●リプレイ本文
●屋久島・ULT出張所前
「この海域は臭うのであります」
メイ・ニールセン(gz0477)から事のあらましを聞き集った、美虎(
gb4284)の第一声がそれだ。
「話を聞いた時からずっと考えていたであります。敵は本当に1機ずつなのか、夜間でしかも複雑な海底地形に布陣し、四方に離れているなんて、臭い事この上ないであります」
美虎の警告に、皆が頷く。
「嫌な感じしかないですね〜。だってあっちのトコにわざわざ行くんでしょ? ぜーったい何かありますですよ〜!」
そんな事を言いながらも、明らかにウキウキと浮き足立っているオルカ・スパイホップ(
gc1882)。彼にとっては水中で戦えるなら、どんな状況でもいいのかもしれない。
「明らかに罠なんだろうが、敵の目的が分からない以上乗ってみるのも一つの手なんだろうな。 まあ、俺は俺の出来る事をするだけだが、な」
不敵に笑い、威龍(
ga3859)がポキッと指を鳴らす。
「海をバグアの好きにさせないのであります」
美海(
ga7630)が息巻いていた。
「『他にも南と東西にも部下が1人ずついる』‥‥ですか‥‥1人‥‥といった事に何らか意味があるのか‥‥」
ぶつぶつと引っかかっている部分を繰り返すBEATRICE(
gc6758)の傍らで、表情を硬くし、海に視線を向けている刃霧零奈(
gc6291)が拳をギュッと握る。
「海戦デビュー戦だねぇ‥‥ヘマして師匠に恥かかせる訳にはいかないねぇ‥‥」
「デビュー戦でいきなり無理しないでね、刃霧」
メイが緊張した面持ちの零奈に声をかける。零奈はヘラッと笑い、メイの背中を強く叩いた。
「大丈夫だって。無理しないさせない、そのための師弟だからね」
「それに。私も行くからね。北に」
ゆらりといつの間にか黒い正装の男――UNKNOWN(
ga4276)が2人の背後に立っていた。
「や、UNKNOWN。水中もいけたんだ」
「あまり海の中は好まんのだが――メンテナンスが大変だから、ね」
煙草を燻らせ、静かに微笑む。緊張感とは無縁である。
「だけど。呼ばれたからには、がんばらせてもらう、よ――ただし、私も1人、能力者を呼ぼう」
静かにメイの前に立ち――スッと手を差し出す。
「――メイ。力を貸して貰おう、か」
●屋久島沖
「今回、協力を要請した蒼 琉だ。よろしく頼む」
暗い海中の中、愛機のリヴァイアサンの通信にて挨拶をかわす蒼 琉(gz0496)。
「噂はかねがね聞いているであります! 長姉より、厳に頼まれたので任せるでありますよ!」
「任せるであります!」
オロチ改の美虎、クラーケンの美海、2人のシスターズの声がハモる。
「とはいえ今回は気になる事があった故の参戦であります。先日シスターズネットワークから、別地域で城島というバグアが出たと聞いているであります。関連性について、知りたいところであります」
「城島ではなく、生島という名には聞き覚えがある。先の依頼で生嶋が率いる部隊と交戦したばかりで、今回の敵とどういう関連があるかわからないが、それは確かめておくべきなんだろうな」
生島と言う敵――以前会った生嶋 凪という女性――そして今回の敵。
この3つに関連性があるのかどうか――琉も確かめておきたかった。
「まっ頑張りましょ〜!」
場の空気も関係なしに気楽に言いのけ、西へと向かうオルカのリヴァイアサン。
「海底地形および潮流が複雑なのであります。耳抜きなどにしっかりするであります」
「であります」
「北以外の敵種は不明‥‥と‥‥ゴーレムとか‥‥あまり強くない敵を期待したいですね‥‥他方面は強くても何とかなるでしょうが‥‥」
ロングボウに水中キットをつけての参戦であるBEATRICEは淡い期待を抱きつつも、東に向かって前進し、その速度に合わせて美虎と美海も向う。
「まあまずは終わらせてからか」
威龍も南へと向けて出発する。
残されたのは、琉のリヴァイアサン、零奈のビーストソウル、UNKNOWNのK‐111の3機。
「‥‥こちらも行くとするか」
「初めてのKVが補助席ってのも、オツねぇ」
その声に、琉が首をかしげ――ふと声の主を思い出す。
「メイ、か?」
「うむ。今回は暗いから、ね。目視とレーダーに注意して、皆の通信を繋ぎ続ける努力を頼んだんだよ。
オペレーターとしての腕前を、だね――あとは暇潰しの話し相手を、だ」
「と、言う事」
通信の向こうのメイの声は明るい。彼女も戦場に出たいのだ。少しでも早く――自分はもう大丈夫と、命を懸けてくれた友に証明してみせるために。
最後まで同乗に反対していた零奈も、今は沈黙しているだけである。
「おっと。変な所を触らないでくれよ? 色々とややこしいから、ね」
「あ、ごめん」
戦場に関しては自分よりもずっと詳しい仲間が3人もいる――その事実は琉の不安を払拭させてくれた。
「――では、行こう」
●北
「海底には足をつけない方がいいだろうね――うん、機体動きが重いな」
UNKNOWNのK−111も水中キットをつけての参戦であるが――それでもそこいらの水中用KVよりもずっと流麗で、有機的な動きである。
「とっと‥‥やっぱ地上と違うねぇ。とりあえず、ソナーブイ投下しとくね」
水の抵抗に戸惑いつつ、零奈がソナーブイを投下する。
「さて、時間もまだある――酒でも飲んでいるかね?」
●西
「やっぱり早く着いちゃったか〜。しばらく我慢我慢だね」
ソナーブイを投下し、潮流の流れをしばし体感するオルカであった。
●東
「水中戦は‥‥未だに慣れませんね‥‥」
動きにくさに四苦八苦しながらも、やっと指定地域にたどり着いたBEATRICEの第一声が、このボヤキである。
「安心するであります。そのためのシスターズでありますから」
「シスターズの連携は無敵であります」
そしてここでもソナーブイを投擲するのであった。
●南
「そろそろ時間か‥‥」
移動しながらも早めにソナーブイを4つを投擲し――さっそく前方に反応があった。それも2つだ。
「やはり正直に1機でいるわけはないな――行くぞ、玄龍!」
目視はできていないが、ソナーの反応に向けて先制の小型魚雷を発射――だが予定よりも大幅に下に流される。
「この距離ではあそこまでブレがあるのか‥‥理解したぞ」
ダウンカレントにあわせ、今度はかなり上向きに小型魚雷を発射――それと同時に前へと加速する。
敵がこちらに気付いたようだが――もう遅い。
ガウスガンで牽制しつつ前に出ると、敵も足を止めて愚直にも撃ちあってくる――計算通りである。
潮流の流れをうまく使い、不規則な動きに不規則な軌道――だが敵も雑魚ではないようだ。牽制とは言え、いまだに当たった気配を感じさせない。
しかし、潮流に乗せた不規則軌道で向かっていた25発の魚雷だけはかわしきれなかったようだ。小爆発が見える。
「まだまだだ!」
目視できる距離にまで到達――その瞬間に2機は左右に分かれる。ちらっとだけ見えた白い影と黒い影――気のせいではない。
「白と黒のクラーケン――厄介な‥‥ぐぅ!」
機体が何度も揺れる。夜の海でまだ目立つ方である白いクラーケンにどうしても目がいってしまい、黒いクラーケンへの意識が薄かったせいか、まるで反応できなかった。何よりも多方向からの攻撃が得意な機体。
しかも、見たところ連携もとれている。
「‥‥だが、まだ動きが硬い!」
潮流に逆らうためのブーストにより、疑似的な慣性制御で動き、死角にまわりこむと蒼い軌跡を残し、レーザークローで貫き引き裂く。
1機が撃墜されると――白クラーケンは素早く下降し、人類では追えない深海へと姿を消すのであった。
「‥‥ずいぶん訓練されているようだ、な」
●西
「きゃっほ〜い!」
潮流の流れに沿ってブーストをかけながら、小型魚雷ポッドをこちらに触手を向けている白クラーケンに撃ち込む。
――と同時に、制止し、横に急旋回した。降り注ぐレーザーが右半身に当たる。
上から黒クラーケンが肉薄していたのだ。
「やったな〜! でも近づいた君の負け!」
今の一撃で落とせなかったのは、誤算だったのかもしれない。黒クラーケンの触手が動く――だがそれよりも早くアップカレントに合わせブーストをかけたオルカが、触手を掴み引き寄せると大蛇で胴体を一刀両断にする。
そして小型魚雷をコクピットに直接たたき込む――構造が分かっているからこその弱点である。
黒クラーケンが爆散する――と、白クラーケンはダウンカレントを使い、オルカに牽制しながらも急速に下降する。オルカが追う間もなく、あっという間に深度200mを突破されてしまう。
「‥‥あっちゃ〜1匹逃げられちゃった――まあいっか〜」
●東
「敵もクラーケンでありますか。相手にとって不足なしであります」
白クラーケンを相手に、3人は三方から20発の大型魚雷に25発の小型魚雷。逃げ場を奪う。
爆発を繰り返すが、威力そのものはさすがに低かったせいか白クラーケンはまだ抵抗を続ける。美海に上から回り込むように突撃をかけてきたのだ。
しかし、その上からの突撃が囮であると、3人は気づいていた。美海が探った結果、海底に隠れるようにもう1機潜んでいる事は、すでに美虎に送り、美虎から3機にデーターが送られていたのだ。
「下から浮上中であります!」
美虎の警告に、上よりも下に気を配り――美海が下に向けてブラストテンタクルのレーザーを乱射する。
「クラーケンに死角はないのでありますよ?」
不意うちのつもりが不意をつかれ、動きを止めてしまう黒クラーケン。
そこにBEATRICEのホールディングミサイルと、美虎の大型魚雷が叩き込まれ、美海も大型魚雷でさらに追い打ちをかけると、あっさりと黒クラーケンが撃沈する。
美海の上から回り込んでいた白クラーケンが、一瞬にして相方がやられ、慌てて逃げに転じようとする――が、もちろんそんな事はさせない。
BEATRICEのホールディングミサイルが白クラーケンの後を追い、止めを刺す。
余裕――数の理も上で、伏兵に気付いていたとあれば当然な結果であった。
「攻め気に逸ると‥‥痛い目に会う‥‥と言ったところでしょうか‥‥」
「他もきっと同じでありますね――行くであります美虎」
「了解であります」
2機とも浮上し、変形、滑走し上空へと飛び立っていった――残されたBEATRICE。ゆっくりと移動を開始する。
だがシスターズの速度と比べてしまい、めったに表情を変化させないBEATRICEだが、この時ばかりは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「着いた時には‥‥きっと終わってますね‥‥」
●北
「そこの‥‥赤蛸のレディ。一つ尋ねたい事が、ある――バニーを着たくないかね?」
現れたジーンの紅いクラーケンを前に、UNKNOWNが通信すると――無言で真っ直ぐUNKNOWNに向かってくる。
「何が悪かったのだろう、メイ。相手の機嫌を損ねる事を何か言っただろうか?」
「色々とねー‥‥」
「まあ、後ろや下からというのに注意してくれ。レディ、彼女のサポートを。HPC内の連続演算容量の一部を利用していい――それと、あの触手。少し気を付けた方が良さそうだしね――いやいや、揺れる」
AIに指示をだし、UNKNOWNは盾で触手のレーザーを防ぎながらガウスガンで迎撃する。
「忘れてもらっては困る」
「ほらほら、こっちも忘れない‥‥でねぇ♪」
横合いから琉や零奈も魚雷やガトリングで牽制をかける――が、ジーンのクラーケンは慣性制御を巧みに使い掠らせもしない。
「師匠! 下から反応あり!」
「反応確認、識別開始‥‥クラーケンが海底に張り付いているみたいね」
ソナーの反応に注意を払っていた零奈の報告に、メイが即座に識別してみせる。
「炙り出す――UNKNOWN、少し任せた。零奈、君は出てきたところを頼む」
琉が海底すれすれで脚をつけないように止まり、周囲を探す――が視界が悪く、敵影が見当たらない。
「後ろ!」
零奈が琉の背後に割って入り、レーザーの直撃を受ける。一時的に強化していたとはいえ、直撃はさすがに堪えた。
「師匠に当てさせる訳にはぁ‥‥っ!」
零奈の真正面から、黒いクラーケンが距離を詰めていく――が、零奈の脇からベヒモスが伸び、黒クラーケンを一突きにする。
そしてダメージを負った零奈が、レーザークローでコクピット部分を貫通させて沈黙させる。
「‥‥すまん、無理をさせたな」
「役に立たない部下だねぇ!」
琉と零奈の間にジーンが割って入り、後ろに下がった琉を追いかけようとして、ガクンと止まる。
「残念‥‥そっちには行かせない‥‥ってねぇ♪ 止めの一撃は、主役の役目‥‥ってね」
「邪魔さ!」
触手が一斉に零奈に向けられ――その背後から漆黒の手が、触手をまとめるように掴む。
「――この時を、待っていたよ」
UNKNOWNによる連続ブースト――ジーン機を強制的に浮上させる。
「蒼、刃霧――狙え」
「いいタイミングであります!」
「あります!」
美虎と美海が現れ、気を逃さず大型魚雷を発射する。琉も小型魚雷を、零奈はホールディングミサイルを動けないジーンに向けて発射していた。
着弾――する直前、先端しか動かせない触手のレーザーで数発焼き払い、誘爆させる。
辺り一帯、大量の気泡に包まれ全ての視界が奪われる――そこから触手を無くしたジーン機が急速に浮上し、追う間もなく、夜の闇に消えていった
「逃げるために、自らを撃つ――優雅ではないね」
残された触手を眺めつつ、UNKNOWNは呟くのであった――。
「気に入らない、気に入らないねぇ‥‥」
「――かか、つまらぬ策など弄するからじゃ。帰ったら仕置きじゃぞ?」
独り言に凪が割って入る――すべて見ていたのだ。
ジーンは唇をかみしめ、通信回線を切るのであった。
●一湊海岸
「結局、聞けずじまいか‥‥」
砂浜で1人、煙草を燻らせる琉。みなには民宿で泊まってもらう事にして、先に帰したのだ。
あらかたこそ撃墜したものの、数機逃げられてしまった――もともとペア機がやられた時点で撤退の予定だったのだろう――だが、当初の目的はちゃんと果たした。それは、成功と呼んでもいいだろう。
「――こんばんは」
声をかけられ振り返ると、凪が立っていた。問いただそうか口を開いたが――結局琉は口を閉じる。
「‥‥何かあったんですか?」
「いやなに、誕生日に乱入されてね――そろそろ戻るか」
誕生日という言葉に少しだけ凪は考え――そっと琉の頬に一瞬だけ口づけする。驚いた琉が頬を押さえ、凪を見た。
「お祝い、です。それと、私もつい先日誕生日だったんで、貰っちゃいました――また夜の海ででも会いましょう。それじゃ!」
駆け出す凪――その表情はいつもより若干愉快そうであった。
(この肉体の記憶にある事を繰り返してみたが、果たして効果はあったものかの――記憶が戻った時が楽しみじゃわい)
残された琉は、見えなくなるまで凪の背中をずっと眺めていたのであった――。
『【海】罠の臭い 終』