●リプレイ本文
●鹿児島・港
夕方5時。デッキから作業風景を仁王立ちで見下ろし、満足げに頷いているミル・バーウェン(gz0475)。
「お嬢、傭兵様御一行の到着だぜ」
声をかけられくるりと振り返ると、グレイが立っていて、その後ろには6人の傭兵――ほとんどが見覚えのあるメンバーであった。
「うむ、ご苦労――今回もよろしく頼むよ、諸君」
手をひらひらさせると、グレイが去っていき――春夏秋冬 立花(
gc3009)が前に出る。
「やっほ、お仕事しに来たよ。私に任せれば万事おk‥‥」
と、突然顔を真っ青にして、バターンと派手に倒れる。
「か、会長! さらに平らになってしまうぞ!」
何をとは言わないが立花を抱き上げると、立花は弱々しく微笑む。
「病み上がり直後の船のせいで、船酔いに‥‥私の骨は拾って‥‥ね?」
目を閉じ、がくりと意識を失う(フリをする)。
「かいちょぉぉぉ!」
「ん〜これ飲んでみたらいいんだよー」
後ろから高縄 彩(
gc9017)が少し大きめの錠剤を2つ、ミルの肩らへんに差し出すと、受け取ったミルが立花にそれを飲ませる。
「ん‥‥よ、酔い止め‥‥? お口の中がスッキリさわやか――復活!」
がばっと立ち上がり、ペカーと後光が見えそうなほどみなぎっているのがわかる。そして立花はデッキを疾走するのであった。
おおすごい効き目なんだよーと笑顔でいる彩に、ミルは立ち上がりながら振り返り、今の薬はと尋ねた。
「薬じゃなくて、おかしなんだよー」
「プラシーボ効果というやつかね‥‥」
常人よりも身体能力に優れた能力者故なのか立花だからなのか、効果も高いみたいであった。
「あはは〜ま、元気になって何よりだよー。それはそうとミルさん、自由に見て回ってもいいのかなー?」
「うむ。危険海域は深夜だからね。自由に過ごしてくれて構わないのだよ、まいふれんど」
「そっかー‥‥じゃあ暗くなりきる前に構造の把握しておこうかなー。それじゃ、また後でなんだよー」
「おう! VIPルームにいるんで、暇な時に来たまえよ」
手を振って後にする彩に、ミルは嬉しそうにぶんぶんと腕を振りかえしていた――ところに、尻を小突かれる。
「おう、行ってやるわいミル殿」
全身赤い鎧に身を包んだ美具・ザム・ツバイ(
gc0857)が腕組みをして、片膝を突き出していた。そこにミルの部下達とあいさつを終えたエドワード・マイヤーズ(
gc5162)と、ジョージ・ジェイコブズ(
gc8553)が片手を挙げ会釈しながら近づいてくる。
「やあ、お嬢。挨拶が遅れたね‥‥非常にリスクの高い物資輸送並び護衛ときたか〜」
「宜しく頼むよ、エド――そちらは初めて見る顔だね。依頼主の武器商人、ミル・バーウェンだ」
「ジョージ・ジェイコブズです。よろしくお願いしまーす!」
人当たりのいい笑顔を浮かべ、ぺこりとお辞儀をしてわりと丁寧な自己紹介を済ますジョージ。人当たりはいいが、内心、ミルという武器商人へはある程度の理解や興味はあるが、深く関わろうとは思ってはいなかった。
それを敏感に感じ取ったミルだが――よくある事なので、あえて何も言わずに肩をすくめた。
「そういえば今回、経費で色々落ちるとか聞いたんですけど‥‥飲まず食わずはアレなんで、水とか軽食お願いしてもいいでしょうかね」
「うむ、よかろう。出航までまだ時間もあるし、用意させよう」
「では、美具が後で紅茶をふるまうかね」
「紅茶なら僕も用意しようか」
2人の紅茶好きが申し出たので、ミルは頷き、紅茶に合うものも用意させようと部下に連絡を取るのであった。
「航行予定が狂ったら、アナウンスもお願いしますよ。では失礼して時計を船のと合わせてきますんで、じゃ」
「美具はミル殿の部屋で待機させてもらうとするかね」
「僕は船室の方に行かせてもらうよ」
そう言い残し、3人は後にする――と、それを見計らってミリハナク(
gc4008)がミルに近づいてくる。
「ご機嫌ようですわ、ミリちゃん」
「だからミルだと――まあいい。珍しいね、君がこんな激戦とは程遠い話に乗るだなんて」
「んー、何かおもしろそうだから?」
彼女らしい回答――だが、それも違う気がした。
「本当の所、どうなんだね?」
「――怒らせた子に謝りたいだけですわね。私はプロではなく、趣味で戦争しているだけの狂人ですから、価値観もプライドも人とはかけ離れていますのよね。
だから感情をちゃんともっている人って好きですから、これ以上嫌われないように謝っておきましょう」
うん、としきりに頷くミリハナク。意外と殊勝な心がけであった。
「意外と言えば意外だが、君らしいともいえるな――ふむ、納得したよ」
「そういうわけですので、襲撃までボマーを貸していただきたいのですわ。それと大量の弾薬を用意してほしいのですわね」
ミリハナクのお願いに、わかったと首を縦に振るミル。
(ボマーには少々気の毒かもしれんが、ね)
伝えるべき事を伝えたミリハナクは、 M‐183重機関銃を抱えて船首付近へと向かうのであった。
「さて‥‥そろそろ出航準備に取り掛かるかね」
鹿児島を出港し、1時間経過――風呂にゆっくりと浸かりたいものじゃなど、美具達と他愛もないおしゃべりを自室で満喫していたミルの所に、船内をほとんど見て回り、消火栓の位置や構造を把握し、ミルの部下とも一通り挨拶をかわしてきた彩が合流する。
入れ替わりで立花がデッキへ向い、エドは仮眠をとる事となった。
ジョージは船内の一角を陣取り、ドリンクやサンドイッチなど、ミルの用意したものを時折つまみながらのんびりしていた。
一方、ミリハナクはというと。
船首付近でM‐183重機関銃を設置し、皆がくつろいでいる時からずっと、持参したクッションを使って機関銃に寄りかかって待機していた。彼女にとって、すでに戦地なのだ。
「こんちゃー。手が空いたので、お嬢に言われて来たっスー」
小柄で髪がぼさぼさな金髪の女性、ボマーが手をあげて挨拶をすると、ミリハナクはにこやかな笑顔で彼女に抱きつき耳たぶ、首筋、背筋、尻とまさぐり放題であった。
「このあいだは貴方のプライドを傷つけてしまってごめんなさいね」
セクハラしつつの謝罪――本人的には精一杯の謝罪である。
ただ当のボマーがあっけらかんとしており、全然大丈夫っスとどっちの事を言っているのかわからない言葉を返すのであった。
「まあ20年以上あんなことしてると、変な意地ってのが生まれちゃうもんスね――で、用事ってそれっスか?」
セクハラが通じないのをいいことに、ミリハナクはボマーのごくわずかな胸までまさぐり続けている――が、それでもまるで動じない。あまりにも反応がないため、やっとボマーを開放するのであった。
「こちらで索敵のお手伝いをしてもらいたいのですわ」
ぽいっと軍用双眼鏡を投げて渡すミリハナク。受け取ったボマーがお返しと言わんばかりにそれでミリハナクの胸を覗き込み、おほーすごいッスと親父臭い事を言っていた。
(ま、実際は暇つぶしの相手というだけですわね)
内心ペロッと舌をだし、襲撃が来るまでどう弄ろうか悩んでいる、ミリハナクであった――。
23時。危険区域まであと1時間をきった。そろそろ切り替えようと、ジョージが占有していた一角に美具、彩、ミルは
「今宵は冷えるのう、まあ、襲撃まではまだ間があるじゃろうから温まるとするか」
お気に入りの茶葉を持ち込んでいた美具は、専用のポットで紅茶をその場にいる皆にふるまうと、仮眠から覚めたエドワードが負けじとシレット・ティーを淹れるのであった。
「これはだね、長らく一般に流通しなかった幻の紅茶で――」
と、うんちくをたれながらも紅茶をミルの前に差し出すと、すでに美具の紅茶で腹の膨れつつあったミルは、紅茶もいいが珈琲もねと呟いていた。
「珈琲? あいにくだけど、英国紳士は常に紅茶と相場が決まっているのだよ」
「まあ私も英国出身だけどさぁ‥‥」
2杯目の紅茶も美味そうにがぶがぶと飲むジョージを、横眼で見ていると、視線に気がついたのか、ジョージは笑顔で伝える。
「タダなら何でもウェルカムですよ!」
「そろそろデッキに出てみるんだよー。またね、ミルさん」
紅茶で暖まった彩は席を立つと、デッキへと向かう。そして少し間をおいてから、エドワード、美具、ジョージもデッキへと向かうのであった――。
船の左右に分かれ、船首付近には進行方向を暗視スコープや探査の目で注意を払っているミリハナクと立花、中腹には美具とエドワード、そして船尾に常時GooDLuckと探査の眼を発動させたジョージに彩と、それぞれ配置についていた。
すでにそれぞれ覚醒して待機中――時刻はもう間もなく0時を迎えようとしていた。
「気配が嫌な感じになってきたッスよ! 警戒、警戒!」
誰よりも真っ先に空気を感じ取ったのは、能力者ですらないボマーであった。ベテランの勘なのだろう。
そして薄く発光したミリハナク。機関銃のSES機関が甲高い音を上げて、火を噴く。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!
凄まじい弾幕が、海面から頭を出したトビウオキメラを瞬間的にミンチにし、飛び立たせない。
懐中電灯から天狗ノ団扇に持ち替えた立花が旋風を起こし、ミリハナクが角度的に狙えない敵を排除していく――と撃ち漏らした1匹を立花がキャッチ――その瞬間に爆散し、大したダメージではなかったものの、立花は驚いていた。
「こいつら自爆するのっ?」
「資料くらいちゃんと読まぬか、立花! まったくバグアも無粋な敵を送り込んで来よるわ」
横から飛んでくるトビウオをシエルクラインで撃ち落しながら、落としきれなかったトビウオは構えた盾で爆散する前に弾き返す美具。
「クレー射撃みたいなものかな、やったことないけど」
数は少なめながらも、時折船尾に飛んで来るトビウオをアサルトライフルで撃ち落すジョージが軽口を叩く。船首側と違い、やはり出てくる数は少なめである。
「んー余裕ありそうだから、前の方に移動しよっかなー?」
「いいですよ、高縄さん。ここは任せてくださいよ」
ジョージに任せた彩は美具と立花と合流し、彩と立花はできるだけ遠くを、美具は近くをと分担を決める。
ミリハナクサイドはボマーが補充の手伝いもするせいか、なかなか途切れない恐ろしい火力の弾幕のため、船首から船の横までと広範囲を圧倒していた。
美具のシエルクラインが迫りくるトビウオを撃ち落す――が、それよりも一瞬早く、その背から何かが飛び降りデッキに4本の足で立つ――どうみても豚だ。少々立派な牙があるが、豚である。海豚と呼んでいるキメラであった。
海豚の存在に気付いたエドワード。
「そこは任せたよっ! 僕は海豚を引き付ける!」
「言われなくても任されてますわよ」
ミリハナクに任せたエドワードが、偶然か知能が高いのか、船内への扉めがけて突進する海豚を追いかける。
「こっちだよ、来たまえっ!」
エドワードが咆えると、くるりと方向転換する海豚。
続々とトビウオから飛び降りて来る海豚を引き寄せるエドワードは、その強固な身でがっちり攻撃を受け止め、スピネルで切り裂きつつも、S‐01で四肢を撃ちぬき動きを止めたところで、ついでと言わんばかりにジョージが撃ち貫く。
エドワードが切り裂いている間に乗り込んできた分は、美具が引き付けるのであった。
「被害は最小限にせねばの。特にミル殿の胸がこれ以上なくならないようにね」
「同士の傷をえぐるなー!」
美具の引き付けている海豚を、立花が瞬間的に2発繰り出した弐式で、貫く。
「食べない生き物を殺すのはよくないからね。丸焼きになっちゃえー‥‥よく考えたら、攻撃系統のスキル使ったの初めてかもしれない」
「というよりはそれでは丸焼きにならない気もするがのう‥‥それに、積み上げていては邪魔じゃ」
手の空いた時に、海豚の死骸を海に投げ捨てる美具。
美具と立花が海豚にまわっている間、彩がほしくずの唄も併用する事でフォローする。
そんな戦いが数時間続き――トビウオがまばらになり――やがて飛んでこなくなった。
「ようやく、見えてきたね」
陸地の明かりが見え始め、危険海域を潜り抜けたのだと傭兵達は安堵し船内へと引き返していく。
だが戦地で気を抜かないミリハナクはだけは船内に入らず、その場で待機するのであった。
「疲れたー。久しぶりに攻撃とかした気がするよ。牽制とか、援護とか、回復しか普段しないから。慣れないことはするもんじゃないね」
ぐたーっとミルの自室でミルのベッドを占領する立花――すでに寝息を立てている。
「‥‥美具も一休みさせてもらうかの」
立花を蹴落とし、立花の代わりにベッドを陣取る美具。ミルは苦笑し、ベッドを明け渡し寝るのを諦め彩とお喋りしながら通路を歩いていると――ばったり出会ったジョージが、声をかけてきた。
「どもー。お聞きしたいんですけど――以前、未来にプランがあるような事をシドニー決戦前、傭兵に漏らしたと噂に聞いて。で、先の事をどう思ってるのかなと」
意外な人物から意外な指摘を受けたと、ミルの表情が語っていた。
「どうしてそんな事を聞くのかね?」
「人の考えを聞くのって、面白いものですから‥‥俺としては近い将来が面倒です。
人相手のドンパチなんて御免ですよ」
肩をすくめるジョージ。決戦が始まった今、確かに近い未来の話であった。
「まあ確かにそういう可能性が残るというか、かなり高い――だからこそ今からでも何かしら動きを見せねばならん」
「でも長期的なら人は回復するし、進化もしますから」
「うむ、その通りだね。能力者はよく化物になったと自虐する者がいるのだが――私としては一種の進化だとは思っている。実に人類の先を行く存在だと思うよ」
「傭兵になった時期的に、早まったかと後悔もありますがね」
ジョージが苦笑し、ミルもその心境が理解できるのか苦笑で返す。
「もしバーウェンさんが能力者だったとしたら、どうします?」
「かわらず商売人をしているさ。より無茶ができると、嬉々としながらね――まあもしも話には意味がないさ。非能力者である私には、私にしかできない事をするまでさ――だからまあ、どんなプランか、楽しみにしてくれたまえよ」
「ぉぉー、ミルさんが真面目な事を言ってる」
彩がふざけるように、後ろから腕を回してがっちりと抱きしめてくる。背中に大きなモノを感じ離せ―ともがくミル。 2人のやり取りにジョージが微笑むと、ぺこりと頭を下げた。
「うーん、面白かった! ありがとうございます」
「あら、哀れな豚が1匹残ってらしたわ」
警戒していたミリハナクが取り残された海豚を発見し、釘バットで海へ生かさず返した。
――こうしてミル一行は無事、目的地へとたどり着くことができたのであった――。
『【決戦】煌めきの‥‥? 終』