タイトル:ドロームの鷹と薔薇マスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/12/20 01:29

●オープニング本文


●LHにあるドローム社の支社‥‥その玄関ロビー
「で、どうされるのですか?」
 ジェーン・ヤマダ(gz0405)――もとい、オペ子が眠たげな目を向ける。
 オペ子の眠たげな目。それが向けられているのはドローム社LH支社研究室の室長であるイーコだ。
「どうしよっかねぇ。あたし、傭兵に嫌われてるだろうしねぇ‥‥」
 ――今回は気が進まないなあ、とぼやき、咥え煙草の紫煙を燻らせる。
「それでも、スピリットゴーストの改良を行った実績で、今回マリアンデールのVUがこちらに回ってきたのでしょう?」
「ついでに、ストロングホーク2のVUも、ね」
 ふーっ、と煙を天井に向かって吐きだすと、脱力したように肩を落とした。
 以前、イーコの研究室ではKVのVUを行っている。今回は、本社がその実績を見て、新たなVUをイーコの研究室に回したのだろう。しかし、確かにVUを行ったものの‥‥その際にはいろいろと大変だった。
「まぁ、やるしかないんだし。やるけどね」
 携帯灰皿を取り出し、イーコは煙草の火を消す。
「とりあえず、こっちで改良にあたって何が出来るか、何が出来ないかを洗い出すよ。で、その上で傭兵達にはどうして欲しいかを聞く、そんな依頼でどうだい?」
 片目を瞑り、ウィンクを投げかける。
「いいんじゃないでしょうか?」
 問われたオペ子は、小首を傾げて答えた。どちらでもいいといった風情である。
「‥‥あんたもやる気がないねぇ」
「ま、それはいつものことです」
 そうなのかい、と苦笑いを浮かべて、イーコは新しい煙草に火をつけた。

●参加者一覧

夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
上月・舞夏(gb4518
19歳・♀・DG
鹿島 綾(gb4549
22歳・♀・AA
ブラン・シュネージュ(gb9660
16歳・♀・JG
美紅・ラング(gb9880
13歳・♀・JG
ジャック・ジェリア(gc0672
25歳・♂・GD
ラティシア(gc7635
14歳・♀・DG
レーティシア(gc7659
15歳・♀・DG

●リプレイ本文

●ドローム会議室
「マリアンデール搭乗者として意見を伝えに来ましたわ。よろしくお願いしますわね」
 ブラン・シュネージュ(gb9660)が差し出した手にイーコも手を差し出す。
「ああ、よろしく」
 握手を交わしながら、イーコが傭兵達にちらりと視線を配る。視線はスピリットゴーストVUの際に居た美紅・ラング(gb9880)とジャック・ジェリア(gc0672)を順に追い、そして、イーコは小さく溜め息を吐いた。まさか、来るとは思っていなかった。
「‥‥何かへこんでるんだって? これだから挫折を知らない子は。世の中、自分の思ったとおりにだけ行く訳無いだろー」
 ジャックが送られた視線に軽く笑みを浮かべて応える。イーコはむぅ、と唸った。
「やる気出してくださいっ。私、頑張りますから!」
 夕凪 春花(ga3152)がすかさずフォローに入り、イーコを励ます。イーコは顔を上げた。
「すまない、ありがとう。‥‥さて、そうだな。まずはマリアンデールから意見を聞いていこうか。意見のある者は手を挙げてくれ」

●マリアンデール
 イーコの言葉に、レーティシア(gc7659)が手を挙げた。
「ファルコン・スナイプ改をA/Bにできないでしょうか。それで、Bの時は射程を2倍に延長して欲しいです。射程30の短さですと、白兵戦闘に巻き込まれることが多くて非常に困っているんです。――ですよね」
 レーティシアが隣に座るラティシア(gc7635)へと視線を向ける。
「え? あ、ああ、そうですね〜」
 生返事。ラティシアは、目の前、机の上に置いた分厚い要望資料を見つめて注意散漫だった。
 周囲への注意を散漫にして見つめるのは、要望資料に添えられた一枚のメモ用紙。そこには、
 ――しょぼい結果だったら、次の大規模で敵ごと撃つよ。
 そんな事が書かれていた。その文章を目でなぞり、ごくり、とラティシアは生唾を飲み込む。
(ははは、ここはしっかりしないと)
 意気をむりやりに取り戻し、ラティシアは前を向く。言うべき事を言わねば。
「できれば、掃射モードの消費を抑えてもほしいですね。現状無改造状態だと2回撃ったらはい撤退ですから」
 ラティシアがレーティシアに追加して意見を述べ、イーコは少し考え込むように口元を抑えた。
「掃射モードの消費を抑えるかファルコン・スナイプ改をA/B化するか、どちらか一方を実現する事なら可能だが‥‥Bは、距離補正ではなく、射程2倍延長‥‥か」
「射程を倍にして距離60の砲撃‥‥SGがVerUP前に抱えていた問題を再燃させる事にならないかしら?」
 イーコが悩む間に、鹿島 綾(gb4549)が自らの懸念を述べる。距離60からの砲撃にあたり、無改造状態では機体の命中310にファルコン・スナイプ改の命中+100。それでは地上や低空戦において、まず攻撃が当たらない。
「それもあるね。けど、Bはブレス・ノウをファルコン・スナイプに搭載して、距離補正を得たものだから、代わりに何を積むか、が問題かな。ロングボウの複合式ミサイル誘導システムIIは、ミサイル兵装に特化したものだから、DR−Mには対応できないしね」
「それなら、私は掃射モードの練力効率の強化を推したいわね。この手の機体にとって、練力周りの効率化はそのまま総合火力の向上に繋がるもの」
 イーコの回答を受けて、綾がラティシアが出したもう一方の案に賛成の票を投じる。
「掃射モードは、その消費の大きさ故に使用を躊躇う事も多そうだし。練力消費を低減すれば、思い切った使い方もし易くなるわ」
 優しげな微笑を浮かべて、掃射モード消費減についての利点を述べ終える。
「なるほどね。戦闘中の躊躇は問題だな。改良点としては大きい、な」
「それでしたら、掃射モードを使わなくとも優秀な武装ですし、弾数を増やすことはできませんの?」
 次の意見として、ブランがDR−Mの弾数増加を望んだ。
「主砲の弾数が3発しかないというのは少々心許ないですわ。エネルギーパックの追加によって重くなる分、回避性能は落ちるかもしれませんが、単騎で白兵戦するような機体ではありませんし特に問題はないですわね」
「‥‥そうだな。弾数の増加は、他のスキルの強化と引き換えになら、可能だね。1発か2発分程度だけど、荷電粒子砲のエネルギーパックを搭載することができるはずだ。弾数の増加によって、回避性能が落ちる、ということもないかな。ただ、――意見としては、あまり弾数の増加が望まれている様には思えないね」
 まだ、掃射モードの練力消費を減少させる方が、全体の意見としては比率が高い。
「他に意見はあるかな?」
 イーコが皆を見て尋ねると、ジャックが軽く手を挙げた。
「拡散ビームほしいね。通常と拡散で撃ち分けれるやつ」
 ジャックがそれまでと異なる意見として、DR−Mの撃ち分けという提案を出す。
「射程は維持したいな。範囲は掃射モードの通りで、命中を大きく引き上げたい。その代わり攻撃力は0まで落としてもかまわないぐらいで」
「威力と射程が下がりそうだけども、命中向上の案としては面白そうね。収束率を変更できる様にしてみるとか」
 綾もその案に乗って、賛成の意を示す。
「攻撃の選択肢が増えるのは良いことだと思いますわ。可能ならば、ですが」
 ブランが実現性にやや懐疑的な意見を述べるも、おおむね賛成のようだった。
「実現は出来ると思うよ。ただ、収束率を低下させて拡散させる‥‥となると、鹿島の言うとおり、威力と射程は下がるかな」
 意見を聞きながら、改良案について考えを纏めつつメモを取る。
「想定される利用方法としては、接近された敵機に対しての足止めと時間稼ぎ、後方へ敵を抜けさせない為の広範囲阻害、あと、ミサイルの迎撃‥‥は難しいか? ‥‥よし、後は機体性能についても聞いておこうか」
 纏め上げた意見のメモから再度、傭兵達に顔を戻す。すると、上月・舞夏(gb4518)が手を挙げてにっかりと笑みを浮かべていた。
「アレな。一言で言うけど宇宙ヤバイ。超ヤバイ。練力とか一瞬で飛ぶ。特にマリアンさんだとマジ一発な。ブーストかけて掃射撃ったらはいリターン&補給。つまり練力オンリー注力でヨロシクしたい所」
「なるほど。愛機を宇宙にも持っていきたいというのがあるか」
「こちらも大体は同じよ。機体は練力強化一択。より多くの練力を確保したい所ね」
 続く綾も同じ意見を返し、春花もこくりと頷く。
「この機体は、錬力食いの機体ですからあればあるだけ良いでしょう」
「なるほどね。他の皆もそんな感じか。分かったよ。後は機体名について、何か希望はあるかな?」
「そうですね。マリアンデールIIか、またはMK.IIあたりをお願いします」
「IIだね」
 春花の提案をまずはメモする。
「順当な所だ。他には誰かあるかい?」
「マリアンデール・フロリバンダ、というのはどうかな? 付け足した意味は『花束』、マリアンデールという薔薇の品種の系統名で枝分かれしてたくさん花を咲かせるらしい」
「フロリバンダ、か」
 続くジャックの提案に再度メモをとる。
「拡散モードを搭載するなら、フロリバンダという言葉は、拡散モードを表した様でいいかもしれないな。検討させてもらうよ。――他に名称に関しての意見はあるかい?」
「名称の変更ができるのでしたら、ファルコン・スナイプ改をクリムゾン・スナイプに変更できませんか?」
「もう一つあるぞ。掃射モードってのが地味でな。趣味的に派手めでお願いしたい所‥‥バスターモード、とかそんな感じでどうか‥‥! ブランはどうだ?」
「え、名前なんて別によいのでは‥‥」
 舞夏の言に、隣に座っていたブランが何を言い出すのかと、少し驚いた顔を見せていたが、
「そうですわね‥‥強いて言うならブラスターモード、とか‥‥どうでしょうか?」
 最後は名称に自信ありげにイーコの方を窺った。
「――どれもいい名前ではあると思うんだが‥‥名称の変更は、変更の必要を迫られた場合に合わせてのみ実施するという規定があってね。残念だけど、難しいだろう。すまないね」

●ストロングホークII
「さて、次はストロングホークについて意見を聞こうか」
 イーコが言ってすぐ。美紅が素早く手を挙げ、椅子から立ち上がった。
「ストロングホークは美紅の愛機であるからVUに要望を言うのは当然なのである」
 目を輝かせた美紅は、そんな前置きをひとつ。自身のストロングホークへの燃え盛るような愛情に任せて意見を述べ始めた。
 まずは、能力値。
「基本現状でも十分に満足しているので、今後の宇宙対応を見越した上での練力の大幅増加を希望。大推力のストームブーストを要するKVとしてはやはり移動面に主眼を置いて強化してもらいたいのは自明の理と言うところであるか」
 次に機体特殊能力。
「ストームブーストBへの付加機能として『高空エリア』からの『宇宙エリア』への移動能力を希望するのである。VUによる宇宙対応は望めないものの、大気圏からの宇宙空間への自力による移動能力は戦略上有効と判断してのことである。また法則に即するならストームブーストAに重力圏離脱速度まで加速できる機能を持たせると言うことでも可なりである」
 と、一気に述べ切って、ふふん、と鼻を鳴らす。
「‥‥難しいな。ストームブーストBを利用すれば、確かに低空から高空への急上昇は可能だけど、ストームブーストBで宇宙まで行ける急上昇ができるかと言うと疑問が残るかな。それに、ストームブーストAだと膨大な推力を使って移動距離を伸ばしてるけれど、ブースト最高速度はそんなに速くないだろう? 加速能力が高いわけでもないんだ」
「ならば、せめて、一つはっきりさせて欲しいのである。ストロングホークのエンジンは膝の外側に固定されている、という認識であっているのであるか? 腰の部分に固定されているという噂を聞いたのであるが」
 美紅の話にイーコは首を傾げる。
「確か‥‥ストロングホークIIのエンジン部分は太腿に相当する部分にジョイントされているはずだが‥‥? そのために、駐機状態ではエンジン後部を接地させてジョイント部の負荷を軽減させるようにもなっているしね。腰の部分に固定されているっていうのは、聞いた事がないな」
 イーコが説明を終えると、次に綾が身を乗り出した。
「出来れば、バーストAFの消費練力を減少させて欲しいけれども‥‥出来るかしら? 効果は一瞬だから、連発できるようにしたいのよ」
 綾が述べて、舞夏とジャックが頷いた。
「なるほど、そこか。だが‥‥すまないが、無理だな。現時点でも最高効率の機構を使ってあるからね。スペック上、練力消費40に対して、攻撃の上昇値は200。つまり、5倍の効率だから、これ以上の効率化は、新技術の発明を待つしかない状態だな。まあ、練力消費を倍にして、同等の攻撃上昇値を10秒間継続させることで、間接的に消費練力を減少させる、という事も現在の技術ならできるかもしれないけれど‥‥一撃離脱のストームブーストとの相性は悪いかな。機体の運用方法を誤れば、単に消費練力が倍増するだけの結果になりかねない」
「それでしたら、アグレッシヴファングにブレスノウの技術を応用させて、一撃に限り予測精度を上げて命中率を高めることはできませんの?」
 ブランが実現可能そうな案を練りだしてくる。
「それは可能かな。ただ、バーストAFについては、練力消費の減少が望まれているから、消費の上昇に繋がることはしない方向でいきたいと思う」
 ブランは、それもそうですわね、と頷いて案を引く。すると、ラティシアが次の提案を切りだす。
「仲間からの要望なのですが、対地・対空補正か命中強化のスキルをつけれないでしょうか。それによって、高高度からの超急行降下によるフレア・プラズマ弾爆撃が可能になりますから」
「う、ん? 対地、対空補正は、高空から地上を狙う場合や、地上から高空を狙う場合に補正を与えるものだろう。R−02ならストームブーストBによって補正の必要がない高度へ移動して攻撃できるはずだが?」
 向けられた視線に、ラティシアが首を傾げて資料に目を落とす。ラティシアが資料を漁っている間にも、イーコは話を続ける。
「命中強化は‥‥そうだな、そっちのお嬢さんが言ってたブレスノウをストームブーストに合わせて調整すればなんとかなる。ただ‥‥」
 ペンを手に取り、ホワイトボードに図や数式を書いた。
「ストームブーストは、膨大な推力を得て急降下や急上昇を行うから、そのままだと予測演算に誤差が出てしまうか、もしくは誤差を消す為により大きな出力が必要になるだろう。この問題を解消するには、装置に前提状況を設定する必要があるかな。おそらく、急降下や急上昇中にのみ効果を発揮する付加スキルになるだろうね」

「――さて、機体性能についての要望も聞いておこうか」
 特殊能力についての意見を聞き終わったイーコが次の議題に移る。
「ストームブーストAにバーストAF‥‥これらを生かしたヒット&アウェイをするなら、攻撃と命中を上昇させて一撃の強さを高めたい所ね」
 綾の意見に、春花も続く。
「一撃離脱機と言う観点から見て、機体性能は攻撃と命中は上げておきたい所。次点で錬力でしょうか」
「私としては、性能アップは命中と錬力というとこでしょうか。どちらかと言えば、命中を優先でお願いしたいですね」
 春花に続いてレーティシアも意見を述べる。
「攻撃と命中。後は余裕があれば練力、というところか。なるほどね。後は‥‥ストロングホークについても、機体名の変更案はあるかい?」
 ざっと見回してみるが、傭兵達も顔を見合わせて、特にないような素振りを見せる。
「名前は後ろにIIとかついてるから難しいなぁ。いっそIIIにしてしまうとかかな? まぁ、他の人のセンスに任せるよ」
 ジャックがお手上げといったジェスチャーをする中、おずおずと春花が手を挙げる。
「スーパーストロングホークII。略してスパス2またはスパホ‥‥ダメ、ですか?」
「スパホ‥‥ね。ひとまず、その案はメモらせてもらっておくよ。ありがとう」
 結局、春花の案で決定、となった。アメリカ的なネーミングセンスと思えばそれもいいのかもしれない。
「さて、ストロングホークについての意見も、そんなところだね? よし、――ありがとう。今日は御苦労さまだったね」

●それだけだよ
 意見聴取を終えて、傭兵達が退出していく。それを見送りドアの前に立っていたイーコに、最後、ジャックが部屋を出る時にふと、振り返った。
「そうだ。最後に一つだけ。特に君は嫌われてはいない。ただ、冷かしがいはあるなと前に思った。研究者って人種の悪い癖でね、自分の世界以外が見えてないのさ。そうすると、俺みたいのは遊びたくなる。それだけだよ」
 それを聞いて、イーコは、やや呆れたように苦笑を浮かべる。
「そうか。以後気を付けるよ。これからは、――せめて、君達傭兵の世界ぐらいは見えるように、ね」