●リプレイ本文
●記者会場
北米にあるロケット打ち上げ場。そこに8機のKVが並んでいる。姿は真新しく、傷一つ無く、初々しい金属の輝きを帯びている。それらいずれもが、試作型簡易ブーストを積んだS−02の先行量産機だ。
8機のKVの前に用意されたプレスステージでは、記者達がドローム社の幹部数名を前にして、質疑を重ねていた。
たかれるフラッシュ。明日にはいくつもの写真と記事が新聞を彩ることだろう。
「おぉーーー、こいつが新型機か、こいつに私が乗るのだな!」
記者会場から少し離れた場所、メルセス・アン(
gc6380)が並べられたS−02を遠目に見て感動を露わにする。
擬音にすれば、わくわくという音がふさわしい程に目を輝かせていた。
「メルセスさん、控室はこっちですよー」
夢中のメルセスに向かって、ジェーン・ヤマダ(gz0405)――もといオペ子が声をかける。
「宇宙服は着るのか!? 宇宙食なんかも備え付けられているんだろうか? いや、本当に楽しみだ! はっはっはっはー!」
「メルセスさーん?」
オペ子の声は聞こえていないようだった。
「あー、あれは無視して、とっとと、控え室に行きましょうか」
オペ子が後方をみやり、残りの傭兵達に声をかける。笑いながらS−02に向かってうんうん、とか頷いているメルセスを放置して、オペ子は傭兵達を案内に先頭を行く。
オペ子を追う傭兵達の再後尾、一人、足を止めて時枝・悠(
ga8810)が、飾られたS−02に振り返り見上げた。
太陽は高く、差した光を首にかけたゴーグルが反射して輝く。手を掲げて陽を遮り、目を細める。
「S−02、か。また面倒臭い名を継がされたもんだな、コイツも」
太陽の眩しさに目を細めながら、悠は視線を元に戻すと、少し離れてしまった仲間達を追って歩き出す。
(名前通り自由に在れるかどうか‥‥なんて乗り手次第か。気張っていかないと、なあ)
口元に捻くれた笑みを浮かべて、建物の影へと消えていく。
●高い高い空の上
高高度のさらに上、中間圏界面を突き抜けた熱圏にKV達が到達する。宇宙空間と呼称されるぎりぎりの高度。8機のS−02がブースターを切り離し、ゆっくりと宇宙へと漂い出す。
「これが宇宙‥‥か」
メルセスが、感慨深く呟く。メルセスの視界、S−02のコクピットの中、標準装備となった全周天モニターには『上』に暗い宇宙空間が広がり『下』には青い地球が広がる。
メルセスの左手後ろから、別のS−02がゆっくりと前に出ていく。
「この歳で宇宙くんだりまで繰り出すとはな」
59歳のハンニバル・フィーベル(
gb7683)、還暦になろうとしている男は苦笑を漏らす。
榊 兵衛(
ga0388)はメルセスとハンニバルの漏らした言葉を聞きつつ、口を開く。
「いよいよ戦場が宇宙へと移ろうとしている。
この機体のテストが成功すれば、少しはあの赤い星に届く為の道筋が出来るかもしれないか。
ならば、必ず成功させなくてはならないな」
使命感に表情を引き締めて、自分の操る機体を公開試験の予定地点へと向けてスラスターを噴かす。
先行していく兵衛。だが、兵衛のようにこの試験に使命感溢れた反応を示す者もあれば、
「KVの原点たるS−01の系譜。ドローム初の宇宙機として、これ程相応しい機体はありませんね」
新居・やすかず(
ga1891)は、大幅に更新されたS−02の各種システム、コンソールをチェック、機体の把握に余念がない。また、
「あぁ、うちの子の弟分にのれるなんて‥‥幸せ‥‥」
(しかし、01のデザイン良かったのになぁ‥‥)
ドッグ・ラブラード(
gb2486)のように、愛機の後継機に乗れたこと自体に喜びを見いだす者もいる。
人それぞれに、この依頼に思うことは違っていた。
そして、それぞれの感想を胸に、公開試験の予定ポイントへと一行はたどり着く。
慣れない宇宙での操縦感覚を掴み、実際の試験開始までそれぞれが機体の動きをよりよいものにしようと試行錯誤し始めた――その時だった。
宇宙キメラの群れが、彼らに接近してきたのは。
●アクシデント、遭遇
「――宇宙まで来てキメラと戦わないといけないとか、本当にバグアって無粋よね」
ファルル・キーリア(
ga4815)が溜め息を一つ。先行量産型S−02に標準装備された全周天モニターに映る宇宙キメラの群れを観察しつつぼやく。手元のコンソールを操作し、遠距離ズームサイトを使ってモニター上の群れを拡大、大型と小型にグループタグをつけて、総数を把握する。
「ったく、景色はこんなに綺麗なのにアレのせいで台無しよ」
宙の端、向かってくるキメラの総数は30というところ、大きいのが10に小さいのが20。
一人四体撃破というところか。ファルルは、タッチパネルをスクロールさせて、兵装オプションからミサイルを選択、光り点滅するパネルコンソールを叩き、入力を進め、背部レールシステムに装着されたミサイルパックの開放準備を進める。
「良くも悪くもS−01の系譜ね。堅実と言うか、個性が無いというか‥‥。でも、悪い機体じゃないし、これ位ならいけるはず!」
勢い込み、ファルルが脚部エンジンの出力を上げ、スラスターから淡い蒼の輝きを放ち、加速を開始する。
『待て、我らはこの機に慣れていない、ここは一度引くべきだ、本部、撤退の許可を貰いたい』
モニター端の通信ウィンドウに映るメルセスが冷静な表情でファルルに話しかける。だが、バグアのジャミング圏内に突入しているのか、並び表示される管制センターの通信ウィンドウは先程からノイズが走り、繋がらない。
これに対し、他の者の決断は素早かった。
「前はお任せました。‥‥その分、支援します!」
悠の後方でドッグが機体をやや上方向にスライドさせて、悠の機体が射線上に入らないように位置を取る。
「手前ぇら、落ちてオーロラになるんじゃねぇぞ!」
ハンニバルが皆に発破をかけ、続く。
「さて、家に帰るまでが遠足です。無事にお披露目を済ませましょう」
櫻小路・なでしこ(
ga3607)は、ブレスノウを起動し、ミサイルパックのセットを終えている。
モニター上、ブレスノウに連動したアプリケーションによってキメラの進行方向、未来位置、回避時の予測行動先等の情報を追加表示されている。
「‥‥まったく、不慣れな戦場だというのに畏れぬとは、な」
キメラの群れの迎撃に向かう仲間達を見やり、目を伏せ息を吐く。
「気に入った! 私は支援にまわる、背中はしっかり守ってやるぞ、行け!」
兵装オプションから、レーザーガトリングを選択。腕部レールシステムに装着されたガトリングで狙いを定める。
「――ならば、行くぞ。榊古槍術、榊兵衛、いざ参る!」
兵衛機がホーミングミサイルを放ち、突っ込んで行く。
小型キメラの群れの中央で爆発し、飛散した破片が小型キメラ達を襲う。キメラ達が破片を避け、前進してくるところへと突撃する兵衛機がレーザーガトリングの掃射を加え撃ち抜く。
続くやすかずは簡易ブーストを切った状態でミサイルの発射を狙うが、慣性制御で重力を無視し動くキメラ達の動きについていけず、ロックオンがままならない。
簡易ブーストによる慣性制御がなければ、宇宙での戦闘に支障を来たす。
やすかずが簡易ブーストの表示サインをONに切り替えれば、機体制御に簡易ブーストの慣性制御が加わり、キメラの運動に機体の反応が追いつく。S−02元来の能力を発揮する事は出来ても、推進力がいや増す訳ではなかった。
ブレスノウとアグレッシヴファングの同時使用でのミサイルの発射とともに、敵後方へと一気に加速し、蒼い煌めきが尾を引き棚引く。
その行く先を、僚機のハンニバルがブレス・ノウを起動させて小型キメラの行動を予測し、弾幕を張って道をこじ開ける。
やすかずとハンニバルが共に開いた道を駆けぬける。大型キメラの正面にハンニバル、背後で急旋回して、やすかずと挟み撃ちの形を取る。
「櫻小路さん、バックは任せたわ。私が突っ込むからサポートよろしくね」
「ええ、お気をつけて」
ファルルが前衛に加速し飛び出す。なでしこがファルルの後ろから長射程のライフルで小型キメラを先制して狙撃していく。
なでしこに撃ち抜かれた小型キメラに、ファルルがレーザーを雨のように降らし、止めを刺していく。
「火力不足なのはS−01から変わらずって所かしら。でも、AFを使うと錬力が足りなそうだし、手数で稼ぐしかないわね」
言葉を発する間にも、次の一匹へと照準を向ける。レーザーが幾条も煌めき、次々と目標を変えて、撃ち抜いていく。
接近する小型キメラをレーザーガトリングの射撃で、近づける前に落としながら、悠はキメラに接近していく。
ドッグがブレスノウを使用し、敵の動きの先の予測をモニター上に映し出す。
重なる予測線と射線。大型キメラが口を開け、禍々しい赤い輝きを見せる。大型砲撃。
だが、
「その動き、こいつにゃ読めてんだよ!」
口の開いた瞬間に合わせて、ブレスノウによる予測を受けていたがドッグがライフルで狙撃する。
放たれたレーザーは、キメラ口内の赤い輝きを貫いて、爆発を起こす。
「いくらかは俺が引き受けます! 気にせず前へ!」
数に任せて前に進み出てくる小型キメラの群れに、ドッグは人型へと変形して、盾を構えて前に出る。
小型キメラが群がってくるのを盾で受け止め、弾くように振り払う。
開戦し、敵後方深く、挟撃に斬り込んだやすかずがレーザーガトリングの弾幕で、口から砲撃を行おうとした大型キメラを叩く。
やすかず機の援護を受けつつ、ハンニバルは自らもミサイルを弾幕として放つ。
「ついでだ、てめぇで格闘武器も試させてもらうぜ」
作り上げた隙に人型形態へと変形する。
大型キメラをやすかずが射撃を加えて追い込む。ハンニバルはアグレッシヴファングでSESの出力を上げたツインブレイドで大型キメラを切り裂いた。
同じ様に、メルセスのレーザーガトリングによるサポートを受けて、兵衛が機体を人型変形させて大型キメラの懐に飛び込む。
ブレスノウの予測がモニターに表示される。兵衛機の接近に対する大型キメラの回避軌道予測に合わせて動く。腕部レールシステムに装着したハルバードを手に取り外し、握り込む。
「薙ぎ払うぞ――」
簡易ブーストの慣性制御で姿勢を維持し、ハルバードを構える。アグレッシヴファングを起動。SESの駆動音が通常時よりも更なる出力の高まりに、甲高く機体内部を伝わり聞こえる。
横薙ぎに払った槍斧の刃が深くキメラの腹に突き刺さり、その巨体を一文字に引き裂く。
大型キメラ二体が沈み、更にもう一匹。悠もまた、人型に変形し、大型キメラと相対している。
腕部レールシステムから取り外して両手に握るのは、巨大な戦斧。
宇宙空間では取り回しも困難そうな巨大な戦斧を悠は振り被る。
「まずは一匹、だな」
振りかぶった斧を振り下ろす。瞬時、斧に取り付けられた補助ブースターが火を噴き、斧を加速させる。
FFを貫き、大型キメラの柔い装甲に刃が食い込む。血が噴き出す。ブースターが更に加速噴射。一刀両断に大型キメラの頭から割った。
身体を真っ二つに裂かれても、まだ動く気配を見せる大型キメラ。
ドッグはブレスノウにアグレッシヴファングを起動させて、ライフルを構えた。
狙う場所は、真っ二つに裂かれて、見える内部の臓器らしきもの。
「この牙さえあれば! 俺にだって」
撃ち放ったレーザーが臓器を貫き灼き、破裂させる。それで、大型キメラは動かなくなった。
その後、暫く、激しい戦闘が続いた。
何匹目かを倒した時、なでしこが残った敵に目をやる。数は大幅に減らした。このまま殲滅する事も可能だろう。
ただ――練力が残ってさえいれば。
手元のコンソールパネル隅に示された、残練力のメーターは、少ない。これ以上の戦闘の継続は、練力切れを起こすことを予想させた。
「もう十分ですね。帰還しましょう。残弾を斉射し援護します。皆さんその間に離脱してください」
残った練力を投入し、アグレッシヴファングを起動。兵装のSES出力を向上させる。
全機が離脱に動き、数が残り少なくとも本能のまま食らいつこうとするキメラ達を引き剥がしにかかる。
なでしこが背部レールシステムに装着したミサイルユニットの残弾全てを斉射する体勢に入る。
アグレッシヴファングでエネルギーの上乗せされたミサイルが、嵐の如くに弾かれて放たれた。
なでしこはそれを見届ける事無く、仲間達とその場から離脱。
勝利の花火のような爆発群を背に、全機、無事に帰還の途へと着いた。
●ご意見番
オペレーター用の事務室で、オペ子は一つあくびを噛み殺した。
目の前には、テストパイロット達から集められた意見の束がある。
意見を整理し、まとめ、体裁を整えて、開発室の方へ送るという事務仕事をしていた。
『宇宙で戦うなら簡易型ブーストの継続時間が最重要ね‥‥。そこだけは何とかしないとダメね』
「んー。まあ、試作型ですし、完成版に期待ですね」
情報早く公開プリーズ、と付箋を貼り付ける。
『途中で命名規則を変えると分かり難いし、Ver.4とかで良いんじゃないのか』
『能力の名称はこのままでいいんじゃない? ブレスノウは劣化してるのが悩み所だけど‥‥』
「近距離での予測精度は上がってたみたいですから、一撃離脱でがんばれ、と」
能力の名称は大体そんな感じで分かりやすくGO、と書きつつ、がんばりましょうのハンコをペタリ。
『宇宙戦ではおそらく補給も難しいからな。リロードできない遠距離兵器は装弾数を多めにしておくに越したことは無かろう?』
「‥‥ふむ。装弾数は多めっと」
各ミサイル兵装の感想欄に、装弾数増の要望を書き加えていく。
『‥‥ランスだ、私は宇宙用KVでも使えるKVランスが欲しいっ!』
「なんかよく分かりませんけど、熱意は認めましょう?」
槍をもていっ、とだけ書いて、次の書類に移る。
「‥‥後は、そうですね。この斧の姿勢制御ブースターを斧以外にも積み込めないかついでに要望書いときましょう。上手くいけば、宇宙用武器の定番にもなりそうですし」
鼻歌交じりにわりと好き放題に書いていく。
「――っと、こんなもんですかね」
ようやく一段落ついて時計を見上げれば、業務終了の時間を大幅に超過している。
「うえ‥‥、メールで送ったら、私もとっとと帰りましょう。残業とか、私の主義じゃないですし」
オペ子はとっとと送付状を仕上げるとまとめた書類をメールに添付して送信した。
――傭兵達が出した意見。それらを反映された兵装が販売されるかどうか、まだドローム社の上の意向もあり、どうなるかは分からない。
ただ、傭兵達は、アクシデントにも関わらず、自らの仕事を見事に完遂した。
S−02の初お披露目として明日の新聞を彩る記事は、好意的に人々に受け止められる内容となる事だろう。