タイトル:【MO】拘束具を殲滅せよマスター:楠原 日野

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/05/21 05:53

●オープニング本文


●カーペンタリア・カルンバ港海上
 バグアの防衛網を全て蹴散らし、ミル一向と物資を載せたバラ積み貨物船はカルンバ港に停泊していた。
 不気味なほど静かすぎる港。
 本来なら人があふれているはずだが、バグア勢力下にあったここでは、そのような光景が望めるはずもなかった。
 しかし、それにしても不思議なのである。
「‥‥バグアはここを守っていた、わけじゃないのかねぇ」
 煙草の灰を海に投げ捨てるグレイ。
「チェリオ!」
 謎の掛け声とともに、ミルの手刀がグレイの脇腹に突き刺さる。
「海を汚すんじゃない。反対側ではあるが、グレートバリアリーフが近いんだぞ」
 油断、というよりはミルの攻撃がダメージになるとは思っていなかったグレイが、脇腹を押さえてうずくまる。
「ここを守っていたのも、事実だろう。玄関の手前の番犬といったところさ――ボマー、仕掛けは感じるか?」
「ないっすねー。爆発物の気配も感じないし、トラップを仕掛けているであろう気配も感じないっす」
 ナイムネ同盟の一員のボマーが双眼鏡で周囲を探る。
「シスター?」
「距離500以内には人間の気配はないわ」
 アサルトライフルのスコープで周囲を覗き込んでいるシスターが、照準から目を離して肩に担ぐ。
「で、お嬢。さっきのHWが番犬という事は、ここには家主がいるって事じゃないんですかね?」
「言っただろ、ここは玄関だって。つまりはさらにこの奥にいるわけだ」
 広い幅の上流を指さす。
「ここは船で結構上まで行けるのでね。そこまで一気に運んでいるのだろう‥‥ま、我々が行くには危険すぎる道だから、玄関を押さえる程度だ」
「船で運ぶって‥‥バグアがかい」
 脇腹を押さえていたグレイが顔を上げて、ミルを下から眺める。
「バグアに、だな。ここでは食料自給率がほぼ0になってしまってるはずで、外部から輸入していると私は推測しているわけだよ」
「はって、ここの地域の貿易といったら‥‥」
 ボマーが首をかしげ、床に座り込んで思い出すポーズ。
「ネマ・エージィー‥‥あの女狐さ」

●カルンバ市街
 とにかく、市街地を拠点として使えるか探ってきてくれ――。
「軽くいってくれるけど、キメラや強化人間いたら、俺等じゃケツまくるのもシビアだって、わかってんのかねぇ」
「仕事仕事。しかたないですって、俺等お嬢好きだから、逆らえませんって」
 廃墟と化した市街を歩きながら、グレイとスカーが銃を携え警戒しながらも陽気に話している。その少し後ろをボマーがおっかなびっくりに歩いていて、少々の物音に過敏に反応していた。
 その様子をスカーが察知し、努めて明るく笑ってみせる。
「キメラが出ても俺等なら逃げるくらいはできるでしょ」
「‥‥でも逃げるしかできないっすよ? 囲まれたら終わりじゃないっすか」
 ぴっとりとくっついて歩くボマーの頭を、乱暴に撫でるスカー。
「そん時に生き延びる手段を考えるのが、俺等っしょ。
 ‥‥にしても、ネマさんか。俺、あんまあの人にいいイメージないんですよね。お嬢も嫌ってるし」
「そりゃ、おめー、悪女ランキング単独首位独占中の女狐だ。いいイメージ持ってるやつなんざ、マスコミの話を信じてる一般市民くらいだろぉよ」
 我慢できなくなったのか、立ち止まって煙草を取り出す。
「確か、食糧とかの貿易中心でオーストラリアの輸入輸出はほぼ仕切ってるんすよね。で、問題は輸出先の多くは主要国家となってるけど、実際は戦地への出荷、しかもかなり足元を見てるとか」
「そうそう。まあ、お嬢が嫌ってるのはそこじゃないだろうけど」
 スカーの言葉に、満足げに紫煙を吐き出したグレイがくっくと笑う。
「性根はともかく、見た目はいろっぺー美人だもんなぁ。背も高くて艶っぽく、胸もデカくて色気ムンムンってなぁ。お嬢と反対だぜ」
 ネマとミルを思い浮かべ、ぶふっとスカーもたまらずに吹き出す。
 上司にして同士を笑われたボマーが抗議するように、銃尻で脇腹を小突いている。さすがにたまらなくなってきたのか、スカーは前方へ走って逃げた。
「昔は部下だった殲滅姉妹とあわせて、3人美凶女とか呼ばれていたっけなぁ。ナイフやシスターをお嬢が引き抜いたから、やっこさん、お嬢を嫌うようになったんだよねぇ」
「へー、昔はシスターやナイフはあっちにいたんすか」
「おお。暴力教会から買い取って手駒にしてたんだぜ。そういう人材発掘能力や、貿易能力に関しては、さすがとしか言えねーくらいには、優秀な女狐だねぇ」
 一本吸いきってしまい、地面に煙草を投げ捨てる。
 スカーが口を開き、その煙草が地面に着くその刹那――スカーの身体に、白くて長い腕と呼ぶべきものが絡みついた。
「んなろ!」
 ガガガガガと、その腕に弾を叩きこむが、多少の傷はつくものの、ほとんどがFFで無効化されていた。
 その銃撃を皮切りに、そこかしこから白い人間――いや、人の形はしているが顔もなく、全身がのっぺりとした白い生物が姿を現す。
「振りほどけねーか、スカー!」
 周囲に弾幕を張り、後退するしかないグレイとボマー。スカーとの距離はどんどん離れていく。
「無理! 仕方ないから、行ってお嬢に報告してください、2人とも!」
 もがいているが、人の力ではどうすることもできないようで、倒されるスカー。その周囲に白い人型は群がり、スカーを――ただ押さえているだけのようである。
「んー? やつら、殺傷能力はないってことかぁ? それならさっさと戻って救出しに来てもらった方が、生存率高そうだな」
「スカー置いていくんすか!」
 ゴンッ
 ボマーの顔にグレイの拳が飛ぶ。
 そして鼻血を出しているボマーの胸ぐらをつかみ、無理やり走らせる。
「ここで問答すればするほど、あいつの生存率下がるってわかんないかねー? どうやらあの人型、押さえつけるだけみたいだから、今すぐ死ぬってこたぁねぇんだよ。
 ――もっとも、何時間もあんな拘束されりゃいずれ死ぬがな」
「つまり、すぐにあっちの傭兵に助けてもらえば、助かるんすね」
「そういうこった」
 鼻血をぬぐうと、グレイの手を振りほどき、武器を捨てて全力でボマーが駆け出す。
「おーおー、若いねぇ‥‥」

●バラ積み貨物船・甲板
「ふむ、ご苦労だったね。ボマー」
 息を切らせたボマーが、起きた事を事細かに伝える。実のところ、グレイが無線で伝えてくれていたのだが、そこは黙っている事にした。
「玄関と言えど、鍵はかけていないというわけだな。聞いたところ、押さえつけるだけでそれ以上の事もなく、絞め殺される心配もなし。だが数が半端なく多かったと」
「そうっす」
 飴玉を口に放り込み、あごに手をあてて思案する。
「つまりは単純な作りにして生産性を向上した、動く拘束具といったところか。救出だけでなく、ほぼ殲滅してもらわんと、ちょっと厄介か‥‥よし、連絡いれろ! 拘束具を殲滅せよとな!」

●参加者一覧

錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
香坂・光(ga8414
14歳・♀・DF
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
最上 憐 (gb0002
10歳・♀・PN
御守 剣清(gb6210
27歳・♂・PN
エリーゼ・アレクシア(gc8446
14歳・♀・PN

●リプレイ本文

●カーペンタリア湾・カルンバ港海上
「ま〜た趣味の悪いモンつくりましたねぇ‥‥」
 御守 剣清(gb6210)が船の上から港を覗き込みながらつぶやく。
 こちらに懸命に腕を伸ばしている白い人型拘束キメラ、呼称『拘束具』――しかし船はほんの少し離れて停泊し、高さもあって彼らの腕は剣清達のところまでは届かない。
「どうやら射程はあそこまでのようだな」
 観察し、動作や腕の速度、射程などを見定めている時枝・悠(ga8810)。
 港にはボマーや、ボマーの後に逃げ帰ってきたグレイを追ってきた拘束具で一杯である。動きは緩慢なので随分引き離したにもかかわらず、彼らはこうしてここに集まってきてしまった。
「一度目標を確認したら、どこまでも追ってくる。だが海にまでは落ちない程度に知能はあるか。単純だが厄介な道具だな、面倒くさい」
「それにしてもなんでこんな拘束オンリーのキメラだけ一杯? 普通は他のキメラと連携とか必要なんじゃないかなっ‥‥いや、して欲しくないけど」
「それは生け捕り目的だからではないかね、同士? 正しくは拘束されても生きている人間を捕獲したい、そんなところか」
 香坂・光(ga8414)の疑問に、背後からミル・バーウェン(gz0475)が、自分の推測を話す。
「聞いた限り、ここには強化人間の生産プラントがあるらしいし、材料は活きが良くて豊富なほうがいいんだろ。死んでも、バグアが人間を惜しいなどとは思わんだろうし」
 鋭い目つきで市街地に目を向けるミル。
「スカーさんを絶対に助けます! スカーさん、どうか無事でいてください!」
 市街地に向けてエリーゼ・アレクシア(gc8446)が熱く誓っていた。以前、妊婦を助けれなかった事を気に病んでいたのである。
「とりあえず仕事だ。さっっさと片付けて、貰うもの貰って帰って寝よう」
 エリーゼが熱くなる一方で、悠はどんどん冷めていく。
 だが、エリーゼとは別の熱気を帯びている者もいた。最上 憐(gb0002)である。
「‥‥ん。スカーを助けて。恩を売って。後で。奢ってもらう。食べ放題」
 キラーンどころか、ビカーな感じの憐の視線を感じ、ミルがぶるりと身を震わせる。
「くっくっく、儲けなどなくなってしまうのではないかね?」
 市街地の地図を広げ、グレイやボマーから地理状況などを事細かに聞いていた錦織・長郎(ga8268)がいつの間にかミルの背後に立っていた。
「豪州の荒れ具合は酷いもので、復興に時間がかかるとみているがね。どうせそこで儲けようという魂胆なのだろう?」
「さてね。何の事だか」
 しれっと肩をすくめると、背後の長郎も肩をすくめる。
「だが、こんなになろうとも上前を撥ねる売国商人がいるのは、困ったものだね」
「‥‥ネマはそんな奴でもなかったはずだがね」
 ぼそりと呟き、ミルは爪を噛む。
「さて、諸君。準備はできたみたいだな? それではよろしく頼むよ」
「お任せください! とう!」
 気が急いているのか、エリーゼが皆を待たずに拘束具の待つ地上へと飛び立つ。普通の人間なら躊躇する高さではあるが、さすがは能力者といったところか。
「熱くなりすぎだ」
 悠がオルタナティブMでエリーゼの着地地点にいる拘束具をぶち抜き、追いかけて飛ぶ。
「俺も行きます」
 続いて剣清が降り立ち、手近な1匹の伸びてきた腕を切り払い、その胴体――人間でいえば心臓に位置する部分を、両断する。
 両断された拘束具は、風船が弾けるように血をまき散らせ、腕と足を残し破裂して微塵と化す。
「腕を斬っても意味はないみたいですが、どうやら血の詰まった風船のようなもののですね」
「くっくっく、風船とは的を射た表現だね」
 目立たぬように地上に降りていた長郎の真デヴァステスターの弾が3匹の頭部に当たると、当たっただけで3匹とも破裂し、血をまき散らせる。
「拘束の仕方によっては絵面的に危険になりそうなキメラはさっさと消えろ、なのだー♪ あたしはそっちは趣味じゃないのだ♪」
 光が楽しそうにデヴァステイターを連射し、拘束具どもを次々に破裂させていく。
「‥‥ん。道を。拓くの」
 ハーメルンを振りかぶり進行方向の拘束具をまとめて薙ぎ払い、瞬天速で一気に駆け抜ける。
 そこへ続けと言わんばかりにエリーゼ、剣清が続き、悠と光が進行方向の邪魔な拘束具を撃ちぬきながら後をついていく。
 そして長郎が後ろから腕を伸ばしてこようとする拘束具を弾を相手にしながら、5人を追いかける。
 港を抜け、市街地の道路に出ると、脇道などに注意しつつ道の中央を駆け抜ける。
 悠と光が前を行き、進行の邪魔になると判断すれば光がデヴァステイターを撃ちながら前に出て、引き付けると、機械剣βで腕を、胴体を薙ぎ払い、時には弾き飛ばすように蹴って距離を広げる。
 そこを悠のオルタナティブMが炸裂し、次々と破裂していく拘束具達。
「褌の力を借りて‥‥必殺0距離射撃♪ なんちゃって♪」
「いつも通りの役目。適材適所だ、多分」
 処理する横を4人が通り抜け、全員が抜けたのを確認すると悠も光も、残りを無視し、ただ全速力で走る。
「ここをまっすぐなら最短距離だが、脇道はの多くが袋小路のために恐らくはかなり集まってくるだろう」
 地理を把握していた長郎がリロードしながら皆に警告する。
「それなら、とにかくまずは全速力でいかないと、かな♪ 派手に暴れて相手を惹きつけないとね♪」
 光がさらに加速して突撃する。
「建物も壊して良いって話だし、遠慮なくいかせてもらおう」
 紅炎を抜き放ち、光を追って行く悠。
「我々が囮になろう。迂回するがいいさ」
 ニタリと蛇のような笑みを浮かべ、長郎も続く。
「なら建物利用しましょうか」
 剣清の提案に、憐が大鎌で指し示す。
「‥‥ん。あそこから。行けるかも」
 半壊し、隣の建物によしかかる形の廃墟――それで理解した剣清とエリーゼが頷く。
「急ぎましょう!」
 エリーゼが2人よりもかなり先を行く。
「急ぎすぎですよ、エリーゼさん」
「‥‥ん。足並み。揃えないと。拘束。されちゃうよ?」
 瞬間的に瞬天速と迅雷で急ぎすぎるエリーゼの横まで移動し、併走する。当のエリーゼは少し反省したのか、若干速度を落とし、2人の後をついていくのであった――。

 長郎の脚に絡みついている腕を斬り落とし、本体を撃ちぬく。
 そして飛び交う腕を斬り落としつつも、前に出る。
「流石に洋服パージじゃ拘束から逃げられなさそうだし、拘束されるのはごめんだよ!」
 拘束具共の血にまみれながらも常に敵陣に飛び込み、囲まれないように動きまわりまがら派手に暴れる光――だが、あまりにも多勢であるため、背後から伸びてきた腕に首を巻き取られる。
「させたりしないがね」
 光を捕縛した拘束具の本体を蹴りつけ、発砲。
 本体のいなくなった腕からは力が抜け、光はそれを振りほどき長郎と背中を合わせる。
「助かったのだ」
「いやなに、お互い様だね」
 眼鏡を直し、囲む拘束具の様子を注意深く窺っている長郎‥‥と、悠が建物の側で紅炎を構えているのが見えた。
「少し、お前らが拘束されろ」
 周囲の拘束具が腕を伸ばしてくる前に、全力で紅炎を地面に叩きつけ、十字の衝撃波が多数の拘束具とビルの土台を吹き飛ばす!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――。
 傾いたビルが3人と集まった拘束具の方に向かって、崩れ落ちてくる。
 先に危険を察知していた長郎と光は全力でその場を離れ、悠も最短距離で離脱していた。
 崩れるビル。巻き込まれ押し潰されていく拘束具達――静かになったころには、あれほどいた拘束具達もわずかに残ったばかりであった。
 無論、瓦礫の下敷きになって死ななかったモノもいるだろうが、彼らの知能では瓦礫から抜け出す事はできないであろう。
「‥‥まったく、数ばかりいて面倒だ」

「無茶してますねぇ」
 建物の中を駆け抜け、再び道路に出てみるとビルが崩壊していく。その様を見て剣清が呟く。
「‥‥ん。でも。まだまだ。無茶は。続く」
 大鎌で横の道から伸びてきた腕を斬り落とすと、エリーゼがその本体を鴉羽で切り裂く。白銀の髪と白い肌が赤く染まることもいとわない。
 その場に留まり、2人が来るまで腕を斬り落とし続けるエリーゼ。だいぶ集まっていて、飛んでくる腕の数も多かったが、その遥か後ろではあるが、1か所に群がっている拘束具を見つけてしまっては引くわけにはいかない。
「スカーさん発見しました!」
 そう言いながら一歩も前に進めずに焦れている。そこに剣清と憐が追いつき、腕の切り落としに参加する。
 数こそ今迄からすれば少ない方だが、大通りより少し狭い道なせいで、とてもじゃないが簡単に突破はできそうにない。
「ちょいと相手してきます。先に行っててください」
「ん‥‥任せた」
「頼みました、剣清さん」
 剣清は腕をかいくぐりながら斜めに前に出ると、腕の軌道が剣清に変わり、その隙をついてエリーゼと憐が瞬天速で一気に駆け抜ける。
 伸びきった腕を身を低くしながらまとめて叩き斬り、足を切り落とすと横並びの拘束具を蹴りつけまとめて吹き飛ばす。
 蹴った体勢のまま、体を反転させながら刀の届く範囲にいる拘束具共を軽く切先で突いて、次々と破裂させていく。力一杯斬りつける必要はないと、すでに学習済みだ。
 蹴り足が地面に着くと、再び地面を蹴って強く地面を踏みこみ、今度は力任せに横一閃。刀の軌道にいる拘束具共がまとめて両断され、剣清の体を赤く染める。
 ――と、その剣清の足に腕が巻き付き、バランスを崩しえしまう。足を切り落として蹴っただけの拘束具が、地面に這ったまま腕を伸ばしてきたのだ。
 危険を察知した剣清が、ペンのようなものを取り出す――と同時に体に腕がまとわりついてきた。
 拘束されたままペンを押し当てると、電磁波が発生する。剣清も少々痺れたが、腕が締め付けてこなくなった。
「窮屈なのは嫌なんだ」
 緩んだ腕を強引に振りほどき、迅雷で駆け抜けてエリーゼ達の後を追いかける剣清であった。

 スカーがいるであろうポイントについた2人。憐がエリーゼの前を大鎌でふさぐ。
「‥‥ん。スカーの。救出。頼んだよ」
 エリーゼの足を止めて、憐は前に出てうろついている拘束具の注意を惹きつける。
 飛来する腕を大鎌の柄で受け止め、無理やりスカーから引き離し、その隙にエリーゼがスカーにまとわりついている拘束具を引き離しにかかる。
「今、助けます!」
 だいぶ中心より外にいる拘束具は鴉羽でまとめて斬り払い、大部分を破裂させる。
 体中に腕がまとわりついているスカーの形をした中心を確認すると、鴉羽を納刀し、アサシンダガーで慎重にスカーをがっちりと抱きかかえている拘束具に突き立てて破裂させていく。
 本体がすべて破裂し、複雑に絡み合った腕を丁寧に少しずつ切り刻んでいく。
 そこへ剣清が駆けつけると、腕の振りほどきに苦戦しているエリーゼを見て、下がらせる。
 納刀状態から、抜刀一閃――大量の腕が両断され――顔の前で腕を交差したままのスカーの姿がやっと確認できた。駆け寄るエリーゼ。
「大丈夫ですか、スカーさん!」
「‥‥お嬢ちゃん、かわいいね‥‥」
 弱々しくも軽口を叩くスカーに、エリーゼはほっと胸をなでおろし、剣清ともども残った腕を刻んで引き離す。
「お怪我はありますか?」
「いや‥‥怪我は擦り剥いた位――とっさに腕を交差させて呼吸できるようにしたけど、呼吸すんのも、ずっとしんどくて‥‥」
 かなり衰弱しているのが見て取れた。汗もかなりかいていて、どう見ても動けそうにない。
「俺が背負いますんで、エリーゼさん、露払いお願いできますか?」
「任せてください!」
 鼻息を荒くし、意気込んでいるエリーゼに苦笑し、剣清はスカーを背負う。
「ちょ〜っと我慢してくださいね」
「‥‥背負われるなら、女の子のがいいけどね‥‥」
 こんな状態でも余裕を感じさせる彼にも苦笑しつつも、傭兵としては尊敬の念すら抱いた。
(これが戦場のプロってわけですか。俺ももっと努力しないと)
 そして2人は駆け出す――。

 大鎌に腕を巻きつかせたまま、前後左右足元とさまざまな方向、角度から迫りくる腕をかわし続けていた憐。時折頭上にも気を配り、周囲を確認する余裕すら見せる。
 その時、視界の端に2人が救出に成功した様を確認すると、全ての腕を大鎌に絡め取り、力任せに手繰り寄せると――残像を残し、拘束具に密着していた。
「‥‥ん。もう。帰るの」
 大鎌を大きく振り回し、一網打尽にすると、残った腕から鎌の柄を引き抜き、囮班に連絡を入れた。
「‥‥ん。スカー。救出。完了。かなり。衰弱。すぐに。戻ろう」
 すぐに悠の声が。
「了解した。大通りの敵は殲滅したから、まっすぐ向かってくれ。私は残りの殲滅にまわる」
「退路の確保は任せてくれ、だね」
「あたしも一緒に戻るのだー♪」
 長郎や光も無事のようである。
 そして憐も2人と合流し、船へと急ぐのであった――。

●バラ積み貨物船・甲板
 行きに比べ帰り道はかなりスムーズに船へとたどり着いた5人。エリーゼが盾になったりと、必死でスカーを守ったのも要因の一つだ。
「よく生きて――」
「スカー!」
 腕組みをして出迎えたミルを押しのけ、甲板に降ろされたスカーに飛びつくボマー。
「よかったっす、よかったっすよぉ‥‥」
 甲板に大の字になって横になったスカーの胸で泣きじゃくっている。
 空気を読んだ光、剣清、憐がそっと、殲滅するために市街地へと戻っていった。
 長郎と視線を合わせ、2人そろって苦笑しながら肩をすくめると、スカーの横に水のボトルを置いて、長郎とともにその場を離れた。
「で、君はここで何をするつもりなのかね?」
「ふむ。まずは拠点作りだよ。UPCの駐屯地にし、傭兵の斡旋所も作ってもらい、なるべく緊急に対処できるように整えたい」
 飴を取り出すと、長郎に差し出す――が、首を横に振ったため、自分の口に放り込む。
「あと通信設備を各地に設置し、情報網の強化。情報を集めつつ、女狐に一度会っておく。それくらいだよ」
「女狐、ね‥‥会ってどうするのかね?」
 彼は単純な興味本位で尋ねた。
「聞いているだろう? 東の人間はバグアによって食糧を配布されていることを。どう考えてもルートはあの女狐のラインだからね。それを聞くだけさ。
 もっとも玄関を一個押さえたからには、東にいる人間の食糧は減ってしまうだろうが――飼い殺しにされている人間の事など、私にはどうでもいいのだがね」
 大きく伸びをすると、船に備えてあった大型双眼鏡を覗き込んだミルが、首をかしげていた――。

 エリーゼはというと、ボマーが飛びついたあたりからすでに姿を消し、船室へと逃げ込んでいたのだ。
「よかった、よかったよぉ‥‥無事に救出できて‥‥」
 床にへたり込み、人前で泣くのが恥ずかしかったエリーゼが一人、静かに涙していた――。

『【MO】拘束具を殲滅せよ 終』