タイトル:【竜宮LP】瑚錠マスター:草之 佑人

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/01/08 13:51

●オープニング本文


「ふむ」
 モニターの光で浮かぶ丸眼鏡の老人。画面にはUK3や竜宮城内に侵入した傭兵たちの姿が映し出されていた。
 竜宮城の本丸、日本城風に言えば表御殿といった位置取りになるだろうか。
 しかしながらそこは襖や畳ではなく、多数の明滅するモニターに囲まれている。
「なかなかやりおる」
 白髭に手をやる老齢の男。
 背後を取ったと思ったら、その背が開いて中から散弾銃が飛び出てきたようなものだ。
 それでもなお、依然として気品のある佇まいを保ち、取り乱した様子はない。
「‥‥」
 薄暗い室内の片隅。
 特徴的な刀を差した女が腕を組み、爛と光る金色の両眼で画面を追っていた。
「勝者は追い込まれた時こそ落ち着き、笑みを浮かべるもの、だそうだ」
 数え切れないほど読み漁った書物の知識。
 人間の造詣に詳しい老人――この竜宮城も彼が御伽噺に倣って造り上げたもの。
 静かに目を閉じ、聞き流す女。
 モニターには竜宮城へ接近するUK3と大規模なKV部隊の様子が映し出される。
「そろそろ、か」
 老齢の男は踵を返す。
「私は沖へ『釣り』にいこう」
 禍々しい装甲の施された竿を手に取り、老人が外へと向かう。
「‥‥そう」
 しばらく間をおき、女がぽつりとつぶやく。
「餌は、必ず犠牲になる」
 通り過ぎる直前、ふいに老人へ投げかける。
 老人は足を止め、
「竿を握るのは、私だ」
 再び歩き出す。
 その顔には笑みが浮かんでいた。

●珊瑚の壁 竜の通ひ路 生え閉ぢよ
『――竜宮城に侵入した全部隊に通達、可及的速やかに撤退せよ!』
 竜宮城内に突入していた全部隊の間をその報は瞬く間に駆け巡る。
 それが、作戦目標である友軍の救出に成功したからなのか、それとも失敗したからなのか。情報は錯綜し、正確な判断はできなかった。
 しかし、傭兵達は戦い疲れた身体から最後の力を振り絞り、脱出口へと向かう。これが、最終決戦の合図であるならば、急がなければ作戦の最終段階に支障が出てしまう。

 ――だが、撤退を急ぐ彼らを阻む物があった。

「ちっ、なんだこりゃ! こいつ、キメラか!?」
 撤退する傭兵達の先頭を走っていた女傭兵が驚き叫ぶ。
 女傭兵の前方、壁の一部から、通路を塞ぐように珊瑚が生えてきていた。その生える速さは異常に早い。女傭兵が見ている前で珊瑚はあっという間に大きく育つと、通路を塞いでしまう。
「道を開けやがれ! こんにゃろがぁッ!」
 女傭兵は持っていた小銃の残弾を全て撃ち尽くす。それによって穴を開けようとしたが、しかし、
「なっ‥‥直るのが早すぎねえか!?」
 弾が穿った穴は、人が通れる大きさに広がる前に、珊瑚に塞がれていく。しかも、珊瑚は穴を塞ぐどころかますます大きくなり――女傭兵を巻き込むほどに膨れ上がる。
「くっ」
 慌てて女傭兵は後退した。持っていた小銃の先が珊瑚に挟まれ、抜けなくなる。
(危ねえ‥‥っ。珊瑚に押しつぶされるところだったぜ‥‥)
 女傭兵は冷や汗をかきながら、胸を撫で下ろした。だが、それも束の間、
「‥‥ど、どうするんだこれ‥‥脱出できないんじゃないか?」
 後ろに控えていた傭兵の一人が、情けなく狼狽えだす。ざわり、動揺が伝播し始める。
「ちぃ」
 女傭兵は舌打ちをした。疲れと焦りから、皆の士気が落ち始めているのだ。
「――てめぇら、他だ! 他の道を探せ! 通路は他にもあったはずだ!」
 後方の傭兵達に振り返り、女傭兵は声を張り上げる。士気の低下はこれ以上避けたい。
「ちんたらしてっと、本当に閉じ込められっぞ!! 急げよ、てめえらッ!」
 先程情けない声を出した傭兵の尻を蹴り上げながら、女傭兵は傭兵達を追い立てる。女傭兵は、彼らの最後尾について走り出した。そこに、
「あ、危ないです!」
 脇から警告を受けて、女傭兵が振り向く。視界の端に、飛魚キメラが突撃してくるのが映った。それを認識すると同時に身を捻る。しかし、
(ちぃ、間に合わないかねっ!?)
 女傭兵が回避するよりも飛魚キメラの突撃の方が速い。――致命傷を受ける。女傭兵はそう思った。
 だが、
 ――ドンッ。
 先程警告を発した傭兵の少女ハリューが女傭兵の背を押す。女傭兵の代わりに身代わりとなったのだ。ハリューが飛魚キメラの広げた胸ビレに太ももを切り裂かれ転倒する。上げた悲鳴に後尾の方につけていた傭兵の何人かが振り返った。
「先に行けっ!」
 女傭兵は叫ぶ。突撃し通り過ぎた飛魚キメラは今一度狙いを定めようと体勢を立て直していた。
 その隙に女傭兵は動く。
「オォッ!」
 咆哮と共に飛魚キメラに飛びかかると、逆手に持ったナイフを突き立てる。飛魚キメラはナイフで地面に縫い付けられた。身を貫かれて地面に縫い付けられ、飛魚キメラはもがく様にその身を撥ねさせる。女傭兵はキメラの顔を踏みつけその動きを押さえつけると、突き立てたナイフをそのまま尾の方へと動かし、裂いた。キメラは動かなくなる。
 キメラが動かなくなったのを確認してから、女傭兵はハリューに向き直った。
「あんた! 大丈夫か!?」
「は、はい。なんとか‥‥あ、あれ?」
 女傭兵の呼びかけに答えてハリューが立ち上がろうとした。が、ぺたんと座りこんでしまう。既にここまでの間にいくつも負った傷があり、今ので身体の治癒能力の限界を超えてしまったようだ。身体に上手く力が入らなくなっている
「あ‥‥い、今、立ちますね。‥‥あ、あれ?」
 ハリューはなんとか一人で立とうとするが‥‥やはり立てない。
 通路の先を見れば、先に行った傭兵達は曲がり角を曲がり、女傭兵の視界から姿を消すところだった。まだどこかに先程のキメラが潜んでいる可能性もある。このままここで孤立するのはまずい――
「くそっ、仕方がないねッ! 嬢ちゃん、あたしの背に掴まりな!」
 見かねた女傭兵がしゃがみ、ハリューに背を向ける。
「え、えええ?」
「ほら、早くするんだよ!」
 困惑するハリューを女傭兵が急かす。急いで走れば、まだ先に行った傭兵達に合流できるはずだった。
「――わ、わかりました」
 ハリューがおずおずと女傭兵の背に掴まる。
 背に人のおぶさる感触を受けて、女傭兵は立ち上がった。立ち上がる瞬間、ハリューは体勢を崩しそうになって、女傭兵の首元に縋りつく。
「よし、それでいい。しっかり掴まってるんだよ!」
「はい‥‥っ」
 女傭兵はハリューを背に負って走り出す。先程の珊瑚キメラが今まさに他の通路を塞いでいる可能性がある。脱出を急がなければならない。
 生きて帰るためにも――

●参加者一覧

須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
紅月・焔(gb1386
27歳・♂・ER
流叶・デュノフガリオ(gb6275
17歳・♀・PN
美空・桃2(gb9509
11歳・♀・ER
ラナ・ヴェクサー(gc1748
19歳・♀・PN
エシック・ランカスター(gc4778
27歳・♂・AA

●リプレイ本文

●下層入り口付近
「撤退支援隊から友軍へ、こちらは合流予定地点に到着しました。なんとかここまで辿りついて下さい」
 エシック・ランカスター(gc4778)が友軍と無線で連絡を取る。
「早く脱出したい所だが‥‥面倒な事に成ったものだ」
 流叶・デュノフガリオ(gb6275)が友軍からの無線の内容に顔を顰めていた。
 撤退する最後の友軍。先程、おそらくは最奥から引き揚げてくる友軍の一団から連絡が入っていた。それによれば、友軍の脱出が多少遅れているらしかった。
 遅れているからと言って、友軍を置いて脱出するわけにはいかない。
 流叶は息をひとつ吐く。
「‥‥まだ戦える私たちが気張るしか無いだろう、ね」
 そして、それならば――
 友軍が来るはずの通路の奥を向いていたエシックは背後、下層からの脱出口のある方を見る。
「先にあれを破壊して道を開けておきましょう」
 視線の先には、桃色の壁がある。通路を塞ぐ、巨大な珊瑚の壁が――。

●合流
 撤退支援隊が一つ目の珊瑚の壁を破壊しにかかった時、後方の通路から終夜・無月(ga3084)が白銀の髪に機械光を反射させて駆けつける。瞬天速で加速しながら壁に迫る彼は、白銀の髪が映した光の煌きのみを人の瞳に留め、さながら一筋の流れる光の様だった。
 瞬天速の勢いのまま、無月が大刀の明鏡止水を壁を横薙ぎに三度薙ぎ払えば、壁は崩れ去る。
「プラントの次は是ですか‥‥」
 無月が壁を破壊して一息吐いた。無月はプラント破壊任務の後、友軍と同じルートを撤退してきていたらしい。
「無線は聞きました‥‥」
 無月が破壊し残骸となった壁を後ろに、皆の方に向き直り、語る。
「皆を脱出させませんとね‥‥俺も共に行きますよ‥‥」

 一つ目の珊瑚の壁を無月が破壊した後、その通路の先には、また珊瑚の壁があった。友軍が合流地点のすぐそこにまで来ていると連絡を受け、壁の破壊及び敵勢力が居た場合の殲滅を含めた班と、合流予定地点にて友軍との合流・護衛を目的とした班に分かれる。
 壁の破壊に先行した班――流叶、エシック、紅月・焔(gb1386)の三人が二つ目の珊瑚の壁を砕き、他通路からの合流地点となっていたやや広い場所に出た。壁を出てすぐ、付近に居たずんぐりむっくりの半魚人みたいな人鳥キメラ達が三人に気づき、ぎょろりとした目を向ける。
「いつのまにかキメラがかなり増えていますね」
 エシックがざっとキメラの数を数えた。数は六匹以上。上層から降りてきた時には居なかったはずだが、別通路から湧いて出たようだった。
(これは、無月さんへの援軍要請が必要かもしれませんね)
 と、エシックが思いかけたその時、
『――エシックさん、友軍と予定地点で合流いたしました』
 ラナ・ヴェクサー(gc1748)から無線で連絡が来る。
 周囲に集まり始めた人鳥キメラに注意を払いながら、エシックは無線機を手に取った。
「無月さん。脱出ルート上のキメラの数が予想より多いです。こちらへ回ってもらえますか?」
 エシックは無線で無月に伝言すると、無線機をしまい竜斬斧『ベオウルフ』の柄を両手で握った。紅月が機械剣の柄を強く握りしめレーザーブレードを形成し、味方の前列に進み出る。
「奴ら来るね」
 後方で流叶は、前に出張るエシックと紅月を支援できる位置にてアラスカとクロッカスを構える。
 キメラ達は獲物を見つけ、早々と突撃の姿勢をこちらに向けていた。
 ――人鳥キメラが襲い来る。

 一方、友軍と合流していた護衛班の無月は、エシックの援軍要請を無線で聞きながら、ハリューの傷に一度目の練成治療をかけ終えるところだった。しかし、ハリューの傷は深く、一度の練成治療では治りきらない。だが、幾分その顔が穏やかになるのを見て、無月は治療をそこで断念する。
「後でね‥‥」
 援軍要請があったということは、先行した班の情勢が不利という事なのだろう。無月は明鏡止水の柄に手をかけ、臨戦態勢を取りながら駆け出す。友軍に紛れた一般人達に駆ける無月の姿を見る事叶わず、白銀の光が瞬き去っていくのだけを見た。
 後に残された護衛班が友軍を先導するも、ここまでも命からがらで逃げ延びてきた民間人達に疲労の色は濃く、その足は遅れがちになっていた。
「‥‥まだ走るの‥‥もう駄目、走れない‥‥」
「もう嫌だ‥‥本当に逃げだせるのか‥‥?」
 その口々から弱音が零れる。
「諦めるんじゃねぇ!」
 須佐 武流(ga1461)が声を上げる。その声に、何人かが振り向く。
「お前らを助けるために命を賭けてるやつらがいるんだ! それを忘れるんじゃねぇ!」
 その言葉は、武流達自身の事でもあり、今なお続く竜宮城外部での戦いにその身を投じる傭兵達の事でもある。ここで諦め、その命を不意にすると言う事は、戦い続ける者達の賭けた命をも不意にすると言う事になる。
「美空達が絶対絶対守るのであります」
 美空・桃2(gb9509)が武流に続けて、皆を励ますように約束する。二人に励まされ、発破をかけられ、その足取りは僅かに早いものになった。
 そして、友軍の先頭が通路をいくらか進んだ時、前方で珊瑚の壁が急速に再生していく。
「ちぃ、治んの早いってレベルじゃねぇぞ!!」
 ヒューイ・焔(ga8434)が悪態をつくのと同時、友軍の後方からも悲鳴が上がる。
 飛魚のキメラが友軍を追いかけて、大量に現れていた。
「ここは俺に任せろ!」
 武流が叫び、美空、ラナと同様に殿に回り、後方のキメラと対峙する。
 それを確認しつつ、ヒューイは前方に立ち塞がった珊瑚の壁の前にカミツレを握り立った。
「さぁて、あいつらが頑張ってくれてるんだ。こんなもんとっととぶち壊してこんな所からオサラバしようぜ」
 ヒューイが先程、再生したばかりの珊瑚の壁を破壊しにかかる。

●飛魚襲来
「ここから先は絶対安全領域‥‥鱗一枚とて進ませない‥‥!」
 ラナはスブロフの酒瓶の口を斬り、後方、飛魚キメラの直進上へと撒いた。
 タイミングを見計らってジッポライターに火を付け、撒いたスブロフの上に投げる。
 低空飛行していた飛魚キメラの前に瞬間的に炎の壁が燃え上がり、飛魚キメラ達は炎の壁を抜けるまで目標を見失った。それと同時に、ラナと美空が射撃を行い、突撃の勢いを削ぎつつ飛魚キメラの数を減らす。
 目標を一時見失った飛魚キメラ達は壁を抜けた後、狙いを修正しようとするが、速度の乗った状態では難しい。結果として、飛魚キメラ達の最初の突撃は友軍から外れた。
 飛魚キメラが狙いを外した隙をついて、ラナが一匹をアーミーナイフで串刺し、諸共に床へと振り下ろす。縫い止めた敵をイオフィエルで引き裂き、次の目標へと走った。
 さらにもう一匹、アーミーナイフで突き刺すが、残った飛魚キメラ達は友軍へと狙いを再度定め、突撃し始める。
「時間稼ぎさえ出来れば‥‥!」
 引き裂く前に放置し、ラナは瞬天速で友軍に向かっていた飛魚キメラの前に飛び出し、その身を盾とする。飛魚キメラの突撃を身体で止めながら、視界の端に先程アーミーナイフで縫い止めた敵の姿を見た。飛魚キメラの様子に歯噛みする。
「キメラという生物は厄介なものですね‥‥!」
 飛魚キメラは、エミタからのエネルギー付与の無くなったアーミーナイフを胸ビレで叩き折り、不安定に揺れながらも突撃態勢を取り直していた。
 ――次に刺し留めたら、確実に息の根を止めましょう。
 ラナがアーミーナイフを握り直した。
 ラナが身体で飛魚キメラの突撃を止めたの同様、後方に居た美空も飛魚キメラの友軍への突撃を盾で受け止めるが、数匹で連携するように突撃してくる飛魚キメラの波状攻撃に体勢を崩される。僅かに覗いた隙間から飛魚キメラが飛び込んで美空の腕を切り裂き、美空は痛みに微かな声を上げた。
『美空さん、大丈夫ですか』
 無線機からエシックの心配そうな声が聞こえる。無線機が先程の美空の声を拾っていたらしい。
「大丈夫なのです。後ろは任せてエシックさんは前に集中してほしいのです」
 美空は盾を構えなおし、飛魚キメラを一匹ずつエネルギーガンで撃ち落としていく。
 美空と反対側では、武流が宙に浮いた敵に対し飛び蹴り、飛魚キメラを蹴った反動を利用して身体を捻り、後ろ回し蹴りの要領でさらに一匹の飛魚キメラを蹴り払う。
 三人が飛魚キメラを抑えている間にも、ヒューイによって破壊された珊瑚の壁の残骸を友軍は乗り越え次々に進んでいく。
 それに伴い、飛魚に対応していた班員も防衛ラインを下げていく。美空は珊瑚の壁を越えた所で、陣取り壁の向こう側に押し留めるようにエネルギーガンで牽制する。しばらくすると、珊瑚の壁が押し迫り、通路を塞ごうとし始めた。
 最後まで壁の向こう側に残り、奴らと戦っていたラナが、限界突破で加速し、通路が閉じる前に壁の中を走り抜ける。ラナが抜けた後、壁が閉じ終わる。
 後続に迫っていた飛魚キメラのほとんどが壁の向こう側に締め出されることになった。

●魚に似た人鳥
 エシックが人鳥キメラの突撃から立ち上がり、斧で薙ぎ払う。薙ぎ払われた人鳥キメラが後続の人鳥キメラとぶつかり、止まる。横へ避けようとした人鳥キメラ達は、流叶がアラスカで牽制射撃を加えて押し留める。
 紅月の深紅の髪が玩具のガスマスクの合間から淡く輝く。最前列に立った紅月が固まっている人鳥キメラを正面にして機械剣で切り裂いていく。
 だが、数が多い。紅月の死角から、さらに追加で人鳥キメラが襲い掛かる。必中のタイミング。しかし、そのタイミングに幸運は訪れる。
「援軍に来ました‥‥」
 声と共に、無月が後方から瞬天速で人鳥キメラへと一気に距離を詰めた。紅月に人鳥キメラの嘴が届く前に、無月が明鏡止水で人鳥キメラを叩き潰す。
 援護するように流叶が撃った弾丸に人鳥キメラは悲鳴を上げ逃れようとする。だが、そこに無月は明鏡止水で鋭い追撃を加え、これを絶命させた。

 ――無月の合流により、人鳥キメラ達は、別通路へと次第に押し戻され、次の珊瑚の壁への道が開かれていく。道が開ききった所で、エシックは二つ目の珊瑚の壁を破壊するように友軍の方に連絡し、友軍にできた道を走らせる。別通路の奥からはさらに多くの人鳥キメラ達が合流しようとしているので、長くは支えられそうにない。
 ラナが別通路で人鳥キメラを抑える四人の加勢に加わり、ヒューイが友軍の先頭を走り、武流が右前方で近づくキメラを薙ぎ払い、美空が左後方で追い縋るキメラを食い止める。
 だが、それでも人鳥キメラは防衛網を掻い潜り、友軍に迫る。流叶が防衛ラインを抜けた人鳥キメラの後方から迅雷で追いつき、床を滑る様に突撃する人鳥キメラに飛び乗ると、鱗の隙間に銃口を当て、アラスカをぶっ放した。
 さらに前方からも人鳥キメラが友軍へ突撃をかける。これには友軍の先頭を走っていたヒューイが身を挺して庇った。
「邪魔すんな!!!!」
 ヒューイが人鳥キメラを受け止め、友軍への進路から受け流すように退ける。ズレた人鳥キメラに対し、ヒューイは剣劇による四連続の斬撃を放つ。
 しかし、ヒューイが人鳥キメラの相手をしている間に、友軍の先頭が壁の前に到達してしまう。友軍に護衛として張り付いていた傭兵の一人が壁を斬りつけるが無駄だ。
「どけ! 俺がやる!」
 武流が前に進み出てくる。スコルの二連続回し蹴りで壁を削り、削った溝からさらに奥へとミスティックTを突っ込み、壁に電撃を走らせる。
「仕上げだ!」
 グラスホッパーへと武装を切り替え、空中に飛び上がり真燕貫突を脚甲に付与、桃色の壁は中央を貫かれるように連続の飛び蹴りを受けた。電撃を受け、脆くなっていた周囲からぼろぼろと崩れ落ち、人が通りぬけられるだけの道が出来上がる。
「よし、あと少しだ‥‥急げ!」
 傭兵達が身を持って人鳥キメラ達を抑えている間に、友軍は破壊された三つ目の珊瑚の壁を乗り越えていく。
 それに伴い、人鳥キメラを抑えていた五人は徐々に後退していく。最後になったヒューイが逃げてくるのを、流叶がアラスカで牽制しつつ、人鳥キメラのエリアから後退する。
 ヒューイは迫りくる人鳥キメラを振り払って逃げ、塞がりつつあった珊瑚の壁に飛び込む。閉じかけた珊瑚の壁の隙間を、瞬天速を使用して駆け抜けた。
「ふぅ、あぶねぇ」
 つき過ぎた勢いを床で滑りながら殺し、ヒューイは安堵の吐息を洩らす。

●四つ目の向こう
 珊瑚の壁を抜け、ヒューイは剣に付いた汚れを払って一息吐くと、銀の刺繍が施された鞘にカミツレを収めた。
 一時の安全を確保して、弛緩した空気の中、武流は未だ覚醒を解かず、金のオーラを纏っていた。友軍達の中を抜け、上層への出口へと向かっていく。
「俺はまだ、最後の仕上げが残ってる‥‥先に行く!」
 一度振り返り宣言してから、武流は城外で続く戦闘に加勢するため駆け出した。
 友軍の中の民間人達は、キメラに直接襲われることはなかったものの、恐怖に急かされ転んだり、攫われた時に負傷した傷がそのままであったりと、あちこち怪我をしていた。
 安全圏で一息つけば、極度の緊張が解けるのと同時にその怪我が認識されて痛みだす。
 安全圏に辿り着いてから、流叶は怪我の酷い一人の男を治療していた。
「私は軍人だ‥‥足手まといになるなら、治さず放って脱出してくれればいい」
 男はそう言う。だが、流叶はそれでも、その男を治した。
「‥‥奇麗事かも知れないけれど、皆で帰りたい、からね」
 流叶が男を治療し終えても、まだ負傷したものは多い。その怪我の程度に応じて、美空が拡大練成治療で治療したり、ラナが救急セットで治療したりと手分けしていた。
「もう大丈夫‥‥」
 無月の練成治療によって、ハリューの怪我は治り、何とか一人でも歩けるようになった。
「あの、ありがとうございます」
 自分の足で立ったハリューがぺこりとお辞儀をする。
 怪我の治療を終え、準備を整えれば、次に待つのは竜宮城上層部だ。
「もう少しであります。もう少しで出口なのです。だから希望を捨てないで頑張ってくださいなのです」
 キメラにも襲われ、目の前にまで迫った恐怖を思い出し俯く人達を美空は励まして回る。美空自身、不安はあった。しかし、その不安をおくびにも出さず、美空は勤めて明るい笑顔で話しかけ、人々を励ましていく。励まされた人達は、折れそうになる心を多少なりとも救われていった。
「‥‥こんな所で、人生を終えるわけにはいきません‥‥急ぎましょう」
 美空と同様に、ラナも声をかけ、皆を先導する。
「撤退支援隊からUK3へ、民間人を救出した部隊と合流し、竜宮城の下層から総員撤退完了。民間人、傭兵共に重傷者は無し。これより上層部を突破します」
 エシックからUK3への連絡が二回繰り返された。
 後はこの上層を突破すれば、脱出できる。脱出した先は戦場なれど、そこは、希望へと続く道だ。