タイトル:【NS】閃風のシンディマスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/27 08:03

●オープニング本文


 シェイドが、ギガワーム随伴部隊の多くに撤退を命じ、共に戦場を離れていく姿が観測された。
 オタワに押し寄せていたバグア軍の半数以上が消え――戦局は、逆転する。

●螺旋巻く風
 号砲鳴り響く戦場。北からの冷たい風を纏い、UK弐番艦が突き進む。
 光が瞬き、命が散る。獣が吠え、鉄に裂かれる。
 熱い血を浴び、冷たき骸を投げ捨て、明滅する幾条もの輝線が、疾り、翔け、放たれ合う。
 UK弐番艦直上、対空の砲火が、戦線を潜り抜けてきた半壊のHWを捉えて砕いた。
 爆発。
 裂音と共に、間近で空気を打った振動が、艦橋を揺らす。
「――直上のHW一機、撃破。破片が艦を叩きましたが、損傷は軽微――」
 オペレーターが振動の中にあっても、冷静に報告を告げる。だが、ギガワームへの接近を臨めば臨む程に、敵の圧力は強くなり、自然、ギガワーム護衛機の接近を許す。
 先程と同様に、――だが、爆音はより近くになって――、爆発が起こる。
 オペレーターが息を呑み、多少声を上ずらせながら、先程と同様の報告を行う。
「総員に告ぐ。ここが堪え所だ」
 オペレーターの上擦る報告を聞き、ハインリッヒ・ブラット(gz0100)少将が口を開いた。
 彼の声をマイクが拾い、艦内に流す。
「戦局は既に逆転している。ここであのギガワームを落とせば、我々は完全な勝利を手にする事ができる。そう――東海岸奪還への大きな一歩を得る事ができる。違うか、諸君」
 問い、その答えを待つかのような少しの間。
「――だから、堪えろ。耐えろ。踏み止まりたまえ。そして‥‥一撃を与えてやるのだ。奪還へ連なる反攻の、最初の一撃をアレに。――艦載機を発進させろ。ギガワームへの進路をこじ開ける。進路が開き次第、遠距離射出型螺旋機杭を射出。機杭がギガワームを捕えれば、一気に突撃を仕掛けるぞ!」
 一息に指示を出す。ブラットの指示を受けて、一斉に艦内の動きが慌ただしくなる。
 UK弐番艦艦長、覇道平八郎は、いつものように自らの代わりに指揮を取るブラットを見つめ、ただ、いつもとは少し違う視線を向けた。
「ふむ。今日は、随分と饒舌に喋りますな。――そういえば、オタワにはオリム中将がおられましたか。‥‥お気になりますか?」
「艦長。どこで何を聞いたのかは知りませんが、女性乗員達の噂話を本気にされないでください。私と彼女とでは、色々、違いすぎます」
「ほう――齢の事でも気にしとるのですかな? 四十も五十も、儂にとってはさほど変わりませんがね」
 平八郎は、ブラットの事を饒舌だと言ったが、いつもは堅苦しく寡黙な平八郎の方が、やけに舌が回る。
 ブラットは話の内容に多少の不快感を覚えつつも、違和感の方が大きかった。
「艦長――?」
「‥‥なに、お気になされるな。‥‥この艦に乗って三年。いえ、バグアとの戦いが始まってから二十年、ですかな」
 平八郎は、何か眩しい物でも見るかのように目を細めて、手を、手の平を艦橋の先に延ばす。
「――年老いたものですな、儂も。死ぬ前にもう一度、あの平和な世界が見れるかと思うと、近頃、昔の夢を見るようになりました」
 それは、先のアフリカ奪還作戦で、ディエア・ブライトン(gz0142)を撃退した事が大きい。
 夢が、現実の希望へと、大きく変貌した。
「するとですな、ブラット少将――考えてしまうのですよ。もし、平和になったら、皆はどう生きるのだろうか、と」
 平八郎が伸ばした手の先、手の平の中に光を掴み、薄く笑う。
 ブラットが、平八郎に何か言おうとして――、
「艦長――っ! 一機、抜けてきますっ! 直掩は――ダメ、後ろにもう一機居たの? そんな――」
 オペレーターの悲痛な叫び声が上がった。
「どうしたっ! 状況は正確に説明せんかっ!」
 平八郎の言葉に意識を取られた分だけ反応が遅れ、珍しく、ブラットより先に平八郎が声をあげる。
「は、はい! 先程、ティターンが一機、前線を突破しました。当艦直掩の一部隊を向かわせましたが、ティターン後方にもう一機タロスが居た事に気づかず‥‥不意を突かれて壊滅。当艦に向かってきます」

●光る風
 翠色に染め上げられた機体がある。
 元来は黄色のはずの翠色のティターン。バグアの指揮官用に改造調整されたその一機は、風よりも速く、空を翔ける。両手には、一本の巨大なレーザーソード。
 それを遅れて追うタロスが一機。両肩にプロトン砲を引っ提げて、砲戦仕様の支援機である事が一目で分かる。
『待って下さいよぉ、シンディさまぁ――』
「待たないよー。待つ訳ないじゃん。ティルゥはギガワームを護ってなよー」
『そんな訳に行きませんよぉっ。シンディさまは、怪我をされてるんですよ――って、あうぅ』
 ティルゥと呼ばれた少女の乗るタロスが、ティターンの右側から接近した一機のKVに狙いを定めてプロトン砲を放つ。
 淡紅色の光に飲まれて、KVが地へと落ちていく。
「あはー。ありがとねー。ティルゥは良い子だねー。血が飲みたくなっちゃうよー」
『わ、私の血で良ければ、いくらでも‥‥って、違いますよぅ! シンディさま、今、右目側の敵が見えてなかったでしょうっ。前に出たら危ないですよぅ!』
「あはー。それはティルゥが守ってくれるから危なくなんかないよー」
 言っている傍からまた来たKVにティルゥは、再度のプロトン砲を放ち、撃ち落とす。
『うー、もぉ、なんで、UKなんて直接狙うんですかぁ』
「んー? なんでって、当たり前じゃんかー。あそこが、一番血の匂いがするよねー? 人がわんさか乗ってて、さ」
 近づく一機のKVを収束フェザー砲の紫色の光線が捕え、爆発を巻き起こす。
 爆煙を抜けて、黒と灰の死の塵を纏いながら、翠色の巨人――ティターンは、UK弐番艦の艦上へと舞い降りる。
 降下の速度を乗せて、両手の巨大なレーザーソードを弐番艦に突き刺す。巨大な縦穴が開く。
 だが、UKの巨大さに比べれば、微々たるものだ。
「むー。やっぱ、ただ斬るだけじゃダメかー。人にも全然当たんないやー。んー。狙うなら艦橋かなー? こいつ、落っことせば、中に乗ってる人達みんな飲み放題だよねー」
 シンディの行動原理は、一つ。人の血をどれだけ飲めるか。
 その為ならば、あらゆる障害を突破し迫る。

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
小鳥遊神楽(ga3319
22歳・♀・JG
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
仮染 勇輝(gb1239
17歳・♂・PN
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN
ジェーン・ジェリア(gc6575
14歳・♀・AA

●リプレイ本文

●艦上、相対し
 ティターンのシンディ機が、艦上を駆ける。片手に持った巨大レーザーソードが、UK弐番艦の艦装甲を擦り削り取る。
 艦装甲、走った跡を残し、加速する風。
 ――その進路上、飛び込むは蒼と黒の風。
「全ブースター起動、オーバードライブ!」
 風を切り、仮染 勇輝(gb1239)の蒼のフェニックスがティターンの右側面へ駆ける。同時、
「順番が違うだろう? トマトジュース、欲しくは無いのかい?」
 ブーストした流叶・デュノフガリオ(gb6275)の黒のシュテルンがティターンの左側面へ。
「シンディ様ぁ」
 接近する二機に対し、牽制射撃をタロスが放つ。
 だが、牽制をしようとしたタロスはすぐに射撃を中止して、横へ飛び退いた。タロスの腕を掠めて、銃弾が駆け抜ける。
「あぁうー、そっちからもですかぁー?」
 ティルゥ機は、銃弾の来た方向へ反撃にプロトン砲を撃つ。
「少しの間だけ、あたしが相手をさせてもらうわね」
 スナイピングシュートで狙撃した小鳥遊神楽(ga3319)がライフルをリロードしつつ避ける。艦上を走り空へ抜ける淡紅色の光。
「こん、のーっ」
 艦上、巨大な光剣を薙ぎ払いに振るい、シンディは勇輝と流叶の剣を受け止め、弾く。
 足で装甲を踏み抜き、無理やりに止まった。頭部と翼を掠め、ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)の放ったアハトのレーザーが過ぎる。
「ま、俺らが居るのに行かせるわけにいかないからね」
 すぐさまにリロード。次弾を込める。その間にも、他の仲間達が追いついた。
 須佐 武流(ga1461)が右側面に回り込みながら、M−SG9を牽制に放つ。シンディが躱した所にMG−01を撃ち込むが、シンディは後方へ一つ跳躍し避ける。
「その動き、いつぞやの吸血姫か」
 右斜め後方へ更に移動しながら、MG−01をリロードする。
「この姿で会うのは初めて、か――‥‥右目は、痛むかい?」
 流叶機が剣と楯を構え、飛び掛かる機会を探る。
「右目‥‥?」
 訝しげに流叶機の様子を窺いながら、周囲を囲む傭兵達の様子を警戒する。
「”相変わらず、トマトジュースが好きなのかい?”」
「ああ、なーんだ。君かー」
 右目の疼きを手で押さえ、唇を吊りあがらせて笑みを浮かべる。
「あははっ、じゃあ、いいよー。まずは、君達をトマトジュースにしてあげるー」
 シンディが手に持つ光剣を、振り上げて構える。
 瞬間、傭兵達が機体を操り、飛び出していく。
 揺れる艦上、戦闘が始まる。

●初めの攻防
 ティターンの左側面へ、盾を掲げて射撃を警戒しながら、流叶がブーストで加速し斬り込んで行く。
「‥‥後ろには反らせない、ね」
 近づくシンディの機体を見据え、本当にできるかどうか、零れた不安げな言葉。
「――流叶だから、信頼してるよ♪ そして、俺等がいる以上これより先には進めない」
 当然の様にヴァレスが返し、流叶の後方からアハトの精密射撃で突撃を援護する。
 流叶の一歩深い踏み込み、跳躍するように地を蹴り、
「あぁ、当然だ」
 愛する者の肯定を受けて、自信を確かに、最後の距離を詰めた。
 右手を狙い、鋭い斬撃を掲げた盾の隙間から繰り出す。シンディは手をずらし、柄の部分で流叶の一撃を受ける。
 剣を弾き、返すレーザーの刃で離脱しようとする流叶に追い縋る。流叶の方が、僅かに下がる速度が速い。
「うぇー、逃がさないよー」
 シンディは追撃のフェザー砲を撃とうと、流叶に続けて銃口を向ける。
 だが、ヴァレスがスラスターライフルで、弾幕を張り、流叶へ繰り出そうとした射撃を止めた。
「やらせないよ。そのために俺がいるんだからね」
 ヴァレスの離脱の援護は、逆側、ティターンの右側面から突撃を仕掛ける仲間への援護でもある。
 流叶と入れ替わりになるように、勇輝とジェーンが攻め込む。
「今回は珍しく防御は確実に、攻撃は思いっきり! あたしとも遊んでいこうよっ!」
 ジェーン・ジェリア(gc6575)がやる気いっぱいに武器を構えてみせる。
「行くぞっ」
 勇輝はブースター二基を左右に振り分けて、残る二基の推力で加速する。シンディはヴァレスの弾幕を避けながら、迫る二機に向けて、拡散フェザー砲を向ける。
「これならどーかな?」
 ジェーンは一度、勇輝を盾にするかの様に後方に隠れる。構わず、シンディが拡散フェザー砲を放つ。
 勇輝はブースターを噴かせて、急激な横移動で射線上から外れ、構えた機盾アイギスのブースターで直角機動に進路をシンディへ。
 そして、勇輝の避けた後方、隠れたはずのジェーンもまた居らず、フェザー砲は艦上の装甲を焼いた。
「――上だよー!」
 隠れていた筈のジェーン。大きく上に跳び上がっていた。勇輝の頭上を飛び越え、シンディの直上で一回転をしながら、踵落としを頭の天辺へと落とす。
 同時に、勇輝が脚爪でシンディ機の足を押さえこみ、至近から刀を振るう。
 シンディはジェーン機の踵落としを受けつつ、勇輝機の刀による致命傷を避けるべく、脚爪を振り払い後方へ跳ぶ。
 跳んだ先の後方、右斜め後ろ側面には、武流が銃を二丁構えて待つ。
「左右側面からの反応には鈍いはずだ。とらせてもらうぞ、その首」
 初手と同じ、M−SG9とMG−01のコンボで当たりを狙う。シンディは、巨大な光剣を艦上に突き刺し、その腹を盾として、それら全ての弾丸を受けて凌いだ。

●流れが、傾く
「もぉ、しつこいよぉ」
 マシンガンでの牽制射撃がタロスを撃ち据える。ティルゥ機は回避に走りながら、反撃の火線を迸らせる。
 揺れる艦上で、神楽機はティルゥ機のフェザー砲に撃たれながらも、牽制を続ける。
「まだまだ行くわよ――」
 ――だが、神楽はたった一機、タロスと戦っていた。射線は限定され、UK弐番艦に注意を払い続けなければならず、相手は揺れる艦上でも、慣性制御で安定した姿勢で狙い撃ってくる。
 味方のタロスへの牽制も、ティターンの光剣が風と吹き荒れれば、満足に行えない。
 だから――
「んふ、がんばったねぇ、お姉さぁん」
 最後に放たれたプロトン砲の二連射撃。スキルで神楽の機体の動きが遅くなっている。そこへ――二発、共に直撃。
「限界、ね‥‥少しは時間が稼げた‥‥かしら?」
 コクピットのモニターが砕け、飛び散った破片が、神楽の肌に食い込んでいた。
 UKが生んだ気流の乱れに、機体の動きを取られ、神楽機は地上へと墜ちていく。
「さぁ、シンディ様を助けに行かなきゃ、ね」

●地を這う閃光
 シンディの握る光剣が一回り大きさを増す。
 両手で握り、斜めに振り被る。
 姿勢を屈めて、周囲の傭兵達のKVその足元へ、足払いに横へ薙ぐ。
「今度こそお前の右腕‥‥いや、魂を貰い受ける!」
 横薙ぎの、その始まりに合わせて、勇輝機が突撃する。ブースターの噴射方向を全て後方へ。ブーストと合わせての高速加速。突撃に速度を乗せて、刀を振り下ろす。
 だが――上段からの攻撃。それが致命だった。
 シンディが身を屈め、足を狙った薙ぎ払い。それは、足払いの意味だけでなく――、
「残念賞だよぉ、お兄さぁん」
 シンディの意図を察しティルゥの放ったプロトン砲の閃光が風を切り裂く。屈んだシンディの直上すれすれを貫いていく。
 ティルゥとシンディの直線上に立っていた武流は、ティルゥの砲撃を誘いに乗ったとものとして、避ける。
 だが、上からの一撃を狙い駆けていた勇輝は、淡紅色の光条が捉えて灼いた。
「く‥‥ぁっ!」
 それでも、振り下ろしの一撃を振るい――、加えて、下側から隠した練剣を打ち上げに振るい上げる。
 結果――砲撃を受けた勇輝の方が、刹那の間だけ遅かった。
 足を膝関節から薙ぎ払われ、剣がシンディに届く前に足が光剣に持っていかれる。
 広範囲を薙ぎ払う一撃は、続きジェーン機をも捉える。
「防御はー、確実に。だよー!」
 万全の体勢で、受けの構えを取る。シンディの光剣に機刀をぶつけ、合わせてハンドガンで側面を叩き、飛び越えるようにして受け流す。
 刀と銃の受けた部分がレーザーに削られ、火花を撒き散らして、光剣はジェーン機の下を足を掠めながら、横へ抜けた。
 だが、微小な損傷に過ぎない。
 ジェーンの反撃を意にも介さず、シンディは振り回した光剣を再度頭上へ掲げるように振り被った。シンディの足元には、脚部を膝から先、失くした勇輝機がある。
「女‥‥ってことで見縊った訳じゃないんだが、なぁ」
 ブースターで飛び上がろうとしたが、脚部をやられた時にブースターを何個か持っていかれたようで、まともな動作も出来ず。
 シンディが勇輝機に止めの一撃を振り下ろす。――直前、ブーストの加速で駆けたジェーンがそこへ割り込む様に斬りかかった。
「くらえ必殺! ふるぼっこたいふーん! 地上ばーじょんっ!」
 ブースト加速にオーバーブーストを上乗せして、擦れ違い様に斬撃を閃かせる。駆け抜けた先、逆噴射からのエアロサーカスで機体を回転させ、艦上を滑る様に移動する。反対側からの更なる一撃が、シンディ機の胴を貫いた。
「えへへ、おいしいところは貰えた、かなー?」
 シンディ機の胴を貫いたまま、ジェーン機は擱坐する。背後には、プロトン砲の砲口を向けたティルゥ機。
 ジェーン機の背に、未だ残る淡紅色の光の残り香が、焦げた煙を噴き上げていた。

 流叶と前衛を交代したヴァレスが左側面から機鎌で斬りかかる。
 最大の射程で間合いを空け、流叶の援護を受けつつ、腕と手、武器を狙って、トリッキーな動きで攻める。
 レーザーの切っ先で、ヴァレスを掠める様に捉える。
「そう何度も上手くは行かないよ」
 ヴァレスがレーザーの刃を機鎌の刃で受け流しつつ、反対に鎌の柄でシンディの腕を打つ。
 先程ジェーンにやられた傷、機体の自己修復中に僅かばかり動きが遅くなっていた。
 今度はヴァレスが攻める。シンディ機の攻撃の起点を狙い、鎌の刃先を器用に剣に付属したアタッチメントの接続部に引っかけ、引く。
 巨大な光剣を作っていたアタッチメントが壊れ、レーザーの刃が小さくなる。
 アタッチメントが壊れた瞬間、タロスに牽制をしていた武流が勝機を見出し、ティターンへ接近戦に臨む。
 流叶とヴァレスの攻撃に合わせて、右斜め後方からの奇襲をかける。
「何をしようとしてるのかなぁ?」
 その動きに真っ先に気づいたティルゥがプロトン砲を放つ。
「甘いな」
 後方からの射撃に、武流はブーストと超伝導アクチュエータを起動。ブースターで緊急回避に飛び退き、スタビライザーと補助ブースターに重ねて、脚爪でブレーキをかけて急制動を行いつつ、避ける。
 だが、
「これで、四匹目だねー」
 避けた先、シンディが光剣を構えていた。先程のタロスの砲撃は、武流だけでなく、流叶達の足も止めるもの。
 シンディが武流機の胴を薙いだ。リーチは幾分短くなっていても、光剣の威力は同程度。辛うじて取れたブースターでの回避行動で、一刀両断は避けたが――
「操縦系統が、一式全てやられた、か」
 胴のコクピットは半壊状態で、中の武流も重傷を負っていた。そのまま擱坐し、艦の揺れに振り落とされていった。

●激戦、その末に
 ――神楽、勇輝、ジェーン‥‥そして、武流。
 四機が、それぞれ必死に闘いながら、倒されていった。
 最後に残ったのは、流叶とヴァレス。それでも、
「ここは、通さないよ」
 立ちはだかる流叶に、シンディは間合いを詰めて、全てを薙ぎ払う光剣を横払いの一撃として撃ち払う。全てを吹き飛ばす程の一撃は――しかし、
「――ッ‥‥聞こえなかった、かい? 通しは、しないよ‥‥!」
 PRMS・改を使用し、全身全霊を持って、シンディの一撃を受け止め耐える。
「たとえ二人でも――全力で止めさせてもらう!」
 ヴァレスがPRMS・改を用いて、機体のSES出力を一点、アハトへ集中させる。
 照準を定めて、アハトを放つその直前、
「君の手出しは無用だよぉ」
 ヴァレス機を淡紅色の光条が貫く。僅かに半歩、エネルギーの奔流に飲まれ、機体が押され、狙いがずれる。
「ヴァレス‥‥ッ」
 視界の端にヴァレスを捉える。灼かれ、それでももう一度リロードしながら、体勢を立て直すヴァレス。
 それだけ確認し、信頼して意識の外に置く。
 流叶がPRMS・改を切り替え、今度は攻撃へ。
 ブーストで急接近して斬りかかる。襲い来る鋭い斬撃をいなし、躱して、反撃の一撃を振るう。流叶はその一撃を盾で受け流す。
 暫し、ほぼ拮抗した戦いが続いた。
 だが、その拮抗は――、ヴァレスを倒したティルゥの参戦によって崩れる。
「ごめん、流叶‥‥」
 擱坐し、動かなくなった機体から、ヴァレスの弱々しい声が通信で届く。
「後は君だけみたいだねー」
 シンディの振り下ろしの一撃を流叶が盾で受けようとした時、ティルゥのプロトン砲が流叶を横から撃ち抜いた。関節が灼かれ、軋む。続くシンディの一撃を盾で受け止めるも、押され、膝をつき、盾ごと機体を斬り裂かれた。
「あはっ、君達は下で潰れてトマトジュースになっててよ。飲みに行く前に――コレ、落としてくるから」
 膝をついた流叶機を蹴り飛ばし、擱坐したヴァレス機諸共に吹き飛ばす。
 艦上の縁からヴァレス機と流叶機が共に地上へと落ちていく――。

 艦橋への道――障害は、全て取り除かれた。


●艦橋の戦い
 艦橋に開いた穴から、ティターンが顔を覗かせて光剣を突き刺す。
 ハインリッヒ・ブラット(gz0100)が、あわやというところで光剣に裂かれそうになる。
「ブラット少将!」
 後方、複数の能力者軍人が援護射撃を仕掛ける。援護を受けて後退するブラット。
「大丈夫だ、問題ない。それより艦載機はどうした?」
「そこまで来ています」
 ブラットが頷いた時には、ティターンとタロスを横合いから銃弾が襲った。
 艦載機だ。
「うー? 思ったより早かったねー。あいつらと戦ってる間に呼び戻されてた、のかなー?」
 ちらりと横目で、艦上、戦闘の痕を見下ろす。
「ティルゥ、後は頼んでいい? ちょっときつそーかなー?」
「いいですよぉ。シンディ様。じゃ、ここでお別れですねぇ」
「おー、上手くやれるようなら、そこのおっさんの首、とっといてー」
「はぁい」
 後退するティターンを追撃しようとした艦載機へ、タロスはプロトン砲を放つ。
「ほぉら、こっちですよぉ。そっち追ってると、艦橋落としちゃいますよぉ?」
 挑発するティルゥ。ブラットの指揮を受け、能力者軍人や艦載機が一斉にタロスへと銃弾を放つ。


 ――ティターンがUK弐番艦から離れ、追撃を振り切った頃、艦橋で一つの爆発。閃光が弾けた。
「んー、下にトマトジュース飲みに行ってる余裕はないかー。この身体だしねー」
 腕の無い左肩を押さえ、はーあ、と溜め息を一つ。
「新しいヨリシロを、見つけなきゃねー」
 吹き荒れた暴風は、UK弐番艦に大きな爪痕を残して、去って行く。シンディの視界の端、艦橋での爆発から暫しの後、体勢を立て直し突撃するUK弐番艦が見えた。