●リプレイ本文
●カルンバ
ミル・バーウェン(gz0475)の前にはUPC軍兵士、それと5人の傭兵が立っていた。
「うむ、よくぞこんな時間に集まってくれたね、皆の衆。人数が集まるか心配ではあったが、なんとか確保できた。協力に感謝する」
「悪の軍団の総帥としては困ってる女性がいたら見逃すわけにはいかないんだぞ、と‥‥悪なら見逃すべきだろうか」
アルト・ハーニー(
ga8228)が、首をかしげながら顎に手を当てて自問自答していた。
天堂 亜由子(
gc8936)がミルに向かって、深々と頭を下げる。否応なしにたわわな胸が揺れ、ミルの頬が少しだけひきつる。
「天堂 亜由子と申します。ミルさん、このたびはよろしくお願いします」
「‥‥ああ、よろしくお願いするよ、天堂」
そこに軍人にあいさつ回りをしてきたフェンダー(
gc6778)がひょっこりと割って入り、ミルや傭兵達に小さく会釈する。
「我はフェンダーなのじゃ。よろしく頼むのう」
そして天堂の胸をちらりと見て、くるりと頬をひきつらせたミルに向かい合うと、肩に手を置き、右拳をぐっと握りしめる。
「お互い、がんばろうぞっ」
ナイムネシンパシーを感じ取ったのか、ミルが涙を流してフェンダーに抱き着く。
「同士よ!」
「この世は不公平なのじゃ!」
号泣している2人の横で、カルンバ駐屯地部分以外の廃墟を眺めつつ、思慮に耽っている秦本 新(
gc3832)。
(オーストラリア侵攻、か。一刻も早く他の地域も解放出来れば良いですが‥‥)
ふうとため息をつき、自分の掌を見つめる。
(何にせよ、まずは勘を取り戻さなければ‥‥気合、入れて行きますかね)
「私は秦本 新。ハイドラグーンだ。よろしくだね」
愛機ミカエルをに手を添える新。
「私はAUKVで行かせてもらうけど、構わないかな?」
「うむ、移動手段等は問わないよ。設置さえ遂行してくれるならばね」
フェンダーから離れ、すっきりとした表情のミルが頷く。
「さて、これで全員かね?」
ミルの言葉に、おずおずと挙手するものがいた。ケビン=ルーデル(gz0471)である。
「あ、あの、ケビン=ルーデルです。よろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀をし、皆と向かい合わせになる。
「お可愛い方ですね」
フェンダーを褒めるケビン。
「照れるのう。我はおだてに弱いのじゃ」
長い髪をフリフリさせて、上機嫌になるフェンダー。
「そういうキャラなのか‥‥? 照れた自分が恥ずかしいね‥‥」
眉間に指をあてて、深々とため息をついた。
「さあ、自己紹介はこれくらいにしてだ。出発準備にかかりたまえ。
秦本は申請があったので75台用意した。申請のなかった他の者は、プランを読ませてもらった上でこちらで勝手に50台用意させてもらったので、よろしく頼むよ諸君」
●東
「まずは東に走り、川沿いにアドビンダウンズ東へ50キロ地点を目指すんだぞ、と」
一見するとやる気のなさそうな表情をしているが、その目は先の地面の状態を見据えていた。
「もう少し速度速めで、頼むんだぞ、と」
「これ以上出すと、キメラが寄ってくると報告を受けましたが‥‥」
「そのために俺がいるんだぞ、と」
運転手の胡散臭げな視線は、大きすぎるために屋根におかれた冗談のような武器、アルトの100tハンマーに注がれていた――が、あきらめて速度を上げる。
平地のダートを走りつつ、順当に20キロごとに通信車両を設置する。
川沿いの道路に出、さらに速度を上げさせようとして、はるか遠方から土煙がこちらに向けて突進してくるのが見えた。
手足の生えたバイクのような形をした、黒い生き物――それがスピードイーターであった。
それは横を通り過ぎ、反転して車両と横並びに走っている。
「運転ミスしないように、少し速度落して横につけてもらうんだぞ、と」
そこは軍人らしくキメラの姿に動揺せず運転手が言われた通りに速度を落とし、キメラの横に並ぶ。
「まったくハンマーで殴れないのが困ったところだぞ、と。とりあえず邪魔はしてもらいたくないな!」
埴輪型オーラを漂わせ、無表情のアルトがスコールでキメラを蹴散らす。
たった一度の発砲で15発ばら撒くとはいえ、その一撃でピクリとも動かなくなる。
「さて、時間内にどこまでいけるかな、と。なるべく設置していきたいが、無理してもいけないしな。こうやってキメラの邪魔もあるようだし」
再び速度を上げると、続々と土煙がやってくるのが見えた。
「もっと横に近づけるかな、と」
「いけます」
次々にやってくるキメラ。横並びに集まったところで、車両は一気に横へと接近する。
ガシっと、屋根の上の柄を手に取った。
「ふ、横に並んだらこっちのもんなんだぞ、と。そのまま吹っ飛んでいくがいいさ!」
100tハンマーを振るい、1匹、川へと吹き飛ばす。
そして次々と距離を詰めて吹き飛ばす。
「ハンマー最高!」
ハイテンションの運転手が、楽しそうに叫んでいた。
行程もスムーズに進んだ結果、予定通りに川沿いのアドビンダウンズから東50キロ‥‥おおよそ500キロ地点まで到着した。
だがその時点で予定の6時間まではまだ時間があった。しかし、すでに車両は半分。帰り道も設置するとなればすでに引き返すしか他ない。おまけに言えば、ずっと運転している兵も、だいぶ疲弊している。
「ふむ、とりあえずはこんなところかな、と。後はUターンで戻るだけだぞ、と。しかし、もうちょっと先まで行けたかねぇ」
空いた時間を休憩時間にしてからカルンバへと、設置しながら戻っていったアルトであった――。
●南
「さて、この大所帯‥‥上手く進めるかどうか」
ミカエルにまたがり、140キロ以上で飛ばして先行している新が独り言ちた。
その後方を追いかける車両も、かなりな速度である。
「昔はカンガルーなどがよく飛び出したと聞きますが‥‥今はさっぱりだ」
野生動物に注意を払うつもりでいたが、まるで姿を見せない今の状況に、オーストラリアの状態を実感する。
走行しながらも前方に窪みを発見し、貸し出してもらった携帯を取り出すと、車列の中間にいる兵に連絡を取った。
「前方に起伏あり。右方向に迂回をお願いします」
「了解。無線で全車両に通達します」
携帯であれば前の中継範囲内であれば、ほぼどこでも通話が可能ゆえに、新は携帯を使用していた。
そして車列の中間であれば、ほぼ全車両が無線の範囲内なのだ。これにより、スムーズに密な連絡が可能なのである。
移動中なので、中継としての効果がない以上、最も最善な連絡手段かもしれない。
車両全体が迂回し、カルンバ20キロポイントに設置すると、本格的に南へと進む。
「さて、事前に地図で見たが、すぐ川だな‥‥バグア支配下だったとは言え、主要な道には橋があるはず」
思った通りにすぐノーマン川にあたり、川沿いの道を設置しながら走っていると、割と近くに南へと渡る新しい橋が見つかった。
「橋を渡り次第、本格的にまっすぐ南へと向かいます。こちらが道から外れても、気にせず南へ向ってください」」
「了解。通達します」
土煙に気付いた新はさらに加速し、自らキメラに接近する。
右目から頬にかけて涙の様に緑光を流してフォーリングスターの1発で片づけると、車列に戻るのであった。
4時間経過でカルンバから500キロ地点まで到着し、25台設置していた新グループ。
「全車両通達、これより30分休憩に入ります」
「了解。助かります」
細々と停まっていたとはいえ、さすがに4時間も120キロ以上で走っていた運転手には疲れが見え始めていた。それを察しての休憩である。
全車停車し、兵は4時間ぶりの大地に足をおろし、伸びたり深呼吸したりと思い思いの休憩をとっていた。
「少し聞いてください。設置してトラックに座っていた方25名は、ほかの車両に乗り込み、運転手を務めてください。そして2人体制で4時間交代でお願いします。そしてしばらくは1人で運転している車両から設置していきます」
「そして他の車両に乗り込んで2人体制になれ、と言う事ですか」
察しのいい兵の言葉に、新は頷く。
「ここからは休憩なしですが、交代制で何とか頑張ってください。よろしくお願いします」
通達通りに2人体制編成にし、6時間の時点で740キロ地点に到着すると、カルンバへと引き返し始める。
行きとは範囲が被らないように、最後に設置した通信設備から45度ずれた地点にうまく設置していく新であった――。
●南西
カルンバの対岸からスタートし、南西に向けて走行しているフェンダーグループ。
「やはり地球はいいのう、広い空、広い大地じゃ」
先頭車両で軍用双眼鏡を使い、広い大地と広い空を見渡して感激している赤い粒子状のオーラに包まれているフェンダー。しかし、突如悲鳴を上げる。
「太陽が! 目が! 目が!」
双眼鏡でうっかり太陽を見てしまったのだろう。運転手が噴き出すと、涙目でフェンダーが睨む。
「そち、何を笑っておるのじゃ‥‥あちらにはキメラっぽい反応があるのじゃ。迂回せよ」
ドジっ子を演じながらも、しっかりとバイブレーションセンサーで周囲を警戒していたフェンダーがキメラの気配に気づき、発見される前に回避する。
「そっちは岩場っぽいのう」
双眼鏡で随時地形の状況を報告する。
そんなことを長時間続けていると、フェンダーはだいぶ眠くなってきていた。
「ちと休憩じゃな」
「え、もうですか」
出発から2時間。休憩するにはいいタイミングと言えばいいが、軍人にとっては少々ぬるくも感じたのである。
「無理は禁物じゃ。というわけで20分ほど我は眠るのじゃ、おやす‥‥み‥‥」
粒子が消えると同時に、フェンダーは眠りについていた。
運転手は肩をすくめ、停車するのだった。
「スッキリしたのじゃ。さて行こうかの」
「いえ、その前にできれば処理を‥‥」
運転手が停車している後続車両を指さす。
ひょいっと身を乗り出し、残り40台もないはずの車両に目を向け――コシコシと目をこする。
「‥‥ずいぶんたくさん密集しているのう」
1台の車両に1匹ずつキメラが並んでいて、いつの間にやらスタートした時以上の大所帯となっていた。
作業の邪魔にならないならと、配置優先で放っておいた結果がこれだ。停車の間もただ立っているだけと、キメラにしては珍しくあまり害もないが、どのみち不気味でしかない。
「仕方ないのう」
雷上道を取り出し、構える。
「此方は忙しいのじゃ、邪魔をするでない」
再びオーラをまとい、次々に射抜いていくフェンダー。全滅させるにも10分以上を費やしてしまう。
全滅させてオーラがなくなったフェンダーは、弓を抱えてコテンとその場で横になる。
「10分だけ‥‥」
「またか!」
兵士一同のツッコミも虚しく、フェンダーは幸せそうにスヤスヤと眠りについてしまった。
「最大速度が何キロかは判らないけど、安全運転なのじゃ。120キロ以上でキメラが出るなら、そこまで飛ばさなければいいだけじゃしの」
「‥‥なるほど」
フェンダーのペースに振り回されっぱなしの運転手が、感心する。
「急がば回れ、なのじゃ。体調第一に、休憩も挟みつつ安全に行くとするのじゃよ」
その安全運転が功をなし、キメラに絡まれる事無くスムーズな行程になったフェンダー一向。
とりあえずおおよそ500キロ地点から折り返し、カルンバへと向かったのであった――。
●北東
「いわゆるスピード勝負よね‥‥お金を稼ぐことよりも、依頼を確実に遂行する方を選ばないと‥‥」
道の起伏で揺れるワゴンに揺られながら、亜由子が呟く。
先頭車両と、燃料搭載のトラック、そして自分の乗るワゴンを重点的に護衛していた。
大人の女性の容姿だが、雰囲気は20代特有の甘さを兼ね備えた亜由子を助手席に乗せて運転している運転手は、チラチラと亜由子の方ばかり気にしてしまう。
顔だけではない。その豊満な胸にも、運転手は釘づけだ。
「あら、キメラですわね」
フォーリングスターを抜き、安全装置を外し、車窓から身を乗り出し構えると――顔の左に黒い蔦の刺青が現れ、左目全体が銀に変貌した。
「カカッ! くたばっとけ!」
豹変した亜由子のフォーリングスターは、キメラの脳天と思われる部分を貫き、一撃で始末する。
「ざまぁないね」
席に座り直し、蔦の刺青がなくなった亜由子は、隣の運転手が汗を流しているのに気が付いた。
「どうかいたしましたか?」
「い、いえ、なんでもございません!」
まっすぐ前を向き、運転に集中する彼はその後、亜由子の顔も胸も見る事はなかった。
「私達を傭兵として、稼業のプロとして今回のお仕事に契約して頂いたわけですから、報酬上乗せよりも、確実に依頼を達成することを重要視しないといけませんね‥‥」
進行方向のキメラを何匹か排除したのち、亜由子が考え込んでから口を開いた。
「ですから、キメラが来ない程度の安全運転でお願いします。堅実が一番なんですよ」
「了解しました! 全車通達! 安全運転よろしく!」
堅実、かつ安全な方法を取った亜由子は東北方向に予定よりは少ない450キロの地点から折り返したのであった――。
●東北東
「あそこがクックタウンかな‥‥?」
東北東にまっすぐ愚直に進んでいたケビン。
双眼鏡を覗き込み、奇妙な光景を目撃するケビン。
数人の子供がビームを放っている光景――冗談のような光景に目をこすり、時間に気付いたケビンはまっすぐに同じ道を通ってカルンバへと帰っていった――。
●カルンバ
「おつかれだね、諸君。結果発表だ。アルトと同士、合計1000キロで50台設置、これは予想通りくらいの数字だ。で、新は1480キロ、実に74台設置とすごい記録だね。報酬は上乗せさせてもらうよ」
パチパチとミルが拍手する。
「亜由子は900キロで45台。まあ経験も浅いのだし、こんなものだろう。そしてケビン君。走行距離は1400キロと素晴らしいが‥‥行きしか設置していないので35台。ドベだ」
「え、皆さん帰りも設置してきたんですか?」
「当然じゃないかね。ところで埴輪に興味ないかね? 興味あったら埴輪軍団の一員へ勧誘するんだぞ、と」
ケビンとミルの方に手を置くアルト。
「ないな」
「ないです」
――しょんぼり肩を落とす。
「少しはお役にたてたかのう?」
「うむ、大いなる前進だよ。通信設備が整えば、それだけ進攻もしやすいのだ。助かったよ同士」
ミルはすでにフェンダーを同士で固定していた。
支給予定の明細を見て、新が少し驚いている。
「こんなにですか?」
「なぁに、ボーナスだよ。各自にも少しは色つけてるがね。頑張った分は評価されるべきだよ」
そして亜由子とケビンに振り向き、笑顔を向ける。
「どうだったかね? こういう依頼の感想は」
「はい、勉強になりました。倒すだけが傭兵ではないのですね」
「僕も、もっとよく考えるべきでした」
新米傭兵の経験になった事に、ミルは満足げに頷くのであった――。
『【MO】簡単なお仕事 終』