●リプレイ本文
「デカ物の護衛に出てみれば‥‥守るにしろ、援護位は‥‥」
発進前のUK3にため息混じりの不満がもれるクラーク・エアハルト(
ga4961)。
その不満に思わず榊 兵衛(
ga0388)が、苦笑いを浮かべ――傷に響いたのか、顔をしかめる。
「それどころでもないのだろう‥‥しかし、こんな時に思わぬ怪我を負うとは情けない限りだな。せめて脚を引っ張らぬようにしなくてはな」
「大事な艦だし、落とさせたくはないねぇ――でも、KV戦って言っても重傷なんだし、無理しないでね」
重傷を押してまで参加している兵衛に、刃霧零奈(
gc6291)が気遣う。
「先頭のは指揮官機か? 指揮官先頭とは余程の自信があるか、あるいは‥‥」
「後者のような気もするが、だが部隊はちゃんと展開しているのだから、油断はできんな」
兵衛の言葉に確かに、厄介な事には違いないと頷く。
「数からみても長期戦は避けたいですからね。協力して、見るからに指揮官なティターンを早期撃破し、他戦力の撤退を促してみましょうか」
「うむ、吾輩としては君達と協力するのには少々不本意だが、それがいいだろうね〜。あまり長引いては艦への被害だけでなく、我々も無事にすまない恐れもあるからね〜」
新居・やすかず(
ga1891)の提案に、乗り気なのかドクター・ウェスト(
ga0241)が首を縦に振っていた。
「ま、あたしはゴーレムをブッ飛ばすぜ――水中なんで釘バットは持ってきてねーけど」
アフロカツラでヤンキーメイクの大垣 春奈(
ga8566)はぐぐっと拳を握り、若干悔しそうに顔をしかめたが、カジキキメラを見てすぐにほわわんとしている。
(やっぱり野生の姿が一番かっこいいよな〜)
キメラではない方のカジキが、吻で獲物を弾いて弱らせるところを思い浮かべていたのだ。
(絶滅危惧種とかは進化の頂点だよな〜‥‥カワウソさん)
ほろりと、ひっそり想像で涙をこぼす春奈であった。
短い打ち合わせを済ませた傭兵達。
――敵との距離が徐々に詰まって、緊張が高まっていくのであった――。
「たったあれしきの数で‥‥おもしろい!」
「あれしきの数と言えど、癪だが我の部下よりは強いからの。油断召されるな馬――と、違った‥‥そういえばお主の名前は何というたかのう」
「バ?」
馬鹿が首をかしげる――が、すぐに忘れて不敵な笑みを浮かべるのであった。
「君の部下が頼りないだけではないかね?」
(いちいち癇に障る馬鹿じゃな。余計な事は言わなければいいものを‥‥)
とはいえ、人類をいまだに舐めているバグアは決して少なくはない。特に傭兵を相手にしてこなかったものなどは、それが顕著なのだ――というより、傭兵と戦い、いまだに生き残っているバグアの数も、ずいぶん減ってしまったせいかもしれない。
傭兵達と幾度も戦ってきた名のある連中も、もはやほとんど残っていない――その事実は十分に、舐めてはいけない相手だとわかってもいいものだが‥‥。
いまさらかと思いつつ頭を振り、凪はあらためて馬鹿の恐ろしさを思い知った。
「それはすまんの――で、貴殿の名前は何というたかの‥‥指揮官殿」
「うむ、私はだね――」
「けっひゃっひゃっ、我輩はドクター・ウェストだ〜」
馬鹿が名乗るよりも早く、オープン回線にウェストの声が響く。
「いいね、名乗りを上げる! 動物がいねーからちょっとテンション低かったが、いっちょやってやんよ! 大垣春奈だ
夜露死苦!」
ウェストに次いで、間髪入れずに気合の入った春奈が名乗りを上げる。
「もはや礼儀ですかね――元シャスール・ド・リス隊長、現オルタネイティブ平隊員クラーク・エアハルト‥‥行くぞ」
「名を伝えるのもいいものだろうな。槍の兵衛、参る」
「あたしは、そんな大したもんじゃないけどね――刃霧零奈、行くよぉ」
わりかしノリがいい者たちが次々と名乗り、そして最後、しばしの間を置いてから。
「――流れで申し訳ありません、イェーガーの新居・やすかずです。よろしくお願いします」
覚醒しているやすかずの口調は、バグア相手にすら敬語であった。
傭兵の名と声を聞き――凪は少しだけ顔を曇らせる。
(よくよく縁のある‥‥エアハルトさんも、か)
少し縁が深くなりすぎた人間の顔を思い浮かべ、何となくで着てきたメイド服にそっと手を触れ――キッと表情を引き締めた。
「聞け! 敵は主らよりも確実に強い! 死なぬように立ち回れ! 撤退する時は我が殿を務める故、ギリギリを見極めるのじゃ!」
馬鹿以外の部下に激を飛ばす――自分の存在を知らしめるようにオープン回線のままで。
それが凪の覚悟であった――。
「白い‥‥ゴーレム?」
前を行く馬鹿のティターンからではなく、聞き覚えのある声は後ろのゆっくりだが無駄なく動いている白いゴーレムからだと直感でわかった。
「‥‥ティターンを囮にするとはな。本当の指揮官機はあの純白のゴーレムだろう。全機、その動きに警戒を」
「あれって師匠の仇の‥‥それに今の声気になるなぁ――まさか、ね。
なにはともあれ、まずは様子見でワンショット‥‥ってね」
射程に入った事を確認した零奈が、ホールディングミサイルを下方に向かって放つ。
「そんじゃあ、行くか!」
零奈にならい、春奈もゴーレム部隊に向けてホールディングミサイルを発射。そして一拍おいて、熱源感知型ホーミングミサイルを兵衛が撃つのであった。
「僕も1発」
やすかずがやや下方から、三十六式大型魚雷をゴーレムではなく、馬鹿に通常通りに狙いを定め、射出。
「1発と言わず、ばらまくがいいね〜」
言葉通り、小型魚雷ポッドでティターンの周囲のカジキキメラに向けて魚雷をばら撒くウェスト。そしてそれに紛れるようにクラークはセドナを馬鹿に向けて発射していた。
「味方の攻撃も利用させてもらいますかね?」
セドナを1発と言わず、2発、3発と撃ち尽くすと、人型形態に移行し、距離を詰めるべくガウスガンを構え前進する。
やや遅れ、ウェストもアサルトライフルを撃ち尽くすかの勢いで邪魔なカジキを撃ちながら前進していた。
2人が前進すると、やすかずはやや左下から回り込むように機体を動かし、先ほどの魚雷が受けた潮流の影響を加味しガウスガンで馬鹿を狙いつつ、カジキの進路を妨害する様に攻撃と牽制を同時に行う。
零奈と春奈の撃ったミサイルはまっすぐにまとまっているゴーレム部隊へと向かい――上下左右に散開され回避されてしまう。
が、かわされることも見越した兵衛のホーミングミサイルが、1機のゴーレムに直撃。しかし、かわせないと判断したゴーレムは右腕を犠牲にし、コクピットだけは守る。
やすかずの魚雷はというと、押される形で加速したおかげか、もしくは回避するまでもないと判断したのか、馬鹿に直撃していた――その油断が、クラークのセドナ全弾直撃につながる。
ウェストの魚雷も多数のカジキを巻き込み、辺り一帯は小爆発を繰り返し、気泡に包まれる。
気泡の影響も関係なしにカジキは前進するウェストやクラークに襲い掛かるが、アクティブアーマーで受け流したり身をひねるだけでかわし、2人の前進は止まらない。
零奈は兵衛から離れすぎない位置から大型ガトリングで右の部隊に牽制を続ける。
春奈はというと指をぽきぽき鳴らして、人型に変形。
「こいつが水中KV番長だ!」
残ったホールディングミサイルを左の部隊に向けて発射しつつも、ガトリングの射程まで前進するのであった。
「こちら榊兵衛。位置にそちらでも注意してくれ――特に一番後ろの白いヤツに注意を。あれは並では押さえきれんからな‥‥クソッ」
怪我によりまともに動けないとわかっている兵衛は、UK3と連絡を取りつつ、戦域全体を把握するように努めていた。
何よりも、凪機の挙動を気にしている――自身が万全ならばと、悔やんでも悔やみきれない。
気泡が晴れそれなりにダメージを受けた馬鹿の姿を確認できたが、その装甲が徐々にだが修復されている。
「この程度のダメージ、ダメージにすらならんわ!」
(かといって何度も受けきれるわけでもなかろうに)
機体の自己修復に頼りきった馬鹿に深くため息をつく。その点、彼の部下達は凪の言葉通り死なないためにもちゃんと回避行動をとり、弾幕が来たら散開して無意味なものにする。実に優秀である。
お返しなのか馬鹿からバルカンの弾幕が張られるが、多少動くだけでも回避できてしまい、あまり腕がいいとは言えない馬鹿。
「コチラはいつものバグアだが、ゴーレムはドウも違うようだね〜」
馬鹿の舐めきった態度と、ゴーレム達の回避行動や統率のとれた動きの差に違和感を感じていた。
「先ほどの言葉が、効いているのでしょう」
ゴーレムの下から馬鹿の動きを封じるように、蒼い燐光をまき散らしながらガウスガンを撃ち続ける。ゴーレムへの牽制も含んでいたのだが、散開されてあまり意味をなさない。
それどころか、ゴーレムは彼に目標を定めたらしく四方から攻めてくる――が、そこに兵衛のガウスガン、少し遅れて零奈の大型ガトリング、春奈のガトリングによりゴーレムも足を止めざるをえなかった。
「動けんがいい仕事はさせてもらうぞ」
全体を把握できている兵衛ならではの、援護であった。
「ふん、足止めしつつ馬鹿狙いのようじゃの‥‥賢明か。各機散開、射程の範囲で馬鹿の周囲に展開、馬鹿を援護せよ」
だが、一気に散開したのは失敗だった。
「当たんねー。こいつら、結構やるな‥‥ショージキ、真面目に水中戦やってるやつに、あたしじゃ勝てない、そんくらいはわきまえてるつもりだがよ――」
ガトリングで弾をばら撒いていた春奈――だがバルカンで牽制しているとはいえ不用意に距離を詰めた1機の隙を狙って、多少の被弾もものともせずツインジャイロを刺し、コクピットを抉り取る。
「でも根性じゃ負けるつもりはねぇ!」
零奈の所にも同じように、散開したついでと言わんばかりに不用意に間を詰めようとしているゴーレムがいた。
「このあたしに接近戦? 舐めてくれるねぇ‥‥」
潮流は経験済みの零奈。潮流に乗り、さらにブーストまでかけて思いもよらぬ速度で間合いを詰めると、逃れようとしたところをアンカーテイルにひっかけて引き寄せると、レーザークローで貫く。
「ゴーレムの一本釣りってね」
「使えん奴らだ!」
被弾も気にせず前進しようとする馬鹿。そこに下から急行したやすかずが立ち塞がり、ガウスガンを放つ。
距離的にもさすがにまずいと感じるのか、回避行動を見せる――が、敵のいないはずの下から魚雷の直撃を受け、足が止まってしまったところにガウスガンの直撃も受けてしまい、完全に足が止まる。
遅い魚雷を発射し、回り込んで潮流に乗せて加速したガウスガンによる1人十字砲火――やすかずの切り札だ。
「そう容易く通れるとは、思わない事です」
「そういう事だね〜」
真正面から距離を詰めたウェストに、馬鹿は斧槍をそこそこ鋭いながらも闇雲に突き出す。だが機体性能が違えども戦闘経験の差から予測できていたウエストは氷雨で受け流し、蒼い軌跡を描き盾を腕ごとレーザークローで切り裂く。
「真似などしたくないが、コウやっていたね〜」
腕を掴み密着し、魚雷ポッドを発射。25発分の爆風が2人の間に広がるが、一瞬先に敵を蹴ってアクティブアーマーで爆風をやり過ごしながら距離を取りつつ、アサルトライフルで四肢を追撃。
気泡で見えない中からバルカンで必死に牽制するが、多少の被弾もものともしないクラークがブーストで突っ込んでい行く。
「伊達に重たい複合装甲取り付けたわけではない!」
インベイジジョンAを起動させ、気泡の中にハイヴリスを突き立て引き寄せると、レーザークローをふりかぶり――。
「全機撤退じゃ!」
クラークが馬鹿を貫くよりも一瞬早く、凪は全機に撤退の指示を出していた。
「馬鹿が、舐めすぎじゃ!」
あっけなさすぎる馬鹿に舌打ちし、ゴーレムが撤退する中、加速をかけて前に出る凪。
「てめーら、歪んでんだよ! ‥‥あん? やるかてめぇ!」
カジキをツインジャイロで潰した春奈が、凪に向かって同じく突き出した――が、前進したまま上に魚雷発射、同時に下へ動く事でほんの少しだが一瞬にして下降、寸前でかわす。
「あんた、つえーな!」
打ち合おうと2撃目を振るう前に、両腕を斬り落され、体当たりを喰らい弾かれる。
「ぐ‥‥根性ぉぉぉぉ!」
ダメージに歯を食いしばる春奈だが、凪の振りかぶった太刀が迫り来る――が、間一髪でサーベイジを発動させた零奈のビーストソウルが間に入って交差した両腕で受け止めた。
「仲間をやらせる訳にはいかないんだよぉ!」
さらにもう1撃――それはやすかずがアクティブアーマーで受け止めたが、腹部を蹴られて後退させられる。
そこにウェストとクラークが距離を詰め、2人のレーザークローは凪の2本の太刀を叩き折った。むろん、本体を狙ったのだが凪が咄嗟に太刀で受け止めたのである。
魚雷をばら撒き、即座にバルカンで撃ち落して爆風に押される形で加速し、距離を取る凪。しっかりと2人に魚雷は直撃させていた。
「ぐぅ――今の機動‥‥う〜ん、ドコかで見たな〜」
「‥‥お久しぶりですね」
凪が通信をいれてきた――それで凪を知る者は、やっと確信した。
「やはり君か〜」
「やはり貴女か」
かなり早い段階から疑念を抱いていたウェストとクラークは、同時に呟いていた。
そして遅れながらも零奈も。
「‥‥まさか、凪さん? だったら、何故、師匠に近づいた! 答えろぉ!」
逆上した零奈だが、昔のように突撃はせずにこらえる。右の拳がじくりと痛む。
しかし凪は沈黙したまま、答えようとはしない。
楽しかった時を一瞬思い浮かべたクラークだが、家族の顔を思い浮かべ操縦桿を握り直す。
「全力で行きます。帰りを待つ家族の為にも、負けれません」
「家族と口にするな!」
沈黙していた凪が叫ぶ。
――意外な叫びに、しばしの沈黙。
「‥‥興が冷めた。引かせてもらおう」
再び魚雷を大量にばら撒き、バルカンで次々に誘爆させ爆風と気泡に紛れて撤退するのであった。
凪と関わりのある4人は、沈黙を続けている。
春奈は重い空気を察し、根性があれば何とでもなると非通信モードで呟き、ひっそりと自身の傷を治療していたのであった――。
作戦終了後、自室の端末の前にウェストは座っていた。
(おそらくだが、ファミリーネームは『生嶋』か)
端末のデーターベースから『生嶋 亮一』を検索――1件がヒット。
「日本人なのは当たり前だね〜‥‥む? 生嶋亮一、生嶋凪――ともに死亡‥‥?」
それ以上の情報が見つからず、ウェストは立ち上がり、気にしているであろう傭兵達にその情報を伝えに行ったのだった――。
『【決戦】煌めきの闇 終』