと導きもする。
 日暮れはまだ遠く。しかしゆっくりと時間は過ぎて行く。焦らず、安全を最重視に進む。
 振動を探る中、不意に、知覚の端に多くの気配が偏る場所を見つけた。
「この反応の多さ、なんらかの防衛施設ですね。‥‥僕の知覚からはどんなモノも逃れられませんよ」
 逃げ損なった鼠を見つけた様に、ニィと口の端を吊り上げて黒猫は嗤う。

 ソウマと律子は二人分隊として本隊を離れ、防衛施設に情報収集に向かった。
 律子は激しい戦闘で崩れたのであろう瓦礫の中に、無事な建物を発見する。身を伏せ双眼鏡を覗けば、そこに出入りするキメラと強化人間の姿が確認できた。
 付近をよくよく観察してみれば、瓦礫に隠す様に地下に埋設され、上半分だけ地面から顔を出したレーザー砲群が見えた。
「ここにあるのはオルバースみたいね」
 レンズの向こう、おそらくは点検作業に従事しているのであろう人影を見る。
「ええ。形状が情報と一致します。オルバースです」
 ソウマがデジタルビデオカメラを望遠し、遠目からの様子を撮影すると共に、ノートパソコンに位置情報を記録する。DVCに映るキメラや強化人間達は、ソウマらに気づかず普段と変わらぬ警備体制を見せていた。

●森の中
 分隊に離れた二人を街に残し、レジスタンス達を先導する本隊は、薄暗い森に差し掛かっていた。鳥の鳴き声が、低く不気味に響き渡る。
 ソウマに代わり、先頭を警戒し歩くのは流叶。
「大丈夫ですか?」
 本隊の側面で周辺を警戒しながら、立花が民間人達の様子を窺う。
 時折、水筒の水を回し飲みしながら、民間人達はまだ気力が残っている様子に見える。
 殿につけたヴァレスは、サーマルモードの片目用多目的電子ゴーグルで人の居ない後と左右の熱量に絶えず気を配り、伏兵を警戒する。
 森を慎重に進む中、ウラキが足元に仕掛けられた鳴子を見つけた。
「ブービートラップ‥‥だな」
 周辺にそれを仕掛けた敵が居るかもしれない。警戒をより厳にして、一行は進む。
 しばらく進んだ先に、何人かの傭兵達に見覚えのある顔があった。
 リジー盗賊団のセド。その隣で銃を手に持つ少女も、強化人間だろうか。セドが傭兵達に気づき振り向く。
 直人が迅雷に駆けようと腰を落とし、それぞれが戦闘態勢に入ろうとした矢先、立花が彼らに向かって無防備に歩み出た。
「前回はどうも」
 後ろに回した手、その手の中で閃光手榴弾のピンを抜く立花。
 セドに続けて隣の少女も気づき、手に持つ銃を微かに震えながら立花に向ける。が、セドの手に制される。
 セドは立花の向こうに傭兵達の姿を認めていた。戦闘になれば、不利。
「あの時の傭兵の少女ですか」
 セドの確認に、立花は小さく頷きを返す。直人が抜きかけた刀を収め、成り行きを見守りつつ周囲の警戒に回る。油断はできないが、話は出来そうであった。
「――時間がないので手短に話しますが、お互い会わなかったことにしません?」
 無駄な戦闘による被害の回避という利害、それと引き換えに後の仕事の斡旋の約束を提案し、加えて‥‥以前の依頼で捕まったセドの仲間達がとった選択を告げた。
「‥‥とても悲しかったです‥‥。私が傭兵になった理由は幾つかありますが、助けるためにでもあるんです。貴方たちのような人も――」
 強い意志を秘めた眼差しで、他人の幸せをただ願う少女は言う。
「私にあなたたちを助けさせてください」
 セドは話の間、終始不機嫌そうな顔で少女を見続け、ドミナは仲間の死を聞かされ顔を伏せ涙していた。
「止めろ、これ以上は無駄だ」
 二人の感情の動きを見て取り、ヴァレスが立花を止める。
 振り向く立花から視線を外し、セドへ、つと視線を向ける。
「‥‥大切なものを守りたいなら迷わない、たとえそれが強制力によるものだろうと」
 銃を構えて、独り言の様に漏らす。
「なら、あと二つだけ。――プレゼントがあるんです」
 近づこうとする立花に、ドミナがびくりとして銃を向ける。セドは再度手で制し、
「すみません。そこで」
 立花の歩みも止める。立花は頷きその場に屈むと、懐から財布を取り出し置いた。
「多くはないですが、多少足しにしてください、それと‥‥」
 立花は屈んだままセドを見上げる。
「まだ何か――」
 セドが尋ねかけた時、立花は後ろ手に隠し持っていた閃光手榴弾を二人に向かって投げた。
 閃光と音に紛れつつ、立花は制圧射撃で二人を足止めし、その間に本隊と共に逃げる。
 目を眩まされた状態で追うのは困難だと判断したセドは、冷静に懐から無線を取り出す。
「こちらセドです。第7警戒地域にて、傭兵と遭遇。増援を頼みます」
 向こうから返り来る返事に、しかし、セドは、
(ですが、彼女らなら逃げ切るでしょうね‥‥)
 その言葉を飲み込みつつ溜め息を一つ吐く。地面の財布を、ひょいと拾い上げた。

「相手が聡いとやり易くていい」
 森の中、殿を駆けるヴァレスはセド達が追って来ない事を確認する。
 しかし、見つかった事に違いは無く、民間人達は不安そうに呟き合っていた。
「――大丈夫だ、必ず連れて帰ろう」
 呟きを聞いた流叶が励ましの言葉をかける。
 先程の閃光手榴弾の音に加え、セドの連絡によって、強化人間やキメラが集まって来るのが見える。
 先頭を走っていた流叶が気づき、真っ先に本隊を離れて飛び出していく。
「ヴァレス、後は任せた!」
「流叶、気をつけて」
 飛び出した流叶と入れ替わりにヴァレスが先頭に出て、皆を先導する。
 本隊を横目に見送りつつ、流叶は二刀小太刀「疾風迅雷」を手に先頭の強化人間に斬りかかった。
 二刀と強化人間の剣が撃ち合わさり、刃金の火花と音が散る。間合いを取る様に飛び退り際、SMGへと持ち替え、脇のキメラも牽制する。
「悪いが‥‥少し付き合って貰うよ?」
 目の前、その奥から敵は次第に増えつつある。

 先を進む本隊に、流叶が引き付けた敵部隊とは別、今度は左から敵部隊が押し包みに来た。
 本隊左手、周囲を警戒していた直人がそれを発見し、片手を上げてハンドサインで仲間に知らせる。と、同時に、直人は木々の間を迅雷で駆け出し、敵部隊の懐に飛び込んで行く。
「それ以上近寄れると思うな」
 先手を取って懐に潜り込んだ直人は、刹那からの豪破斬撃で淡く赤い剣閃を閃かせ、まずは犬キメラを斬り伏せる。
 斬り込んだ直人が斬り伏せるのとほぼ同時、ウラキが先手必勝に放った弾丸が強化人間の喉を貫く。それによって無線の使用を封じ、次いで正面に向いた犬キメラの首を撃ち抜く。
「吠え声は敵を呼ぶ‥‥」
 初手で増援を呼ぶ手段を封じた後、狙いを変え、確実に一匹ずつ腹に銃撃を集中させて倒す。
 喉を潰された強化人間が、反撃に本隊の民間人達を狙った射撃を繰り出してきた。
「これ以上の‥‥犠牲は」
 トゥリムが反応し、ボディガードでその身を敵の前に晒し、民間人の身代わりとなって銃弾を受ける。
(誰かが犠牲になる事で誰かが助かる、それはもう十分です‥‥)
 二度の射撃が小さな少女を襲い、銃弾が撃ち抜く。
 更に追撃を加えようとする強化人間。だが、強化人間の攻撃はそこまでだった。ウラキと直人、サァラの三人の放った銃撃がそれぞれに強化人間を射抜き、――沈黙させた。
 進路を開き、本隊は先へと進む。

 本隊が見えなくなっても暫くの間、流叶は一人、多数の敵を相手に足止めしていた。追われればまだ追いつかれる。
 SMGでもって制圧射撃に弾をばら撒いては、多数の敵を相手に立ち回る。
 それでも無理に制圧射撃をその身に受け、強化人間が流叶の横をすり抜けようとすれば、
「そうは問屋が卸さない、ってね?」
 すぐさま二刀小太刀に持ち替え、抜刀と共に連撃を放ち、斬り倒す。
 そうして時間を稼ぐうちに、敵は徐々に数を増やす。そろそろHWが駆けつけてもおかしくない。
「頃合い‥‥だね」
 本隊は逃げ切り、今から後を追うのは困難だろう。
 流叶は閃光手榴弾のピンを抜き、タイミングを見計らって敵に投げつけた。
 追手が本隊ではなくこちらを追うよう仕向けながら、流叶は茂みの中へと姿を晦ます。
 本隊に追手をかける事無く、敵は流叶を追い続ける。

●再度、防衛施設へ
 森を抜けた先、傭兵達は分隊や足止めに分かれた流叶と再度合流した。
 この先はインディアナポリスが奪還された事もあり、比較的人類側に優勢になっている。
 ここでレジスタンス達と分かれ、分隊のソウマや律子が位置を特定した防衛施設の破壊に戻る事ができるだろう。だが、つい先程までバグア達に追われた民間人達は、不安そうに傭兵達に視線を向けていた。
「皆さんは‥‥僕が守ります。――いいですよね?」
 民間人達にトゥリムが宣言し、仲間に振り返る。彼女は救急セットで手当てはしたものの、途中、負った怪我の事もある。防衛施設まで戻る余力はあまり無い。
「何かあった時、一人では危険です。私もついていきます」
 立花も名乗りを上げ、これで二人。安全を期すなら、もう一人。
「なら、あたしも‥‥最後までついていくわ」
 サァラが三人目として彼女らについていく事にする。
「三人とも、気をつけていけ‥‥」
 ウラキの見送る言葉と共に、傭兵達の本隊は彼女らと分かれ、一路、分隊が発見した防衛施設へ戻っていく。

 護衛の必要も無く、身軽になった傭兵達は、日も暮れた森を抜け、夜闇に紛れて防衛施設に辿り着いた。
 ソウマがノートパソコンに記録した位置情報を元に、行動は楽だった。
「それでは破壊しに行きましょうか」
 すでに目前には、オルバースとそれに連なる防衛施設らしき建物があった。
 敵の歩哨が交代する機会を見計らい、律子は建物脇へ回り込み、瞬天速で窓に近づき、内部へと潜入する。
 その部屋に敵はいないようだった。安全を確認し、律子は外に手招きをする。
 律子の手招きで直人、ソウマが続き、潜入する。途中、強化人間やキメラを倒しつつ、変電設備へと辿り着きショートさせる。万が一の対策が取られている様で、ショートにより爆発、とまではいかなかったが、明かりや各種の電気設備が一時的に麻痺し、敵は混乱した。
 混乱の隙を突き、ヴァレスと流叶がオルバースへと近づき、ウラキがそれをバックアップする。
 地下に埋設されたオルバースの破壊は難しかったが、増設されたと思しきオルバースは未だ埋設されておらず、露出した機関部に接近する事ができた。
 FFで守られたオルバースの機関部にヴァレスは真燕貫突でナイフを突き立て、貫き裂く。
 一つ、二つ、とオルバースの稼働を停止させるうちに、混乱から立ち直った敵部隊が、傭兵達を発見した。
 ウラキの支援を受けつつ、ヴァレスと流叶は、オルバースを敵部隊との間に挟む様に逃走を開始する。
 追い掛ける敵部隊がオルバースの付近を通過しようとした時、ヴァレスは貫き裂いたオルバースの機関部傷口に向かって貫通弾を撃ち、爆発させた。
 至近の爆発に飲まれ、敵部隊が一時足を止める。その間にも、傭兵達は距離を開け、建物側に回った傭兵達と合流すると無事に撤退していった。

 依頼の後、防衛施設の破壊報告に軍へと赴いた際、ヴァレスは一つの調査を軍に要請した。
 リジー盗賊団の活動開始時期とその前後で支配された街について、である。
 結果については、暫く時間がかかるとの事だったが、破壊と各種記録情報の功績を鑑みて、要請に応じるとの事だった。
 一歩、前進する。