●リプレイ本文
●巨人へ放たれる号砲
軍からの要請を受けて、傭兵達の駆る八機のKVがライアー正面、幾分か離れたところに集まっていた。
既に敵のキメラ達と正規軍は戦闘を始めている。
傭兵達が相手をするのは、それらを吐き出し聳え立つ巨大ワームと、その直衛として守護する様に舞うタロスとHW。
「こんな物を隠していたとは‥‥恐れ入ります」
崩れた建物の影、蒼い阿修羅を駆り、井出 一真(
ga6977)は初めの驚きから幾分落ち着いた様子で伝える。
「拠点が変形してワームになるか‥‥、ロマンの産物だな。誰の趣味だ?」
輸送用のコンテナを下ろしたクノスペを空に、ハンフリー(
gc3092)は遠くのそれに鼻を鳴らす。
「トーキョーのラストバートル♪ 巨大ロボまで出てくるなんてすごいねー。この燃える展開にノってボクも燃えるよ〜♪」
アルテミス(
gc6467)機の両腕、チェーンガン合わせて四門、モーターの駆動音が高まる。
巨大ロボ――100m級の人型ワームを狩る準備を整え、少女と見紛う可憐な少年は近づきつつあるソレを見据える。
その言葉通りに、瞳の昂揚は燃え立つ様に輝いて見える。
「ラインホールドのまがい物か」
朱漆色の武者鎧。榊 兵衛(
ga0388)が愛機雷電の中、呟きに、超伝導アクチュエータを起動させる。
「本物ならばいざ知らず、まがい物ごときで俺達を止められると思ったままでいられるのも癪に障る話だしな」
機体表面の摩擦係数の低下により、ジャミング下で鈍っていた機体の動きが、元の反応に近いものになる。
「――速やかに片付けて本来の戦場に赴く事としようか」
身体半分程の大きさのスラスターライフルを取り回し、銃口をライアーに向けて反動を抑える様に固定する。
「くっくっく」
飯島 修司(
ga7951)が空中、空戦に飛ばした機体の中、ライアーを眺め、堪え切れない様に笑い声を漏らす。
「はっはっは、何とも可愛らしい大きさじゃありませんか」
それは、ラインホールドと死闘を繰り広げた者にとってのズレから来る笑い。
100m――それは、ラインホールドの実に三分の一程度にしか過ぎない。
「いや失敬。デカブツだという認識はあるんですがね。どうにも本家本元と比べると、妙な笑いが出てしまいます」
謝りを一つ。里見・さやか(
ga0153)機の直衛に修司機は飛ぶ。
ジャミング下、さやか機ウーフーによるジャミングの中和は、戦闘の初期において生命線となる。
いざとなれば、機体を盾としても護らねばならない。その覚悟で修司は往く。
並び飛ぶさやかは、ジャミングの中和と共に、フレアを放出。
狭いコックピットの中から外の景色を一瞥すると、一度目を瞑り、そして、正規軍への通信を開く。
「UPC Forces.This is Anahite‥‥いえ、元3等海尉里見さやか。皆さんの進撃を支援させていただきます。東京を‥‥取り返しましょう。over」
昔、守れなかったこの街を今こそ‥‥と、さやかはその胸に誓う。
「まあ、さっさと通してもらおうか、ね」
コックピット脇、包装に包んだプレゼント。UNKNOWN(
ga4276)はこの先の第一庁舎にて約束がある。
時間に間に合わなくなれば、喜びも半減というものだろう。
操縦者に似た黒衣の機体が、その腕に鈍い輝きの盾を付け、一歩、『嘘吐き』に向かって歩き出した。
●空舞う護衛
「いっちょいってみるか」
布野 橘(
gb8011)の127mm2連装ロケット弾ランチャーから飛び出すロケット弾。同様に傭兵達の乗るKVの火器が集中し、ライアーへと砲弾、レーザーを雨あられと降らせる。
集中した火線に対応して、ライアーの護衛達は一斉に散開。ライアーへの砲撃を躱す様に迂回し、砲火を浴びせる傭兵達のKVに迫ってくる。
「なるほど。応戦してくるのですね。――では、狙いを護衛に。護衛を削り落としたのち、数でライアーを押し包みます」
作戦は二つのプランを用意していた。もし、護衛が盾となりライアーへの集中砲火を防ぐなら、そのまま諸共に撃ち落とすだけ。もしくは、護衛が前に出てくるのであれば護衛から排除していくというもの。
選択されたプランは後者。
二機の有人タロスは、ライアーを後方に残し前へ。護衛部隊の接近に、さやか機と修司機の牽制射を避けつつも、狙いをジャミング中和中のウーフーに絞り、誘導弾を一斉射。追随するHWがタロスの狙う目標に向けて、更に淡紅色の輝線を三条迸らせれば、ライアーからも遅れて極太の光条が放たれる。
視界を埋め尽くす幾重もの光の束に、さやかは各種補助ブースターを点火し急加速に回避を試みる。急加速でかかる加重にその身をシートへと押しつけられ、息を詰まらせる。機体後部の尾翼を掠め、光は駆け抜けて行った。
「フレアで‥‥狙いが逸れたのは僥倖でした‥‥っ」
息を吐くさやか。加えて、修司がHWを横槍に撃ち抜いている。
それが無ければ、一撃目で捉えられ、続くライアーのプロトン砲も避けきれなかっただろう。
だが、紙一重に避け切っても、息つく間もなく誘導弾の嵐が待っている。
「――っ」
再度の急加速をしようにも、正面への接近を許し過ぎている。
それは、直撃コース。――だが、さやか機と誘導弾の間に、修司機が盾となり飛び込んだ。
幾つもの閃光。連続する爆発音と煙が辺りを覆う。
数秒後、煙の跡から現れたディアブロは、爆発に耐え切っていた。
『――大丈夫でしたか?』
十数の爆発にもかかわらず、ほぼ無傷。頼もしいばかりの仲間であるが、敵にとっては脅威。
二機のタロスが、まず落とすべきは護衛の修司機と狙いを変える。
しかし、その頃には、他の仲間達も、陣形を整え、それぞれの目標へ狙いを定めている。
崩れかけの建物や、高く積み上がった瓦礫の陰に身を伏せ、隠し、遮蔽として一真機が対空にHWを撃つ。
機関砲から奔った47mmの砲弾は五十。疾る火線が空のHWを一機裂く。
「一つずつ丁寧にいきましょう」
反撃の火砲が他のHWから放たれる前に、別の建物の陰へ飛び込み、影となる。
HWが一機落ちる反対から、別のHWに向かって橘とハンフリーが並んで機体を飛ばす。
「ハンフリー、ついてきてっか?」
「ああ、こちらの準備はいつでもいいぞ」
橘機が前にハンフリーを後ろに入れ替わる様にロールを交差させながら、機銃とガトリングで牽制しHWを狙う。
フェザー砲の紫色の光が空を引っ掻く爪痕を残し、彼らを迎え撃つ。
「いくぜ。3‥‥2‥‥」
機銃から銃弾を吐きだしつつ、橘は合図のカウントダウンを数える。
「1‥‥ゼロ!」
ゼロの掛け声と同時に、橘機は機首を上げて、上方へのループに後方に射線を開く。
後方にあるはハンフリー機。燐光放つエネルギー集積砲から輝きが解き放たれる。HWは光へ飲まれる。
奔流の流れた後に、HWは全体からぶすぶすと煙を噴き出し、高度を下げて行く。
残ったタロス二機とHWは、落とされたHW二機を盾とし、修司機とさやか機に高速で間合いを詰めていく。
接近する三機にへさやか機が牽制のバルカンを放ち、避ける先へと修司機が弾幕を作れば、追い込まれた最後のHWにライフルの一撃を叩き込む。
落ち行くHWを置き去りに、高空を飛翔するタロス。対し兵衛機が対空砲で地上から狙い撃つ。
人型であるにも関わらす高空で素早い回避機動を取るタロス。しかし、それをも上回る反応速度で狙いを定め、己が予測に従い兵衛は52mmの砲弾をタロスの機動の先へ。
――放たれた咆哮がタロスを貫く。
「遅いな」
外観に似合わず、機敏に。雷電はもう一撃対空砲を撃ち鳴らす。
残るはもう一機のタロスのみ。全機からの集中砲火にタロスは耐えつつも、一矢報いる為の機会を狙う。だが――。
ハンフリー機がブーストによる加速突撃を始めるのに合わせて、橘はタロスの注意を引く為にハンフリーの反対側からロケット弾を撃つ。噴射加速しロケット弾がタロスに食らいつこうとすれば、それを回避する為にタロス操縦者の意識は逸れた。
隙を突き、ハンフリーが粒子砲でタロスを捉え撃つ。装甲を削られよろけるタロスの横を駆け抜ける。
「さて、これで終わりだ。そろそろ道をあけてもらうぞ」
背後へと回り込み、急速旋回に反転。ブーストで安定させた機体はタロスが振り向く前に旋回を終え、ハンフリー機はタロスの背をも撃ち抜いた。
●最後に残った巨人
護衛達が傭兵達に突撃をかける中、ライアーは地上を来る一機の黒いKVと戦っていた。
ライアーは、その両腕を巨大なレーザーソードに変えて、空中に弾ける光を撒き散らす。
振り被る動作から、空気を割る雷の様な轟音と共に、目前に控えるUNKNOWN機へ振り下ろす。
空気を擦過し炎熱に灼き、叩きつけられた地面10m四方を劫火と溶かす程のそれを、しかし、UNKNOWNは悠々と躱し、各所に取り付けられたアンテナや砲を一つずつ潰していく。
躱した漆黒の機体を、それでも、ライアー各部ハリネズミに備えつけられた火砲が追う。砲の数は多く、純粋な鉄量の多さで面制圧に10m四方を跡形も無く砕く。その砲火に、されども、砕かれた地にUNKNOWN機の姿は無い。
アグリッパと連携し対空攻撃力に優れたラインホールドとは真逆の、接近し対地攻撃に全てを破壊する。
――それがライアーという巨大ワームの本質だった。
擬装は、ライアーがその戦力を最大限に発揮できる距離まで敵を誘き寄せる為の物。
護衛は、対空攻撃能力、遠距離攻撃能力に低いライアーの弱点を補強する為の存在。
『地上を這う小虫がっ!』
本来の能力を発揮しつつも、しかし、たった一機、目前のたった一機のKVに、良い様に翻弄されるばかり。
操縦者は苛立ちを隠さず、口汚く吐き捨てる。
UNKNOWNがライアーを正面から手玉に取る間、瓦礫の遮蔽に身を隠して、アルテミスのガンスリンガーが後方へ回り込む。狙っていたのは、艦載機の出入口。
これ以上の増援を許さない為に、まずはそこを潰すべく、アルテミスが走査する。
ライアーの背面、肩甲骨の下部の辺りに開口部が見えた。
「あそこかな??」
四門のチェーンガンで狙いを定め、怒濤の如くに鉄を押し寄せさせる。瓦礫の合間から押し寄せる強固な鉄の荒波は、幾度にも渡って開口部に打ち寄せ潰す。
「敵がでっかいから、百発百中狙うよ〜♪」
次の狙いは、主砲。舌舐めずりに機体をビルの陰へと隠し、主砲を狙える場所へと移動を開始する。
そこへ、護衛のタロスとHWを落とし、残りの傭兵が参戦してきた。
気づき、ライアーが大型プロトン砲を飛び来るKVに向ける。エネルギーの集束が砲口に淡紅色の燐光を仄かに立ち上らせ、陣形の中央へと閃光を走らせようと瞬間、先手を打つ様にさやか機の放ったアハトの輝きが灰色の空を駆け貫き、裂空の割断音を後に残して大型プロトン砲にて爆発する。
同時にライアーの側面に回り込むハンフリーが、続けて加速させた粒子を爆発の起こった部位にぶつける。砲塔の向きが歪み、狙いは大きくずれて空へ吸い込まれていく。
止めは遮蔽の合間を駆けてきたアルテミス機。二度の攻撃で開いた傷口に無数の弾丸を速射に潜り込ませる。さすれば、潜り込んだ弾丸は内部を食い破り、爆発の連鎖を生む。
唯一の対空攻撃の手段を潰されれば、ますますにライアーの狙いは、地上へ。せめて一機だけでも道連れに。
遮蔽を介さず、右足側へ接近する兵衛機に向けて、全身の砲で先程UNKNOWNが躱したのと同様の制圧砲撃を放つ。
砕かれたアスファルトの地面が土煙る。
土煙りの中、鎧姿の雷電はその姿同様、頑健に。四方を打ち砕く砲弾の烈風に飲み込まれても、しっかとその逞しき足で大地を踏みしめ立っていた。
鉄靴を大地と打ち鳴らし、駆ける兵衛はライアー右脚部、三本の指の様なそれを狙いすまして突進する。
「これでどうだ!」
装甲と装甲の僅かな隙間に十文字の穂先を刺突し突き入れ、裂き千切る。
引き抜きざまに光が鞘走り、翻る閃刃は別の指を斬り落とす。
ずずん、と足の沈む音。
地響きの中、揺れを物ともせずそこへ、瓦礫の陰から蒼の獣が駆け出でる。
それは、一真機。
地を蹴り、跳ね、弾ける様にして一陣の蒼風となり疾走する。
HWを倒した後、UNKNOWNの援護にバルカン砲を回し、身を潜めながらライアーの観察に注力していた。
そして、ラインホールドの弱点を念頭に、推測をたて、構造上不可避な欠点を見出した。
狙うは膝。ラインホールドの艦橋の存在した場所。
艦橋がそこに無いとは思えたが、ならば、このワームの場合そこはどうなっているのか――?
ライアーの沈む足に生まれた僅かな傾き。残った一本の指を剣翼で斬り裂き、その勢いのままに、更に傾いた足の斜面を積んだブースター二基を吹かし、駆け上る。
「東京を好き勝手にしてくれたお返しです――!」
吼える。蒼虎もまた尾を膝関節に突き刺し、伝う雷火の火花に空気を割り、共に吼え声と叫ぶ。
これで、ライアーは一気に大きく崩れた。
「もうひと押し、だな」
UNKNOWNの言葉通り、右足の膝関節部を切り崩され、それでも重心を安定させようとライアーは、片足でその場に踏ん張っている不安定な状態で――、
一点。ライアーの体勢を崩す一点へと攻撃が集束される。着弾に弾け、衝撃に跳ね飛ばし、ぐらりと揺れる。
ライアー後方へ回り込んでいた橘の目に映る大きな隙。
「この一瞬、狙わせてもらおうか!」
空中変形からスカイダイバーで空という波に乗る。ハンフリーが橘に合わせて支援する。
突撃と共に叩き込まれる一撃。その一撃で、いよいよ、ライアーは重心を崩した。
「倒れるぞー」
UNKNOWNの注意の声に、一時攻撃を中断散開して、巻き添えを防ぐ。
瓦礫を巻き込み、倒れれば、後は為す術も無く蹂躙された――。
●終息、そして次なる戦場へ
ライアーを倒した後、傭兵達は正規軍と戦闘を繰り広げていたキメラを掃討する。
正規軍周辺に押し寄せていたキメラ達を切り開き、第一庁舎への進路をクリア。
しかし、それでも数は多く、全滅させるのにはまだ時間がかかりそうであった。
「ここは任せて先に行けー! 一度言ってみたかったんだよね♪」
アルテミス機が宣言し、鉄の弾幕にて蠢く周囲のキメラを押さえる。
「隊列立て直せ。一気に押し込む」
指示を出すは、UNKNOWN機。ライアー頭部装甲を切断し、その身を覆う様にすっぽりと頭から被っている。
頭部装甲は既に自壊が始まっており、あちこちからボロボロと崩れ去りつつあったが、逆にその崩れ去り方が、ラインホールドの亡霊の様な雰囲気を醸し出していた。
「第一庁舎周辺に三連射、道を頼む。少し私が散歩してこよう、か」
『了解した。我々は道は作ろう。代わりに大将の首は任せる。――武運を』
正規軍の戦車部隊が一斉に砲塔を第一庁舎の方角に向ける。
三度、庁舎に向かって放たれる砲弾の嵐。
生まれた空隙を縫う様にして、五機のKVが東京最後の決戦の地へと向かう――。