タイトル:アルナイ決戦だ!マスター:楠原 日野

シナリオ形態: イベント
難易度: 普通
参加人数: 17 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/08/17 05:27

●オープニング本文


●カルンバ・ホテル
「んー‥‥忙しくなる前に、もう1回屋久島に行くかね」
 ソファーでくつろぎながら、ペラリと水着のカタログをめくりながらミル・バーウェン(gz0475)が呟く。
 その言葉に目を輝かせたのは、前回特色の強い傭兵達によって自分の影が薄かった、シスターであった。
「何、何、お嬢。また屋久島行くの?」
 のしっと、ミルの頭の上にシスターの胸が乗せられる。
「乗せるなー!」
 ペタチーン!
 立ち上がったミルがものすごい形相で、シスターの胸を掌で思いっきり引っ叩く。その蛮行に、シスターが胸を庇うように腕組みをし、瞳を潤ませる。
「ひどいじゃない、お嬢。大きいと疲れるんだから、乗せたっていいでしょ。鳥が止まり木にとまるのと一緒よ」
「チミは逆なでるつもりかね! ええい、君は留守番だ!」
 びしっと指をさして宣言すると、シスターが頬を膨らませぶーぶー抗議と文句をたれる。
「おにー、おーぼー、しょっけんらんよー、ないむねー、りょうめんせなかー」
「‥‥残ること確定だね」
「じゃあ言わせてもらうけど――お嬢の見てるカタログ、それほとんどパッドなし商品よ」
「I am NOPAD!」
 悲痛な叫びと共に胸の前で両手を交差させ、パッドでないことをアピールする――悲しい事に周知だが。
 喧々囂々ミルは食って掛かるが、こういう事に関しては精神年齢が歳相応かやや低くなるようで、シスターの言葉にはまるで勝てなくなる。
 そのうちに肩で息をし言葉が少なくなってくると、拳を突きだしシスターを睨み付ける。
「くそう、決戦だ! アルムネとナイムネの決戦だ!」
「ナイって認めちゃうんだね」
「ふぐぅ!」
 自らの言葉にツッコミを受け、胸を押さえつけて苦悶の声を漏らす。
「ま、いいでしょ。で、決戦っていうからには、2人で対決というわけではなさそうだけど‥‥お友達でも巻き込むのかしら?」
「私には友達が少ない――だが金ならある!」
 世界を旅する人間だけあって友達が少ないのも事実ではあるが、胸を張って堂々と虚しい事を誇る。嫌な開き直りだ。
 むしろ言ってる本人に虚しくないのかと、問いかけたくなる。
「傭兵達を集める! 幸い、こういう話でもちゃんと報酬さえあれば依頼として取り扱うのが彼らだ。アルナイでのわだかまりはきっとどこにでもあるものだろうし、この際すっきりしてもらおうではないか」
 ふーんと気のない返事をするシスター。
(アル側はともかく、ナイ側って集まるのかしら‥‥?)
「それで、具体的にはどんな対決? 能力者に混ざってなんて、無謀な事はしないわよね? ま、決まったらしおりでも作って皆に配布でもしてちょーだい」
 ヒラヒラと手を振り、後にするシスター――1人残ったミルはその燃える勢いのまま、端末へと向かいしおりの制作に取り掛かる。
 そしてミルは気づいていない――なんだかんだでシスターも連れて行くのが決定しまっている事に。
 廊下を歩くシスターの足取りは、実に軽かったという。

●屋久島・海の家
「貸切、ですか。できない事もありませんが、やや割高になります――はい、それなら大丈夫です。外にコテージもいくつか作ったんですが――はい、それもですか。貸切費用は‥‥了解しました。それではお越しを心よりお待ちしております」
 チンッと電話を切った海。月間スケジュール表に『貸切!』と書き込み、大きく目立つように赤丸も付ける。
「‥‥海ちゃん?」
 書き込んだままカレンダーの前でつっ立っていた海に、メイ・ニールセン(gz0477)が首をかしげて声をかけた。
 しばしの沈黙――ふっふっふと海が肩を揺らし、振り返ってばっとピースを掲げる。
「全室、貸切予約入りました!」
「よかったね、海ちゃん」
「しかも思い切って建てた新築のコテージ4つも、とりあえず押さえておくそうです」
 砂浜に申請した4つの新築簡易コテージ――カップル用だとかで建てたのだ。
「少し費用ふっかけたけど、快く飲んでくれました。この前の貿易商人さんだからこその値段設定だったんですけどね」
 ぼんやりと海の背後に青いツインテールの影が見え、目をこすってしまうメイ。
「商魂、たくましいわね」
「そこは母親譲りだ――目的や客層は?」
 餃子の皮を包みながら様子を見に来た蒼 琉(gz0496)。
「なんでもアルナイ決戦だ! とかよくわからない言葉を‥‥女性比率は多いだろうという話はしてました」
「‥‥お嬢になにかあったのかしらね」
 アルナイで何かを察したメイが肩をすくめる。
「それなら料理や部屋の準備は俺がするから、海。たまには混ざって遊んでみるのもいいかもしれんぞ」
「あーそれもいいかもね」
 琉の提案にメイが同意し海に注目すると、海は嬉しそうな顔をする。
「その分俺がここにいなければならんので、メイ、頼んだぞ」
「了解、任せてよ」
 心強い返事に頷き、琉は厨房へと戻るのであった。
 浮足立った海は厨房に戻ろうとし――引き返してきて『貸切!』の下に小さく『楽しみ!』と追加して、笑顔のまま頷くのであった――。

●カルンバ・ホテル
「――おう、朝か‥‥とりあえず、完成したぜー‥‥」
 がくりと端末の前で意識を失うミル。
 こっそりと音もなくシスターが室内に入ると、端末に映し出されている内容に一通り目を通し、くっと小さく苦笑して一文だけ付け加えると保存し、端末を閉じる。
 そしてミルを抱き上げ、ベッドに寝かしつけると頭をなでながら微笑んでいた。
「あいかわらず、無駄にエネルギッシュだ事‥‥そこが楽しいんだけどね。とりあえずオーストラリア奪還、お疲れ、お嬢。ゆっくり休みなさい‥‥」
 腰を上げ、来た時と同じように静かに退室するのであった。
 室内には悪女と呼ばれ続けている17歳の少女が1人、幸せそうに寝息を立てていた――。

●UPC本部
 モニターにはミルのしおりが表示されていた。
アルナイ決戦しおり
1・シスターをリーダーとしたアルムネチーム、ミルをリーダーとしたナイムネチームに分かれる。
1・男性は見学、もしくは味方に付きたい方への参加を認める。
1・各自、自分が『アル』か『ナイ』かは己で決める。真実を認める勇気も必要だが、認めたくない事実があるのも確か
1・3戦で2勝した方の勝ち。怪談前に勝負が決まっていても、怪談は絶対必要! 夏だしな! 不参加? 認めん!
1・参加報酬はちゃんと出る。   全ての費用はミル・バーウェンが負担(あれ、こんな文書いていたか?)


日程表
12:00 民宿海の家到着・砂浜へ
13:00 ビーチバレードッジボール開催
15:00 終了予定時刻。各自自由時間。
18:00 食事(料理担当は蒼 琉。手の込んだ郷土料理中心)
20:00 ロケット花火戦争
21:00 終了、片付け(後始末は綺麗に!)
21:30 怪談選手権
23:00 終了、各自自由時間(風呂に入るもよし、寝るもよし、別の戦いを繰り広げてもよし!)
翌朝  朝食をとり、10時の便で帰る(フェリーで九州、そこで解散)

●参加者一覧

/ UNKNOWN(ga4276) / キョーコ・クルック(ga4770) / クラーク・エアハルト(ga4961) / アルヴァイム(ga5051) / 秋月 祐介(ga6378) / 錦織・長郎(ga8268) / 長谷川京一(gb5804) / 美具・ザム・ツバイ(gc0857) / 春夏秋冬 立花(gc3009) / エレシア・ハートネス(gc3040) / ミリハナク(gc4008) / ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751) / エドワード・マイヤーズ(gc5162) / 蒼 零奈(gc6291) / ジェーン・ドゥ(gc6727) / 権兵衛・ノーネイム(gc6804) / 宇加美 煉(gc6845

●リプレイ本文

●屋久島・一湊海岸
「よくぞ集まった、諸君! 試合開始は1時からなので、それまでは多少ゆっくり過ごしてくれたまえ!」
 民宿・海の家に荷物を置いた一向が、砂浜の方の食事処である海の家の前に集まっていた。
フラワーパターンのフリル付きワンピースに、シースルー長袖ブラウスのミル・バーウェン(gz0475)が仁王立ちでふんぞりかえっている。
「では会場の設営をしましょうか」
 イベントの進行助成を買ってでたアルヴァイム(ga5051)が黒子衣裳のまま、そそくさと砂浜へと向かう。
「では我々はここで、一杯やりながら打ち合わせでもしましょう」
「僕は一杯はやりませんけど、そうしましょう――今日は熱い解説に期待です」
 これまた真夏の浜辺にそぐわぬダークスーツの秋月 祐介(ga6378)が、水着姿のドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)の背を押しつつ、奥へと向かう。
「ん‥‥私も‥‥機材の設置を‥‥」
 チュニックにミニスカート、そしてスパッツという出で立ちのエレシア・ハートネス(gc3040)。カメラを担ぎ浜辺へと向かう――その胸の方が重そうだ――そんな事を同じカメラ係に志願したエドワード・マイヤーズ(gc5162)は横目で見ながら思いつつ、ミルに親しげに片手で会釈する。それもなぜか手にネギを持って。
「しばらくだったね〜。籠城の件、以来で‥‥それと、このネギはネギ焼きかネギ味噌にでも使ってくれたまえ」
「おお、エドかね。ずいぶん久しいな――と、ネギ?」
「ふむ。悪くないモノだね。私が。蒼にでも届けてあげよう」
 ひょっこり、ミルの後ろからイゲンネギを受け取るUNKNOWN(ga4276)。
「おや。また来たのかね――メイの様子見か?」
「うむ。そんなところだ――どうにも前回、痛めるような事をしていたみたいだから、ね」
 いつでも黒衣のスーツの男(今回、コートは脱いで掛けてきたようである)は、砂浜にいるメイの元へと向かうのであった。
 エドワードも撮影の準備などがあるから失礼するよと、シュタっと片手を挙げ、いい笑顔でその場を後にする――と入れ替わりに、アロハシャツに麦わら帽子、首にタオルと携帯灰皿を提げている長谷川京一(gb5804)が息を切らせやってきては、ミルの前で呼吸を整えている。
「やっべぇ、なんとか間に合ったか――あのヤブ医者めなにが『いい機会ですからちゃんと肺の検査をしましょう』だ。
 ヤニを心中する覚悟なんぞとっくに出来てるっての‥‥や、お嬢。久しぶり」
 いまさら取り繕っても、遅い。
「‥‥珍しいね、君がこういう場に来るのは」
「ま、カメラマンとしてな。あとは約束してただろ? 奢ってくれるってな――というわけで、俺はラーメン定食とウーロン大、それと一品メニュー全部一人前づつね。今日のお勧めとかがあるなら、それもつけてもらえるかな?」
 どっかりと海の家の客席に座って、遠慮のない注文をする京一。ミルは苦笑いを浮かべ、店員に今日の会計は傭兵以外であろうとも全て自分宛てでいいと伝え、京一と同じテーブルの席に着く。
「ずいぶんと太っ腹だな、お嬢」
「ま、オーストラリア奪還のお祝いみたいなものさ――それに、ネマのかわりにうちであそこの貿易を取り扱う事になってね。解放までは大赤字にしても、先を見越せば超の付くほどの黒字なのさ」
 ニンマリと、京一のよく知る悪人スマイルを浮かべるミル――その話が聞こえていたのか、錦織・長郎(ga8268)がミルの背後に立って、くいっと眼鏡を直す――サーフパンツに下駄姿と、京一同様、だいぶいつもと雰囲気が違う出で立ちだが、似合ってはいた。
「くっくっくっ、なるほどね。そういう事なのかね」
「うむ、そういう事さ長郎」
 2人して肩をすくめて笑っている間にも、京一はラーメンをすすっている。
「君も珍しいね、こんなお祭り騒ぎに顔出すなんて」
「たまには気晴らしするのがエスピナージュの役得というもので――なのでミル君に誘われた今回の件は、色々面白いかね。アルナイ紛争はどうでも良いが、折角口説きかけた側に立つのが倣いだろうし。
 まあ、立花君を鍛えておくのも良いかね」
 ちらっと、砂浜ですでにパラソルの下で休んでいる春夏秋冬 立花(gc3009)に目を配る。重傷だとかで、今回は休養を取るとのことだが――こんな重要な決戦に、我らが会長を休ませる気など、ミルには毛頭なかった。
「お祭りですか‥‥考えを整理しに来ただけなのですけどね」
 ただの慰安と思っていたクラーク・エアハルト(ga4961)。参加する気がないことを示す様に、彼は水着でもなく普段着であった。
「大決戦さ。アルとナイの、ね」
「美具はその、なんじゃな。アルだのナイだのを子供がうだうだ言うのが不毛だと思うんじゃがね」
 マリンブルーのビキニと、今回は少々残念剥き出し――いや、色気を剥き出しの美具・ザム・ツバイ(gc0857)が言い訳じみた事を言いながらミルの隣に座る――そのサイズ、ミルよりはやや『アル』が、基準が残念なのでややではボリュームがまるで足りない。全体のバランスとしてはスレンダーでスマートと、カッコいいのだが。
「‥‥女性って、大変だ。まあ、お祭り騒ぎも嫌いじゃありませんが」
「たまにはこういうのも悪くないかなってね。クラークはどっちに参加?」
 ひょこっとビーチサンダルにマリンブルービキニのキョーコ・クルック(ga4770)が、クラークの脇から顔を出す。
 美具と全く同じマリンブルービキニなのだが、こちらは誰の目から見ても、しっかりとした質感をかもし出していた。
「クルックさん――いや、自分は見学です。見物客は気楽ですよ。害の及ばない限り」
「及ばなければ、いいのだがね」
 長郎が肩をすくめると、メンツ的にないとは言えないだけに、クラークもキョーコも苦笑するしかなかった。
 それじゃと日焼け止めオイル片手にキョーコは砂浜に向かい、残された者も軽く腹ごしらえなどしつつ、決戦の時を待つのであった――。

●13:00
「全国1千万のファンの皆様こんにちは。
 遂に始まりました、因縁の対決、喩えるならば譲るに譲れぬ関ヶ原――勝つのかアルか或いはナイか! 
 ここ特別実況席より実況は私秋月、解説にドゥさんをお迎えしてお送り致します」
「お願いします。本日は秋月教授のナイスなソウルシャウトを期待しましょう。
 ――尚、今試合ではプライバシー保護の為一部音声を伏せさせて頂く場合がありますのでご了承願います」
 スーツ姿のままインカムを装着している熱い祐介に、インテリな伊達眼鏡を装着し冷静なドゥが解説席から、全国に向けて挨拶をする。
「さー、続きましては選手紹介です。
 今大会の主催者にてナイ陣営リーダー、今の自分にPADはナイ! 『ミル・ザ・グレートプレーン』の登場だーッ!」
 ワーッと大ボリュームで歓声を再生しているドゥ。いい仕事をしている。
「そこが安全だと思うなよ! 秋月ぃ!」
 ミルが指差して吠えるが、しれっとしている。
「うー、ぺったん! 揺れぬ・弾まぬ・震えぬ・切ない気持ち!
 エターナルフラット、リッカ・ザ・フラットバストの登場だーッ!」
 包帯を所々巻いている立花。そして今回は競泳水着のため――悲しいほど、祐介の解説は的を射たものである。
「やかましい! ‥‥同士。何故怪我している私がここに連れてこられているの?」
「会長。世の中にはつけねばならぬ決着がある。そしてそれが今なのだ!」
 怪我を押してまで参加させる理由にはなっていないが――そこには立花も気づかなかったようで、納得してしまう。
「なるほど。だけど‥‥なんでナイ陣営に明らかにそぐわない奴がおんねん!」
 ビシっとナイ陣営に立っている確かなボリュームの刃霧零奈(gc6291)を指さし、続ける。
「そしてあっちはあっちで、明らかに勝負以外の目的持った奴いるし!」
 シスターに声をかけている長郎と、こちらの水着を見て明らかに悪巧みしていそうな表情のミリハナク(gc4008)をビシビシ指し示すと、解説席、エレシア、エドワード、アルヴァイムを順に指さしていく
「解説は贔屓が入っているし! なんでカメラがあるんだよ! どこに向けて放送するつもりだよ!
 黒子さんはADだし! そもそもADってなんだよ! 演出する必要あることあんかこれ!」
 言ってる事はもっともだったりもするが、ツッコんではいけない事なので、みながその言葉をスルー。
 ただ、指さして喚いている姿はセリフさえ抜かせば熱血的な構図なので、存在感を消し、風景と成り果てた京一がパシャリと1枚撮る。
「さあ、平らの主張はともかく!
 揺れる! 弾む! 震える! 聳える山脈を伴ったプレートテクトニクスは既にQ,E,Dと言って差し支えないでしょう‥‥ミリハナクだーッ!」
「この私の身体、余すところなく焼き付けてくださいまし」
 髪をかきあげ、妖艶な笑みを浮かべている唇に、人差し指をあてて、自分の自慢の身体を見せつけるようにセクシーなポーズで決める――サイズ、形、スタイル、全てに文句のつけようもない。しかも今にも落ちそうだと不安と期待を思わせる三角ビキニが、また実に観衆の心を躍らせる。
 いつの間にか集まっていた無関係な人々も、大歓声をあげていた――ナイ側と違って、本物の歓声だ。ここがナイとアルの差なのだろうか。
 ナイ側のコートに入っていたエドワードも、ネットの下からのアングルで揺れる巨峰を存分にカメラに収めていた。
「そして――以下略です。弄るのは哀れなペッタンだけで十分ですからね」
「時間も押してるようですしね」
 黒子さんが『巻いて』というフリップをかざしているのが、2人には見えたのだ。
「ペッタンとは誰だ!」
「くおー!」
 ペッタン2人が叫びに苦笑しながらもメイ・ニールセン(gz0477)がピィーッと、ホイッスルを吹く。試合開始だ。
 ごく普通のバレーボールが、津崎 海の手からミルに手渡される。
「10点5セットマッチ、3セット先取のこの勝負、どうみますかね。ドゥさん」
「まあ確実に、全滅かリーダーが落されてナイ陣営の負けでしょう。人数が偏るとか、思いつかなかったんですかね」
「あの時は熱くなりすぎたんや!」
 解説にツッコミつつ、ミルのサーブ――意外と強烈なドライブサーブを打つが、能力者に通じるはずもなく、ミリハナクはサーブをダイレクトにトスであげ、ボールの色に合わせた白いワンピースの宇加美 煉(gc6845)が合わせて跳ぶ。
 バレーボールよりも大きい、弾けそうな2つのボールが、ネットの上で揺れる。
「おおっと、これはいきなりの大技! どれがボールかわからない! 凶悪、凶悪、凶悪〜ッ!」
「見事な精神攻撃に、ナイ陣営はピクリとも動けなさそうで――いや、彼がいました」
 十字架に怯える悪魔の如く、頭を抱えて苦しんでいるペッタン2人をよそに、エドワードが臆せず前に出て――その揺れる胸を近距離でカメラに捉え続けている。
 煉の強烈なアタックがカメラに襲い掛かり、身体を硬くしてまでエドワードは身を挺してカメラを死守――カメラマンの鏡だが、当然アウト。
「チミは何しに来たんだ!」
「悔いはないよ!」
 いい絵が撮れ、満足げにビシッと笑顔で親指を立てるエドワード。

 アル陣営コートにローライズビキニのジェーン・ドゥ(gc6727)と白褌の権兵衛・ノーネイム(gc6804)。
 ナイ陣営コートに美具と真紅のビキニ姿の零奈が――そこでも祐介の熱い実況が会場に響き渡る。
「おーっと、ここで予期せぬ裏切り! 戦場の小早川秀秋と言うべきでしょうか?
 だが、ナイ陣営これをどう受け取るーッ! その量感・質感はどう考えても本物です。
 しかしナイに就くというならば‥‥敢えて復唱要求をせざるを得ない! 『その胸はPADである』と!」
「成程、真の紳士ならば見破れる特殊PADですか。流石は秋月教授‥‥見事なご慧眼です」
 明らかにアル零奈に復唱要求を迫る、秋月。その言葉にズンズンズンと、零奈が解説席に向かってくるが、手を組んで全く動じない祐介。
 そんな彼の前に立った零奈は、おもむろに―― その見事な膨らみで祐介の顔にビンタをかます――祐介の本体、いや眼鏡が飛んでいった。
「誰がPADか! 天然純度100%混じりッ気なしの本物だーッ!」
 女性的にはどうかとは思う見事な一撃――エドワードもエレシアも違うアングルからしっかりと撮影していた。
 がたっと立ち上がった祐介は、飛んでいった眼鏡を拾い上げかけ直すと――さわやかな表情を浮かべる。
「失礼。紛れもない本物であると、胸教授の自分の名誉にかけ、保証いたします」
「わかればよろしい」
 解説席でひと悶着ある間に、双眼鏡で海を見ていた立夏がおもむろに立ち上がり、双眼鏡をミルに渡し海に向かって駆け出す。
「ちょっと、私が戻って来るまで頑張って! あだだだだだだだ!」
 傷だらけのまま海水に浸かれば当然痛いに決まっているが、それでも立花は泳ぎだす――受け取った双眼鏡で覗くと海に1人だけ、髪の短い女性がゆらゆらと漂っていた。立花の(一方的な)師匠、生嶋 凪(gz0497)であったが、ミルはよく知らないので、立花はほっておくことにした。
「本気でいきましょうか、権兵衛」
「承知だ、ジェーンさん」
 ホイッスルと共にアル陣営側のジェーンは6対の白銀のオーラでできた翼を背中に展開、権兵衛も炎をまとったようなオーラを発する。
「覚醒だーッ! 本気です! 実に大人げない!」
「ルール的にはどうなんでしょうね」
 解説の疑問に、背後に立ったUNKNOWNがしおりにざっと目を通し、しおりを閉じる。
「ふむ。問題ないようだね――ところで怪我人が少ないので。もっと煽って貰えると、助かる」
 治療班として参加した彼は仕事のためにも、怪我人を要求する――無茶な話だが、今この場では道理が引っ込む。
「OK――さあさあ、挑発を受けたナイ陣営、これにどう対抗する! いや、力には力で対抗するしかない!
 今こそ! 君らの力を見せる時だ!」
 煽られるまでもなく、零奈もその瞳を真紅に染め上げ、美具は眼帯から青白いオーラを吹き出させる。
 アル陣営、シスターからのゆっくりとしたネットよりはやや高めを狙ったアンダーサーブ――を、直接グーによる渾身のスパイクで返す零奈。胸が揺れる。
 反応した権兵衛が何かを呟きながらそれを受け止め、同じく何か呟いているジェーンがクイックと同じ要領で素早くアタックで返す――が、それすらも直接零奈がスパイクで返し、しばらく2対1でのスパイクの打ち合いが続く。
 激しいバトルに、キョーコは手を叩き喜ぶ。
「おお〜みんな張り切ってるね〜。怪我しない程度にがんばれ〜」
「これはさすがとしか言えません! 実戦経験の高いペネトレーターならではでしょう! その高機動を生かし、ハーモナー2人に負けていません! スパイクを打つたびにどちらも揺れ、甲乙つけがたし! この勝負どうなるのか!」
「ですが、なにやらナイ陣営の様子がおかしいですね」
 ドゥの指摘に、ボールと選手を追っていたエレシアが、ズームでナイ陣営の様子を映し出す。
 いつもクールな表情の美具は目を回したまま薄ら笑いを浮かべ、零奈は――ある意味いつも通りだが、非常にハイテンションで笑っていた。
 シュタっと黒子さんがコートに降り立つと、権兵衛の呟きを集音マイクで拾い始め、そこでやっと不可思議な現象の理由が判明した。
「これはほしくずの唄ですかね――なるほど、実にハーモナーらしい戦い方です。2人とも、混乱しているというわけですか」
「ルール的にも。これは大丈夫だね」
 UNKNOWNは少しつまらなそうに、カルブンクルスをもてあそぶ。
「ところで国や人で左右される人気や嗜好、また評価される側は精神的な余裕は違うようですが‥‥その辺は如何でしょうか。秋月教授」
「うむ。しっかりと綻びとなりつつあるようでして――きっと面白い事になりますよ」
 もともと混乱しているような零奈にはあまり効果がないと悟った2人は、別の唄に切り替えたらしく、スパイクを打った直後、急激な眠気に襲われた零奈が振り払うように頭を振る――と当然、胸も横に揺れる。
「いい加減にしろー!」
 ミルのドロップキックが、零奈の背中に炸裂!
「痛い!」
「やかましい! さっきからブルンブルンと! ‥‥ドチキショー!」
「あっれー? 皆、どうしたの?」
 棒読みの零奈。号泣するミルのや動けないでいる美具の目の前で、ボールに反応した零奈がアッパーでボールを真上に上げる――つもりが、もろに自分の顔面にヒット――ボールが地面に落ちる。
「はい、刃霧アウトー」
 ホイッスルを鳴らし、告げるメイ。
「おいしい! 実においしいやられ方です!」
「裏切り、精神攻撃、自爆――見事なチームワークですね秋月教授」
「零奈、いまさらだが君が何故こっちに来たのだ!」
 ミルがうずくまっている零奈の肩を揺さぶると、キリッと表情を引き締め零奈が答える。
「ゲームでも敬愛するお嬢と敵対だなんて、あたしには無理!」
「本音は?」
「こっちで参加した方が、お嬢とか弄り倒せそうで面白そうだからねぇ」
「キサマー!」
 視線を逸らした零奈の肩をがっくんがっくんと揺らし――二重のダメージを負って、砂浜でがっくりと肩を落とす。

 アル陣営はキョーコと長郎がコートに入るが、ナイ陣営は美具と、いまだに戻ってこない立花を残すところ。
「やばい、このままでは――」
 ミルが自身の敗北を悟りつつあるとき――逆行を背に、我らが会長が帰ってきた。
「ごめんね、待たせて。後は任せて――日が暮れる。さっさと始めましょう」
 クールに決めたつもりだが、まだまだお天道様は高い。やはり立花である。
「ここで帰ってきたはリッカ・ザ・フラットバスト! 心なしか先ほどよりより薄くなって――おおッ!」
 余計な事を言いそうだった解説に向けて、立花がトコブシを投げつけてくる。もちろんそれは護衛も兼ねていたドゥによって阻まれる。
「何をするだぁーっ! 嫉妬の8Hitアタック! ルール無用の無法攻撃なのかーっ!
 だが、ここで屈するわけにはまいりません、全国のファンの皆様に真実を伝える義務があります! 偶然・偶々・偶発的な事故が起きようとそれを克明に記録して伝えなければなりません!」
「しかしだね。これは新鮮で。いいものだ」
 ヒョイヒョイとトコブシを全て頂くUNKNOWN――ついでにルールを破った立花にカルブンクルスの火炎弾をお見舞いする。
「ぬおー!」
 火だるまになる立花――だが次の瞬間には火傷は癒されていた。
「うむ。互いに怪我しない様に、きちんとゲームをしたまえ。以上だ」
 同時に練成治療も施していたようである。
「ぜーはー、びっくりしたー‥‥よし、いくよ同士!」
「ほいっさぁ!」
 ミルのドライブサーブ――それを長郎は適当に受け止め、キョーコも適当に打ち返す――目的が違うせいか、まるでやる気は感じられない。
 しかしおかまいなしにテンションの高い立花が無駄にダイビングレシーブでギリギリに受け止め、即座に立ち上がるとミルのジャンプに合わせて自らも跳躍、2人が交差する。
「チェリオー!」
 ミルの強烈なスパイクが炸裂――が、着地と同時に振り返ったミルが見たものは、砂浜に倒れ伏す立花だった。
「ごめん‥‥ちょっと無茶しすぎた」
 ミルが抱きかかえると、立花は息も絶え絶えで震える手を同士の頬に――。
「――もう、休んでいいかな?」
 ガクリ――力なく立花の手が地面に落ちる――。
「かいちょー!」
 抱えて涙するミル――バスっという音に反応し、気を失った立花を盾にしてキョーコの打ったスパイクを防ぐ。
「所轄、弱っているところを狙うのは戦術の基本だね」
「アウトー」
「会長、君の死はきっと‥‥無駄になるだろうなぁ」
 残りメンバーがいまだに混乱の解けぬ美具と、自分だけ。絶望的である。
 アル陣営は再び、ミリハナクと煉が入り、シスターのサーブ。同情からか、今度は先ほどよりさらに緩い。
 半ばやけくそ気味のミルは零奈と同じように、サーブをスパイクで迎え撃つ。
「チェリオ!」
 特に狙ったわけではないが、ミルの返したボールは真っ直ぐに煉の胸元に吸い込まれていき――胸の弾力で程よく上に打ち上がった。
「‥‥おやぁ?」
「チャンスですわ!」
 キラーンと目を光らせたミリハナク。高々と飛び上がり様々な思いを、自身の経験と技術を全て(間違った方向に)注ぎ込んだボールに乗せて、アタック!
 超回転の加わったボールは真っ直ぐミルに向かい――いつもの癖で立ち塞がった美具が、身体で受け止める!
 スルリ――。
 ボールは高々と上がり、相手陣地へと返っていったが、超回転に負けた胸を覆う布地は、ポロリとではなくスルリと脱げ、美具の胸が露わとなる。
 一瞬会場はおお、と色めき立つが、すぐに冷める。その反応に、冷静な解説が飛ぶ。
「――残念が残念な事になっても、残念な結果にしかならないのですよ」
 羞恥に少し頬を赤らめ、胸を隠す美具。すぐ後ろの渋い顔のミルを見て、肩をすくめる。
「守ってやったではないか」
「いやーん、美具ちゃんごめーん。わざとじゃないのよ〜?」
 だいぶ白々しいミリハナク――その背に返ってきた超回転のボールがかすめ――三角ビキニの紐が切れてしまう。
 ポロリ――。
 その瞬間、うおおおおおお! と大歓声が上がり、先ほどとは比べ物にならないほど場が盛り上がる。そして露わになってもまるで動じないミリハナクは、むしろ胸を張ってみせる。
「見られて恥ずべき身体ではございませんので」
「ん‥‥さすがです‥‥ミリハナク姉様」
 ばっちりカメラにとらえつつ、エレシアが感心したように呟く。
 こうして、ビーチバレードッジボールはナイ陣営の負けで幕を下ろした――。

●14:30
 コートから何から全て1人で片づけている黒子・ことアルヴァイム。裏方だが、生き生きとしている。根っからの裏方根性なのだ。
「ん‥‥さっきのデーター‥‥」
「うむ、ありがとう――実にいい絵だ」
 エレシアから先ほどの記録を受け取り、少し再生して頷いてみせる祐介。
 データーを渡した後は、コピーデーターを胸に忍ばせつつ、砂浜のパラソルの下、ミリハナクやキョーコとのんびりと過ごすのであった。
「む‥‥そうか。ノーブラボイン討ち‥‥特に遠方距離は注意と‥‥」
 先ほどの記録をチェックして気がついた事を、ミルに向けてメールを送り――すぐさま『やかましいわ』と返ってきて肩をすくめる。
「メイ、もう少し人に頼る感じで、かな」
「結構難しいものなのねぇ。頼る感じってのが」
 メイの動かない脚を診たあと、UNKNOWNはイゲンネギとトコブシを持って民宿へ向い、蒼 琉(gz0496)やアルヴァイムと共に夕食の準備を進めていた。彼の場合、酒のツマミや泡の出る麦汁やらの準備が中心なのだが。
 ちなみにそこでももちろん、請求書はしっかりとミル宛である。
 あらかた準備を終えた後、UNKNOWNはチェア横になり、ビーチパラソルの下で冷えたモノを飲みながら本を読んで過ごすのであった。
 ――各自思い思いに自由時間を過ごし、夕飯の時間が近づいた頃になってずっと姿が見えなかった普段着のジェーンと権兵衛が、肌を艶々させ、心地よい気怠さを伴って仲良く帰ってくるのであったが、誰も特にツッコミはしない。
 ヤクシカの肉を外で焼きつつ、琉とUNKNOWNお手製の様々な郷土料理が、民宿の前の簡易テーブルに並べられる。
 エレシアも甲斐甲斐しく運んでいるが、ここでも黒子さんは大活躍だ。
「お肉を食べないと大きくなれないのですよぉ」
 ちまちまと素麺しかすすっていないミルの前に、大きい代表の煉がひょいひょいと肉も魚も平らげていく。
「‥‥暑いのには弱いのだよ」
「もったいないねぇ。美味いっていうのによ」

●20:00
 エレシア浴は衣に着替え(胸は収まりきっていないが)望遠を使い離れた位置から、判定のためにも花火をの軌跡捉えるように心がけ、エドワードは危険も顧みず、アルムネの撮影に乗り出すつもりだ。
 京一は元カメラマンなだけあって、とにかく胸とかではなく『コメディーとしてのいい絵』を心がけていた。
 あと――ミリハナクがエレシアの足元で、持ち込んだ線香花火で遊んでいた。この戦争は辞退したのである。
(火力が足りない、血の花が足りない、緊張感が足りない‥‥こんな中じゃあの方とかあの方を衝動的に殺してしまいそうですものね)
 自身の狂気を自覚している凶器は、ただただ、静かに線香花火をするだけであった。
 開始を告げる打ち上げ花火が一発、夜空に花を咲かせる。
「こういう時は出番だね!」
 両手いっぱいに花火を持ち、自身の機動力を存分に生かす零奈が一人突撃する――というよりは、ナイ陣営の戦力は実質零奈1人に等しい。
 立花はさすがにもうまともに動けず、美具は桃色地に大輪の薔薇をあしらった浴衣と、動くに適していない服装(打ち上げ花火大会と思っていたらしい)であるし、エドワードは撮影中心に動くのというからには、アルけどナイ側としている以上、勝利に貢献はするつもりである。
「昼のお返しだよ!」
 真っ先に狙ったのは権兵衛とジェーン。淡い光に包まれた零奈の前には、2人のロケット花火など当たる可能性はほとんどないに等しい。
 距離を詰められ、権兵衛は『スタイナー!』と叫んで回避しようとしたが、褌の中に突っ込まれては逃げようがない。 同じくジェーンも胸が揺れるのもお構いなしに回避しようとするが、突如回避した先に零奈が姿を現して胸の間に花火を突っ込む。
 ギャー! と悲鳴のような炸裂音。2人は色々な意味で撃沈する。
「まずは2人――」
 しかし、背後から途方もない数の打ち上げ花火が撃ち込まれ、味方陣営からの不意打ちに、あえなく零奈も撃沈する。
「わはははは、たまやー!」
 姉妹から購入した360連発式大口径ガトリング型打ち上げ花火を腰だめに構え、敵味方関係なしに花火の弾幕を張り続ける――と、ガトリングが突如火炎弾に包みこまれ、その場で爆発――爆風に巻き込まれる前に、黒いスーツをひるがえした男、UNKNOWNによって美具は助けだされる。
 安全な位置に下ろされた美具に、UNKNOWNは告げる。
「ロケット花火以外の使用は。禁止されている。残念だが、失格だね」
「なんじゃとー!」
 うっかり吠えて自分の位置を知らせてしまう、美具――今の恨みと言わんばかりに四方八方からロケット花火が美具めがけて飛びかうのであった。
「ちょ‥‥ま――!」
 美具の悲鳴は、ロケット花火によってかき消されましたとさ。
「危ない危ない、見物でも油断できませんね――ふむ‥‥ちょっと、驚かしてみましょうか。
 ロッタ特製のロケット花火‥‥効果の程はどうかな?」
 一本試しに火をつけ、専用の筒に入れて発射――それは超高速で飛来し、次々と外灯をなぎ倒して電光掲示板に直撃炸裂――電光掲示板がメリメリ音をたてて倒れるのであった。
「うん。ロケット花火とは。言わないよね」
 クラークの前にUNKNOWNが立つ。
「いや、隠し味というかアクシデントというか、面白いかなと」
「全く。なんて面白い‥‥いやいや、困った事をしてくれたんだ。これは、没収だ」
 残りの花火を奪われる、クラーク。とはいえ、あまりの威力にまるで残念そうではない。
「ぜはー、あぶなか‥‥」
 背後に人の気配を感じ、傭兵としての癖でうっかり全力で殴り飛ばすクラーク。立花が吹っ飛び、暗闇に転がるのであった。
「‥‥今、誰かいた気もしましたが――まあいいでしょう」

(おおよその射程もつかめた‥‥あとは場所さえわかれば狙い撃ちというわけだね)
 草場に身を伏せて長郎が待ち構えていると――すぐ横の木の上からロケット花火が発射された。
 それは長郎が思い描いていた射程で炸裂すると――そこからさらに伸びて誰かに直撃してまた炸裂――ミルの悲鳴が聞こえたので、直撃したのはミルであろう。
「イエス、狙い通り」
 木の上でシスターがガッツポーズをとってみせる。
(くっくっくっ、参ったね。まさか同じように狙い‥‥先を越されるとはね)
 肩をすくめる長郎――こうして2戦目もアルムネチームの勝利に終わったのであった――。

●21:00
 こういう仕事では実に生き生きと、てきぱきこなす黒子さん。ついでに折れた外灯や電光掲示板の修理費などを計算しミルに報告しては青ざめさせていたりする。
 こっそり抜け出そうとしていた煉も、きっかりUNKNOWNの手によってつかまり、ショボーンとしながらお片づけをしていましたとさ。
 片づけが終わり、みなが次の会場に向かう中、クラークは琉に告げる。
「海に行きます。日付変更位には帰ってきますので‥‥」
「む、海にか――では、これだけは覚えていてくれ」
 そっと琉はクラークに何事かを耳打ちすると、クラークはふっと笑い、了解ですと言って後にする。

●21:30
「‥‥昔、とある美少女にも少しは胸はあったんです。ですが、ある日ダイエットをした結果店員さんに『失礼ですがお客様にブラの必要は‥‥』っと」
 間を置き、一筋の涙を流して立花は続けた。
「なんと言うことでしょう。少女は胸から痩せるタイプだったのです」
 BOOBOO! とつまらない本人談に、皆が一斉に抗議する。
「なんでだよ! 怖いだろ!」
「違うわね。真に怖いっていうのは――」
 ずいと前に出るキョーコが話し始めると、カチッとそれっぽいBGMを流す無表情のエレシア。今の話が怖くなかったとかではなく、もとよりあまりその手の話が怖くないのだ。
「昔うら若い巨乳の女性が人気のない道を歩いていると――後ろからぺたぺた‥‥ぺたぺた‥‥と素足のような足音が」
 ひっと可愛らしい悲鳴が小さく聞こえる。誰のものかと皆が捜しても、平然とした顔の美具が誰でもよいではないかと顔を赤らめて場を沈めていた。
「女性が街灯のある所で、意を決して振り返ってみるとそこには――スク水に白衣を羽織った小柄な女の子が‥‥薄気味悪く感じながら、女性が女の子に声をかけようとすると、女の子が『乳おいてけ‥‥乳おいてけ‥‥! なあ! わがんねぉよぅ‥‥巨乳のことなんてさっぱりわがらねぇ‥‥巨乳の気持ちがわからないから‥‥貧乳に‥‥なれよ!』と女性に襲いかかり――女性は翌朝、哀れ貧乳になって発見されましたとさ――その数日後。
 見た目さらに胸の大きな女性が同じ道を歩いていると、同じ少女が現れ『乳おいてけ‥‥なあ‥‥巨乳だ! 胸大きいんだろ? 爆乳なんだろおまえ!』と、キッと女性を睨みつけて数秒後――『ようもやってくれたのう‥‥貴様の乳はいらん‥‥PADだけ置いてけ!』――そして命からがら近くの家に逃げ込んだ時には、女性の胸PADは奪われ、本来の貧乳姿を晒すことになってしまいましたとさ――以上、乳おいてけでした。おしまい」
「うぉーん!」
 なぜかミルが号泣し、ミリハナクが笑顔でキャーキャー言いながら、エレシアの胸に顔をうずめて抱きついているのであった。今の話が怖かったかはともかく、この状況はどことなく怖い。
「じゃ、僕からも――これは僕の住んでた隣国での話。
 その国の貧民街で娼婦をしていた根暗な娘さんがいたんだ。その娘はちょっとした狂信者でね、自らが崇める神を召喚する魔術めいた知識を滅茶苦茶に集めてた――挙句の果てに自身の瓜二つの分身を生み出す事に成功したんだ。
 ――けど首の骨が、嬉しさの勢い余ってくるりと一回転したって」
 ひ! とまたかわいらしい声が美具のあたりから聞こえる。
「何でもその時を境に毎日が楽しくて、パリで散々人を殺して監獄入りしたけど気分で警察も殺して遊びに来たって、僕も襲われたよ。
 ま‥‥もうどこの世にもいない筈だけどね」
 ガラッ。
 突如入口が開いた。
「イーヤー! ごめんなさい! ごめんなさい! 許してー!」
 ギリギリを保っていたこういう話が苦手な零奈が泣きながら叫ぶ――と、顔を出したのは琉が首をかしげていた。
「何を泣いているのだ‥‥? まあともかく、海。そろそろ寝なさい」
「あ、はーい」
 トテトテと海が部屋を後にするのだった。
「師匠、鍛練つけてください!」
 と、零奈が勢いよく立ち上がり、そそくさとその場から逃げ出すのであった。
「なんだと言うのだろう‥‥ああそれとだ。夜の海には近寄らんでくれ」
 琉の言葉に、みなが首をかしげる。
「この時期、まあ変なうめき声や海に向かっていく無数の足跡があったりするわけなんだが――そんなわけで、近寄らないでくれ」
 そんな言葉を残し、パタンと戸を閉める――残された一同は、実に重い空気に包まれていたという――。

「師匠、助かりました」
 夜の砂浜。琉にくっついて零奈が横に立っていた。何に感謝されているのかわからず、首をかしげる琉。
 そしてそれは、零奈にとっての不運だった。
「助かった、はいいんだが。ここから先には行くなよ――む‥‥声が聞こえるだろう? あれは――」
「イーヤァァー‥‥!」
 冗談抜きに怖いセリフに、零奈は本気で泣いてへたり込んでしまう。
 浜辺では時期外れのアカウミガメの産卵、そして孵化した子ガメが海に向かっていく姿が確認されているのであった。

「海の上に浮かぶ月‥‥綺麗だな」
 夜の海を泳ぎ、ぷっかりと浮かぶクラーク。目を閉じて思いをはせる。
(うん、こういう時も悪くない‥‥アスレードも、死んだ。ああ、打ち倒したかった。姉御の敵討ち――)
 ぱしゃっと水の跳ねる音。
 目を開けると――凪がそこにいた。
「ああ、生嶋さん? 貴女も泳ぎに来ましたか?」
 バグアとは知らない彼は、普通に声をかける。
「ええ、まあ‥‥そちらは浮かんで何を?」
「月を見るのは好きでしてね‥‥嫁とも旅行に行ったときとかによく見上げてます」
「――それのわりには、浮かない顔ですね」
「‥‥いえ、どうにも先が解らなくなりまして――目標が、なくなってしまったんです」
 なぜこんな事を、あまり知らない相手に自分は話しているのか――それはわからない。しかしクラークは頭を振り、笑顔を作ってみせる。
「‥‥一緒に、泳ぎますか?」
「――私、相当速いですよ」
 ニッコリと笑い返す凪。
「これでも元特殊部隊目指した人間ですよ?」
 そしてクラークが泳ぎだすと、凪も後を追って泳ぎだすのであった――。

●23:00
「良い仕事した後のお風呂は格別なのです――コーヒー牛乳とかも良いですよねぇ」
 風呂の主はのんびりとお湯でくつろぐ。怪談が予定時刻よりずいぶん早く終わったあと、皆と一緒に浸かって――彼女だけまだゆったりとしていたのだ。
「フルーツ牛乳一択でしょう」
 髪をアップにし、上から丁寧に洗いあげているジェーンが反論するだけであった。

「ん‥‥こっち切ってこっちに繋げた方がいいか」
「なるほど――いや、プロがいると実に作業がはかどるよ」
 今日の撮影記録を見ながら、京一、祐介、ドゥ、アルヴァイムが編集していた。
 黒子さんは「みせられないよ!」というコミカルな修正や合成音声のナレーションなど、戦時感情に配慮しつつも個人のプライバシーも配慮するなど、流石の気配り職人であった。
「よし、あとはこれをニッコリするところにアップして終了だね」
 そのアドレスを一瞬にして覚えた黒子さん。作業している裏でマナーのよいピンク系な匿名掲示板に、手当たり次第に投下していく。
「新たな胸伝説の完成だよ――」
「胸ねぇ‥‥奇乳や魔乳はどうかと思うが、別に大中小全部美味しくいただけるんで気にした事無いな――そんな事より眼鏡っ子が一人もいないとかどういう事だよ! 俺が何の為にここに来たと思ってる!」
 どうでもいい個人の嗜好を垂れ流す京一――突如、戸が開いてギョッとする。
「なんだ、まだ起きてたのかね」
 狸の着ぐるみ姿のミル――パジャマらしい――が、縁なし眼鏡のずれを直し、呆れていた。
「そ、そういうお嬢こそどうしたんだ」
「いや、美具が一人でトイレに行けないからと起こされ――イタタ! 行くよ、行きますよ! じゃな、諸君!」
 パタンと、戸を閉めて去っていくミル。
「‥‥いたようですね。隠れ眼鏡っ子」

「あら、何か用かしら?」
「間が開いたがタンカーでの続きという事さ。まあリラックスしたまえよ」
 外のベンチに座って夜空を見上げていたシスター。その横に、缶ビール開けてを差し出し、肩をすくめた長郎が腰を掛ける。
「‥‥どんなにトゲトゲしくてもミル君を見る目が優しいのは承知しているね――羨ましい限りさ」
 突然の話に、ビールでむせるシスター。
「まあ、彼女もだからお互い様なのだろうね、くっくっくっ‥‥」
「――別に、そんな優しくしてるつもりなんてないわよ」
「そうやってむきになっている処が存外可愛らしいね」
 うーと唸り――観念して大きく息を吐き出し、コテンと長郎の肩に頭を乗せる。
「‥‥あたしらにはさ、すんごくすんごくかわいい妹がいんのよ。あたしらみたいに、殺しなんかを知らずに育ってくれている、リズって子がさ――そのせいかな。お嬢が余計にかわいいのは、さ‥‥」
 シスターの独白を、ただただ、長郎は黙って聞いていた――。

 こうして屋久島の賑やかな一日は、アル側の勝利で静かに幕を下ろしたのであった。

『アルナイ決戦だ! 終』