タイトル:【福音】翼を風に乗せてマスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/11 06:04

●オープニング本文


●バグア本星艦隊――巡洋艦のその一つ
 艦内の狭い通路。無重力の通路を流線型の影が飛んでいく。
 影は、傭兵達と戦闘を繰り返してきたフィーニクスのパイロット、ミィブだ。
 先へと急ぐ彼は、気持ちが焦っていた。慣れたはずの通路だというのに、何度となく通路の壁に足を着いては、方向を修正するはめになる。
 その遅れに、後方からレプエが追いついてきた。体当たりをするかのような勢いで、レプエはミィブにぶつかり、その体を押さえる。
 レプエを威嚇するように、ミィブが触腕を引っ込めて、きゅい、と甲高く鳴いた。
『どけ! どくんだ! 今ならまだ間に合う!』
『待って‥‥! 待ってください! ミィブ、自暴自棄にならないで! それをしたら、どうなるか分かっていますよね!?』
『分かっている!』
「――いいえ! 今のあなたは分かっていません! お願いだから、ミィブ、冷静になってください!」
 絡むレプエを必死に振り解こうとミィブが暴れるが、レプエの方とて必死で振り解かれまいと抱きつき続ける。
 しばらくの間そうやってもつれ合っていると、やがて、通路の向こうから、一人のイルカがゆっくりと通路を飛んできた。
「何をしているんだ、貴様ら」
「‥‥リィブ?」
 ミィブは振り解こうとする手を止めて、現れたイルカに問いかける。姿形はリィブそのものだったが、雰囲気が全く異なっていた。
 リィブそっくりのその人物が、にたり、とゲスじみた笑いを浮かべる。
 触腕でのジェスチャーも行わずに、その男は答えた。

「――いいや、ガズィー様さ」


 リィブをヨリシロとしたガズィーは、ミィブとレプエを押し退けるようにして通路をブリッジへと向かった。
 ミィブは、それを呆然と見送った後、ただ動けずに通路に身を浮かせていた。
「ミィブ‥‥」
 レプエが慰めるように声をかけるが、返事はなく、彼女の方を見る動きすらない。
「私は――こうならないために、どれほどの思いで‥‥」
 呟きは誰に向けられたものでもない。ただ、眩暈のするような絶望感が、彼からその言葉を捻り出す。
 レプエは、その瞳を悲しげにミィブへと向けて、見つめ続ける。
 やがて、一つの決心をしたように、触腕の動きを改めた。
「ミィブ‥‥あの話を覚えていますか」
 まだ顔を伏せたままのミィブに、レプエは話を続ける。

「翼を運ぶ風が吹いた時、鳥はその翼を風に委ねて飛ぶ」

 その言葉にミィブが顔を少しだけ上げた。
「祖父達には、私から伝えておきます。風が吹いた、と」
 一拍だけ、区切りをつけ、その瞳をミィブと重ねる。
「長老の娘として、あなたにお願いします。――飛び立つために、あなたは風の在処へと翼を運んでください」
 二人が見つめ合ったまま、しばしの時間が流れた。やがて、ミィブが口を開く。
「‥‥君は、止めようとしたんじゃないのか。それこそ、どうなるかわからないはずだ」
 ミィブからの疑問に、レプエはやや困ったように触腕をくねらせる。
「次の戦闘で、あなたはガズィーを撃つつもりですよね」
 心の内を読まれたミィブが、驚きを隠せずに触腕を震わせる。
「これでも、生まれたときからあなたの婚約者なんですよ。あなたが考えていることなんて分かります。‥‥あなたが自分の命を犠牲にするというなら、私は、まだ、あなたが生き残れる可能性に賭けます」
 こつん、とレプエはミィブの額に自らの額を突き合わせる。
「ええ――たとえ、一族の皆を巻き込むことになっても」


●アテナ攻略戦:後方
 アテナ攻略戦を展開するUPC軍の後方で、医療船団アスクレピオスは、医療艦ラス・アルハゲを中心に展開し、前線にて大破した艦へと、船団の救護艦と護衛艦を数隻、救護へと向かわせていた。
 安全な後方からの支援任務、そのはずであった。
 だが、突如として、本星艦隊のものと思われるバグア巡洋艦が医療船団の付近へと出現した。
 敵巡洋艦は、あたり一帯へと無数のキメラを展開。展開されたキメラは、護衛艦へと襲いかかり、医療船団の防衛戦力を釘付けとした。
 その間に、巡洋艦からバグアの有人機が展開を始める。
 医療艦ラス・アルハゲに残された防衛の戦力は、船団側で護衛として雇い入れた傭兵の1部隊のみ。

「――クヒヒ、リベンジだ。あの船を落としに行くぞ」
 ガズィーは、ヨリシロと共に大型HWをも新たなものへと変えて、バグア巡洋艦の部隊による狩猟場へと、機体を駆っていく。
 ガズィーの率いる部隊には、ミィブの搭乗するフィーニクスの姿もあった。そして、
 ――ようへいさんたちもいるのー。
 017もその戦場に声を届けていた。
『ああ、確認している。――僥倖、というやつかな。これなら、上手くやれるかもしれない』
 ミィブのきゅい、という頷く声に、017も嬉しそうな声を返す。
 ――あたしがつたえることをかくにんしてもいーい?
『そうだな。‥‥まず、ひとつは、私の機体を上手く撃墜したように見せかけて欲しいこと』
 ――んん。ようへいさんたちがうまくみぃぶをやっつければいいのねー?
『ああ。二つ目は、この機体には自爆装置が設置してあるので、それを破壊して欲しいということ』
 ――じばくそーちをつかえなくしてほしいってことでいいのねー?
『そうだ。自爆装置の詳しい場所は知っているのでね。上手くその場所は晒そう』
 ――りょーかいなのー。がんばってみるのー。
『ああ、頼む。017』
 017の声が離れていく感覚を覚えながら、ミィブは前を向く。
 戦闘の始まりの直前、嵐の前の静寂。風は吹いていなかった。
『さあ、風の在処へ行こうか。――これ以上、失わないために』

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
鷹代 由稀(ga1601
27歳・♀・JG
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
カララク(gb1394
26歳・♂・JG
大神 直人(gb1865
18歳・♂・DG
依神 隼瀬(gb2747
20歳・♀・HG
春夏秋冬 立花(gc3009
16歳・♀・ER
天野 天魔(gc4365
23歳・♂・ER

●リプレイ本文

●声からのねがいごと
 閃光眩く、戦いを華と繰り広げられる宇宙の戦場。
 空虚な黒を隙間なく埋めようかという数のキメラの群れに対し、医療船団アスクレピオスの護衛艦群は、ラインガーダーを放出し抗戦を試みていた。
 多勢に無勢の中、虎の子の傭兵部隊が戦場へと投入される。
「フィーニクス‥‥いいえ、ミィブ‥‥」
 紅い鳥の様な機体を見て、里見・さやか(ga0153)が呟く。
(なぜあの時、とどめを刺してこなかった‥‥いえ、017の声を聞き届けたのでしょうか)
 まだ、ミィブと直接に会話を交わしたわけではない。さやかの中には、疑問が残り続けていた。そこへ、
 ――いま、みぃぶとたたかおうとしてるひとたち、きこえてたらへんじをしてほしいの。‥‥おねがいがあるの。
 声が届く。
「‥‥今おかしな声が聞こえなかったか?」
 天野 天魔(gc4365)からの不審の通信。
 だが、傭兵達の何人かは、幾度目かとなるその声の聞こえ方にわずかな驚きを得ただけだった。
 フィーニクスと共に確認されている謎の声、それがまた戦場に響いた。

「紅い機体のパイロット‥‥敵ではないのか?」
 若干の驚きを覚えつつ、カララク(gb1394)が
「テレパシーか。それで? 君を助けるとこちらにどんな利益がある?」
 戦場に展開するまでの僅かな時間。おねがいの内容を聞いた天魔が017に告げる。
 ――んとね‥‥みぃぶは、わたしたちのすべてがきみたちのみかたになる、といってるの。
「なるほど。相手の戦力を減らして、こちらの戦力が増えるということか」
 彼の言う【わたしたち】がどれほどのものかは分からないが、バグア側の戦力を削れるのであれば、悪くない取引だ。
「えーっと、おひなちゃんだっけ?」
 続けて、春夏秋冬 立花(gc3009)が017に対し呼びかける。
「017でおひな。で、みぃぶさんはどんな目的があるのかな? 私としてはどんな目的でも大歓迎だけど、他の人はそうじゃないからね」
 ――おひな。017はおひななのー? おひなー。うふふ。あ、もくてきはね。んと‥‥ばーでゅみなすのみなのいのちをまもるため、なの。
「バーデュミナス?」
 ――みぃぶたち、みんなのなまえなのー。えと、えと、みぃぶたちは、ばーでゅみなすってひとたちなのー。
「バーデュミナス人? バーデュミナス星人、なのかな」
 会話を聞いた依神 隼瀬(gb2747)が疑問を口にする。
 ――ばーでゅみなすじん、であってるのー。
「星の名前じゃないんだ? ‥‥状況だけでなく、かなりややこしいね。と、そろそろ、そっちは担当に任せて、俺は護衛に集中しよう」
 会話をしていられる猶予はもう残り少なくなっていた。隼瀬機が先行して、艦の護衛へと回る。
「まず、今は艦を守らねば‥‥な」
 カララクもまた戦局を見極めて、護衛へと機体を動かしていく。
 おひなの拙い説明を聞き、しばらく黙考する鷹代 由稀(ga1601)。
 罠かもしれない疑念は残る。でも、真実なら‥‥。
「この先、大きく踏み出すきっかけになりえる」
 由稀は、囁くように言葉を漏らし、視界の紅い機体を見据えた。
「ジャネット少尉。聞こえているか?」
 大神 直人(gb1865)がジャネット・路馬(gz0394)のラインガーダーへと通信を繋ぐ。
「フィーニクスとの戦闘に関して、軍への進言がある」
「‥‥フィーニクスを捕獲する、というのだね」
 ラインガーダーの通信席から操縦席の部下に指示を出しつつ、ジャネットが返事を返す。
「彼らの声は聞こえていた。正直な所、戦闘はぎりぎりの戦局だ。現場の判断としては、作戦行動を優先し、各艦の護衛に専念して欲しい‥‥だが、セシリア船団長から指示が出ている」
 ノイズで乱れる映像には、苦慮している表情が見受けられた。
「――『私達は医療船団です。戦場の救える命は救うように』だそうだ。この言葉をどう解釈しどう行動するかは、君達に委ねる」
 言って、激化する戦闘へと、ジャネットは部隊の指揮に戻っていく。
「救護活動の一つとして認めるということか。ならば、後は任せよう」
 フィーニクスの担当者に言葉をかけて、自機を中型HWへと向ける。
「俺は護衛の方に全力を尽くす」
 直人機がヴィジョンアイを使用して、中型HWの観測を始める。得られたデータは、即座に味方へと転送されていく。
「作戦は定まった、かな」
 時枝・悠(ga8810)は自らの相手となる大型HWの進行方向へと機体の機首を向ける。
「後は、消える時、方向を教えてくれ。それと――悠だ。物を頼むなら、ってヤツだよ」
 ――あのひとのなまえは、みぃぶ、なの。ばーでゅみなすじんのみぃぶ、よろしくおねがいなの。
「あたしの名乗りがまだだったね。あたしは鷹代由稀。あんたの意思は受け取った」
 互いに名を名乗り合い、準備は整う。
「主演は君達だ。任せよう。‥‥一応端役として協力するか」
 天魔機から観測されたフィーニクスの自爆装置の映像と共に、戦域図をデータとして転送する。
 戦域図には、作戦のフェイズに合わせた各部隊の展開図が添付されている。
 最終フェイズ、Vの字に展開した護衛艦の部隊のその底に医療艦と救護艦を置かれていた。
 その戦域の一点。護衛艦のVの外側へと出た位置に、フィーニクスのマーカーが置かれている。
 敵巡洋艦から直線上に、また、HW各機の誘導位置からも死角になる一点。
「狙うのはここ。芝居をするならここだ。では任せた。名演を頼むよ」
 天魔機が自らの持ち場へと動いていく。
 フィーニクスへの進路を取るのは、さやか機と由稀機のみ。
「さあ、互いに全力の茶番‥‥始めるわよ」
 由稀機がさやか機の前に出るように動き、フィーニクスへと狙いを定めて翔けた。
 ミィブ機が彼女らに呼応するように動き出す。
 ――バグア達を観客にして、命を懸けたお芝居が、幕を開ける。

●遷移する戦場
 戦場の護衛艦部隊は、傭兵部隊を防衛ラインの中央において、左右に展開し始めていた。
 傭兵部隊が来るまで最後尾で防衛ラインを形成していたカーク隊は、傭兵部隊の左手側にずれ、レイテのS−02を他の護衛艦部隊の手当てに回す。
「‥‥ここは抜かせない」
 敵キメラ群、先陣を切るように突撃してくる中型キメラ達をカララク機が順に撃ち落としていく。
「HWの動きに警戒しろ。突破は許すなよ」
 ヴィジョンアイで中型HWの動きをつぶさに捉えながら、直人機がカララク機のフォローに回る。
 討ち漏れた中型キメラを一体ずつ丁寧に処理していく。
 中型HW二機は、キメラ達を盾にして防衛網の突破を試みていたが、自分達が前面に出る素振りはなかった。あくまでも自分達の安全を確保しながら、キメラ達で防衛網を排除する考えに見えた。
「此度の劇は君を中心に観させて貰う」
 直人機が観測する中型HWとは別の中型HWに対し、天魔機がヴィジョンアイで観測を行う。データは傭兵部隊だけでなく、護衛艦の部隊にも転送する。
 ロータス・クイーンで得られたキメラ群の情報と共に転送され、味方機の射撃精度が上昇し、
「左右に展開した護衛部隊は、互いに火線の交差するキメラを狙ってね」
 蓮華の結界輪のジャミング中和効果が、それを更に押し上げる。
 左右の部隊で連携した十字砲火が放たれ、動きの遅い大型キメラがその餌食となって沈黙する。
 自身はアサルトライフルで弾幕を作り、防衛網の隙間を抜けてこようとする小型キメラに牽制を加える。
 左右に展開した護衛艦部隊は、後方への突破を防ぎながら、徐々にその陣形を変えていく。
 左と右、両端の部隊はその端から陣形の裏側に回り込まれないよう支え、中央の傭兵部隊の直近に展開した護衛艦部隊は、少しずつ後退をしていく。
 中央、護衛艦部隊に合わせて傭兵部隊も後退する。傭兵部隊が、中央、陣形の最後尾に位置するように。
 キメラ達は、目標となる医療艦と救護艦への最短路の圧力が弱まり、少しずつ中央へと誘導されていく。中型HWに乗るバグア達もまた、それを自分達の優勢と見て、中央突破を図るように指示を下す。
 徐々に、緩やかに、敵部隊は中央の一点へと集まりつつあった。

「遊んでくれよ、ガズィー君?」
 オープン回線で敵大型HWへと声を投げるのは、悠だ。
 中央突破を狙う敵の大群、それらの動きを無視するようにガズィーの大型HWは、防衛網の裏側に回り込もうとしていた。
 挑発する悠の声と共に、フィロソフィーでの光条が大型HWへと撃ち込まれる。
「クワァッ! てめぇら、邪魔すんじゃねぇ!」
 怒声がオープン回線に響き、大型HWが身を翻す。プロトン砲の狙いを悠機と、悠機に随行する立花機に定める。
「プロトン砲が来ます。回避してください!」
 立花機からの警告が飛ぶと、即座に大型HWから反撃の淡紅色の光線が閃く。直前に立花機の放ったミサイルがプロトン砲の直撃を受けて爆発する。
 爆ぜて生まれた光球の影に隠れながら、悠機と立花機は回避の機動で大型HWの攻撃を避ける。
「注意はこちらに向いたみたいですね。このままこちらに引きつけ続けますよ」
 立花機が大型HWの下に潜り込むような回避に続けて、旋回を加えて抜けながら攻撃を当てる。
 同時に、悠機が大型HWの上方から、プロトン砲の砲台にめがけてフィロソフィーでの射撃を行う。
 頑強なプロトン砲にいくらかの傷をつけるが、大型HWは問題なく反撃を行ってくる。
 攻撃を避けつつ、悠機と立花機は、注意を引くように再度の攻撃の機会を伺う。
 大型HWは、うっとおしそうにその足を止めて、まずは獲物を悠と立花に定めなおした。

 大型HWへの牽制と挑発が続けられる右手側とは逆の左手側では、ミィブのフィーニクスを作戦位置に誘導するように戦場を移していく。
 ドッグファイトに三機が軌跡を交え、末にフィーニクスと正面から向かい合う。
「――そろそろ頃合い、だね」
 由稀がモニター端に映る自身の位置と、作戦予定図の位置を横目に確認する。
 敵巡洋艦、大型HWからは護衛艦を挟んでの死角になる位置へと辿りついていた。
「狙いは――あそこですね」
 先程からフィーニクスの動きに一定のパターンでボディの一カ所を無防備に晒していた。おそらくは、そこに自爆装置がある。そして、もう一つ、そのパターンには共通点があった。
 さやか機がG放電装置を自爆装置のある箇所に狙い定めて放つ。
 その攻撃をフィーニクスは、ダミーを残して高速移動することで避ける。だが、
「これで予想通り、かな」
 さやかの攻撃に合わせて、由稀機が高速移動の先に飛び込んでいる。――無防備に自爆装置の箇所を晒すパターンの時、フィーニクスは一定の方向へと高速移動を行っていた。
 飛び込んだ由稀機がレーザーブレードを自爆装置へと突き立て、抉るようにして破壊した。


●包囲殲滅
 時間の経過と共に、キメラ達は護衛艦部隊に引き込まれるように傭兵部隊の前に、一カ所に集められていった。
 中央突破で一気に医療艦と救護艦へと抜けるはずだったのに、強固な守りに阻まれ、既に左右からは包囲されたように攻撃が集中している。
「――お膳立てはした、後は任せる」
 天魔機が僅かにその機体を後方へと退かせ、代わりにカララク機と直人機が前へ出る。
「一気に押し潰します。各艦部隊は援護して貰えるとありがたいです」
 隼瀬が軍への通信を行うと共に、
「‥‥これで最後だ」
「ありったけのミサイルだ。たらふく食らっていけ」
 カララク機と直人機が持てるミサイルを全弾発射する。膨れ上がった爆光に周囲の護衛艦部隊からも集中砲火が浴びせられる。

 包囲殲滅されていく味方の様子を見て、ガズィーは大型HWの中で舌打ちをした。
「ちぃっ! マズいじゃねぇか」
 一気に形勢を逆転された。アホばかりだと仲間を下に見ていたが、ここまでとは思わなかった。咄嗟に逃げる算段を頭の中に思い浮かべる。
 立花機と悠機を振り払うように牽制の射撃を放ち、方向を転換しようとする。
「逃がさないさ。仕留めるのを、任されたものでな」
 機体の方向転換時の隙を突いて悠機が接近し、重練機剣を抜き放ちざま装甲を斬り裂く。
 装甲に開いた傷へとレーザー砲を突き込み、内部へとレーザーを撃ち放った。
 だが、致命傷とも呼べる攻撃を受けても、大型HWは動いていた。機体を大きくロールさせて悠機を振り落とすと、最後のあがきのようにプロトン砲の砲口を悠機へと定める。
「そうはさせません」
 振り落とされた悠機の代わりに、ブーストで加速した立花機が大型HWへと取り付きざま、プロトン砲へと大きな一撃を食らわせる。迸った淡紅色の光は、明後日の方向へと輝跡を描いた。
 それでも、回避の為に生まれた隙に、大型HWは急激な加速と共に敵巡洋艦へと逃げ出した。

 包囲殲滅が始まったのと同時に、フィーニクスは威力の低いミサイルを当てられ、撃墜されたかのように見せかけて動きを止めた。
 自爆装置も破壊されており、フィーニクスはその場で完全に沈黙する。

●フィーニクス
 戦闘も終結し、フィーニクスはひとまずカーク隊の護衛艦へと曳航されていった。
 曳航しているのは、さやか機だったが、周囲を傭兵達が護衛を兼ねて固めている。
 さやか機を先導する天魔が護衛艦の艦橋にジャネットとレイテがいるのを観測機器で見て取った。
「ふむ、相変らず2人とも美しい。良い絵が取れた。ところでもう1人の美少女艦長と名高いセシリア嬢はどこだ? 3人並べば更に映えるんだが」
 護衛艦と繋いだ通信によれば、セシリア船団長もこちらの護衛艦に向かっているとのことだった。バグア以外の異星人との接触。それは、あまりにも重大な事件だった。
「‥‥何故亡命を? 敵ではないのか?」
 カララクがおひなを通して、ミィブに聞く。
 ――ん。てきではないの。みぃぶはたすけがほしくて、はなしをしにきたの。
「なら、他にもこちらへの亡命や和平を望む者はいるのか?」
 ――みぃぶはじぶんたちいがいあんまりしらないらしいし、あたしもあんまりほかのひとはしらないの。
 カララクの質問に続き、さやかもまた口を開く。
「ミィブと話ができるなら、ひとつ、どうしても聞きたかったことがあります。聞いて貰えますか? ――なぜあの時、とどめを刺してこなかった‥‥いえ、おひなの声を聞き届けたのでしょうか、と」
 ――んん、とね。‥‥ひつようもなくいのちをとったりしたくないからだそうなの。
「それは‥‥」
 ――みぃぶは、わたしたちはばぐあとはちがうって、そういってるの。
 その言葉は、幾分もの感情を含んで聞こえた。
「‥‥まぁ、いろいろあるみたいだけど、まずは‥‥ようこそ、かな」
 護衛艦の格納庫入り口が見えてきていた。由稀が曳航されるフィーニクスの横に機体を並べながら、素っ気なく歓迎の言葉を述べる。
 ひとつの道の、最初の一歩が踏み出された瞬間だった。