●リプレイ本文
●作戦の道に
春夏秋冬 立花(
gc3009)を先頭に傭兵達の一行は進んで行く。二番手には、レジスタンスの青年。その横に、夜十字・信人(
ga8235)が並んで護衛に随伴する。
「アグリッパとは‥‥また厄介なものがあるのですね」
信人の後ろ、ついて回る芹架・セロリ(
ga8801)が前を行く二人に話しかけるように言う。
「ああ」と信人が頷き、
(アグリッパの破壊、それも軍と傭兵とレジスタンスと、三つの立場の共同作戦か、これからの為にも、失敗出来んな)
作戦の重要性を頭の中で再度確認する。
(そして、此処に居る全員で、帰るぞ。俺はその為に居る)
心の中で呟き、構えたSMGの調子を確かめる様にもう一度構え直す。
「先にデカいのが待ってるんだろうし、あんま無理すんなよ」
信人の心内を読んだかのように、セロリが言う。移動の最中から気合を入れ過ぎているように見えた。
本番の戦闘はもう少し先になる。
「もう少し、か‥‥生きて帰れればいいが」
アグリッパ破壊任務の為に、工作部隊として同行する隊員の一人が、危険度の高いこの任務に若干の弱音を吐く。
「生きて帰る‥‥それは皆望む事ですよ」
護衛に周囲を警戒する滝沢タキトゥス(
gc4659)が答える。覚醒は要所要所に抑えて、練力を温存している。
「大丈夫ですよ。自分達が守りますから」
タキトゥスがにっこりと笑って答えた。
怪我をしているはずの時任 絃也(
ga0983)は、その痛みをおくびにも出さず、工作部隊の護衛にあたる。
共に護衛にあたるサァラ・ルー(gz0428)がその様子を心配そうに見ていた。
それに気づいた絃也は、頼もしく見える笑みを返す。
「怪我の身だが‥‥出来る範囲での最善を尽くす。お守りをさせる様ですまんが、戦闘の際には、お前さんに俺との連携とフォローをお願いしたいのだが」
「‥‥オッケーだけど、無茶しちゃダメだからね?」
頷きを一つ返し、ジト目に忠告を一つ。
「サァラ殿も無茶をしては駄目だよ。ほら」
流叶・デュノフガリオ(
gb6275)が声を掛け、振り向いたサァラの口にチョコを放り込む。
ふぁむっ?! とサァラは口の中、チョコを転がす。
「ん、此れから動くんだ、糖分は有って困る事は無いよ?」
リラックスさせる様に語りかければ、サァラは口をもぐもぐと動かしながら、ふぁい、と返事する。
続き風代 律子(
ga7966)がサァラの肩をぽんと叩いた。
「さあ、行きましょう。頑張ったら、ご褒美にお姉さんがたっぷり可愛がって上げるわ。フフ‥‥」
悪戯っぽい笑みに、サァラはふぇ!? と声を上げ飛び退く様に距離を置く。
危うく、チョコを噴き出してしまうところだった。
「肩の力を抜いて、無事に帰る為の魔法の言葉よ。ま、あまり他意はないわ」
律子に対して未だ少し変な目を向けながら、サァラは前を向く。
目的地まで、後少し。
●盗賊団遭遇
アグリッパの直下、早速工作部隊の四人が工作を始め、傭兵達は周囲の警戒に当たる。
「それじゃ、手筈通りにっ♪」
「あぁ‥‥正面は任せてくれ」
ヴァレス・デュノフガリオ(
ga8280)が流叶と拳を打ち合わせる。
「――これでも、デカブツの相手は慣れてるんでね」
二人は分かれ、流叶は落下予定正面に、ヴァレスは脇の通路に身を一度潜める。
後方警戒にあたるは立花と律子。警戒に、後方から熊の様な男を先頭に三人程の集団が近づいてくるのが見えた。
恐らくは敵。このまま来れば、工作がばれてしまう。
逡巡なく、立花は一歩彼らに向かって歩み出た。
「こんにちわ。こんな地下でお散歩ですか?」
先手を切って、立花は彼らに話しかける。注意を引き、できればこの場から離す様に誘導できれば一番と考えつつ――。
「どっから入り込んだんだ、嬢ちゃん?」
手甲盾を構え尋ね返すのは、熊に似た男リジーだ。
その顔‥‥というより体格、全身からの雰囲気を立花はどこかで見た事があった。
「あー! 貴方は盗賊団のリーダーさんですか!」
「そうだが‥‥」
リジーが、武器を構えかけた部下二人に手を上げ制し、代わりに仲間を呼びに行かせる。
「なら‥‥あのお金は使いました?」
「金‥‥? あー、もしかしてあんたが例の嬢ちゃんか?」
立花は、ええ、と頷く。
「金は使ってねえな。セドの馬鹿が子供の金は使えねえっつってたぜ」
「そうですか。でも、私としては盗みを働くよりマシだと思うんですけど」
言って、立花がジト目で睨みつける。
「ははっ。まあな」悪びれた様子も無く、笑って返す。
「――しかしそうですね。なら貸すって形にしましょう。もし生活に余裕ができたら、少しづつ返してくれればいいですので」
「嬢ちゃんは太っ腹だねぇ。一応、セドに伝えておいてやんよ。あいつがどうするかまでは責任持てねえがな」
「‥‥ふふふ。なんだか、貴方とは仲良くなれそうな気がします」
そこで一泊、呼吸を置く。
「一応聞いておきますが、人間側に来る気はないんですか?」
「――そういうあんたは俺らの側に来る気はねえか? あんたみたいのが居てくれると街のガキどもが喜ぶと思うんだがな」
だが、――まあ、お互い無理だろ? とお手上げにウインクする。
「で、だ」
「‥‥なんでしょう?」
リジーが自分の後ろに目を流しやる。部下達が仲間を引き連れ来ていた。
「そろそろおっぱじめていいかい?」
そこで、今まで二人のやり取りを見守っていた律子が、立花の横に並びながら、口を挟む。
「今戦っても、意味もなくお互い傷つくだけよ。こちらも無闇と人を傷つけたくはないし、貴方達も傷付きたくは無いでしょ? 強化されていない人達が傷付けば、痛いじゃ済まない可能性もあるのよ」
「そういう訳も行かねえさ」
戦闘態勢を整える。
「‥‥こんな美人二人がお願いしているんだから、少しは話を聞いてくれてもいいんじゃないの?」
顔に呆れた色を浮かべながら、銃を手にする。工作部隊の爆破は未だで、その後には、アグリッパの破壊も臨まなければならない。
もう少しの間、足止めがしたい。
「そこの嬢ちゃんの財布分は時間稼ぎに応じてやったんだぜ? ちったあ仕事しなけりゃ怒られちまう」
「戦いたくはないんですけど‥‥」
立花が心底から言う。そして、
「俺らもさ」
応えるリジー。傭兵達の背後で爆発音が響くのと、リジー達が仕掛けるのはほぼ同時だった。
先制での立花の制圧射撃にも拘らず向かい来るリジー達。
先手を取り律子が先頭のリジーを撃つ。放たれた弾丸にリジーは、両手の手甲盾を前に並べ、防ぐ。牽制にもならず、その突進は止められない。
だが、律子の思惑は、牽制に無い。
リジーが防ぐ間、その一瞬の死角、律子は瞬天速に速度を乗せ駆ける。鋭く残すは、僅かな砂埃の舞い上がりが数歩。リジーが盾を開き正面に視界を臨めば、既にその身は懐へ踊り込む。
「少しだけ痛いわよ――」
ナイフでの連剣舞がリジーの胴を切り刻む。
リジーは獣の雄叫びの様な声を上げて、腕を振り回し薙ぎ払おうとするが、その時には後方に飛び退かれている。
「ちっ。美人の姉ちゃんとは、ちょい相性が悪いな」
急所を外したとはいえ、律子の攻撃はほとんど効いていない。
だが、リジーはその攻撃を無視するわけにもいかず、足を止める。
律子が飛び出し、リジーを相手する間、役割の終えた工作員達を撤退の準備に集めて戦場の端に置き、絃也は彼らの前、サァラや立花、タキトゥスと共に後方の護衛を主軸としながら支援に立つ。
身を伏せライフルを固定して構えるサァラに、絃也も屈み、視線を合わせる。
「――サァラ、非強化兵は腰から下を打ち抜け、但し強力な武器のでの攻撃は控えてな」
「わかったわ」
絃也の助言にスコープから覗く相手の下半身に照準を合わせるサァラ。絃也は錫杖を片手に、準備する。
「強化兵には遠慮は要らん、存分に鉛弾を叩き込んでやれ。――見分けは動きの違いで解るだろう」
スコープの向こう側の相手、――こいつ、動きが速い。たぶん強化人間。
サァラが狙いを下半身から急所へと定め直すのを見てとり、絃也は立ち上がり錫杖を自らの前に構える。
同じ目標を見定め、――タイミングを図り、遊環を強く鳴らす。錫杖から直線に飛ぶ光条。空気が焦げ、サァラの狙う相手の脇を撃ち貫く。そのレーザーの牽制に、回避できぬ様、誘導され、サァラの射線に追い込まれる。
「サァラ、今だ」
引き金を引く。ライフル弾が旋条痕のまま回転し、相手の胸部に吸い込まれる。相手が苦悶に顔を歪めるが、倒れはしない。そのまま、照準を外す為に、回避に動き始める強化人間。追いかけるは絃也の牽制と、サァラの銃撃。
命を賭けた追いかけっこに三人は興じる。
「貧乏暇なしだな‥‥だがそれがどうした?」
残るもう一方の強化人間。そちらを相手するのは、タキトゥス。
「とっておきを撃つ‥‥さあ、撃ち抜けよ!!」
タキトゥスが強弾撃を小銃に重ね、活性化させたSESのエネルギーを乗せて銃弾を撃ちだす。様々な隙間を縫うようにして、銃弾は真っ直ぐに飛ぶ。
強化人間はそれを剣で受け止め、タキトゥスを自らの相手と認める。
先制の銃弾が飛び交う隙を抜け、セロリが瞬天速にリジー達の後方、非強化人間の下に飛ぶ。
「皆さん良い武器を持ってますねー。‥‥でも、間違って仲間に当てないよう気をつけなきゃだぜ?」
距離を詰めるは一瞬。金の髪が自らの起こした風に靡けば、残る輝きは残像。
リジーの部下達の背後に回り込んだかと思えば、その頭上を飛び越す様に回転し飛び回る。
その目的は撹乱。
「鬼さんこちら――、なんだぜ?」
非強化の相手達は、射線を同士討ちにならぬよう気をつけ振り回すばかりで、セロリの動きを捉える事が出来ない。
時間稼ぎは続く。
●巨人達の舞踏会
アグリッパにAA達のバズーカが火を吹き、轟音が響く。
轟音に紛れ、穴を通って、護衛の鹵獲バイパー三機が地下に降下してくる。
「主賓の到着、だね」
正面で待ち受けるのは、流叶と信人。
「生身でKV相手か、やるしかないな‥‥!」
注意を引く為に動き出した信人。傭兵達の存在に気づいた、バイパー達が狙いを定めず、信人に構わず後方諸共に射撃を開始しようとする。
「やらせは、しない!」
仁王咆哮。銃弾をコクピットに集中し、注意を引く。後方へ向かいつつあったバイパーの砲口が信人に向けられる。
合わせ、三機の砲口が信人に向く。狙い通りに、身構える信人。
「KVの口径を受けた事はないが‥‥」
黒い盾を前に遮蔽として、その身を出来るだけ隠す。
「ぶっつけ本番、耐えてみせる――ッ!」
信人が注意を引く間に、流叶が衝撃波を飛ばし、バイパーの砲を逸らす。空中で鳴るバイパーの47mm砲。狙いをずらされた一機の砲を除き、連続して五十の砲弾が二方向から雨と注ぐ。砲弾、砲弾、砲弾、砲弾。苛烈に降り注ぐ鉄の雨は、信人の周囲、コンクリートの床を捲り上げ、無数の弾痕を残す。
だが、
「――なんとか、だな」
信人は耐え切り、口の端を僅かに笑みとする。47mmの大口径、受けた手の痺れは酷いものだったが、信人は腕に僅かな擦過傷を負うだけ。
それも、すぐに活性化で癒してしまう。雄健にして蒼勁、強固な盾。
脅威と悟ったバイパー達が、再度照準を定めた時、最後に降下してきていたバイパー目掛けて、通路の陰から影が飛び出した。
影の足元、漆黒の翼が舞い、キャノピーの上に着地する。着地と同時、狙いすましたように鎌を真燕貫突にキャノピーの隙間へ強引に差し込みこじ開けた。
影の紅眼と強化人間の目がかち合う。
「悪いな、このまま落ちろ」
影――ヴァレスは、その大鎌を刹那の速さに一振り。
操縦者の強化人間は、風が薙いだとしか感じる事も出来ず、自らの首が刎ね跳んだ事を自覚する間もなく死に至った。
寸鉄人を刺すが如く、小さき者の刃に呆気なく制御を失った巨人は、糸が切れた操り人形の様に墜ちていく。
ヴァレスはそこから飛び降り迅雷で即座に退避する。
残り二機へと数を減らし、バイパー達は連携に同様の襲撃を警戒しながら、傭兵達に牽制の射撃を加える。
(もう一機、同じ方法で落とせるか?)
流叶がコクピット部へ衝撃波での攻撃を集中させれば、信人もバイパーの兵装への攻撃から切り替えコクピットを狙う。だが、バイパーは片腕を盾に接近戦を諦め、砲での射撃に近づけさせない。
KVでは、生身の相手の方が小回りが利き過ぎる。懐に入られれば、先の一機と同様にしてやられると考えた。
流叶達への牽制にバイパーが撃った砲が狙いを外れ、工作部隊に向かう。
「――ッ!」
その射線上へ、後方、護衛にあたっていたタキトゥスが割り込んだ。身代わりとなり、その腹に砲弾を受け止める。
「悪い‥‥あんたが死ぬのはどうしても避けたくてな‥‥!」
受けた砲弾の衝撃が身体を突き抜け、タキトゥスは大量の血反吐を吐く。
「それに‥‥守るって言ったろ?」
血の滲む口元を拭いながら、不敵な笑みを浮かべる。
「あとちょいとだけ休憩してくれませんかね? ほんの10秒程で良いので」
タキトゥスの空いた強化人間の相手にセロリが代わり入る。
瞬天速での加速を得て、三角跳びに踊る様に背面へ回り込みながら、刀を居合に抜き払う。
菫色の刀身が強化人間の腕を脇から薙いだ。胴から離れた腕が宙を舞う。
流れる20秒に満たない短な時間。
しかし、水滴が落ちるのを待つかのようなゆったりとした感覚で時間が流れ――、いずれ時間は来る。
AA二人が準備を終えてバズーカを放つ。目標を捉え突き刺さるロケット弾が、爆発。
立ち昇る光炎と、灼熱の音に巻かれ、轟ッ、と熱風が弾けるように広がった。
アグリッパの破壊を確認すれば、傭兵達は急ぎ撤退に移る。
工作部隊とAAの殿に信人がつき、立花の制圧射撃と共に銃弾をばら撒きながら、リジー達とは別の通路へと後退していく。
別の通路の入口を塞ぐように最後に残ったのは、ヴァレスと流叶。味方との距離を稼ぎ、追うのが困難と思える程に敵を食い止めると、二人、目線で合図を交わし、ヴァレスが閃光手榴弾を敵に投擲する。
「それじゃあな」
敵が閃光に目を塞ぐ中、ヴァレスと流叶は迅雷で一足飛びに狭い通路を駆け抜け、撤退していった。
「にゃろぉ。逃げ足が早ぇったらありゃしねぇ」
リジーはまだ動ける部下達に手をぶらぶらと振り、追うなと指示を出す。
「‥‥ここも退き時、かねぇ?」
短くも複雑な迷路のようになった距離を走り、ヴァレスと流叶は撤退する仲間達に合流する。
合流地点。追手も無くここまで逃げ切れば、後は無事に逃げ切れるだろう。
依頼の成功を確信して、ヴァレスはにっこりと笑って流叶に手を向けた。
意図を読み、流叶も笑みにハイタッチを交わす。
「やったねっ♪」
ヴァレスの喜びの声に、先程までの戦闘の緊張が解け、皆、笑みを浮かべた。
そして、――デートンに残す戦場は、あと一つとなる。